※この作品はR-18です。

デート・ア・ライブ 令音アビス   作:いかじゅん

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ようやく胃痛から解き放たれてそれっぽく振る舞えるくるみんに訪れる新たな胃痛、即ち黒歴史の襲来。最初期のリクエスト回です。
つまるところ彼女たちの登場。やっと解禁出来ましたね……実質半ギャグ回ですが、なかなかのイチャラブでいけたかなぁと。

というか意外と前回のif(色々な意味で)大好評でとても嬉しいです。淫紋敏感姉妹の調教があるかはリクエスト次第です。書いたら絶対楽しいでしょうねぇ……








13話

 

「ずるいですわ、『わたくし』」

「は?」

 

 久方ぶりに〝影〟の中に入ってその顔――まあ自分と同じ顔なのだが――を見た途端、分身に得をしているなどと言われるとは思いもしなかった。

 とはいえ、今の狂三は心の余裕がある。優雅にふぅ、と息を吐き、髪を払い……〝影〟の中を脱する。

 

「お待ちくださいまし『わたくし』!」

「まだ話は終わっていませんことよ『わたくし』!」

「……ちっ。我ながら面倒な連中ですわ」

「余裕が出来た途端に口が悪くなりましたわね『わたくし』」

 

 遠慮の必要がない自分自身になど、口が悪かったところで問題はないだろう。というか、これから問題が起こりそうなことに対し、口を悪くしないでいられる自信がなかったのだ。

 何せ相手は我が儘な時崎狂三だ。それが自称でないことを狂三自身がよく知っていた。

 

「で、何か?」

 

 一々言葉を増やすのも面倒だ、と外に戻りかけた足を止め腕を組んで分身たちと対峙した。

 

「しらばっくれても無駄ですわ。もちろん、士道さんのことでしてよ」

「ああ……」

 

 狂三は我ながら気のない返事をしてしまったと思いはしたものの、曖昧な返事になるのは致し方ないことだ。

 何せ、それはつい先日の出来事。オリジナルの狂三の腹に刻まれた契約の証、その中身が〝更新〟されたことに際したものなのだから。タイムリー、と言い換えてもいい。

 

「確かに、事情は変わっていますけれど……」

「ええ、ええ。大変喜ばしいことですわ」

「…………」

「『わたくし』? 嬉しいときは嬉しいと仰るべきですわ。さもなくば士道さん辺りに需要がありそうなツンデレにあいたっ」

 

 余計な口と知識を手刀で黙らせてから、狂三は数日前の契約を頭の中で反復した。

 狂三は士道の奴隷であり――――士道は狂三の奴隷である、などとふざけた契約の内容。

 だが、それによって狂三の体調や精神面は一気に良好なものになったと言っても過言ではない。相変わらず体質には苦労をさせられるが、それも琴里、〈ラタトスク〉の手厚いフォローがあるし、何より士道自身が積極的だった。

 全身の感覚がとてつもなく鋭敏な狂三だが、あの二人とだけは――少なくとも日常の中では――通常の感覚で触れ合える。士道に関しては以前もそうだったが、理性側の問題でリスクの方が高かった。それが比較的(・・・)解消されたともなれば、狂三が気を張りすぎる必要はなく、これもまた比較的自然体でいられる。

 端的に言えば、嬉しい(・・・)のだろう。まだ完全ではないにしろ、狂三の前で士道が以前のように振る舞えるようになりつつある。思えば、それがなかっただけで随分と悲観的になっていたものだが。

 

「……では、わたくしは喜ばしいということで終わりですわ。はい、解散」

 

 だからと言って分身に加える慈悲はない。いつまでも屯している彼女たちに、手を叩いて解散を下した。

 

「わたくしたちの扱いが雑すぎますわ『わたくし』!」

「士道さんが触れただけで下品な顔を晒した挙句、〝声〟で操られる所詮は一般兵のような『わたくし』たちにかける慈悲はありませんわ」

「ご自身と同じ顔をよくそこまで酷評できますわね!?」

 

 実際、事実である。別に根に持っているわけではないが、あの無様極まる〝モノ〟を生やされた出来事は古びた記憶というわけではない――――別に根に持ってはいませんことよ? ただ思い出すと耐え難い衝動のようなものに駆られてしまうだけですわ。

 とまぁ雑な対応を分身たちに行う狂三に、彼女たちには彼女たちの主張があると言わんばかりに声を張り上げた。

 

「わたくしたちもしっかり働いていますわ! 強硬派の『わたくし』たちを諌める仕事がありましてよ!」

「強硬派の『わたくし』」

 

 聞き覚えのない派閥が増えていて、中身のことまで頭が回らなかった。

 

「穏健派の『わたくし』たちも、士道さんの憂いを帯びた表情をカメラに収める大切な仕事が……」

「穏健派の『わたくし』」

 

 自分の分身が聞き慣れない俗語と派閥を作り上げている。それを感じると、急に平和になった気分になり狂三はどこか遠い目をしてしまった。

 しかし、何となく話の流れは読めてきたと狂三は目を細めて『狂三』たちを流して見やる。

 

「なるほど……『わたくし』たちは、わたくしの(・・・・・)士道さんのお零れ(・・・)がほしい、と」

「上から目線はやめてくだまし『わたくし』!」

「相互契約になって急に後方彼女面ならぬ奴隷面ですわ!」

 

 どういう顔なのだ、それは。と意味のわからない揶揄に腰に手を当てて息を吐く。しばらく振りに分身の相手をしたが、お互いにこんな性格だったろうと狂三は不安を感じてしまう。

 まあ、狂三は久方ぶりに肩の力を抜いていられ、気まで抜けているのかもしれない。無論、こんな姿を士道の前で晒すつもりはない。過剰に気を遣う必要がなくなったとはいえ、否、だからこそ狂三は優雅な振る舞いを心がけるつもりだった。彼の前では、だが。

 つまり、分身たちの前では彼女たちを鼻で笑って一笑に付すことも厭わない狂三である。

 

「はっ、触れただけでアヘ顔を晒す『わたくし』たちが士道さんと交合うなど夢のまた夢ですわね」

「どうして肝心な部分は直球ですの!?」

「それに今は事情が違いますわ! わたくしたちでも士道さんとイチャラブセックスも夢ではありませんわ!」

「『わたくし』たちこそ、言葉はもう少しオブラートに包んでは如何でして?」

 

 いよいよもって品の感じられない単語が混ざっているが、この程度は士道との本気の交合いで晒すものに比べれば安いものだ。今さら自分自身に恥じ入るものではない。士道の前では、もちろん言わずもがなであるが。

 

「――――ですが、事情が違うという進言に、一理があるとは思いませんこと?」

 

 と、狂三と不毛な言い争いをする『狂三』の中から、優雅に隊列という名の自由奔放な列を割いて現れる分身の姿があった。

 

「あ、あなたは!」

「ゴスロリ眼帯のわたくし!」

「…………」

 

 分身たちは大仰に目を見開き、狂三はそれら全てに頭を抱えて目を伏せる。率直に見たくない半分、面倒なのが出てきた半分。

 ゴスロリ眼帯と称された通り、その狂三は霊装の分身たちや私服の狂三と違う姿をしている。モノトーンのドレスに薔薇の髪飾りに、何より時計の左目を隠す医療用の眼帯。

 直視をしたくない過去の自分が現れたが、狂三の過去はまだまだ続く。

 

「ええ、ええ。これはチャンスというものですわ」

「あ、あなたは!」

「包帯がイケてるわたくし!」

「………………」

 

 何もいけてない。至るところに包帯を巻いた痛い女である。絶対に琴里には見せたくないというか見られたくない。士道には仕方がないにしても、琴里にこれ以上の貸しを作るのは御免蒙る。

 と、狂三がさらに額に手を当てて汗をかいた『狂三』は、右手、左手、左目などに包帯を巻いたまさに〝イタい〟分身。

 ちなみに、まだ終わらない。

 

「士道さんを自由にできる……これほど都合の良い条件はありませんわ。ここは『わたくし』たち総出でかかるべきですわ!」

「あ、あなたは!」

「甘めのロリータファッションが趣味のわたくし!」

「……………………」

 

 狂三は額に手を置いて以下省略。

 勝鬨か勝ち名乗りでも上げるように現れる『狂三』たちに戦々恐々。次なるエントリーはフリルとレースにまみれた白いドレスに花のボンネット、その小さな傘で何をするのかという甘ロリかぶれの『狂三』であった。

 

「そうして心を開いたあの方に、最大最高の告白を。士道さんのお隣を合法的な立場にすげ替えることも可能かもしれませんわ!」

「あ、あなたは!」

「和風ゴシックロリヰタのわたくし!」

「…………………………さ、寒気が」

 

 最後はもはや話の趣旨が逸れ、当人以外に公然の秘密と化した狂三の士道に対する好意の成就さえ狙っているらしい。

 花の模様が描かれたやたら気合いの入った着物に帯風のコルセット、袖口から覗くはフリルに、刀の鍔風の何かを勘違いした眼帯。

 和風ゴシックロリータ。ゴスロリが似合う自覚はあるが、揃いも揃って頭が痛く寒気がしてくる装いの過去の『狂三』たちに、狂三は本気で立ちくらみがしてしまい、それこそ合法的に退席しようと背を向けて歩き出した。

 

「どこに行かれますの『わたくし』!」

「まだ話は終わっていませんわ! 逃がしませんわよ『わたくし』!」

 

 止められた。物理的に止めると狂三の肉体に負荷がかかるからと、分身総出で立ち塞がって止めに入られる。

 どれだけ必死なのだと本気の頭痛に苛まれながらも、過去の自分四人と再び向き合うため足を戻し……やっぱりちょっぴり挫けて背を向けた。

 

「ちょっと、なんですのその反応は」

「心外と言わざるを得ませんわ。わたくしたちのどこがおかしいと仰いますの?」

「いえ、どの時期もいろいろ勘違いしていたなあ、士道さんの前では普通の霊装で良かったなあと思っただけですわ」

「勘違いってなんですの!?」

「この理想の姿のどこが勘違いですの!? 士道さんも即堕ち間違いなしですわ! わたくしたちの衣装で告白すれば勝率100パーセントですわ!」

 

 引くか笑われるか、それとなくフォローされるかの三択。狂三的には三番目が一番心にくる。少なくとも、ここ数日で落ち着きを取り戻した心が数ヶ月は荒ぶことであろう。

 そして、勘違いをしている『狂三』たちを狂三は呆れた視線で制した。

 

「そもそも、わたくしが士道さんに告白などするはずがないでしょう」

「? どうしてですの? 『わたくし』の想いの自覚は誰もが知る事実。今の士道さんであれば……」

「わたくしの目的はあくまで〝悲願〟の成就。伝える必要のないものは不要。それに、言って通じるなど勘違いも甚だしいですわね」

 

 言葉早く指摘を重ね――――ある意味、自分自身に言い聞かせるように狂三は思考と唇を動かし続けた。

 

「士道さんは前を向いた。だからといって、全てが元に戻ったわけではありませんわ。わたくしにしたことが発展になったからこそ、その記憶は根深いもの」

 

 話が拗れた原因は、そもそも狂三の立場と士道の暴走によるものだ。あの発起の一因とはいえ、イコール吹っ切れたわけではあるまい。

 

「仮にわたくしが士道さんに好意を抱いているとしましょう。しかし、今伝えたところであの一件を利用している、この淫紋が原因だと正しく受け取っていただけるとは到底思えませんわ。……まあ、最低限わたくしに憤りがないことは、伝わっていると思いますけれど」

 

 言葉も態度も尽くしてきて、あのあとにもう一度『わたくしは気にしていない』という旨を伝えた。士道は釈然としていなかったが、事実は事実として受け取ってもらう他ない――――恋は盲目と言うけれど、狂三は大概筋金入りだと苦笑してしまう。

 『狂三』たちは狂三より若い。だからこそ、現状の好転に色めき立つのは仕方がないが、未だ予断は許されないのだ。そんな中、誤解待ったなしの告白などナンセンスにも程がある。それを理解してもらえたらしく、四人はなるほどと頷いてから声を発した。

 

「ということは、機を見て告白すると?」

「自覚をしてからというもの、積極的ですわねぇ」

「身体と契約で繋がるご自身の立場を利用し、最適な機会を伺う……さすがは『わたくし』」

「賢しいですわ、卑しいですわぁ。同情票や責任感では満足できないと――――――」

 

 バキッ。バキッ。バキッ。ガンッ!!

 

『痛いですわ!?』

「なぜわたくしだけ銃底ですの!?」

 

 眼帯、包帯、甘ロリ、和風被れの順で素手、素手、素手、持ち手の銃床で仕置をした。痛がれる程度で済ませてしまったことに舌打ちも加えておく。

 最後だけレベルアップしたのは、それが本音だからでは断じてない。

 とりあえず、言葉では止まりそうにない過去の自分(恋で頭がお花畑)に、狂三は一言。

 

「ああ、ああ……胃が痛い」

 

 それでも――――胃痛を感じられるだけ、マシな状態になったと言えるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「これでよし、と」

 

 細工は流々、仕込みは上々。あとは夕飯として出すばかり。士道の満足気な声に反応した十香が、目を輝かせて口を開いた。

 

「シドー、今日の夕餉はなんだ?」

「今日はカレーだ。良いお肉も手に入ったから、期待してくれていいぞ」

「おぉ、それはきっと絶品だな!」

 

 輝くのは目だけではなく笑顔も。不思議と十香のスカートから尻尾が出て振られているようにも感じられて、フッと士道は微笑みを零した。

 すると、十香がキョトンと目を丸くして、次いで一層眩しい笑顔を見せた。

 

「十香?」

「いや……シドーが笑っていることが嬉しくて、つい私も笑ってしまったのだ」

「……そっか」

 

 そんなに心配をかけていたのだろう――――いや、当然かと士道は内心で苦笑を零した。

 以前の士道とくれば、毎朝鏡を見て死人のような顔をしていることが常だった。だから今、士道の笑みに十香が返してくれるということは、士道の精神状態が良好であるという証左なのだろう。

 

「うん、俺も十香が……みんなが笑ってくれると嬉しい。ごめんな、ずっと心配かけて」

「気にするな――――う、うむ、気にしているのなら、今日の私のご飯は沢山用意してもらわねば困るのだ!」

 

 十香なりの気遣いなのだろう。慣れない冗談で笑わそうとする彼女に、士道は微笑ましくなりながらその気遣いに返事をする。

 

「言われなくてもそのつもりさ――――ありがとう、十香」

 

 十香だけではなく、皆に。士道を待ってくれていた皆に――――狂三に礼を言いたい。

 全てが解決したわけではない。未だ士道の中には欲望が燻り、狂三への罪悪感も決して消えてはいない。彼女がどう言おうと、それは変わらないことだった。たとえ士道の意志が暴走させられたのだとしても、それを為した手は士道によるもの。

 だから、と言っていいのだろうか。あの日のこと、契約のこと、そして士道が心に決めた信念と願い。ああ、それこそ全て(・・)で士道は狂三を救いたい。どう救うのか、狂三にとっての救いとは何なのか……それは、まだわからないけれど。

 

 ――――この胸の内にある想いを打ち明けられる日は、来るのだろうか。

 

「……シドー?」

「ん、いや、何でもないよ」

 

 深く考え込みすぎていたのか、十香が不思議そうな顔で小首を傾げ士道を呼んだ。不自然がないように誤魔化しながら自身を諌める。

 不純、なのだろう。純粋に狂三を想う、救いたいと願う。その裏側で、士道は胸の中にある想いの自覚を否定できなかった。

 けど、それは許されないことだ。あんなことをして、狂三に望まない契約を強いた。そんな士道を彼女は――――だからこの想いは、二度と浮かばぬように心の海に深く沈めてしまおう。

 

「――――ご歓談中、失礼しますわ」

「うひぁっ!?」

「む……狂三、か?」

 

 士道は素っ頓狂、十香は比較的冷静というか、目を丸くしていた。対応の差が出てしまったのは、一番初めに聞こえた声が士道の背後から唐突に滲み出た(・・・・)とでも表現するものであったからだ。

 第二に、十香の疑問。彼女はその姿を見ているはずなのだが、どうしてか疑問符を付けて目を丸くしているように見える。単純に現れたからというより、その人物自体に疑問を覚えているのだ。

 

「く、『狂三』か……驚かすなよ」

 

 要するに、姿形は同じでも衣装の異なる『時崎狂三』の分身体である。バクバクと心音を主張する胸を押さえ、士道も振り返って彼女を見やる。

 

「あら、あら。驚かしたつもりはありませんわ。士道さんが驚いてしまっただけございますわ?」

「それを驚かしたって言うんだよ。ていうかイントネーションが確信犯じゃねぇか……」

 

 くすくすと楽しげに士道で遊ぶのは狂三の分身。だが、いつも士道についている分身たちとは異なる少女――――士道は一度、見えたことがある。

 頭部と胸元に飾られた美しい薔薇の意匠に、神々しいまでの時計の左眼を隠す眼帯。かつて、【一二の弾(ユッド・ベート)】での時間遡行に相見えた五年前の狂三、その時間軸から切り取られた分身なのだろう。

 

「まあ、まあ、よいではありませんの。では――――十香さん、士道さんをお連れしますわ」

「は?」

「う、うむ?」

 

 何を言っているのか。そう問いかけるよりも早く、眼帯の狂三は士道の手を取り、影を広げて両者の身体を沈めていく。

 

「お、おい!?」

「少し長い用事になりますので、お夕飯は先に食べていてくださいましー。腕によりをかけて作りしましたわー」

「作ったの俺なんですけど!? ――――と、とりあえず行ってくる!」

「シドー!?」

 

 多分、話している余裕はない。何とか十香に外出(?)の挨拶をして――――士道は、狂三の〝影〟に完全に取り込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと……」

 

 ここに来るのは、三度目。一度目は美九攻略の際に協力者として。二度目は霊力暴走による侵略者としての苦い思い出。

 三度目は――――何故か、凄まじい数の分身に囲まれて冷や汗と困り顔をしながら、だ。

 どこまでも蟠る影の空間。連なるは同じ顔を持つ『時崎狂三』。違いがあるとすれば、眼帯の狂三以外にも三人、特徴的な衣服の分身がいるというのと、

 

「あの……狂三、さん?」

「………………」

 

 無表情、ポーカーフェイスを通り越した仏頂面とでも表現――――この際隠すことなく言うのなら、不機嫌(・・・)な狂三が分身の後方から覗いていることだろうか。

 本体の狂三だけは私服。彼女の肉体異常は、多少の改善は見られたものの完全に克服できたわけではないので自然とそうなる。が、それ以外にも違いはあった。

 件の部屋でいつぞや士道(本能)がふんぞり返っていた椅子に、まるで女王様の如く艶めかしい足を組んで座っている。その左右には『狂三』たちが映画で見るような大きな扇子で彼女を仰いで――感覚は大丈夫なのだろうかと心配になる――いたり、ワイングラスに入った紫色の飲み物を差し出していたり、狂三自身はタバコ……ではなくチュッパチャプスを咥えていたり。たぶん、あの様子だと飲み物もぶどうジュースか何かだろう。

 これは今の士道だからわかる、という大層なものではない――――明らかに狂三が不機嫌で、分身たちが機嫌をとっている形だった。

 

「……なあ、狂三のやつ何があったんだ?」

「まあ、まあ、よいではありませんの。よいではありませんの」

「それさっき聞いたぞ」

 

 一区切り増えた程度で誤魔化されてしまう。さすがにそれで狂三の本体をスルーはしたくないものであるが――――一度話題を変えざるを得なかったのは、分身に囲まれて座る士道の下半身に入り込んだ和装と包帯の狂三が、ズボンを引きずり下ろし始めたせいだった。

 

「何してるんですかね!?」

「無論、ナニをするつもりですわ♡」

「普通このシチュ逆ですよねぇ!?」

 

 叫びを上げるが話は聞いていないようで、今度は随分キラキラとした白いドレスの狂三と士道をここへ連れ込んだ眼帯の狂三が、士道の肩に手を置いて耳元で言葉を囁いた。

 

「ふふ、だァめですわよ。だって、士道さんが仰ったのでしょう? 士道さんは、『時崎狂三』の奴隷なのだと」

「そ、そりゃあ……おまえらも、『狂三』だけど……」

「そうして嘘なくお認めになるのが士道さんの美点ですわ。ねぇ、士道さん? このお召し物、わたくしたちに似合っていると思いまして?」

「へ? に、似合ってるというか、狂三に似合わない服を探す方が大変――――ひぇっ」

 

 殺気。ビクンと士道の全身が跳ね上がってしまう、背筋が凍るような怒りの感情。

 どこからか、など当然の一点。頬に手を当てた狂三が、たおやかな微笑みを浮かべていた。ただし、その類は冷笑が如き氷の女王。そういう顔も見せてくれるほどにお互いに回復している喜ばしさと、垣間見える怒りに士道は眼帯の狂三に小声を飛ばした。

 

「狂三が俺も初めて見るくらい怒ってるんだが……っ!?」

「気になさらないでくださいまし。……独占できず、少し拗ねているだけですわ」

「心を許し始めた精霊の皆様ならまだしも、『わたくし』たちですものねぇ」

「は、はぁ……」

 

 よくわからないが、あの怒りを前に恐れを知らない『狂三』たちに士道は驚嘆の念を覚えて息を漏らす――――間に、抵抗していた手からいつの間にか力が抜けて、下着ごとズボンが剥ぎ取られた。

 

「ちょっ!」

「あら、あら」

「もうお元気かと思いましたが……まだふにゃふにゃですわぁ」

「あ、当たり前だろ」

 

 刺激を受けたり士道(本能)が露骨に表に出ているのならともかく、今は士道(理性)が強く出ている状態。

 取り出された陰茎は、まだ正常さを保ち垂れ下がって萎えていた。それを集団の狂三たちにじっくり見られて、ピクピクと動いてしまうことに士道は気恥しさから赤面してしまう。

 

「ふふ、可愛らしいですわ。えい、えい♡」

「早く大きくなってくださいまし♡ わたくしたち、もう我慢なりませんの♡」

「っ……し、刺激もないのに、大きくなるかよ」

 

 指先で突かれる程度の刺激では、さしもの士道も肉棒を勃ち上がらせはしない――――だが、

 

「本当に、そうでしょうか♡」

「ええ、ええ。違いますわねぇ♡」

「……!!」

 

 声が脳髄に染み渡る。左右から同じ声が、連続して響き渡る得も言えぬ感覚。

 

「士道さん、士道さん♡ わたくしたちは、時崎狂三ですわ♡」

「感じますでしょう♡ わたくしたちの鼓動、わたくしたちの身体、わたくしたちの……匂い♡」

「あ……」

 

 ――――そう、ここには『時崎狂三』がいる。

 数え切れないほどの狂三たち。皆が等しく美しく、艶やかで、愛おしい(・・・・)。どうして気づかなかったのだろうと、士道は自身の愚鈍に疑問を抱いた。

 鼻腔をくすぐる極上の香りたち(・・)。一息、一掬い。たったそれだけで、香りを感じる機能に充満する妖しいまでに香しいモノ。肺腑を満たす至極の味わい。

 

「まあ、まあ♡ ムクムクとしていますわ♡」

「うふふ、士道さんのおちんちん、ご立派ですこと♡」

 

 一気に力が増す。下半身に血と霊力が集中、脈動し、和装と包帯の狂三が間近で見守る中、萎えていた肉棒がひとりでに勃ち上がった。

 否、そうではない。士道(本能)は彼女たちを求めることを優先する欲望。士道(理性)は彼女たちに求められる(・・・・・)ことを優先する欲望。

 弄ばれ、手玉に取られることを想定していたが、士道は純粋に『狂三』が求めてくる行為に反応を示してしまう。ひとりでにではなく――――狂三に見られ、狂三の臭いを嗅ぐ。それだけで士道(理性)にとっては情けなく勃起してしまう。そうなるべくしてなる、値する快感なのだ。

 

「やっとその気になってくださいましたのね♡」

「今日は、わたくしたちが満足するまで帰すつもりはありませんわ♡」

「そ、それ何時間かか……っ!?」

 

 肉棒に触れるひんやりとした手に、思わず腰が跳ねて言葉が途切れた。

 手は四つ。和装と包帯の狂三がそれぞれ、その華奢な指先を士道のイキり勃つモノに添え、撫で、扱く。総計二十本にもなる狂三の指先が士道のモノをまさぐる感覚は、言葉を失うほど心地がいい。

 

「あ……あっ、ぁ……」

「きひひっ。士道さん、とォっても気持ちよさそうですわ♡」

「わたくしたちの指、それほど堪らない快感ですのね♡」

 

 堪らない、なんてものではなかった。竿を扱き、睾丸を揉みしだく。亀頭を優しく撫でられ、時に尿道まで指で軽く刺激を受ける。

 それらが狂三の手で、全く同時に迫り来るのだ。気持ちよくないはずがなく、肉棒は狂三たちの手をドロドロにしてしまうほど我慢汁を垂れ流しにする。

 

「さあ、さあ♡ わたくしを味わってくださいまし♡」

「な……っ!?」

 

 しかも、狂三たちは二人どころの話ではない。極上の手淫と合わせ、甘いロリータファッションの狂三が動いた。

 士道が目を剥いた時には、狂三を背もたれのようにして起き上がっていた上半身は白磁の生肌とフリルとレースに彩られた白パンツが眼前に迫っていた。

 つまりは、甘ロリの狂三が士道の顔をそのフリフリのスカートの中へと入れたと言うことに他ならず――――鼻先に、布越しの秘部が押し付けられた。

 

「ひゃん♡」

「んぐ……っ!!」

 

 目一杯に広がる甘ロリ狂三の下着。張り付いたことで、薄らとだがその筋が浮かんで見える。その感触、視覚的な刺激、濃厚な臭い――――丹念に揉みしだかれた竿が激しく痙攣し、その精を一気に飛び散らせた。

 

「きゃっ♡ もう、射精()すのなら言ってくださいませんと……♡」

「それは無理な相談ですわ。士道さんは、あの『わたくし』のスカートの中に夢中のようですので♡」

「あら、妬けますわね。では、ぐりぐり♡」

「っっ!」

 

 士道の射精は理性だろうと本能だろうと共通で、異次元の長さである。恐らくは、狂三の手や顔面に白濁液を撒き散らした。その上、今は彼女たち出口のある亀頭を手のひらで円を描くように撫で、射精中の刺激というとんでもない快感にびゅーびゅーと夥しい精液を吐き出している。

 声を出そうとして、口元にはちょうど甘ロリ狂三の下着がある。半ば衝動的に、彼女の秘部へとかぶりつく。

 

「あんっ♡ あぁ……そこ、堪りませんわぁ♡」

 

 上部から聞こえてくる狂三の声に、じわりと水を伴う白のショーツ。士道の唾液もあるのだろうが、内側から漏れ出たであろうそれは、染みとなり雌の香りを鼻腔に感じさせる。

 薄らとしたものからくっきりとしたものへ。割れ目も、陰毛も、それが狂三だというだけで本当に堪らない。彼女の言葉は士道の台詞であるとも言えた。

 

「ずるいですわ♡ わたくしも、混ぜて(交合らせて)くださいまし……あ、あぁぁぁぁ♡」

「っ!!」

 

 瞬間、陰茎を呑み込む肉々しい快感。下半身を温かい布が包み、その中心となる肉棒を蠢き、締め付ける膣内。

 士道の視界は甘ロリの狂三により性器を守る下着で塞がれているため、想像にはなるが眼帯の狂三が自ら挿入を試みたのだろう。相手が腰を上下させ、騎乗位で交合う感覚が士道にも伝わってきた。

 

「あぁっ♡ あぁぁぁぁっ!♡♡ 士道さん、射精()してください♡ わたくしの膣内に、士道んのザーメンを沢山射精してくださいましぃ♡♡」

「む……ん、むっ!」

「あ、そんなに押し付けられては♡ わたくしも――――イッてしまいますわぁ!♡♡」

 

 薄いショーツを抜く水飛沫が士道の顔面に弾け飛ぶと同時、奥に打ち付けられた肉棒の先から迸る霊力の塊。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!♡ 士道さんを、感じますわぁ……♡」

 

 どぷっ、どぷっと。艶声で至福の感情をイメージさせる眼帯の狂三が、その濃厚な精液を奥底で受け止める。

 精霊の分身である彼女たちは、狂三よりも暴走霊力への耐性が低い。本能ほど過剰極まるものではないが、快楽への感度を変えてこうして口、肉棒で絶頂をしたところでおかしな話ではなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 頭がぼんやりとする雌の臭いのスカートから解放され、荒く息を吐く士道の前には想像通り至福の貌を見せる眼帯の狂三がいた。

 繋がったままくたりと倒れる眼帯の狂三――――を無理やり退かす和装の狂三。

 

「んにゃあ♡ ふ、風情がありませんわぁ……♡」

「んふふ、時は有限♡ 次はわたくしですわ、士道さん♡ ――――んはぁぁぁぁっ!♡」

「く……っ」

 

 今度はその和風とゴスロリを兼ね合わせたような霊装の狂三が、その和ゴスのスカートの中で直に士道のモノを挿入れてしまう。

 果たして元々から履いていないのか、合ってるんだか間違っているんだかわからない和服概念があったのかは想像に任せるしかないが――――それ以上にヤバい(・・・)のは、士道を取り囲む『狂三』たちだった。

 

「もう、『わたくし』たちばかり士道さんを味わうのは平等ではありませんわ♡」

「そう。『わたくし』たちの権利は平等♡」

「皆が士道さんと繋がる権利がありますわ♡」

「……待て。まさか本気で全員と――――――」

 

 ――――おまえら、何人いると思ってるんだ。

 それを言葉にする前に、通常の霊装を纏った狂三の何人か(・・・)が士道の唇を塞いだ。

 そこから先は、もう士道に文句を発する口を開くことは許されなかった。いいや、彼女たちの奴隷である士道にその権利は元々からない。

「は、ん♡ ちゅ……♡」

「あ、あーッ!♡♡♡♡」

「あら、挿入れただけでイッてしまいましたのね♡ では、選手交代ですわ♡」

 

 入れ替わり立ち代り、士道の唇と肉棒を塞ぐ『狂三』。

 感じ方は個体によって様々で、士道の肉棒を挿入れただけで絶頂してしまう者。士道の指を借りて己の秘部で快楽を貪る者。果ては士道の足に自らの秘部を、結合部に舌を。もはや何一つとして遠慮のない『狂三』たちとの交合い。

 こういうのを何と言うのだったか。花びら大回転、だったろうか。どこでそんな言葉を見て聞いたのかは定かではないが――――開始から数時間が過ぎた頃、唐突に士道のスイッチ(・・・・)が切り替わった。

 

「ああ、ああ……待ちくたびれてしまいましたわ。さあ、さあ、士道さん――――――」

「――――んじゃ、ヤろうか(・・・・)

「へ――――ひゃんっ!?♡」

 

 包帯の狂三の手、ではなく腰を抱いてくるりと躱す。スカートをはだけさせて、包帯が上手く巻かれた艶かしい足、下着が眩しいお尻を眼窩に収めた。

 ついでに下着を剥ぎ取れば準備は万端。醜悪な笑み(・・・・・)を浮かべた士道は、無理やり四つん這いにさせられた包帯の狂三の秘部に肉棒を挿入した。

 

「くひぃぃぃっ!?♡♡ あひっ、あひぃ♡ し、士道さ……はげ、し――――んひゃぁっ!?♡♡」

 

 一突きするだけで淫らに喘ぐ雌のお尻目掛け、手加減のないスパンキング。真っ白な肌に刻まれた赤身目掛け、ニ刀目。

 

「ひぃんっ!♡♡ お、お尻、いたいですわ……ひぎぃっ!?♡」

「そりゃ、痛くしてるからな。その包帯、似合ってるぜ――――お尻にも巻かないとダメな身体にしてやるよ」

「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!♡♡♡♡」

 

 念入りに、入念に、これでもかと往復して尻叩きだけで果てることができるようにしてから、奥底に膣内射精。

 

「あ……へ……♡」

「さて、と」

 

 ごぷッ、と肉棒を引き抜いた膣内からザーメンが溢れ出し、美尻が真っ赤に腫れ上がった包帯の狂三が力なくうつ伏せに倒れていく。それを優しく(・・・)フォローしてやってから、士道はニコリと分身たちへ笑顔を向けた。

 

『ひっ!?』

 

 なぜか悲鳴が上がる。が、逃しはしない。ここにいる『狂三』たちの誰一人、士道の前で屈服する雌として帰す以外の道は作らない。

 これは彼女たちが士道に望んだことだ。数時間、片方の欲望で楽しませてもらった。しかし、雌の数だけ欲望は増え続ける。ならば、

 

「全員――――泣いて許しを乞うまで、犯してやるよ」

 

 ――――サディスティックな士道(本能)が現れてもおかしなことはないだろう?

 そこから先、記憶のある限りでは確か数時間。ありとあらゆる狂三たちを満足させていった。鬼畜、受け身、また鬼畜、そして受け身。数時間と言わず、十数時間だったかもしれない。

 

 とにかく、士道の記憶が続いていたのはそこまでで――――いつの間にか、その意識は断絶していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ぁ、――――ふ、ぁ♡」 

「ん……、ぁ……」

 

 ――――気持ちいい。

 まず、目覚めに真っ先に感じたのはその快楽(・・)。熱く滾るモノを包み込む、誰より知っている膣内の蠢き。

 身体に打ち付けられる。胸板に手をついて、誰かが絶えずその桃尻を打ち付けていた。

 

「あ、あっ♡ あぁぁぁぁっ!♡♡」

「……狂、三!?」

 

 誰かなど、理解はできた。理解と思考が追いつかず結びつかなかった、というのが正しいのかもしれなかった。

 目を覚ました士道に騎乗した少女。腰が跳ねる度に豊満な胸が揺れ、下腹部の輝きが視覚的な線を見せて上下する。

 誰でもない時崎狂三(オリジナル)が、眠っていた士道の肉棒を自身の秘部に挿入れ、激しい騎乗位を行っていた。

 

「狂三、何やって……!?」

 

 ――――周りの『狂三』たちは快楽の海に堕ちている。

 全裸で倒れているならマシな方だ。縄で全身を縛られた『狂三』。両手両足に手枷を施され、ボールギャグまで噛まされた『狂三』。振動する三角木馬に乗せられた『狂三』に、分娩台に乗せられてマシンガンバイブで責められる『狂三』。どちらも気を失いながら痙攣して果て続けている。

 恐らくは本能側の士道が暴虐の限りを尽くしたのだろうが、それでも半分は理性側が『狂三』の意識を飛ばしたのだろう。改めて、この力の果てのなさにゾッとすると共に、唯一この状況で意識を保つ狂三(オリジナル)が、士道と繋がり合いながら淫靡に微笑み声を発した。

 

「士道さんが、悪いんですのよ♡ あんなに『わたくし』と激しくして……浮気ちんぽにお仕置きですわ♡」

「う、浮気って……おまえ、な……っ!」

「浮気は、浮気ですわ♡ この証は、わたくしとあなた様の契約……今、あなた様が身体を交わすことが叶うのは、この時崎狂三をおいて他にはないと思いませんこと?♡」

 

 その『時崎狂三』だからいいのではないか、との疑問は狂三から与えられる激しくイカせんばかりの締め付けに封殺された。

 狂三の愛おしく撫でられる、彼女の淫紋。以前までは忌々しさすら互いに感じていたはずなのに――――今は、深く繋がり合う喜びすら感じられた。

 

「士道さん♡ 士道さん♡」

「っ、あ……狂、三!」

 

 ――――愛おしい。

 ああ、それしか出てこない。おかしい、もっと感じるものがあったはずなのに。感じていたはずの負の感情が払拭され、繋がり合うことへの喜びが強く、驚くほどに強くなる。

 

「ん、あ……♡」

 

 と、狂三が口に何かを咥えた。それは、椅子に座っていたときに舐めていたチュッパチャプスの余り。その飴玉を歯で噛み、指で棒を強引に引き抜いて赤い色をした玉のみを咥え――――士道とキスをした。

 

「……!!」

「ふ……んっ♡ ちゅぱ……♡」

 

 舌と舌で飴玉と共に絡み合う。いちご風味の飴玉と、お互いの甘い唾液。琴里辺りが見たら、苦笑いしていそうな飴玉の愛情表現。

 

「――――――」

 

 そして、士道は一点を見ていた。蕩け、それでも時を刻む黄金色の時計。

 あの分身たちのように隠しているのも似合っているが――――やはり士道は、その瞳が見えている方が嬉しい。

 綺麗だから。時崎狂三の鮮烈な生き様を感じ取れるから。士道だけかもしれないが、そう思うのだ。

 

「ちゅ……んっ♡ しどう、さん……♡」

「狂三……」

 

 そっと狂三の頬に手を当て、指で左眼の目元をなぞる。時を刻む瞳が、一突き、一突きとする度に針を揺らす。逆方向に回る(・・・・・・)

 舌で飴玉を絡め合い、接着した下半身の結合部に快楽を絶やすことなく動かし続ける。

 

『――――――ッ!!♡♡♡♡』

 

 果てる。イキ果てる互いの貌を目に焼き付けた。二人が、今はお互いだけに見せるその貌を。全ての権利を明け渡す。

 深く、深く、より深く――――誰でもない時崎狂三と、何時間にも渡って士道は深く混じり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「朝からカレーなんて、なかなかヘビィねぇ」

「アレンジする気力も残ってなくてな……」

 

 第一、士道はこの作ったカレーを食べてすらいなかったのだ。一晩置いたカレーは美味いのだが、大量のカレーはほとんどが食い尽くされていて大した量は残っていなかった。

 

「そう仰いながら、琴里さんも食べているではありませんの」

「あっはっは。反応がしなくなったあなたたちを夜通し探してたおかげで、私は昨日から何も食べてないのよね♡」

「ご……ごめんなさい」

「いや、すまん……」

 

 つまりところ、目を逸らして謝る士道と狂三、笑顔なのに笑っていない目に隈を蓄えた琴里の三人分が食べるお代わり分が残っていたという話だ。

 

「はぁ……ま、いいわ。あなたが連絡を失念するくらいに気を抜けてる、ってことだもの」

「ええ、まあ……気が抜けていたというか、気を向ける余裕がなかったとも言いますわね……」

「…………」

「?」

 

 十中八九、狂三四天王(自称)のことだろうなぁと、美味しいカレーを食べながら苦虫を噛み潰したような顔をした狂三に、対面の琴里は小首を傾げ、士道は触らぬ神に祟りなしと無言でカレーを口に運ぶ。

 似合っているという気持ちに嘘はないが、それはそれとして狂三は複雑なのだろうな、という気持ちもわかるのだ。

 

「けど、『狂三』たちは大丈夫なのか? ……結構派手にやっちまったけど」

 

 後の惨状は凄まじいものだった。今思い返しても、こうして顔が青くなるほどなのだが、狂三は大して気にした様子もなくスプーンを止めて言葉を返す。

 

「現状の相互契約はわたくしとあなた様のみ。異常を及ぼすにしても、恐らくは以前と違い一時的に留まることでしょう。……今回は数が多すぎて力が分散し、肉体異常の解消が早かったという可能性も有り得ますけれど、そこまでは責任を持てませんわ」

「おいおい、自分の分身だろ?」

 

 管理という言い方はまた違うかもしれないが、あくまで分身は狂三に従う者が多いはず。彼女にそう言ってみるものの、相変わらずわかりやすく、珍しいくらいの不機嫌さで狂三は言葉を返した。

 

「分身の活動に支障がない程度ならば、それはわたくしの知ったことではありませんもの」

「じゃあ今回のは……」

「いつもの働きから願いを叶えたまで。それ以上は自己責任ですわ。あなた様も、分身が一人一人身勝手に現れるよりは、まとめて相手をした方が楽でしたでしょう?」

「楽かどうかはともかく……小刻みに来られたら受け入れはするけど、確かに対応に困るな。……ん?」

 

 そう言えば――――どうして分身たちは、士道を求めたのだろうか。

 狂三が士道を受け入れてくれるのは、あくまで契約の範囲内だからだ。その契約は確かに『狂三』にも対応するという屁理屈は通るが、だからといってわざわざ分身たちが士道を求める理由は――――――

 

「…………」

「琴里?」

 

 と、士道の逸れかけた思考が、琴里のなんとも言えない表情によって打ち切られた。

 首を傾げて琴里を呼んでみるが、彼女は数度視線を士道と狂三で行き来させ――――まあいいか、と言わんばかりにスプーンでカレーをすくい上げた。

 

「ま、あなたたちがそれでいいなら、私は構わないけど」

『?』

 

 よくわからなかったが、空き腹に頬張るカレーの美味しさに頬を蕩けさせる琴里を見て、顔を見合わせていた二人も空腹を思い返し、一心不乱にスプーンを動かすのだった。

 

 

 






琴里は何に気がついたのか。皆さんも探して見てください。相変わらず前作読者はちょっと懐かしいかも。元々本来の次回作でもやるつもりだったからね、仕方ないね。

満を持しての狂三四天王見参。四人揃うと取り扱いが難しいのなんの(オリジナルが強制的にギャグに引っ張られるため)前作でやれなかったアンコールネタも含めてやれました。私の書くくるみんいっつも嫉妬してるというか、精霊たちが相手の方が敵対意識ないんですよねぇ。まあいつも意図的にそういう状況に追い込んで、そう思ってもらえるようにしてるのですが。

相互を結んだのは契約だけなので秘めたる想いは繋がらないとかいう不具合。この辺いっつも変わってないね……持ち前の意地っ張りと伝わらないだろうな+同情はごめんというプライドに、罪悪感の卑屈とそれに伴う意図的な鈍感。めんどくせぇ!!!!!!
二人の雰囲気はこんな感じなので、イチャイチャしながらやったりやり返したりだと思います。何かリクとか増えたら嬉しいです。まあ現状でも貰ってるので書けそうですねぐへへ。

感想、評価、リクエストなどなどお待ちしておりますー。次回は琴里腋毛回、その次は予定を変更してリクエストから七罪と四糸乃回になります。女装士織ちゃんは相当気が狂った時じゃないと書けなそうで……ロリペア回が終わったら恐らくスレイヴに戻る感じですねぇ。

ではではまた次回〜


たぶんテンションがおかしかった。腋と陰毛に特化した琴里夏服回です。二人ともおかしくなってる……更新はいつもより1日空ける感じなのでお楽しみに〜
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