どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた 作:布施鉱平
「…………ん」
目覚めたアレックスの視界に、青空が写りこんだ。
空はやけに狭い。
それが天窓越しの風景だと気づいたのは、背中に感じたのが土や草ではなく、柔らかな絨毯の感触だったからだ。
体を起こし、寝ぼけた思考のままでアレックスは周りを見回した。
どうやらここは、何度か訪れたことがあるリディアの家のリビングのようだ。
頭をすっきりさせるために深く息を吸い込むと、懐かしい匂いで胸が満たされていく。
リディアの匂い、ミゼルの匂い、ルナの匂い…………
だがその中に、どうしようもなく心を揺さぶる匂いが混じっていた。
その匂いが、寝ぼけていたアレックスの思考を覚醒させ、眠る前の記憶を呼び覚ましていく。
「…………っ!」
カッと目を見開き、アレックスは勢いよく立ち上がった。
もしこの記憶が現実であるのならば、
アレックスは意識を集中させ、彼の匂いと気配を探る。
…………いた。
彼は、すぐ近くにいる。
仲間たちも同じ場所にいるようだ。
アレックスは猫科の猛獣のように
そこには────────
「あっ♡ あっ♡ すごいっ!♡ もっとぉ!♡」
────────少年に後ろから貫かれ、赤い髪を振り乱して喘ぐ友人の姿があった。
「…………っ」
アレックスは目の前で繰り広げられる光景を前に、声を失った。
「あっ!♡ もうっ!♡ もうイクッ!♡」
パンッ、パンッと肉のぶつかる音が響き、その度にリディアの口から嬌声が漏れる。
聞いたことのない声だった。
見たことのない表情だった。
だがそのどちらもこの上なく幸せそうで、そして、いやらしかった。
「イクッ!♡ イクイクッ!♡ あっ!♡ ~~~~~~っ♡♡♡」
少年が深く腰を突き込むのと同時に、体をぶるぶると震わせながらリディアが絶頂した。
髪の色と同じくらい顔を真っ赤にして、口の端からヨダレを垂らしながら、情けない顔で崩れ落ちる。
そして、リディアがベッドに倒れ伏したおかげで、後ろに立っていた少年の全身がアレックスの前に晒された。
当然のように、少年も裸だ。
アレックスの視線が、少年の桜色に染まった顔からゆっくりと下がっていき、腰のあたりで止まる。
…………大きかった。
信じられないくらいに大きく、そして太い。
あんなにも小さな体をしているというのに、チンポだけが噂に聞く
しかも、でかいだけでフニャチンだと言われている
あれだけの大きさを持ちながら重力に逆らって天を向くなど、並大抵の硬さではないだろう。
アレックスが目を離せないでいると、その巨大なチンポがピクリと跳ね、先端から少量の精液がトロリと流れ落ちた。
リディアの中に出しきれなかった分が、膣圧から解放されたことで溢れ出したのだ。
「あっ…………」
糸を引いて垂れる精液を見て、アレックスは小さく声を上げた。
なにを言おうとしていたのかは、アレックス自身にも分からない。
ただ、『勿体無い』と思った。
性的な経験など一度もないのに、シーツの染みになるくらいなら口で受け止めたいと、女の本能がそう思わせたのだ。
漂ってくる匂いだけでも、腰のあたりがゾワゾワした。
もしそれを舌で、喉で、直接味わったらどうなるのだろう。
どうしようもない情動に突き動かされ、アレックスは少年に向かって一歩踏み出した。
だが二歩目を踏み出そうとしたとき、足に何かが絡みついて邪魔をした。
振り払おうと視線を足元に動かすと、そこには…………ルナがいた。
ルナが脚にしがみつき、アレックスのことを見上げていたのだ。
「…………何をする」
アレックスが端的に尋ねると、ルナはいつも通りの無表情で、
「……バカ虎、まずは風呂に入れ」
とこちらも端的に返してきた。
「…………」
無言で、アレックスは自分の体を見る。
確かに、数日間道なき道を走り続けてきたせいで、アレックスの体は汚れきっていた。
ルナの言うとおり、このままあの可愛らしい少年の肌に触れるのはさすがに
だが、アレックスは風呂が好きではなかった。
狭い場所は嫌いだし、熱いのも嫌いだし、頭を洗うと耳に水が入ってガサガサいうのも嫌いだ。
それに何より、風呂に入っている間、少年と離れなければならないのが嫌だった。
今すぐ少年と触れ合いたい気持ちと、汚れた体で少年に触れてはいけないという気持ちが葛藤し、アレックスの視線が自分と少年を交互に行き来する。
そんなアレックスの内心を理解したのだろう。
「アレックス、彼と一緒に入ればいいじゃないか」
……………………
………………
…………アレックスは視線を少年に固定すると、こくりと頷いた。
◇
「……秘技、水走り」
シタタタタタタタタッ
「○◇%! #△×&$!」
ルナが湯船の上を駆け抜け、水しぶきがアレックスの顔にかかった。
もはやマナー違反だとかそれ以前の問題だ。
だがアレックスは手で顔を拭うと、何事もなかったかのように肩まで湯に浸かって、ほぅ、と息を吐いた。
以前のアレックスであれば、怒声を上げてルナを追い掛け回していたところだ。
だが今は、不思議と怒りが沸いてこない。
むしろルナの奇行を見て喜んでいる少年を眺めていると、なんだか自分まで楽しい気持ちになるくらいだった。
「どうだ、アレックス。いいものだろ? こうやって皆で風呂に入るのも」
「……あぁ、そうだな」
リディアに声をかけられ、アレックスは素直に答えを返した。
嫌いだったはずの風呂に入っているのに、心が乱されない。
むしろ、心地いいとすら思っている。
目覚めた時からなんとなく違和感を感じてはいたのだが、今はその正体がはっきりと分かっていた。
常に心の底で渦巻いていた怒りが、嘘のように静まり返っているのだ。
もちろん、完全に消えた訳ではない。
アレックスの記憶は、彼女に『許すな』と訴え続けている。
幼いアレックスを捨てた両親。
裸のまま檻に入れ、見世物にした人間たち。
それらを思い出せば、やはり怒りは沸き上がってくる。
だが、長続きしないのだ。
嵐が過ぎ去った後に訪れる晴天のように、暖かな光がアレックスの心を照らしていた。
その光が、沸き上がる怒りをすぐに消し去ってしまう。
「□#○×&?」
太陽のような笑みを浮かべて、少年がアレックスに話しかけてきた。
何を言っているのかは分からないが、どうやらなにかやりたいことでもあるようだ。
アレックスは一も二もなく頷いた。
少年にやりたいことがあるというのなら、それを止めるつもりなどアレックスにはない。
すると少年は、嬉しそうに微笑んでアレックスの頭に生えた虎耳に手を伸ばしてきた。
「んっ」
少年の手が虎耳に触れ、形を確かめるように指先でゆっくりとなぞっていく。
「んっ♡ んっ♡」
気持ちよくて、思わず声が漏れた。
もっと触って欲しいのに、耳が勝手にピクピクと動いてしまう。
アレックスがなんとか耳の動きを抑えようと耐えていると、
「なぁに? 今朝はあんなに積極的に甘えてたのに、今は我慢してるの?」
体を洗っていたミゼルが湯船に戻り、声をかけてきた。
「け、今朝は、んっ♡ 疲れてたし、寝て、なかったから、ふっ♡ 頭が、働かなかった、だけで、あっ、あっ♡」
「頭が働かなかったから、素直になれたんでしょ?」
「そ、それは、んっ♡」
ミゼルの言うとおりだ。
少年に父親の影を見て甘えたのは、眠気と疲れによって朦朧としていたからだが、間違いなくアレックスの本心でもあった。
今だって、仲間の目がなければ少年の胸元に顔をうずめ、声を抑えることなく甘えていただろう。
「いいんだ、アレックス。それでいい。今まで甘えられなかった分、彼にいっぱい甘えていいんだ。私たちの目が気になるというのなら…………後で二人きりになった時に、思い切り甘えればいい」
リディアの言う『二人きり』の意味が、いまさら分からないアレックスではない。
耳をいじられ続けながら、アレックスは期待のこもった視線を少年に送り、熱い息を吐き出した。