どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた 作:布施鉱平
彼女たちと少年(マリアベル)1
瞼の裏に優しい光を感じ、マリアベルは目を覚ました。
薄いレースのカーテン越しに差し込んだ朝日が、その白く小さい顔に光を当てている。
心地よい目覚めだった。
何年もの間彼女を苦しめていた悪夢も、ここ数日は見ていない。
それどころか今日マリアベルが見た夢は、亡くなった両親が寄り添い合いながら微笑み、彼女の幸せを祝福してくれるというものだった。
(お父さん、お母さん…………)
ベッドから起き上がり、胸の前で手を組み合わせ、マリアベルは両親の冥福を祈った。
救うことができなかったという罪悪感は、消えていない。
だがその大部分は、心に差した光とともに『今度こそ守ってみせる』という使命感に変わっていた。
絶望は希望に。
悲しみは喜びに。
虚しさは充足感に変わった。
それだけではない。
マリアベルにとって唯一無二の存在となった『天使様』は、一生知ることはないだろうと思っていた『女の悦び』までもを彼女に与えてくれたのだ。
純白の夜着になだらかな
今日は、彼女の番なのだ。
◇
身だしなみを整えてリビングに下りたマリアベルは、細い顎をすっと上げると、リビングの壁に掛けられた巨大な
額の中に入っているのは、仲間との話し合いによって明文化された、これから生活していく上でのいくつかの決まりごとが
全七条からなるそれは『天使七ヶ条』と題打たれ、彼女たち全員の行動規範となっていた。
その内容は、以下のものになる。
────────天使七ヶ条────────
○第一条──少年の安全、少年の健康、少年の自由、少年の願いを最優先すること。
○第二条──少年の世話|(をさせてもらえる)係は一日交代とする。何らかの理由により自分の番が飛ばされた場合は、日を改めてその権利を得るものとする。
○第三条──少年の
○第四条──少年と夜を共に過ごす権利は、上記の世話・教育係が得るものとする。
これは少年に性行為を強要するものではなく、少年にその気がない場合には潔く諦めなければならない。
ただし、直接的な行為でなければ、誘惑は可とする。
例)扇情的な衣服を着用する、自慰行為を見せつける等
○第五条──週七日のうち二日間は、基本的に少年の自主性に任せた上で、五人が平等に少年を愛でる日とする。
少年の奪い合い、もので釣る行為等は厳禁。
○第六条──上記五条に違反した者はすみやかに裁判にかけられる(陪審員最大四名)。
その裁判で有罪と判断された場合、罪の重さに応じて以下の罰を受けるものとする。
・第五級──世話係、夜の権利の一週差し置き。
・第四級──世話係、夜の権利の一ヶ月差し置き。
・第三級──世話係、夜の権利の半年差し置き。
・第二級──一年間の別居|(流刑相当)。
・第一級──追放|(死刑相当)。
○第七条──上記第一条に従い、二~六条の全ての決まりごとは、少年の判断によって覆されるものとする。
────────────────────────
掲示された条文を読み返し、マリアベルは身の引き締まる思いで一度頷いた。
自分たちで決めた事とはいえ、この
少年との触れ合いを制限されることも十分に重い罰だが、特に第一級である『追放刑』など、想像するだけで全身に震えが走るほどだった。
もう彼女たちは、少年から引き離されれば生きていけない。
まず心が死に、それに引きずられるように肉体も死んでしまうだろう。
もっとも、第一級の刑罰などは念の為に決めておいただけのもので、誰かが少年を独占したいがあまりに仲間を殺そうとでもしない限りは、最悪の罰が下されることなどないはずだ。
それでも、その可能性がほんのわずかにでもあるというだけで、彼女たちが自らの行動を律するには十分な効果があった。
マリアベルを含めた
人類でも頂点に近い実力を持つ者たちなのだ。
もし彼女たちが欲望のままに行動すれば、普通の人間にそれを抑えるだけの力などない。
ましてや、相手がか弱い少年ならばなおさらである。
だからこそ、彼女たちは自ら従うべき規範を作り、自らにその
少年を愛するあまり、その感情が暴走してしまわないように。
そして愛されたいがあまり、少年の自由を奪ってしまわないように。
◇
────その後、少年の引き継ぎを終えたマリアベルは、朝風呂から上がったばかりでほんのりと赤く色づいた肌をしている少年の前に膝をつくと、その黒く艶やかな瞳に視線を合わせ、
「おはようございます、天使様。今日は私がお世話をさせていただきますね」
そう言って、ニッコリと微笑んだ。
「○&×▽#」
少年も微笑みを返し、マリアベルには理解のできない言葉を発する。
おそらくは、朝の挨拶をしてくれたのだろう。
「はい、おはようございます。では、リビングの方に参りましょうか」
少年に対してもう一度挨拶を返し、マリアベルは少年の柔らかい手を引いてリビングに向かった。
そして二人で一緒にソファーに腰掛けると、朝食が出来上がるまでの時間を、天窓から入る光を浴びながらまったりと過ごした。
マリアベルが今日の少年の世話係ではあるが、実際のところ、特にやることがないのが現状だ。
なぜなら、基本的に少年は自分のことは自分でやろうとするので、マリアベルたちが手を貸すような機会があまりないからだった。
男であれば────特に少年のように見目麗しい男であれば、女に身の回りの世話を全て任せ、自分は何もせずに
しかし少年はそれをよしとせず、できることは自分でやり、そのうえ炊事洗濯といった家事までも手伝おうとしてくれる。
なので、世話係がすることといえば『少年が家事を手伝ってくれるのを手伝う』という、やや
「朝食が出来たぞ。すまないが、皆を呼んできてくれるか?」
朝食の準備を終えたリディアが、リビングのテーブルに食事を運びながら少年に声をかける。
「□&$%」
それに言葉を返し、少年はソファーからぴょんと飛び降りると、未だ部屋で眠っている仲間たちのもとへ朝食の知らせをしに行った。
世話係のマリアベルも、当然それについていく。
この『寝過ごしている者に食事の知らせをしに行く』というのも、つい最近出来た少年の仕事の一つだ。
少年は、まず一番近い場所にあるミゼルの部屋をノックし、返事がないことを確認すると、扉を開けて中に入り、ベッドに
「○&×▽#(ゆさゆさ)」
「…………」
「×□&○$?(ゆさゆさ)」
「…………」
「○&×▽#、○&×▽#(ゆさゆさ、ゆさゆさ)」
「…………あ、おはよう。今日も起こしに来てくれたのね、ありがとう♡」
三度目にようやく目を覚ましたミゼルが、満面の笑みをその顔に浮かべながら少年の頬にお礼のキスをした。
少年は照れながらも、もう一度「○&×▽#」といってミゼルの頬にキスを返すと、次の人物を起こすべく部屋を出て、隣にあるルナの部屋に入った。
そして、同じことを繰り返す。
「○&×▽#(ゆさゆさ)」
「…………」
「×□&○$?(ゆさゆさ)」
「…………」
「○&×▽#、○&×▽#(ゆさゆさ、ゆさゆさ)」
「……ん、おはよう。……起こしてくれてありがとう」
ルナも、ミゼルと同じように三度目で目を覚まし、少年と互いの頬にキスを交わし合った。
…………もう、お分かりだろう。
これは全て、このやり取りを行いたいがための、彼女たちの茶番であった。
ミゼルにしろルナにしろ、実際には二~三時間前に起きて既にシャワーを済まし、歯も磨き、準備万端で少年が起こしに来るのを待ち構えていたのである。
これは、数日前に寝過ごしたアレックスを少年が起こしに行った時の出来事が発端となっていた。
その時にアレックスと少年が
以降、前日と翌日の当番以外の者は寝たふりをして、少年に起こしに来てもらうのが習慣となっていた。
「○&×▽#(ゆさゆさ)」
「……んにゃ? ……んふぅ♡ おはよ、おとうさん♡(ぺろぺろ)」
本当に少年が起こしに来るまで寝ているのは、アレックス一人だけである。
少年の後ろに控えていたマリアベルは、ようやく出番が来たとばかりに腕まくりをすると、アレックスに抱きしめられ顔中を舐め回されている少年の救出に取り掛かかるのだった。