どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた 作:布施鉱平
シャーラが小屋に到達してから、数十分後。
コココン、ココン、コン、コン
と、独特なリズムで小屋の扉が叩かれた。
近づいてくる足音や気配だけでも、シャーラには誰が来たのか分かっていたが、念の為腰にぶら下げたナイフに手を添えながら、シャーラは扉を開けた。
「はぁっ、はぁっ……あ、姉御、合図を確認したんで、急いで来たっす」
現れたのは、シャーラの仲間であるドワーフ族のマァルだ。
マァルは息を切らし、額には汗をかいている。
シャーラが小屋に辿り着くまでの間に上げた
「急ぎすぎて、忘れ物はしてないだろうねぇ」
シャーラがからかい気味にそう言うと、
「だ、大丈夫っす! 言われたものは、ちゃんとこれに詰めてきたっすから!」
マァルは肩から下げた大きめの『
「ならいいさ。じゃあ、すぐ移動するから、あんたは
シャーラが親指で自分の背後を示し、マァルに指示を出した。
「了解っす!」
マァルは素直に指さされた方向に歩いていき…………
「な、な、な…………なんすかこれ~~~~っ!!?」
そして、ベッドの上で眠る天使のような少年の姿を見て、驚愕の声を上げることになった。
◇
「────じゃあこの子は、ずっとそんな辛い目にあってたんすか……」
シャーラにざっと今回の依頼の説明を受けたマァルは、ひどく同情したような顔をすると、肩ごしに背負っている背嚢を見つめながらそう言った。
「アタシは薬で仮死状態だったから、直接見たり聞いたりしたわけじゃないけどね。だけど、ほぼひと月アタシが目を覚まさなかったってことは、それだけこの子が束縛されてたってことで間違いないさ。
この子が
マァルのとなりを歩くシャーラも、ため息を吐きながら少年の入った背嚢を優しく撫でた。
今はその姿を見ることはできないが、天使のように美しい少年なのだ。
両親からだけではなく、出会う人全てから愛情を注がれながら育ったことだろう。
それなのに、盗賊に襲われ、奴隷に落とされ、そのうえ好色な冒険者の性奴隷としてひと月も過ごしてきたのだ。
最悪の場合、少年の心が壊れていることも覚悟しなければならないと、シャーラは考えていた。
「早く両親に会わせてやるのが、この子にとっては一番いいんだろうけどねぇ……」
「でも、姉御。セイクラートまで歩いて行くなら、でかい街道を進んだって十日はかかるっすよ?
自分らみたいに人通りの少ない道や、道すらない森の中を選んで歩いてたら、半月以上かかっちゃうと思うっすけど……」
マァルの言う通り、シャーラは依頼人の待つ『貿易都市セイクラート』までの道のりを、遠回りになるが人通りの少ない
それはもちろん、なるべく人目に触れたくないという理由からだ。
少年を奪われた『
彼女たちには金があり、そして『A級冒険者』という地位もある。
おそらく、すでに街道やそれを繋ぐいくつかの街には、監視の目が光っていると考えて間違いはなかった。
「だから、あんたを呼んだんだよ。マァル」
「うっ……」
シャーラの言葉に、マァルは声を詰まらせた。
自分の役目がただの荷物持ちだとは、マァルも思ってはいない。
街道も通らず、街にも寄らないとなれば、当然シャーラたちは野宿せざるを得ないことになる。
それはつまり、少年も自分たちと一緒に野宿をする、ということなのだ。
「やっぱり、自分がこの子のお世話をするっすか……?」
「当たり前だろ? アタシがやるわけにはいかないからねぇ」
一見して異様な外見のシャーラに比べて、マァルは顔の造形以外は比較的
前髪で顔の上半分を隠してしまえば、街中を歩いていても異物を見るような視線を向けられることもない。
だからこそ、養護施設ではシャーラの代わりにマァルが子供たちの面倒を見たりしていたのだが……
「うぅ……っ、ちょっとこの子は、可愛すぎて荷が重いっすよ……」
それが、マァルの正直な思いだった。
◇
「…………もうそろそろっすかねぇ……」
日が落ちる前にテントを張ったマァルは、柔らかい毛布の上に少年を横たえ、その顔を眺めながら少年が目覚める瞬間を待っていた。
少年は『天使そのもの』といった表情で、すやすやと眠っている。
「うぅ……か、かわいいっす……」
あらためて少年の顔をまじまじと見つめたマァルは、顔を赤らめながら呟いた。
おそらく、『世界で最も美しい種族』と言われているドワーフ族にすら、これほどの美貌を持つ者は存在しないだろう。
「ほんとに、自分なんかがこの子のお世話をして、いいんすかねぇ……」
マァルには、自信がなかった。
養護施設で何人もの孤児たちの面倒を見てきたという実績はあるものの、それとこの少年の世話を同列にできるわけがない。
もちろん養護施設の子供たちを卑下しているのではなく、少年の可愛らしさが異常だからだ。
見ているだけでどうしようもないほどの愛おしさが込み上げ、心臓が高鳴り、呼吸が荒くなる。
マァルは面倒を見てきた孤児たちを自分の
それは慕情であり、憧憬であり…………そして、情欲でもあった。
「うっ、うぅっ……」
マァルは太ももをもぞもぞとこすり合わせながら、下唇を軽く噛んだ。
眉をしかめ、股間に伸びそうになる手を必死に
体の奥が、疼いているのだ。
シャーラがテントから出て行ってしまい、少年と二人きりになってからずっとそうだった。
その疼きは少年を見つめれば見つめるほど高まっていき、今では
だからといってマァルには、少年から目を逸らすことができるほどの意志の強さも備わってはいなかった。
(このままだと、ほんとにヤバイっす…………取り返しがつかないことをしちゃう前に、自分で発散させちゃったほうが……)
余裕のなくなってきたマァルは、いっそのこと少年が目覚める前にサッと自慰を済ませてしまおうかと、服の上から自分の胸や股間に手を伸ばした。
その瞬間────
「…………△$%#?」
「ひぇっ!?」
少年がうっすらと目を開け、マァルを見ながら寝ぼけたような声で何かを呟いた。