「おはよう、カナヲ」
「お、はよう……」
午前九時。外は雲一つない晴天なのに、炭治郎の顔は昨日と変わらず夜を彷彿とさせるそれだった。
三時起きの炭治郎によって家事のほとんどが終わらせられているリビングで朝食を頂く。
「カナヲ。昨日はよく眠れた?」
「う、ん」
「昨日はだいぶ無理させちゃったからなあ。どこか痛い所はない?」
「ちょっと腰が痛い、けど」
「そっか、じゃああんまり無茶なことはさせないね」
あっけらかんという炭治郎に救われたように顔を上げるカナヲだったが、直後に
「……体にはね」
と呟かれてひゅっと息が止まる。
「マジックミラーフィルムも朝のうちに貼っておいたんだ、ほら」
と言われて窓を見る。確かに色が少し濃くなったように感じるが、内側から外側は普通に見えた。
「た、たんじろ。あれ本当に外から見えないんだよね?」
「さあ、どうだろう」
「さあ、って……」
まあどっちでもいいじゃないか。カナヲはどのみち逃げられないんだから」
耳をかりかりと引っかかれ、お茶を誤飲しそうになる。
「それともやめておく? 俺には散々いろんな人に謝らせておいて、責任から逃げる?」
「う、あ……ん」
耳から首、腕、お腹と後ろから伸びてくる腕にされるがまま、カナヲは早くも出かかった声を必死で抑える。
手を払われないのを返事として、炭治郎は耳を軽く噛んで、少し笑った。
「偉いね。じゃあカナヲ。俺は外からフィルムがどう見えるか確認してくるから」
「ふぁ……、う、ん」
「だからそれまでに、虐められる準備をしておいてね」
「え、え、っと。え、ちょっと待ってたんじろっ! 準備ってなにすれば……っ!」
我に返ったカナヲが声を発したときにはもう遅く。
炭治郎は玄関から外に出た後だった。
戻ってきた炭治郎は、閉められたカーテンと、丁寧に折りたたもうとして失敗したらしいよれた衣服と、下着姿のカナヲを見て笑みを深くした。
「綺麗だね、カナヲは」
「からかってる顔してる、……んむっ!」
恥ずかしそうに自分の体を抱くカナヲを包むように腕を回し、唇を合わせた。
そのまま腕を下に下ろして敏感なところを軽く擦ってやると、足がびくりと軽く震える。
「た、炭治郎。いき、くるしっ」
「苦しいね。鼻から吸うと良いよ」
「むり、むりっ! んう、ううううっ!」
はっきりと濡れ始めてきたそこを一度えぐるように押し込み、同時に舌も深く入れる。
限界とばかりに胸を叩かれるが、その距離も潰すように一層強く抱いてやると、やがて鼻に抜ける声と共にくたりと力が抜けた。
「服を脱いでくれたのは良い線いっていたけれど、惜しいかな。自分で自分の手に枷をはめるぐらいしてもよかったかもね」
そういうと、昨日も使ったそれでカナヲの手首を縛り、カーテンレールの手前にある物干し竿にかける。
そして、肩を揺らして呼吸をするカナヲの耳元でささやいた。
「次に達したらカーテン開けるから、頑張ってね」
「待って、待って……、本当にやるの……っう、んんんう、んんんんんんんっ!」
「声我慢すると余計につらくない? 大丈夫?」
大丈夫というならそんなに激しく触らないでほしい。
せめて隣に聞こえそうなベランダはいますぐやめてと言ってやりたい。
だけど、口を開いたらすぐに嬌声が止まらなくなるに違いないとわかってしまっているカナヲは、必死で声を我慢するしかなく。
どうせすぐに我慢なんてできなくなるとわかっていても、必死で太ももに力を入れた。
最初は、何が何でも我慢してやろうと思っていた。
だけど、三十分が経ち、一時間が経つ頃、カナヲは別の恐怖に呑まれていた。
―――からだが、熱い………っ。
どれもこれも炭治郎のせいだ、と好き勝手に体を触ってくる恋人を睨むも、返されるのは妖しげな弧を描く笑みだけで。
「んんんんんんうっ、ぅぅぅあああああああっ、あっ、あぅ」
そしてまた、頂点に達する前に止められた指に、カナヲはついに確信を持つ。
「た、たんじろっ、ぅあ」
「どうかした?」
「いじ、いじわる、してるでしょっ、ぅぅあっ」
「意地悪? まあ、そうだね。親切で縛っているわけじゃあないからね」
「そうじゃあ、なくてぇぇ、ぅぅあああああああああっ、あっ、ぅあっ! くっ、あっ」
「本当にかわいいなあ、カナヲは」
深く抉られ、浅く擦られ、炭治郎の意のままに操られてカナヲは声を上げ続け。
さらにそれから三十分ほど焦らされ続け、炭治郎の手がようやくカナヲから離れる。
「いやあ、すごいな、カナヲは。まさかこんなに我慢できるなんて」
「し、らじらしい、っ!」
「そんなカナヲにご褒美だよ。前、ピザ食べたいって言ってたよね」
「え、………うん。言ったけど」
「お昼ご飯はピザにしよう。えーっと、確かカナヲが見てたのは、このはちみつのやつで、俺はこのベーコンチーズのやつがいいな。番号は三番と七番ね、覚えた?」
「え、あの……、え、たんじろ」
下着姿でつられたままのカナヲに構わず、炭治郎は携帯を何度か操作して、カナヲの耳に当てる。
プルルルルッ、という呼び出し音に、かあっ、と全身が熱くなった。
「炭治郎! たんじろっ! とめて、止めてぇ!」
「ビデオ通話じゃないんだから。忘れないでね、三番と七番だからね」
間もなく通話が繋がってしまい、カナヲは抗議もできなくなる。
『もしもし! お電話ありがとうございまーす!』
「あ、も、もしもし。注文、お願いします」
『あれ? その声、カナヲちゃんじゃない? わたしわたし! 甘露寺蜜璃!』
「うそ………っ⁉」
酔いは完全に抜けたのか、あるいは体質柄酔わないのか、元気いっぱいな声が聞こえてきて、カナヲと炭治郎は顔を見合わせる。
そしてカナヲは目を見開いて頬を引きつらせ、
炭治郎は意地悪く口角を上げた。
『ほんとほんとよー。体も動かしたほうが良いと思って、人手が少ないときはアルバイトもしてるの。あと、昨日、ああもう一昨日かしら? はごめんなさい。ちょっとはしゃぎすぎてしまったわ』
「あ、大丈夫です。こちらこそとんだご迷惑を……ふっ、ん」
―――絶対来ると思ったっ!
骨ばった手が下着の上をなぞり始めて、カナヲはほとんど動かない腰を震わせる。
恨みがましく炭治郎を睨むが、通話が繋がっているため抗議もできない。
『あれ、カナヲちゃん? なんか今変な声しなかった?』
「な、んでもないです! 注文、お願い、し……っ、ていいですか」
『あ! そうよねごめんなさい! それではご注文お願いします!』
「三番と七番、の、……ふぅ、ピザをお願い、します……」
『わかりました! あ、このはちみつのピザすごい人気なのよ! 私も伊黒さんと頂いたけどとっても美味しくて!』
「そ、うなんですね……、楽しみ、で、す……っ。すいません、失礼します……っ!」
最後はちょっと不自然だったがなんとか会話を切り、カナヲはこれ以上何も言うもんかと唇を噛む。
通話を終わらせて、炭治郎は軽く頭を撫でた。
「バレなかったかな。よく我慢できたね」
「ばかっ、たんじろうのばかぁっ」
「ホントだね。カナヲのせいでどんどん馬鹿になっていっているみたいだ」
「人のせいに、しないで。ぅあっあっ、あっ、ああああああああっ!」
下着の中に指を入れられて激しく動かされ、しかしまた達する直前で止められる。
「カナヲの体も、ずいぶん馬鹿になっているみたいだけど」
「ぅぅぅ、ぅぅぅうううううううううううっ!」
「とりあえずピザが来るまで一緒に遊ぼうか」
セリフは子供向けだが顔も一緒だと完全に規制がかかりそうな炭治郎の笑顔に、カナヲは力が入らなくなってきた足を震わせた。
『すいませーん! ピザお届けに上がりましたー!』
「甘露寺さん、なんでインターフォン使わないんだろう………」
「あ、ふ、んあ、ぅあ、ふっ、ぅああっ」
ドアを数度叩き、お腹から出してます、と言わんばかりの声で呼ぶ甘露寺蜜璃に、炭治郎は苦笑する。
ピザが来る前に足が持たなくなったため、腕は吊ったまま椅子に座らせられていたカナヲは、ようやくこの地獄に一区切りつくと熱い息を吐く。
甘かった。
現在、カナヲは椅子の足に両足を軽く結わえられ、太ももを閉じられなくされている。
その下着の中に、炭治郎は自分の携帯を入れた。
ひやりとした感覚に一瞬びくりとするが、直後にそんなことはどうでも良くなる。というか気にできなくなる。
「まって、なにこれ、ちょっと、ぅあ。なんで、震えて……っ!」
「バイブレーターアプリなんて本当にあるんだね。最近の携帯って便利だな」
どんなモードにしているのか不規則な振動を与え続けてくるそれに首を振るカナヲを見て、炭治郎は言う。
「声出したら甘露寺さんにバレちゃうからね。あ、あと我慢できなかったらカーテン開けるから」
「ふぇぇっ……、むり、むりだからぁ、もっ、むりぃ……っ!」
「やればできるさ」
絶対思っていない声音で言い残して、炭治郎は玄関に向かう。
間取りは玄関からざっくりL字型だから、玄関からカナヲが見えることはないけれど、声は普通に通ってしまう。
『甘露寺さんこんにちは!』
『ひゃあ、炭治郎くんこんにちは! そうよね、同棲してるんだものね! でもなんだか、想像するとキュンキュンしちゃうわ』
『俺もカナヲと一緒に住めて幸せです!』
『そうよね! 私も伊黒さんと一緒に住めて、もう毎日心臓が止まりそうだもの。あ、あと炭治郎くんも昨日はごめんなさい、多大な迷惑をかけてしまって……』
『いえ! 甘露寺さんは気にしないでください!』
「ぅん、……ぅあ、ふ、ぅあ」
は、の部分が強調されているのは気のせいだろうか、と悶えながら考えるカナヲ。
早く終わってほしいのに、会話は続く。
『そういえば、たぶん炭治郎くんの部屋だと思うんだけど、なんか窓が、鏡……みたいになってたわよ?』
『そうなんです! 中が見えないようにマジックミラーフィルムっていうのを買いました』
『そうなのね! なんだか遊園地みたいで楽しそう』
『あ、そうだ。甘露寺さんに一つお願いがあるんですけど……』
それからは小声で聞こえなくなり、カナヲは気を紛らわす対象を失う。
「んん、ぅ、んんあ、ぅあ、ふっ、ふっ、ふあ、ぅああ、あん」
そうすると、否が応でも体の悲鳴が迫ってくる。
そもそも一時間以上焦らされていて弾けそうな体に、無機質な振動刺激。声も出せないし、体もよじれないカナヲは、一身に快楽を受け続けるしかなく。
甘露寺の元気な声が再度響き、ドアが閉じた瞬間に。
限界を迎えた。
「んあっ! ああああう、ぅぅぅあああああああああっ!」
椅子がきしむほど体をのけぞらせて、余韻に浸るカナヲを見て。
炭治郎は自分の携帯を取り出した。
「あ、んっ」
「ふふ、すごく濡れてる。後で拭いとかないとな」
「あ、ごめ、なさ……」
「いいんだよ。俺がやったことだしね。それじゃあお昼ごはん、と言いたいところだけど。その前に約束は約束だ」
「え、あっ! ま、待って待って!」
「待たない」
そして容赦なくカーテンを開けて。
腕を吊り上げられ、足も中途半端に開かされたカナヲの体が日光の下にさらされる。
「まってまって、やっぱりむりぃ、閉じて、たんじろっ、たんじろう!」
「今更そんなこと言わないでくれ。今日はいい陽気だぞ」
カナヲの前に膝をつき、敏感なところを狙って舌を這わせる。初めての感覚にカナヲの腰が浮き、一度だけでは足りない体がまた熱くなっていく。
そういえば、と炭治郎はカナヲを見上げていった。
「もしかしたら観客がいるかもしれないよ」
言われて、光に慣れてきた目で外を見て。
カナヲの人並外れた目は、通りでこちらに向けてスマートフォンのカメラを構える甘露寺蜜璃を捉えた。
「え、なんで、ぅぅあ、ああ、ぅあ、なんでなんでっ!」
「外から見たらどんな感じか写真に撮って送ってくれませんか、ってお願いしたんだ。でも、もし鏡が上手く機能してなかったら、甘露寺さんが映しているのはカナヲかもしれないけど」
指を中に入れ、舌も使って、炭治郎はカナヲを容赦なく攻め立てる。
「甘露寺さんに見せてあげなよ。可愛い顔」
「たんじろっ! の、ばか、ぁぁ、あああああ、ぅあ、ああああああああああっ!」
焦らす意思を外した炭治郎の前に耐えられるはずもなく。
甘露寺にカメラを向けられたまま、カナヲは二度目の頂点を極めた。
縛られたまま一口一口食べさせられたピザは、もう味なんて分からなかった。
長い昼食を終え、炭治郎はあっけらかんと手を打つ。
「じゃあ、続きをしようか」
「いつまで、続くの……」
「特に決めていないけど。そうだね、じゃあゲームをしよう」
炭治郎はそういうと、内側に貼ってあるフィルムの端をぴりりと引っぺがす。
ぎょっとしたカナヲだったが、炭治郎の手はそこで止まった。
「これからカナヲが達するたびに、俺がカナヲから一つずつ物を取っていくね」
「と、る?」
「まあ、順番的には、一回目と二回目で上下の下着、三回目で髪飾り、かな。で、四回目でこれをもらうね」
といって、ぺろりと少し捲れたフィルムを軽くはじいた。
「うそ、うそ……たんじろ、やめて、それだけは………」
「さっきは我慢できたじゃないか」
「だってそれは炭治郎がっ! んあ、ああああっ、! ぅああ! ああああああああ!」
合図も何もなく動き出した炭治郎の指は、容赦がなかった。
焦らされて感度も上がっているカナヲは、すぐに決定的な痙攣を起こす。
「一回目だね。それじゃあ次は後ろから触ってあげる」
そういって後ろに回られて、直後にカナヲはその態勢の悪どさに気付く。
―――見えてないんだよね、鏡なんだよね……⁉
休日の通りは、家族連れやカップルなどそこそこ人通りがある。
その人たちが、ちらちらと見ていくのだ。この部屋を。
実際には鏡となっている部屋に、違和感を覚えた人たちがちらと視線を投げているだけだが、カナヲにはそれが毒となって蓄積する。見られているように錯覚して、どんどん恥が募っていく。
そして、今まで炭治郎にさんざんやられたせいで、恥と快楽が繋がってしまっていた。
「んうあ、ふああああああっ!」
「はい、二回目。ちょっと足はずすね」
そしてさらに見られたら恥ずかしい恰好にさせられて、感度と快楽が増していき。
「あああああっ! まって、まって、ぅぅうぅあぅぅぅんんんっ!」
完全に悪循環に入ったカナヲは、ついにリーチを迎えてしまう。
髪飾りを取られ、艶めいた髪を色づいた体に纏わせて、カナヲは肩で息をする。目には涙がたまっていて、炭治郎の顔を見て必死で首を横に振る。
「じゃあ、そのまま四回目かな」
炭治郎に容赦はなかった。
通行人の顔が良く見えるように、カナヲのあごに手を添えて固定し。
とどめを告げるように、低い声でささやいた。
「無駄だよ、カナヲ」
「だめ、おねが、い! 許して、たんじろ、たんじろっ、ぅあ、ああああああああああ‼」
四回の果てを迎えて呆然とするカナヲだったが、約束通りこれは終わりではない。
炭治郎はフィルムに片手をかけて、外を見て、それからふっと小さく笑った。
なんだかんだで拭かないままの携帯を操作して、それから呼びかける。
「カナヲ、外を見てごらん」
「………え、なんで、しのぶ姉さん?」
「義勇さんもいるね。二人仲良く散歩かな」
そんなはずはない、と目が良いカナヲは一瞬で見抜く。
しのぶの重心がおかしいこと、義勇の口元が仄かに歪んでいること。
そして気づく。
「炭治郎! 本当の最下位はしのぶ姉さんだったのに嘘ついたでしょ!」
「嘘はついてないよ。連絡してないから、誰が最下位だったかはわからない」
「そんな言い訳……っ!」
「カナヲ」
冷えた声に、全身がこわばる。
「ちゃんと反省してるのかな? 確かにちょっと騙すようなことをしたかもしれない。だけどカナヲは自分のしたことがわかっているのかな?」
「たん、じろ?」
「カナヲが飲んでいたメンバーには、カナエ先生と甘露寺さんとアオイさんがいたんでしょう? 言い換えれば高校教師、画家、定食屋の娘さんだ。悪い評判がついたら、一瞬で立ち行かなくなるような業種だと思わない?」
「……………」
「もし投げた缶の軌道がずれていたら。振り上げた手が少し間違ったところに当たっていたら、カナヲが加害者になっていたかもしれないんだよ」
「……………………ごめん、なさい」
「だからこれは、その罰だ」
そういって炭治郎は、マジックミラーフィルムを完全にはがした。
「いや、いや! ごめんなさいごめんなさい許してごめんなさいぃぃ!」
「しのぶさんと義勇さんに、恥ずかしい姿を見られると良いよ」
自分は椅子の後ろに隠れて、炭治郎は再びカナヲに触る。
耳を食んで舌を這わせ、両の手は胸と体の中心を強く抉って。
「え、ほんとに、ほんとに、待って、ぅあああ、ぅあ、ああう、ぁああああっ!」
「待たないよ」
そして、そのまま一切の加減なく追い詰められて。
「むりむりも、うむりっ! 死んじゃうしんじゃう、っく、ぁあ、あああああああああ!」
義勇としのぶがこちらを向いているのを炭治郎に見せられたまま、カナヲは髪を振り乱し、喉をさらけ出して、ひときわ大きく椅子を軋ませた。
「う、ぅう、ぅぅぅううううっ……」
「ごめんな、カナヲ。ちょっとやりすぎたな」
いろいろと叩き込んだ結果キャパオーバーになってしまった様子の恋人をなだめるように、炭治郎は戒めをほどいてから優しく抱きしめる。
「も、明日からそと歩けない……、炭治郎のばかぁ……」
「よしよし。俺も反省するから、カナヲもこれに懲りたらお酒には気を付けてくれ。な?」
「な? じゃない! というか、はやく、カーテン閉めて!」
苦笑いの炭治郎は、カーテンを閉めると、でもな、と少し言い訳口調で言った。
「大丈夫だよ。カナヲの姿は最後まで外には見えてなかったから」
「……さいご、見られた」
「見られてないよ。しのぶさんからも電話とかかかってきてないだろう?」
言われて、確かにとカナヲは思う。
仮にしのぶもお仕置き中であったとしても、カナヲのそんな姿を見たら鬼電してきそうなものだが。
窓をとんとんと叩いて、炭治郎は溌溂と笑う。
「実は、フィルムは窓の内側と外側に二重に貼ってあったんだ。だから内側をはがしても外側が残っている限り中は見えないよ。確認したから間違いない」
「………じゃあ、……え?」
「ドッキリ大成功、ってやつだな痛っ! いたた痛い! 痛いって、殴らないでくれごめんって!」
「ばかあ!」
けっこう鋭いのをお見舞いしつつ、カナヲは真っ赤になって反撃する。
「ばかっ! たんじろうのばかっ! ほんとに怖かったんだから、ばかぁ!」
「ごめん、ごめんな! でも俺も昨日、連絡を受けたときは怖かったんだぞ」
「ぅう、……でも、ばか!」
「カナヲに怪我がないかも、心配したんだよ。だから、それで痛み分けってことにしてくれないか」
「たんじろうのばか。へんたい、すけべ、…………でも、うぅ………ごめんなさい」
「うん、俺もごめんな」
最後にもう一度謝って、抱きしめる。
そして、とりあえず最初に没収していた髪飾りを返す。
夕焼けに照らされて一糸纏わず、艶めく黒髪をまとめるカナヲに、炭治郎は思わずと言った調子でつぶやいた。
「大好きだよ、カナヲ」
「…………私も、大好き」
カナヲの方も、ずいぶん久々に見るような優しい炭治郎の笑顔に顔を綻ばせ。
仲直りをするように、頬を寄せ合って唇を合わせた。
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「最後いい話風にまとめてっけど、やっぱりお前らが一番やべぇんじゃねぇの」
「炭治郎は変態だな」
そしてそれから一週間後の居酒屋で、不死川実弥と冨岡義勇は珍しく意見を一致させていた。
それに関しては炭治郎についても反論がある。
「俺たちが一番内輪で終わってましたよね! 不死川先生は玄弥にバレかけてましたし、義勇さんに至っては晒しもの状態じゃないですか!」
「テメェだって甘露寺巻き込んだだろうが」
「あれは事故です。おれは認めません! 絶対にお二人の方が変態です!」
「なんだとこの石頭! 枷使って好き放題やってる時点でテメェは真性の変態なんだよ馬鹿が!」
「不死川、ブーメランだぞ」
拘束プレイに関しては三人とも玄人じみてきていて比較対象にはならず。
では何をもって変態度合いを測るかというと判断に困るのもまた事実。
「俺は不死川先生が一番変態だと思います。なんというか、自分の実家を巻き込む辺りがこう、背徳感を楽しんでいる気がすると言いますか………」
「テメェの理屈で言うなら実家が一番内輪だろうが。そんで散歩についてだったら町内一周した冨岡の方が変態だろ」
「俺はただ仕置きと休日を両立させただけだ。それに比べ炭治郎は、栗花落を虐めるためだけに念入りに準備を積み重ねている。やはり変態はお前だ」
「不死川先生です!」
「冨岡だ!」
「炭治郎だ」
日頃のうっ憤がたまっていたのか早々に鞍替えした不死川によって論争は三つ巴の様相を呈していき。
どこまでも無益な争いは終電間際まで続いていった。