どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた 作:布施鉱平
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
少年のとった行動に、その場にいた四人の女は言葉を失わざるを得なかった。
B級冒険者であるシャーラたちですら恐れを抱く黒マントの前に立ちはだかったかと思えば、同性ですら惹きつけられるアイーシャの裸体から逃げ出したのだ。
その行動は、あまりにも全員の予想からかけ離れ過ぎていた。
「……いったい、なんなのだ」
自失から一番最初に我に返ったのは、アイーシャだった。
出会ってから初めて、その秀麗な顔に苛立ちを滲ませながら、アイーシャは続ける。
「なぜ、私の下へこない。なぜ、その女たちの後ろに隠れる。同程度に美しいお前が、まさか私の美貌に
生まれてこの方、誘いを拒絶された事など無いのだろう。
アイーシャの顔は、恥をかかされた怒りからか、赤く染まっていた。
だが、どれだけ問いただそうとも、それが少年に通じないのは、すでにアイーシャにも分かっていることだ。
シャーラとマァルの後ろで、嫌がっているというよりはむしろ困惑したような表情を浮かべている少年から視線を外さないまま、アイーシャは大きく息を吸い、吐き出した。
そして息を吐ききったときには、もう、もとの顔色に戻っていた。
……ただその表情には、拭いきれない怒りが
「……もうよい。素直に私のものになるのなら寵愛を与えてやろうとも思ったが、どうやらその気は無いようだ」
言いながら、アイーシャは脱ぎ捨てた上着を身に
そして少年に向けていた強い視線を外すと、黒マントに顔を向けた。
「レアン」
「……はっ」
名前を呼ばれた黒マントが短く答え、頭を下げた。
レアン────その名を、シャーラはどこかで聞いた事があるような気がした。
だが、アイーシャが放った次の言葉で、自らの記憶を探ろうとしていたシャーラの思考は跡形もなく吹き飛ぶことになった。
「お前が犯せ」
「……っ」
命じられ、レアンがビクリとその巨体を揺らした。
思ってもみなかった命令だったのだろう。
「考えてみれば、彼は
おそらく、もう壊れているのだろう。
だとしたら、彼を犯すのにふさわしい相手は、私ではなくお前だ」
「ふ、ふざけるんじゃ、ないよ……っ」
「そんなこと、させないっす……っ」
あまりにも身勝手なアイーシャの命令に、シャーラとマァルはレアンから受けた衝撃が残る体を強引に持ち上げて、後ろにいる少年の姿を隠した。
「ふざけてなどいない、彼自身が選んだことだ。幸い、私の部下にはこのレアンを含めて、彼が
私が好みに合わんというなら、その者たちに相手をさせようというだけの話だ。彼女たちがここに到着する前に、徹底的にな。
そしてその最初の相手は、私の腹心であるレアンこそがふさわしい。
さぁ、レアン。フードをとって、その顔を彼に見せてやるがいい」
「……………………はっ」
長く迷った様子を見せていたが、アイーシャの命に逆らうことは出来ないのだろう。
レアンはゆっくりと手を顔の前に持って行くと、目深にかぶっていたフードを捲り上げた。
その下から現れた顔に、シャーラとマァルは揃って「あっ」と声を上げた。
細い眉、細い輪郭。
高い鼻と薄い唇。
鋭く光る灰色の瞳と、同じく灰色の髪。
アイーシャが言うとおり、その容姿は確かに醜い。
ふたりと同程度か、もしくはそれ以上だろう。
だが、ふたりとは決定的に違う部分があった。
それは、レアンの頭の上にピンとたつ、大きな二つの獣耳だ。
よく見れば、マントの裾から覗いている手も普通の人間より明らかに大きく、鋭い爪と獣毛が生えているのが分かる。
「獣人……しかも、先祖返りの
シャーラの言葉に、レアンは無言で小さく頷きを返した。
銀狼のレアン。
最初にレアンの名を耳にしたとき、聞いたことがある気がしたのは当然だった。
シャーラに限らず、冒険者であればその名を知らぬ者は誰一人としていないだろう。
珍しい獣人の先祖返りだから、というだけではない。
なにせレアンは、世界で唯一『
B級ですら単独で活動している者は
ここ数年その名を聞かなくなったので、死んだか引退したものだと思っていた。
事実、冒険者ギルドからレアンの名はすでに抹消されている。
だが、違った。
ここにいたのだ。
美しい反逆者、アイーシャの腹心として。
「……アイーシャ様は、テントから出ていて下さい。見苦しいものをお見せする訳にはいきませんから」
「ふむ……そうか……そうだな、そうしよう。ただ、分かっていると思うが、やり過ぎるなよ?」
「もちろんです。アイーシャ様の計画に彼は必要なのでしょうから、壊すような真似はいたしません」
「頭の中はすでに壊れているようだがな……まあ、しっかりと体に教え込んでやれ。私の手を取らなかった愚かさを」
そう言って、アイーシャは開いていた服のボタンを閉じると、テントの入り口に向かって歩き出した。
そして、シャーラとマァルの横をすり抜けざまに、
「お前たちは、ここでしっかり見ているがいい。美しい少年が、
笑いながらそう言い放つと、もはや少年には目も合わさずにテントを後にした。
「くっ……」
「うぅ……」
唇を噛みながら、ふたりは呻きを漏らす。
アイーシャの言う通り、自分たちにレアンを止める術はない。
出来るのは、その場を動かず、近づいてくるレアンを睨み付ける事くらいだった。