エルフのお婿さん ~※実際は子作り用の家畜です~ 作:布施鉱平
「…………」
里長のレムは、床に正座させられている小柄なエルフ────ノノを見下ろしながら、眉間に深いシワを刻んでいた。
これが他のエルフであれば、
だが、目の前で口をとがらせながらそっぽを向いているのは、ただのエルフではない。
外見は……いや、中身も完全によ○じょからまるで成長していないように見えるノノであるが、これでもレムの前に里長を務めていたほどの実力者だったのだ。
その上……
「……なにやってるのですか…………母上」
レムにとって、ノノは血を分けた唯一の肉親……母親でもあった。
「つ~ん、のじゃ」
「いや、つ~んじゃなくて、反省して下さいと言っているのです」
内心で深いため息をつきながら、レムは眉間のシワを揉む。
これはノノ相手に限ったことではないのだが、そもそもレムは肉体的に成長していない年長者の相手が苦手であった。
エルフは外見的な年齢と精神的な年齢が比例する傾向にあるため、少女やよ○じょで肉体の成長が止まってしまったエルフは、その内面もいつまで経っても少女やよ○じょのまま……つまり、最も好奇心旺盛で、最も活発で、最も思慮がない状態のままなのだ。
平たく言えばヤンチャな悪ガキのまま、ということである。
彼女たちが何か問題を起こすたびに(里で起きる問題の大半は少女&よ○じょエルフが原因であることが多い)、レムはいつもどう対応するべきか悩まされてきた。
怒って罰を言い渡せばその場は『しゅん……』とするのだが、翌日には『ひゃっはーっ!』とか言いながらレムのスカートを捲ってくるような奴らばかりだからだ。
その中でも、よ○じょエルフのリーダー格であるノノは、さらに輪をかけて
いたずらをして怒られてもまったく反省せず、それどころか怒られた報復だとでも言わんばかりに、よりエスカレートした悪質ないたずら(オナロをいつの間にか一回り細く削られるなど)を仕掛けてくるのが、ノノというエルフなのである。
今回のことにしても、未だそっぽを向き続けているノノの態度から、レムが何らかの罰を与えたところで効果がないのは目に見えていた。
なので……
「はぁ……もう、じゃあ被害を受けたナナさんに全てお任せしますからね、母上」
レムは悩むことを止め、隣に立って腕組みをしながらニヤニヤしていたナナに、ノノの処罰を丸投げすることにした。
「なっ、そ、それは反則じゃろっ、レムっ!」
ナナの名前を出されたノノが、そっぽを向いていた顔を勢いよく前に戻すと、レムに抗議した。
そう、傍若無人なノノに唯一弱点と言えるものがあるとすれば、それこそがナナの存在であった。
なぜなら、いくら戦士としての能力が高いといっても内面はよ○じょなノノが、300年もの長きにわたって里長を続けることが出来たのは、その実務のほとんどを、当時大樹組筆頭であったナナがこなしていたからに他ならないからである。
「先に規則を破ったのは母上の方でしょう。おとなしく、ナナさんの罰を受けて下さい。これは里長としての決定です。──では、お願いします、ナナさん」
「うん、任されたよ」
レムに後を託されたナナが唇の片端を上げながらそう答えると、ノノは執務室の床にorzと崩れ落ちた。
この後待ち受けているであろう、ナナの制裁。
その内容が、里長をやっていた当時に度々ナナから受けていた『
ナナも少女────というか少年のような外見で成長が止まってしまったエルフの一人なのだが、その精神は他の少女&よ○じょエルフのように幼いままではなく、さらには若干のSっ気を持っていた。
「さ、それじゃあ行こうか、ノノ」
「イヤじゃぁぁあああっ! イヤなのじゃぁぁあああっ!」
ナナに襟首を掴まれたノノが(服は連行される途中で着せられた)、ジタバタと手足を振り回しながら引きずられていく。
レムはその光景を『アレが私の母親なんだよな……』と頭が痛くなるような気持ちで眺めていたのだが……
「あっ、ちょ、ちょっと待つのじゃ! ナナ!」
ノノが急に暴れるのを止めたかと思うと、ナナの強制連行に待ったをかけた。
「ん、どうしたんだいノノ? 今更謝っても遅いよ?」
「ち、違うのじゃ! もう、罰は甘んじて受けるのじゃ! 逃げれば逃げるほど、おヌシの罰がキツくなるのは知っとるからの……
ちょっと、レムに言いたいことがあるだけじゃ」
そう言ってナナの拘束から抜け出すと、ノノはトテトテとレムの前に歩いてきた。
そして……
「ルルから聞いたぞ、レム。妊娠おめでとうなのじゃ。
里長の仕事が大事なのは分かるが、赤ん坊の為にもちゃんと体を休めないとダメじゃぞ?
そこにいるナナにもお前の仕事を手伝って貰えるよう頼んでおいたから、安心して任せるといいのじゃ。
あいつは色々と口うるさいが、仕事だけはできるやつじゃからの」
にっこりと微笑みながらレムを見上げ、そんなことを言ってきた。
「は、母上……っ」
思いがけないノノの
確かに、検査をした結果、レムは子供を孕んでいた。
だが、近隣に生息するオークが繁殖期を迎えていることもあり、その警戒や対応策をルル一人に任せるわけにも行かず、さてどうするべきかと悩んでいたところだったのである。
「まったく、ノノは素直じゃないよね。正面からお祝いを言いに来るのが恥ずかしいからって、わざわざ問題を起こして連行されるなんてさ。
あの人間のところに行ったのも、娘を孕ませたのがどんなヤツだったか知りたかったからなんでしょ?」
「う、うるさいのじゃ、ナナ! ワシはただ、ヨシオの味見をしたかっただけなのじゃ!」
「はいはい、そういうことにしといてあげるよ。それじゃあレムちゃん、さっきノノが言ってたけど里長の仕事はしばらくボクとルルで回すから安心して休みなよね」
「あ、ありがとうございます、ナナさん……」
「あと、ノノ。なんかいい感じの話になったからって、お仕置きはちゃんと受けてもらうからそのつもりでね」
「わ、わかっとるのじゃ、ナナ……おヌシはそう言うヤツなのじゃ……」
しょんぼりとしたノノの襟首を捕まえたナナが、また引きずりながら執務室を出て行く。
その姿を見送りながらも、もう、レムの頭は痛まなかった。
眉間のシワはいつの間にか取れ、その代わりであるかのように、レムの顔には柔らかな微笑みが浮かんでいたのであった。