精神崩壊
状態変化
苗床
スカトロ
華やかなアルーサ・フェスタの裏、ブラキカムはたった一人で害虫の群れと戦っていた。
このような汚い裏方作業は表に出すべきではない、という彼女の信条によって強引に推し進められていた無謀な孤軍奮闘は、やはり当然というべきか、多勢に無勢でブラキカムが追い詰められる結果になった。
「あ……っ!!」
バランスを崩したブラキカムをウェディングケーキコスプレめいた奇怪な姿の害虫の強烈な一撃が襲い、弾き飛ばされて岩に叩きつけられる。
そのまま意識を失った彼女は、本来であれば敗北した花騎士が辿る末路そのまま戯れに八つ裂きにされるか食われるかする筈だったが、そこに待ったをかけたものがいた。
蜘蛛型害虫の上に乗った、蟻型害虫の群れの内の一匹…片目が傷付いて変色し、触角が片方外れてしまっている個体。
クリスマスの頃に現実ニナラァントと呼称されていたそれと同じ姿のもの達は、いずれも蟻型のぬいぐるみを横に連れ、そのぬいぐるみとの結婚式を行っていたが、この蟻だけはどういう訳か、一匹だけで蜘蛛に搭乗していた。
ぬいぐるみをどこかで失ったか、それとも元々持っていなかったのかは定かでないが、刀傷らしき片目の傷を見るに、花騎士との戦いの中で失ったのだろう。
奇妙な集団の中のはぐれもの達は、気絶した花騎士に近づき、その容姿を頭の先から爪先までじっくりと検分する。やがて蜘蛛がブラキカムを持ち上げ、蟻からもっとよく見えるように近付ける。蟻は更に花騎士に顔を近づけ、匂いまで嗅いでいるようだった。
その内に傷付き蟻は震えながら奇怪な鳴き声を上げ、ブラキカムに向けて手を伸ばす。蜘蛛はそれで意図を理解したらしく、粘着質な糸を吐き出してブラキカムを拘束し、自らの背、独り者の蟻害虫の隣に収める。蟻害虫は同族らがぬいぐるみを扱うのと同じように愛おしげな手つきでブラキカムを撫でまわす。どうやらブラキカムはこの蟻に見初められた…いや、とうに失われた筈のぬいぐるみだと認識されてしまったらしかった。
傷害を受けた際に感覚器官が狂ってしまったのか、それとも気が狂ってしまったのか。形が全然違うというのに。
ぬいぐるみとの結婚式を行う蟻達は、気付かぬまま花騎士をつがいに選んだ哀れな異端者に同情と奇異の目を向けていたが、そんなものに構っているのは時間の無駄だと思ったか、自分達の結婚式の方に意識を向ける。
そんな同胞だったもの達の態度に気付く様子も無く、代わりに何かを警戒するように周囲を見渡す傷付き蟻害虫。恐らくぬいぐるみを失った原因である花騎士の襲撃を心配しているのであろう。二度と自身の宝を失わないように、ブラキカムを強く掴み、そのまま用心深く同朋達に背を向け、相方の蜘蛛と共にその場を立ち去っていく。
暫くの後、ブラキカムの単独害虫討伐に気付いたハリエンジュ達が助けに来たが、当のブラキカムを連れた蟻はとっくにそこを離れた後であり、ぬいぐるみ相手に結婚式を挙げている害虫がいるばかりで、ブラキカムは影も形も見当たらない。
緊急に騎士団から増援を呼んで周囲を捜索するも結局ブラキカムは見つからず、そのまま彼女は行方不明となった。
「ふーっ…ふーっ…うぐぅぅぅ…」
攫われてから一週間後。蟻害虫の住処の中、ブラキカムは激しい腹痛により身体を丸め、冷や汗をかいて苦悶の呻きを漏らしていた。
僅かに腹部が膨らんで、低い不気味な音を放っている。汚物が腹の中に大量に溜め込まれているせいである。
しかし蟻害虫が虐待などの意図した酷い待遇を処している訳ではない。ブラキカムの他者の目の前での排泄を拒否するという人として当然の精神の働き、最低の環境によるストレスでの便秘などの結果として、そうなってしまっているだけだ。
ブラキカムが意識を取り戻した直後、害虫に囚われたと気付いた時こそ困惑と恐怖に支配されたものの、結局この蟻害虫は彼女に危害を加える様子は無かった。叫びもがく彼女に対しても驚いたような仕草はしたものの、対応は優しいものだった。
恐らく、一度失ったぬいぐるみが返ってきたと勘違いしている蟻害虫は、ぬいぐるみが自分を手放してしまった蟻害虫に怒って臍を曲げていると考え、多少の変化は受け入れようと考えたのであろう。
だがその程度では無意味も同然。巣穴に蟻害虫がいる時は四六時中べたべたと引っ付かれ、害虫の作った不恰好な服らしきものや人里から盗んだ服で着せ替え人形にされる。食料は蟻害虫自身の食料である、実に不味く何が入っているか解ったものではないケーキのお零ればかり。手足は頑丈な蜘蛛の糸でギプスのように封じられ自由に動けない。そして、一番の問題が、排泄行為。そういった要素により、ブラキカムはストレス漬けになっていた。
彼女は蟻害虫の失くしたぬいぐるみではなく、生理現象を催す生きた人間なのだ。
既に尿は2日目の朝の時点で我慢の限界を超え、着衣のまま漏らしてしまっていた。そして今正に、腸を満たした大量の大便が、便秘の末に腸内バランスを崩して下痢に傾き、制御の限界を越えようとしている。
ギュルギュルと醜く鳴り響く腹音。発生したガスによってパンパンに張り、痛みを訴える腸管。
排尿の方は既に何度も蟻害虫の目の前で漏らしてしまっているので、もはや彼女自身諦めに至ってしまっているが、排便は別だ。
「やだよ、やだぁ…お願い…トイレに行かせてよぉ…トイレぇ…」
蟻害虫に見られながら、衣類の中に大便を排泄する自分。
身の毛もよだつ最悪な姿を想像し、涙を溢れさせて蟻害虫に便所を求めるブラキカム。
しかし人の言葉を知らない蟻害虫は、苦しむブラキカムを心配そうに見守り、どこからか盗んだらしきタオルで自身の宝物の内部から流れ出す謎の水…涙と汗を拭う作業に没頭している。
腸の断末魔めいた、一際汚ならしく長い腹音。もはや死人同然の土気色の汗みずく顔。限界と理解しつつも、乙女として到底受け入れられない現実を回避せんと食い縛った歯が震えでカチカチと鳴る。
そして、彼女を案じた蟻害虫が腹部を撫で、ぎりぎりだった腸が僅かに圧迫された事により、最悪の事象は現実となった。
絶望的な現を拒絶するように、両目をきつく閉じるブラキカム。尻から断続的に破裂音が響き、汚濁の奔流と悪臭気体が流出して、彼女自身の下半身と精神を汚していく。
奇妙な音と宝物の内から漏れだしてきた想定外の汚染に、蟻害虫が慌てて衣装を脱がせる。丁度その時に、腸管奥に貯まっていた硬く長い固形便が産まれ落ち、べちゃりと地面に叩きつけられて汚い音を立てる。次いで固形になっていない液状の残留物が噴き出し、惨憺たる有様を作り上げて漸く脱糞は終了した。
ブラキカムは赤ん坊のように下の世話をされながら、自分の意思で排泄を自由にする事も出来ない屈辱、絶対に秘さねばならない姿を害虫に公開してしまった羞恥、苦痛の中からの解放感といったものが混ざりあい、溢れた涙や鼻水などによって愛らしい顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。
ただでさえ綺麗でないものは他者に見せたくないと願って生きる彼女には、現状は地獄に等しい。
花騎士としての、いや、人としての最低限のプライドすら破壊されてしまった彼女の心は、完全に折れていた。
「あああああぁ……もうやだぁ……ひっく……帰して…ぅぅうっ、おうちにかえしてよぉ……お父さん…お母さん…助けて…」
右往左往しながらもどうにかこうにか汚物を拭き取り、異臭を放つそれを始末し終えた蟻害虫。
泣き喚く彼女への対応がわからず、巣の片隅に置いてある謎の冊子…表紙から想像するに、恐らく害虫が作ったであろう、ぬいぐるみの取り扱い方について書かれてあると思しきそれに目を通す。
そこにどんなろくでもない事が書いてあったのか。暫くそれを読んでいた蟻害虫は内容に訝しげにしたり、得体の知れない液体の入った大量の瓶などの付録に胡乱げな視線を向けたりしていた。
しかし、結局自分の知識だけではどうしようもないと覚悟を決めたか、付録の封を開け、中にあった先に蝶害虫の口吻めいた細い管の付いた巨大な空き筒…人間が見れば、注射器か浣腸器だと判断するであろう形をしたものを取り出し、そこへ更に付属していた瓶の中身を入れていく。
そしてその邪悪な性質を持った液体を湛える嘴を、無防備に転がって泣き続けるブラキカムの尻穴に突き立てる。
「ひっ!? なに!? やだ!? やめてよぉぉ! ひどいことしないでぇぇ!」
拘束されたままの手足をもぞもぞと振り回すが、蟻害虫を引き離すことは出来ず、やがてからっぽになったばかりの腸内へと侵入してきた液体が腸壁にへばりつくあまりに悍ましい感覚に、怯え震えることしか出来なくなってしまう。
その間にも蟻害虫は矢継ぎ早に正体不明の液体をブラキカムの腹腔に送り込む。
最終的に全ての溶液を入れ終えた時、哀れな花騎士の腹は子供を宿したかのように膨れ上がってしまっていた。
「う、ぐっ…げうっ……ゆ、るじ、で…たすげて、くださ、い…」
溶液の成分と膨腹による苦しみで、虚ろに宙を彷徨う視線。
蟻害虫は悲痛な訴えかけを理解せず、今にも中身を撒き散らさんとひくついている肛門に、害虫自身の足と同じ程度の太さをもつ空き瓶を突き立てて、栓をしてしまった。
「あ゛ぐぁあ゛ぁ゛あああ!?」
両目を見開いて絶叫するブラキカムの尻を塞いだ瓶は、開口部を彼女の腸内に向けてぶちこまれた為、内部に溶液と腸液の混合体が流入し、歪んだ液面の先に腸壁が露になった。
衝撃に堪えかねて目を白黒させる間に、謎の凌辱行為は次の段に進む。
腹を膨らませた花騎士は仰向けに転がされる。尻を閉ざす栓が抜けないように付属の粘着物で固定され、そして蟻の腹部先端に備わった生殖器官が、僅かな逡巡の後、濡れてもいない女陰に、無慈悲に突き刺された。
「ひ、あ、あ゛! やめて! やめっあ゛ぎゃあ゛あ゛ぁ!?」
無理矢理押し通られた陰唇が激痛を、大量の液体で充たされている状態から圧力を受けた腹が強烈な圧迫感と痛み、便意を主張する。そして害虫に犯されたというショックが彼女の心を根本から打ち崩そうとする。
半狂乱で叫ぶブラキカムには性行による快楽などある筈も無かったが、対照的に蟻害虫の方は、行為を始める前の疑念はどこへやら、完全にブラキカムの女性器に夢中になっていた。
「い゛だい゛! 抜い…っ゛!! ぎ、う゛、ぐぎぃ゛い゛いい゛いい゛!」
ぬいぐるみと思い込んでいるブラキカムを大事に思う気持ちより、害虫としての欲望に支配された蟻害虫は、より自分が快楽を貪りやすくするべく、花騎士の蛙腹を押さえつけ、抽送を繰り返す。
「だめ゛え゛ぇぇぇ!? おなか、あああ゛っ! つ、ぶれ、ぢゃ、うぅっ!」
いつ破裂してもおかしくない程に張り詰めた腹を更に嬲られ、ブラキカムが白目を剥いて痙攣する。
過度の圧力によって、彼女の肛門を封じていた瓶が固定用の粘着塊ごと吹き飛びそうな様相すら見せ始めた時、丁度害虫も絶頂が近付いてきたらしく、前後運動の速度が増していく。
「ぎゃ、お゛、あ゛、お゛あ゛」
もはやまともな言葉すら発せられない状態のブラキカムに構うことなく、遂に害虫は快感に導かれるまま精を花騎士の胎内に解き放つ。
絶頂に震える害虫の動きと体内深奥にビチャリと叩きつけられた熱い粘液が、苦悶の余り意識が飛びつつあるブラキカムに、何が起きたかを無情に理解させてしまう。
「だ、され、ちゃ、た…あかちゃん…でき、ちゃう…」
呆けたような声音で呟いた少女は、しかし直後に異様な感覚を訴えだした腹奥に意識を持っていかれてしまう。
全身の臓器を直接掴まれて腹の中へ引きずり込まれるような異次元の苦痛が、内側から襲撃を仕掛けてきていた。
便意が爆発し、先程固体を全て吐き出し終えたばかりの腸内に、詰め込まれた液体以外の何かが確かな質量を備えて存在していた。いや、害虫の射精を胎内に受けてから、腸を充たしていた液体が謎の変化を起こし、その固体になったのだ。
同時にブラキカムの脳裏に、絶対にこれを排泄してはならないという意味不明な危機感が過る。
本能的な判断…もしかしたら、世界花の加護がその危険を知らせていたのかもしれない。
だが、身構えたりする余裕さえないまま対抗しなければならない花騎士に対し、射精により昂りが収まった蟻害虫は本に記されていた事に従うだけで、簡単に彼女の終末を迎えさせる事が出来た。
即ち、ブラキカムの肛門を塞いでいた瓶を、粘着塊ごと引き抜く事で。
先の脱糞の所為で元々限界を迎えていた彼女の肛門が、栓無しで耐えきれる訳も無かった。
「おひいいいいいぃぃぃぃぃっ!?」
ブリュリ、と汚ならしい音と共に桃色の塊が汚物のように放り出され、ブラキカムは身体を弓形に反らして絶叫した。
彼女の尻穴から吐き出されていく塊からはまさしくブラキカムの花の香りが放散され、巨大な塊が彼女の尻から尻尾のように伸びていくごとに、その瞳からは生気が失われていく。
やがてブラキカムがその得体の知れない塊を排泄し終えた時には、彼女はまるで人形のようになっていた。
いや、まるで、ではなく、本当に人形になってしまっていた。
動かなくなったブラキカムの股座に転がる桃色の塊は、彼女が人間としてこの世界に存在する為に必要な何かを奪い取ってしまっていた。
傷付き蟻害虫の行った凌辱行為と使った薬液は、本来は害虫毒素と汚染魔力が染み込んで付喪神となったぬいぐるみを改造し、理想の嫁として顕現させる為のものであった。動いたり声を出したりするブラキカムを、蟻害虫は付喪神になったと思っていたのだ。
しかし今回被害者となったのは、付喪神になったと思い込まれただけの花騎士ブラキカム。故に効果が変わり、人から人形になるイレギュラーな結果に終わった。
蟻害虫は最初から効能に半信半疑だったからか、ブラキカムが勝手気ままに動かなくなっただけで満足した様子で、いつものように着せ替え遊びを始める。
(なんで…どうしてこんな…ころして…おねがい…)
どういう理屈でか、ブラキカムの意識が人形の中で継続しているなど、気付く様子もなく。
そしてブラキカムもまた、人形となった彼女の子宮が何故か働き続け、害虫と花騎士の間の子を産み出さんとしているなど、知る由も無かった。
クリスマス…人々や無軌道な害虫共が明るく楽しく盛り上がっている時、暗い顔を付き合わせる三人の花騎士がいた。
ハリエンジュ、サフラン、ヘレニウム。アルーサ・フェスタの際、ブラキカムと共に協賛していた花騎士達。
偶然にも同日に同じ区域で討伐任務をすることになった彼女らの目の前には、桃色の毛髪を持ち、お団子頭にしている蟻害虫の死体が幾つも転がっている。ハリエンジュらによって生命活動を止めさせられ、光の粒子となって消滅しつつあるそれらは、行方不明になったブラキカムがかつて手掛けた衣装に酷似した外殻を纏っていた。
一匹一匹それぞれ姿が違うものの、どいつもこいつもブラキカムの髪型、関わった衣装に似ているという点が共通していた。
サフランが物思わしげに溜め息を吐き、半泣きのヘレニウムが鼻を啜る。
「考えすぎさ…彼女が、害虫に与しているなんて、そんな筈無い」
「ええ…解っているわ」
あの日、ブラキカムは害虫に殺されてしまったとばかり思っていたが、実は生きていて、害虫に協力しているのではないか。
そんな事は有り得ない。三人とも理解してはいる。だが何故こんなにも、ブラキカムを連想させる姿をしているのか。
無論、彼女らも別の可能性が数多在るとは理解している。ブラキカムが囚われ、害虫に道具として利用されていたり。無関係な害虫が、極めて偶然ブラキカムを連想させる姿をしていたり。
だが、ここまで似た姿をしているとなると、何らかの形で彼女が関わっている方に考えが寄るだろう。そして、それはどんな道筋にせよ、ブラキカムが悪い形でこの害虫に影響を与えている事になる。
暗澹とした心地でいた三人の目の前に、新たな害虫達が現れる。上に何かを乗せた蜘蛛型の大型害虫、そして蟻型の取り巻きだ。
気を取り直して討伐に当たろうとした三人だが、蜘蛛の上にいる蟻害虫……その横にいたものに気付き、息を飲み顔を引きつらせる。
ウェディングドレスのようなものを着せられ、腹を不自然に膨らませたブラキカムだった。
「ぶ、ブラキカムさん……っ!」
ヘレニウムの戦慄した声に、ブラキカムは反応しない。当然だ。彼女は人形になってしまったのだから。
いや、正確にいえば、目に見える反応はしなかった。
(サフランさんっ♪ ハリエンジュさんっ♪ ヘレニウムさんっ♪ どうかなぁ? 私と彼の赤ちゃん達の服♪ えへへ♪ 私のお腹の中で作ったんだよ♪)
身動きは出来ないまま、何故か子宮は活動して自分と害虫の子供を産まされ続ける中で、ブラキカムの心は完全に壊れていた。
そして今また、ブラキカムの中で育まれた命が、この世に生を受ける。
(あはぁ♪ また産まれるっ♪ 私の可愛い赤ちゃん♪ お母さんが、素敵なお洋服着せてあげるからっ♪ 元気に産まれてぇっ♪)
膨れ腹がウネウネと蠢き、蜘蛛害虫の頭上でビシャリと破水し、次々と桃髪お団子頭を備えた蟻の幼虫が産まれる。
今回産まれたのは、三匹だった。
父親である傷付き蟻害虫に抱き上げられたそれらを見て、花騎士達は絶句した。
それはかつて、彼女らがアルーサ・フェスタで着た、花嫁衣装そのものの外皮。
花騎士が害虫を産む姿、そして産まれた幼虫の冒涜的にも程がある姿に、サフランとヘレニウムのみならず、ハリエンジュさえ忌避感を覚え身を竦ませてしまう。
その一瞬が運命を分けた。
いつの間にか近寄っていたクリスマスケーキめいたコスプレ害虫達が踊りかかり、三人の花騎士を押し潰す。
コスプレ害虫がのっそりと身を動かすと、下から意識を失った花騎士達が現れる。
「う…あ…」
「うう…」
「く、ぁ」
ぐったりとした三人の周囲に集まってくる、蟻とブラキカムの子供達の生き残り。
あわや、このまま無惨な末路を辿るかと思われたが、どういうわけか、その内の何匹かが進み出て、気絶した麗しき花騎士達を持ち上げる。どうやら連れ去ろうとしているらしかった。子蟻害虫達がハリエンジュらに向ける性的好奇心に満ちた視線から鑑みるに、子供達はぬいぐるみではなく人間を性的な欲望の対象にしているらしかった。元花騎士の胎から産まれた影響かもしれない。
父親害虫はそんなものどうするつもりだと言いたげだったが、自分もぬいぐるみなんぞを嫁に迎え、子供を拵えてしまった以上、何も言えない様子だった。どうでもいい事だが、今だ蟻害虫自身は妻である人形が、花騎士から変化したものであるとは気付いていない。
麗しき花騎士という極上の獲物を捕らえ、一頻り暴れ終えて満足した害虫達は一家揃って巣へと帰っていく。蜘蛛害虫だけは別の場所へと帰っていく。
その後、ハリエンジュらが帰還していない事を知ったアカシアやガイラルディア達が辺りの捜索を行ったものの、既に彼女らを攫った蟻達は巣に戻った後で、捜索者たちはブラキカムが行方不明になった日の事を思い出し、陰鬱な雰囲気に侵された。
諦めきれない彼女らは捜索を続ける。翌年のジューンブライドの時期に、桃色のお団子頭を持つ蟻害虫のみならず、アカシア隊副隊長やアスファルの一人娘、フォスの花嫁に憧れていた少女に似た姿を採る蟻害虫達、そしてその害虫らを産んだ母親達との最悪の再会が待っているとも知らず。