※この作品はR-18です。

デート・ア・ライブ 令音アビス   作:いかじゅん

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ストック4話ほどあるんだけどどちらも〆の話が完成してないし最近いくらなんでもお下品飛ばし過ぎてたのでスレイヴをクソのんびり書きました。

というのがあらすじ。エロはかなり控えめですが、ある意味私の原点回帰な作風が出た気がします。甘く苦い夏の逢瀬と参りましょう。

夏に夢見る恋乙女(サマータイム・ナイトメア)





17話

 

 ――――潮風。

 その匂いは独特。その潮を発する透明な海は照り付ける太陽によって輝き反射し、パラソルの下で座り込んでいた士道に手を覆わせ、目を細めさせた。

 

「……海、だなぁ」

「なーに黄昏てんのよ」

「てっ」

 

 ゴツ、というほどではない柔らかさの物体が、士道の頭に押し込まれる。正確には、ポスンという空気の塊が入った物体の反発的な音色だ。

 見上げると、眩しい太陽に負けないくらい綺麗な水着姿の女の子が立っていた――――というのは兄の贔屓目ではないと思っている。

 

「枯れた老人じゃあるまいし、シャキッとしなさいよシャキッと」

「つってもなぁ……パラソル立てて俺は疲れたよ琴里ちゃん」

「何のキャラ作ってるのよ気色悪い」

「いやすまん。今のは我ながらないと思った」

 

 枯れた老人というには、同年代の中でも飛び抜けて余りある(・・・・)士道なのだけれど。

 シャレを本気で引かれて即訂正した士道に、琴里が息を吐いて彼女が歩いてきた眩しい砂浜を顔の仕草で示唆した。

 

「そんなことより――――お姫様がお越しよ。何か気の利いた感想はないのかしら?」

「あ――――――」

 

 士道は何もただ海を綺麗だなぁ、美しいなぁと枯れた老人のように眺めていたわけではない。彼女が来た時に、何を言おうか考えていたのだ。

 並べ立てた褒めの言葉。限りを尽くす感情の放出。しかし、実物を見た瞬間、そんな想定は無意味だと知った。

 

 全て、士道の想定を上回る美しさだ。彼女を象徴する色の一つ、黒。大きな白のレースに飾られた黒のビキニ。薄紫のパーカーと、ビキニとは色が逆転した白の帽子に黒のリボンは日除けだろうか。

 射干玉の髪を結ぶ髪留めがいつもとは変わってパーカーの薄紫に合わせられ、何者にも汚すことが叶わぬ白磁の肌には――――士道と繋がる淫紋。

 淫紋すら意味が違うと思えてくる。水着に飾られた、否、水着を従えた彼女の美しさはあまりに完成されすぎている。

 

 だから、士道の口から零れ落ちた言葉は、大したものではなかった。けれど、心の底からの本心だった。

 

「えっと、その……上手く言えなくて、悪いけど――――水着、似合いすぎるくらい似合ってるぞ、狂三」

「ふふ、ありがとうございます、士道さん」

 

 そんな少々と不器用な褒めの言葉に、淑女は本当に嬉しそうに笑ってくれた。

 受け取る資格はない。そう思っていた。でも、今は――――その笑顔が何より、嬉しくなってしまっていたのだ。

 

 

 

「……海ですわねぇ」

「……海だなぁ」

 

 二人で並んで、パラソルの下で黄昏れる。太陽の光と合わさる海は本当に綺麗で――――――

 

「ちょっと! 二人で老後夫婦みたいに黄昏てんじゃないわよ! って誰が夫婦か! まだ私は認めてないわよ!」

「琴里さん。ツッコミ役が一度にボケをしてしまっては捌き切れませんことよ」

「だぁれがツッコミ役よ!」

「……暑いのに元気だなぁ」

 

 あと、仲良いなぁと。

 

「まったく。せっかくプライベートビーチを用意したんだから、もう少し喜んでもらわないと張り合いがないわよ」

 

 ふんっ、と腕を組んで胸を張り怒ったポーズを取る琴里。

 プライベートビーチの名の通り、士道たちは一目見るだけで広大とわかる立派な海水浴に連れ出してもらい、こうして忙しさとは無縁の海の静けさ――と言っても人数的にかなり騒がしい声が鳴り響いているが――を堪能することができたのだ。

 それに関しては、いいや、それ以外にもこの優秀で聡明で世話焼きな指揮官には感謝していると、士道は狂三と共に琴里を見上げて笑みを向けた。

 

「ああ、それはすげぇ感謝してる。みんなのスケジュールも調整してくれたんだろ? ありがとうな、琴里」

「立派ですわ、輝かしいですわ。さすがは琴里さんですわぁ」

「そ、そう? わ、わかればいいのよ」

「ちょろいな」

「ちょろいですわね」

「そこに直りなさい失礼コンビ!!」

 

 感謝自体は本物なのだが、ちょっとからかいが過ぎたようだ。

 

「はぁ……まあいいわ。私は六喰たちと一緒にいるから、ちゃんと海で泳ぎなさいよね。はいこれ、浮き輪」

「っ……これは」

 

 言って、琴里は自分のものとは違う浮き輪を狂三に渡し、士道の隣で彼女はわなわなと目を見開いた――――単純に、可愛い黒猫モチーフの浮き輪というだけなのだが。

 

「士道さん?」

「俺は何も言ってないけど!?」

 

 ニヤニヤと笑いながらビーチへ歩く琴里ではなく、真隣の士道に当たられても困る。プクッと頬を膨らませた狂三は可愛らしく、目が離せないのが厄介なところだった。

 

「大体、俺が話さなくても狂三が動物好きなんてみんな知ってることだろ。……前に猫カフェで見かけたの、あれおまえ(オリジナル)だろ?」

「そんなわけあるはずがありませんでしょう? ええ、ええ。わたくしがあのような醜態を晒すなどあるはずがありませんわ」

「動揺しすぎて色々と長くなってるぞ」

 

 醜態というほどではなく、可愛らしいものだったと記憶している。ただ、士道からすればそうでも、時崎狂三のイメージ的には弱点と言うべきものなのだろう。

 ネタでからかうのはそこそこに、士道は微笑ましく曲がった唇を開いた。

 

「気に入ったか?」

「…………」

「それは何よりだ。琴里も嬉しいだろうな」

「まだ何も言っていませんわ」

 

 猫浮き輪を掲げて熱っぽく視線を送るだけで、言葉の変わりは十分だと思うが、と笑う士道に狂三が表面上は不機嫌そうな顔を見せる。そのご機嫌を取るために、飲み物を注いだストロー付きグラスを差し出した。

 

「ん……士道さんは、わたくしのご機嫌取りがすっかり上手くなりましたわね」

「散々、俺は狂三にご機嫌を取ってもらったからな。たまにはお返しだ」

「まあ、まあ」

 

 クスリと笑い、差し出されたグラスからジュースを吸い出す狂三――――これが海の上で浮き輪に乗って、など想像するだけで絵になる場面だ。

 機嫌取りが上手くなったというより、狂三が意図的に合わせてくれている……と士道は思っている。ただ、それを差し引いて考えても以前の自分たちの関係が見えたのかもしれない、とも――――士道が狂三にからかわれる関係が懐かしく思えた。

 時崎狂三。最悪の精霊。物騒な発言や大人の誘惑で士道を惑わす夢魔――――今は士道の隣で穏やかに笑う、心優しき少女。

 

「しかし、相変わらず〈ラタトスク〉は大胆なことをなさいますわ」

「ん? ああ……まあ、万が一があるとまずいからなぁ」

 

 海水浴というシチュエーションで、琴里たちプライベートビーチという手段を取ったのは色々と事情がある。

 話題の転換についていきながら、士道は随分打ち解けた狂三と何気ない言葉を交わす。

 

「ふふ、霊力を封印した精霊10人に霊力を溜めた厄介者のわたくし」

「それと、その精霊に欲情する人間が一人、だな」

 

 とてもではないが、普通のビーチは難しい。封印当初に比べ精神面が安定してきているとはいえ、未だ霊力の逆流が存在しないわけではない。以前に全員で乗った客船のような場所ならともかく、比較的多様な人間が集まりやすいビーチとなれば、容姿端麗な彼女たちには別の問題が付き纏う。

 そういった異なる問題を解決するのが士道の役目でもあるのだが、ご存知の通り精霊に欲情し独占欲(・・・)を高ぶらせる五河士道が担うには事故が多い。

 

「面倒な集まりですわ。……こうして集まってしまえば、こんなにも平穏ですのに」

「…………」

 

 狂三と見遣る視線の先には、砂遊び、海泳ぎ……海を楽しむ精霊たち。それだけならば、何の不安もない。士道の望み通り、精霊が人の世界で生きていける望んだ光景だ。

 ――――今度は士道がそれに適応しない存在となっただけなのだ。

 狂三の身体に関しても、常に士道か琴里が着いていなければならない感覚異常に、効果を発揮すれば色を変える淫紋。タトゥーでは済まされず、狂三の容姿を考えれば目立たない策は限られる。そして、士道の目を引くことを選ぶ狂三は、わざわざ自分の武器である肌を隠す水着を選ばない。

 

「ほんと――――」

 

 ああ、本当に。厄介なものを抱えている。けれど最悪なのは、士道はこの瞬間を、時崎狂三の歩みを止めさせてまで穏やかに過ごすことを――――――

 

「海だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

『………………』

 

 そうして黄昏た士道が髪をかき上げた瞬間、本条二亜が目の前に襲来した。

 

「海、海だよ! 少年、くるみん、すっごい海!!」

「……お、おう」

「そうですわね……?」

「あれ? 何か反応悪くない? おいおいノリが悪いぜ二人ともー」

「文字数に置き換えて3000文字ほど前に言うべきことを今更口にする二亜の愚鈍さに驚いているのでしょう」

 

 と、二亜と共にもう一人。しっかり実体を持って水着でおめかしまでした超高性能AIマリアが、微妙な反応の士道と狂三の意見を若干曲解しながら二亜に告げた。

 

「その文字数大丈夫? モノローグまで入れてない? ……てかなんでロボ子までいるの?」

「ほう、ほうほう? いつも四六時中働いている私に休みはないと? 悪逆非道の輩ですか? 狂三から『最悪の精霊』を継承するべきでは?」

「そこまでは言ってなくない? ていうか人権問題で引き継いでいい遊びの称号じゃないでしょそれ!? いいのくるみん!?」

「まあ、別にわたくしが名乗っているわけではございませんので……それに、マリアさんに苦労をお掛けしているのは事実ですわ。高性能なAIさんには息抜きがあって然るべきかと」

「二亜と違ってAIの人権も考えられる。さすがは狂三ですね、二亜と違って」

「二度も言わんでいいわ! ぐぬぬ、これが出番と人気に伴う扱いの差ってやつか……いいもんねー! あたしの出番は三ヶ月後くらいに来るんだから!」

「……何の話だ?」

 

 話題が二転三転してしっちゃかめっちゃかして、とりあえず士道は首を傾げておいた。二亜がいつもよくわからないことを口にするのはいつものことなのだ。

 

「それより少年ー。――――サンオイル、あたしの背中に塗ってくんない?」

「――――っ」

 

 黒い、優れたスタイルの二亜にピッタリの水着。中身はともかく、と本人が自称する外見の良さをこれ以上なく活かし、胸元に引っ掛けられた眼鏡など洒落たアクセントまで――――ああ、とても魅力的な少女の姿だ。

 

「二亜さん、それはわたくしが――――」

 

 狂三が少し慌てた様子で士道と二亜の間に入ろうとする。当然の行動に――――士道はずっと甘えていた。

 

「ああ、いいよ。――――背中だけでいいのか?」

 

 だから――――少しは、前に進みたいと思ったのだ。

 調子をよく、少し気取って言葉を返した士道に二亜がぱちくりと目を瞬かせた。狂三もマリアも、驚いている様子が見て取れる。

 以前の士道なら考えられない対応だ。精霊たちを傷つけたくないと接触を恐れていた、自分自身を恐れていた五河士道であれば。時崎狂三に頼り切っていた五河士道であれば。

 

 そうでありたくない――――そう思えるのは、彼女の懺悔が効いたのかもしれない。

 

「……ふ、はははははは! うんうん、その慣れてない感じが少年っぽい! 何か久しぶりでお姉さん嬉しくなっちゃうなー!」

「わ、悪かったな」

 

 笑われながら肩を叩かれ、幾ら回数をこなしても知人には見抜かれてしまう演技の拙さを誤魔化すように士道はガリガリと髪をかいた。

 だが、二亜はそんな士道を懐かしい、微笑ましいと明るい声を返した。

 

「悪いなんて言ってないぜぇ少年。そういう少年、久しぶりに見れてうれし……あたぁ!?」

「だからといって荒療治が過ぎます。二亜はどうしてそう極端なのですか」

「クーラーボックスの角で突くのも極端だと思いますけどぉ!? 暴力ロボ子の元ネタが見てみたいわ!」

 

 ――――精霊たちに、邪な思いを感じないとは言えない。

 根本にある士道の好意を誤魔化すことはできない。だが、出来ないからこそ士道はもう逃げたくない。

 怖いものは、怖い。恐ろしいものは、恐ろしい。けれど、士道は精霊たちの悲しい顔を見たくない。自分が逃げることでそうなるのなら、力の限り抗う。

 

 抗えるだけの、捩じ伏せられるだけの心を――――狂三にもらったのだから。

 

「――――士道、私にもサンオイルを塗って欲しい。くまなく、隅々まで、じっくりと」

「なぁ! ずるい……ではない、いかんぞ折紙!」

「むん。ここは家族であるむくから……」

「それを言うなら妹の私よねぇ、おにーちゃん?」

「私は狂三さん〝にも〟塗って欲しいですぅぅぅぅぅ!」

「おまえらどっから湧いた!? あと美九のは意味が複数あるだろ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しは、前向きなお心になれたようですわね」

「んー?」

 

 パシャパシャ、パシャパシャ。ちゃぷんちゃぷん。

 水を流して水に流れて、とある物体を押しながら士道は狂三の言葉に顔を上げて――――絵になるなぁ、とフッと笑う。

 

「……なんですの、そのだらしのない顔は」

「いや、狂三が浮き輪に座って流れてくれると絵になるなって」

「そこは、こうして馬車馬のように働かされていることに疑問を抱いてほしかったですわ」

「馬車馬って、大袈裟な……」

 

 ただ単に浮き輪の麗しサマーガールを押して運んでいるだけで、重労働でも何でもないと士道は思っている……こうして真夏の熱に頭が浮いていることは、否定できないかもしれないと苦笑せざるを得ないが。

 あの後はどこから湧いてきたとかサンオイルを塗るには遅すぎるだろとか、七罪が緻密な計算で砂の城を立てて、相変わらず隠れた才能を発揮して四糸乃とよしのんが大喜びだったとか、それに対抗して城を立てようとするも結局お互いとの勝負に転じた八舞姉妹など、語るべきことは多くあるが、今士道は狂三と海に繰り出して優雅なお嬢様の召使いをやらせてもらっている。

 冷たい海水に浸り、浮き輪を押す。その上には美しいサマーガール。パーカーを水に浸らせ、太陽の光を通さない白磁の肌を輝かせ、自分からして欲しいと言ったくせにどこか呆れ顔でいる彼女。それを見ていられるだけで、対価としては十分すぎるだろう。

 

「士道さんも如何です? わたくしが押して差し上げますわ」

「狂三がやるから絵になるんであって、俺がやったところで意味ないだろ……」

「あら、皆様には大好評だと思いますわよ? それに士道さんは女の子……大変中性的な顔立ちをしていらっしゃいますもの」

「明らかにわざと言い間違えたよな?」

 

 くすくすと口元に手を当てて笑う狂三に、バランスを崩さない程度に浮き輪へ腕を乗せながらため息を一つ。士織ちゃんのクオリティは自分で認めるところとはいえ、男としての心境は複雑なものなのだ。

 

「大体、狂三の浮き輪じゃ俺にはちょっと可愛すぎるって」

「あら、あら――――では、用意して差し上げますわ」

「は?」

 

 士道は士道で色々とあるのだが、狂三も狂三で最近は突拍子のないことを言ってのけるようになってきた。大変魅力的で、蠱惑的で、悪戯っぽくて――――時間を奏でる左眼をふわりと晒した素敵な笑みだ。

 

「変化なさい――――〈刻々帝(ザフキエル)〉」

「うぇ!?」

 

 今時は珍しいほど透明な海に蟠る漆黒の影。それが号令を以て形を成し、滑らかな声音を以て形を変える。

 即ち――――ちょっと大きめの浮き輪型〈刻々帝(ザフキエル)〉である。

 

「そうはならんだろ!?」

「なっているではありませんの。十香さんの〈鏖殺公(サンダルフォン)〉も装飾がされることがありますので、似たようなものではなくて?」

「せめて俺の知ってる〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の話をしてくれないかな!?」

 

 一体どこの時間軸の十香の話をしているのか。それと天使の宿主に『なっている』と返されてはどうしようもないのだが、納得できないものはできない。

 士道と狂三の近場に着水した浮き輪は、しっかりと十二の数字が刻まれ時計を思わせる柄まで隅々に浮かび上がっている。恐らく、狂三がその気になれば天使の能力も使用できるはずだ。

 

「て、天使ってこんな風にできるのかよ……」

「できますわ。わたくしも初めて試したことですが」

「初めてかよ!!」

 

 ザップンザップン。士道の身体の動きが波を揺らすも、狂三は絶妙なバランス感覚で猫柄浮き輪を乗りこなして優雅すぎる姿を維持した。

 

「ええ、霊装の形を変えることができるのなら、同じ霊力の天使に同様の理屈が通ずるが道理。する必要がない、と言えばその通りでしかありませんけれど」

「……元々から必要な形に整えられてるから、か?」

「ご明察。優れた形を定められた天使のイメージを変える必要はありませんもの。天使は精霊の武器であれば、必然ですわね」

「じゃあ何で浮き輪にしたんだ?」

「必要かと思いまして」

 

 恐れ多いわ。と、士道はふよふよと浮かぶ時の天使の遊びフォルムに何とも言えない視線を向ける。

 

「きひひ! 覚えておいて損はないこと……一生使う機会はないと思いますけれど」

 

 士道が浮き輪を使う気がないことをわかっているのか、パチンと指を鳴らした狂三が〈刻々帝(ザフキエル)〉型の水着を影へと還す。

 狂三の天使解説の中で一番使わないであろう知識が披露され、士道は絶妙な表情で再び浮き輪に掴まった。仮に機会があろうと士道のイメージ能力で天使の形を変えられる保証はないし……久方ぶりに見た狂三の天使召喚が浮き輪というのは些か気が抜け落ちるというものだった。

 

「じゃあなんでレクチャーしたんだよ……」

「ふふ、そういう気分になったというだけですわ。――――こんな場所ですもの。中身のない話も、悪くはないと思いませんこと?」

 

 そうして、立てた指を一本。水に濡れて、雫が弾ける指先を士道の鼻先に立てて、笑う。

 その顔は、あまり見たことがない。時崎狂三が肩の力を抜いた(・・・・・・・)あどけない少女の顔――――その顔に負けて、ふと身体から力が抜けていった。

 

「前向きなことは結構。ですが、肩に力が入りすぎですわ」

「……無理したつもりはないんだけどな」

「では、今のご気分は?」

「………………その生脚は目に悪い」

 

 浮き輪に乗る狂三を海に入って押しているものだから、普段は衣服に隠れた生の足や太股が眩しすぎるくらいに見えてしまう。いつも行為の最中で見て、触れているものなのに、印象を変えてしまう水着というものは罪深い。

 ああ、ああ。だから狂三は士道を連れて皆から離れたのだ。実際、気がつかないわけがない。狂三のために尽くすように動く身体は欲望の影響――――だけではないことを、士道だけが知っている。

 

「もう少し、流れたい気分ですわ」

「ん……」

 

 そう、太陽の光を腕で遮った狂三の、その水着で隠せない証は、淡く輝き始めていた。

 真夏のせいか。欲望のせいか。想いのせいか。

 結局のところ、欲望に違いはないのだ――――――相変わらず、口には出せない五河士道がここにいるというだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「きっひひひ! 冷たい水に浸かっていたというのに、ここはとても熱くて、素敵ですわ♡」

「っ……」

 

 浅瀬の砂浜と近い岩肌に座り、股座には狂三がいる。

 何をするのか口に出すのは野暮なことであるし、もうしている(・・・・・・)

 

「ん、んっ♡ 相変わらず、収まりきらない立派な……わたくしも、大きさには自信があるのですけれど♡」

「しっ、てる……っ!!」

 

 水着というのは肌色が激しく、行為に及ぶには大それた準備を必要としない。士道が反応し、狂三が自らの身体を使うことにも準備は必要なかった。

 ビキニに抑えられた狂三の美巨乳。大きさには自信があるという通り、黒服を好む彼女は顔に似合わない隠れた果実を持っている。彼女以上に大きな子は――――行為の最中に、他の子のことを考えられるほど今の士道は器用ではなかった。

 だから今は、狂三が一番。自分でも未だ違和感のある巨頭を左右からたっぷりプレスする、たわわな乳房の魅力に酔いしれる。膣内とは異なる柔らかさと弾力性に、手を使って形を変える乳穴。

 

「ちゅ……♡ ふふ、少ししょっぱいですわ♡」

「っぁ……!」

 

 加えて、飛び出したモノの先を舐め取り、吸い出す唇。柔らかい鈴口と薄紅の柔肌が触れ合い、乳房の内側を士道の肉の膨らみが押し返す。

 狂三の奉仕でそれほど膨張し、まさに爆発させたいと考えた瞬間――――彼女は乳穴から巨頭を引き抜いた。

 

「っ――――はっ」

 

 息を吐く。煩わしいくらいに大きくなったモノが、光に照らされる唾液と我慢汁に濡れ不格好に目立っている。

 

「狂三……?」

「ふふ♡」

 

 はやく、収めてほしい。そう願う士道が狂三を見遣る。獲物(・・)としては、水着を飾った豊満な乳房に淫欲の痕をつけた素晴らしい姿だ。

 しかし、狂三は笑って岩肌から離れ、砂浜に、波が寄せ返す海の象徴を己を飾る(・・・・)武具とした。

 

「士道さん。せっかく海に来ましたのよ? いつも通り身体を重ねてばかりでは、少々味気ないとは思いませんこと?」

「……んなこと、言ったって」

 

 ――――それくらいは、士道にだってわかる。

 ただ、滾りが収まらない。収まらない以上は、それ以外を考えられない。吐き出さない以上は、皆には見せられない、見せたくない。

 何度でも、狂三の言い分は理解できる。皆との海を楽しみたいだろう、と。けれど淫欲に囚われた今の士道には難しい相談だ。

 だが、もう一つ。時崎狂三という女は、もったいぶった物言いをする際は必ず解決策(・・・)を提示する。相手を凌駕し、掌握し、手玉に取る夢魔の手管。狂三はその態度こそが、精霊の中で唯一無二の魅力であり武器なのだ。

 

「出来ますわよ。要するに――――士道さんが、わたくしに一度で満足(・・・・・)すれば良いのでしょう?」

 

 そうして、夢魔は笑う。悪夢は笑う――――天使は微笑む。

 

「〈神威霊装・三番(エロヒム)〉」

「っ!?」

 

 影が舞う。踏めば沈む砂浜から、透き通る海辺から。

 それは狂三の一部分へと形を作る。幾度か見た中で、初めてと思える影の動きは、水着に添ったもの(・・・・・・・・)

 紅。鮮血のような紅。黒。夢魔の象徴たる黒。

 ヘッドドレスに、ゴスロリ調のビキニ。普段は大きく美脚を隠したスカートは後部のみが残され、ガーター風の装飾などはまさに水着風の霊装(・・・・・・)を感じさせる。

 

 淡い光。士道のためだけ、今は士道に見せることだけを考えたもの。先に、彼女が天使の形を変える必要がないと言ったものと通ずる。その霊装をわざわざ変えるのは、分身(かこ)からの意味と――――士道のために拵えた意味。

 

 その紅の瞳が。その金色の時が。五河士道を誘っていた。

 

「――――ああ」

 

 その姿に。その美しさに。その瞳に――――士道はあらゆる意味で、吸い込まれてしまっていた。

 

「焼けて、しまいますわ」

「構うかよ」

 

 気づけば、吐息の一間で狂三を押し倒していた。

 海と砂の境界。波に浮かぶ霊装のスカート。左右不均等の艶髪。士道を見上げる水粒に彩られた蠱惑的な笑み。

 焼けようと、構うものか。この姿の彼女を見れるのなら。真っ直ぐに見つめ続けていられるのなら――――この姿でなくとも、狂三であれば見続けていたいのだ。

 

「……っ!」

「あぁ……♡♡ おお、きい……♡」

 

 夢魔の悶えが、声が。膣内の締め付けが、激しい。

 

「あっ♡ あ、あっ♡♡ ――――あ♡」

 

 熱い。どこまでも、燃える。

 

 熱いのは、暑いのは、降り注ぐ日差しか。輝く淫紋か――――この想いなのか。

 

「狂三……っ!」

「しどう、さ……んっ♡♡♡♡」

 

 冷たい。握りあった手が海に呑まれた。

 熱い。注ぎ込んだ熱が、二人の間で溶け合った。

 

 ああ、それは、本当に――――悲しいくらい、泣きたくなるくらい、幸福だった。

 

 

 

 

 

 

もう少し(・・・・)、ここにいるか」

「ええ」

 

 ここに流れた時と同じ言葉を返し、士道は少し高い岩肌に狂三と座った。

 そういう気分だった。収まることのない衝動が、寄せては返す海の波で少しは晴れた――――わけではなく、士道の視線は狂三の霊装に注がれていた。

 もう少し。もう少しだけ独占したいのは、自分だけが見ることができるその水着姿だったのかもしれない。

 たとえどんな意図があろうとも、狂三が肯定してくれると知っていることに士道は甘えた。

 

「……よく俺が1回で満足するってわかったな」

 

 ふと、士道はそんなことを口にした。

 士道の異常的な性欲は、狂三の水着姿という輝きにたった一度で収まった。今回は場所や遊びが特別で、過剰な欲求でなかったというのもある。しかし、膨れ上がる時はとことん膨れ上がるもののため、士道からすれば完全に読み切った狂三に驚かされた。

 だが、狂三はさして難しくはないとばかりに肩を竦め、返してきた。

 

「あら、あら。簡単なことですわ――――士道さんは、精霊のわたくし(・・・・・・・)を好んでいらっしゃるでしょう?」

 

 ――――それだけで、理由は十分。

 ただ一つの理由で沈めて見せた狂三に、士道は一瞬返す言葉を失った。恐らく、その通り(・・・・)だったから。

 いつからだろう。その姿に一切の恐れを抱くことがなくなったのは。

 いつからだろう。万の命を殺し尽くした最悪の精霊の姿に目を奪われるようになったのは。

 

 覚えているのは、あの瞬間。己に絶望して、塞ぎ込んでいたあの日に現れた精霊(しょうじょ)の姿が――――天使の夢魔が、あまりに美しかったから。

 忘れていた。否、忘れようとしていたのかもしれない。けれど今は、彼女と新しい契約を交わした今は、鮮明に思い出せてしまった。

 

「狂三は……精霊の自分は、好きか?」

「嫌い――――と答えたのなら、あなた様はわたくしから霊力を奪ってくださいまして?」

 

 まるで、問いかけを予測したような答えだった。その左眼が未来を視て、見透かしているとさえ錯覚してしまう。

 『五河士道』は、問いかけに返された問いかけに何と答えたのだろうか。彼は正直に答えただろう。霊力を封印して、最高に幸せな生活を送ってもらうと。

 けれど、士道は言えなかった。それは己が抱える業があるから、ではない。

 

 もう、言えるはずがないのだ。絶対に立ち止まることのない彼女を知ってしまったから。

 『時崎狂三』という女の心に触れてしまった。精霊の霊力を封印する者として、正しい。だが――――『五河士道』が持ち得た救いは『時崎狂三』の救いにはならないと、知ってしまった。

 

「好ましいか、好ましくないか――――大嫌いですわ、このような力」

 

 問いかけの返答は、憎悪の瞳で返された。凄絶な、息を呑んでしまうほど残酷な笑みを以て返答と成す。

 

「あの女と同じ力など、反吐が出ますわ。あの女から得た力など、今すぐにでも捨ててしまいたい――――ですが、捨てることはできませんの。わたくしの願いのためにも」

 

 それは『時崎狂三』の希望であるから。怨嗟と憤怒と恩讐。繋がり契約から流れ込んでくる途方のない負の感情。生者が持ち得る最大の憎悪にして、その根本に時崎狂三の本質的な優しさがあった。

 誇る想いがある。己の形を狂三は憐れんだりはしない――――だが、己の姿に憎悪を抱く矛盾を持ち合わせていた。

 しかし、その憎悪がふと薄くなった――――自意識過剰でなければ、士道と視線を通わせたことで。

 

「ですが、この力があったから。この力がなければ。――――わたくし、士道さんと巡り会えたことを、後悔などしていませんのよ」

 

 その言葉に――――どうして(・・・・)。そう聞き返せる力があったのなら、どれほど良かっただろう。

 今は、握った手をより強く包み込むことで答えた。

 

「――――あなた様が好んでくださるというのなら、わたくしは自分自身(『時崎狂三』)を好きになれるかも、しれませんわ」

「…………っ」

 

 答えたい。答えられない。だってそれは――――『時崎狂三』の歩みを、妨げる感情だ。

 いい加減、見て見ぬふりで、過去の己の過ちでありえないと否定するのも限界だ。

 日差しが熱い。汗が頬を伝って、狂三の手に掬われた。

 

「夏のせいにして、構いませんのよ」

 

 それでも、言えない一言があった。

 それでも、その衝動は抗い難いものだった。

 

 瞬間――――何もかもを誤魔化すように、士道と狂三は水面の裡へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 少し、嘘を吐いた。

 

『――――――――』

 

 『時崎狂三』は、このぬるま湯に耐えていられない。けれど、狂三(しょうじょ)はどうしてもこの温もりを求めてしまう。ああ、ああ、なんて罪深い。

 

 水面の中で揺れている。無重力の海で、冷たい世界で熱い口付けを交わした。こうすれば言葉が必要ないと知っているから。

 

 ――――繋がり合うことのない悲しさで、己の使命を思い出すことができるから。

 

「――――――」

「――――――」

 

 瞳が、狂三を見つめている。迷いと決意が綯い交ぜになった眼が見ている。抱き合って、互いで息を継いで。

 

 いつかきっと、報いを受ける日が来る。この感情の名を知っていながら、奴隷と奴隷の関係を続けてしまっているから。

 

 だから、立ち直って――――立ち直らないで。

 だから、全てを捧げて――――あなたは(わたくし)を否定して。

 

 このキスが本当の意味で繋がり合う日が来ないことを『時崎狂三』願っている。

 このキスが本当の意味で繋がり合う日が来ることを時崎狂三(捨て去った亡霊)は、恋を知った少女は――――ずっと、焦がれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「二亜、ビールに合うものだけ焼かないでください」

「えー、いいじゃんいいじゃん。こんなスペースあるんだしさー」

「む、むぅ……どれも美味そうだ……じゅるり」

「……あの二人が帰ってくるまでに食いつくしそうな涎ね」

 

 ビーチ貸し切りということは、定番の屋台などもないということ。そちらは別に〈ラタトスク〉の人員を配置してもよかったのだが、自分たちで用意するのも楽しいだろうと広い厨房で思い思いのものを作ろうとなった。

 まあ、中には二亜のようにおつまみ中心。出来ない出来ないと否定しながら押し切られた七罪の作る焼きそば――同年代としてその手さばきに若干の危機感を抱いた――に涎を垂らす十香など、多様な光景に琴里は微笑を零した。

 

『……琴里』

「――――令音?」

 

 と、肉や麺が焼ける音に混じって、インカムから聞き慣れた声が鼓膜を震わせた。

 以前は精霊たちの引率として同行が多かったが、二亜や美九などの年長(見た目は)組の加入で〈フラクシナス〉でのサポートが多くなった令音からの通信だった。

 

「どうしたの? あの二人に何か変化でもあった?」

『……いや。今日は穏やかなようだ。もう少しすれば、そちらに合流するはずさ』

「? ふぅん……珍しいわね」

 

 連絡の意図はそちらだと思い、海の家の裏側に移動した琴里は肩透かしを食らった。

 その琴里の反応自体が、最近の二人が比較的良好(・・・・・)な関係になっているという証左であろう。もっとも、健全とは程遠いと言わざるを得ないのだけれど。

 だが、休暇で気を休めていた琴里は、令音が放った一言で司令官(・・・)に切り替わった。

 

『……微弱だが、新たな霊力の波長をこちらで感知した』

「――――精霊?」

『……恐らくは。だが、隣界から発せられている今までにない未知の揺らぎだ。……空間震とは異なる以上、断定はできない』

「そう。けど微弱でも、警戒するに越したことはないわね」

 

 隣界には未だ謎が多い。特に琴里のような立ち位置の精霊には縁遠く、存在を知っている者たちもわからない部分が大半を占める。精霊の領域にして、未知の場所が隣界。だが隣界から新たな霊波が現れたというのなら――――――

 

『……シンには伝えるかい?』

「…………もう少し待ちましょう。微弱な霊波がこちらに影響を与えないのなら、変調を起こすまでこちらにできることはない。なら、余計な気を負わせる必要は――――――」

 

 ああ――――随分臆病になったと、インカムを抑える琴里の指が言っている。

 

「司令官、失格ね」

『……奮い立たせることと、追い詰めることは違う。今の君は、正しいさ』

「ありがたい慰め、心に染みるわ」

 

 やっと進んだのだ。時が進んで、道が開けた。

 

 精霊を救うことが〈ラタトスク〉の使命だ。そして琴里はその司令官。

 だが今は、今だけは、五河琴里という妹として――――もう少しだけ、あの二人に時間を。そう願うことを止められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「………………」

 

 新たな精霊? そんな存在はありえない(・・・・・・・・・・・)

 精霊の意味は二つ。原初と、その娘たち。ならば、この霊波の正体は――――――

 

「……ん、こちらでも手は打つさ」

 

 もっとも強大にして動けぬ駒(・・・・)は、ぽつりと呟いた。

 

「……あの子たちを失うわけにはいかないから。もしものときは――――お願いね」

 

 その()が消え、別の何かに成り代わった瞬間を見たものは――――ただ一人(不明者)を除いて誰もいなかった。

 

 

 






祈ることしかできない司令官の切実な願い。だが時は進む。無情に、だが平等に。

琴里ちゃんこのシリーズでいつも背負い込んで祈ってるね……。

つなこ神の新規水着くるみん来た!やるしかねぇ!!ってことでやりました。水着のイメージはもちろん新規の2枚です。さすがに海賊船まで出したりはしませんでしたが……
序盤は少しアンコールチックな雰囲気が偶然出ましたが、後半は結局私の作風です。手癖だなぁ。二人のラストシーンはかなり気合い入れました!褒めて!!!!
リビルドからやってますが時崎狂三の解釈は私独自のものですのでお気を付けてください。くるみんにこういうことさせたり考えさせたり好きねぇ。矛盾しながら進み続ける『時崎狂三』と時崎狂三。今作は一体どちらが残るのか。それとも……。士道くんもまた、一歩ずつ先へと。確実に時間は進みます。

最後の一言を口にしたら何かが終わるこの関係。でも言いたい、言ってしまいたいこの関係。罪悪感で誤魔化すのも限界になってきましたが、この拗れ具合がたまんねぇんだ!!!!失敬、性癖が。

感想、評価、リクエストなどなどお待ちしておりますー。しばらくはかなりのんびりスレイヴ進めようかなと思っています。他二つの章のストックはあるのですが、どちらもお下品なエロでその……まあどっちやっても感想は伸びないのかもしれませんが(悲観)
ではではまた次回〜。え、最後の不穏な描写?アビスでも似たようなのやった?さあなんのことかわからないっすね(棒)はてさて、この未来に現れる存在は……?
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