※この作品はR-18です。

デート・ア・ライブ 令音アビス   作:いかじゅん

40 / 125
ルート分岐。

折紙、四糸乃が琴里を目撃しないor令音が『私』を優先。なおかつ狂三の精神が堕ちてしまうレッドゾーン状態にのみ進行。

フラグエンド『狂三シスター』。本来BADENDってこういうもんじゃね?な私の感性が詰まった一本です。……相変わらず間が空いちゃったんで、勢いで誤魔化してる感ありますけどねー。





12話IF

 

 この選択があっているかどうかなんてわからない。未来は、誰にもわからない。選ばなかった未来の姿など、見ることは叶わないのだから。

 ああ、だから神様。あなたという人がいるなら――――私は、絶対にあなたを許さない。

 見て見ぬふりができなかった。目の前で苦しむ彼女を。これまで幾度となく自分を救ってきた彼を。

 これでもう、彼は自分自身のことを許せなくなる。けれど同時に、琴里という存在がそれを繋ぎ止める鎖になる。

 これでもう、彼女は前に進むことができなくなる。けれど同時に、琴里という存在がそれを支えられる■になる。

 

「さようなら、五河琴里」

 

 だから私は――――今の私に、別れを告げた。

 

 焔が燃える。煌々と激しく、燃えている。

 

 欲望の渦に、幼き少女が呑み込まれる。これは、形だけが救われた歪な物語の一瞬を切り取った――――焔の世界。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……は、はっ♡ あぁぁぁぁぁぁぁっ!!♡♡」

 

 熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い――――苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。

 

「……だれ、か……っ!」

 

 いなくなる。時崎狂三という存在が消える――――それが狂三の運命だったのだろうか。

 数多の命を奪って奪って奪い尽くした殺人鬼。その果てに命を取り戻すことさえ出来ずに、何も残せずに消えていく。

 手を伸ばした。誰も取るものなどいない。彼は、狂三が壊してしまった。だから、狂三の手を取ってくれる者などいはしない。

 快楽で、壊れる。意識が歪む。落とすことのできない意識が断絶する。二度と戻れぬ深い快楽に沈む。

 伸ばした手が落ちる――――その手が、握られた。

 

「………………え?」

 

 握られた。取る者などいないはずの狂三の手が、小さな手に握られた。

 それは、本当に小さな手だった。狂三よりも小さい。だから彼ではないとわかった。けれど、彼のような温かさがあった。

 それはそうだろう――――彼のようなお人好しがいるとすれば、それは彼をずっと見てきた少女でなければならないのだから。

 

「こ、とり……さん……?」

 

 その少女は、五河琴里(・・・・)はフッと微笑み、狂三の手を取って抱き締めた。

 

「っ……」

 

 愛液と汗とが絡まった裸体など、大層不快であろうに琴里は迷うことなく狂三を抱き寄せる。息を呑んで、離れようとしたのに、狂三の身体は指の一本さえ動かせなかった。

 普通であれば、狂三の鋭敏な肌はそれだけで絶頂を感じる。だが、彼と琴里だけは別だった。

 

「あ……」

 

 身体の内側に入り込む熱。それは狂三を蝕んでいた熱と相対し、徐々にだが肉体に落ち着きを取り戻していた。

 

「はっ、は……っ!!」

 

 しかし、普段(・・)琴里に抑えてもらっているものとは程度が違う。本格的に眠る時間は、狂三の淫紋が一番活性化して身体を犯すタイミングだ。

 暴れ狂う身体が言うことを聞かない。狂三の意志に逆らって動こうとする。無意識に服を切り裂かんばかりに爪を立てていた。何か物を噛む癖がついていたばかりに、琴里の首筋に噛み付いた。

 

「ふーッ! ふーッ!!」

「っ――――まったく、とんだ狂犬ね」

 

 血が流れる。だが、琴里は言葉こそ文句を零しながらその声音はどこまでも優しかった。

 噛み付かれたまま、狂三を撫でた。髪を掬うように撫でた。

 意識が、朦朧とする。それはいつぶりかに感じた――――夜の時間の、穏やかな微睡みだった。

 

 

 

 

 

 

「――――っ!!」

 

 意識が、覚醒した。一瞬のように思えるほど、それはあまりに深い眠りだったと狂三は感じて、慌てて飛び起きた。

 

「あら、おはよう狂三。もう少し寝ててもいいんじゃない?」

「琴里さん」

 

 なんてことのない朝の挨拶。けれど狂三は、ベッドから起き上がって琴里を責めるように睨んだ。

 優雅に椅子に座り、首筋に何かの処置を施している――――覚えているとも。昨夜、狂三が深く歯を立てた噛み傷なのだから。

 

「何をしていますの?」

「何って、あなたに噛まれた傷の手当てよ。私にこのまま学校へ行けって言うわけ?」

「――――そういうことを聞いているのではありませんわ」

 

 低く、唸るような声音だった。自分でも驚き、本気で怒りを感じていると人間は叫びより恐ろしいものを吐き出せるのだと思ったほどに。

 しかし、そんな狂三の怒りに琴里は動じた様子もなく、司令官として良い肝の据わりで平然と言葉を返した。

 

「何か問題でもあったのかしら? 私は、いつも通りあなたの安眠を支えてあげただけよ」

「それは日中だけの約束ですわ」

「そんな約束したかしら。いいじゃない、久しぶりにぐっすり寝られたでしょ?」

「……二度と、わたくしの寝床に入らないでくださいまし」

 

 言い残して、わざと足音を立てて部屋を後にする。

 ――――〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の力で、狂三の症状をある程度抑えられることは知っている。

 実際、日中には頼ることが多くなっていた。それだけ、狂三の精神はじわりじわりと追い込まれている。睡眠を必要としないのは精霊の身体のみで、人間がベースの精神に休息は欠かせない。それが今の狂三のように、心をすり減らす生活を送り続けているのなら尚更だ。

 琴里ならば引き受けてくれる。けれど、ある一線は引かなければいけない。少なくとも、狂三の異常が加速する時間に琴里を近づけたくはなかった――――何か、嫌な予感がした。

 

「…………」

 

 唇を噛んで、手を胸に押し当てる――――まだ琴里の炎の感覚が残っているような気がして、それが何故か酷く不安だった。

 琴里を近づけてはいけない。漠然とそんな思いが募る。次の睡眠時は、分身に言いつけて琴里を締め出せばいい。

 だが、

 

「……入ってくるなと、言いましたでしょう……っ!?」

「私は入らないなんて返事はしてないわよ」

「っ……『わたくし』は、何を、して…………ぁ」

 

 その日の夜は、情動が激しくなる前に現れた琴里に抱き締められ、一瞬にして眠りにつかされた。

 あの日を境にして、どれだけ言い聞かせても突き放しても、琴里は狂三のために床を同じくするのを止めなかった。分身に言いつけは当然として、無断で寝床を変えたところで無駄。琴里はまるで狂三の動きを読んでいるかのようにそこに現れた。

 あまりにも頭にきたもので、狂三は無断外泊からホテルを使って無理やりにでも距離を取ったが――――先回りされた時には、狂三らしくもなく指を差して叫びを上げてしまった。

 

「琴里さんはストーカーですの!?」

「失礼ね。ていうか、今のあなたが読みやすいのよ。――――余裕、ないんでしょ?」

「っ……」

 

ない(・・)。残っているはずがない。狂三は士道を受け入れ、彼の心も気にしなければいけない。彼の前で常に張り付けているものは、拒否や拒絶を極力なくした仮面のようなもの。そうしなければ、ただでさえ追い詰められ続けている士道の心がさらに擦り減り、取り返しがつかないことになってしまう。

 ただ、結果として狂三の精神が摩耗するのは当然のことだった。琴里の指摘通り、今の狂三には士道以外を気にする余裕はない。普段の立ち振る舞いこそ自然を装っているものの、どうしてもボロは出てしまう――――こうして琴里に悉く先手を取られてしまうほどには。

 

「もう少し言い方を変えてあげましょうか――――あなたがやりたいことのために、私を利用しない手はないんじゃない?」

「……っ!!」

 

 狂三の最終目的。士道という予想外のイレギュラーに感情を取られてこそいるが、時崎狂三は必ず成し遂げるべきものがある。そのために、こんなところで心を失うわけにはいかない。

 琴里はその一点を衝き、年齢と可愛い顔に似合わない不敵な笑みを見せつけていた。逆に狂三は超然とした態度を失い、憎々しく言葉を吐き出す。

 

「……生意気な小娘ですわ」

「困ったからって急に年の功みたいな態度はやめてくれないかしら」

「言いたくもなりますわ。余計なお節介ばかりして、わたくしは必要ないと――――――」

「悪いわね。私、士道の妹(・・・・)なのよ」

 

 言葉を遮るように唇を歪めて声を発した琴里に、狂三はぴくりと眉根を跳ねさせた。

 ――――それだけで、人の心にズケズケと入り込む理由になってしまえる。最悪だったのは、狂三が欲するものがまさにその士道であったこと。何を言っても肝心なところは譲らない。決めたことは貫き通し、不可能だと思えることを成し遂げる。

 五河士道の影を、よりによってその妹に見る。これを最悪と言わずして、何を最悪と言えばいい。

 

「――――何の当てつけですの、それは」

 

 ――――狂三が彼女たちから奪ってしまったものを見せつけられ、思考がぐちゃぐちゃにさせられる。

「そんなに心配しなくても、私に影響がないのは令音が保証済みよ。ああ、あなたのプライドの問題だっていうなら、土足で踏み込んでごめんなさいね」

「ええ、最悪ですわ。レディとは思えないデリカシーの無さに呆れましたわ、呆れ果てましたわ」

「言ってくれるじゃない……」

 

 狂三がこれでもかと言葉を悪く貶したところで、琴里が頬をひくつかせるだけで終わらせてしまうことをもう嫌というほど知っていて、狂三はため息を吐いた。

 ああ、確かその日からだった。琴里の赤い髪の毛が、瞼を閉じる瞬間まで狂三の視界に入ることが、普通に(・・・)なってしまったのは。

 

「おやすみなさい、狂三」

「……おやすみなさい」

 

 両手を握って、眠る。ただそれだけのこと。始めてしまえば、少女同士が布団を同じにするだけのこと。そんな簡単なことで、狂三は己の肉体の疼きに眠りを妨げられることがなくなった。

 

「ん……」

「…………」

 

 琴里が眠るまで何度確かめたところで、変わりはない。苛烈な司令官や皮肉を浮かべた面はなく、年相応のあどけなさで眠りにつく一人の少女がいた。

 本当に、これでいいのだろうか。それほどまでに呆気なく、あの欲望が信じられないくらいに静まる。狂三を追い詰める激しすぎるモノが穏やかになる。

 琴里の言うように、狂三の安眠は彼女によって保証された。言っても聞きはしない。今の狂三ではどうにもならない。言い訳は色々と飛び出したが、結局のところ狂三がそう選択してしまったのだ。

 琴里を受け入れて眠る。そうして士道の心を支える力を得て、まだ保つことが出来る。時崎狂三は、時崎狂三のままでいられた。

 

 ああ、だから忘れてしまっていた。どんな力にも、物事にも、代償(・・)というものは付いて回るということを。かつての自分と同じ過ちを、また繰り返してしまう。

 狂三の失策は三つ。自身の想像以上の疲弊、それに伴う猜疑心の低下。培われてしまった琴里への信頼感。

 

 

 

 

 

 

「――――思ったより、早かったわね」

 

 狂三が寝入ったことを確認した琴里が、ぽつりと自らの下腹部を撫で(・・・・・・・・・)ながら呟いた。そこに驚きや恐れはなく、ただ当然の事実として――――そして、ここまで狂三からの信頼を得ていたことへの充実感すらあった。

 

 そう、狂三は失念してしまっていた。それを思考できるだけの精神を残せていなかった――――士道を通じて琴里から狂三に影響を与えるということは、その逆もできる(・・・・・・・)ということを。

 理解できるはずがなかった。それほどまでに、狂三の身体と心は乖離してしまっていたのだから。

 それが三つ目。狂三は自分自身をあまりに顧みなかった。琴里がそれを見てどう思うかを、理解し切れていなかった。

 

 故に――――時崎狂三は、もう二度と立ち上がれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……顔色、少しよくなったな」

「はい? ……ああ、わたくしのことでして?」

「他に誰がいるんだよ」

 

 二人で街を練り歩きながら、士道からそう苦笑されて狂三まで釣られて困ったように笑ってしまう。

 顔色がよくなった。そう言われて、士道に悟られてしまう状況まで追い詰められていたことに驚いた。

 

「まあ、わたくしにも色々ありますのよ。ですが、士道さんに心配されてしまうようでは、わたくしもまだまだですわね」

「どういう意味だよ……」

「うふふ」

 

 狂三のからかう笑み。弱々しくも、冗談めかした狂三にしっかりと返す士道。

 少しずつではあるけれど、戻っている。これも琴里のお陰だと思えば、狂三の心にも少しは安らぎというものがあるのだろう。人と言うのは、休息があるからこそ動き続けられるのだと今さら感じさせられた。

 そして、

 

「うん、でもよかった。これ――――で……っ!」

「……ええ、あなたを、受け止められる(・・・・・・・)

「ちが、う……俺は――――ぁ」

 

 狂三の休息とは――――士道にその身を捧げるためだけに存在している。

 循環する。焔を受け入れその身を癒し、彼の望まぬ快楽衝動を狂三が引き受け、また癒される。

 激しく抱かれ、泥のように眠る。いつしか、琴里の治癒能力が前提(・・)にすらなり始める。

 それで士道の存在を繋ぎ止められるのなら。それが狂三と、何より琴里の望みでもある。

 

 

 やはり狂三は、己の失策を悟ることができなかった。孤独を旅路とした彼女にとって、他者からの優しさが自分自身に向けられることなどなかったのだ。

 ましてや、狂三は士道を殺そうとする女。琴里がここまで深入りするのも士道がいるからだと、すれ違ってしまっていた。

 己の身を削る献身が、目的のためだと身を削る行為が他者からどう映るのか。狂三はそこに対価など求めない。

 

 ただ、もう一度だけあの士道に会いたい。そんな思いはあったのかもしれない。けれど、それだけだ。気が付かない。気が付けない。

 最後に時崎狂三が読み違えてしまったのは、五河琴里。彼女は聡明だった。彼女は思慮深かった――――彼女は少し、優しすぎた(・・・・・)

 

 そして、悲劇は終わる。

 そして、悲劇は繰返す。

 

 優しすぎる少女たちの繋がりが、肉欲の楽園が――――悲劇と呼ぶに相応しいものであるならば、だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、はぁ……」

「狂三」

「……ああ、琴里さん」

 

 その日は特に変わりなく――士道の変質でさえ日常となった――狂三は帰宅し、琴里はそれをベッドの上で待っていた。

 数週間、数ヶ月。琴里は丹念に時間をかけて、この状況を作り出した。狂三が士道を受け止め、琴里が狂三を癒す。

 琴里は士道のため、狂三は士道と目的のため、利害の一致、ギブアンドテイク。そう思い込ませる(・・・・・・)ことに成功していた。

 

「ん……」

「……」

 

 両手を広げ、狂三を促す。疲れ切った狂三は琴里へ近づいていき、その手の中で眠る。この数ヶ月のルーティン。

 だが、その日に違ったことがあったとすれば、狂三が琴里の手に触れた瞬間、目を見開いて手を振り払ったことだろう。

 

「あ」

「……っ!?」

 

 琴里は、自身ですら間抜けだと思える声を。狂三は振り払い、後退り、声もなく尻もちをついた。

 抱かれたばかりの彼女には余裕がないというのもあるのだろう。しかしそれでも、狂三らしくもない行動だと言えた。

 

「――――あーあ、バレちゃった」

 

 だから、琴里はチロっと戯けるように舌を出して立ち上がった。

 狂三の消耗と回復の速度。ほんの僅かに上回る狂三の精神回復。もうしばらくは、と考えていたのだが、両目を見開いて言葉を失った狂三を見れば、もう伝わって(・・・・)しまったと考えるべきだろう。

 

「琴里、さん……? あ、なた……っ!!」

 

 全身に鳥肌が立ったように狂三が震えて、足を動かして尻もちをついた下半身で後退る。琴里から必死に距離を取る。

 けれど、物理的な距離など意味をなさない。自分たち(・・・・)に与えられた刻印はそういうものだ。

 

「あなた、こんなのよく一人で耐えてたわね」

 

 正確には――――士道から与えられた狂三の刻印と繋がる、琴里の刻印(・・・・・)ではあるのだけれど。

耐え難い衝動(・・・・・・)を押さえつけながら、見上げる狂三の視界に収まるよう服をたくし上げ、下腹部を見せつける。

 狂三と全く同じ淫紋(・・)。まだ薄らとだが、妖しい光を宿したモノが琴里の横腹に近い場所まで侵食するほど存在を主張していた。

 

「どう、して……士道さんは、わたくしだけを……っ!!」

 そこで、狂三のその仕組み(・・・)に気が付いた。目をわなわなと震えさせ、ここまで察することができなかった自分自身に絶句していた。

 

「そうね、私と士道じゃないわ――――あなたと私よ」

 

 琴里の天使がもたらす肉体の治癒。調教を押さえつけられ、淫紋は業を煮やしたに違いない。薄く、狂三に気づかれないよう琴里を犯した(・・・)

 同時に、これは狂三から(・・・・)求めたものでもある。その淫紋は士道との繋がりであり、狂三自身の力でもある。つまりは、琴里という存在が狂三に必要不可欠であると判断――――決して離れられない淫紋の契約(・・)を施そうというのだ。

 

「苦労したわよ。あなたにバレないよう、士道にバレないよう。ちゃんと定着(・・)するまでは、あなたに悟られたら水の泡――――身体の調子、よくなって(・・・・・)くれて安心したわ」

「っ!」

 

 また一歩遠退く。琴里が一歩踏み込む。

 そう、彼女が気が付かないのも無理はない。なぜなら、琴里が仕向けたからだ。

 身体の治癒に乗じて、琴里を引き寄せようとする力を受け入れた(・・・・・)。鋭敏化しすぎた肉体を共有し、分ける――――今の琴里は、いつ狂ってもおかしくなかった彼女の過敏な体質の半分(・・)を担っている。

 感覚の誤認。治癒の効果と琴里へ流れる肉体変化を合わせ、狂三の感覚を意図的に狂わせた。彼女は今、ようやく自身の身体の異常が半減していることに気が付いたことだろう。

 

「っ……ほん、と♡ こんなの……よく、耐えて……っ♡」

「琴里さん!」

 

 足が止まる。膝をつく。空気の震えが、服を着ていることが辛い。狂三はこれの倍を耐えていたというのだから、称賛などより先に呆れが浮かぶと琴里は笑った。

 お互いに座り込んで、立場は同じ。ゆっくり、ゆっくりと距離を詰める。壁際、もう逃げ場はない。狂三の異形の瞳に、琴里の姿が映り込んだ――――熱を帯びて、蕩けた貌の琴里がいた。

 

「――――ごめんなさい。こんな方法しか、思いつかなかった」

「やめて……」

「けどこれで、私たち(・・・)は耐えられる。二人いれば、ね」

「やめ、て……」

「私は――――――」

「やめて!!」

 

 少女が叫んでいる。仮面を剥がされた少女が、琴里の犠牲に涙を流している。

 それが時崎狂三の本質。極限まで快楽に漬けられ、本性だけを明かされた彼女は、ただただ優しいだけの少女。だって、与えられる快楽は辛くもあり心地よくもある――――何よりも得難い幸福感に浸れるのなら、残るものはその慈しみの本質のみ。

 

「私は、あなたたち(・・・・・)の奴隷よ」

「ぁ――――――」

 

 願望を極限まで叶えられた女が見せる優しさに、琴里は立場を突きつける。それが如何に残酷であろうと、琴里は自身のエゴを優先した。

 

「大丈夫。私が全部受け入れる。繋ぎ止める。ね、だから楽しみましょう――――狂三おねーちゃん(・・・・・・)

「ことり、さ――――――」

 

 唇を塞いだ。少女同士で行う初めてのキスは、甘く、鋭く、心地よく――――背徳の味がした。

 

 

「……は、はっ♡ ん……ちゅっ♡」

「ことひ、ひゃん……♡ ひゃめ……♡ ん、ぁ……♡」

 

 蕩けるキスというのは、まさにこのこと。狂三と唇を合わせ、舌を絡ませ深い口づけを交わす。

 舌と唾液が溶けるように絡み、唇と唇が本当に一つになってしまいそうになる。脳髄を焼き尽くすような快感と、蕩けていくお互いの貌。

 もう何もかもが止まらない。琴里は狂三を欲しがっている。繋がりを欲している。身体の疼きを止めたいと、もっと肉欲を繋げと。

 手が動く、狂三のスカートをまさぐり、その雌の蒸気すら感じそうな秘部に指を這わせた。

 

「んんっ!?♡ ん、ん――――ん゛ぁっ!♡♡♡♡」

 

 ぐちゅ、と指が膣口を割って入る音と共に、水飛沫が吹き出して手を濡らす。キスを施していた狂三の瞳が快楽に歪み、愛らしさを増す。

 もっと、ホシイ。体内の焔を燃やして与え、狂三の身体を癒しながら繋がりを深めていく。

 

「んぉ♡ く、ぁ……あぁぁっ!♡♡♡♡」

 

 士道に比べれば拙い手淫ではあろうが、十二分に調教された狂三の極所は琴里の指遣いに反応を示してくれる。粘液を絡ませた細指を出し入れし、時に膣壁を突いて狂三を絶頂へと導く。

 

「い、くっ♡♡ 琴里、さん……っ!♡ ひゃ、め……どうして、あなたまで……くひぃっ!?♡♡♡♡」

「私に泣かされちゃうくらいに弱ったあなたを、放っておけなかった――――私、狂三のこと結構好きよ♡」

 

 兄を救ってくれた人が、苦しんでいるのを見過ごせない。それだけだ――――それ以上の感情が、淫紋が輝きを増すごとに膨れ上がる。

 狂三の艶姿を見る度に。遠目からではなく、それを自分が行っているという優越感、背徳感、快感。

 唾液が滴り落ちる唇を離し、狂三を押し倒す。琴里には仕上げ(・・・)が残っていた。狂三のスカートを剥ぎ取り、煩わしい自身の衣服を脱ぎ捨て、押し倒した狂三と肌を重ねる――――淫紋を重ねる。

 

『あぁぁあぁぁあぁあっ!♡♡♡♡』

 

 淫靡な光が妖しさ増し、少女たちの嬌声が一つになり、部屋中に響き渡る官能的な二重奏を聞かせた。

 琴里の淫紋が輝きを増す。薄色だったものが、いよいよ離れられない強固な繋がりになり始めていた。狂三が逃れようと身体を動かし――――逃さず、自身の秘所と彼女の秘所を貝合わせのように重ねた。

 

「ひぁっ!?♡ あっ、あっ、あっ……あぁっ♡♡」

「いひっ♡ ん……もう、認めていいのよ♡ 楽をして、気持ちよくなれる――――私を、使って(・・・)♡」

「――――――ッ!♡」

 

 やり方は、変わらない。狂三を生かす。ある意味では、狂三を堕落(・・)させる。

 これからは気を張る必要はない。二人で堕ちればいい。これ以上、狂三が傷つく必要はない。琴里がずっとそばにいるから。琴里が二人を繋ぎ止める楔になる。

 たとえそれが、どれだけ歪な行為だとしても――――琴里はもう、二人の心が死に至ることを見過ごせない。

 

「い、や……っ♡ わたくしには、やらなければ……ならない、ことが……っ!♡ さ、わ……さ――――んんっ!?♡」

 

 ――――情事の際に、他の女(・・・)を呼ぶ不躾な行為をキスで黙らせる。

 狂三の身体を癒し、心を癒し、縛り付ける(・・・・・)。擦れ合う秘部が水を散らし、女と女の快楽を深く、深く与える。

 

「はぁ、はっ♡ んぁっ!♡ 狂三、狂三♡」

「あぁ……あっ♡♡」

 

 重なる、果てる。その瞬間、呼吸が重なって――――琴里は、自身の思考さえ侵食されていることを自覚した。

 ああ、だって、だって琴里は、狂三を縛りつけたかったわけじゃない。けれど、そうしなければ狂三はもう生きていけない。士道はもう限界だった。

 だから琴里がしなければならなかった。二人のために、自らの身を捧げて――――こんな方法でしか、未来へ繋げられなかった。

 

『イクゥゥゥゥゥゥッ!♡♡♡♡』

 

 抱き合って、飛沫を吐き散らす瞬間まで共有して、イッた。

 ――――淫紋が、同じだけの輝き(・・・・・・・)を宿したのは、その時だ。

 

「……私、頑張るから。二人が欲しいもの、全部用意してあげる。だから、生きて……もう、苦しまないで」

「…………」

 

 狂三は答えない。その瞳は虚ろで、琴里の犠牲(・・)に狂三自身が深く失望をしていた。琴里を使わなければ生きられない自分に、失望していた。

 ああ、それでいいと琴里は微笑む。人らしい生活を送れるだけで、救われるものはある。だったら琴里の選択は間違っていない――――たとえ、狂三の信念を致命的に曲げていたとしても、琴里は彼女に生きていてほしかった。士道に、生きていてほしい。

 

「泣かないで……泣かないでよ、狂三おねーちゃん」

「…………………………」

 

 狂三は泣いていた。彼女の中で、何かが折れてしまっていた。何かが、折れていた。

 なら、どうすればよかったのだろう。これ以上、最善の道が見つかりそうにもない。そんなものは、存在しなかったのだから。

 キスをした。深い絶望の味がした。お互いの淫紋だけが輝いていた。

 

 生きていてくれれば、それでいい。ああ、だけど――――――依存と罪悪感で生き延びる道は、果たして生きていると言える道なのだろうか?

 答えはわからない。琴里は神様ではないから。今はただ、琴里は存在していた。狂三と士道の奴隷であり――――二人の、妹として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「琴、里……なんで、なんでだよ……っ!!」

 

 泣いている。士道が、妹の肩を掴んで泣き叫んでいた。

 

「ごめんなさい、おにーちゃん。これしか、思いつかなかったの」

「ばか、野郎……っ! あ、ぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!」

「……泣かないで。私、大丈夫だから。私が二人に、生きていてほしかった――――それだけなの」

 

 見ていられない。直視ができない。駆け出して、その場を立ち去った。

 これでもう、士道は死ねない(・・・・)。己の罪に琴里を巻き込み、狂三をある意味で救った彼女のために死ねなくなった。生きていかなければいけなくなった。死を選ぶことが許されない、妹を犠牲にしたという罪を背負った。

 それは生き地獄かもしれない。いや、そうなのだろう。それでも心を救う快楽がそこにはある。身を浸し、心を浸す極上の快楽がそこにはある。

 狂三と琴里、二人を手にした士道にはそれが出来る――――壊した。

 

「うるさい……」

 

 おまえが、壊した。

 

「うる、さい……っ!」

 

 あの兄妹を壊したのは、時崎狂三だ。

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい……黙りなさいっ!!」

 

 そうして、喚き散らせるだけ、琴里に救ってもらった(・・・・・・・・・・)のだから。

 

「……ぁ」

 

 そう、目的のため。過去に戻り、全てを〝なかったこと〟にするため。そのために、あの兄妹を犠牲にする。そうすることで、後戻りはできないと心を強くする。以前までの時崎狂三なら、それができた。

 

「あ、あ、ぁ……あぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 けれど、駄目だった。立ち上がれなかった。滂沱のように涙が流れ、蹲って、立ち止まってしまった。

 身体は動けるようになったのに、心が動くことを止めてしまった。

 全てを〝なかったこと〟にして見せる。取り戻してみせる。どうやって? 過去に戻って――――戻って、どうする?

 

 好いた男の大切な妹に縋らなければならなかった。そんな弱々しい女が、矮小な女が、過去に戻る? 始原の精霊を消し去る?

 

 馬鹿げている。何もかも、愚かしい。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――ッ!!」

 

 情を捨てなければならなかった。だけど、狂三の原動力は、復讐とは情がなければできはしない。

 彼らのためにも過去に戻る。その選択肢が手の内からすり抜けていく。受け止めなければならないものがすり抜けていく。

 だって、もう――――『時崎狂三』という存在に、受け止められる価値も力も、ないのだから。

 

「さわ、さん……っ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……あぁ、あぁぁぁぁぁぁ、あああああああああああっ!!」

 

 心が折れる。力があるのに、振るうだけの心がない。

 身体は動けるのに、心が動かない。停滞と諦観を得た心は、ただ目の前にある甘い救いに囚われてしまった。

 諦めてしまったら、時崎狂三が諦めてしまったら――――残るものは、そこに用意された救いに浸ってしまう罪過を纏う少女だけだ。

 

 身体は守られた。心は守られた。けれど、それは死ななかったというだけだった。

 

 旅は終わる。殺人鬼は消え去り、少年の勇気は二度と元には戻らない。琴里という優しすぎた少女に繋がれて、二人は快楽を糧に、琴里に救われたという思いを抱いて、生きる(・・・)

 生きていれば、救いはある。ここには日常と、快楽がある。もう苦しむ必要はない。琴里の犠牲が苦しみだと言うのなら、優しい妹はそれすら呑み込んで二人を生かすことだろう。その苦しみが消えて、快楽に呑み込まれるその日まで。

 

 

 

 

「……本当に?」

 

 この結末が救いだと言うのなら、それもいいだろう。

 けれど、問いかけた。〝彼女〟は問いかけた。少女の用意したものは、確かに二人を救う理想だったのかもしれない。

 

 そうして、復讐の憎悪は終わる

 そうして、悲劇の快楽は繰返す。

 

 それを理想と呼ぶのなら、やはりこの世界は最悪だ。

 だからもう一度だけ、問いかけた。これで『私』の願いは叶う。それ以上を望む権利などありはしない。全てを踏みにじる覚悟を以て。『私』は〝彼〟を取り戻す。

 

 それでも、言わずにはいられなかったのだ。

 

 

 

「……本当に、これでよかったのかい――――――琴里」

 

 

 

 

 

 






前作で割と気に入られた『おねーちゃん』をここで扱う畜生がいるらしいな?私だ。前作読んでた人にはBADEND繋がりでちょっとした地の文や流れもあったり。覚えていて貰えてたら嬉しいですね。
悲劇は終わり、繰返す。最後の問いかけ、巡り巡ってこの人が言う展開になるとは夢にも思わなんだ。
前作思わせてるけど読んでなくても問題ないです。出たの思わせる単語や台詞だけなので。けど同じ狂三がメインヒロインで、こっちで台詞のないあの子がサブヒロイン兼狂三ガチ勢の『狂三リビルド』も機会があればよろしくお願いします。200話以上あるけどな!

誰かを犠牲にすることならできる。踏みにじることもできる。けれど、目的のためではなく生きるためにそうしなければならない時崎狂三に――――――悲願を果たすことなど出来はしない。
この淫紋は士道の意志を狂三の身体にもたらすものでもありますが、同時に狂三自身のものでもあります。それを覚えていると、この先に出番がある、かも?

何時ぞや言った淫紋をもう一人やるかも、というのは今ルートの琴里でした。淫紋姉妹がこれからどうなってしまうのか。まあ、鬼畜士道くんに二人揃って調教されちゃうでしょうねぇ。そのルートもリクがなんかあれば書けますが、まあうん自分でネタ考えては書かんな!
BADENDはこれ以外にリクで本能士道くんが完全覚醒した場合のものも貰ってたりするので、そちらはそのうち書けたらいいかなぁ。狂三と琴里完堕ち&これから精霊全員毒牙にかかることを示唆エンド。一切救いないねこれ?

琴里は優しすぎた。この本来想定されたフラグルートはそれに尽きるでしょうね。いや、お下品なBADENDルートはエロ特化ってことにしといてください!(本来こっちが先だったけどあれの後これ書いてもエロインパクトは絶対ないとは思っていた顔)

感想、評価、リクエストなどなどありがとうございますー!これからは次にスレイヴを1話やって、その雰囲気を見てもらってリクがまた増えれば嬉しいなぁという感じです。……五河夫妻との絡みよりにもよって今作で書いていいのかなぁ(前作だと想定してた次回作のネタにしよ、で使わなかった顔)
というわけで、次の話を読んでもらって二人の関係でやれそうなリクが増えれば嬉しいです。現状で拾っても海水浴とか是非させてあげたいですけどね!
なので予定では次の話をお送りしたらオーバードーズを数話お届けしようかなと。実はスレイヴ再開前に書いた琴里腋毛回があるんですよね(ドン引き)。そして女装士織回、美九編敗北IFを書いてみようかなと。それでまだ余裕があったら七罪、四糸乃のカプリクエスト消化?スレイヴのお話案が来るのを待ちながら様子見ですねぇ。来なかったら?凄く困る、助けて(切実)

ではではまた次回〜


やっと明るめのお話書けたわ!リクエストをようやく使うことができた半分ギャグテイストであり、遂にあの狂三たちが登場。そう、狂三たちです。前作で出来なかったアンコールパロディな遊びも入れたり、新しい関係の二人も書けてたら嬉しい。お楽しみに!
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