鬼人の兄の溜まりに溜まった性欲処理を手伝う転生TS娘 作:TS大好きっ子ぬきぬきぽん
「何を見ているんだ?」
居間でゆっくりと過ごしていると黎明が近くにやってきて私の手元を覗き見る。そこには日課の撮影の開始と一緒に始めた私たち姿が映る写真が並んでいる。特に多いのは私と黎明が二人だけの結婚式を挙げた時からの物がズラリと一面を飾っていた。
どうして写真なのかと言うと、写真は保険としてデータとしても残してあるけれど何かあった時に全てが消えてしまう。だから耐用年数的にデータだけではなく、写真としての現物があった方がいいということでアルバムを作ることにしたということだ。
えっちな恥ずかしいシリーズは別にして保管しているので万が一にも子供に見つかることはない。鍵付きの棚に徹底して隠しているので安心していいだろう。多分。年頃の子供の好奇心を甘く見てはいけないのだけれど、それを言ったら全て処分しなければいけないというジレンマがあったりもする。
こういうのを振り返って、またこういうシチュでしたいとか、これはしたけどあれはしていないとか相談出来たりもするので意外と有用だったりするのだ。
「これですか? もうすぐ生まれると思うと、何だか色々思い出してしまいまして」
視線を下に向けると、そこには私の年齢には見合わないほど大きく張ったお腹が見える。
お腹の子は臨月と呼ばれるあと数週間もすれば生まれるだろうところまで育っていて、最近は胎動するお腹にやがて来る時を黎明と一緒に今か今かと心待ちにしている。彼もお赤ん坊がお腹を蹴った音を聞いてもう生まれるのかと騒ぎ出し始めたりと忙しない幸せな時間の毎日を送っていた。
そんな中でふと思い出を振り返りたくなってアルバムを取り出したという訳だ。見ているのは健全なものゾーンなので子供が見ても大丈夫なもの。十六歳の妊婦って健全だろうかとは言ってはいけない。
「屈んだりして大丈夫なのか? それに写真が詰まってるから重かっただろう?」
そういうことは俺がやるのにという黎明の視線に笑顔で返す。
「これくらいは大丈夫ですよ。必要な時はいつも呼ばせてもらっているので安心して下さい」
「それならいいんだ。……それは?」
「ウェディングドレスのゾーンですね。やっぱり私たちの結婚式がやっぱり一番数が多いですし。なんと言っても旦那様がシャッターを連続で切っていましたしね。そのせいで写真写りが良いものを選んでもアルバムが一つ埋まってしまいましたし。見てくださいよ、ここからここまで全部なんですよ?」
「本当は二冊分くらい欲しかったんだけどな」
継ぎ足し可能なタイプのパンパンなアルバムが二冊分。重ねて捲れば結婚式の様子を想像出来るくらいに量が多い。それを子供に見られるのは流石に恥ずかしいので黎明の胸をぺちぺちと叩いておく。
私だって別に嫌という訳ではないのだ。ただ恥ずかしいというだけで。
アルバムには他にも新婚旅行の写真もあるし、ただの旅行の写真もあって他にも沢山ある。子供を孕む日までは、子供がいて出来ない色々なことをしてきて、それらを余さず写真に収めてきたつもりだ。どちらかというと私の方が映っている回数が多い所はご愛嬌といったところ。
えっち用とは別に別冊付録として私の黎明隠し撮り秘蔵コレクションもあるのは内緒。
それはともかくとして、二人で並んでペラペラとページをめくりながら思い出について語り合う。そんな中でふと湧いた疑問をぶつけてみることにした。
「旦那様はどの思い出が一番印象深いですか?」
「やっぱり結婚式かな。一番盛大にやったっていうのもあるし、あれ以来まだウェディングドレス姿見れてないというのもあるな」
「ウェディングドレスはそう何度も見るものではないですよ?」
「そうか? 毎年見たいっていうのは冗談じゃないんだけどな」
一品物で調整の効かない物を毎年体形が変化していく成長期の私に合わせてそう何度も作るものではない。年齢的にも体形的にも誰かにおさがりとしてあげられるものでもないのだし、一着作って数回着ては廃棄というのは流石に値段的に気が引けるし、残しておくスペースが段々と減ってきているので悩みものだ。
それを差し引いても面白い物が見れるのだし、あと一度くらいは頼んでみてもいいかもしれないけれど。
なぜかと言うと────
「まぁ、旦那様がまた顔を真っ赤にして固まる様子は見たいですけどね」
「ぐふっ……!? そ、そんなことは……っ!?」
飲みかけのお茶を吹いてしまったので口元を拭いてあげながら顔を覗き込む。
「あらあら。私の白無垢姿を見てカチンコチンに固まってしまった人は誰でしょうか? 勿論アッチの話ではないですよ? ふふっ、あの時の旦那様を写真に収めていないのは残念でしたのでもう一度ということであればやぶさかではありませんけど」
「そ、それはだな……っ! あの時は物凄く驚いてだな……っ!」
「あら、では二度目はもう驚いて下さらないのですか? あの時はそれほど綺麗だと思って頂けたのだとばかり……っ! お父さんはもうお母さんに飽きてしまったらしいですよ~。酷いお父さんでちゅね~」
「んな……っ!?」
お腹の子を味方につけて黎明をジト目で見やると、彼はあからさまに動揺したように身振り手振りも駆使して何とか思いを伝えようと試行錯誤してあたふたしていた。
「お、驚きと感心は別だろう!? 暮葉はいつも綺麗だからさ! あの時は初めてで……えっとだな……っ!?」
出来るだけの語彙を駆使して私のご機嫌をとろうとする様はとても可愛らしいものだ。これ以上虐めると可愛そうなので軽く黎明の頬にキスをして笑いかける。
「それは重々承知していますよ。ただの冗談です。ただそれだけあの時の旦那様の反応が嬉しかったというだけなんです」
「…………はぁぁぁ~~。あまり心臓に悪いことはしないでくれ……」
「ごめんなさい。お詫びに産後に余裕がある時になら喜んで作りましょうか、ウェディングドレス。ただし今度はどちらか一つですよ?」
その言葉に黎明が喜んでガッツポーズをする。その喜びの反応は過去に結婚式を挙げた時のものと何ら遜色ないもので。その笑みは私が今は幸せなんだと再認識出来る象徴のようなものだった。
寧ろ、写真に映る私たちの姿は今になってもう一度見るとももっと色鮮やかに輝いて見えた。
あの日、あの時のことは映像や写真を見なくたって私には今のように鮮明に思い出せる。
目を瞑れば、いつだって────
∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇
人に嫌われてしまう黎明であっても仕事仲間はいる。少ないというだけで全ての人に嫌われるのではないということは今も鬼灯家が続いていることからも明らかなことだ。全ての人類に嫌われていたらそもそも一族が続いてすらいないのだから。
そういう訳で年齢的に早くに退魔師として活動した黎明は、協会の退魔師たち等の黎明を過度に恐れない人たちとの接触も多い。その中で彼を恐れない人でかつ信用のおける人がいるらしく、聞けば私たちの両親とも親交のあった中年の退魔師の人がいるとのことで、その人物に黎明が秘密裏の話を持ち掛けた。
多額のお金を用意して行ったらしいけれど、私たちの両親には過去に大変助けられたと言って何の話かも聞かずに相談事を引き受けると言ってくれ、黎明は私たちの関係のことは告げず、ただ口の堅い服職人を紹介して欲しいと頼むとその内容に面を食らった退魔師だったが、時間が欲しいとだけ言ってその場は解散したらしい。
そうして紹介された服職人は何も聞かずに私たちの服を作ることに同意してくれた。なんでも、私たちのような訳ありの人がよくその人に対して依頼をするらしい。決して初めてではないし、このことをバラすつもりもないからと契約書まで書いてくれたほど。
ただやはり一般人には黎明は怖いらしい。なので、私と二人で何日もの時間を掛けて二着分の服の原案を決めた。
特注品で良い布を使っているからか値段も物凄いものになったけれど、これに関しては一切の妥協をしないことを黎明から厳命されているのでお言葉に甘えて奮発させてもらった。その分だけ本当に素晴らしいものが出来上がったので二人で菓子折りを持って行ったほど素晴らしい出来上がりで私も満足だ。
そんな経緯があって、私の結婚衣装が二着も作られたという訳である。
今日はその二着を着ることになっていて、今世で生まれてから一番の贅沢な一日となる予定だ。
まずは午前中に白無垢で婚約式、午後はウェディングドレスで結婚式という過密スケジュールとなっている。なぜ別の日に分けなかったのかと言うと、化粧や衣装の着付けの問題だ。それらは服職人の人が料金込みのご好意でお手伝いをしてくれることとなっていて、仕事が入っている為にその日しか手伝いをすることは出来ないとあれば仕方がない。
服自体は既にお金を払って私たちの物となっているからいつでも別の日に着ることも出来るので、白無垢での着衣プレイがしたい場合はまた別の日にということになっている。今日はもう一つの方で致すということだけれども、それはそれ。
白無垢は専用のメイクでコツがあるらしく、職人さんのお陰で私一人でする化粧よりも更に数段綺麗なものとなったのだからその面でも彼女には感謝してもし足りない。そう言うと色を付けてもいいのよと冗談交じりに言われるので出来上がった料理は持って帰ってもいいということで承諾してもらった経緯もあったり。
時間を掛けて出来上がった白無垢の私は服職人の人からも会心の出来だと言われ、鏡を見た私が驚きながら化粧の仕方を教えて欲しいと願うと快諾してあれこれと教えてくれたりもあって。
そして今、着慣れた和服であっても自分でも見惚れてしまうほど綺麗になった姿で黎明の前に出る。職人さんは少し外に出てくると言って気を利かせてくれたので私たち二人きりの婚約式だ。
別に婚約式と言っても何かをする訳でもない、ただこれから結婚式をするけれどいいかという分かり切った問答をして会話を楽しむだけの時間だからだ。これが終わったら本番となっているのであまり気負い過ぎないようにしてはいるけれど、それでもやはり緊張してしまうのは無理もないことだと思う。
二人暮らしの今はあまり使われていない広い屋敷の一角には二人で頑張ってセッティングした豪華っぽい内装が眩しく映り、そして黎明に遅れて席に着いた私が華やかに着飾った衣装を着て向かい合うように座っている。
席に着いた瞬間、用意していた言葉が全て吹き飛んで頭が真っ白になった私は本当に緊張していたのだと思う。しかしそれは黎明も同じようで、しきり視線を動かしては顔を真っ赤にしていた。その黎明がやっとのことで何とか言葉を発する。
「え、えっと……ほ、ほほほ本日はお日柄も良く……っ」
いかにも緊張で固まった人の反応でくすりと笑ってしまった。逆にこちらの緊張が解れてしまったみたいだ。
「何を照れているのですか? らしくないですよ。もっとシャッキリして下さい」
「い、いやぁ……なんていうか……っ」
くしゃっとしてぎこちなく笑う黎明だけれど、こういう反応をする時は私の姿に見惚れていると分かっているのでもう不安になったりはしない。逆にその反応をしてくれることで安心することが出来たりすることも出来るのだから。
言葉にするのは後でしっかりやってくれると思うので、今はその反応だけでも十分なのだ。
それに私の白無垢に合わせて黎明は鬼灯家の当主が代々受け継ぐ黒い礼服の和装を着こんでいるのだが、これが中々に様になっていて私の方も言葉を貰うどころの騒ぎじゃなくなっている。正直、今感想を言われても聞き流してしまっていたかもしれないほど。
昔に一度だけ着ている姿を見た亡き父を連想させる黎明の登時時の威風堂々とした立ち振る舞いに一目見た時は下腹部がキュンキュンした。……ものだが、今は背筋や腕を垂直に直立させて目を見開いて顔を真っ赤にさせていて、もしかしなくても初デートの時よりも緊張しているに違いない。
「旦那様────いえ、まだ結婚式を挙げていないので今この時だけは黎明様、とお呼びしますね」
「……っ!! もう一度言ってくれ」
「黎明様」
どうやら初めての呼び方にぐっとくるものがあったらしい。可愛くもう一度呼んであげると、黎明は蹲って体を歓喜に震わせているようだった。彼は彼で、私から与えられるものを何でも喜びに感じているあたり人生楽しそうではある。
そう感じてもらうようにしているのだから当然と言えば当然なのだけれども。
黎明は暫く天を見上げた後にふっと肩の力を抜いて、自然な笑みを浮かべて私を見る。
「本当に綺麗になったな。本当は色々と言葉を考えていたんだけど、今の暮葉を見たら全部吹き飛んだ。だから、今感じている言葉をそのまま言うよ。……世界一綺麗だ。暮葉以上に綺麗な女性はこの世にいないと断言出来る」
「……っ! お、お化粧が崩れてしまうので泣かせるようなセリフは禁止ですよっ」
危ないところだったけれど、すんでのところで涙を引っ込めることが出来た。服職人の人にも泣かないようにと散々言い含められていたというのに。こんな開始早々にお色直しなんて出来るはずもないので頑張ったらなんとか引っ込んでくれて良かった。
気を取り直して佇まいを戻して緩んだ頬を引き締める。以前はこういうことはなかったはずだけれど、自分が真に女性として生きるようになってから涙腺が脆くなってしまったように感じる。痛みや悔しさではなく、嬉しさで泣けるというのは今世で初めて知った経験だ。
なぜ涙腺が脆くなってしまったのかという理由について自分でも考えてみたけれど、それは前世の知識を持っているが故の二本足での自立精神を持っていることから黎明という大木に寄り添うことを覚えたからこその変化だと私は思う。
始めに黎明と関係を持ち、とうとう子供まで授かった今でも昔の記憶は思い出すことが出来る。
鬼灯暮葉となる前の自分を。私はそのことを恥じも悔いもしていない。寧ろその記憶があったからこそ周りに流されずに自分という自我を確立したのだから感謝すらしているくらいだ。
そう、過去と決別をしたのではない。私は私として、過去と今の全てを含めて鬼灯暮葉だと胸を張って生きている。
そっとハンカチを差し出してくれていた黎明の手をそっと返し、綿帽子が映す黎明のみに視線を合わせる。
「ありがとうございます。黎明様もご当主のみが着ることの出来る一張羅もとてもよくお似合いです。鬼灯家の当主としてご立派になられたことを心より嬉しく思います。お父さんもお母さんも喜んでいると思いますよ」
「そうか? 母さんは何だかんだと応援してくれそうだけど、父さんは雷落としてきそうなんだけど……」
「私が言えばコロっと態度を変えてくれますよ。私には激甘なお父さんでしたから」
「その場ではな。裏でどやされるのが目に浮かぶよ……」
黎明が鬼灯家の跡継ぎとして相応しくあるように幼少の頃から厳しく接してきた父ならば確かにそうかもしれない。私は両親の生前に女の子としてらしく振る舞うことは出来なかったけれど、それでも愛を以て接してくれた愛すべき両親だったことは確かだ。あの二人に育てられたからこそ、今いるお腹の子にも両親と同じように接すればいいということが分かって心が軽くなったのだから、あの二人には感謝しかない。
でも、今日の結婚式が終わったら二人のお墓に報告に行くことになっているので少し緊張したり。
けれど、黎明の方が娘さんを下さいという側で年齢的にもヤっちゃった側なので肝が冷えるどころの話ではないと思う。しかしとして、両親がもしも生きていたとしても黎明は説得を諦めたりはしないと私は思う。希望的観測などではなく、真実彼は誠実な男であることからして、父に対しても一歩も引かない姿勢を見せただろうことは他ならぬ私が理解していること。
それからその場で両親のことで思い出に花を咲かせていると、ふと結構な時間が過ぎていたことに気付く。
「それで黎明様? 本日のご用事についてですが……」
「あ、あぁ! それは俺の方から話したいのだけど、いいか?」
こくっと無言で頷くと、黎明は私の横に移動して膝を着いて手を取る。
そして一度唾をのんだ後、んっんっと喉を調整して。
目線は私をとらえて離さない。
熱を持った手のひらからも想いを伝えるように。
「暮葉、俺と結婚してくれ」
シンプルなたったその一言だけであの日、彼と婚約をした時と同じくらいまで歓びが溢れてきているのが感じる。
この期に及んで浮かびかけていた『本当に私でいいのか』、などという疑問は黎明の目を見れば消え失せる。その眼には真実、私しか映っておらず、私のみを求めていることを強く強く感じさせる熱い瞳で、真に"女"となった私にはそれを明瞭すぎるほど感じさせられる。それがこの上ない事実なのだと理屈じゃない何かで理解させられるから。
だから既に決まっている答えを重なり合った手を更に手を添えて答える。
「はい。私を黎明様のお嫁さんにして下さい」
緊張して声が変にならなくて良かった。
一族に代々伝わる一張羅で好みのイケメン顔でイケメンボイスをされてテンぱらなかった自分を褒めてあげたいものだ。私じゃなかったら今頃悶絶して大変なことになっていたに違いない。
お互いの答えは当然のものではあったけれど、口に出して改めて言うことは恥ずかしく、勇気がいるもの。ここぞという時にたった一言で私をノックフウトする黎明は女たらしの才能があると思われる。
そんな黎明は私の手に軽くキスをしてから懐から一枚の紙を取り出した。
「良かった。それとだけど、結婚用の書類を用意したんだ。もう俺の名前は書いて判も押してある」
「……それは聞いてませんでした。提出は出来ませんけれど、これも一つの形でしょうね。では書いたら大事に仕舞っておきましょう」
差し出された書類は役所に提出する正式なもの。念の為にどういうものかはネットで見たことがあるので書類としては確かに正式なものだと思われる。そして判は同じものなので用意は簡単、私は手渡された紙にスラスラと必要事項を書いて判を押す。
書類は丁寧に封筒に入れて私たちのアルバムなどが入る棚の鍵付き部分に仕舞うことにした。
「これで私たちは結婚と成りましたね」
「女性の結婚出来る年齢には遠く及ばないけどな。……あっ、結婚式もその時にもう一度するか」
今の女性の結婚可能な年齢は十八歳。二人で決めた子を孕む予定の十五歳であっても更に三年後の話になる。その頃には対外的にも私たちの関係は確固たるものになっているだろうし、来るかどうかは別として今日の結婚式には呼ぶことすらしなかった親戚や知人などを呼ぶことも可能かもしれない。しかし……。
「他の人を呼ぶとしたらその方がいいでしょうね。けれど、それではこちらが予行練習みたいで複雑ですが……」
「俺だって本気だ。もう一度っていうのは俺が単に成長した暮葉のウェディングドレス姿が見たいだけだ。毎年作るのは諦めたんだからもう一度結婚式をするのは許してくれないか? 俺の為に!」
「~~~っ!! ……そ、それでは仕方ないですねっ! 私も女として花嫁衣装を何度も着ることに喜びはあっても抵抗はありません。なので、仕方ないので旦那様が望むのでしたらその時にもう一度しましょう……っ」
声の中に少しだけ喜びが入っていたのを聞いて、黎明が嬉しそうにしていた。
「俺の我が儘を聞いてくれたありがとうな」
服職人さんにして貰った白粉で誤魔化しきれないほど顔が熱い自覚はある。白無垢の袖を持ってパタパタと仰ぎながら何とかその熱を冷まそうとする。けれど黎明が両手を掴んできて、その手から熱が伝わってきたかのように体が火照っていく。
「だから、今日も本気だっていうことは今から嫌というほどしっかり伝えるから安心しろ」
ずいっと顔を近づけて目と目がくっつきそうなくらいにまで接近し、その熱い眼に私の瞳が映っているのが見えて。
「も、もう伝わっていますから……っ!」
今は冷静になるために冷たい風が欲しいというのに、熱ばかり溜まってしまっている。それも両手を握られているせいで逃がすことが出来ずに温度ばかり上がってしまっていて。
黎明が逃がさないように両手を握ったまま、息遣いが聞こえるほど耳元で好きだ、愛してるなどのプロポーズの時にも言わなかった睦言のようなものを連発してきて、そのせいでまるで急に四十度の風邪をひいてしまったかのように頭がクラクラしてきて。
夜伽の時ではなく、平時にそうを言われると高鳴る胸の方がもたないというのに。
あともう二、三言葉ほど紡がれていたら頭がショートしていただろう。その時にドアがノックされ、服職人がやってきてもうお昼の時間だとドア越しに言ったのだった。危うくキュン死するところだったので助かったと言ったら仲睦まじい様子で何よりと爆笑をしていたけれど。
∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇
危うく九死に一生を得たところで、お腹が膨れてサイズが合わなくならないように軽くお昼を頂いてから再び黎明とは別室に入る。食事中に団扇で仰いだお陰で今は平熱に戻っている。
まずは顔の白粉を拭き取り、化粧を整え、髪型を変え、豪華な洋式のウェディングドレスに着替えていく。二人で原型を決めた後は職人の手によるもので、その出来栄えはお金をかけただけでは決して辿り着けないような芸術の類にまで昇華していた。良い素材をふんだんに使った結果も相まってショーケースに入れておくだけでも価値がありそうな一品となっている。
けれど、気後れなんてしなかった。
今の私にはその衣装が必要で、そのドレスを着ればこの世界で一番に輝けるという自信が溢れてくる。それを着て黎明の隣に立つのは私だけしかいないという自信が湧いてくる。
「色んな訳ありな花嫁を見てきたけれど、貴方ほど堂々としている子もそういないわ」
鏡を見ていた私に背後から声が掛かる。私は心穏やかにその言葉に返すことが出来た。
「そうでしょうね。私もそう思っています」
服職人の女性はふっと笑って、あーあと何かを馬鹿にするような感じで言う。
「これで世間じゃ色々といらぬお世話をかけようとしているのだから本当にお笑いものだわ。少ないない間一緒にいた私が断言してあげる。貴方たち二人はこれ以上ないくらいお似合いよ。まるでお互いしか嵌まることのないピースのように、ね」
「私がこれを着て彼の前に立てるのは貴方のお陰です。本当にありがとうございました」
「道ならぬ恋に焦がれて身を焼いてしまった子たちも少なくない数を見てきたわ。でも、何故でしょうね。貴方たちはそうならないと確信を持てるのは」
「理由なら沢山ありますよ。訊きたいですか?」
「いえ、止めておくわ。特殊過ぎて参考にならないでしょうから」
「残念です。黎明の良いところを知って広めてもらうチャンスでもあったのですが」
女性はひとしきり笑って、別れの挨拶をし合ってから手を振って出ていった。ドレスは裾を多く引きずらないようにロングスカートでも床に触れるギリギリとなっているので彼女に持ってもらうことが必要なく、挙式用の部屋までは一人で歩いていけるからだ。
その分、横広がったりフリフリが豪華になったりと見た目では決して劣ることはないので職人というのは凄いもの。
話し相手もいなくなって一人きりになった部屋で椅子に座って心を落ち着ける。約束の時間まではあと少し余裕があって、黎明は先に行って私を待っていることになっている。
花をあしらった肌触りの良い薄透明なショートグローブを撫でる。その手には観客に投げるブーケトスも、新婦入場に付き添う人の手もないので手持無沙汰だ。静寂の中で本当に祝って欲しい人がもう既にこの世にはいないという理不尽を嘆きつつ、それでも幸せになるからと安心してくれと心の中から冥福を祈った。
祈りの間に携帯が鳴る。もう時間が来たということだ。
「行きましょうか」
自分に言い聞かせるように。もしくは自分に寄り添ってくれているかもしれない両親に言うように。
ベールを垂らすと視界が白く靄がかかったようになる。その視界から移す景色はいつも見ているものと同じはずなのに、どこか違う世界のようにも感じられた。
体感では十数分もかかった道のりを歩き、とうとう辿り着いた目的の部屋。
扉を開くと中には燕尾服を着た黎明の姿がある。和風の礼服と違って体の線が分かり易い洋式の礼服は黎明が着ると筋肉隆々の男が無理をして着ているようにも見えるので、やはり鬼灯家が代々和服を重んじてきたのは霊力目的以外にも理由があったのだと思われる。あれが似合っていると思うのはたぶん私だからだ。
部屋の中には洋風の結婚式を模しているため、雰囲気作りに簡素な椅子がいくつも入り口から向こう側へ向けて並べられていて、奥には私の胸辺りまでの高さの台が設置されている。そして、最前列の椅子には両親の遺影が並んで設置されていた。
入り口から一歩踏み出した時、何故か父親に連れられていくように腕を引いて貰う感覚がして。
「……えっ」
その感覚に従って歩き出すと、両親の遺影が並ぶ椅子に差し掛かったあたりで離れていき、最後に二つ分の腕に背中を押された気がした。
「…………旦那様」
押し出された先には黎明がいて、茫然とする私に手を差し伸べて少し寂しそうに笑った。
「暮葉を不幸にするなよって叱られた気がするよ」
「私には旦那様をよろしく、と言っていた気がします」
巫女タイプと呼ばれる霊力を豊富に蓄えられる私みたいな人間の傍ではしばしばこういうことは起こると言われている。しかし私は交霊術などに長けている血筋ではなく、単に体が丈夫かつ霊力が多くて呪符の生産が得意なだけの人間なので死者と言葉を交わすことは出来ないし、こういうことがそう頻繁に起こるという訳でもない。少なくともこんなことは初めてのことなのでかなり驚いている。
もしかしたら天から覗き見をしていた二人が子供たちが何かよからぬことをしていると私たちをついつい見に来てしまったということかもしれない。今はもう二人の気配は感じられないので、一言何かを言って満足して帰っていったのだと思う。あの両親らしいと二人で笑ってしまった。
「また今度、しっかり報告に行かないとな」
「そうですね。これから色々なことが起こりますから、その度に来られると私は凄く驚いてしまうのでその都度報告するから急には来ないでと言うべきかもしれません」
「それはそれで寂しがりそうだけどな。俺よりも暮葉の成長の方が喜んでいたくらいだし」
「おじいちゃんおばあちゃんは孫には弱いと言いますし、孫の顔はしっかり見せるから大人しくしてって言えばいいんじゃないですか? 以前から少しでもこういうことがあったら心の準備も出来るのですが、こう突然に来られると場の空気とか諸々が大変なんですよ」
この結婚式という一大イベントで亡き両親が姿を現したら、誰だってそちらに意識が割かれるというもの。この場には私と黎明の二人しかいないから、どうやって空気を元に戻そうかと思案しなければいけないので大変なのだ。
「雰囲気か。それなら……」
「あっ」
黎明はそっと私を抱き寄せてその逞しい腕の中に優しく包み込む。鼻先からまだ真新しいスーツの匂いがする。背中に露出した素肌には彼の大きな手が添えられていて、前からは服越しであっても彼の体温が感情と一緒に伝わってくるかのよう。
確かにこれならもう黎明にしか意識が割けないのは確実だった。
私の腕の二倍はあるんじゃないかというくらい太く硬い腕をにぎにぎすると癒される。こうして私が触れていると黎明がいきなり力を入れて膨張させたりと割とこのやり取りを日常でもすること多かったりする。筋肉というものに憧れや尊敬ではなく、好意と呼ぶべき感情を持てるのは我ながら面白いとも思ったり。
「────はっ!? も、もういいです……っ! これ以上はイケナイ気持ちになってしまうので……っ!」
危なかった。あともう少しで黎明の腕に頬擦りして折り曲げた腕に顔を挟まれて幸せを堪能するところだった。
それを分かっているので黎明も目が少し笑っている。恥ずかしさを咳払いで誤魔化しながら彼と一歩離れて向かい合った。
「ありがとうございました。次は誓いの言葉でしたよね?」
「神前式でも人前式でもないから俺たち同士、互いに向かって誓い合おうな」
「では私から……こほん。汝、鬼灯黎明は────」
私が頑張って覚えた誓いの言葉はすらすらと口から流れるように出てくる。そうして「誓いますか?」と口にして、彼の目を見る。自分でも視界が少し潤んでいるのが分かる。不安などの負の感情からくるものではなく、彼の目を通して答えは既に伝わっているからだ。
黎明は一度目を閉じてから「誓います」と真摯なまなざしで言った。本音を言えば言われた直後にすぐにでも抱き着きたい思いでいっぱいだけれど、返しの言葉があることを忘れてはいけない。
彼が私と同じ聖句を口にするので、私はそれを一言一句全てを噛みしめるように聞き遂げる。
「汝、鬼灯暮葉は健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
そうして最後の言葉を聞き届けた時、彼もこんな気持ちだったのかと思った。
これまでの人生が走馬灯のように駆け巡るかのようだ。彼と結ばれたのはほんの最近のことで。それまでは兄妹として、家族として長い時間ともにいた。その時間が全て色鮮やかな思い出となって花が咲いたように綺麗に映る。
先ほど両親から言われた黎明をよろしくという言葉に私は任せてと返した。その時の思いは決して覆ることのない正に誓いの言葉。二人に言われたからではない、私がそうしたいと思ったからこそ湧き出た言葉だ。
「誓います」
その一言にどれだけの思いを込めたのか、言葉にすれば長くて逆に陳腐なものとなり成り果ててしまうかもしれないほど多く、また強く込められた言葉だった。
黎明が胸ポケットから小さい箱を取り出した。開けるとそこには婚約指輪より高価なものをと豪語していたものと遜色ないほどに光り輝く結婚指輪があった。
「手を……」
「はい」
箱から取り出した指輪を黎明が私の左手の薬指に嵌めてくれる。
私もお返しに黎明に指輪を嵌める。こちらは特に装飾が施されていないもので、黎明が常に付けていられる物をということで買ったものだ。私もお揃いのものを貰うので、家事や房事をする時はそちらを使う予定になっている。
「着けた姿を見せてくれないか?」
「はい。素敵な物をありがとうございます。旦那様。とても嬉しいです」
思わず左手を抱え込むように引き寄せた私を黎明が穏やかな眼差しで見ている。
「よく似合ってるな。今度はお揃いのネックレスとかティアラとか買ってみるか」
ちょっとやり過ぎな感じもあるけれど、男の甲斐性と言われると妻としてその心意気は無碍には出来ないので軽くお礼だけ言って済ませておく。誓いの言葉と、結婚指輪の交換が終わればその次は決まっている。
「では……」
「次は……」
『誓いのキスを』
期せずして重なった言葉に驚いたり面白がったりなんてしない。ここは彼の方からしたいと言われているのでじっと待つ。緊張した様子で肩が痛いほど握られるけれど、すぐに唇が触れ合ってそんなことは忘れてしまった。
体感ではたっぷりと十分ほど、ただ唇が触れるだけの時間が過ぎていく。まるで世界に二人だけになってしまったかのように静かに時間が流れていく。
唇が離れた時、こんなにも彼と離れたくないと思ったのは初めてかもしれないと思うほど恋焦がれて。
目が合ったまま自然と二度目のキスが始まり、今度は少し湿り気の増したキスが先ほどよりも長く続く。
もう完全に他のことなんて忘れていた。この後の段取りもいるかもしれない両親のことなんて頭から吹き飛んで、ただただお互いを求め、欲して、与えあって。
「暮葉……涙が」
「あっ」
気づかぬ内に流れていたらしい。化粧のことをかなり気にしていたはずだというのに、そんなことすら頭から吹き飛んでしまっていたらしい。
「動かないで、今拭くから」
「ありがとうございます。感極まってしまったみたいで……っ」
「それくらい嬉しいと思ってくれるならいくらでも泣いてくれていいぞ」
黎明がハンカチで化粧を崩さないように拭いてくれる。視界がクリアになったら今度は黎明の方が大変なことになっていることに気付いてしまった。
「あぁ……口紅が凄いことになっちゃってますね……」
「暮葉の方もな。少しやり過ぎたか?」
「いえ、お互いに無我夢中でしたので仕方ないと思います」
今度は私がハンカチで口元を拭ってあげる。ここには鏡がないので私の方も黎明に整えて貰い、一息吐いたところで部屋の一角に目を移す。そこにはイチゴの乗っかったホールケーキがあり、簡単にだけれど初めての夫婦の共同作業ということになっている。
二人で一つの包丁を持ってケーキを切り分けていく。私は食べ過ぎないように標準サイズで、黎明はその倍を持っていく。
「旦那様。あーん、します?」
「する。口移しは……流石に今はしない方がいいか。あーん……」
どうせ後でするつもりだろうとは言わない。結婚初夜ということでいつもよりハッスルする可能性が高く、それこそ一昼夜通してする可能性があるので、必然的に食事や水分も例の部屋には既に多めに準備されていたりする。
私も体力的に続くように精の付くものを食べていたりしているので果たしてどうなるのかは今はちょっと分からない。
ケーキを食べさせ合いながらもお互いにやがて訪れるだろうその時を意識し出しているのは明白で、視線がチラチラと私の体の線が丸分かりなウェディングドレスに向けられている。
まだそこまで育ちきっていない私の胸の谷間はハートカットの形のドレスから少しでも離れるとその中身が隙間から覗けるようになっていて。横に並んで座っている黎明の視線は私の胸元に釘付けと言ってもいいほどに注がれている。他の人の視線がないから露骨にしてもまじまじと見れるのは彼にとっては僥倖ものだっただろう。
もう数えきれないほど何度もその中身を見てきたというのに、見えるか見えないかのチラリズムに興奮する辺りは本当に男の子といった感じで可愛らしい。
最も、それを狙ってこのデザインのドレスにしたのだけど。
テーブルの奥にある物を取るフリをして少し前屈みになると、おそらくは突起が見えたのだろう。黎明の興奮度合いが見なくても伝わってくるようだ。
「旦那様~?」
「んんっ!? な、何だ……っ!?」
「そんなに見たいのなら、ご自分でめくってみますか?」
急いで視線をズラしたところを見るに本当に見ていたらしい。頬も更に紅潮していて性的興奮の度合いは徐々に増していると思われる。誓いの言葉という今日の結婚式の山場は越えたので既に夜のことについて思いを馳せているに違いない。
今までの彼だったらここで私が少し煽ったりすればすぐにでも抱き上げて例の部屋に直行していただろう。
「したいけど、しない。それは……後でする!」
「そうですか? それならお楽しみは後でということにしましょう。今はこの時しか味わえないかもしれないものを堪能しましょうね」
果実入りジュースの入ったグラスを持ち上げ、乾杯と言って音を鳴らす。流石にお酒は飲めないし、それで酔い潰れて時間が過ぎてしまうのも勿体ないので二人ともただのジュースを飲むことにした。ただし、この時の為にとそれなりにお高いものを買ったので満足度は最高だった。
綺麗な服を着て、美味しい物を飲み食いして、存分に言葉を交わして、思いを伝え合った。
結婚式としては成功の部類ではなかろうか。外部の人がいない分、挨拶回りもないので簡潔に終わるけれど、今の私たちにはあまり関係ないことだから気にはしていない。黎明はもう一度する気でいるのでもしも他に人を呼ぶことがあったら服職人の人には必ず来て貰おう。それから紹介してくれた両親に知人と、親しい人を呼ぶだけでもそれなりに大人数となるに違いない。
黎明も退魔師として活動をしていてそれなりに顔は広いし、恩も数多く売ってきているので来る人も多そうだ。黎明調査だと近親婚に否定的な人は退魔師には少ないらしいのでそちらがメインとなる可能性もある。
食事を終えてからずっと話し続けていると、体がずっと火照っているせいか汗が滲んで化粧が気になってきた。時間的にも良い頃合いなので私から次の段階へと切り出すことにした。
「では旦那様。私は少しお色直しに行ってきますね」
「あぁ。俺はここを少し片づけてから待つとするよ」
「ありがとうございます。では、また後ほど」
部屋を後にして元私室へと向かう。鏡を見れば額にはやはり汗が滲んでいた。それに汗は一度気にし出したらあちこちが気になって仕方ないので身嗜みを整えることにした。これからもっと汗をかくだろうけど、それはそれというもの。女の子はいつだってどんな時だって身嗜みには細心の注意を払わなければいけないのだ。
汗を拭くのに十分、更に三十分ほど使って化粧を直して匂い消しに黎明が好きな匂いのする香水を振りかけてから向かうのは居間の方向。ある時間までは落ち着いた空間で静かに過ごす時も欲しいと私が願ったからだ。
「お待たせしました。少し時間がかかってしまってごめんなさい」
「そんなに待ってないさ。さぁ、早く座って座って」
「ふふっ。そうは言っても待ちくたびれた感じですね。ではお隣に失礼して……」
既にソファに座っている黎明の横に座る。腰を降ろした位置は最初から密着状態だったというのに、黎明は腕を私の肩にまわして抱き寄せる。その勢いに私の頭も彼にぴったりと寄り添って。
「これで両親公認の夫婦となりましたね」
「俺の場合は監視のようなものだと思うけどな。暮葉を泣かせた日には枕元で何を言われるか分からないし」
「それでもやった甲斐はあったと思いますよ? 二人を悲しませるかもしれないと思いながら過ごすよりはよっぽど」
駄目と言われても知らん顔で続けていただろう私が言うのもあれだけど、それでも二人からの祝福を受けた前と後では心持ちが僅かばかり軽くなったというのも事実。無意識のどこかで後ろめたい気持ちはあったのかもしれない。
黎明もまぁなと返して同意する。遺影は既に黎明が元に位置に戻してあるので二人が再び現れるということはないはずだ。
「今度、親孝行として娘さんを下さいってやってみます?」
「絶対にやらんって言われるからやらない。父さんはただでさえ暮葉には激甘だっていうのに、こんなに早く暮葉を嫁に出すのを許可するのは全く想像が出来ないし、もう既に手を出してるのを知ったらどれだけキレるか分からないからなぁ。多分、あれは知らないと思うぞ? 知ってたら祟りとして出て来るはずだし」
「あぁー……」
私の前ではデレデレ顔でいるのが常だった父も、黎明に対しては鬼のような父親だった。父が鞭で母が飴ときちんと役割分担をして愛を持って教育をしたから黎明のような心優しい青年が出来上がったというのは称賛に値すると思う。ほんの少しでも育て方を間違えれば力を持て余した黎明が暴君のような存在になっていた可能性だってあり得たのだから。
ただ既にほとんど完成されていた自我を持っていた私は鞭の必要がなく、二人からは飴と飴が与えられて育ったという過去があって、それが罪悪感として隠れて黎明の性欲処理をしていたのだから因果とは果たしてどうやって繋がるか分からないものだ。
「それはそうと、暮葉のドレスが短くなっていないか? もしかして切っちゃったとか……」
「これは最初から取り外し可能なドレスだったんですよ。どうしてなのかは……言わなくてもいいですよね?」
「……なるほどな」
「ふふっ。視線が胸元と足元で行ったり来たりしていますよ?」
「……~~っ!!??」
足首まで覆っていた布が太ももの中ほどまでになったミニスカートのウェディングドレスは彼のお眼鏡に適ったようだ。足を組んだり、少し体を動かして前かがみになったりすると視線があっちへこっちへと彷徨っていて、私の視線に気づくと更にぐりんと上へ向いたりと本当に忙しない。
私の方も黎明に寄りかかりながら姿勢の補助のフリをして筋肉の凄い太ももをすりすりと撫でる。今のこの場は直接的なえっちはなしだけれど、肩を抱くだけだったりのえっちではないお触りはありという場になっている。黎明的にはアウトゾーンがほとんどを占めているけれど、私の場合はセーフゾーンが八割、九割という不公平な場でもある。
「旦那様が見えたか分かりませんけれど、ここへ来る前にあるところが擦れて痛いので絆創膏を張ってしまいまして……見えますか?」
見せつける目的だったとはいえ、慣れない服の材質のせいでヒリヒリと痛みだしてしまったので仕方なく張ったけれど、これはこれで黎明的にアリだったようだ。視線がドレスと肌の隙間から目的の物を見つけ出そうと必死になっている。
「はい。サービスは終わりでーす♡」
しかし、そこで私がささっとドレスを手で押し当てて隠すと黎明がギョッとした顔になって。
「な……っ!? そ、それはないだろう……っ!?」
「別に見るなとは言ってませんよ? ただ単に、スケベな視線に気づいた女の子がガードを固くするだけなのですから。事故で見えてしまうものまでは諦めます。サービスが終わりとはそういう意味です」
「どうすればサービスが再開される?」
「それは旦那様が自分で考えて……あっ♡ んんっ♡」
足の付け根の辺りをスリスリと擦って説得しにかかられる。
「俺が考えるとこういうことばっかりになるけど、それでもいいか?」
「それは……あっ♡ じゃ、じゃあ一つゲームをしませんか?」
「ゲーム? そんなものまで用意していたのか」
二次会というコンセプトで設定したこの時間は退屈凌ぎの余興としてとあるものを用意していたりする。とは言っても同じ見た目の二本の木の棒の片方にだけ赤線を塗るだけの簡単なお仕事だけれども。
「じゃじゃーん。王様ゲームです! 旦那様も当然知っていますよね? 何でも好きな命令を下せるあれですよっ。細かいルールは面倒なのでなしで、相手の嫌がること極力なしということでお願いしますね」
取り出した二本の棒を見て黎明が呟く。
「細工は?」
「してません。だから旦那様もその視力を駆使して細かい傷を見つけたりするのはなしですからね?」
「むむむ……そうか、なら単純に運頼みにするしかないか」
出来るのかという疑問はさておき、これで勝負としては五分五分となった訳だ。私としても勝ち過ぎたい訳でもないので別に仕掛けとか細工は一切していない。こういうのは単純に運の結果の方が面白かったりするからだ。
「王様だーれだ!」
私の掛け声と共に黎明が棒を引く。
「俺だ。そうだな……なら命令だ。好きと心を込めて十回言うこと」
簡単な命令で助かりはしたけれど、流石にピザ系統のお話ではないだろう。とりあえずは一度普通に言ってみる。
「えっと……好き」
あまり手応えは感じなかった。どうやらやはり引っ掛けではなく、言葉通りに心を籠めないといけないらしい。
「旦那様。……好き♡ 好きです♡ 好き♡ 好き♡ 好き♡」
耳元へ段々と近づきながら二度。後ろへ回りながら三度。そして後ろから抱き着きながら三度。
「好き♡ 好き♡ 好き♡ 大好きです♡」
最後の一回は見上げた黎明の額にキスを落としながら。これで十回終わったのでいそいそと元に戻る。どうやら彼もご満悦のようで、ご機嫌なオーラが輝いて見える。これで罰ゲームは終わり。
次は私がと臨んだ第二回、何故かまたしても王様になったのは黎明だった。
「はぅ……次は、なにを……っ」
「俺がいいと言うまで正面から俺の肩を揉むこと」
この夫、どこかでセクハラのテクニックでも覚えてきたのだろうか。巧妙かつ的確な指示で私もびっくりだった。
命令ならば仕方ないので肩を揉む為に黎明の正面に立つ。しかし手が届かないので彼の上に乗りながらになるのだけれど、それが黎明り狙いだった。私が彼の肩を揉んでいる間は胸元のガードが一切出来ないのだから。
「んっ、しょ! んっ、しょ! もうっ♡ ちょっと見過ぎじゃないですかぁ……っ♡」
「そこ。もっと力を入れないと。全然解れてないぞー」
「むむむ……っ!」
確かに恥ずかしさから力の入り具合がイマイチだった。これでは命令の達成が出来ないので黎明の肩に肘をグリグリと当てて力の無さを何とかカバーする。更に距離が近くなったせいで黎明の顔がすっぽりと私の胸が塞がれてしまったが。
「ふがふがっ」
「はいはい。王様の命令だから仕方ないですよ……ねっ!」
これでバストサイズがもっと大きかったらもっと嬉しかっただろうけれど、ウェディングドレスの素材もスベスベで気持ちいいのでそれで我慢して貰おう。そうして何とか窒息寸前で許しを貰って終了となった。再び合図と共に棒を引かれる。しかし────
「また俺だな」
「何でですかっ!?}
今度は私が引いたのでズルなんて言えるはずがない。しかしこのクジ運のなさは一体何なのだろうか。
「…………一回くらい譲ろうか?」
「うぅ……王様は譲るものではありませんから。どうぞご命令をして下さいぃ……」
「そ、そうか……。それじゃあ────」
そうして私は何回も負け続けては辱めを受け、およそ一般の花嫁がしないことを色々とさせられた。直接的なえっちはなしだったけれど、それはもう本当に色々と。それに最後の方は黎明も同情して優しくめの命令になっていたのも私を追いつける一端を担っていたと思う。
時間も終わりの予定へと近づきつつあり、最後に泣きの一回として掴んだ棒は見事に印のついたものだった。
「やりました! 私が王様ですよ……っ!」
「おぉ。おめでとう」
苦節二時間、これほどまでにクジでアタリが出たこと喜んだことが今まであっただろうか。いや、ない!
「それで? 命令はどうするんだ、女王様」
「ふふんっ。えっと……あれっ、ちょっと待って下さい……!! 急に当たったからまだ決まっていなくてですね……っ!?」
「まぁせっかくだしゆっくりと……うん?」
釣られてふと時計を見ると、既に予定の時間を過ぎてしまっていた。この二次会(仮)の後はお待ちかねのあれだというのに。いや確かに体は温まったし、良い感じになってはいるけれども。
しかし無情にも黎明は立ち上がって私をお姫様だっこで抱き上げる。
「ま、まだ命令が……っ!?」
「続きはベッドの上で聞くよ。それともタイムアウトで無効試合にした方がいいか?」
「はぅ……っ。そ、そういうことなら……っ」
そう言われては無碍には出来ないので従うことにする。もう色々と何だか分からなくなってしまっているのでされるがままなのは仕方がない。少しゲームにのめり込み過ぎていたみたいで、いつもならばしていたはずの心の準備がまだ整っていなかった。これからすることは先ほどのゲームでしていたことの比ではないというのに。
しかし、心の準備なんてものは例の部屋に近づくにつれて段々と出来てくるもので。私を抱き上げる黎明の手も緊張で硬くなっている。それが私にも伝播してくるようで、思わず体を硬直させてしまって。
「ついにし、初夜ですねっ」
「暮葉も覚悟は出来てるな?」
「旦那様こそ、私を満足させられる覚悟はお済ですか? 男性と違って女性は体力の続く限りセックス出来るのでお得で優位なんですよ? これまでで達した回数で言えば私の圧勝ですから」
「…………俺が今までで全てを出し切った回数は?」
「五回です!」
これが多いのか少ないのかは意見が分かれるところ。少なくとも一日に十五回は出さなければいけないので、まだ体が幼い私には体力的にキツいところがあるのは考慮して欲しい。
それよりも黎明の無尽蔵っぷりが人外なのだ。もしも出し切ったとしても私がダウンしたり正気ではなくなったりしているのはほぼ確実なので、勝負に勝って戦いに負けたといった感じで終わってしまうのは仕方ないではないか。
「ほほぅ。……回答が一回増えるといいな?」
「だ、旦那様……ちなみに食料や飲み物はどれくらいご用意をされてのですか?」
何だか彼の笑みに嫌なものを感じたので一応ながら聞いておく。どっちみち結末は変わらないだろうけれど、覚悟は必要だと思う。
「余裕を持って三日分近くは用意してあるぞ。しっかりと賞味期限が近いものから順に、箱に一日目用と二日目用、三日目用って書いておいたから間違えることもないはずだ」
「…………えっと、そんなに続きますか? えっ? 本当に……? えっ?」
「暮葉が母さんから色々教わっていたように、俺の方も父さんから色々とな。その中には鬼灯家の男にも効く精力剤があって、父さんの話だと効果は丸三日は続いたらしいぞ? それで俺を身籠ったとか自慢してたし」
「…………あの、私もそれで身籠りそうなのはどうする気ですか? ちょっと? 旦那様ぁ……っ!?」
だから冗談ですよねという言葉には終ぞ答えてはくれなかった。