どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた 作:布施鉱平
カーテンの間から差し込む朝の光に目を覚ますと、リディアは自分の隣を見て頬を緩めた。
少年がいる。
昨日の夜に一生守り通すと誓いを立てた男が、自分の腕枕で眠っている。
幸せだった。
何でもないただの朝の目覚めであるはずなのに、少年いるだけで全てがキラキラと光り輝いているように見えた。
「…………ん?」
いや、輝いているように
実際に少年の頭の後ろに、朝日を弾くキラキラとしたものがある。
少し首を上げて、リディアは少年の後ろを見た。
そこにあったのは……
……ルナの、頭だった。
いつの間に入り込んだのか、ルナが後ろから少年に抱きついていたのだ。
「…………おい」
嫌なわけではなかったが、少年との時間を邪魔されたような気分になり、リディアの声は自然と低くなっていた。
その声に反応して、ピスピスと鼻を鳴らしながら少年の匂いを嗅いでいたルナが顔を上げる。
「……おはよ」
「ああ、おはよう」
朝の挨拶を交わす二人。
だが、リディアが不機嫌だと分かっているだろうに、挨拶を終えたルナは顔を元の位置に戻すと、また少年をピスピスと嗅ぎだした。
「…………はぁ、何やってるんだ?」
ルナの奇行に、なんだかどうでも良い気分になってしまったリディアが問いかける。
「……いい匂いがする。……ぺろっ。……うん、味もいい」
ルナのやっていることに、特に意味などないようだった。
ただ少年にくっついていたいだけなのだろう。
「…………歯は立てるなよ?」
色々と諦めたリディアも、頭を枕に戻して正面から少年を見つめる。
ルナに舐められているのがくすぐったいのか、少年は眠ったままもぞもぞと動いていた。
ふっ、とリディアの口から笑みが漏れる。
ルナの侵入によって二人きりでは無くなってしまったが、気持ちは穏やかなものに戻っていた。
もともと仲間と一緒に少年を守っていこうという計画だったのだ。
今後さらに仲間二人が増える予定だし、もしかしたら来年の今頃には、その中の誰かが少年との子供を産んでいるかもしれない。
二人きりの時間など、これから先どんどん無くなっていくと考えたほうがいいだろう。
「子供、か」
呟いて、自分の産んだ赤ん坊を抱き上げている姿を想像した瞬間、リディアは子宮の辺りが熱くなるのを感じた。
「そうか、私は、君との子供を欲しがってるんだな」
不思議な気分だった。
生まれてこの方、自分が母親になる未来など想像したことすらなかったのだ。
「……わたしは産む。……二十人くらい」
リディアの呟きに反応したルナが、少年の向こう側から決意を告げてくる。
「ふふっ、そんなにか? 部屋が足りないぞ?」
「……人が増えたら、家は新しくする。……もともと、わたしたち全員が子供を産んだら、八部屋じゃ全然足りない」
ルナに言われて、リディアは真剣に考えてみた。
「そうか…………それもそうだな。私、ルナ、ミゼル、アレックス、マリアベルが一人ずつ産んだとして、そこに少年を加えたら十一部屋は必要か……」
「……わたしは二十人産む」
「ああ、分かった分かった。となると、確かに今の家じゃ狭すぎるな…………はぁ、かなり高かったんだがなぁ、この家も」
比較的周りに人家が少ない、地価の安い場所に建てたとはいえこの豪邸だ。
内装にもかなりいいものを揃えたし、かかった金額は少年の購入金額と同じくらいの大金だった。
「……金は稼げばいい。……そもそも、わたしは全然使ってないから、かなりある」
「まあ、金はなんとかなるとしても、子供のことを考えたら街も変えた方がいいかもな。ここは物が多くて便利だが、地価も物価も高いし人も多い。治安面での不安がある」
「……自然の多い場所を希望。……近くに森があるのがベスト」
「ああ、いいな。湖もあるとなおいい。狩りや釣りで食料を賄えるし、なんなら畑を耕してもいいしな」
語りながら、二人はともに笑顔を浮かべていた。
これは、かつてないことだ。
以前は未来を語ることなどなかった。
語るべき未来が、希望がなかったからだ。
醜い外見を持つリディアやルナにとって、生きるということはすなわち苦痛と同意であった。
未来を語るということは、絶望を語るに等しかったのだ。
そんな自分たちが未来に希望を見て、笑顔を浮かべながらそのことについて語り合っている。
心が幸せで、なんだかくすぐったくて、そして温かかった。
柔らかな朝日に照らされながら、リディアとルナは新しい家のことや子供のこと、これからの生活についてなどを、思いつく限りに語り続けるのだった。
◇
一方その頃、ミゼルはといえば────
────実は、同じ部屋にいた。
リディアとルナが語り始めるのとほぼ同時に、魔術によって転移してきたのである。
鋭敏な感覚を持つ二人にすら気づかれていないのは、高度な〈
(…………私も会話に混ざりたいなぁ)
魔術まで行使して、全く気づかれないように侵入してしまったことが後ろめたく、ミゼルは出るタイミングを失っていた。
しかも、もともとの目的が『男性には朝の目覚めとともに
(正面から堂々と入れば良かった…………)
後悔先に立たず、である。
ミゼルが悶々としている間にも、リディアとルナは楽しそうに未来を語っている。
(すごく、楽しそう…………)
二人の表情は輝いていた。
冒険で成果を上げたときにも皆で喜び合うことはあったが、それとは根本的に何かが違う。
今彼女たちを輝かせているのは、すでに達成したことに対する喜びではなく、これから成そうとすることに対する喜びなのだ。
今まで自分たちの中には存在しなかった『希望』が、内側から彼女たちを照らしているのだ。
そしてそれは、当然のようにミゼルの胸にも生まれていた。
ミゼルはそっと、自分の腹を撫でる。
昨日の昼に、少年から大量の精液を注がれた子宮の辺りだ。
(赤ちゃん……欲しいな……)
ほんのりとした笑みを、姿を隠したままのミゼルは浮かべた。
少年の子供を産むことができたら、どんなに幸せだろう。
そしてその子供を、仲間や少年と一緒に育てていく生活はどんなに楽しいだろう。
考えるだけで、ミゼルの心は温かくなった。
リディアやルナと話したいという思いが、また込み上げてくる。
(うぅぅ…………)
楽しそうに話している二人の間に割って入るというのは、引っ込み思案な性格のミゼルには難しいことだ。
だが、辛いことに耐えるのには慣れていても、幸せを我慢することなどミゼルにはできない。
結局、話したい衝動に耐えられなくなったミゼルは、魔術を解除した。
そして、おずおずと二人に対して声をかける。
「あ……あの……わ、私も、混ぜて?」
二人は突然現れたミゼルを見て驚きの表情を浮かべたあと…………
語り合っている時と同じような、温かい笑顔でミゼルを迎え入れた。
────そして三十分後。
「まあ、待て。ここは私の部屋だ、私に任せてもらおうか」
「……わたしが一番回数が少ない。……わたしに譲るべき」
「わ、私が発見したんだから、私に権利があると思うの」
穏やかな雰囲気は、どこかに吹っ飛んでいた。
眠りから覚めた少年の股間が、ガチガチに勃起していることが確認されたからだ。
その後、三人によるチンポ争奪戦が繰り広げられることになったのは言うまでもない。