※この作品はR-18です。

どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた   作:布施鉱平

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遅くなって、すまぬ……すまぬ……
別の話を書くのが楽しすぎて、あと、AI画像生成というオモチャが楽しすぎて、そっちにばかり時間を費やしてしまった……


無風

 いくつもの影が、木々の間を駆け抜ける。

 

 それも地上ではなく樹の上を、枝から枝へ飛び移りながらだ。

 

 体重を感じさせない身軽さで枝をしならせ、木の葉を舞い散らせながら影が飛ぶ。

 

 彼女たちは闇に潜み、闇に生きる者。

 

 

 その名も────『ヌンジャ』。

 

 

 言葉の意味はよく分からぬが、初代国王ファナカがそう命名した以上それは絶対である。

 

 ともかく、主を守ることを役割とする黒騎士たちと違い、ヌンジャは諜報と暗殺に特化した存在だ。

 

 事実、これまで誰に知られることもなく、ヌンジャはアイーシャの敵を追い詰め、静かに、そして確実に、その命を奪ってきた。

 

 ────だがそれが、今は逆転している。

 

「────────っ!」

 

 また一つ、叫び声が聞こえた。

 

 これで七人目だ。

 

 森に潜み、機を見てはぐれ者たち(マーヴェリックス)を奇襲する予定だったヌンジャ部隊は、突然の襲撃により散開し、逃走せざるを得ない状況にあった。

 

 相手が何者かは分からない。

 

 なぜなら、その姿も、気配も、音も匂いも、何一つ感じ取ることが出来なかったからだ。

 

 ……いや、誰であるのか、予想はついている。

 

 はぐれ者たち(マーヴェリックス)の射手、『無風(かぜなし)』と呼ばれるエルフ。

 

 弓を手に持てば百発百中、さらに卓越した追跡技能と隠形術から、標的とされたものは撃たれてなお、その存在を認識できないとすら言われている、恐るべき狩人。

 

 その噂は、紛れもない事実であったのだ。

 

「──────っ!!」

 

 仲間の叫びがまた、森のどこからか響いてくる。

 

 これで八人目。

 

 ヌンジャの一部隊を率いているヘルガは、久しく感じることのなかった恐怖に、冷たい汗を滲ませた。

 

 相手を認識することすら出来ずに追い詰められている、というのもあるが、一番の要因は仲間の叫び声だろう。

 

 ヌンジャは通常、例え拷問を受けたところで、叫び声ひとつ漏らすことはない。

 そういう訓練を受けている。

 

 そのヌンジャが、遠く離れていても聞こえるような悲鳴を上げているのだ。

 

 尋常のことではない。

 

 一体なにをされれば、優秀な仲間たちがあのような声で叫ぶのか。

 

 同じ訓練を受け、また自らも拷問に精通しているヘルガにすら、全く想像が出来なかった。

 

「────っ!!!」

 

 九人目。

 

 だんだん、声が近くなっている。

 

 そして、率いている部隊の中で残っているのはすでに、ヘルガ一人となっていた。

 

 ヘルガは意を決し、樹上から飛び降りると、そのまま木を背にして剣を構えた。

 

 自分が狩人に追われる獲物でしかないと、正しく理解したからだ。

 

 このまま逃げ続けても、仲間たちと同じ末路を辿るだけ。

 それならばいっそ、迎え撃った方がまだ勝機はあると判断したのだ。

 

 木を背にしているため、背後を気にする必要は無い。

 

 感覚を研ぎ澄ませ、前方と上下左右に注意を向けながら、その時を待つ。

 

 動きはない。

 

 見えるのは植物と大地と日の光。

 

 音はない。

 

 聞こえるのは鳥の声、虫の音(ね)、木の葉のざわめき。

 

 匂いはない。

 

 感じるのはただ、森の匂いだけ。

 

 

 ……だがその痛みは、なんの前触れもなく、なんの予兆もなく、唐突にヘルガの身体を貫いた。

 

 

「アッ──────!」

 

 魂切るような悲鳴を上げ、ヘルガはその場に膝を付くと、倒れ込みそうになる身体を両手で支えた。

 

 何が起きたのか、全く理解できなかった。

 

 攻撃を受ける直前まで、確かになにも感じなかったのだ。

 

 

「……風なくば、音なく、匂いなし」

 

 

 頭の上から声が聞こえ、視線を上げれば、そこには一人の少女が立っていた。

 

 感情を思わせぬ姿でこちらを見下ろすその少女こそ、はぐれ者たち(マーヴェリックス)の狩人、エルフのルナ。

 

(……そうか、これほどまでに)

 

 まさに、格の違いを見せつけられた思いだった。

 

 自分たちがヌンジャと名乗るのを憚られるほど、目の前の存在は完成されていた。

 

 おそらく、初代国王が思い描く『ヌンジャ』という存在は、彼女のような者の事を言うのだろう。

 

「……無念」

 

 一矢報いることすら出来ず、ヘルガは頭から地面に突っ伏した。

 

 まるで土下座をするような体勢で意識を失った彼女の尻には、子供の腕ほどもある木の枝が、深々と突き刺さっていたのだった。

 

 

 

 

◇

 

 

 ────自分の中にこんな激情が存在しているとは、ルナは思ってもいなかった。

 

 かつて好奇心から故郷の森を離れ、人間にしては長い時間を、ルナは外の世界で過ごした。

 

 そしてその中で、悪意や嫌悪の視線に晒され続け、次第に感情を失っていった。

 

 怒るのではなく、悲しむのではなく、ただ、諦めた。

 

 ルナの世界は色を失い、植物が枯れるように、小さく萎(しぼ)んでいった。

 

 ……その世界に新しい芽が芽吹いたのは、少年と出会い、彼に抱かれた時だった。

 

 凪いでいた心に、風が吹いた。

 

 暖かな太陽の光が降り注ぎ、清らかな水が滾々(こんこん)と湧き出した。

 

 それは幸福であり、希望であった。

 

 世界は様々な色で満たされ、ルナはその感情が愛だという事を知った。

 

 

 

 その愛が、奪われた。

 

 

 

 少年を失った瞬間、ルナが感じたのは全てを凍り付かせるような絶望だった。

 

 心は冷え切り、身体は悴(かじか)み、息をするのさえ辛いほどだった。

 

 だが、その凍り付いた心の底には、これまでに抱いてきたどのような感情とも違う、煮え滾るような熱い物が生まれていた。

 

 

 怒りだ。

 

 

 冷たい心の底で燃え続けた怒りの炎は、リディアに命じられた役目(・・)を終え、遅れて到着した森の中で、木々に紛れるようにリディアたちを狙う敵の姿を発見した瞬間、爆発した。

 

 

 ────ヌンジャ、許すまじ。

 

 

 ルナは一切の音を立てず、木の葉さえも揺らさずに黒装束の女たちの背後に降り立つと、近くに落ちていた木の枝を拾い、容赦なく一人のヌンジャの尻にぶっ刺した。

 

「アバーーーーッ!?」

 

 括約筋を引き裂かれる激痛に、ヌンジャが奇声を上げる。

 

 だが、他のヌンジャたちが振り向いたとき、すでにそこにルナの姿はない。

 

 風のごとく別のヌンジャの背後に移動していたルナは、もう一度同じ事を繰り返した。

 

「アナヤッ!?」

 

 今のルナに慈悲はなく、容赦もなかった。

 

 散開して逃げるヌンジャを、一人、また一人と仕留めていく。

 

 射手として世に知られるルナであるが、それは天才である彼女の一つの側面に過ぎない。

 

 ルナの本質は、気配の断絶と卓越した観察眼にあった。

 

 野生の動物ですら感知できないほど己の気配を周囲に溶け込ませ、獲物の動きと環境を同時に観察し、未来視にも等しい精度で一瞬先を予測する。

 

 故に、ルナの攻撃は百発百中なのだ。

 

 それが遠距離であるか、近距離であるかなど関係ない。

 

 ルナに狙われた獲物は、全て等しく、彼女に狩られる定めにあるのだ。

 

 

「アッ──────!」

 

 

 十人目のヌンジャに引導を渡し(死んでない)、小さく息を吐いたルナは、木々の切れ間から覗くわずかな空を見上げた。

 

 まだ、炎は消えていない。

 

 全ての敵を倒し、愛する少年を取り戻すまで、ルナの怒りが静まることはないだろう。

 

 視線を戻したルナは、残りのヌンジャを討伐すべく、移動を開始した。

 

(……もっと、太い枝でもいいかも)

 

 そんな、恐ろしいことを考えながら。

 






という訳で、性懲りも無く新しい連載を始めました。
……いまある連載をさっさと終わらせろって?
それ正論? 私 正論って嫌いなんだよね。
うそですごめんなさい許してください。
頭の中に生まれた話をアウトプットしないと、気持ち悪くて先に進めないんです。

まあ、せっかく書いたので、気が向いたら読んでやってください。
面白いよ、個人的には。

『そうだ、勇者を喚ぼう ~亡国の王女の決断~』
https://syosetu.org/novel/316896/1.html
よろしくです。
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