神崎アオイは記憶こそ飛ばないが、アルコールが如実に次の日の体調に影響する。
喉はカラカラ、頭には鈍痛、顔もべたべたで気持ち悪い……。
起床時間だけはいつも通りだが、それ以外は最悪の気持ちでリビングに出る。
「起きたかよ」
不格好な握り飯と味噌汁、緑茶をおっかなびっくりお盆にのせて運んでいた嘴平伊之助に、枯れた声で答える。
「おは、んん、おはよう。ぅあー、体調悪い……」
「毒だってわかっててなんで酒なんか飲むんだよ、この弱味噌が」
伊之助からお茶を受け取って飲み、フライングで味噌汁も半分頂いて、ようやく落ち着く。
「うう、ちょっと落ち着いてきました。ありがとうございます。伊之助さん」
「ありがたく思えよ! お前はもうそれ食って今日は寝てろ」
「そういうわけにはいきませんよ。土日は戻らないと」
神崎アオイは伊之助との同棲を許してもらうにあたり、定食屋を営む両親と半ば懇願じみた約束を交わしている。
曰く、休日と祝日だけは店の手伝いに戻って来てほしい。
そしてまさかの、今週は月曜日も祝日の三連休。
グラグラする頭できりきり働くことを考えるとふて寝したい気分だったが、そこは神崎アオイ。ふんっ、と目を吊り上げて気合を入れる。
「緩めろ、アオイ」
伊之助はその肩を潰すようにして椅子に座らせた。
「ちょっと何するんですか! もう出ないと!」
「そんな体調のやつ外に出せるわけないだろうが。顔は青いしだいたい酒くせぇんだよ!」
「うあ…………」
それを言われると弱い。
そして気づく。ジャージか(勝手にそうなる)ダメージジーンズしか穿かない伊之助が、珍しくスラックスとブレザーなんて着ていることに。
「今日と明日は俺が出る。お前はゆっくり休んでろ」
「伊之助さん………」
「がっはっはどうだ俺様はすごいだろ! 崇め奉って明日の夜は天ぷらを献上しやがれ!」
―――これじゃあいつも通り甘えっぱなしじゃないか、とか。
―――定食屋にフォーマルな格好ってちょっと浮くかも、とか。
―――顔が良すぎるからちゃんとした身なりで出歩いてほしくないなあ、とか。
いろいろ思う所があってあうあう言っているうちに、伊之助は家を飛び出していった。
日曜の夜は色気も何もなく二人並んで寝て。
体調も回復した祝日、月曜日の夕方。
神崎アオイは罪悪感と羞恥でいっぱいいっぱいだった。
原因となる、己の親からのメールがスマートフォンの中で光っている。
『アオイへ
伊之助くんはさきほど帰りました。
男の子ってすごいわね、料理はからっきしだけど飛ぶように配膳してくれるし、下げた端から皿洗いが終わるし、本当に助かりました。
それにしても、二日も寝込むなんて土曜日の夜はいったいどんな過ごし方をして、何をされちゃったのかしら?
伊之助くんに聞いてみてもだんまりだったので、お父さんが後半ちょっと怖い顔になっていました。誤解ならごめんなさい。
母より』
「ぅぅぅ、ぁぁああああああ………っ!」
―――申し訳なさすぎる!
ここにはいない己の想い人に土下座するように、洗濯物を抱いて体を丸める神崎アオイ。
私の不注意で行動不能になった挙句、伊之助さんの貴重な三連休を潰させただけでも頭を下げるべき事案なのに。
あろうことか善意の無休バイト先で、私の名誉のために口をつぐんだせいで責められただなんて。
少なくとも、天ぷら御膳でチャラにしていいレベルの迷惑ではない。
「ど、どどどどうしようどうしよう。そ、そうだしのぶさんにまた助けを………」
「帰ったぞアオイ!」
「きゃあああああああああああああ!」
早すぎる。ぜったい全力疾走して帰ってきてる。フォーマルなのにやっぱり服は関係ないのか。
どかどかとリビングまで帰ってきた伊之助は、ダメージスラックスなんて新ジャンルの創造主にはなっておらず、普通にちゃんとしたイケメンだった。
「ただいま! 天ぷらは!」
「お、おかえりなさい。いまから用意するのでもう少し待っていてください」
「というか何してんだお前? 丸まってケツ突き出して。腹痛いのか?」
「言い方!」
「はああああん⁉ こっちはテメェの尻拭いに奔走してやったってのに、ずいぶんな態度じゃねぇか!」
「うっ………」
まったくもってその通りで、吊り上げた目を伏せてしおしおとしおれる。とっさに怒鳴ってしまうなんて本当につくづく可愛げの欠片もない。
「アオイ?」
覗き込んでくる伊之助の目を避けるようにして。
せめて謝罪の意はちゃんと伝えようと、洗濯物をわきに寄せて、神崎アオイは正座のち、床に付くほど頭を下げた。
「あの、この度は多大な、ご迷惑を……おかけしました。食堂の方でもひどい仕打ちをさせてしまったようで本当に、その、申し開きもできないというか」
「ふうん」
「わ、私にできることならなんでもしますから……、どうかその、許してください、伊之助さ、きゃっ!」
床についた手を取られ強引に持ち上げられ、顔を上げると間近で翡翠色の目がぱっちりとアオイを見ていた。
「体調は?」
「え、えっ?」
「体調は戻ったのか」
「あ、も、戻りました。いつもより元気なぐらいです、ごめんなさい」
「……嬉しくなかったのかよ」
「はい?」
「お前は飲み会明け、絶対に具合が悪くなるから! 苦しまなくって良いように手ぇまわしてやったんだろうが! なんでそれで泣きそうになってんだよ、なァ!」
「い、のすけさん?」
目を伏せて、こらえきれないように肩を震わせて、伊之助はつぶやく。
「オレノコト、キライ?」
大きいのに小さく萎む雰囲気に、胸の中心が痛くなった。
ああ、忘れていた。
どこまでも不器用で意外と繊細な恋人、嘴伊之助。その行動原理は男というより子供といった方がしっくりする面が多々あるということを。
申し訳なさはこれから長い時間をかけて払拭していこう、と心に刻んで、神崎アオイは下を向いたままの伊之助を抱きしめる。
「ごめんなさい、ありがとうございました。とても嬉しかったです」
「キライジャナイ?」
「大好きですよ、伊之助さん」
肩の震えが一層強くなり、無骨な手がアオイの背に回る。そして顔を上げた伊之助はというと。
顔中に、意地の悪い笑みを浮かべていて。
くつくつと肩を震わせていて。
「…………………あれ? きゃあ!」
神崎アオイはそのまま軽々と持ち上げられた。
「そっかそっかそうだよなァアオイは俺が大好きだもんな! 飲み会のときも言ってたもんなァ!」
「え、え、飲み会って、えっ?」
「カウンターにグラサン帽子トレンチコートの奴がいただろうが! それは俺だ! 気づかねぇとはまだまだ弱味噌だな!」
「ええええええ! ちょっと待ってください、じゃあ全部聞いてたんですか、というか計画的盗み聞きなんていつの間にそんな知恵をっ!」
「しのぶの案だ」
図られてたぁぁぁああああ!
じたばたと無駄な抵抗を諦めない神崎アオイを肩の上で封殺して、嘴平伊之助は上機嫌に続ける。
「さあアオイ。何でもするって言ったよな。とりあえずお前、そのセリフ俺以外のやつに言うのは絶対に禁止な。忘れんなよ」
「い、言いませんよそんな恥ずかしいこと!」
「来週は毎晩、天ぷらだ」
「待ってください、なんでもって一つじゃないんですか!」
「けちくせぇこと言うなよ。アンプの裸人だって三つは叶えるって権八郎が言ってたぜ!」
「それ多分ランプの魔神!」
寝室まで運んで、ゆっくりとベッドに寝かして。嘴平伊之助はカーテンを引くと部屋の電気を落とした。
闇の中で翡翠色の瞳が妖しげにきらめく。
「だから最後のお願いだ。喰わせろ、アオイ」
「……………はぃ」
いつも死ぬほど不器用なくせに。
こういうときはやたらスマートなんだよなあ、と近付いてくる伊之助の顔に、アオイはそっと目を閉じた。
「胸、触るぞ」
「ぅあ! あっ、あっああ」
部屋を暗くするのは、アオイが初夜の時に恥ずかしいからと懇願したのを、伊之助がいまだに守っているからで。
「次は首で、そのあとは脇だ。腕上げてろ」
「はあ、はああっ、あ、ああっ」
夜目が効く伊之助さんには明るさなんてほとんど関係ないことが後から発覚して。
「それが終わったら足を開け。また気持ち良くしてやるよ」
「ぅ、はい、ぃぃぁ、あ。あっ、あっ、あああああああああああ!」
不公平ですやっぱり明かりを、と前言を撤回するアオイと、恥ずかしいんだろうが! と譲らない伊之助の口論の果て。
事前にすべて予告する、という帰結を受け入れてしまった過去の自分をぶん殴ってやりたい、と神崎アオイは三度目の果てでぼんやりと思っていた。
骨ばった手にまとわりつく粘性の液体を弄んで舌で舐めとり、嘴平伊之助は唇の端を吊り上げる。
「普段お堅くしてる割には溶けるのがはやいなあ、お前は」
「ぃ、言わないでください! だいたい伊之助さんがっ!」
「俺に原因を求めんなよ。ほら、次は耳だ。横向け横」
求めるも何もあなたが原因です! と普段なら声を張り上げるところだが。
一年かけてすっかり慣らされてしまった神崎アオイの体は従順に伊之助に従う。
「胸と中、一緒に触ってやるよ。あと口も開けろ」
「ぅぅぅ、あ、っはあ、はああっ、んむ、ん、んんんんんっ!」
ほどなく四回目の収縮が訪れて、神崎アオイはゆっくりと弛緩していく身体を感じながら胸を上下させる。
「い、のすけさん」
「ああ、そろそろ、いいな?」
びりっという音、なにやら蠢く気配の後で、伊之助の体重がのしかかってくる。
まともに言葉を扱えるのはここしかない、と神崎アオイは伊之助の首に手を回して耳に口を寄せた。
「………アオイ?」
「いのすけさん、一昨日、あの場にいたんですよね?」
「ああ」
「じゃあわかりますよね? 私の、不満が」
「わっかんねぇな」
「いのすけさん!」
「いいかよく聞け」
一つ口づけを落とされて、伊之助もアオイの耳元でささやく。
「俺は何も我慢してねぇ。雄は雌を気遣うもんだ。それができなきゃ下の下の下、最弱なんだよ。だからお前は間違ってる。これが、最強の俺の、したいことだ」
「ふ、あっ」
「わかったらお前は溺れてろ。そんで終わったら笑ってろ。それができりゃあ不満なんて一個もねぇ。アオイ、お前も最強だ」
「あっ! あっ! あ、あああ、ぅあ、あっ、あっ、ああっ!」
それを最後に、伊之助からの言葉は途絶えて。
腰に負担がかからないように、呼吸のタイミングとずれないように。
繰り返される繊細な抽挿に全身を溶かされて。
神崎アオイの不健全で健康な夜は続いていった。
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三連休を一人暮らしのベッドの上で寂しく過ごした上、翌週もまるっと頭痛(外傷)で出歩けなかった我妻善逸は、洗面所でようやっと引いてきたたんこぶを確認していた。
枕カバーは涙と鼻水でぐっしょりであった。
「と、とんでもねぇ炭治郎だ………!」
あの晩。
禰豆子ちゃんを家に送った後、行動不能となっていた善逸を家まで送り届けたのは竈門炭治郎で。
翌朝、頭があることに安堵していた善逸に宛てた置手紙には曰く。
『善逸へ
しばらくは動けないだろうから定期的に様子を見に来る。
禰豆子がらみのモノは丁寧に処分させてもらった。今日ほど自分の嗅覚に感謝したことはない。
竈門炭治郎』
慌てて確認してみると、色々な場所に手を尽くして隠してあったブツは本当に、ひとつ残らず消え去っていた。
善逸は泣いた。わんわん泣いた。本当に、どれも大切なものだったから。神だと思っていたから。
そして様子を見に来た炭治郎に詰め寄ったが、返ってきたのは別の生き物を見るような冷たい目でしかなかった。
―――今日もまた来やがったか。
パン屋に大学にと忙しい炭治郎は、夕方ぐらいに様子を見に来る。
通路を近づいてくる足音を聞き取り、善逸はよっこらと立ち上がった。
呼び鈴が鳴る前にドアを開けて、善逸は頭を掻く。
「はいはい、いらっしゃいませ炭治郎さま! この通り回復しましたよ、まったくどんな頭突きだ相変わらずの石頭め!」
「あ、あの」
「…………え?」
いつもの目線に顔を上げるがそこには何もなく。
すすす、と顔を下げると、やけに重たそうな荷物を持って、善逸にとっての女神様が申し訳なさそうな顔で立っていた。
「お兄ちゃんがすみません。大丈夫でしたか? 善逸さん」
「あ、あの」
「ねぇずこちゃんいらっしゃい! 本当に何にもないけど好きにくつろいでねぇ、ささ座布団はこれ。飲み物はなにが良いかなあ緑茶とティーパックはあるんだけどどっちがいいかなどっちも出そうか! 好きなほう飲んでね!」
「………ぜんいつさん」
「ぎゃあどうしようお茶請けがない! あでも、あんこもあるし、消費期限ギリギリだけどもち米も転がってるから、それでお餅でも作るねちょっと待っててね!」
「善逸さんちょっと落ち着いてください!」
「ぎゃあごめんなさいでもかわいい!」
荒ぶる善逸を押さえて、竈門禰豆子はなんとか座らせることに成功する。
―――本当に、何で好きになってしまったんだろう。
正直ここだけ切り取ったら好きになる要素なんて一つもないのだけれど、落とされてしまったものは仕方がない。
「ん? なあに」
「な、なんでもないです!」
最初のきっかけは、高校での文化祭だったような気がする。
とあるバンドによって音祭が開催禁止となった翌年、代替イベントとして開かれた格闘祭で。
鱗滝道場最強の漢、煉獄家嫡男、素流開祖の直弟子に、二刀鎌使いなど。
カオスな出場者の中で準決勝までコマを進めたのが、目の前にいる我妻善逸で。
目にもとまらぬ速さで胴を打ち抜く居合剣術に、飛車みたいだと思ったのが竈門禰豆子の運の尽きであった。
禰豆子はちょこんと頭を下げる。
「改めて、先日は済みませんでした。理由は教えてくれませんでしたが、兄がとんだ粗相を」
「いやいやあ、気にしないでよこんなのかすり傷だから!」
「及ばずながら報復はしてきたので、どうかご容赦ください」
「………なにしたの?」
「おでこ弾きました」
顔を引きつらせる善逸に、禰豆子は悔しそうにこぶしを握る。
「力不足です………。お兄ちゃんの額に痕を残すことはできたのですが、こっちの爪にもちょっとひびが入ってしまって………っ」
「ああ、なんかポケモンにそういう技あるよね………。反動くるやつ」
普段なら禰豆子の負傷など叫び出す案件であるが、究極のぶつかり合いにそれどころではない我妻善逸。
というか、竈門家の長男長女、同時に怒らせたらどうなるんだろう……。
廃屋に縛り上げられて、ビティン! ドゴォン! とメタメタにやられる想像に背筋を凍らせつつ、なんとか話題を変えようとする我妻善逸。
「そういえば今日はなんで禰豆子ちゃんが?」
「はい。善逸さんにお詫びをと思いまして、お夕飯を作りに来ました。材料は買ってきたので、キッチンを借りてもいいですか?」
首を傾げる竈門禰豆子に、善逸は早くも昇天しそうであった。
「おいしいい、美味しいよ禰豆子ちゃんありがとうぅぅっうっう!」
「良かったです! でも食べるのか泣くのかどっちかにしてください」
「無理ぃ幸せっ、幸せえええええええ!」
やけに重たそうな荷物の中身は、材料とそれから土鍋であった。
料理は火加減、と兄そっくりのどや顔を浮かべる竈門禰豆子からご飯のおかわりを頂き、それも食べきり。
我妻善逸はこの世の春を堪能していた。
「いやあ美味しかった。禰豆子ちゃんは本当に何でもできるねぇ! 将来は良いお嫁さんになりそう!」
「ありがとうございます」
皿洗いは是非に、と善逸が行って。
現在、竈門禰豆子と我妻善逸は、お茶を飲み、テレビを流して食後のひと時を楽しんでいた。
「禰豆子ちゃんは普段どんな番組見るの?」
「わたしは、そもそもあんまりテレビは見ないですね。料理番組とか、将棋とかを見るぐらいで。善逸さんは?」
「俺も、そういえばあんまり見ないなぁ、実家じゃ兄貴がチャンネル独占してたし。ニュースぐらいかな、っつつ」
思い出したように額が鈍痛を発し、頭を押さえる。
禰豆子はそれを見て、思い出したように鞄から湿布を取り出した。
「忘れてました。まだ治りかけですよね。ちゃんと冷やさないと」
「いやあ大丈夫だよ。放っておけばもう治るって」
「ダメです! さあほら」
ベッドに腰かけて、善逸の腕をつかむ。
ここで。
竈門禰豆子はあくまで善逸の治療のため、彼我の目線の差を埋めるために先の行動をとったに過ぎなかった。
だが、とっさに腕を引かれた善逸がバランスを崩してつんのめった結果。
はたから見たらベッドに押し倒した男、あるいは男を誘った女。どちらかは微妙だがとにかくそういう態勢で双方固まってしまって。
「………、ご、ご、ごめん禰豆子ちゃん! 違うんだそんなつもりじゃなくってだから嫌いにならないでごめんね!」
「………善逸さん」
正直、禰豆子もほうもとっさのことで冷静さなんて露ほども残っていなかったけれど。
狼狽える善逸をみて深く息を吸って、禰豆子は精一杯にこう言った。
「嫌いになってほしくないなら、私のしてほしいこと、……当ててください」
「禰豆子ちゃん、痛くない?」
「い、たくないです、っふ、ふ、ふぁ」
「ふふ、可愛い」
「か、わいくないです、ふぁぁあっ、あっ」
ファーストキスから始まって、ゆっくりと服を脱がされて。
のぼせてしまいそうなほど全身が熱くなって、竈門禰豆子は意識を保つのに精いっぱいであった。
我妻善逸は、耳が良い。
だからかわからないが、絶対に禰豆子の良い所は序盤でバレた。証拠はないけどそうに違いない。
だってそう思うしかないほど、初めての善逸の手は的確に禰豆子を責め上げ、もう体の制御が効かなくなっているのだから。
「また、綺麗な声、聴かせて」
「きれいじゃないですぅぅぅうううううあああああっ!」
宙に放り出されるような感覚を再び覚えて、我慢できずに叫ぶ竈門禰豆子。善逸は感じ入るように目を閉じていて、ああ聴かれている、と息を止めようとするが、すうっと肌を撫でられてそれも叶わず。
不意打ちに、激しい責めにと。
明らかに声を出させようという意図をもって動く善逸を喜ばせるように、禰豆子は何度も白い喉をのけぞらせた。
「ふふ、我慢しないで。聴かせて。可愛いよ、禰豆子ちゃん」
「ふぅ、ぅぅ。善逸さんのいじわるぅぅううあああああっ!」
「すごいね、もう大丈夫そうだね」
いい? と言われて、今度はその声に禰豆子の体が反応する。
小さくうなずくと、ゆっくりと善逸の体温が禰豆子と重なって。
偶発的で初めて尽くしの夜は、早鐘のように打つ二つの鼓動が重なったまま続いていった。
そして幸せと達成感ででろでろになった男、我妻善逸は、隣で微睡む女神様の髪をゆっくりと梳く。
ちょうどその時、メールが鳴った。
―――なんだよふざけんなよ良い所なのに。
とは思うが、以前に兄貴からのメールを無視してどえらいことになったのがトラウマで、とりあえずメールを開く。
『善逸へ
禰豆子の帰りがやけに遅いんだが、何か知らないだろうか。
ちなみに、脳震盪って頻繁に起こすと記憶障害につながるらしいぞ?
竈門炭治郎』
トラウマが増えそうな予感に、ひゅっと呼吸が乱れる我妻善逸。
「ね、ねねねねねぇずこちゃぁん? ごめんねぇちょっと起きれるー?」
「ぅあ、なんですかぁ、ぜんいつさあん」
「ぎゃあ可愛い! だけどごめんねぇちょーっとまずいことになってるから起きてお願いだから起きてください! ちゃんと送るから一緒に帰ろう、ね、ね、ね? 一生のお願い何でもするからお願いします、ねぇずこちゃぁぁぁぁあああん!」
おのれ炭治郎と心の中で歯ぎしりするも命には代えられず。
いまだ余韻に浸ったままの竈門禰豆子をゆっさゆっさと揺らし、事後なのになんとも締まらない声音で懇願する羽目になった。
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そして週明けのメールチェックに勤しむ歴史教師、煉獄杏寿郎と体育教師、冨岡義勇は、事務連絡に交じって知人からのメールが来ていることに気が付いた。
「む! 狛治からか。懐かしいな!」
「錆兎か」