どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた 作:布施鉱平
それからの数日は、リディア、ミゼル、ルナの三人にとって夢のような日々だった。
日のある内から押し倒すようなことはさすがに自重したが、天窓から差し込む暖かな光の中で少年と共に過ごす時間もまた、彼女たちにかけがえのない幸せを与えてくれた。
例えばリディアが料理をしていると、少年が近寄ってきて野菜の皮むきなどの下ごしらえを手伝ってくれる。
例えばミゼルが本を読みながらソファーでウトウトしていると、いつの間にか少年が隣に寄り添って寝ていたりする。
例えばルナが風呂上がりに髪を乾かしていると、少年が櫛でその髪を
何でもないただの日常が、少年の存在が加わるだけで楽園のように感じられた。
いや、事実として楽園だった。
商業都市の一角にあるこの小さな世界の中には、ただの一人も不幸な人間がいないのだ。
外の世界には悪意が溢れているとしても、そんなことは彼女たちにとってどうでもいいことだった。
食材を買い足しに行く際に、名指しの依頼がないか確認に行く際に、彼女たちは以前と変わらない蔑みと嫌悪の視線を向けられた。
だがどれほどの悪意をぶつけられようと、もはや彼女たちの心が傷つけられることはなかった。
心の中心に、一本の太い柱が通っていたからだ。
柱とは、もちろん少年だ。
少年の存在が、彼女たちを世界の全てから守ってくれていた。
二度と揺らがないように、しっかりと支えてくれていた。
生まれて初めて、顔を上げて道を歩いた。
店では端の方に置いてある萎びた果物ではなく、真ん中にある艶々したものを堂々と選んだ。
ギルドでは人が少なくなるのを外で待たずに、中に入って受付の列に並んだ。
簡単なことだった。
なんでこんなことも出来なかったのかと拍子抜けするくらいに。
そして用事を済ませて家に帰ると、少年が蕩けてしまうような笑みで出迎えてくれた。
抱きしめて、キスをして、「ただいま」と言う。
少年も抱きしめ返してくれて、キスを返してくれて、「◇○#△%&」と言ってくれる。
そのやり取りが幸せすぎて、彼女たちは毎日順番を決めて、誰か一人が外に出かけた。
二人以上が同時に出かけることはない。
守るべきものは家にあるからだ。
日々の鍛錬にもいつも以上に熱が入るようになった。
ほんの数日で全員の腕が上がっているような気がするのは、決して気のせいではないだろう。
自分を高めるための目的が明確になったのだから、それも当然のことだ。
思い思いの時間を過ごして夜になったら、夕食を食べて風呂に入る。
少年と一緒に入るのは、その日ともに夜を過ごす者だけだ。
これも話し合って順番を決めた。
風呂場で存分にイチャイチャしたあとは、部屋に戻るなりセックスを始める。
やり方は三人それぞれに違う。
リディアはまず優しくキスをする。
唇を合わせたままベッドに倒れこみ、正常位でセックス。
ミゼルはキスをしたあと、少年のチンポをしゃぶる。
一度口に出してもらったあと、騎乗位でセックス。
ルナはキスをしたら、少年にクンニをしてもらう。
イカされまくったあと、脱力しているところを少年に好きなように犯してもらう。
二回戦目以降はその時の気分で変わるが、最初の一回は固定化されてきた。
そのまま大体平均して五回から六回ほどセックスをしたあとは、少年と抱き合ったまま眠る。
リディアは腕枕をして少年の頭を撫でながら。
ミゼルは少年に胸を吸われながら。
ルナは互いにギュッと抱きついたまま。
愛おしさに包まれて、眠りにつく。
そして朝起きると、一夜を共にした者が少年と一緒に風呂に入る。
セックスは最大で三日後までお預けだが、辛くはない。
少年とはいつだって一緒にいられるし、それに少年から求めてきた場合にはそのままセックスしても構わない決まりになっているのだ。
風呂場で、リビングで、キッチンで、トイレで。
求められれば、いつだって応じた。
3Pや4Pに発展することも珍しくはなかった。
もちろん、誘惑しなかったかと聞かれれば、三人とも目を逸らすしかないだろうが。
◇
そんなある日の早朝のこと、庭で剣を振ってきたリディアがリビングに戻ると、ミゼルが少年に何かを一生懸命話していた。
「何をしてるんだ?」
少年と会話をすることができないのは百も承知のはずだ。
リディアが尋ねると、ミゼルは顔を上げて答えた。
「実はね、私たちはこの子の言ってることを理解できないけど、この子は私たちの言ってることがある程度理解できるみたいなのよ」
「そうなのか?」
驚いたリディアが少年に問いかけるが、返ってきたのはいつも通りの疑問を浮かべた顔だ。
「今すぐにって訳じゃないわよ。ただ、これから覚えていくことができそうってこと。その証拠に、ほんの少しだけど覚えた言葉だってあるのよ? 例えば…………『リディア』」
ミゼルの言葉に反応して、少年がリディアに向かって小さく手を振った。
かわいい。
「お、おぉ……っ」
少年が自分の名前を覚えてくれたという感動に、リディアの胸が熱くなった。
「もちろん、私とルナの名前も覚えてくれたのよ? 『ルナ』」
少年が自分の隣に座っていたルナの頭を撫でる。
「……萌える」
ルナが悶える。
「『ミゼル』」
ミゼルに視線を戻して、少年がにっこりと微笑んだ。
「うふふっ、かわいい♡ ね、分かったでしょ? どういう理屈なのかは分からないけど、この子は私たちの言葉を理解できるの。ちゃんと教えていけば、いずれは単語じゃなくて文章も理解できるようになると思うわ。
それに、文字も教えようと思ってるのよ。文字なら魔力うんぬんは関係ないしね」
「それは……素晴らしいことだな」
ミゼルの提案に、リディアが深く頷いた。
「もし彼が文字を覚えてくれれば、彼の名前を知ることもできるだろう。いつまでも『彼』とか『この子』とか呼ぶのもなんだから、そろそろ私たちで名前を付けたほうがいいかも知れないと思ってたんだが…………いずれ本当の名前が分かるなら、それはやめたほうが良さそうだな」
「そうね、自分の名前があるなら、それをちゃんと呼んであげたいものね…………ちなみにリディア、どんな名前を考えてたの?」
「ん? そうだな……」
とリディアは一度言葉を切ってから恥ずかしそうに、
「フィ、『フィール』とかがいいかと、思ったんだが……」
「運命って意味ね、いいじゃない。素敵だわ」
素直に褒められて、リディアが顔を赤くする。
「こほんっ、あー、ミゼルならなんて付けてた?」
そして照れ隠しからか、ミゼルならば少年にどんな名前を付けたかを尋ねてきた。
「私? そうね、私なら…………『リァン』かしら」
「絆、か……いいな、それもいい」
「ルナならこの子になんて名前を付ける?」
聞かれたルナは、少し考えるように目を瞑ったあと、
「……『リック』」
とつぶやき、それに自分で納得したのかうんうんと頷いていた。
「幸福か。運命に絆に幸福……どれも捨てがたいな……」
「ふふっ、私たちで名前を決めるのはやめたんでしょ?」
「……ああ、そうだった。いや、ずっとそのことを考えてたから、つい癖でな」
リディアは照れくさそうに頬を掻くと、少年の前に歩いて行ってしゃがみこんだ。
「はやく、文字を覚えられるといいな。私は……私たちは、君のことをもっと知りたい。君の好きなこと、やりたいこと、全部知りたい。その全てを叶えて、君を幸せにしたいんだ」
少年の柔らかい頬に手を当てて、リディアは微笑みながら言った。
「○#△◇%」
目を細めながら、少年が言葉を返してくる。
リディアの自惚れでなければ、少年の顔はすでに幸せであるように見えた。
「……私もなにか教えたいな。ミゼルが言葉と文字を教えるなら……私は彼に料理でも教えるかな」
「それ素敵ね。私、一度でいいから男の子の手料理を食べてみたかったの」
「……同意する。……じゃあわたしは…………」
と、ルナが自分も少年に何かを教えたいと提案しようとしたその時。
ドガァァァンッ!!
という轟音とともに、玄関の扉が内側に吹っ飛んできた。
「ミゼル、彼に保護魔術! ルナは弓を!」
突然の事態だが、リディアは慌てることなく指示を飛ばした。
二人に少年の保護と支援を頼みつつ、自分はソファーの下に隠しておいた片手剣を構えてゆっくりと玄関に近づいていく。
沸き上がって来たのは激しい怒りだ。
例え相手が何者であろうと、少年に危険を運んできた存在を許すわけにはいかない。
剣の柄をギュッと握り直し、玄関と少年を結ぶ直線上に自分の体を置きながら、リディアは慎重に前に進む。
吹き飛ばされた扉があった場所に影が差し、そのまま人影が家に入ってきた。
巨大な人影だった。
リディアよりも頭ひとつ分ほどは大きい。
だが、その人影の輪郭に特徴的な形を見つけた瞬間、リディアはため息とともに構えていた剣を下ろした。
「……はぁ、うちの扉は引いて開けるんだって教えただろ? ────アレックス」
「アレックス!?」
「……バカ虎」
リディアの言葉に、ミゼルとルナも警戒を解いて近寄ってくる。
三人が見上げるその先には────
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