私の渾身の色仕掛けはどうやらうまくいきすぎてしまったらしい。
「
比企谷くんはそう言って私をベッドにうつぶせに寝かせ、私を組み敷いて身動きを取れなくした。ものの10秒ほどのことだ。
突然のことに私が目を白黒させているうちに、比企谷くんは私のスカートをめくり上げて下着をまさぐった。
「紐パンってお前……エロすぎだろ……」
彼にそうささやかれ、顔がカッと熱くなる。
「あ、あなたが喜んでくれるかと思って……」
「めっちゃうれしいけどな……俺以外の前では
彼の独占欲を感じさせるようなことを言われ、どうしようもない幸福感に包まれる。頭がぼうっとし、彼のことしか考えられなくなっていく。
彼はその間にも下着の紐をほどいてはぎ取り、焦る気持ちを押し殺しているような様子で私の膣口にペニスをあてがった。
「ちょっと待っ……はっ……ぁ……」
彼のものが一気に私の中に入り込み、肺の空気が押し出されて一瞬息ができなくなった。
理性ではもう少し優しくしろと彼に抗議しようとするが、私の頭は彼とつながっただけで蕩けていた。愛する人を身体の一番深いところに受け入れている。それだけで脳が快楽物質で満たされていく。彼が強く私を求めてくれるのがうれしくて、彼にもっと夢中になってほしいとさえ思っている。
八幡はそのまま
「あっ、あっ、んっ、はっ、はちまんっ、そっ、それっ、きもちぃっ、んっ、んんっ!」
自分でも驚くような淫らな声が、私の口をついて出る。こんなに媚びるような声音が私の口から発せられるとは思っていなかった。
やり場のない快感をどうにかしようと、枕を胸元に抱え込んで隅を握り締める。いやらしい声を上げるのが恥ずかしくて、顔を枕に押し付けて声を殺そうとしたが、彼はそれを見て私の顔を枕から引きはがした。
「雪乃。お前の声が聴きたい」
彼に名前を呼ばれるだけで、彼にささやかれるだけで、興奮しすぎてどうにかなってしまいそうだった。私にささやくときの八幡の声はいつもよりも低いトーンで、それだけで腰に甘い感覚が走る。もっと名前を呼んでほしい。もっと私にささやいてほしい。
「はっ、はっ、んっ、んんっ、あっ、あっ……」
恥ずかしいが、彼の希望どおりに再び隠さず声を上げる。恨みがましく彼を横目で見やると、目に満足そうな笑みを浮かべていた。なんて男だ。
私がまた甘い声を上げ始めると、八幡は射精が近いのかピストン運動を速めた。迎え腰をするように私が腰を上げると、彼は興奮したのか息を荒らげて後ろから私を抱き締め、さらに激しく腰を打ち付けてきた。
「雪乃っ、もうっ、出すぞっ」
「はっ、はやくっ、きてっ!」
八幡が息の詰まったような声を上げ、私の中で彼のペニスがドクンと脈打った。
「雪乃。俺の子供を産んでくれ。雪乃……」
「ぁ――――っ……!」
彼のペニスのドクンドクンという脈動を感じる中でそうささやかれ、一瞬意識が飛んだ気がした。
――もう彼の言葉に逆らうことはできない。
絶頂に身体を震わせながら、私は直感的にそう悟った。彼の言葉に従うように、脈動を続ける彼のペニスをできるだけ奥に迎え入れようと腰を動かす。
我ながら浅ましいことだが、私はそうして進んで彼の言葉に従おうとする自分にも興奮していた。身体だけでなく心さえも、彼にすべて明け渡してしまっている。そのことがたまらなく幸せだった。
「雪乃、愛してる」
最後に八幡がそうささやいて、私の心にとどめを刺した。
絶頂の快楽と多幸感で私の心の防壁がなくなったところに、彼は考え得る限りもっとも鋭い言葉の一撃を入れた。「愛してる」という言葉だけで、彼は私がお願いしたとおりに私を
ワンテンポ遅れて、私の身体の奥から先ほどよりもずっと大きな快楽が湧き上がってくる。肉体的な快感による絶頂とはまた別の、精神的な快楽の大きな波がやってくるのを感じた。
「雪乃? またイってんのか」
「はちまん……わた、し……すごいの……」
嵐のような絶頂の快楽に全身を震わせる。
覚醒剤や麻薬による快楽はきっとこれくらいのレベルのものに違いない。こんな気持ちよさを知ってしまったら、もうこの快楽を手放そうとは思えない。
――もう八幡なしでは生きていけない。もっと彼とセックスしたい。彼に求められたい。私に射精してほしい。私に甘えてほしい。私を貪ってほしい。
私の中でもともとかなり上位にいたはずの「比企谷八幡」の優先順位が急速に上がっていく。なにもかもを彼に捧げ、彼のために生きていきたいと思うほどに。
「はーっ、はーっ、ふーっ、ふぁん!?」
絶頂から帰ってこれないままどうにか息を整えていると、八幡は今度は優しく私に腰を打ち付け始めた。自分が満足するための腰づかいではない。私を徹底的に快楽で壊そうとしているのだ。彼は私が今どういう状態にあるかわかっていて、その上で私を壊そうとする腰づかいをしている。その事実に、私はまた幸せを感じてしまう。
「雪乃。お前、ほんと綺麗だな」
八幡はそうささやいて私の髪を撫でた。たったそれだけで、まだ絶頂しているにもかかわらず私の身体はさらに高みに押し上げられ、どうしようもない多幸感に包まれる。
「雪乃。制服姿でイってる姿、めっちゃエロいな」
八幡はそうささやいてブレザーの上から私の腰に指を這わせた。たったそれだけで私はまた快楽に悶え、彼への愛情で胸がいっぱいになる。
「雪乃。悪いが明日の大学は諦めてくれ。……今夜は寝かせない」
八幡はそうささやいて私を強く抱き締めた。たったそれだけで私は数秒間だけ意識を飛ばし、この後の長い夜への期待で身体をビクビクと震わせる。
私は比企谷八幡という男に
もはやそうとしか言いようがなかった。
私の中を優しくかき回す彼のペニスの感触、私にささやかれる腰に響くような彼の低い声、私を組み敷く彼の重み、彼の吐息、彼のにおい、彼の体温、そうした彼のすべてが私をおかしくする。
「はち、まん……ふく……ぬがせて……」
「ああ。暑いもんな。お前と裸で抱き合いたいし」
八幡はつながったまま後ろから私の身体を引き起こし、ブレザーとカーディガンをはぎ取ってどこかへ放り投げた。青いブラがブラウスに透けて見えるのが今更ながら恥ずかしい。彼は透けて見える下着をチラチラと見ながら私の首元のリボンをほどき、ブラウスのボタンを外していく。私の壊れた頭はそれだけで興奮した。
「はちまん……わたしも、ぬがせてあげたい」
「……しょうがねぇな」
彼は私からペニスを抜き去り、自分と対面するように私の身体の向きを変えさせた。栓の抜けた膣から彼の精液が垂れてくるのがわかった。
立ち膝になって先ほど自分が結んだ彼のネクタイをほどくが、頭がぼうっとして手元がおぼつかなかった。
どうにかほどき終わる頃には彼が私のブラウスのボタンをすべて外し終わり、皮を剥かれるように汗で張り付いたブラウスをはぎ取られる。あまりに長く絶頂を迎え続けたからか、私の身体は全身が赤みを帯び、汗だくになっていた。
八幡は目ざとくブラのフロントホックに気づき、私がノロノロと彼のワイシャツのボタンを外している間に、あっという間にブラも外される。
「やっぱり綺麗だな、雪乃の胸」
そう褒めながら、彼は私の脇腹から胸を撫でた。乳首を優しくもてあそばれると甘い声が漏れ出てしまう。
「ほれ、座って脚伸ばせ」
言われるがままに座った状態になって脚を伸ばし、スカートを抜き取られる。続けて脚を撫でられながらニーソックスを脱がされ、最後に髪に結んでいた赤い髪紐すらも解かれて、私は一糸まとわぬ姿にされた。
彼は私がボタンを外したワイシャツをいつの間にか脱いでいた。スラックスにパンツ、靴下まであっという間に脱ぎ捨て、私の腰を抱き寄せる。
互いになにも言わないまま、対面座位で再びつながる。
八幡の汗に濡れた熱い肌を感じ、少し回復していた私の心がまた蕩けていく。彼と肌の触れ合う面積を少しでも増やそうと、手足を彼の身体に回して抱き締める。
「はちまん、すき。すき……」
「おう。俺も好きだ、雪乃」
もはや条件反射のようにビクビクと膣が収縮し、腰が震え、頭がグズグズに蕩けていく。
八幡に唇を奪われ、舌で口の中を優しく犯される。蕩けた頭でも彼を喜ばせようと「の」の字を描くように腰を動かすが、それで自分が気持ちよくなってしまうので我ながら本当にどうしようもない。
つながった状態で彼に飲まされる彼の唾液は、私にとっては甘美な毒だった。飲み下すたびに全身が熱を持ち、思考が溶解し、「私」が崩れていく。取り返しのつかないことになるのはわかりきっているのに、もっともっとと欲してしまう。
対面座位は私も八幡も大きく腰を動かすことができないため、肉体的な交合という意味ではとてもじれったい。しかしそのじれったさがゆえに、私は八幡とのキスだけでいつまでも絶頂の高みで快楽に
――このまま身体が溶けて八幡とひとつになってしまえばいいのに。
ドロドロになった頭で、本気でそんなことを思った。
どれくらいそうしていたのかわからないくらい長い間、私たちはそうしてつながっていた。
しかし、遂に最後のときが来た。
「雪乃、また出そうだ」
「ええ……だして……」
もはやなにが出るのかすら理解できなくなっていたが、とにかくそれは素敵なことなのだということはわかった。
このときの私にとっては彼のやることならなんだって素敵なことだった。彼だけが、私のすべてだったのだ。
本能で射精を促すべく腰を上下させると、八幡は私の腰をつかんでその動きを助けた。私は腰を振りながら彼に抱き着き、快楽のぬるま湯が再び熱を持ってくる感覚に溺れた。
しばらくそうしていると、彼がうめき声を上げて一番深くまでつながろうと力を込めた。下腹部に脈動を感じ、もう何度目なのかもわからない多幸感に襲われる。
「雪乃。お前は俺だけの女だ」
「っ……ぁぁぁあああ――――っ!」
八幡のささやきに、それまで溜まりに溜まっていた私の中の何かが決壊した。
――うれしい。すき。きもちいい。あいしてる。
それだけで私の頭の中が埋め尽くされ、身体が燃えるように熱くなった。
何もわからないまま私は快感と多幸感に狂った。薄れていく意識の中で私は死ぬのだと思った。そして、彼のために生きる女として生まれ変わるのだと。私にとって、これほど幸せなことはなかった。
そうして、私は意識を手放した。
***
翌日。
寝ぼけた頭で右腕が動かないことに気が付いた。動かないどころかそもそも感覚がない。
目を開けると、雪ノ下が俺の右腕を枕にして穏やかに寝息を立てていた。
裸でただ寝てるだけで尋常でなくかわいい……というより美しい。江戸時代の美人画の題材になりそう。この子、俺の婚約者なんだよなぁ……。
寝顔を眺めているだけで雪ノ下がどうしようもなく愛おしくなってしまい、頬にかかった髪をどけて頬を撫でる。
こいつ色白いよなぁ。肌もめっちゃ綺麗だし。近くで見ても毛穴がまったく見えん。ノーメイクですよこれ。すっぴん風メイクとかじゃなくて。たぶんだけど。
そうして頬や髪を撫でていると、艶めかしいうめき声とともに雪ノ下がゆっくりと目を開けた。
「起きたか」
「……何時?」
枕元のスマホを見る。時刻は13時。寝坊どころの話ではないが、今日はもう自主休講と決めたので慌てない慌てない。一休み一休み。
「13時」
「……あなたの言うとおり、今日は大学はお休みね」
「雪ノ下。腕枕、もうやめていいか?」
「痛い?」
「それもあるけどな、ほら、右手もう白くなっちゃってるから」
「ごめんなさい。その……すごく安心できて寝心地がよかったものだから」
「そんなこと言われたら、いつまでも腕枕してやりたくなっちゃうだろ……」
雪ノ下は腕枕ですっかり冷たくなった俺の右腕をさすりながら、急に目に怒りを宿して俺をにらみつけた。
「比企谷くん。あなたと付き合うことで私の『人生がちょっと歪む』と、以前言っていたわね」
「お、おう。なんだいきなり。なんでちょっと怒ってんの?」
「『ちょっと歪む』どころか、昨日のセックスで私、もうあなたなしでは生きていけなくされてしまったわ」
「……昨日のお前、なんかトランス状態っぽくなってたよな。最後は失神しちまったし」
「何を他人事のように言っているのかしら。全部あなたのせいでしょう」
「えぇ……でもそう言われると確かにそんな気も……」
「そうでしょう? だから……」
「責任、取りなさい」
雪ノ下はそう言って艶然と微笑んだ。心臓が高鳴り、雪ノ下から目が離せなくなる。
「あ、ああ……」
雪ノ下が目をつぶり、俺は彼女の顔を引き寄せて唇を――
というところで、俺の腹がぐううぅ……と鳴った。
噴き出すように笑う雪ノ下に釣られて俺も笑い出す。
「食事にしましょうか」
「ああ。……身体、大丈夫か? 昨日失神させちまったけど」
「ええ、大丈夫。ちょっと腰がだるいけれど、それくらいよ」
雪ノ下はベッドから起き上がる前に、また俺に頬を寄せて耳元でささやいた。
「食べたら、またいっぱいしてね……?」
この後まるまる一週間、俺と雪ノ下は大学をサボってセックス漬けの生活を送り、大学1年次後期の単位取得が危うくなったのだが、それはまた別の話だ。