どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた 作:布施鉱平
その後、玄関先でセックスを始めてしまったリディアと少年は、場所をリビングの敷物の上に移して愛し合い続けた。
処女と童貞、ファーストキス、ファーストアナルの全てを短い時間の間に喪失し、体力の限界で少年が力尽きるまで互いに
今、リディアは寝室のベッドに少年を運び、その横に添い寝をしている。
風呂には入っていない。
少年に注がれた精液を流してしまうのが、もったいなかったからだ。
もう少し、幸福な余韻に浸っていたかった。
どうせだから翌日の朝、少年が起きてから一緒に風呂に入ろうと計画を立てつつ、リディアは少年の黒髪を撫で上げる。
本当に、可愛らしい顔をした少年だ。
最高級の娼館にも、ここまで整った容姿の少年はいないだろう。
その少年が自分のような醜い女に欲情してくれて、しかも規格外のチンポの持ち主だった…………
こんな奇跡があるだろうか。
リディアは生まれてこの方、神を恨みこそすれ信じたことなどなかった。
だが今は、この少年が哀れな自分のために遣わされた天使なのではないかと、半ば本気で考えていた。
そして、もしこの少年が天の使いだとするなら、その恩恵を受けるべきは自分ひとりだけであっていいはずがないとも考える。
リディアの頭に浮かんだのは、苦楽を共にしてきた仲間たちの顔だ。
リディアと同じように醜い外見を持って生まれ、人から忌避されながら生きてきた仲間たち。
傷つき、打ちのめされながらも今まで生き抜いてきた強い女たち。
彼女たちも、当然のごとく全員処女だ。
人から愛されたいという強い渇望を抱きながらも、リディア同様に、その機会を与えられることは一度としてなかった。
だがもし、もしこの少年が彼女たちも愛することができたなら?
少年が、特別リディアの外見を好む特殊性癖の持ち主なのではなく、醜いとされる女全般に愛を注ぐことのできる存在だったなら?
そう考えた瞬間、リディアの胸に小さな痛みが走った。
だがそれ以上に、仲間たちも自分と同じように救ってもらいたいという希望が沸き上がってくる。
もう一度少年の顔をジッと見つめ、その唇に優しくキスを落としたあと、リディアはベッドから抜け出した。
そして、スキル〈
リディアは頭の中で文章を作成したあと、仲間たちに向かってそれを飛ばした。
リディアの仲間は現在各地に散っているが、このメッセージを見れば飛んで帰ってくるだろう。
自分の行いに後悔はなかった。
もう少年の愛を独り占めすることはできないだろうが、それでも構わない。
信頼する仲間たちとなら、この奇跡のような少年を守りながら仲良くやっていけるだろう。
リディアは頬に笑みを浮かべると、愛しい少年の横たわるベッドへと戻っていった。
◇
翌朝。
リディアは扉を叩く音で眠りから覚醒させられた。
そしてはっとした表情になると、慌てて周囲を確認する。
だが自分の横で幸せそうに眠る少年の姿が目に入ると、ほっとため息をついて胸を押さえた。
夢ではなかったのだ。
あの奇跡も、あの快楽も、全ては現実の出来事だった。
少年の髪を撫でつけ、リディアは静かにベッドから降りた。
未だにノックの音は続いているが、待たされている割には随分控えめな音だ。
その音で、リディアは誰が扉を叩いてるのかすぐに分かった。
顔に笑みを浮かべながら玄関に向かう。
そして扉を開けると、そこにいたのは予想した通りの人物だった。
「あ……お、おはようリディア。その、昨日メッセージを見て……」
「おはよう、ミゼル……一体いつから居たんだ?」
立っていたのは、リディアの率いる冒険者パーティ『
リディアが訪れた仲間に疑問の声を投げかけたのは、彼女の黒い魔術師用ローブがじっとりと夜露に濡れ、その体に張り付いていたからだ。
「あ……その、昨日の深夜くらいから……」
「その時に扉を叩くなり、私に〈
「でも……男の子がいるなら……起こしたくなかったし……」
もじもじと、体の前で指をこすり合わせるミゼル。
もう少し自信を持って行動すれば、冒険者としても魔術師としてもさらに高みに上ることが出来るのだろうが、仕方ないかとリディアは苦笑を漏らした。
ミゼルは膨大な魔力と知識を有する上に貴族の生まれなのだが、残念なことにその外見はリディアに劣らないくらいひどいものだった。
まずなんといっても目につくのは、その肥大しすぎた
生きていく上で全く必要のない無駄な肉が胸と尻にムチムチと肉付き、そのくせ胴体部分はほっそりとくびれている。
胸、腹、尻が同程度に太っていることこそ美しいとされるこの世界で、彼女のプロポーションは醜悪ですらあった。
髪こそ王家に近い貴族の娘であるが故の黒色だったが、残念なことにクセのないまっすぐなストレートであり、その下にある顔もまたひどかった。
細い眉、細い鼻、細い顎、細い首…………
そして憂いを帯びたように濡れる藍色の瞳の下には、極めつけの泣きぼくろ。
妖艶さの対極にあるような容姿である。
その外見のせいで、ミゼルは
次期当主は姉が継ぐから問題はないし、ミゼルに発現した優れた力を後世に残そうにも、彼女を抱くことのできる男がいないからだ。
家族にすら捨てられたミゼルが、人の目を恐れて引っ込み思案な性格になっても仕方のないことだろう。
「……それで、あの、本当なの……?」
リディアがミゼルの人生に思いを馳せていると、おずおずとミゼルが問いかけてきた。
その声や表情には、期待以上に恐れが強く現れている。
無理もない。
今まで幾度も希望を抱いては、その度にそれを打ち砕かれてきたのだ。
自分達がどれだけ忌み嫌われる存在なのかは、これまでの人生が証明している。
いくら信頼を寄せるパーティーリーダーからのメッセージだとは言え、ミゼルはそれを鵜呑みにして素直に喜べるほど平和な脳みそは持っていなかった。
もし心から喜んでおいてそれが間違いだと分かったら、今度こそ立ち直れなくなってしまうからだ。
いざという時に心を守るための自衛手段として、ミゼルは『期待しない』ことが日常になっているのだった。
そんなミゼルの心を、リディアはよく分かっていた。
なぜなら自分も同じだからだ。
だからこそ、彼女たちの絆は強い。
「ああ、本当だ。さあ入れ、直ぐに彼に会わせてやる」
リディアは冷え切ったミゼルの肩を抱くと、家の中に招き入れた。
その体が細かく震えていたのは、決して寒さのためだけではないだろう。
その震える肩を
ベッドの上ですやすやと眠る少年の姿を見た瞬間、ミゼルの体が一度、強く震えた。
「うそ……男の子がいる……すごく……すごく可愛い男の子が……」
両手で口を抑え、小さな声でミゼルが呟く。
少年を起こさないようにという配慮だろう。
「当然だ、私は嘘などつかない」
「ねえ、ほんとに、ほんとにあの子と……?」
「ああ、ヤった。前だけじゃない、口に咥えたし、後ろでもヤった」
「う、後ろでもっ!?」
思わずミゼルの声が大きくなる。
アナルセックスなど、性欲に満ち溢れた女たちの妄想による産物なのだ。
実際には女の尻穴に欲情するような男など皆無だといっていい。
「え、し、しかも前でも後ろでもってことは……」
「ああ、あの子の持続力は驚異的だ。回復力も凄まじい。結局私は前と後ろ合わせて六回はヤったな」
「ろ、六回も……」
ミゼルが絶句する。
そして膝から崩れ落ちると、えぐえぐと泣き出してしまった。
「ひっく、夢じゃ……夢じゃないんだよね、リディア。あの子は、現実に存在してるんだよね?」
「ああ、そうだ。あの少年は現実だ」
「私も……私も、愛してもらえるかなぁ、あの可愛い子に、オチンチン入れてもらえるかなぁ」
「大丈夫だ、きっとな」
確証はない。
だが、リディアには自信があった。
あの少年ならきっと、ミゼルを前にしても悪い感情など持たないだろう。
それどころか、すぐにもあの凶悪なチンポを硬くするに違いない。
「…………もし…………」
リディアを見上げたミゼルが、涙を流しながら呟いた。
「もし、私があの子に拒絶されたら…………そのときは、お願い、リディア。
私を────殺してね」
「…………ああ、分かった」
あの少年はリディアにだけではなく、ミゼルにとっても最後の希望になったのだ。
もしそれを失ってしまったら、その先の人生を生きていくことなどできないだろう。
リディアはミゼルに希望を与えた責任として、もしもの場合にはその願いを叶えることを約束した。
「ありがとう、リディア」
ミゼルが儚げに笑う。
その表情を見て、リディアは願わずにはいられなかった。
どうか少年がミゼルを拒絶しませんように。
そして、どうか少年がミゼルを愛してくれますようにと。
二人は共に同じ願いを強く抱きながら、安らかに眠る少年の顔をずっと眺め続けていた。
少年の目が覚めるまで、二時間半も。