裸ノ乙女達 ~魔力健康法実践の為にすっぽんぽん生活を強いられる御嬢様(ロリ)に執事として仕えることになりました~ 作:室谷 竜司
ノックの音に反応し僕と少女二人が一斉に扉へと視線を向けると同時に、扉の向こうから声がかかる。
「エルシャローゼ様、アルフィオーネ様、ライネでございます。意識不明者の様子を伺いにまいりました」
声からして、恐らく女性だろうと推測はつく。それも大人の。その声を聞いた瞬間、僕の身体はぶるりと小さく震えてしまう。大人の女性の声を聞くだけでも、過去のトラウマは疼いてしまうのだ。
いやまぁ、扉の外の彼女が僕より小さいという可能性だって有るし、何なら僕のように高めの声の男の人かもしれないから、声だけで身体を震わせるのは流石に過剰反応すぎるとは自分でも思うけどね。
「入って頂戴、ライネ」
扉の外からかけられた声に反応したのは姉の方だった。今のやり取りから察するに、部屋の外に待機している女性(推定)は使用人か何かなのだろう。
先ほどの彼女たちの言動的に、このローラント家はそれなりに地位の高い貴族であると思われる。だから、使用人がいても何らおかしいことはないのかもしれない。
「失礼いたします」
少女の返事を聞いた扉の外の女性(推定)がゆっくりと扉を開けて部屋の中に入ってきた。やがてその姿がはっきり見える。
案の定、女性だった。それも、僕の予想通り大人で高身長の……。そして、そんな彼女は日本ではなかなかお目にかからないメイド服というやつを身に纏っていた。やはり、使用人で間違いないみたいだ。
「おや?お目覚めになられたのですね」
メイド服を着た彼女はベッドの上の僕に視線を向けると、一瞬驚いたような表情を浮かべた後、すぐににこやかな笑みを僕に向けてくれる。そこに悪意など一切ないことは充分理解しているのだが、それでもやはり僕の身体は拒絶反応を示してしまう。
「は、はい、つい先ほど……。その……、まだ状況が呑み込めていないんですが、助けていただきありがとうございます」
「御身体の調子はどうですか?」
「ええ、問題ないです。それであの……、僕はどのような経緯でこの部屋まで運ばれたのでしょう……?」
そういえば肝心なことを聞き忘れてしまっていたと思い、僕はここまでの経緯について彼女たちに尋ねることにした。なるべく身体の震えを悟られないよう、布団で上手く隠しながら。
「貴方、屋敷の前で倒れてたのよ。それを偶然私たちが見つけたの」
「御嬢様方からすぐに報告を受け、私がこのお部屋までお運びいたしました」
「そ、そうだったんですね。救助していただき、本当にありがとうございました……って、えっ……!?」
メイドさんの言葉に僕は改めてお礼を言おうとしたところで、思わず硬直してしまった。メイドさんが僕をこのベッドまで運んだ……?ということはつまり、無意識の間にこのメイドさんが僕の身体を触ってしまった……ってことだよね……。
そう考えた瞬間、僕の身体は先ほどよりも強い拒絶反応を見せ始める。動悸がして胸が苦しい……。息も荒くなり、眩暈で目の前がぐらぐらと揺れ始める。強烈な吐き気に襲われ、僕は思わず右手で口を覆ってしまった。
「ど、どうかなさいましたか!?」
「か、顔真っ青ですよっ!?だ、大丈夫ですか!?」
「も、もしかして体調が悪いのかしら!?ど、どうしたら……」
突然息を荒げ始めた僕の様子に、二人の少女とメイドさんがおろおろし出してしまう。特に御嬢様二人は軽いパニック状態だった。だが、油断したら今すぐにでも嘔吐してしまいそうなこの状況では、流石に彼女たちに気をやることなどできなかった。
「ひ、ひとまず熱があるかどうかの確認を……。少し失礼いたしますね」
流石と言うべきか、メイドさんは驚きつつもすぐに冷静さを取り戻した。そして、僕の体温を確かめるべく、さっと素早くベッドに近づいてきた。だが、僕にとってそれは最悪の展開だった……。
「んうぐっ……」
とうとう僕は我慢できず、吐しゃ物をベッドの上に盛大にぶちまけてしまった。失礼にもほどがあることは分かっているつもりだが、それでも拒絶反応を止めることは僕にはできなかった。
「えっ!?ちょっ……、大丈夫なのっ!?」
「た、大変っ!!ど、どうしましょう……」
「先ほどの反応……、私が近づいたら状態が悪化したように見えました……」
「そ、それ、どういうことなの!?」
「分かりません……。ですが、私のような容姿の女性に何かしらトラウマを持っていらっしゃるのかもしれませんね……。となると、私が近づくのは止めておいた方が良さそうですね」
このメイドさん、察しが良いな。まさにその通りだった。僕は気持ち悪さのあまり声を出すことはできなかったけど、メイドさんの言葉に肯定の意思を見せるために軽く頷いた。
「簡単な受け答えはできるみたいですね。えっと、私がこの部屋にいるのはまずいでしょうか?」
なるほど、首を縦か横に振って答えてほしい、ということだな。僕は彼女からの質問に少しだけ頭を悩ませる。
一定の距離さえあれば、別に同じ空間にメイドさんがいても問題はない。それに、態々僕の事情で席を外させるのはあまりに心苦しい。
けど、最善を期すなら席を外してもらった方が良いのかもしれない。罪悪感の所為でなかなか答えを出しきれない。
「どうか、遠慮なくおっしゃってください」
僕が答えに迷っていることを察したメイドさんが、微笑みながらそんなことを言ってくれた。まだ罪悪感は残っているが、彼女のその言葉で少しだけ心が軽くなったような気がした。
だから僕は、首を縦に振った。遠慮するなと言われたのだから、むしろここで遠慮してしまった方が相手に失礼だろう。
「分かりました。えっと、御嬢様方も……一緒に退出した方が良いでしょうか?」
その質問に、僕は首を横に振った。彼女たちは近くにいても問題ないから。僕のこのトラウマは、あくまで僕より大きい女性にしか反応しない。だから、この御嬢様方には僕の身体は反応しないのだ。
いや……、でも待てよ?吐しゃ物の前に彼女たちを待機させたままというのは少し問題だよな……?となると、むしろ部屋から一度退出してもらった方が……。
そう思い、僕は訂正するように首をぶんぶんと縦に何度も振った。そして、何とか口を開き声を絞り出す。
「吐しゃ物が……あるから……。この場にいるのは……まずいと……思います……、うぐっ……」
「む、無理して喋らなくて大丈夫ですよ。えっと、私たちがいても問題はないのですね?それなら、ここにいさせてください」
「そうね。ちょっと心配だし、貴方が良いならここにいさせてもらうわ」
どうやらパニックから立ち直った二人の御嬢様が、それぞれ僕に対してそんなことを言ってくれる。この子たちは何と優しいのだろう……。というか、家族以外の人たちにこんなに優しくされたのは何時ぶりだろう……?
僕の心の中に温かいものが流れ込んでくる感覚を覚えた。それが僕の身体内に纏わりついていた気持ち悪さを緩和してくれた。
「あ、ありがとうございます……、心配してくださって…」
僕の口から、自然とそんな感謝の言葉が漏れ出た。