でもそれをクリアする歓びがあったのも確か、現代風恋愛にスパイスとして取り入れて
みるのも一興かと思います。
給仕が椅子を引き彼女を座らせた。 それを確かめた上で俺も座ったころ、給仕がメニューを二つ持って来た、俺はそれを受け取ると一つはテーブルに置き、もう一つのメニューを開いて顔をしかめた。 中に挟まっていたのはワインリストだった、俺達は二人とも成人していたから酒を飲んでも問題なかったのだが、当時の俺は酒で女を落とすのは最低だと思っていた。
リストを二枚、給仕に下げさせると今度は本当にメニューの検討に入った。
メニューの見開き左にAコースこちらは肉料理、見開き右にBコースこちらは魚料理が並んでいた。 今と異なり写真付きメニューはこうゆう店では出さないのが流儀だった。
初めてこういう本格的な店に入った男は大抵連れの女に注文を相談する、女も初めてだったりしたら誤った選択をし、二人の間は気不味くなるものだ。
そうした事を”青春のバイブル”で学んでいた俺は彼女の心が心なしか動揺しているのを感じた。
俺はここに入る前からメニューは決めていた、電話でのレストラン探索中にメニューの内容を聞いていたからだ、まぁもっとも多数のメニューのある店を排除したのも事実だが。
ゆっくりとメニューを見て品定めをする振りをして俺は彼女の様子を窺った。
テーブルの上に両肘をつき、顎を掌で支えて俺の値踏みをしている様だった。
その時、俺は彼女の皿の上に山なりに尖って畳まれたナプキンがそのままである事に気付いた。
本来なら座ると直ぐに自分の膝の上に掛けるべきものである、<これは本当にテーブル・マナーを知らないな。>俺は一手、詰みに近づいたのを感じた。
やがて給仕がオーダーを取りに来た、俺は何の躊躇いも無くAコースを二つ頼んだ。 彼女は慌てて自分はBコースが良いと我儘を言った。
俺は慌てず「Aコースを二つ、焼き方は私がレア、彼女はミディアム・レアで。」と告げると一礼した給仕は彼女の前の皿からナプキンを取り彼女の膝に掛け。更に一礼して厨房に消えた。
「私Bコースが良かったのに!あなた、何を考えているの! もう知らない!」と言って立ち上がりこの場を去ろうとした。
「普通に考えたらAコースだろう、君は肉食べれない訳じゃないだろ?Bコースはたまに来る肉を食べられない人向けのメニューなんだ。だから”B”なのさ。」
「フ~ン。」彼女も理系女論理的な説明には弱かった。 「それとこの”布切れ”なんで使い方を教えてくれなかったの、給仕に膝掛けされて恥ずかしかったわ。」彼女は俺の位置からは見えないナプキンを指差して抗議した。
「それは俺が悪かったテーブルに君がついたので安心してしまった、それに客がテーブルを立つのは会計と急な用足しだけだ、その他の事は全部給仕のやる仕事なんだ。 レストランでは給仕が絶大な権力を持っている、俺が君を助けに行く事はこの店のルールを壊す事なんだ。 判ってくれるよね。」俺は思い切り彼女を拝み倒した。
「わかったわ、それにしても あなた 随分、洋食に詳しいのね、さっきからの様子を見ると
にわか勉強じゃない…わね?」さすが理系女、観察眼は人一倍鋭かった。
まずスープが運ばれて来た、彼女の飲み方は満点だった。 音を立てずスプーンは飲む、手前から奥にすくう事も知っていた、これは失敗だったか?と俺は少し動揺した。
やがて給仕がメイン料理を運んで来た。ジュウジュウと音を立てるステーキが二つ二人の目の前に置かれた、俺には見慣れた料理だったが、彼女は「・・・血」と言ってステーキを指差した。
俺は給仕を呼び「もう少し火を通して・・・あっそれから両方ともライスでなくパンに出来る?」と尋ねた。
「かしこまりました。」そう言って給仕は彼女のステーキと二人分のライスを下げ、代わりにパンとバターの乗った皿を持って来た。
初めからパンを頼まなかったのは俺のミスではなく”出来る男”の演出だった。ステーキの焼き加減で彼女がだだをこねるとは思わなかったが俺はそれもスマートにこなせたので良しと
した。
給仕が厨房に入った途端Uターンして来たかのような早さで彼女のステーキを持って来た。
「さっ、冷めない内に戴こう。」俺はそう言うと右手にナイフ、左手にフォークを持って手早くステーキを右端から切り、フォークで突き刺して口に運んだ。
彼女はどうしているのか、上目使いに様子を見るとナイフとフォークを持ったまま固まっていた。
俺は遣り方を変え、ステーキを全てナイフで細切れにし、ナイフを置いて右手にフォークを持ち替え右手でフォークで肉片を突き刺して口に運んだ。
彼女は<なるほど…。>と感心した顔をし自分も俺を真似て肉を切り口に運んだ。
「さっき程、血は残っていないだろ、さっきの焼き方はミディアム・レア、俺の焼き方レアに近かったんだ。」
「そんな血まみれの肉、生じゃないの?」彼女は俺の肉を見て気味悪がった。
「いやこれは生に見えるかもしれないが”火の通った生”なんだ。 本当は君にも食べさせたかったんで一つ火の通り加減の良いミディアム・レアを選んだんだがチョッとハードルが高すぎた様だその内君もレア・ステーキを食べれる様になる、安心していいよ。」おれは長い講釈を垂れた、食べて「はい、おしまい。」ではエンターティナーとして失格である。
彼女は肉を食べる時だけでなくパンを食べる為にフォークを置く遣り方も俺を真似ていた。
もちろんパンの食べ方、ちぎって口に運ぶという遣り方も新鮮だったらしい。
ライスをパンに代えさせたのも非日常空間の演出の一つだ
彼女の下宿には門限があるので俺達は早々に食事を切り上げなければならなかった。
俺が立ち上がって財布を出すと彼女自分も財布を出したので俺は無言で手を差し伸べそれを制した。
”青春のバイブル”ではどんな関係にあろうとも男女が対で食事をした場合、勘定は、男が持つ、それが「男の美学」だと記されていた。
勘定を済ませ外に出ると俺は愛用のトレンチ・コートに袖を通したが、彼女は店の中で外套を羽織っていた。
俺の表情を読み取ったか、彼女は「私、いけない事をした?」と聞いてきた。
「些細な事なんだけど店の中でコートを着るとホコリが舞うだろ?それをしないのがマナーさ、さ、寒いから直ぐに帰ろう、送って行くよ。」と俺は行って歩き始めた。
彼女は再び俺の左腕にしがみついたき言った。「今日はごちそうさま。次は私がおごるわ。」 俺はこの言葉を待っていたそして言った。
「俺は和食も好きなんだ、そう、寿司、寿司が良いな!」と言うと「寿司…。」彼女が難しい顔をした、それはそうだろう、当時はまだ回らない寿司屋しか無くその金額たるやとんでもない高額だったからだ。
「本気?」彼女が顔を強張らせながら聞いて来た。
俺は前を向いたまま応えた、「冗談だよ、寿司喰いたいのは本気だけど君に奢らせようとは思わない。」その言葉を聞いた彼女は俺の腕から離れ俺の前に立ちはだかった。
「随分馬鹿にしてくれるじゃない!私だって社会に出れば寿司位幾らでも食べれるんだから!」その時さぁーと寒風が吹きつけ彼女の長い髪が風に踊った。
そう彼女は当時でも珍しい腰まである長い髪の持ち主で顔はお世辞にも美人とは言えなかったがその長い髪は学生の上下を隔てる事無く人気だった。
後ろ姿に惹かれて前に廻ると失望する良くあるパターンであった、しかし、今回の俺の目標は自分の”女・スキル”を確かめる事と同時に高める事であったから彼女の容姿の美醜は問題ではなかった。
さて次回からは少しR-18らしさが出てきます。
お楽しみに!