女性陣が飲み会をやるとのことで、家にポツンと一人いても退屈な男性陣もまた、不死川の家に酒瓶片手に集まっていた。
「そんなわけで! 祭りの神主催、第一回エロ話ぶちまけ祭り開催だぜ!」
「いやタイトルもうちょっとなんとかしろや」
「全く品性の欠片もない奴だ。そしてお前は家に嫁がいるというのになぜここにいる、俺ならば甘露寺がいる家を空けることなど絶対にないというのに」
「あ、宇随先生! 先日はバンドのCDを下さってありがとうございました!」
「………」
メンツは円形に宇随天元、不死川実弥、伊黒小芭内、竈門炭治郎、冨岡義勇。
嘴平伊之助も誘おうとはしたのだが、携帯を扱えず家の電話も出ず、のアナログ人間伊之助は神崎アオイを通してしか連絡ができないため断念。
伊黒小芭内は冨岡を指さして言う。
「というかなぜこいつがいる。呼ぶなと言ったよな宇随」
「ああー、それはだな」
「俺が呼びました!」
「貴様か竈門炭治郎まったく余計なことを本当にお前が絡むとろくなことがない。不死川もとんでもない奴らを義弟にもったものだな」
「刺さるからマジでやめろォ………」
自室から持ってきた酒瓶を早々にラッパ飲みする不死川実弥。
始まって五分で無法地帯になりつつある場を鎮めるように座卓を一回ばんと叩き、宇随天元は咳払いをする。
「まあお前ら一回黙りやがれ。司会はこの祭りの神が派手に務め上げてやる。大船に乗った気で楽しんで飲め」
「クソみたいな余興に走ったら叩き出すからなァ」
「んなこたしねぇよ。俺は話を振るだけだ。そしてお前らはただ質問に答えればいい、簡単だろうが」
方々から冷たい目線を浴びるが、宇随だって嫁さん達を置いてまで出てきた飲み会を早々にぶっ壊すなんてもったいないことをする気はなかった。
そしてぐるりとメンツを見渡して。
―――不死川と冨岡のは冨岡に聞いた。伊黒の話は以前に甘露寺から直で聞いた。こいつらから始めるのはダメだな、一発一発がメガトン級すぎる。
びしりと、竈門炭治郎を指さした。
「まずはお前だ竈門。最近、栗花落をどうやって抱いたか、何が可愛かったか、どんな仕草に心打たれるか全部吐け」
指された炭治郎はというと、まだ酔ってもない素面の顔でこう言ったものだった。
「はい! 最近はネクタイで目を隠していじめるように抱くのにはまっています! 可愛いのは予想と全然違う所を触られたときに出る声で、好きな仕草は目隠しを取った直後に恥ずかしそうに手に頬擦りしてくるところです!」
そして溌溂と言い切った炭治郎は、直後に伊黒小芭内と不死川実弥に胸倉をつかまれた。
「竈門お前は本当に空気を読めない奴だなこの天然め、普通に考えろまだ全然酔ってないんだぞモッツァレラチーズゲームを知らんのか貴様!」
「こういうのはちょっとずつあっためていくもんだろうがァ! それをテメェ初っ端からバーストさせやがってふざっけんなどうすんだこの空気!」
やってられっか酒をよこせ酒を、と。
宇随が持ってきたアホみたいな度数の酒をぐびぐび飲み始める数学教師と化学教師。
宇随天元は興味津々と身を乗り出す。
「竈門お前マジか優等生みたいな面してド派手にやってやがるなぁ! 冨岡の差し金か?」
「いえ! 背中は押してもらいましたが前から似たようなことはしていました!」
「そんな冨岡は胡蝶妹相手にコスプレさせてぎっしぎしに縛ってんだもんなあ! なあ冨岡よ」
「血流は止めていない」
涼しい顔だが選び取る酒は攻撃的な冨岡義勇は、いつもの寡黙さが嘘のように流れるようにしゃべる。
「しのぶは本音を隠しがちで頑固だ。手を焼くことも多い。だがそれが愛おしいこともある。責め落とした先に懇願してくるあの顔が好みだ」
「ああ、わかるぜ。俺もまきをのことは苛めるように抱くのが派手に好みだ」
「それにしのぶは、抵抗できなくされるのを内心では喜んでいると思う。だから宇随と不死川には感謝している」
「ちょっと待て」
小柄ゆえか宇随向けのクソバカ酒に一瞬で脳をやられた伊黒小芭内が待ったをかける。
「そこでなんで不死川が出てくる」
「不死川に借りた手枷足枷が最初だったからな」
「なっ………」
「おいその顔やめろこっち見てくんな伊黒テメェ目潰すぞ」
伊黒小芭内は座卓に額をひっつけザリザリと左右にゆすり、怨念のようにつぶやく。
「やはりか不死川貴様も変態だったか。道理でおかしいと思ったんだやはりあのときドラッグストアで殺しておくべきだったか」
「あれは百パーお前が悪いっつってんだろうがァ! 厚さ三センチのゴムなんざあるわけねぇだろ! 俺がストップ掛けなきゃ初夜がローションプレイだったって気づいてんのかテメェ!」
「貴様性懲りもなくまた甘露寺で想像したな殺してやる表に出ろ」
そして宇随は懐から様々なブツを取り出した。
「まあ厚さ三センチオーバーのゴムっつったら、さっき寝室で見つけてきたけどなあ」
「宇随テメェやけに早く来たと思ったらなに人の家物色してんだ! マジでぶち殺すぞ!」
「つかこれなに、太すぎねぇ? 男根コンプレックスでもあんのかお前」
「へえ! こんなに色々あるんですね。あ、義勇さんの言ってた枷ってこれですか?」
「そうだ」
「おいクソ共、興味津々な顔で近寄ってくんな」
へぇー、と。
興味津々かつちょっと冷たい顔で笑う炭治郎に、場合によってはこんど栗花落にパフェでも奢ってやろうと決める不死川実弥。
同じ趣味を共有できるとなったら少しぐらいは嬉しくなりそうなものだが、今回に限ってはまったく嬉しくない。
伊黒小芭内はもうちょっと目を回していた。
「不死川お前というやつはツッコミ役にいるかと思えばド級の変態じゃないか。本当に油断も隙もないな。とんでもない義弟を持ったと同情したが撤回する貴様もとんでもない助平だ同じ穴の貉だこの異常者」
おなじあなのむじな、と口の中で転がすのは冨岡義勇。
それからくいっと半分酒を飲むとそれを不死川に突き出し、ムフフと笑ってこう言った。
「穴兄弟だな、不死川」
「冨岡ァァァアアアアアアアア!」
「待ってください不死川さん酒瓶で殴ったらさすがに死んじゃいますあと穴兄弟ってなんですか!」
「火に油注いでんぞー竈門。いやあ派手にとんでもねぇ義兄弟だなお前ら」
上がった息を整えるとともにさらに酒を入れ。
「貴様らはやはりどうしようもないな。本当に今後一生甘露寺に関わらせたくない奴らだ。どうだ悔しいだろうあの桜の精のような風貌、他の有象無象とは比べるべくもないご尊顔を二度と拝めないのだ歯ぎしりして血涙しろ」
「俺はカナヲがいるのでいいです!」
「よし竈門炭治郎貴様の男性器は機能していないから今すぐ切り落としてこいついでに首も落としてこい」
「カナヲもいつも甘い匂いがして笑顔は花が綻ぶようなのでいいです!」
「死ね」
一周まわってストレートな罵倒に落ち着く伊黒小芭内と、性癖が歪んでも態度は真っ直ぐ元気いっぱいの竈門炭治郎。
「いや待て。しのぶが一番だ。顔も良いし体も一級品だし意地を手折る楽しみも素直な表情も楽しめるぞ」
冨岡もこれは譲れんとばかりにずいっと顔を突き出す。
「冨岡貴様は黙っていろ胡蝶めなど本当になにが良いのか全く分からん」
「お花畑はお前の脳内のようだな、伊黒」
「もう一回言ってみろ祟り散らしてやるこのクズめ」
かたや無表情、かたや蛇のような眼光。
鼻が引っ付きそうな距離まで近づいてメンチを切る冨岡義勇と伊黒小芭内。
その間をものすごい勢いでショットグラスが突き抜けていき、壁に当たって砕け散った。
投擲手である不死川実弥は、二本目の酒瓶を豪快に干すとそれを座卓に叩き置く。
「うるっせぇんだよテメェら!」
「あ、すいません不死川先生。さすがに家で騒ぎすぎですよね……」
「誰が一番っつったらカナエに決まってんだろうが!」
「いやそっちかい」
何気にほとんど酒を入れていない宇随天元のツッコミを無視して、不死川は朗々と語る。
「花の精つったらそれはカナエの代名詞だ勝手に甘露寺に名乗らせんな! 花みてぇな甘い匂いも終始してるし笑顔も栗花落とは比べ物になんねぇだろうがよォ! 胡蝶妹と違って穏やかだしなァ! 見たかほらテメェら全員下位互換なんだよこのカス共!」
「よし今甘露寺を罵倒したなぶち殺してやる不死川」
「カナヲのほうがきれいです!」
「お前の頭もお花畑か」
「文句があるならかかってこいやァ! 一族郎党血祭りだぞテメェら!」
炭治郎と義勇の一族郎党に自分が入っていることも忘れて臨戦態勢に入る不死川。
真正面からぶっ潰さんとする伊黒小芭内と冨岡義勇。
発言はさておいて暴力はよくないと止めに入ろうとする炭治郎だが、如何せん手が足りずに挟まれて押しつぶされそうになる。
それを救ったのは、美術教師の爆音ハーモニカであった。
肺活量の化け物の本領にギシギシと窓が悲鳴を上げ、手近なコップが漫画みたいにガシャンと割れる。
一時的にスタンに陥る他の面々を見下ろし、自称祭りの神はこう言った。
「まあまあ落ち着けっておまえら。騒音で苦情でも来たら台無しじゃねぇか」
「いや来るとしたら絶対今のお前の………」
「それに傷作って帰ったら奥さん彼女に心配かけんぞ? まあテメェらがそこまでやってでも気を引きたいってゲスなら止めはしねぇがな」
「………チッ」
「しのぶのためなら仕方がない」
「勘違いするなよ。あくまで甘露寺のためだからな」
ちゃらんぽらんのくせに、と思いつつもしぶしぶ手を止める面々。
だが炭治郎の尊敬の目が宇随に向くのは納得できない、と言った調子でそれぞれ酒をあおる。
宇随はからからと笑う。
「いやあー、やっぱり派手だなあお前ら。つーかもうすでにコップ二個割っちまったじゃねぇかどうすんだこれ不死川」
「新しいの買って誤魔化すしかねぇだろうがよ………」
「素直に謝った方がいいぞ不死川」
「一個はテメェらのせいだってわかってんだろうな! つーか伊黒! お前はなんてもん握りしめてんだ! さっきそれで目ぇ回してただろうが」
言われて見ると、伊黒が手に収めているのは男性器を模したブツで。
問われた伊黒はああ、と薄く反応を返す。
「不死川、数日これを貸せ」
「貸さねぇけどまず理由を言え」
「やっぱり0.03は不安だからこれで型取りして自作することにする」
「ぜってぇ貸さねぇ」
「はっはっは! 派手に面白そうだな! やるときは美術室も使っていいぞ! 現代アートとか言っとけばカモフラージュになんだろ!」
もう何コイツなんでこんなポンコツなの意味が分からん、と頭を抱える不死川と腹を抱える宇随天元。
あ、じゃあと手を上げるのは竈門炭治郎。
「俺もこれ貸してください! 枷!」
「あー、それならまあ。数日中に返せよ」
「炭治郎も穴兄弟になるのか」
「冨岡お前は夜道に気を付けろよォ」
「いやお前ら本当にとんでもない義兄弟な。胡蝶家三姉妹揃いも揃って男見る目ナシか」
「全くその通りだ恥を知れ貴様らそしてやはり甘露寺には近づくな汚れる」
「お前も人のこと言えねぇからな。客観的に見て一番無茶苦茶な抱き方してんのはお前だぞミスター十六時間」
心外そうな顔を向ける伊黒を無視して、天元はそれにしても、と呟く。
「お前らは本当によかったなあ。クソみたいな性癖引っ提げてるくせにいい女捕まえられてよ。こりゃあ本当に迷惑かけらんねぇな」
思いっきり煽られているがその言葉に暴れ出す人間はこの中におらず。
「………ああ」
「そうだな」
「甘露寺に迷惑をかけるつもりなどない」
「カナヲと付き合えて幸せです!」
そして宇随天元はぐいっと酒を飲んで、満面の笑みを浮かべた。
「まあ、俺の嫁さんたちが派手に一番いい女だけどな!」
「よしお前ら武器を取れェ」
不死川の号令で取っ組み合いが始まったものの。
先の発言が引っかかっているのか全員怪我一つ作らないじゃれ合いの範疇に収まり。
一見すると剣呑だが実は平和な飲み会は続いていった。
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そして翌日。
ガンガンする頭を抱えながらどこぞのシティホテルからの電話を受けた不死川実弥は、びきりと青筋を立てていた。
どうしたんですかどうした、と尋ねてくる面々に舌打ちをして、不死川は家の鍵をポケットに入れる。
「女共がハシャぎすぎて上下階から騒音の苦情だとよォ。とっとと回収しに行くぞ」
「なに、甘露寺がか! それは大変だ貴様らの嫁のせいでどうせろくでもないことになっているのだろうすぐに行かねば」
そして瞬く間にいなくなる伊黒小芭内とは対照的に。
不死川実弥、冨岡義勇、竈門炭治郎の三人は黙り込んでうつむく。
「おい、どうしたお前ら。………うわ」
訝しげな宇随天元はうっかりそれをのぞき込んでしまって、背筋が冷えるのを感じていた。
―――こいつらあれだ、返す返すもド派手にやべぇ奴らだ。
そして。
退散退散、とばかりに宇随天元が帰ったのち。
三人は目も合わせず、合図もなしに同時に動き出し。
真っ黒な笑みを浮かべながら、考えていることも大体同じであった。
―――一回マジで後悔させてやる、カナエ。
―――二度目だからな。覚悟しろ、しのぶ。
―――きついお仕置きが必要だな、カナヲ。