どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた 作:布施鉱平
風呂から上がり、皆で簡単な食事を済ませたあと、アレックスは緊張した面持ちでソファーに座っていた。
近くにいるのはリディアとミゼルだけ。
ルナと少年は、キッチンで食器を洗っている。
なんでも、少年は食後の食器洗いを自ら進んでやってくれているらしい。
普通、少年のように可愛らしい男というのは女に奉仕されるのが当たり前で、炊事や掃除洗濯なども女にやらせるものだ。
だがあの少年には、『女を使ってやろう』というような傲慢さが微塵も存在しなかった。
むしろ自分を使ってくれと言わんばかりに、リディアたちが日常の雑事をこなしているとやる気に満ち溢れた瞳で近寄ってくるのだそうだ。
それが嘘や誇張ではない証拠に、キッチンからは少年の鼻歌が聞こえてきていた。
少年は自分が役に立てることに喜びを感じ、労働を楽しんでいるのだ。
家庭的なその姿は、まさにアレックスの理想の父親像そのものだった。
リディアとミゼルは、そんな身も心も天使のような少年が奏でる不思議な旋律に、うっとりと目を細めて聞き入っている。
アレックスも
だがリラックスするどころか、アレックスは緊張の極地にあった。
『後で二人きりになった時に、思い切り甘えればいい』
風呂場でリディアに言われた、その時が近づいているのだ。
もちろん、嬉しくないわけではない。
朝の出来事が頭の中で繰り返し再生されるたびに、アレックスの心は幸福に包まれた。
頭を優しく撫でてくれた指の感触。
間近で嗅いだうっとりするような匂い。
あの至福の時間をまた味わうことが出来るのだと思うと、尻尾がひとりでにパタパタと動いた。
だが同時に、それが緊張の原因でもあった。
あの時少年に甘えられたのは、強行軍と睡眠不足と極度の興奮が合わさって、意識が朦朧としていたからなのだ。
今も興奮してはいるものの、睡眠と入浴のおかげで意識がはっきりしている。
いざ甘えようと思っても、女らしくぶっきらぼうに生きてきた分、アレックスには甘え方など分からなかった。
もし妙なことをして少年に嫌われたら…………
そう思うと、体の芯に氷でも突っ込まれたかのような寒気が走った。
アレックスにとって少年に嫌われるということは、そのまま人生の終わりを意味するのだ。
「…………ふぅ~~っ」
なんとか思考をポジティブな方向に切り替えようと、アレックスは一度大きく息を吐き出した。
あの時も無様な姿を晒したが、それでも少年は受け入れてくれたのだと自分に言い聞かせる。
だが、緊張の原因はそれだけではないのだ。
いまアレックスを最も緊張させている原因、それは──────
────セックスだ。
リディアと少年のセックスを見たその瞬間から、アレックスの肉体は完全に発情していた。
膣内は常に濡れそぼり、体を動かすたびにアレックスにしか聞こえない水音をヌチヌチと響かせている。
だが、体の準備がどれだけ出来ていても、心はそうではない。
アレックスは、処女なのだ。
しかも、意図して性的なものを身の回りから排除し続けてきた、こじらせ処女なのだった。
これまでの人生、アレックスはセックスに対して憧れを抱くのではなく、自分とは無関係なものだと切り捨てることで心の折り合いをつけてきた。
だからこそ、今更になって芽生えた思春期の少女のような慕情と性欲が、アレックスの精神をこれ以上ないくらい不安定にさせていた。
体を揺らすほど待ち遠しいと思う反面、今すぐ逃げ出してしまいたいような気持ちも湧き上がってくる。
緊張、不安、興奮、期待、恐怖、劣情…………
様々な感情が混じり合い、アレックスの思考をかき乱す。
そう簡単には、冷静にはなれそうになかった。
だが、時間はアレックスの都合に合わせてゆっくり進んではくれない。
「……終わった」
少年と皿洗いを
当然、その後ろに少年を引き連れて。
◇
「……………………」
アレックスは、少年と向かい合ったまま黙り込んでいた。
なにか喋らなければとは思うのだが、緊張のせいで声が出てこない。
ルナと少年がリビングに戻ってきたあと、リディアはアレックスと少年をひとつの部屋に押し込むと、「頑張れよ」と小さく一言だけ告げ、出て行ってしまった。
今、アレックスは少年と二人きりである。
部屋に入ってからずっと床を見ていたアレックスは、恐る恐る顔を上げて少年を見た。
ガチガチに緊張するアレックスとは対照的に、少年には恐れる様子も嫌がる様子も見えない。
むしろ恥ずかしそうな、それでいて期待しているような瞳でアレックスのことを見上げていた。
そんな少年の姿を見た瞬間、アレックスの心に爆発的な感情が込み上げてきた。
それは、緊張や不安を全て吹き飛ばすほどの愛情だ。
少年の全てが愛おしかった。
今すぐ少年と繋がりたかった。
だが、だからこそアレックスは動けなかった。
少年を
「…………っ」
アレックスは歯を食いしばって、その衝動を押さえ込んだ。
アレックスの牙は、並の獣人とは比べ物にならないほど鋭い。
たとえ軽く触れただけでも、少年の柔らかい肌など簡単に貫いてしまうだろう。
先祖返りであるアレックスにとって、その噛み付き衝動は抗い難いほど強い誘惑だったが、それに負けるわけにはいかなかった。
しかしこのままでは、少年に触れることすらできない。
いっそのこと、こんな牙など引き抜いてしまおうかとアレックスが思ったその時、
「……とぅっ」
急に部屋の扉が開かれ、ルナが中に飛び込んできた。
「◇×%!」
驚く少年に小さく手を振りながら、ルナがアレックスの目の前まで歩いてくる。
そして…………
「……バカ虎、経験者であるわたしが手伝ってあげる。……服を脱いで後ろを向いて」
…………そんなことを言ってきた。
唖然とするアレックスの服を、ルナが脱がしていく。
といっても、肩掛けと腰巻だけなので一瞬だ。
あっという間に生まれたままの姿にされたアレックスの体を、少年が食い入るように見つめてくる。
大きな胸、割れた腹筋とその視線は下がっていき、金色の陰毛が生え揃ったアレックスの股間で止まった。
ゾクリ、と背筋を快感が駆け抜け、尻尾の毛が開いた。
太ももの内側を、溢れ出した愛液がツゥっと流れていく。
「……バカ虎、回れ右」
言われるままに、アレックスは動いた。
普段であればルナのいいなりに動くことなどない。
だが、今はそれが正しいことなのだと、ルナの声色から感じ取っていた。
「……ベッドの上に四つん這いになって、枕に顔を押し当てて」
ルナの声に従い、アレックスは柔らかい枕に顔を沈める。
すると、枕の中から脳を蕩けさせるような匂いが漂ってきた。
…………少年の匂いだ。
「……あとは、彼に任せておけば大丈夫。……もし噛みたいのを我慢できなくなったら、その枕を噛んで」
枕元に近寄って来てそう言い残すと、ルナは部屋を出ていった。
ドアが閉まる音が響き、束の間の静寂が訪れる。
アレックスの耳に聴こえてくるのは、自分と少年の荒い息遣いだけ。
枕の中に何が仕込まれているのか、漂ってくる少年の匂いは強く、呼吸をするたびにアレックスの体の奥を熱くした。
少年に向けられている剥き出しの秘部は、すでに溢れた愛液でテラテラと濡れ光っている。
少年の気配が一歩近づいてきて、アレックスの腰がビクリと震えた。
一歩、また一歩と、少年の気配が近づいて来る。
そして、キシッという小さな音を上げて、ベッドが少しだけ沈んだ。
もはや耐え切れず、アレックスは枕を強く噛み締めた。
少年の匂いがする枕を噛むのは罪悪感を感じるが、同時に何とも言えない心地よさも込み上げてくる。
────そして、次の瞬間、
「~~~~~~~っ!!?♡♡♡」
生まれて初めての衝撃に、アレックスはパニックを起こしそうになった。
少年が何をしたのか、自分に今何が起こっているのか、アレックスには分からない。
分かるのは、アレックスの性器をヌルヌルとしたものが這い回っているということだけだった。