どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた 作:布施鉱平
────リディアたちが少しずつ少年の『誘拐』について情報を絞り込んでいく一方、自分たちの
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「……大丈夫っすよ。姉御が帰ってきたら、ちゃんとキミのこと話し合うっすから」
少年が紙に書いた内容を確認した、すぐ後。
言い知れぬ不安が込み上げてきたマァルは、すぐに外に出てシャーラと話し合おうとしたのだが、そこには『少し周りを偵察してくる』と書かれた一枚の紙があるだけで、肝心のシャーラの姿は見当たらなかった。
仕方なくテントに戻ってきたマァルだったが、基本的に仕事の計画や作戦の立案を行っているのはシャーラだったため、マァルひとりで良い考えが浮かぶはずもない。
マァルに出来ることといえば、獣人にも匹敵するドワーフ族の怪力を生かした、力仕事くらいなものなのだ。
そのため────
「…………」
「…………」
少年にひと声かけたあと、テントの中はまた気まずい沈黙に支配されていた。
もともと声を掛け辛かった少年の美貌に加え、確信とはいかないまでも、マァルは自分たちの行いに対して疑問を抱いてしまっている。
その後ろめたさや罪悪感が、これ以上少年に話しかける切っ掛けを、マァルから奪ってしまったのだ。
(……困ったっす)
ちらちらと視線を送りながら、マァルは少年に気づかれないように小さな溜息を吐いた。
気まずいなんてものではない。
少年はまだ自分の置かれた状況を理解していないようだが、ふたりの関係は誘拐犯とその被害者…………かも知れないのだ。
いや、少年の反応を見ている限り、十中八九そうなのだろう。
少年からは、虐げられていた場所から解放された喜びなど、微塵も感じられなかった。
それどころか、紙に
もし少年が性的な欲求を満たすための道具として扱われていたのだとしたら、そのような表情を浮かべるはずがない。
(姉御、また騙されちゃったんすかねぇ……)
マァルは育ての親であるシャーラのことを全面的に信頼しているが、同時にシャーラが『家族』や『親子』というものをチラつかされると弱い、ということもよく知っている。
以前にも『娘が難病を患ってしまって……』という商人の依頼を受け、その治療薬の材料として必要だという希少な薬草を手に入れるため、危険な魔獣の生息する森を命懸けで探索したことがあった。
その依頼はなんとか無事に成功させたものの、
それ以降、シャーラも依頼人の情報を調べるなど気をつけるようにはなっていたのだが、おそらく今回の依頼人はうまい具合に真実と嘘を混ぜ合わせ、自分の話をシャーラに信じ込ませたのだろう。
「はぁ……」
また一つ小さな溜息を吐くと、マァルは自分用に持ってきた
ドワーフ族の血がそうさせるのか、マァルは熱心な
この気まずい空気と罪悪感を紛らわせるには、もはやシャーラが戻ってくるまで自分の世界に入っているしかない。
そう思ったのである。
────ポンッ、ポンッ
と、マァルは剣の刀身を布で
いま手入れをしている剣は、持っているコレクションの中ではそれほど
細かな傷が出来るたびに研ぎ直し、何年も大切に使ってきたものだ。
粉を打ち、布で拭い、粉を打ち…………
次第にその作業に没頭し始めたマァルだったが、ふと視線を感じたような気がして、顔を上げた。
すると、暗い表情で沈み込んでいたはずの少年の顔が、こちらに向けられているのが目に入った。
少年の目は興味深げにマァルを……というよりも、マァルが行っている剣の手入れを見つめているようだった。
「…………もしかして、剣に興味があるっすか?」
男が武器の手入れに興味などあるはずもないが、せっかく少年の方から与えてくれたこの機会を逃すまいと、マァルはダメもとで剣を差し出しながら尋ねてみた。
すると────
「○□$&×……?」
◇
────それから、約三十分後。
「これ! この握りのデザインが、なんとも言えずカッコイイんすよ!」
「×&□○!」
マァルと少年は、あっという間に意気投合していた。
少年が、意外なほどマァルの武器コレクションに食いついてきたからである。
「おっ、それに目をつけるとはなかなかっすねぇ! その剣は遺跡の奥で手に入れた業物で────」
「&△%$□!」
先程までの暗い雰囲気が嘘のように、テントの中にはマァルと少年の興奮気味な声が響いていた。
状況を考えれば、不謹慎であることは分かっている。
だがそれでも、マァルは楽しかった。
人生で一番かも知れないくらいに楽しかった。
なにせ天使のように可愛い少年が、剣の蒐集という女っぽい無骨な趣味に理解を示してくれるどころか、一緒になって楽しんでくれているのである。
女であれば誰もが夢想し、そして九割九分は叶うことのないシチュエーションだ。
それが目の前で、しかも自分がその夢物語の主人公となって繰り広げられているのだから、楽しくないはずがない。
「はぁぁ……楽しいっす」
思う存分武器の魅力を少年に語り、マァルは満足げに呟いた。
自分だけが楽しんでいるのではなく、少年もまた目を輝かせて楽しんでくれていることが、マァルには心から嬉しいのだ。
惜しむべきは、持ってきたのがコレクションの一部だけだったことだろう。
(アレもコレも持って来れば、もっと一緒に楽しめたのに……残念っす)
と、マァルは家に置いてきた剣の姿を思い浮かべながら、無意識に食料を詰めている
そしてその中から
剣の手入れをしながら合間に
「○△&$×?」
「もぐもぐ……ん? ああ、これっすか? 『ウォックの実』っていう保存食っすよ。大人向けの味なんで、美味しくないかもしれないっすけど…………食べてみるっすか?」
「□&%#」
「ふふっ、じゃあ、一粒だけっすよ。はい、あ~ん…………」
そしてマァルは、自分が食べているものにも少年が興味を示したことを嬉しく思い、深く考えずにその木の実を与えてしまった。
────種族が違えば、体の作りが違う。
そんなごく当たり前のことを、失念したまま。