エルフのお婿さん ~※実際は子作り用の家畜です~ 作:布施鉱平
「いたたたた…………」
結構な勢いで放り出された良夫は、地面を数回転したあと木にぶつかって停止した。
「ランディングが雑すぎますよ、神様…………」
体についた土やら葉っぱやらを払い落とす。
そこで気づいたのだが…………
「あれ? 元の体のままだ…………」
良夫の体は、生前と同じメタボリックな41歳の肉体のままだった。
しかも、一糸まとわぬ裸体である。
「…………オウ、ノウ」
異世界転生と言えば肉体が若返ったり、外見がイケメンになってたりするものだと勝手に思い込んでいた良夫は、事態の重大さに恐れおののく。
なにせ、見たところ良夫は森の中にいるっぽいのだ。
異世界転生っぽいといえば異世界転生っぽい場所だが、なんの装備も、なんの力も、なんの知識もない裸のおっさんが長く生き残れる場所とは思えない。
もし誰かが通りかかるようなことがあったとしても、ぷよぷよした裸のおっさんを森の妖精だとは思ってくれないだろう。
むしろ森の妖怪かなにかだと思って、逃げ出すか殺しにかかるかするに違いない。
「ど、どうしよう…………」
神様がお勧めしなかったわけだ。
このままでは早晩、良夫は森の養分となってしまうだろう。
途方にくれた良夫が天を仰いだその時────
ばさっ!
と上から網のようなものが降ってきて、良夫の体を包み込んだ。
「うわっ、な、なんだ!?」
慌てふためく良夫。
だが、良夫がばたばたと無様にもがけばもがくほど、網は絡みついて体の自由を奪った。
そして完全に身動きの取れなくなった良夫が、でかいハムのようになって地面に転がったとき、
「捕まえたー! 捕まえたぞー!」
「やりー! なんだった?」
「なんか小柄なオークっぽかったけど…………」
「オークかぁ、オークじゃ家畜の餌くらいにしかならないね」
四方八方から、女の子の声が聞こえてきた。
複数の声と足音が近づいてきて…………
「えっ!?」
良夫は思わず声を上げた。
網に囚われた良夫を取り囲むように立っていたのは────
先の尖った耳を持つ、美しい少女たちだったのだ。
◇
「やっぱオークか。殺して血抜きしとこう」
転がる良夫を見た少女の一人が、そう言うと持っていた槍を構えた。
「い、いえ、オークじゃありません! 人間です!」
良夫は慌てて叫んだ。
その言葉に、少女たちの間に動揺が走る。
「に、人間!? うそ、ほんとに!?」
「なんでこんなところに人間が!?」
「うわー、あたし、野生の人間なんて見たの初めて!」
その様子はただ事ではない。
驚愕に目を見開く者、顔を紅潮させる者、しゃがみこんで良夫をぷにぷにつつく者などバラエティに富んでいるが、その誰しもが強く興奮しているようだった。
「連れ帰って
槍を構えていた少女がそう言うと、
「よしきた!」
「網に通す棒を探そう!」
「うちは先に言って知らせてくる!」
「わたしはもうちょっとぷにぷにしてていい?」
と全員が機敏に動き出す。
最後のは違うが。
「あの…………みなさんてもしかして、エルフですか?」
良夫は自分の腹をずっとぷにぷにつついている少女に聞いてみた。
「そうだよ?」
そして返ってきた答えは、良夫の予想通りのものだった。
エルフ!
良夫は心の中で
ここはまさに、良夫が望んだ異世界だ。
なんの前情報もなかったので、地球ではない世界に転生するのはある意味賭けだった。
だが、良夫はその賭けに勝ったのだ。
初めはどうなることかと思ったが、エルフが出てきたのならなんとかなる気がする。
なんの根拠もないが、良夫はそう思った。
「準備できたから運ぶよ~」
「あっ、はーい」
再び周りにエルフの少女たちが集まってきて、良夫を取り囲んだ。
そして良夫をくるんだ網に木の棒を通すと、
「よいしょぉ!」
と気合を入れて持ち上げ、数人がかりで運びだした。
ぶら下げられた良夫はこれからの展開に期待を膨らませながら、森の中をゆさゆさと運ばれていくのだった。