どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた 作:布施鉱平
「あの方を
犯人の目星をつけたあと、貧民街から大急ぎで引き返して家へと駆け抜け戻ったマリアベルは、リビングに一人座っていたリディアを見つけるなり、大声でそう告げた。
「なんだとっ!? マリアっ、詳しく────」
その衝撃的な内容に反応したリディアもまた、声を荒げながら立ち上がり、マリアベルを問いただそうとするが……
ドゴンッ! ────ダダダダダダダッ!
「あいつはどこだっ!? 敵はどこだっ!?」
直後響き渡った破壊音に続き、荒々しい足音と共に姿を現したアレックスの
「どこだっ! どこにいるっ!」
そして、リディアとマリアベルが行き場を失った勢いを持て余して口を開閉させる中、アレックスは現れた勢いのままマリアベルへと詰め寄っていく。
「あっ、あのっ、アレックスさん、まだあの方が見つかった訳では……」
「グルルルルルッ!」
「落ち着けっ、アレックス! マリアが話せないだろう!」
歯を剥き出し、唸りを上げるアレックスだったが、勢いの落としどころを見つけたリディアに一喝されると、「フーッ、フーッ……!」と鼻息を荒くしながらも後ろへ引き下がった。
「彼が心配なのは分かるが、しばらくそのまま大人しくしているんだ。いいな? ……よし、じゃあマリア、分かったことを聞かせてくれ」
アレックスを静めたことで自らも冷静さを取り戻したリディアは、落ち着いた声色で────だが実戦さながらに真剣な表情で、マリアベルに問いかける。
「っ、はい」
それを受けたマリアベルもまた、表情を引き締めて語り始めた。
「まず、謝らなければならないのですが────」
と、マリアベルは犯人の魔力痕跡に覚えがあったが、確信を持たないまま皆に伝えては余計な混乱を引き起こすだけだと思い黙っていたことを告げ、謝罪した。
そして、どれだけその魔力の持ち主を思い出そうとしても思い出せず、苦しんでいたこと。
環境を変えてみたらどうかと外を歩いていた際に、天啓ともいえる光を見たこと。
その光に導かれた先で、犯人と同一の魔力による結界が張られた児童養護施設を発見したことなどを話し、
「────その魔力の持ち主が、施設の運営責任者であるB級冒険者の『黒蛇のシャーラ』というダークエルフなんです」
「そいつが敵かっ!!」
「落ち着けと言っただろう、アレックス! ほら、彼のパジャマだ」
「フーッ、フーッ…………フスフス」
「…………で、マリア。その施設の中は確認したのか?」
毛を逆立てて激高しかけるアレックスの顔に、彼女が手に持っていた少年のパジャマを強く押し当てて
「いえ、私だけでは心もとないと思ったので、すぐに引き返してきました」
「そうか……いい判断だ。〈
マリアベルの冷静な対応に、リディアは頷きを返した。
そして素早くスキル〈
「ルナには簡単な説明をして、その施設の偵察と、
まあ、おそらくはいないだろうが……とリディアは内心で付け加え、
「もう一件は、ミゼルに送った。まあ内容はルナのものと同じで、そこから指示の部分を抜いただけだが、彼女のことだから……」
────ブゥン
「あの子はっ! あの子はどこっ!?」
……すぐにも転移してくるだろう、とリディアが言い切る前に、彼女の言葉は予想通り転移して来たミゼルによって遮られることになった。
◇
「────そう、分かったわ」
落ち着きを取り戻したミゼルに(そのために洗濯カゴから少年のシャツを持ってきて顔に押し付けた)全てを説明すると、彼女はその藍色の瞳に理知的な光を宿しながら、静かに頷いた。
先程までは取り乱していたが、もともと聡明なミゼルだ。
彼女の『分かったわ』には、今後自分が何をすべきか了解した、という意味も含まれている。
「話が早くて助かる。では、すぐ準備にかかってもらえるか? 今まで主要な都市を転移しながら〈
「問題ないわ。でも、悠長に魔力を回復している時間が惜しいから、
「ああ」
ミゼルが何でもないことのように言い、リディアも顔色一つ変えずに快諾したが、
それをただの消耗品と同列に扱う
「じゃ、ルナが戻ってきたら教えて」
「分かった」
短い言葉を交わし、リディアからパーティー共有アイテムの入った
普通であれば高位の魔術師が複数人協力し合うことで行使が可能な、『大魔術』と呼ばれる位階の魔術を彼女一人で行う準備をするためだ。
「さて……」
と、ミゼルを見送ったリディアはリビングのソファーに戻り、ひとりごちる。
おそらく、少年は児童養護施設にはいないだろう。
黒蛇のシャーラという冒険者についてはまだ詳しく調べていないので何とも言えないが、さすがに単独でリディアたちA級冒険者に挑むほど愚かだとは思えない。
そこまで短慮なら、B級に昇格する前に死んでいるはずからだ。
となれば、その背後にいる黒幕の下に少年はいる────もしくは、運ばれている途中だということになる。
それがミゼルの予想通り、アイーシャという『フォワール公爵家』の血を引く貴族なのかどうかは分からない。
だが、最悪の事態を考えてこれからの作戦を練る必要が、リディアにはあった。
「…………」
────いや、すでに、考えてはいたのだ。
少年を探すために
そして、あるひとつの
その結論はリディアにとって
ルナが帰還し、ミゼルが
(快く受け入れてくれる…………ということはないだろうが、彼のためであれば皆も納得してくれるはずだ)
内心で決意を新たにしながら、リディアは睨みつけるようにして自宅の玄関を見つめた。
あとは、速さがものを言う。
黒蛇のシャーラが口封じで殺される前に、少年がまだ彼女と共にいる間に、こちらの準備を終わらせなければならない。
そのためには────
「……もどった。……あの子は、いなかった。……あと、指示されたものを持ってきた」
音もなく玄関の扉をすり抜けるように開けて入ってきたルナの声に、リディアは待ちかねていたようにソファーから立ち上がると、彼女の持ってきたものを受け取るべく歩み寄っていった。