なるべく少なくなるようにしておりますがなかなかままならなかったりします。雰囲気で読んで頂ければ幸いです。
■ 姫川梨沙2
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警護部の主任、姫川梨沙に因縁を付けられて対決する事となった和人。
「さあ、お互いに署名しましょう。」
「あぁ...」
うわっ、3枚もあるのかよ。
「拇印でいいんだよな?」
「えぇ、拇印でお願いします。わたくしも拇印で押しますので…」
(えぇ、拇印だと後で偽造したなんて言われなくて済みますからね。それに今の時代、印鑑は持ってない人の方が多いぐらいですし。)
※この国では簡単な契約は書類だけ、もしくは電子署名で済ますが、時に拇印を押す契約も一部では残っていた。無論、指を切って血判を押す必要はない。
うわっ、準備のいい事でIDライターまである。もう勝ったつもりだな。有無を言わせない様にその場でIDを書き換えるつもりなんだろう。ま、こっちにとっても都合がいいけど...
「IDの書き換えについては司法書士の私、宮川が審判の判定を聞いて直ぐに行います。」
「判定条件は戦闘不能の状態になるか、降参の意思を表明するものとします。」
「では、お互い、IDを提出したら竹刀を選んで下さい。」
「竹刀はそこにあるのを好きに選んで結構ですわよ。」
(うふっ、竹刀なんて持つのも初めてでしょうに...違いなんてわからないでしょ?)
「竹刀を選んだら開始位置に着いて下さい。」
竹刀を選んだ、恐らく素振り用なんだろう、かなり重い。中は鉄製かな?それを持って開始位置に着く
(ふふふっ、やっぱり馬鹿なんじゃないの?それって見た目は普通だけど素振り用の竹刀で重さは軽く1kgを超えてるわ。そんなの振れる訳ないじゃない。)
「夏目殿、その竹刀で本当によろしいので?それは練習用かと思いますが?」
(あっ、審判のお節介め。折角面白いのを選んだのに...替えられてしまうわ。)
「ん、そうなの?ま、どれでも一緒だろう。練習用なら俺に丁度いいかも知れないし」
はぁ、どこまでも無知で助かったわ。まあ、どんな竹刀を選んでも結果は変わらないけど、勝率を上げるに越した事はないものね。これで200%負けはないわ。
だけど慢心はしない、最初から全力で行かせてもらう。竹刀だから死にはしないわ。
「夏目殿、そこで礼、礼を...」
「ふむ?...なに?」
「構わないわよ、相手は素人だし、あくまでも立ち合いであって剣道の試合ではないんだから」
「では、略式で...」
「構えて、用意...」
(はっ、なに?竹刀は両手で持つって知らないの?2刀流でもあるまいし、ま、構わないわ。)
「はじめ!」
「きえぇぇーーーっいぃ」
『でた、姫川の地獄突き...』
『うわぁつ、あっさり払ったよ...』
うわ、びっくりしたぁ...いきなり突いて来るんだもん。思わず払ってしまった。
「ちぇすとぉーーーっ、えぃーっ、えぃーーっ、」
『おい、おい、見て見て、彼、姫川さんの連続攻撃を一歩も動かずに竹刀で受け止めるか払ってるわ...それも片手で...どうなってるの?』
(ど、どうなってるのよ?全然決まらない。全部受けるか払われてしまう。彼は素人じゃないの?
こうなったら連続技で活路を開くしかないわね。)
その後も姫川の猛攻は5分以上続いた...
(はぁ、はぁ、はぁ.....駄目だわ、全然通じない...どうなっているの?)
(おい、おい、こりゃ姫様危ないんじゃないか?
彼は全て受け流しているぞ...信じられないが一歩も動かずにだ...神国一の使い手の姫をまるで子供扱いだ...姫どうする?)
「もう、終わりかな?」
「いいえ、私の禁じ手、最終奥義を受けて見なさい。」
(もう、これしかないわ。防具を付けていないから殺してしまう可能性が高いけど、此奴なら何とか生き延びるかもしれないわね。人殺しはやりたくなかったけど負けるわけにはいかないの...
ごめんなさい。)
「いくわ...」
「はぁ~~っ、ふぅぅぅ~」
まるで刺すような、神経的な不調和が、だんだん道場一杯に蔓延り始めた。
竹刀の切っ先はゆらゆらと、幻でも見ているような錯覚。暗闇から生まれて、暗闇へ消えてゆく恐ろしい幻になぜか魅入られてしまう。
”来る”
「ちぇすとーーーーぉっ」
空間を切り刻むような音を立てて面を狙って来るが恐らく...
やはり彼女の狙いは通常では考えられない面からの突きだった。
「ばぁーーーん、バシッ...」
彼女の手を離れた竹刀が道場の床にカラカラと転がる音が響いている。
「拾うか?拾うなら待つぞ!!」
「いいえ...」
彼女はそう言うと、その場に正座して手を付いた。
「参りました。私の負けです。」
彼女は悔しそうな顔をするでもなく、いや、むしろ清々しい顔をしていた。
「ただ今より、あなたに生涯お仕えいたします。」
その頃、司法書士の宮川は狼狽えていた。
(私はどうすればいいんだろう?ルールなら姫川殿のIDに特殊専属従者の書き込みをしなくてはならないはずだが、それはそれで問題がありそうな...)特殊専属従者は端末で書き込めても、消したり変更するには司法部で承認して消してもらうしか方法はないのだ。
他の者も同じことを考えてた。ただ、自分は当事者ではない為傍観していたに過ぎない。
それを見ていた姫川梨沙は淡々とした声で言った。
「宮川さん、何をしている。私の負けだ。契約に従って手続きを完了してくれ。」
「し、しかし...私、姫様のおじいさまに殺されませんかね?」
「大丈夫だ、私から話をしておく。これ以上、私に恥をかかせないでくれ...」
「わかりました。」
司法書士の宮川は粛々と手続きを完了した。
「夏目殿、現時点より貴殿の特殊専属従者となった訳だが、私の方も色々と訳アリでな、誠に勝手ながら身辺の整理が必要だ。今日一日時間を貰えないだろうか?」
「1日でいいのか?」
「構わない、2日あっても同じことだ。」
「わかった、かまわない。」
「ん、助かる。では、いったん失礼する。明日、またこの場で会おう」
そう言うと姫川梨沙は去っていった。
(あちゃ...お姫様を奴隷にしちゃったよ。
しかし、あのお姫様を子供をあしらうようにして勝っちゃったけど、彼は何者なんだ?本当に人間か?)
「しかしこの後が問題だな?」
「隊長、どういう事ですか?」
「お前、相手は姫川財閥の一人娘だぞ!あそこの爺さんが「はいそうですか」って言う訳ないだろう?すぐに解除を求めて来るさ。ま、金を積んで解除だろうな。爺さんの権力があればどうとでもなるだろう。」
「もし、彼が拒否したら...」
「それは無理だろう、相手は総理大臣より権力があるからな。それでもごねれば始末されるんじゃないかな?闇から闇って奴だよ。」
▼ 里美の母親が入院する病院
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里美の母親の入院する病院に来てみると病室はもぬけの殻だった。
あれ?
親子で逃げたとは思わなかったのでナースセンターで聞いて見ると病室が変わっていた。
「よ、元気か」
「和人さん、ありがとうございました。おかげで母とゆっくり過ごせました。」
「あぁ、病室が変わってたから驚いたよ。」
「うふっ、親子で逃げたと思いましたか?」
「いや、それは全くなかったな...逃げても意味はないし...」
事実上、親子で逃げたとして普通に生活していくのはかなり難しい。母親のIDを使えばすぐに居場所がバレる。里美はIDを渡してない状態だから切符すら買えない。。段ボールハウスに住むならともかく食べる為にはお金が必要だ。山で狩りなんて不可能だし、海で魚を釣る?魚だけ食べての生活は無理だろう。
「なーんだ、少しは慌てて欲しかったのに...」
「ま、昨日の病室では付き添いには不自由だったからな。」
「あっ、でも、こっちでお願いしたわけではないんですよ。向こうが勝手に変えてくれて部屋の料金もいらないって...」
俺は苦笑いを返した。
「ところで今日はどうする?一応、お前の受け入れの準備は出来た。でも、折角病室が変わったのなら、もう、2,3日いるか?」
「えっ、良いんですか?そんなわがまま言って...」
「駄目よ、里美。一晩止まっただけでも破格な待遇なんだから、そんなわがまま言っては駄目です。夏目さんに付いていきなさい。」
「いや、ほんとに気にしなくていいぞ。久々の親子の再会だから一晩では足りないだろう。」
(ん、里美を連れて帰りたくない?いや、帰れない理由があると言った方が正解ね。何かトラブルでも起きたの?母親の反対?)
「夏目様、何かございましたか?」
「ははは、やっぱり鋭いな、何かあったんじゃなく、たぶん今から何かあるだろうな。姫川とちょっと揉めてな...トラブルの予感って奴だ。」
「あのう、姫川って姫川財閥ですか?」
「そう、それそれ、その長女とね...あっ、勘違いしない様にエロい意味では手を出してないよ。」
「はぁ~夏目様、姫川財閥はご存知でしょう?あそこの先代当主は特に孫、今の長女を可愛がっておられるとの話ですよ?前にEランクの男が付き合わせてくれと言って掛け合った時には日本刀で切られたって話があるぐらいです。だからもう、そこそこの歳なのに誰も寄り付かないっていわれてて、先代は今、慌てて見合う相手を探してるって話ですが...もしかして相手に選ばれたとか...」
「あぁ、それなら切られる心配はないだろうけどさ、実情は真逆でね、ハハハ...」
「殺されますよ。本気で、冗談なんかではありませんよ。」
「大丈夫ですよ。俺を信じて下さい。ま、そんな訳で今日連れて帰ろうと思ってたけれど、状況がはっきりするまで里美を預ける。頼めるか?」
「分かりました。そういう事情ならお預かりします。」
「和人さん、本当に大丈夫なの?」
「あぁ、心配いらない。」
「あっ、金は足りてるか?これお前のIDだ。50万迄なら引き出せるから必要なものはこれで買ってくれ...」
「ちょっと、夏目さん、なんて事してるんですか?特専に50万もの大金の与信を与える人がどこにいますか...」
「ここにいます。それじゃよろしくお願いします。」
「はぁ、なんて人なの...」
「そんなおかしい事なの?そりゃ50万なんて元の生活でもなかったけれど...」
「特選、言い換えれば奴隷なのよ。お金なんて持たされるわけがないでしょう?ましてやカードの与信枠なんて聞いたことがないわ。」
(本当に変わった子だわ、奴隷に自由決済の権限を与えるとか常識では考えられない。里美には言えないけど、殺されたって殺意がなければ事故死で済んでしまう程、軽い命なのが特専の定め。どんなにいたぶられようとも逃げる事も出来なくて耐えるしかないのが特専...)
「私、働いてる時の与信枠は20万だったのに、無職になったら増えるとかおかしいよね。」
「あなたの与信枠ではなく彼が与えた与信枠になるの。だからあなたの職業は関係ないわ。まあ、分かりやすく言えば家族カードに近いわね。」
「だって彼だって無職だよ」
「彼は世界でただ一人のA3Ωよ、100億の審査だって余裕で通るわよ。」
「ふーん、」
なぜか、特専のIDが愛おしくて頬ずりする里美だった。
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