※この作品はR-18です。

デート・ア・ライブ 令音アビス   作:いかじゅん

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さあ、さあ。幕を開き、開演いたしましょう。救うべき者を支配してしまう、残酷で甘美なる背徳の物語で――――――気高く美しき女王は、優しい少年を救うことができるかな?








狂三スレイヴ
1話


「んー……よし、買うものは買ったな」

 

 これでよし、と改めて確認を通し、士道は買い物袋を下げて帰路に着く。

 今日は士道にとってとてもいい日だと言えた。寝起きが悪い士道にしては珍しくさっぱりとした目覚めで、また珍しいことに何の襲撃者もいない。いや、いたらいたで実は喜ばしい生活なのではあるけれど。

 洗濯物を気持ちよく干し、部屋の隅々まで掃除は行き届き、その上行きつけのスーパーで質のいい特売品を手に入れ、商店街ではサービスまでつけてもらった。

 これは良い日で終わりそう――――だった(・・・)

 

「……うん?」

 

 変調は予感を感じさせず、唐突すぎる〝熱〟を帯びていた。

 身体が熱い。風邪だとか、そういうものではない。だけど、とにかく身体が熱くなっていた。

 

「く……」

 

 自らの肢体が浮き上がる不可思議な感覚。思考が霞みがかって、酷く煩わしい。歩幅はズレていき、立っているのが億劫にさえ思える。

 急に、自分の身体に何があったのか。何かがおかしい。また(・・)自分だけが原因ではなく、精霊たちとの経路(パス)に異常が起きた可能性を歪む思考でどうにか引き出す。

 

「誰かに……連絡、を……」

 

 誰でもいいから、人を頼る。当然の思考的結論。この場において、それは正しいことだった。

 自身の身体に詳しい〈ラタトスク〉の誰か。琴里、令音、とにかく誰かを。

 

 ――――運命を揺るがせた要因は、二つ。

 一つは士道がたった一人でいたこと。精霊たちの誰だったとしても、士道の変調を悟り、そして士道自身が彼女たちを見て感じる()の種類に気がつくことができたなら、違う結果があったはずだ。

 そして、もう一つにして致命的(・・・)な因子は、

 

「――――あら、あら。ごきげんよう、士道さん」

 

彼女(・・)が、そこにいたこと。

 モノトーン調のドレス。肩口で結わえられる線の細さとしなやかさを共存させた射干玉の髪。華奢と呼んで差し支えなく、しかし男心をくすぐる魅惑の肢体。

 自らの細指をペロリと舐めた舌先と、艶やかな唇。魔性、男を呑み込む蠱惑、そんな言葉が似合いそうだった。

 吸い込まれそうになる紅の右目と、黒髪で隠された異形の左目。少女は、士道を見て微笑んでいた――――美味しそう(・・・・・)だと、士道は思った。

 

「このような道で出会うとは、これは運命ですわ。ええ、ええ。わたくしたちの必然ですわ。そうは思いませんこと?」

「……狂三(・・)

 

 少女の名は、時崎狂三。美しすぎる容姿を持った少女にして、精霊。それも、一万の人々を殺戮した曰く『最悪の精霊』と呼ばれし人類にとっての災厄。

 そして、士道の中に封じられた霊力を欲し、その命を狙う者。美しい容姿とは裏腹に、士道を含めた精霊保護組織〈ラタトスク〉にとって特級の要注意人物だった。

 常ならば、士道は狂三の姿を見て驚き、戦いていたことだろう。幾度かその力を借りた経験はあれど、本質的に彼女が士道の命を狙っていることに変わりはなく、同時に狂三を救ってやりたい、と相反する願いを士道が得ていることもある。

 

「狂、三……」

「士道さん……?」

 

 だが、士道の口から零れたものは、途切れ途切れに狂三の名を呼ぶことのみ。

 狂三も、士道の様子がおかしいことに気づいて超然としていた笑みを訝しげなものへと変える。

 ――――ここでまた、運命が決まった。

 警戒心が強く、様々な事態を想定している狂三が、士道の異常(・・)に気がついて逃げ遂せることができたなら、彼女にもたらされる絶望の運命は機会を失い、二度と巡り会うことはなかったであろう。

 しかし、狂三はそれをしなかった。それどころか、小走りで近づいてその額に手を当てる、などと士道をただ案じる少女(・・・・・・・・・・)の行動を取った。

 

「……!!」

「っ、士道さん。この熱で外出は不衛生ですわよ。すぐにご帰宅をおすすめいたしますわ」

 

 それが果たして、時崎狂三という少女が持つ本質的な優しさであったのか。

 それとも、士道が知らぬ間にそれほど士道に心を開いていた(・・・・・・・)のか。

 どちらが正しいのか。もしくはどちらも正しくはないのか。その是非を問うことはできない。

 

「狂三……」

「きゃっ……し、士道さん? ――――き、ひひひ! 今日はやけに情熱的ですわねぇ……」

 

 倒れ込むようにもたれかかれば、一瞬焦った様子を見せた狂三が瞬時に息を整え余裕の微笑みを浮かべた。

 狂三の強みはここにある。激情を秘めながら、相手を手玉に取る優雅で繊細な雰囲気を崩さない。どこまでも相手を掌握する悪魔、いや悪夢(ナイトメア)の微笑み。

 

「……ぁ」

 

 だけど、今の士道に見えているものは一つだけだった。

 その微笑みではなく、時間を吸い取ってしまう異形の瞳でもなく。ただ一点のみに視野と思考が集中した。

 服の隙間から覗く、白磁の肌。艶めかしく美しく、曇りひとつない首元の柔肌。

 ――――ホシイ。

 ただ一つの欲望にのみ、士道は従った。血走った目が本当に視界を赤く染めた。

 

「あ、が……っ!?」

 

 苦悶の声。初めて聞く狂三の苦痛に満ちた声音に、士道は言いようのない興奮(・・)を覚える。

 狂三が苦しむのは至極当然のことだろう――――突如して、人が己の首筋に歯を突き立てればそうもなろう。

 

「しど……、さん……はな、し――――っ」

「ん、ぐ……」

 

 音色のように美しかった声が、拷問にかけられた少女のように細い吐息を零しながら途切れ途切れに空気を切る。目が焦点を失いながら大きく見開かれ、金色の時計を設えた瞳が顕になっている。

 その全てを捨て置き、士道は狂三の身体を抱き上げ、突き立てた歯から狂三の体液を摂取し続ける。

 

「あ゛ぁ……が……っ!」

 

 浮き上がった足が士道の身体を蹴りつける。淑女としての嗜みを捨て去り、咆哮のような声をあげる狂三。その行為が愛おしく、そして優越感を覚えた。支配感、というべきかもしれない。

 あの狂三をこんなにも容易く支配し、悪足掻きのような抵抗しかできなくしている。そのことに得難い快楽を覚える。悦楽に浸る。

 まだ、もっと欲しい。華奢な身体を抱き寄せ、狂三の全てを手中に収める――――瞬間、狂三が士道の肩を掴んだ。

 

「あ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 それは、苦痛に耐えかねて士道に縋り付いたわけではない。

 時崎狂三が強靭な精神力を以て、士道を影に引きずり込む(・・・・・・・・・・・)ためだ。

 

「――――――――」

「っ……」

 

 影より這う白い腕に絡め取られ、共に沈みゆく中、士道の目はひたすら狂三を捉えていた――――哀れに怯えた(・・・)少女(獲物)を定めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……っ、はぁ……っ」

 

 ――――アレ(・・)は、誰だ?

 

 己の領域、濃密な影の中で狂三は自身の首筋に手を当てて戦慄した。

 狂三の首に牙を立て、血を喰らっていた。否、恐らくは狂三から吐き出される汗や肌の細胞すら飲み干していたのだ――――アレは、誰だ。

 今一度、同じ自問自答を繰り返す。狂三が言葉を交わしていたのはあの少年、『喰らう』意味で意中の殿方、五河士道。

 絵に書いたような好青年で、絵に書いたようなお人好し。いいや、下手な物語より現実味が薄い少年。人を救い、人のために泣ける優しい少年だ。

 

 間違っても――――――狂三の首に、牙を突き立てるような少年ではない。

 

「士道さんが……?」

 

 まさか、という在り来りな言葉が消えない。だが、肌に残る鋭い傷跡は本物だった。触れれば、鋭利な刃で付けられた穴がその感触を嘘ではないと示している。

 何が起こったのか。士道が狂三の首に噛み付き、咄嗟の判断で〝影〟の領域へ侵入した――――狂三の〝影〟には二種の使い分けがある。

 どちらも入口は一つ。狂三が今いる影の中は、自身の出入りや天使によって生み出された分身体を出入りさせる隠れ家にも似た空間。

 もう一つは、純粋な使い道。人を『喰らう』ための空間。呑み込んだ者の時間を根こそぎ喰らい尽くしてしまう不随意の領域。そして、士道は――――――

 

「う……」

「っ!!」

 

ここ(・・)にいた。狂三は士道を、この自身の領域に引きずり込んだ。引きずり込んでしまった(・・・・)

 狂三の目的、〝悲願〟に至る道を考えたとき、この選択はその意思から明確に外れたものだろう。

 士道の霊力が欲しいのなら、文字通り呑み込んでしまえばよかった。仮にそれができなかったとしても、狂三に襲いかかるような男を自分の腹の中に同居させるなど正気ではない。

 だから、狂三の行動に理論はない。あったのは、感情のままに動いてしまった結果だけ。それは士道に対して〝脅威〟を感じ、自らの手で対処すべきと判断したからか。

 

 それとも――――自らが命を奪うはずの士道を、放っておけなかったからか?

 

「士道、さん?」

 

 余計な思考を分断し、狂三は警戒心を顕にして彼の名を呼ぶ。

 ゆらり、士道が立ち上がった。狂三を見た。睨めつけた(・・・・・)。それだけで、士道が士道ではない(・・・・・・)と理解し、目を見開く。

 

「――――あ、ははは」

 

笑った(・・・)。狂三を見て憐れむのでも悲しむのでも、救うと宣うのでもなく、士道は嗤う(・・)という理解し難い行動を取った。

 それは、士道が正気ではないと再認識させ、同時に狂三を警戒(・・)させるに足る光景だった。

 

神威霊装・三番(エロヒム)ッ!!」

 

 鎧の名を謳い、次の瞬間にそれは狂三の全身を包み、姿を見せた。

 紅と黒のドレス。淡く光る鎧の輝き。髪は左右非対称に括られ、狂三の不揃いの双眸を表にする。神威の城。精霊が纏う絶対の奇跡、霊装。

 

「〈刻々(ザフキエ)――――――」

 

 これでは足りないという思考と、相反する躊躇い。

 士道を相手に天使を扱うという異常行為に、狂三の心が警告と反して言葉を詰まらせた。

 

「――――〈刻々帝(ザフキエル)〉ッ!!」

 

 振り払う。一体いつから、おまえは相手に気を遣うような()になったのだ、と。

 そこからの狂三に迷いはない。背に現れた等身の二倍はあろう文字盤、時を刻む羅針盤。そこに設えたられた長く短い二挺の古式銃を手にし、天使〈刻々帝(ザフキエル)〉の示した『IV』の数字から影を滲ませ銃口に装填。

 

「【四の弾(ダレット)】!!」

 

 放つは影。時間を濃縮した漆黒の銃弾。時を巻き戻す(・・・・)権能を持つ弾丸が、躊躇いなく引かれた引き金を合図とし、士道へ向かって突き進む。

当たった(・・・・)。狂三の放つ銃弾に外すという文字はなく、見事士道の身体を撃ち抜く。そして、士道の肉体の時を巻き戻す――――はずだった。

 

「はははははははっ!」

「な……」

 

 高笑いを響かせ、狂三へ向かって歩み出した士道の姿に絶句する。

 ありえない。〈刻々帝(ザフキエル)〉の権能は時間。唯一、狂三だけが司る不変の原理。不可侵の領域。それが士道に対して、何の効果もなかったというのか。異常を戻すことが叶わず、無効化された。

 まるで、士道の異常は不可逆(・・・)の事象である。そう突き付けているかのように。

 

「馬鹿げた話ですわね――――『わたくしたち』!!」

 

 一つの手段が潰えただけで終わる狂三ではない。手を高々と掲げ、影に潜ませている分身を士道に向けて放った。

 一部の変わりもない『狂三』。狂三(オリジナル)と姿形を同じとする者たち。狂三の過去、一瞬の時間から切り取られた彼女たちは、狂三の意志に従い士道へと取り付き。

 

『は……あへぇ♡』

「…………は?」

 

その全員(・・・・)が、狂三とは思えぬ無様な相好をさらけ出し、倒れた。

 崩れた。同じ貌が、士道に触れただけで。表情を歪ませ、舌を突き出して、下品な声を上げて『狂三』が倒れていく。

 あまつさえ、そのうちの一人を見て士道が乱雑に霊装の胸元を掴み上げ、キスをした(・・・・・)

 

「んっ♡んんんんんんーっ♡♡」

「な、な……な」

 

 ――――ぷしゃ、ぶしゃ、ぶしゃぁぁぁぁ。

 

 蛇口が壊れて水が吹き出したような音が狂三の鼓膜を震わせた。どこから、などとは目の前にあれば考えるまでもない。

 士道に口付けをされた『狂三』が、全身を痙攣させスカートの下から潮を吹いて影の中を汚したのだ。

 絶頂。性的な興奮とエクスタシー。狂三とて知っている。どう自身を慰め、至るかを知識としては知っている。

 しかし、たった今行われた理不尽な光景は知るはずがない。ただ唇と唇を重ね合わせただけで、女が絶頂に至る。そんな理不尽がありえていいはずがない。

 不条理の塊である精霊が、もたらされた不条理に思考を停止させられる。まさに馬鹿げた光景がそこにはあった。

 

「ぷはぁ♡♡あぁぁぁぁぁぁ……♡」

「!!」

 

 狂三が顔を真っ赤にし、淫靡な光景から目を背けている間に、士道にキスをされていた『狂三』があられもない貌を晒し、もう用はないと言わんばかりに打ち捨てられる。それだけで、彼が本当に士道なのか強い疑念を抱かざるを得ないが、それを思案する時間は残されていなかった。

 ただ触れただけの快感にビクビクと身体を震わせ、完全に再起不能となった『狂三』たち。その蕩けきった自身の貌、全貌がこの時のみ恨めしいほど優秀な目に映り込み、全身の熱という熱が沸き上がるような羞恥を味わいながらも、狂三は士道へ銃口を向けた。

 

「来ないでくださいまし!」

「…………」

 

 迷わず引き金に指をかけ、物理的な銃弾を向ける。特殊な権能を込めていない影の銃弾だが、人を容易く屠るだけの威力はある。

 だが、士道の足は止まることなく狂三(獲物)を見据えて侵略する。

 

「こ……来ないで! そこから動いてはなりませんわ!」

 

 構わず、揺れる。幽鬼か、狂三という存在を犯す(・・)魔王であるのかもしれない。

 影の中という狂三の体内で、士道は影そのものを侵食していくようなドス黒い存在と成り果てていた。

 

「う――――撃ちますわよ!」

 

 ――――震えていた。銃を持つ狂三の手が、震えていた。

 ニィと目尻に邪悪な笑みの形が浮かび上がる。狂三ではなく、士道にだ。

 

「……どうしたんだよ、狂三」

「な、何を……」

「おまえ、銃を撃つときは問答無用で、自分がルールって顔してたはずだろ――――そんなに怯えて(・・・)、どうしたんだ?」

 

 怯えている? 誰が?

 

 ――――時崎狂三が、五河士道を恐れている?

 ありえない。ありえてはならない。カッと目を見開き、激情を以て士道を睨みつける。

 

「――――ふざけないで、くださいまし……っ!!」

 

 それすら、裡から沸き上がる感情を克服するには至らない。それどころか、士道は狂三の抵抗を楽しむように手を広げ、言う。

 

「なら撃ってみろよ。いつも(・・・)みたいに、俺をさ」

「っ……!」

 

 煽りながら、一歩前へ。狂三は後ろへ。いつもは悠然と音を奏でる狂三のブーツが、主人の感情を読み取ったように不協和音を奏でた。

 もつれた足が遅い。カタカタと震える銃口が定まらない。

 ゆっくりと、だが確実に近づいてくる士道。

 ゆっくりと、だが無様に後退りをする狂三。

 

「あ……」

 

 結果など、見え透いたものだった。狂三を見下ろす士道。瞳に警戒も、ましてや彼の優しさはない。

 あるのは、ただ()を見る眼光。狂三という雌の獲物を定めた雄の威圧。

 それでも、撃てなかった(・・・・・・)。恐怖、絶望、憤怒。自身のプライドや尊厳が打ち砕かれようとした瞬間、その感情のままに引き金を引くことができたはずなのに。

 狂三はそれでも――――この少年を殺せなかった(・・・・・・)。それが、全てだったのだと思う。

 それ故に、狂三の命運は定まる。運命は、閉ざされた(・・・・・)

 

「きゃっ……」

 

 軽く手で押され、尻もちを突く。本当に軽く、物すら押し出せないような力加減で、狂三がバランスを崩し転倒する。

 あまりの醜態。自分を殺してしまいたくなるようなザマに、けれど狂三の視線は己には向かない。

 

「はは、どうした狂三? 俺の前で転んでいいのか?」

「あ、あぁ……い、いや……っ」

 

怖い(・・)。狂三を見下ろす士道、いや()が怖い。全身の細胞が悲鳴をあげて、立ち上がることさえ出来ず後退る。

 銃を影の地面に擦り付け、お尻を不格好でも這いずらせて逃走を試みる。

 

「来ないで! 来ないでくださいまし! わたくしに触らないで……っ!」

「そう思うならもっと逃げてみろよ。狂三なら簡単だろ? ほら、俺は歩いてるだけなんだぜ」

「っ……こ、の……!」

 

 事実、士道の言う通りだ。狂三が体勢を立て直しさせすれば、精霊としての力で士道から逃げ遂せることは簡単な話だ。人を殺すより浪費なく、ただ歩く士道から逃げられる。

 ならば、なぜ狂三は尻もちをついて後退っているのだろうか。怯えた少女のように首を振って、震えの止まらない身体を見せつけてしまっているのだろうか。

 それこそ簡単な話だ――――狂三は今捕食者(強者)ではなく被食者(弱者)。それだけのことだった。

 遂に手が伸ばされ、狂三へと迫る。

 

「ひ……っ!」

 

 引き攣った悲鳴。長い人生において、これほど狂三の汚点足り得る声はなかった。それほどまでに、伸ばされた手に恐怖を抱いた。わけのわからないものが、あの優しい少年の手として存在している。狂三の頭を撫でるためではなく、狂三()を捉えるための手が迫る。

 頭を守るように手を翳し、蹲る。ただ未知の恐怖に支配され、蹂躙され――――決壊した。

 

 ――――ちょろ、ちょろろろろろろ。

 

「……え?」

 

 一瞬、自身の身に起きたことが理解出来なかった。

 狂三は呆然と、音の出処を把握する。股ぐらから生じる生暖かい感覚。ショーツを貫く水。影を曇らせる汚物。

 

「は……やっ、だめ! やめてくださいまし! 止まって……いやぁ!!」

 

 ――――しゃぁぁぁぁぁぁっ!

 

 発狂した狂三の意志に反して、その勢いは強くなる。混乱の中霊装のスカートを股間部に押し付けると、逆に濁りのある水が弾けるように飛び散っていく。

 

「いやっ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

失禁(・・)している。男の前で、好意を抱く(・・・・・)少年が見下ろす中で、狂三がはしたなく小便を漏らしてしまっていた。

 悲鳴をあげたところで放尿は止まらず、影の地面に水溜まりのようにびちゃびちゃと染みを作る。

 羞恥心と屈辱感、何より士道に粗相を見られてしまったという感情が、涙となって狂三の貌を彩った。絶望的な声音が、涙声になって零れ落ちる。

 

「あ、ああ……、ぁぁぁ、ぁぁ……」

「――――は、あはははははっ!! 漏らしたのか。男の前で、怖くなっておもらししたんだな? 素敵な格好だぜ、狂三」

「――――っ!!」

 

 しかし、士道の見下した言葉と、皮肉にもこの失禁が狂三に僅かながらに正気の光を灯らせる。

 淑女としてあってはならない恥辱の姿。時崎狂三という女のプライドが、目に光を宿して士道を睨めつけた――――――すぐに、折られてしまった。

 

「ぁ……」

「ん? どうしたんだ狂三。もっと抵抗してくれよ――――じゃないと、おまえは俺のモノにならないだろう?」

 

 弛緩した身体が、また股を濡らした気がした。

 今、目の前にいる男が、狂三を支配することしか考えていない雄なのだと、悟った。

 ――――背を向けて逃げ出したのは、次の瞬間のことだった。

 

「――――っっっ!!」

「お……なんだ、やっぱりまだ余裕なんじゃないか」

 

 身体が上手く動かない。それでも逃げなければいけない。プライドを折られ、やり返さなければ気が済まない狂三の気質は眠り、這いつくばってでも士道から逃げようとする狂三がそこにはいた。

 

「あはははは!! ほら、もっと上手く逃げろよ。そんなにケツを振って、もしかして俺を誘ってるのか?」

「く……っ!」

 

 そんなわけはない。ギリッと奥歯を噛み締め、しかし士道の言う通り彼に見せびらかすように尻を向けながら狂三は逃げ回っていた。

 いや……もはや、それは逃げ回っているというより、わざと逃がされているようなものだった。

 

「はっ、はっ……はぁ……っ」

 

 自身の領域で、自分が支配する影の中で、四肢を張って逃げ惑う。それをわざと追いつかない程度で追う士道。

楽しんでいる(・・・・・・)。狂三が這いつくばって士道から逃れようとするその様を、笑いながら彼は楽しんでいるのだ。

 怖い。怖い、怖い、怖い、怖い怖いこわいこわいこわい――――たすけて。

 

「う、ぅぅぅ……」

 

 誰に助けを乞えというのか。誰が、『最悪の精霊』と呼ばれた女を救おうと思えるのか。唯一の同志たる自分自身さえ相手にならず、一番の力を持つ狂三が逃げ惑うという選択をせざるを得なかった少年に。

 いない。そんな人はいない。狂三の危機に現れる、守ってくれる騎士(ナイト)など――――浮かんだのは、焔に焼かれようとしていた狂三を守ろうとしてくれた、少し不格好な少年の姿。

 

「たす、けて――――」

 

 考えてしまったら、もう止まらなかった。涙がポロポロと零れ落ちる最中、狂三は呼んでしまった。叫んでしまった。

 

「たすけて、士道さん!! わたくしをたすけてくださいまし……おねがい、ですわ……士道さんっ!!」

 

 恐怖に震え、泣き叫んで、それでも狂三は確かに呼んだ。

 必ず来てくれる。あの少年は、助けを呼ぶ声に必ず答えてくれる――――――

 

「――――捕まえた」

 

 ――――狂三を襲う張本人が、その少年でない限りは。

 

「…………あ」

 

 霊力によって形を作られた長いブーツを掴まれ、狂三の逃走劇は終わりを告げた。同時に、心までも折られてしまった気がした。

 

「そぉら!」

「きゃぁ!?」

 

 引き上げられる。それも、逆さ吊り(・・・・)で。如何に狂三が華奢な体つきをしているとはいえ、片手で少女の肢体を持ち上げる士道の膂力は尋常ならざるもの。

 片腕で足を取られ、宙吊りにされた狂三は必然的に大手のスカートが反転し、普段は隠されたその全貌が晒される。

 タイツと紐付けされたガーターベルト。恥部を際どいラインで隠すショーツ。常ならば見られたところで感じない強大な羞恥が、頭に血が上る狂三の思考をさらに鈍らせ、どちらの意味で顔に熱を灯しているのかわからなくさせる。

 

「へぇ、随分といやらしい下着着けてるんだな。狂三は、いつもこんな格好で戦ってたのか……あぁ、霊装の一部だけあっておしっこの汚れが綺麗になってるのは残念だなぁ」

「っ、離し、なさい! 離してくださいまし!!」

 

 羞恥を刺激する低俗な物言いに、また狂三の精神に僅かながらの抵抗心が蘇った。

 とはいえ、だからといって逃れられるわけではない。どうしてか四肢に力が入らず、吊り下げられたままじっくりと自身の下着を観察され、その上鼻先を近づけられ臭いまで嗅ぎ取られる。

 

「ん……ちょっと臭うな、おしっこの臭いだ。はは、狂三でもこんな小便の臭いがするんだな」

「な、ぁ……!」

 

 小馬鹿にしながら、本当に驚いた素振りで狂三の股を嗅ぐ士道。されたことのない辱めに言葉を失う。

 

「ふ、ざ……け、……っ!!」

 

 いよいよと、士道に対しての怒りが頂点に達し、全身に霊力が漲る。ようやく、狂三はその力を取り戻し――――――

 

「よっと」

 

 目の前で放たれたそれ(・・)に、全てを無に帰された。

 

「はへ?♡♡」

 

 本当に、自分の口から零れた声だったのか。疑問を感じる思考が霧散し、目の前のモノに全知を集中させられる。

 逆さ吊りにされ、士道が狂三の恥部に触れられるということは、その逆も然り。

 狂三の瞳に映り込む陰茎(ペニス)。実物は、初めて見る。士道の一部が、大きい。こんなにも大きいモノなのか。違う、そんなわけはない。こんなものを入れられたら、女の身体は壊れてしまう。それほどまでに規格外の大きさ。

 そして、かぐわしい(・・・・・)

 

「はっ♡はっ♡はっ♡♡」

 

 今まで嗅いだどんな臭いより、狂三の鼻腔を刺激して止まない。逆さに突きつけられた肉棒に舌を垂らし、涎をダラダラと顔面に流してしまう。ぽた、ぽた、と落ちてくる粘性の液。それが、自身の股ぐらから洪水のように零れ始めた愛液だと認識するのに、そう時間は必要なかった。

 

「お、狂三もノリノリじゃないか。ほら、これが欲しいんだろ?」

「!!」

 

 グッと押し付けられた肉棒。我慢汁を蓄えた亀頭が口に迫り、間一髪で正気に返った狂三は唇をキツく閉じてその侵入を遮った。

 

「へぇ……粘るなぁ。そら、そら」

「ん♡んんーっ♡♡うんんんんん♡♡」

 

 狂三の唇を粘液でグロスのように塗りたくり、ぬらぬらと卑猥な光で桜色の唇が照らされる。

 目を瞑って耐える。鼻腔の中に士道の液が侵入し、犯される。思考を毒され、身体を作り替えられていく――――彼に喰らいつかれた時と同じ感覚。

 それでも耐えた。この侵入を許せば本当に終わる。狂三が終わってしまう。それに、それに、それに――――少年が正気に返った時のことを思うと、涙が出るほどの悲しみを覚えてしまった。

 

「んー、さすがは狂三。それじゃあ――――――」

 

 しかし、狂三が半ば無意識で行う抵抗の意味も虚しく、少年は狂三を蹂躙する合図(・・)を鳴らした。

 

【みんなに、手伝ってもらおうかな】

 

 瞬間、〝声〟を狼煙として白く細い腕(・・・・・)か狂三の全身を絡め取った。

 

「んんっ!?」

 

 自らの意思でなく口を手で塞がれ、狂三は驚愕に呻く。両の足を掴み取られ、手は縛られたように伸ばされ、釣り上げられた魚のように宙吊りを継続させられる。僅かな抵抗こそできるものの、わざとそういう余裕を残したとしか思えない。そう、微かに身を捩らせる狂三の様を嘲笑うために。

 それは、狂三の意志にのみ従う『狂三』たちの力。以前には士道をキツく拘束した白い腕たちが、狂三の意志を離れて狂三を束縛する。

 

 〈破軍歌姫(ガブリエル)〉。以前、狂三が相対し、電子の世界では共闘した記憶が残されている天使。その天使の〝声〟は洗脳の力を含んでいる。しかし、これほどの力はなかったはずだ。少なくとも、霊力を纏う者を従える効力はない。

 狂三の分身たちをこんなにも容易く従えることなど、士道の〝声〟ではできなかったはず――――――

 

「んぁ!?」

 

 思考を遮られる。口を塞いでいた手のひらが、急に狂三の口に指を突っ込み、両端で大きく広げて入口を作った。

 口角鈎より力強く、わかりやすく、狂三の口は大きく広げられる。それ(・・)を受け入れるため、口腔内を見せびらかされる。誰に? これから狂三を犯す士道の一部に、だ。

 

「ふぁめ、ふぁめへぇ――――おごっ♡♡」

 

 ぶち込まれる。狂三の咥内の許容を大きく超えた肉の塊が、喉奥まで突きつけられた。

 

「お、ごぉ♡♡おおっ♡♡……ぉぶっ♡♡ぶぶっ♡♡」

 

 口腔内を漕ぐ。狂三の意志など関係がないと、狂三が苦しむ姿が楽しいのだと。

 遠慮なしに腰を振り、しかも逃げられないように分身たちの手でガッチリと狂三の頭をホールドさせて、肉棒をしゃぶらせる。いや、飲み込ませる。

 精霊でなければ、息が出来ずにとっくに失神している。逆さ吊りのまま口が塞がれ、酸欠で意識が遠のいていく。それを精霊としての強靭な肉体が維持を試みるばかりに、意識を失うことができない狂三は地獄の苦しみを味わっていた。

 

「おぶっ♡あ゛♡♡おぼぉ♡♡」

 

 だけど、それだけではなかった。白目を剥きかけ、肉棒で喉を突かれ続ける狂三の曝け出された恥部は、霊装のショーツをぐちゃぐちゃに歪ませ、パックリと割れた陰裂が薄布に浮かび上がるほどに愛液を生成していた。

 気持ちいい。失神するほど蹂躙されながら、狂三は人生で初めて味わう得難い快楽を手に入れていた。

 

「おぉ♡お゛お゛ぉ゛……っ♡♡」

 

 死んでしまいそうになるほどの快感。道具のように扱われ、士道を気持ちよくするためだけにその一部を出し入れされる。あまつさえ、狂三が生み出した『狂三』にいいように拘束され、抗えない。優れた視覚が霞み、見えたところで男の玉袋が狂三の貌に当たり、より屈辱という快楽を強める結果になる。

 惨めで、惨い。憐れで、悲惨。もう何も考えられなくなった、そのとき。

 

「あ――――狂三、射精()る」

「お?♡――――うぼぉぉぉおぉおぉぉっ♡♡」

 

 ――――ドブッ、どぶるるるる。

 

 喉奥に何かが吐き出された。恐らく、士道の陰部から排出される精液。細やかに脈動する肉棒が、苦いようで甘美な精液を狂三の口の中にぶちまけた。

 

「――――――お゛♡♡」

 

 だが、尋常な量ではない。しかも濃密で、ドロドロとした粘性がありながら溶けていきそうな白濁。

 当然、逆さに吊られた狂三が飲み下せるものではない。気道を塞がれ、ろくに息ができない。元々、酸欠で失神寸前だった狂三の意識は、ここで一度完全に途絶えた。

 

 

 

「…………ぅ」

 

 目覚めは、最悪だった。光が届かない影の空間で、狂三は目を開き――――開いた瞬間、恐ろしい吐き気に見舞われのたうち回る。

 

「ぐ、げほっ! げ、ほ……っ! げほっ!」

 

 地面に投げ出された四肢を呼び戻し、蹲ってせり上がった固形物とも言えぬそれを吐き出した。

 

「な、ん……です、の……?」

 

 息を絶え絶えに、口元を拭いながら吐き戻したものを見て――――夥しい量の白濁に、行われた陵辱の記憶が蘇った。

 

「ひっ……」

 

 悲鳴を上げ、白液で濡れた手で頬に触れる。自分の身体に何を取り込んだか、ハッキリと自覚した狂三に恐怖が奥底から湧き上がる。

 狂三が口から吐き出した白濁の量は、生み出されたものと比べほんの一部だ。それ以外は狂三の中に収められてしまった。飲み込むという形で摂取したのだ。士道の精液を、ザーメンを。それがどれほど致命的に自分を変えてしまう(・・・・・・・・・)行為であるのか、理解できてしまった。

 

「――――あ、目が覚めたみたいだな」

「っ、あ……!♡」

 

歓喜(・・)。彼の声を聞いて浮かび上がった感情の名だ。それも、乙女が持つ小綺麗なものではない。雌が雄という上位種に感じる、征服されることへの歓喜。

 恐ろしい。一瞬でもそんな感情を抱いた狂三が狂三は恐ろしかった。震えながら声の方向へ振り向けば、服を取り払って肥大化した己の一部を狂三へ見せつける士道。

 意識を取り戻した狂三に、醜悪な笑顔を浮かべながら声を発する。

 

「すぐに起きてくれてよかったよ。やっぱ、する(・・)なら意識のある狂三じゃないと面白くないからさ」

「す、する……?」

 

 これ以上、狂三を使って何をしようと――――現実から目を背けた狂三へ、士道は迷いなく行為を口にした。

 

「そりゃ、狂三を犯すに決まってるだろ」

「……え」

「逃げてもいいぜ。『狂三』たちに追わせて、おまえを這いつくばらせて犯すのも楽しそうだ。自分自身に抵抗できないまま、泣いて俺に犯されてみるか?」

 

 犯す。狂三が士道に、犯される。士道の肉棒を狂三の秘所にぶち込み、陵辱の限りを尽くす。レイプする、と士道は言っているのだ。

 笑いながら、あの優しかった少年が、狂三を絶望のどん底に叩き落とそうというのだ。悲しかった。何よりも、そんな士道を見ることが悲しかった――――驚いたことに、狂三にはまだそのような感情が残されていた。

 そして、それ(・・)を失ってしまうことへの恐怖感が露出した。

 

「や、やめてくださいまし……」

「あ?」

「っ……わ、わたくし、初めてなのです! 殿方と交わる経験が……その、ありませんの!!」

 

 先ほどまでと違う羞恥を感じ、狂三は顔を真っ赤にして逸らした。ある意味で、狂三という精霊の来歴を暴露し、無駄(・・)な許しを乞うている。

 

「は――――あはははは!! そうか、狂三は初めてなのか! はは、あんなに男を手玉に取れる『最悪の精霊』さんに、男の経験がなかったなんてな!」

「っ……だ、だから……っ!」

 

 恥を忍んで希望に縋る。狂三の培われた余裕の仮面は剥がれ落ち、少年に畏怖の念を抱き喪失を避けたい生娘の嘆願があった。

 ひとしきり嬉しそうに(・・・・・)笑った士道は、狂三の嘆願を――――

 

「けど……止めて欲しいなら、頼み方(・・・)ってもんがあるよな?」

 

 ただ受け入れてくれるわけもなかった。

 

「ど、どういう意味ですの?」

「んー? 賢くて綺麗な狂三なら、何をしたらいいか理解できると思うんだけどな。俺の気分が変わらないうちに、な」

「っ……」

 

 間違えば、二度目はない。どうすれば嘆願を受け入れてもらえるのか。頼み方(・・・)、と士道は言った。

 誠心誠意、頼み込む。狂三たちが生きるこの国には、そのためのある行為(・・)が存在している。いやでも、それが頭に浮かんだ。

 人前でした(・・)ことなどない。そもそも、狂三が相手の前でへりくだった行いをすることは許されない。常に相手の上に立ち、物事を優位に進める。そうでなければ時崎狂三は生きていられなかった。

 奥歯を噛み、皮膚が破けんばかりに拳を握る。しかし、そんな狂三の苦渋を知ってか知らずか、士道は言葉を続けた。

「出来ないならいいぜ。その綺麗な霊装、狂三の心が折れるまで切り裂いて、無理やり犯すだけだからな。それじゃ――――――」

「!! 待って! 待ってくださいまし!! し、しますわ……だから、お願いいたします……!」

 

 この優美な鎧が砕かれた時、狂三は本当に自分を守る術を失ってしまう。霊装の下に守られたものを散らして、士道に屈服させられてしまう。

 それだけは避けなければならない。必死に言葉を探す狂三の惨めさに、ほんの一瞬だけ士道の判断が止まる。だが、次はないだろうという確信。

 

「あ……ぁ、うぅぅ……」

 

 何も浮かばない。それ以外は、何もできないと思い込まされている(・・・・・・・・・)。思考の誘導に気づいていようが、止められなかった。

 士道の前で膝を突いて、平伏する。両手を地面につけて、頭を深々と下げる。

 紛うことなき、土下座(・・・)の姿勢を見せつける。

 

「わ、わたくしの処女だけは、許してくださいまし♡♡他のことはなんでもいたしますわ♡♡だから、士道さんの逞しいおちんぽ様をわたくしの中に入れることだけは、どうかご容赦を……っ♡♡」

 

 思い浮かんだ低俗な言葉の数々で媚を売る。己の纏う鎧を守るため、己を売り払う。

 精霊の証であり誇りである霊装を身につけたまま、雄に平伏したその姿は、狂三を少女ではなく奴隷なのだと思わせるには十分すぎる光景だった。

 己の前に平伏し、土下座の姿勢を取った狂三に対して士道は、ヘッドドレスのついた頭を足蹴にし、さらに狂三の頭をさらに地面へ擦り付けた。

 

「ひぐっ♡♡」

「あはは、いい格好だ。最高に綺麗だぜ、狂三……」

「くぅぅ……っ♡」

 

 心からそう思っている。思いながら、狂三の頭に足を乗せてぐりぐりと踏みつける。言葉に嘘がないことが理解できるからこそ、狂三は理解の及ばない賛美に身体を震わせた。

 

「うんうん。けど、いいものを見せてもらったな」

「あ……♡」

 

 ふと、狂三の頭上から重圧が去り、僅かばかりの安堵に息を吐いた。

 

「だから――――お礼に、狂三を気持ちよくしてやるよ」

 

 瞬間、狂三は処女を失った。

 

「あ……?♡――――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♡♡」

 

 一瞬の間に、暴力的な快感が下半身から頭に届く。聞いていたような痛みはなく、圧倒的な快楽が狂三の脳を掻き回した。

 貫かれた。あの逞しい肉棒が、入り切らないはずの狂三の中へ挿入された。土下座の姿勢のまま、スカートを捲り上げショーツをズラされ、ケツを無理やり掲げるように持たれ犯された。

 

「あっ♡やぁ♡♡あぁぁぁあああ♡♡……ど、どうして、ですの♡ちゃんと、土下座いたしましたのに♡♡わたくし、士道さんにお願いいたしましたのにぃ♡♡」

「ん? 俺は止めて欲しいならとは言ったけど、土下座したら犯さないなんて一言も言ってないからなぁ」

「そんな……♡そんにゃの♡♡ずるいですわぁぁぁぁぁぁぁっ!♡♡」

 

 パンっ、パンっと腰が打ち付けられ、その度に狂三の秘部から潮が吹き出す。一突き一突きが絶頂に至らしめる極限の腰つき。狂三の膣を士道が快感を得るためだけの器官に変えてしまう、悪魔のような所業だった。

 

「うそつきぃ♡士道さんのうそつきぃぃぃぃっ♡♡」

「だから嘘じゃねぇって。たくっ、狂三は我が儘だ、なっ!!」

「いぎゃぁっ♡」

 

 パァンッ! と肉と肉がぶつかり合う音とは異なる、肌を傷つけられた甲高い音。

 土下座の姿勢ではわからないが、士道が狂三の尻を勢いよく叩いた音なのだと気づく。その証拠に、ヒリヒリとお尻の肌が痛み、それが快楽に変換されて狂三の思考がまたおかしくされてしまっていた。

 

「土下座したまま喘いでる変態の癖に! 生意気、なんだよ!!」

「いぎっ♡く、あぁっ♡♡や、めて……くださいまし♡♡お尻、いたいんですの♡♡叩かないでぇ♡」

 

 快感に変換される痛みを繰り返し与えられ、膣を刺激しながら何度も何度も子宮に亀頭を打ち付けられる快楽を同時に喰らわせられる。

 土下座をしているのではなく、土下座を止められる余裕がないのだ。同時に二種の快感を与えられ、絶え間なく絶頂する狂三の思考と身体は壊れてしまう寸前。いや、とっくに壊れて作り替えられていた(・・・・・・・・・)

 

「はっ、痛いなら痛そうな声を出してみろよ。よがって、気持ちいいって声しか出してないだろうが!」

「ああっ♡ひぁっ♡♡ちがっ♡ちがいますわ♡♡わたくし、士道さんのおちんちんで気持ちよくなったりなど――――」

「往生際が、悪いんだよ!」

「あひいぃぃぃぃぃぃぃぃっ♡♡♡♡」

 

 ごりゅ、と子宮口がこじ開けられるほど強く貫かれ、身体の震えを大きくして舌を突き出し嬌声を響かせる。

 ガクガクと痙攣した全身は、今まさに士道専用の肉便器に狂三が塗り替えられている証拠だった。加速度的に快楽が増し、士道の声が鼓膜を震わせる一瞬でさえ快感を与えられてしまう。

 

「く……そろそろ、出すぞ! 狂三の子宮に、俺の精液全部注ぎ込んでやる!!」

「な……♡だ、ダメですわ♡♡士道さんのザーメン♡射精してはいけませんわ♡壊れる♡わたくし、壊れてしまいますわ♡♡」

「壊れろ! 壊れて、俺の雌奴隷になれ! 叩かれて喜ぶようなマゾ豚になっちまえ!!」

 

 嫌だ。嫌だ、いやだ。狂三にはやるべきことがある。果たさなければならないことがある。こんなところで欲望に犯され、壊されるわけにはいかないのに。

 けれど、肉棒のピストンに己の本性を暴かれた狂三に、子宮口へと注がれる雄の証を防ぐ手段など存在しなかった。

 

射精()るぞ! イけッ!! 俺のモノに突かれて、はしたなくイッちまえ、狂三!!」

「あ、あぁぁぁ♡♡イきますわっ♡♡士道さんのおちんぽに突かれて、わたくし、イク♡♡――――いくぅぅぅぅぅぅっ♡♡」

 

 ――――どぼっ。

 一瞬で子宮から精液が溢れる音が聞こえた。娼婦でさえしないような絶頂の雄叫びをあげて、狂三は潮を吹き散らして叩きつけられる快感にただ悶えた。

 

「……お、おぉ♡おぉぉおぉお……っ♡♡」

 

 どぷっ、どぷっ、とひたすら注がれる液の感覚に、狂三は影の地面に爪を立てて耐え続ける。ケモノのような声で、しかも土下座した尻は高く掲げられた下品すぎる姿でだ。

 亀頭で塞がれているにも関わらず、膣から漏れ出た精液が生々しい音を鳴らして影に落ちる。士道から放たれ狂三の中から漏れ出たモノが、狂三の大切な体内を汚していく。染められていく。

 

「……ひっ♡ぎぃ♡♡」

 

 数分をかけた射精がようやく終わる。引き抜くという行為にさえ狂三は嬌声を上げ、どっぷりと注がれた士道の子種が子宮を埋めつくしていた。

 子宮が全てを受け止めようとするものだから、腹が膨れたように紅黒の霊装が盛り上がり、優美な美しさを淫靡なものへと変えさせられてしまう。

 

「はぁー♡……は、ぁ♡♡」

 

 犯されてしまった。肉棒をズボズボ突かれて、狂三の貌がよがり狂うほどに。種付けされて、妊娠させられたみたいに腹を膨らませられて。

 ようやく土下座の姿勢から解放され、うつ伏せで倒れた狂三の膣から押し出された精液がぶりゅ、飛び出していく。もう、そんなことが気にならないほど喪神状態の狂三――――ピタ、と熱いモノが開いた陰裂に触れた。

 

「へ?♡」

 

 恐る恐る目を向けた狂三の視線の先で、獰猛な笑みを浮かべた士道がうつ伏せの狂三に覆い被さっていた。

 抵抗できないよう、抵抗する気力のない狂三を完膚なきまでに犯し尽くすために。

 

「何、勝手に満足してるんだ? ――――奴隷が先に休んだら、ダメだろ」

 

 ぐちゅり。愛液と精液をたっぷり吸い込んだ狂三の膣を肉棒が掻き分けた。

 

「い――――いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♡♡♡♡」

 

 今度こそ目に涙を浮かべた狂三の悲鳴が、広大な影の中に響き渡る――――雌の嬌声は、永遠と時を奏でて止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ♡……ぁ♡……っ♡♡」

 

 強い意志を宿していた異形の双眸が、虚ろな目で虚空を眺めている。否、その長く整った睫毛に白濁の液が流れ、光景さえもドロドロとした白に染められているのかもしれない。

 紅と黒で彩られた美しい霊装はずっしりと重い精液で余すことなく彩られ、身を守るはずの奇跡の鎧が淫猥なものへと変わってしまったのだと証明している。

 中でも、大きく膨らんだ狂三の腹。特濃の精液だけを溜め込み、膨れ上がった子宮が生み出したもの。息をして僅かに上下した腹が、美しかった霊装と相まってたまらない光景を映し出す。

 影が吸いきれないザーメンの海に囲まれ、犯し尽くされた狂三の姿。優雅で強かで、気品に溢れ超然としたあの少女を、陵辱の限りを尽くし屈服させた。

 あまりに悲惨で、狂三という絶美の精霊に似つかわしくない様。

 

「ああ――――本当に綺麗だよ、狂三」

 

 それを見て士道は、笑った。笑っていたのだ。

 

「しど……ぅ、さ…………ん。た……す、け――――て」

 

士道(本能)が悪辣に微笑む裡で――――士道(理性)の心が折れ、致命的(・・・)に砕け散る音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「――――そういうわけで、狂三と一緒に帰ってきたんだが」

「あんっ♡……し、士道さぁん♡♡」

 

 琴里の眼前には、平然と紹介する士道と、しなだれかかりながら紹介される狂三の姿。その貌は、見たことがないくらいにうっとりとしたもの。率直にいえば、大変に助平で子供にはお見せできないお顔だった。

 深々と、息を吸い込む。混乱した自分の頭を叩きつけるかのように、叫んだ。

 

「なんで――――そんなことになったのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――それで、大丈夫ですの『わたくし』」

「……こ、れが……平静なわたくしに、見えまして……?」

 

 見えませんわね、というのが『狂三』たち分身の総意だった。分身体に直球な弱音とは、余程体調がよくないと見えた。

 一時的に影の中へ避難した狂三(オリジナル)を保護することには成功したが、蹲ってピクピクと身体を震わせるその様は、『狂三』たちでは手に余るものだった。

 どういうわけか、影の中に潜ませていた『狂三』の大半が長期間の記憶を欠落させ、オリジナルはこの姿。しかも、ドロドロとした液体が影の中を占拠し、単なる掃除でさえ大仕事。迂闊に素手で触れた日には、幾人もの分身が使い物にならなくなってしまった。

 

「では、平気ではない『わたくし』。これから、どうするつもりですの?」

 

 吐息交じりに放たれた言葉は、『時崎狂三』の方針に関わるものだ。

 狂三には目的がある。命を懸けて事を成さねばならない〝悲願〟が果たされるその日まで、狂三が足を止めることは許されないのだ。

 しかし、天使を唯一扱える狂三(オリジナル)がこの状態では……そんな悲観的な考えが雰囲気に漂う中、肢体を投げ出して震えていた狂三は、瞳に激情を宿して声を発した。

 

「決まって、いますわ……! おかしな形で力を持っていかれ、不安定ではありますけれど……上手く、士道さんに取り入ることができましたのよ!」

『……上手く?』

 

 これが、上手いのだろうか。分身たち総出で首を捻ったが、狂三は聞いていないのかなおも強気な言葉を重ねた。

 

「この意味が、お分かりになられまして!? わたくしが、いつでも士道さんの寝首をかけるということですわ!! このまま、一気に士道さんの霊力をわたくしの手中に――――」

「えい、ですわ」

「……あひぃぃぃぃぃぃぃっ♡」

『………………』

 

 指で突かれた程度でよがり狂う今の狂三では、とてもではないが説得力がなかった。

 まあ、そもそも。

 

「……『わたくし』、最近は士道さんに絆されていましたものねぇ」

「今日も、珍しくお一人で外出していた士道さんに構っていただきたいがための失態ですものねぇ」

「案外、士道さんに突かれて喘いでる時も心から喜んでいらしたのではなくて? いやですわー、『わたくし』ったら卑しい女ですわー」

「うる、さいですわよ! ――――ひぃん♡♡さわるのらめれすわあぁぁぁぁ♡♡」

 

 ある感情のために手を出し損ねた殺人鬼に、もはや少年の命を摘み取ることなど不可能であったのかもしれない。

 その感情の名は――――彼女の名誉のため、伏せておくこととしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くちゅん」

「あら、可愛らしいくしゃみね。令音、風邪?」

「……いや」

 

 何かが違ってしまった寒気、のようなものだろうか。

 

 

 






Q.筆者は狂三のこと好きなの?

A.何だかんだ言いながら士道くんにゾッコンだけど負けず嫌いで諦めが悪いから素直にならない目的も諦めない、意外と抜けてるところとか黒歴史を持ってて可愛くかっこよく美しい狂三が好きということもあるかもしれなくもない………………しれなくもないっていう話ですよ、はい。

看板を乗っ取りに来ました。ハイパーメインヒロイン時崎狂三の章でございますわ。原作だって単独で外伝もらってんだ上等だろおう。『スレイヴ』という絶対的な響きはこの子に使おうと決めていた。
楽しかったか?とお聞きになられる方もいるでしょう。文字数見てください。死ぬほど楽しかったです。
唯我独尊大胆不敵。意地っ張りで負けず嫌いでプライドが高くて、それでいて乙女なところとかあり目的と相反するとわかっていても士道くんに会ったり贔屓したりする。けど逆にデレさせるために可愛く大人の魅力で攻める少女。そして最後まで諦めることをしらなかった強かで賢しく毒を食らわば皿まで、様々な目的のため一人抱え込み隠れて誰かを救いながら、しかし人を殺す精霊であり世界で一番優しい少女。そんな子がプライドを折られ屈服して優美な霊装のまま土下座して犯される。最っ高でしょう?

…………いや、その、くるみんのエッチな絵とかエッチな踊りのM○Dはかなりあるけど、小説ってなるとあんまりないじゃん?だから興が乗ったというかなんというか、くるみんというキャラを解釈しながらエロを書くのが堪らなくいいというか……うん、やめよっかこの話!性癖暴露の中でも1番危ないわ!

士道くんの暴走は令音アビス基準ですが、最初の気絶はあくまで令音が規格外の精霊だからこそ起きたオーバーフローであり、狂三は通常の霊基であるため士道の影響をダイレクトに受け、抵抗力が足りず士道まで引きずられて加速度的に暴走しています。
え、初めから考えて書いたかって?もちろん後付けです(直球)

さて、ギャグっぽく1話は終わりましたが……ここで問いかけです。精霊を救いたいと純粋に願う少年が、その精霊を泣き叫ぶまで犯して壊す……そんな時、純粋で優しい少年は、果たしてどうなってしまうでしょう?楽しみだとは思いませんか?
どうであれ、した結果には責任を伴うもの。……エロで誤魔化せばいいのに、どうしてもキャラ気にして意味を込めちゃうんですよねぇ。おかげでこの2話のカロリーすごい。

ではではまた次回〜。あ、狂三のリクボは次話投稿後に別枠で設置します。え、結局狂三が1番好きなのかって?イヤチョットナニイッテルカワカラナイナー。
作者は気持ち悪いですが解釈には一番力入れてるのでくるみんをもっと見たい方は高評価や感想お待ちしております。エロいくるみんみたいじゃろ?私は見たい。

さて、さて、優しい女王様はどんな選択を選んでしまうのか。少なくとも私は、時崎狂三という少女の精神を買い被って考えているかもしれませんね。


話急に変わるんですけど、今精霊たちのお話書いてるんですよね。なんか雰囲気が精霊メインin令音さんになってますけど。……書かないとわからないもんですね、さじ加減。精霊がエッチなのが悪い。あくまでオマケだったのにおかしいにゃあ……ところで精霊たちの章タイトル何にしましょうかね、思いつかん。
あと興が乗りすぎて1話から普通に百合百合してます。むしろ美九大歓喜の百合百合ちゅっちゅパラダイス。いよいよデアラであらゆるジャンルとニーズに答えられる作品になれそうですね。君さぁ……。
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