裸ノ乙女達 ~魔力健康法実践の為にすっぽんぽん生活を強いられる御嬢様(ロリ)に執事として仕えることになりました~ 作:室谷 竜司
「旦那様、イストでございます。例の少年をお連れしてまいりました。入室してもよろしいでしょうか?」
僕たちが連れ立ってとある一室の扉の前までやってくると、執事さん……イストさんがその大きくて立派な扉をコンコンと叩き中にそう呼びかけた。すると、中から男の人の声が聞こえてくる。まぁ、イストさんが旦那様と言っていたのだから、男なのは当然なのだが。
「ん?おお、そうか。入ってくれ」
「失礼いたします」
そう言うとイストさんはゆっくりとその大きな扉を押し開く。こまめに手入れされているのか、その扉は一切の音を立てず静かに開いていく。開いた扉の隙間から垣間見えた室内はとても広いように感じた。こ、これがお金持ちクオリティ……。
先行してイストさんが室内に身体を滑り込ませ、それに続くようにして御嬢様二人もすたすたと室内に入っていく。僕は少々委縮しながらも、二人の後を負うようにして恐る恐る室内に脚を踏み入れた。
「おお、エルシャとアルフィも一緒だったんだな」
室内は外からチラリと見えた時以上に広々とした空間だった。落ち着いた色合いのインテリアは高級そうな雰囲気を醸し出しながらも、何処か安心感のようなものを僕に与えてくれる。
そんな室内の中央に置かれたこれまた立派なソファには、少女たちと同じ銀色の毛髪を携えた穏やかそうな風貌の男性が腰かけていた。年は……だいたい30歳後半から40歳前半くらいといったところだろうか。だが、向こうの世界でよく見かけるおじさんとは違い、姿勢も非常に綺麗で気品を感じられた。流石、貴族の方は違うね。どうやら僕は、こういうことを考えられるくらいには余裕があるようだった。
彼は室内に入ってきた僕らに視線を向けると、まず最初ににこりと微笑んで御嬢様方……自分の娘たちにそう優しく声をかけていた。
「ええ、お父様」
姉方がこくりと頷く。それに追随するように、妹方も微笑みながら同じように頷いてみせた。先ほどの印象だと姉方より妹方の方がしっかりしているのかと思ったが、こういう時に率先して返事をするのは姉方のようだ。
「それで……、どうやら目覚めたみたいだね。良かったよ」
彼はその優し気な瞳を彼の娘たちから僕へと移し、そう声をかけてくれる。貴族ということで少し怯えてはいたが、それっぽい圧とかも特になく、僕はほっと胸を撫で下ろしていた。
「はい、おかげさまで。助けていただき、本当にありがとうございました」
「いやいや、気にしないでくれ。むしろ、手を差し伸べられない方が恥ってものさ。それよりも、もう大丈夫なのかい?苦しいとか痛いところはないかい?」
「ご心配をおかけしてしまいすみません。この通り、もう大丈夫ですので。お気遣い、ありがとうございます」
僕の返答に彼は満足げに頷いてみせた。本当、優しい人たちだなぁ、みんな。助けてくれたのがこの人たちで良かったと本気で思える。それと同時に、かなり心配をかけてしまっていたのだと分かり、申し訳ない気持ちも込み上げてくる。
「ところで、君は何処から来たんだい?」
次にそんな質問をされる。まぁ、身元の確認を行うのは当然のことだろう。それに、僕もそのことについて話に来たのだし。
「えっと、そのことなのですが……、僕はもしかしたらこの世界の住人ではないかもしれないんです……。えっと、異世界……と言うべきでしょうか」
少し強縮しつつも、僕は自分の考えを述べる。突拍子もない話だけど、イストさんの言うことが本当なのだとしたら、異世界というキーワードを聞けば何かしらの反応を示してくれるはずだと僕は考えている。
「異世界……、異世界か……」
そして、僕の予想は当たり、彼は何度も異世界という単語を呟きながら俯いて何やら考え事を始めた。やはり、何か心当たりがあるのだろう。というか、何かしらあってほしい……。
そう思っていると、彼は俯かせていた顔を再び上にあげ、僕を見据えながら言葉を紡いだ。
「何か、根拠などはあるかな?」
「あっ、はい。根拠ですが……」
そうして僕は、自分が異世界から来たという考えの根拠について話した。まぁ、根拠とは言っても先ほど御嬢様二人と話している時に生まれた違和感について述べるだけなのだけど。
けど、そんな僕の話を、この屋敷の主人である彼は真剣な眼差しで聞いてくれていた。僕はそんな彼の真剣なまなざしに答えるように、今の自分の頭の中で分かっていることをなるべく漏らさずに口にしていく。
「……なるほどね、ありがとう」
そして、僕が話を終えると彼はそれまで浮かべていた真剣な表情を弛緩させ、温和な笑みを浮かべながら僕にそう声をかけた。
「そうかぁ……、記憶喪失というわけじゃないけど、魔法とか魔族とか亜人族についての知識が一切ないのか。そして、ニホンという国名は私も聞いたことがない。試しに、君の知っている国名を言えるだけ言ってみてはくれないかな?」
「あ、はい、分かりました。えっと、アメリカ、イギリス、ロシア……」
僕は言われるまま分かる限りの国名を答える。僕が口にした国名に、この場にいた僕以外の人たちは揃って首をかしげていた。
「うーむ、知らない国名ばかりだね……。これは本当に、君は異世界からやってきた……ということで間違いないかもしれないね」
「ですが、不可解なこともあるんです」
「不可解なこと、とは?」
「それは、今こうして僕が皆さんとお話しできていることです」
「話ができることが不可解……?それ、どういうことなの?」
御嬢様のうち姉方が首をかしげてそう尋ねてくる。イストさんもピンとこないようで、同じように首をかしげて僕に疑問の視線を投げかけてきている。
一方、妹方と彼女らの父親は何となく理解できたというように何度も頷いている。ふむ、どうやら妹方は優秀であられるようだ。
「なるほど、言われてみれば確かにそうだね」
「別の世界とこの世界の言語が全く同じ……というのは、確かに不思議ですね」
「あ、あー、そういうことね。アルフィは相変わらず頭が良いわね。私、全然思い至らなかったわ」
二人の言葉を聞いてようやく合点がいったというようにポンと手を打ち合わせる姉方。やっぱり、妹方に比べて少し抜けているのかもしれない。っと、そんなことを考えるのは失礼だな。止めておこう。
「文献に何かヒントがあるかもしれない……。ちょっと待っててくれ」
そう言うと家主の彼は徐にソファから立ち上がり、背後にあった本棚へと歩み寄る。そして、しばらく本棚のあちらこちらへと視線を彷徨わせた後、一冊の本を手に取ってソファへと戻ってきた。
「そうそう、この本……。ええっと……、異世界伝説の話は……っと」
などと呟きながらパラパラとページを捲る。異世界伝説……、そんなものがあるのか……。少し気になるな。きっと、彼が異世界という話をあっさり受け入れられたのもその異世界伝説とやらが関わっているのだろう。イストさんの心当たりとはこれのことか。
「お父様、異世界伝説……とは何ですか?」
などと考えていると、妹方も同じように気になっていたらしく、自身の父親に対してそう問いかけていた。今更だけど、彼女は父親に対しても丁寧な口調を崩さない。まぁ、僕の想像する貴族もそんなイメージなので、特に疑問は持たない。
「ん?ああ、これのことかい?異世界伝説っていうのは、昔から言い伝えられている複数世界論のことだよ」
「そのようなものがあるのですね……。初めて知りました」
「こういう文献を読むのは一部の物好きだけだからね。世間的にはあまり信じられていない論説だし。まぁ、私はその物好きなのだけど」
そう言ってはははと笑う家主様。曰く、この世界はかつて異世界からの訪問者によって守られ永遠の平和を手に入れた。今こうして多種族が共存できているのはその訪問者のおかげなのだと。
信じる者は少ないが、世界各地にそれらしき人物の石像が存在していたり、この世界では珍しい色素の毛髪を持った人が散在していることから、その伝説を正しいものと証言する人もいるようだ。
でも、現在この世界にその訪問者と実際に会ったことがある、という人物は存在しない。だから、眉唾物として捉える人が多いのもまぁ頷ける。僕だって、普通なら信じられないと思う。
「私は信じます。この異世界伝説」
「そうね、私も信じるわ。だって、実際に目の当たりにしたわけだし」
「そうだね。私も、この伝説が真実であるという確信にまた一歩近づけたよ。……っと、あったあった。これだね」
どうやら目当てのページが見つかったらしく、彼は静かに本へと視線を落としていた。僕らは、彼がそのページを読み終えるのを固唾を飲みながら……というのは大げさかもしれないが、それなりの緊張感を持ったまま待っていた。
「ふーむ、なるほど……」
「何か分かったのですか?」
「まぁ、それらしきことは書いてあったよ。一つ確認させてもらっても良いかい?もし良ければ、ここで目覚める直前の記憶について教えてくれないかな?」
「直前の記憶……ですか。分かりました」
僕は素直に答えることにした。直前の記憶となると、僕が登校中に車に撥ねられて命を落とした、という記憶だろう。正直、この話をして空気が悪くなったりしないかと不安にもなったが、それでもなるべく質問には答えたかったのだ。