どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた 作:布施鉱平
シャーラとマァルは黒鎧に指示されるまま丸一日歩き続け、軽い仮眠を取らされた後、また夜を徹しての強行軍を
そして、そこからさらに数時間も歩かされ続け、すでに夜は明けようとしている。
シャーラはまだ星が出ている間に、その位置を読むことで自分たちの現在地をある程度把握していたのだが、だからこそ不審を覚えずにはいられなかった。
このまま歩を進めれば、その先にあるのは『キャスク平原』と呼ばれる無人の野原だけだからだ。
(
この先どこに向かうにしても、あの場所を通る意味はない。
…………となると、あそこが目的地だってのかい?)
黒鎧の────というよりも、その背後にいるであろう黒幕の意図を、シャーラは掴めずにいた。
キャスク平原は一応王国の領土内にはあるものの、石が多く含まれている土壌のため開墾に向かず、位置的に街と街の中継点にもなり得ないため、建国以来ずっと捨て置かれているような場所なのだ。
手つかずの自然が残っているために、平原を仮の拠点として周囲の森に生えている薬効植物を採取する冒険者がいないでもないが、まさか拉致した少年を背負ったままそんなことをするはずもないし、その意味もない。
(平原……それなりの広さがあって、見晴らしもいい……何に使える?
……新しい広範囲魔術の実験……軍事演習……それくらいしか思いつくことはないけど…………っ、まさか!)
シャーラは、思い至った結論に思わず足を止めた。
到底信じがたいことではあるが、最も単純な答えこそが真実に一番近いということを、長い人生の中で経験則として学んでいる。
つまり……
「……あんたら、キャスク平原で戦争を仕掛けるつもりかい? ……
シャーラは振り返り、黒鎧に鋭い視線を飛ばしながら言った。
「えぇっ!?」
その問いに対して驚きの声を返したのは、もちろん隣を歩いていたマァルだ。
黒鎧は────
「…………」
シャーラの言葉に応えることなく、ただ「行け」と顎で
「…………っ」
唇を噛みながら前に向き直り、シャーラはまた、無言で歩き出す。
「ど、どういうことッスか、姉御……?」
一歩遅れて動き出したマァルが、小走りで駆け寄ってくると、囁くような声でシャーラに尋ねてきた。
当然、どれだけ小声で囁こうとも、黒鎧には全て聞かれているだろう。
だが、もはやシャーラは気にすることなく、むしろ苛立ちが込められているぶん普段よりも大きな声で、マァルの問いに答えた。
「アタシたちは、
「え、餌っすか?」
「そう、餌さ」
自分たちが森の中で殺されず、ここまで生かされてきた理由。
そして、向かう先が広く平坦なキャスク平原であること。
その二つからシャーラが導き出した答えが、黒鎧の背後にいる黒幕は、
「
「…………」
黒鎧は、答えを返さない。
だが、『否定する言葉が返ってこなかった』というだけで、シャーラには十分だった。
「ふん……それで犯人がアタシだと分かれば、
そして、すぐさま『跳んで』くるはずさ────アタシを目指して」
「あっ!」
シャーラの説明で、マァルも自分たちが『餌』であるということの意味を理解したようだった。
だが、
「で、でもそれなら、別にウチらがいなくっても、最初から『キャスク平原にこの子がいる』って噂を流せばいいんじゃ……」
と、もっともな疑問をシャーラに投げかける。
「それじゃあダメなのさ。キャスク平原なんて、ほとんど人が訪れることもないへんぴな場所だ。街道からもずいぶん離れてる。だから『偶然黒髪の少年をキャスク平原で見かけた』なんて噂が流れてきたら、誰だって怪しむに決まってるだろ?」
「た、確かにっす……」
「
それじゃあ、こいつらにとって都合が悪いのさ。
ただでさえ化け物みたいに強いあいつらに最大限の準備なんてされたら、たまったもんじゃないからね。
その点、アタシという存在を通してキャスク平原にたどり着いたなら、そこまで警戒はしていないはずだ。へんぴな場所にいるのだって、あの子の受け渡しが目的だと考えれば自然だからね」
言い終わって、シャーラはふぅ、と息を吐いた。
「……全部、何もかも思い通りにいってる。そう思ってるんだろ」
そして、答えが返ってこないことは分かっていながらも、黒鎧に言葉を投げかけた。
「…………」
案の定、黒鎧は無言だった。
それでもシャーラは、言葉を続ける。
「でもね、あんたら、A級冒険者を舐めてるよ。あいつらは……
最も危険な依頼を、最も難易度の高い依頼を、誰一人欠けずにこなしてきたやつらなんだ。
だから、あんたらがいったいどんな罠を仕掛けてるのかは知らないが、これだけははっきり言える」
「…………」
「これから先は、絶対に思い通りにはならないよ。それを、覚悟しておくんだね」
「…………」
シャーラの警告とも言える言葉にも、やはり反応はない。
…………と、思われたのだが、
「……もうすぐ、森を抜ける。その時になってから、もう一度今のセリフを言ってみるといい」
黒鎧は、例の嘲るような笑みを浮かべながら、そんな言葉を返してきた。
「……いくよ、マァル」
「は、はいっす……」
もはやこれ以上、言うべきことは無い。
シャーラはマァルを
例えこの先にどんな光景が待ち構えていようとも、さっきと同じセリフを黒鎧にぶつけてやる。
そう自分に言い聞かせ、次第に
そして────
「っ!!!!」
目の前に現れた光景に、言うべき言葉も忘れ、息を飲んで立ちすくんだ。
なぜならそこには、五十人を超える黒鎧の女たちが、隊をなして待ち構えていたからだ。
しかし、シャーラが息を飲んだ理由は、それだけではない。
「あ……あ……」
シャーラの隣で、マァルが口をパクパクさせながら目を見開いている。
自分では見えないが、シャーラとて同じような顔をしているのだろう。
だがそれは、この世界に生きるものであれば、おそらく誰もが同じ反応をしてしまうはずだ。
────二人が見つめる先にいる、