エルフのお婿さん ~※実際は子作り用の家畜です~ 作:布施鉱平
────翌朝。
「ん……ふぁぁ……っ、あれ、ナナさん……?」
良夫が目を覚ますと、昨日の夜から朝方にかけて『オークとエルフごっこ』をともに楽しんだナナの姿は、すでに無かった。
ベッドは様々な体液にまみれてぐちょぐちょになっているが、そこにぬくもりはない。
おそらく良夫が疲れ果てて眠ったあと、ナナはベッドから抜け出して自分の家に帰ったのだろう。
「…………」
良夫は、そのことを少しだけ、寂しく思った。
自分が
美しくも可愛らしいエルフっ娘たちに奉仕できるこの仕事に、誇りすら持っている。
だが、それと彼女たちを愛おしく思う気持ちや、心の底では『自分も愛されたい』と思ってしまう気持ちを切り離すことなど、良夫には出来なかったのだ。
「…………ん?」
「……っ、こ、これはっ!」
そして、それがなんであるかを確認した良夫は、驚きと興奮に目を見開く。
良夫の手に握られていたもの……
それは、昨夜ナナが履いていた、ローライズのパンツだったのだ。
「ナ、ナナさん……っ」
良夫はパンツを握りしめ、目に涙を滲ませた。
ナナが、良夫をただの『性処理道具』だとは考えていない、ということが分かったからだ。
もし良夫に対してなんの感情も抱いておらず、セックスが終わって用なしになったから帰ったというのであれば、わざわざ良夫の手にパンツなど握らせておく訳がない。
これは、ナナからの『また会いに来る時まで、そのパンツを大事に持っていてね♡』という明確なメッセージなのだ。
「ナナさん……っ、ナナさぁん……!」
良夫はナナのパンツに顔を寄せ、その
ナナがまた会いに来てくれるつもりだということは、すなわち昨日の夜に言っていた「そのうち良夫の子を孕みたい」という言葉も、嘘ではなかったということだ。
良夫はスハスハと鼻を鳴らしながら、ナナと次に出会ったときに行われるであろう『オーク孕ませセックスロール』を思い描き、その股間を硬く隆起させるのだった。
…………
コンコン、コンコン……
ガチャ
「ヨシオさん、朝はぐっすり寝てたみたいだから起こさなかったが、昼食ができ…………」
「すっはっ、すはーっ、すっはっ、すはーっ」
……パタン
「…………」
昼食が出来た事を知らせに来たジャックは、ゆっくり後ずさると、静かに扉を閉じた。
良夫の変態的な行為に、さすがのジャックといえどもドン引きしたから────ではない。
(あれは、心肺機能を高めるための特殊な呼吸法か何かか……? ……寝起きでも自己鍛錬に余念が無いとは……さすがはヨシオさんだ)
良夫が両手と顔面によってパンツの大部分を覆い隠していたので、ジャックからは良夫の持っているのが女物のパンツだとは分からなかった。
そのため、自らの顔に布を押し当てて、深く鋭く呼吸を繰り返す良夫の姿を、鍛錬しているのだと勘違いしたのである。
──かつては騎士団に在籍し、野に降りてからも冒険者として名を馳せていた、人間の英雄『ジャック・ハウザー』。
彼の目は、良夫に関する事柄にだけは、とことん曇っていた。
(邪魔をしちゃあ悪いな……また、後で呼びに来るか)
良夫の部屋から離れ、ジャックはリビングへと引き返して用意した昼食を片付けると、自分の為に用意された狭い部屋へと戻った。
そして──
「すっは、すはっ、すっは、すはっ、すっは、すはっ、すっは、すはっ……」
つい先ほど見た良夫の姿を真似て顔を布と両手で覆うと、何度も何度も、鋭く呼吸を繰り返し始めた。
「……違うな、ヨシオさんの呼吸は、もっと深く、もっと鋭かった。……すっはっ、すはーっ、すっはっ、すはーっ……こうか、よし、だんだん感覚が掴めてきたぞ」
『少しでも良夫に近づく努力をする』
自らに課したその誓いを守るため、ジャックは真剣そのものの表情で息を吸い、吐き出し、一呼吸ごとに改善と改良を重ねていくのだった。
────以降、ジャックは毎日この呼吸法を繰り返すことになるのだが……
なぜかそれがエルフの間で流行し、健康法として代々受け継がれていくことになるのは、まだ誰も知らない未来の話なのであった。