※この作品はR-18です。

デート・ア・ライブ 令音アビス   作:いかじゅん

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(私はタグを裏切れませんでしたの板をぶら下げている)






14話(天香)

 

「――――ううーっ! ふぅうううううううっ!」

「うーん、困ったな」

 

 ベッドの上で、士道は独りごちた。正確には、転がされた少女(・・)の前で独り言を口に出しながら、言葉通りの困り顔で頬をかいた。

 

「うぅっ! むぐぅうううううううううっ!」

 

 言葉にならない唸り声。だが、その眼光の鋭さは殺気を物語るには十分なモノがあった。具体的には、『貴様を殺す』というやつである。

 以前までの士道であれば、その殺意の眼差しに相応の対処をしなければならない。彼女(・・)は、士道を容易く屠るだけの力を持つはず(・・)の存在であるのだから。

 夜色の髪。士道が見繕った服を着て、華奢の中に情欲を唆る肉付きを隠した身体。殺意に開かれた水晶の瞳は、十香(・・)と僅かに色が異なる輝きを宿している。

 美しい。暴力的なまでに――――実際に暴力に訴えてきた結果、士道は四肢を拘束して口枷(ボールギャグ)を施さなければならなかったのだが。

 名も無き少女。けれど、士道は彼女のことを知っていた。

 

反転(・・)した十香……だよな?」

「ふ、ぐ……っ!」

 

 暴力的な肢体と美貌。長い夜色の髪と水晶の瞳。夜刀神十香と異なるものは、水晶の瞳に宿る色と無邪気とは程遠い王としての威圧感。戦場の十香以上に、殺気に満ち満ちた眼光。

魔王(・・)。精霊が絶望し、反転という現象を引き起こした際に現れる裏側。反転十香曰く、そもそも反転側が本来の性質らしいが――――澪と崇宮真士の関係を知る今の士道であれば、その意味を理解できる。

 理解はできる、のだが、と士道は『十香』を眺めて首を傾げた。

 

「なんで、実体化(・・・)してるんだ?」

「ふごぉおおおおおおおおおっ!」

 

 訊いたところで、『十香』は荒々しい唸り声で士道を威嚇してくるのみ。とはいえ、あごをがっちりと固定し、口を大きく開けさせ、幾つか空いている口枷の穴から唾液を滴らせる様は、彼女に滑稽さ、士道に加虐心を覚えさせるだけなのだけれど。

 

 唐突。脈絡のない現象。士道の言葉で表現するのならば、こういうものが当てはまる。

 

『――――死ね、人間』

『は!?』

 

 会話にならない一言。振り下ろされる魔王、片刃の大剣〈暴虐公(ナヘマー)〉。しかも、十香の持つ美しい身体で、霊装も纏わず裸体で振り下ろしてきたものだから大変だった。

 だが、そんな危機的状況において、反応せしめた欲望に呆れるべきか、それとも感謝するべきなのか。

 

『〈輪廻楽園(アイン・ソフ)〉っ!』

『っ……貴様、その力は――――――』

 

 咄嗟に身体が動き、令音の天使(・・・・・)で彼女の身体を押さえ付け、士道は事なきを得たのだ。

 その後、士道が天使を扱ったことを察知した令音が現れ、二人揃って事態に困惑。とにかくと、士道は秘密部屋に彼女を連れ込み、令音には十香の様子を見に行ってもらった。

 命を狙われて不用心かもしれないが、士道と令音の見立てが正しければ、この反転十香に力を行使できるほどの霊力は備わっていない。事実、今の拘束具は特別な力を宿していないにも関わらず、反転十香は何一つ振りほどくことができていない。

 

「む、ぐ……おぉっ!」

 

 次第に、顎が開いた無理な状態に疲れも見え始めているような気配がある。もっとも、荒々しい拘束に多少というだけで済んでいるのは、さすが反転した十香というところだろう。

 

「……けど、十香が反転したわけじゃないみたいだしなぁ」

 

 令音に確かめてもらったが、反転前の十香は何事もない様子で平和そうにきなこパンを食べていたそうだ。一応、令音の手で検査をしてもらっているものの、恐らく異常は出てこないだろうと士道は予想していた。

 士道を射殺さんばかりに睨め付けてくる『十香』。四肢を鎖で縛られ、引き千切らんと藻掻く姿。超然とし、士道を弱き人間として容易く殺せるだけの力を持つ『十香』が、口枷を施され涎を垂れ流す艶やかな姿。

 反骨精神。上位者としてのプライド。そういったものを丁寧に、丁寧に壊していく――――支配欲の塊である士道(本能)が考えそうなことだと、士道は手を開いて光の粒子を収縮させた。

 

「〈贋造魔女(ハニエル)〉、【千変万化鏡(カリドスクーペ)】――――〈囁告篇帙(ラジエル)〉」

 

 箒状の天使が光の粘土のように形を変え、一冊の荘厳な本へと姿を変える。

 全知の天使〈囁告篇帙(ラジエル)〉。再現された力は、全知と呼ぶには遠いものだが、士道が求める女を知る(・・・・)ためなら、融通を効かせてくれるだろう。

 欲望を受け入れ、ある程度(・・・・)は折り合いをつけた今の士道であれば、こういう芸当が可能だ。頁を捲り、指を当て『十香』に関する事柄を調べる。

 全知の天使は、知りたい事象を頭に浮かばせてくれる文字通りの全知。『十香』に関してのこと、もっと言えばなぜ士道(本能)が彼女を呼んだかを頭に呑み込ませた士道は――――頬をひくつかせて、額に玉の汗を浮かべた。

 

「節操がなさすぎるだろ、俺……」

 

 『十香』が顕現した原因は、やはりというべきか、はたまた当然というべきか士道にある。

 以前、士道は二回ほど『十香』と出会っている。一度目は元の十香に戻ってもらうことで精一杯であり、言葉らしい言葉を交わしたことはなかった。しかし、二回目はそれなりに言葉を交わしている。……まあ、口答えらしい口答えを許さず、力技が大半だった会話を会話と呼んでいいのかは、怪しいものではあるが。

 しかし、反転とはいえ士道が出会った〝精霊〟。それも、十香の裡に眠る存在――――士道(本能)が手にしてみたいと思うのは、ある意味必然とも言えよう。

 結果、『十香』は霊力体(・・・)として顕現した。士道の暴走した霊力によって、寸分違わず十香と同じ人の身体を得て。が、当然戦闘行為が行えるような霊力は備えられていない、士道に支配される雌(・・・・・・・・・)として、現実に現れた。

 

「……せめて、ちゃんと攻略してからとかないのかよ」

 

 頭に手を当てて嘆くが、そんなものはないと言わんばかりに士道(本能)はふんぞり返っている。だが所詮、士道は同じ穴の狢。こうなった以上、今の士道に相応しいやり方で『十香』を攻略していく他あるまい。

 

「お、ぉおおおおおおおおおおっ!」

「ああ、ごめんな十香。考えが纏まったから、それは外してやるから」

「ふ――――ぷはっ! き、さまぁ……っ!」

 

 口に含まれたボールギャグを掴み、外して首輪のように吊り下げる。べっとりとついた『十香』の唾液が士道の指にまとわりつく。その感触を楽しみながら、士道は己を睨め付ける『十香』と視線を交わらせた。

 

「気分は……まあ、聞くまでもないか」

「人間、私にこのような屈辱を与えたことは褒めてやる。褒美をくれてやろう――――素っ首、叩き落とすことでな」

「その格好で……凄いな、おまえ」

 

 四肢の自由を失い、ベッドに這い蹲ることしかできない。だというのに、『十香』からその絶大な闘志、殺気が失われていない。

 冷静に、冷徹に、己が状況を理解していながら『十香』は士道を殺す気でいる。絶対に屈しない。屈するはずのない魔王の気韻。

 

「――――いいな。こういうのも、悪くない」

 

 スイッチが入った。士道(理性)が所有権を譲り(・・)士道(本能)が醜悪な笑みを浮かび上げる。

 そこで、『十香』の表情が変わった。驚きと、不敵な笑み。今の士道を見て、理解を示す貌だ。

 

「ふん。これほど下賎な顔ができる人間とは思えなかったが……いや、そうなったのか。――――そういう愚かな男は、実に切り甲斐がある」

「はっ。〈暴虐公(ナヘマー)〉一つ顕現させられないくせに、よく吠える女だな」

「――――貴様」

 

 憤然とした吐息。目を細める静かな眼差し。先ほどまでの怒りを超え、身が凍るような冷たい殺意を発する『十香』。

 鎖が一層音を立て、引き千切られるのではないかと言うほど広がりを見せている。拘束を解いたところで、どうにかなるものではない。だが、抗うことを決して止めないその様は、実に士道の好み(・・・・・)だと当然のような興奮が身を浸す。

 

「俺のこととか、状況は……まあ、十香の中から見てたみたいだな」

「死ね。十香にあのような行い、万死に値する。死すら生ぬるい。私が、貴様を(ころ)す」

「ああ、割と正論かもしれないな。けど、十香は楽しんで(・・・・)くれてるぜ?」

「ッ――――そう捻じ曲げたのは、貴様だろう」

 

 一瞬、歯を食いしばる悔しげな貌。そして、叫ぶような怒りを超えた、地の底から負の感情を引きずり出すような声音。

 十香の反転体である『十香』は、十香を大切に思っている。少なくとも、それは伝わってきた。

 ――――十香を、あまり、悲しませるな。かつての別れの際に、『十香』はそう言っていた。

 悲しませてはいない。けれど、十香の純真な心を、想いを、少しでも捻じ曲げていないのか――――違うと言えるだけの権利を、士道は失ってしまっている。

 

「そうだな。そうかもしれない――――なら、十香を奪い返してみせろよ」

「なに……?」

 

 士道の物言いに怪訝な顔をした『十香』。

 フッと笑い、士道が指を鳴らす。途端、『十香』を縛り付けていた鎖が千切れ――――瞬間、彼女は獣じみた勢いで士道に飛びかかってきた。

 

「っと」

「ぐ……っ!」

 

 押し倒されながら、士道は『十香』の手首を掴んで動きを封じる。それでも『十香』は、馬乗りになって噛みつかんばかりに貌を近づけてくる。

 綺麗だ。言葉少なく、そう思う――――この貌、水晶の瞳を染め上げ、支配することができたら、どれほどのモノが得られるだろう。そんな最低な想いが、士道の中に去来した。

 人間を身一つで押し倒しながら、人間に動きを封じられる。『十香』の表情が、屈辱的に歪みを見せた。

 

「私の身体に何をした、人間……っ!」

「何をしたも何も、十香はそういう身体で生まれてきてるんだよ……いや、てか同じ名前はややこしいな。ええっと――――『天香(てんか)』。今から、おまえは夜刀神天香な」

「は?」

 

 即興にしてはなかなか上出来な名前を付け、士道は満足気に『十香』、改めて天香を見た。

 さしもの彼女も呑気な士道に毒気を抜かれたのか、不機嫌な目を歪めて声を発する。……名前の由来は、単に十香の十を英語読みしただけ、と言ったら彼女は怒り狂うだろうか、と悪戯心を芽生えさせるが、苦笑で抑え込み言葉を発する。

 

「だから、名前だよ。ないとこれから(・・・・)不便だろ? な、天香」

「私をそう呼びたければ、好きなように呼ぶがいい。どの道、貴様を殺すことには変わりないのだからな」

「んー――――俺を満足させてくれたら、吝かじゃない」

「……なに?」

 

 突如として殺人を肯定した士道に、天香が訝しげに瞳を歪めた。涎に塗れ、光を放つ唇――――それ(・・)を手にするためならば、命を賭ける価値はある。

 

「だから、俺を満足させてみろよ。俺の望み、それにそういうことのやり方は十香の中から見てたはずだろ」

「何のつもりだ、貴様」

「簡単な話だ。今の無力な(・・・)天香が俺に勝つためには、そうするしかない。――――それを理解できない女じゃないよな、おまえは」

 

 天香の手首を握る手に力を込め、捻り上げる。僅かながら、天香が顔を顰めた。そう、ほんの僅かであろうと、士道ごときに手首を掴まれて痛みを感じる。

 魔王と呼ばれ、精霊の中でも絶対的な覇道の力を持つ天香。力があるからこそ暴虐を成し、他者を排斥するだけの意志を持つ。

 しかし今、天香にその力はない。士道一人にすら敵わない。けれど天香は、決して不遜な態度を曲げることはない。屈することはない。己のため、何より十香のため(・・・・・)――――と、士道は大まかに考えていた。

 

「これを受ける受けないはおまえの自由だ。嫌だ、っていうなら天香を十香の中に戻す手伝いをするよ。せっかく、十香を助けるために苦労して出てきたのに、戻りたいって言うのなら、だけどな」

 

 本当は士道が無理やり引きずり出したも当然なのだが、士道(理性)と違い士道(本能)は自らの楽しみのために平気で真実を隠してしまえる。

 何故ならそれは、他者に誠実ではなくとも欲望に誠実な行いだからだ。

 

「…………」

「どうする、天香。――――おまえに、俺を満足させられるかな?」

 

 敢えて、挑戦的に。絶対的な強者としてのプライドを刺激する。

 ――――二度の邂逅から、士道は天香という精霊の本質を僅かに垣間見ている。

 売られた勝負は、正面から叩き潰す。言葉は刃、刃は敵を斬り伏せ、滅するための武器。もっと品のない言い方をすれば、売られた喧嘩は買う主義、だろうか。

 似て非なる性質を持った精霊を、士道は一人知っていた。時崎狂三だ。彼女もまた、そのプライドに賭けて勝負事に嘘はつかず、吹っかけられた喧嘩は正面から……とは限らないが、まあ正面がルールであればそう潰すだろう。

 だが、この二人には明確な違いがある。狂三は一見して激情的に荒々しくなるが、思考で憤怒を判別する。対して天香は、戦場において絶対零度ともいうべき立ち振る舞いで、憤怒を本能で(・・・)見せる。

 思考で表向きには大仰に振る舞う狂三と、本能で表向きには冷徹に振る舞う天香。何が言いたいのかと言えば――――思考より先に本能で動く分、士道にとっては天香の方が御しやすい。

 

「――――いいだろう。後悔させてやるぞ、人間」

 

 目を見開き、獰猛な笑みを浮かべた天香が誘いに乗った。ああ、やはりと言うべきか、さすがは十香の裏側だ。

 おかしいとわかっていても、それしか道がないなら本能で突き進む。直感で物を判断する――――たとえ判断が思考によるものであろうと、この暴走を前にすれば同じことであるのは、不条理という道理だけれど。

 

「ならば、これは邪魔だな」

 

 ふと言って、天香が目を伏せた。すると、彼女が着ていた衣服が霊子の光に変換され、身体の裡に取り込まれる――――即ち、天香の美しい裸体が士道の身体の上で露になった。

 

「――――――」

 

 十香の知っている士道でさえ、一瞬思考が止まるほどに惚れ惚れしてしまう。

 夜色の髪が下り、裸身を撫でる。十香と同じだけの胸が堂々と晒され、腹から秘部にかけるなだらかな丘、少し濃いめの恥毛、そこに秘められた陰裂。それら全てが士道の情欲を誘う。

 十香と同じなれど、振る舞いに羞恥が挟まれない分で印象がまるで違う。威風堂々足る美しさ、というべきであろうか――――力を制限されてなお、誰にも屈しない精神は健在だった。

 見惚れる士道に、天香はようやく怒り以外の感情を表にした。

 

「ふん、所詮は女を貪るだけの猿か。見ているがいい。私が貴様を、絞り尽くしてやろう」

 

 無自覚で、自身がどれだけはしたない言の葉を紡いでいるかなど、天香にとっては知ったことではないのだろう。

 我が道をいく。士道の手を振り払い、荒々しくズボンと下着を引きずり下ろし、肉棒を露出させる。天香の艶姿にイキリ勃つ陰部を、彼女は侮蔑の表情で見下ろす。

 

「醜い。こんなもので十香を――――私が、殺し尽くしてくれる」

 

 やり方は知っている。知っているだけ(・・・・・・・)だということは、天香の挙動から見て取れた。

 陰裂を指で開き、巨大な逸物に跨るように腰を上げた天香は、一部の迷いもなくそれを己の膣に叩き付けた。

 

「ぎ……っ!」

「っ! おい……っ!」

 

 苦悶の声と、初めて見る天香が痛みで目を見開いた姿に、士道は咄嗟に案じるような声音を吐き出してしまった。

 その無知と無茶を見れば、本質的に士道はそうせざるを得なかったのだ。弱体化しているとはいえ、今の天香は霊力で構成された精霊。人並みの痛みでは狼狽えることなどない。

 しかし、調教前の精霊(・・・・・・)だ。その膣穴は初心で、反り勃った士道の肉棒を完全に呑み込むことなどできはしない。特殊的であるため、士道を見るだけで膣を濡らすような変質もさせていない。だというのに、乾いたままの秘部にスケールの違う巨根を突き刺すように叩き付ければ、天香をどれほどの痛みが襲っているかは想像を絶する。

 

「く、はは……こんな、ものか……っ!」

 

 だが、天香の目に涙はない。脂汗を滲ませながら、士道の肉棒を無理やり呑み込んだ状態で腰を上下に振り始めた。

 

「っ、無理するなって!」

「きさ、まにっ……同情など、必要ない。ただ、私の中に……その汚らしい欲望をぶちまけれることだけを考えろ……っ!」

 

 士道の腹部に両手を突き、桃尻を浮かせて肉棒を乾いた膣で刺激していく。濡れるより先に、肉を削る方が速いとすら思えた。士道はともかく、今の天香は苦痛しか感じていないだろう。

 だが、動く。動き続ける。痛みを耐え、士道を屈服させるために。胸を揺らし、血が滲む秘部を酷使しまで責め続ける。

 もしくは――――痛みを感じることで、己の中の渇きと飢えを癒すかのように。

 

「……ごめんな」

 

 決して天香へは届かないように、謝った。同情からではない。自身の欲望に、理不尽に巻き込んでしまったことを詫びる。

 きっと天香は、十香の裡にいるだけで満足していたのだ。十香の幸せを感じるだけで、その渇きを癒すことができていたのだ。そんな天香を引きずり出し、怒りという渇きを与えたのは士道だ。

 天香が欲しい。ただそれだけの理由で、士道は彼女を精霊が堕落するこの楽園に引きずり込んだ。

 だから、謝罪は届かぬものでいい。士道は今から、士道に殺意を抱き、十香を大切に想うこの少女を――――徹底的に、陵辱する。

 

「っ……ふ……、くっ……」

「…………」

 

 如何に屈強な精神を有した天香といえど、激痛を伴う拷問のような全身で往復運動を繰り返しながら士道の動きを読み取るなど不可能だ。

 だから士道は、あっさりと手を天香の桃尻に回すことができた。そして指を一つ立て――――天香の無防備な尻穴(アナル)に突き立てた。

 

「――――あっ♡」

 

 ビクンッ。天香の身体が跳ね上がり、嬌声(・・)が上がる。十香と同じ声帯を持ちながら、威圧的な天香から放たれたメスの声。

 信じられないのは天香だろう。自身が出した声に目を震わせながら、怒りの形相を顕にした。

 

「き、さま……何を、している!」

「何をって、俺が好きなことをだよ。――――俺から手を出さないなんて、一言だって口に出してないだろ?」

 

 唇を曲げ、天香を嘲り笑う。雑言が返されるより早く、士道は尻穴に突き立てた指を更に深く挿入れ込んだ。次いで、天香の艶声が士道の鼓膜に甘美な震えをもたらす。

 

「あっ、ひぁ♡」

「ふーん……天香はケツ穴が初めから弱いんだな。強気だから、ってのは在り来りすぎるか?」

「き、さまぁ!」

「ダメだぜ、天香。ルールは、しっかり確認しないとさ。俺を満足させるってことは、ただ腰を振ればいいなんて話じゃないんだ。まあ、直線的で、決められたルールをぶち壊す天香を堕とすのが、俺は楽しいんだけどな?」

 

 ルールを圧倒的な力の行使で捻じ曲げるのが天香だ。しかし、この交合いにおいてそれは通用しない。

 雄と雌の立場がある以上、士道がルールであり、いつでもルールを捻じ曲げる不条理は士道が握っているのだから。

 

「その汚らしい指を、抜けぇ!」

「天香が動いて抜けばいいだろ。ほーら」

「あっ♡ あ……っ♡ ふざ、けるなぁ♡♡」

 

 グリグリと直腸の中を指で掻き回してやれば、威圧的な声音に隠し切れない艶めかしさが混じる。肉棒を突き刺した痛みすら忘れた様子で、屈辱的に歯を食いしばっていた。

 人間を指一つで殺せるはずの存在を、不浄の穴に指を挿入れるだけで制している。堪らない。支配欲がムクムクと膨れ上がり、士道こそ本能のまま唇と指を動かした。

 

「どうしても自分で抜けないっていうなら、お願いしないと。『私のアナルから指を抜いてください、お願いします』、ってさ」

「馬鹿に、するなぁっ!♡ こんなモノで、私を縛ろうなどと、片腹痛いっ♡ ――――あ、あああああああっ!♡♡」

 

 士道の腹に置いた手に渾身の力を込め、天香が腰を引き上げんと試みる。深々と突き刺さり、鉄の匂いが混じる膣がミチミチと生々しい音を立て、反面では尻穴が蜜を蓄えた音を立てている。

 

「っ……あ゛ぁ゛っ!♡♡」

 

 あまりにかけ離れ、逆でなければならないはずの二重奏の中、天香が力を振り絞って士道の肉棒と指から逃れた――――動こうと思えば動けたが、天香が本能的に動く様を見届けた方が、より楽しめると士道(本能)が判断していた。

 その衝撃で、濁りのある悲鳴を上げながら天香が勢いよくベッドから転げ落ちる。

 

「く……よくも。よくもよくもよくも……っ! 私に、このような無様な真似を――――っ!」

 

 冷徹さをさらに超えて、怒気が滲むほど天香が吠える。だが、痛みと快楽で足を震わせ、四つん這いで立ち上がろうとする天香の姿は、士道に欲望の笑みを深めさせる結果にしかなっていない。

 それに、彼女は勘違いをしている。尻穴に指を挿入れられた程度で、それから逃れた程度で無様などそれこそ片腹痛い。

 天香には、死より残酷な陵辱を味わってもらうのだから。

 

「お、ちょうどいいな」

 

 足を震わせ、下半身を責め立てる残り香に屈することなく立ち向かっている天香を見て、士道はベッドから腰を上げる。

 四つん這いの天香に、見下ろす士道。以前(・・)とは逆の構図。ならば、するべきことは一つ。

 

「よっと」

 

 天使のような肢体。夜色の髪を背負った天香の背に、士道は容赦なく体重をかけながら座り込んだ。

 

「あっ♡ ――――は、ぎっ!?♡♡」

 

 一瞬、可愛らしい嬌声のようなものが聞こえてきたが、直ぐに痛みを混じえた悲鳴に移り変わる。痛みに耐えながら立ち上がらんとする天香の背に、男の体重を乗せたのだから、それも当然の話であった。

 

「もう懐かしいな、これ。前はやられる側で変な気分になったけど、こっちは優越感で胸がすく。いい座り心地だ」

「誰の、許しを得て……私の背を、使うかっ!」

「当然、俺の許しだ。――――俺を満足させてくれよ、天香(奴隷)ちゃん」

 

 あのときとは逆に、士道が天香の臀部を叩く。しかも、無防備に晒された生肌をだ。

 

「ひぃっ!♡」

 

 パシィ! と気持ちよく響く生尻が震える音。そして強気な天香とは思えない可愛らしい悲鳴。

 こういうところで、天香は十香の血縁なのだと士道は笑みをこぼした。もっとも、背に乗った男が自身の尻を叩きながら笑みを浮かべるなど、天香からすれば屈辱以外の何物でもない。

 誰かに頭を垂れさせる側の天香が、頭を垂れて椅子に甘んじる。その精神的な苦痛は、ギロリと士道を睨む天香からよく伺い知れる。

 

「……殺す。貴様を、消し去って――――ひぁっ!?♡♡」

「だから、そうするために頑張ってくれよ。ほら、足が震えて崩れそうだぜ。そんなんじゃ、俺は満足できないなぁ」

「あぎっ!?♡♡ ぎ……ぃ゛っ♡」

 

 ペチン、バチンッ! と緩急を付けて天香のお尻を手で叩く。美しい艶があり、張りのある生尻に痛々しい掌の痕が刻まれ、天香が堪えきれず嬌声を上げた。

 未だ秘部に激痛が走る中、士道の霊力の影響を進行形で受け止めることで、士道の暴力的な行為に痛みと快感を覚えている。

 四つん這いで、よく耐えている方だと士道はある種の敬意を覚える。男の士道をその背に乗せながら、血だらけになった秘部の痛み、尻を痛めつけられる快楽に耐えて体勢を維持する。

 天香が精霊である以上、暴走した霊力の侵食は免れない。その中で、屈することなく士道に牙を剥く天香――――いつものことながら、その美しさをとことんまで穢してしまいたくなる。

 

「小癪な、真似を♡ この程度で、私を御しきれると――――おおおおおおお……っ♡♡」

 

 言葉の途中で、天香が憐れな喘ぎ声を上げ、その貌を大きく上に逸らす。

 反抗的な言葉を握り潰すのは、存外に面白い。天香のケツ穴に一本の指を挿入れながら、士道は彼女の背で愉悦の笑みを浮かべた。

 

「どうした? ケツ穴をほじくられるのは、この程度には入らないのか? 何か言ったらどうだ、天香」

「ほっ♡ おっ♡ おおっ♡♡ ……抜けっ♡ ぬけぇぇえぇぇぇっ♡♡」

「いいぜ、ほら」

 

 一度深々と指を侵入させ、勢いよく引き抜く。天香の望み通り、抜いてやった(・・・・・・)

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?♡♡」

 

 だというのに、仰々しいよがり声を上げ、ぷしゅっ、と愛液を吹き出す天香。いよいよ全身が痙攣し、四つん這いですら維持が難しくなっている様子に士道はなおも彼女を責め立てる。

 

「なんだ、せっかく望み通り抜いてやったのに……んじゃ、もう一回っと」

「おおっ!?♡ きしゃまぁ♡ 私の尻穴をなんだと――――おぎっ!♡♡」

 

 楯突いてくる天香の尻穴に指を、今度は二本ぶち込んで乱雑に掻き回す。激しいプレイが好みの天香は、そういう風にしてやった方が気持ちよくなれることだろう。無論、士道が勝手にそう思っているだけだが。

 

「何って、俺を満足させるおもちゃに決まってるだろ。天香は勘違いしてたみたいだけどさ、俺は天香にしてもらうだけで満足なんてしないぜ」

「な、に……?」

「俺が天香を弄んで、天香を服従させることで満足するんだ。簡単に折れないでくれよ――――強気な天香が、俺は好きなんだからさ」

 

 強い女を好きに弄ぶから、価値がある。気高い女を喘がせ、はしたない悲鳴を上げさせることに価値がある。

 従順な奴隷は大好きだが、そうでない奴隷も好きというのはそういうこと――――士道に従うはずのない存在が、快楽と屈辱に溺れていく様を、士道は目に焼き付けたい。

 

「天香が出来るだけの抵抗をして、天香が望むだけのプライドを以て――――どこまでも、耐えてみせてくれ」

 

 言いながら、三本目の指を尻穴にぶち込み、思いっきり広げてやる(・・・・・)

 

「あぎぃぃぃぃぃぃぃっ!?♡♡ ――――おほおおおおおおおおおおおおおっ!?♡♡♡♡」

 

 二段の悲鳴。ケモノのような咆哮。戦場で美しく勇ましい咆哮を上げる天香の、雌犬としての悲鳴と初めての絶頂(・・・・・・)

 

「あ――――ぅ♡」

「おっと」

 

 同時に、力尽きる。屈辱ながら士道を満足させるため、屈服させるために隷属するという矛盾から解放され、天香が地面に突っ伏して倒れ込む。

 秘部から零れる血と愛液。四方に散らばる夜闇色の髪。息を荒く、初めて彼女は外敵と呼ぶものの前で膝を突き、倒れた。

 だが、それで満足したかと言われれば――――一割でさえ、満たされてなどいない。

 

「おーい、天香ー?」

「っ……まだ、だ……」

「おお……」

 

 軽く声をかけて、うわ言のような声が帰ってきて士道は驚きを隠せなかった。

 うわ言とはいえ、言葉を発した天香の精神は生きている。痙攣する身体、言うことが効かない肉体に指示を出し、腕を震わせて立ち上がらんとする。

 普通の奴隷であれば、ここでゆっくり待つも一興だろう。しかし、天香はそうして待てばまた主導権を握ろうとしてくる。そうしてやるのも楽しいかもしれないが――――初めなのだから、徹底的に刻み付けて(・・・・・)やりたい。

 気高く強い暴虐の魔王でさえ、士道という雄の前では淫乱な雌でしかないことを。

 

「きさ、ま……」

 

 士道が天香の下半身を持ち上げ、無理やり尻を上げさせる。天香は気づき、殺気のこもった目を向けてくる。が、それは十数分前のものと比べ弱々しく、どこか虚ろだった。

 

「はな、せ……人間、風情が……」

「ああ、人間風情が――――天香のケツ穴、使わせてもらうよ」

 

 ずりゅ。もしかしたら、もっと凄まじい音だったかもしれない。

 

「ご――――ッ!?♡♡」

 

 性感帯として調教を始めたばかりの天香の尻穴に、士道の巨根を根っこまで呑み込ませたのだから。

 本来必要とされる穴の拡大域を著しく上回り、天香の尻穴がめちゃくちゃに広げられていた。ミチミチミチ、と鈍い音を立てて必死に広げようとする。あの天香が、悲鳴すら上げられず身体を逸らした。下手をすれば、あの水晶の目を裏返しているかもしれない。

楽しい(・・・)。士道は、天香の腰を手で掴みモノのように前後させて肉棒に快楽を送り始める。

 

「お゛っ゛♡♡ お゛……ぃ゛……ぃ♡」

「ん……こっちはあんまり挿入れることないから、初めからは新鮮で気持ちいいな? 天香はどうだ……って聞いてるわけないか」

「ぉ゛♡ お゛ぉ゛♡ ……ぎざ、ま゛ぁ゛♡♡」

 

 濁り、快楽と苦しみが入り交じってこといるが、反応を示した天香に士道は目を見開いた。

 純粋な驚きだ。尻穴をありえないほど広げられ、直腸にありえないほど大きな逸物をぶち込まれる。いくら精霊とはいえ衝撃で気を失ったとしても、何ら不思議ではない。

 しかし、天香は意識を保っている。しかも、士道の軽口に確かな反抗の意志を示して。それが楽しくなり、士道は天香の腸内を削り取る勢いで肉棒をピストンした。

 

「お゛ごっ!?♡♡ お゛お゛ぉ゛お゛ぉ゛ぉ゛っ゛♡♡」

「いい、いいぜ天香! そうやって反抗して、抵抗する天香がいい! おまえらしいおまえを弄んで犯して、俺は満足したい!」

「下衆、がぁ!♡ ……ごろ゛す゛っ♡♡ぜっだい゛に゛♡ ゆる、さん……っ!♡♡」

 

 乱れ、喘ぎ、涎を散らし、尻穴を掘られながら殺意を口にする。天香は尊厳を踏み躙られながら、許しを乞うどころか雑言を吐き出していく。

 それは天香の気質であり、士道の望み(・・・・・)だ。

 欲望の制御が未熟な士道であれば、この良さを殺してしまっていたかもしれない。或いは、屈するからこそ美しいと早々に頭を垂れさせる楽しみを抱いていたかもしれない。けれど、今は違った。このまま(・・・・)、調教してみたいと士道は思った。

 天香が屈服し、真の意味で頭を垂れる様と同じくらいに、天香が天香のまま快楽に翻弄され、堕ちていく様を見てみたいのだ。

 

「だから、楽に堕ちてくれるなよ、天香」

「なにを、言っ――――おほっ!?♡♡」

 

 囁いて、肉厚な直腸をまた削る。プライドの高い女の楽しみ方は、士道の中ではこの二つ。

 圧倒的な絶望感でプライドをかなぐり捨てさせ屈服させるか、逃げられない勝負をけしかけ反抗的なまま堕としていくか、だ。

 まあどちらを選ぼうと――――真の意味ではなかなか屈しないからこそ、この手の女は楽しいのだけれど。

 

「そら、天香のケツ穴に射精()すぞ! 俺を満足させたいなら、全部受け取れ!」

「っ!?♡ 私の腹に、そんなモノをっ♡ お゛っ♡ また、かっ!?♡♡ あっ、あああああああっ!?♡♡」

 

 直腸で暴れ、震え始めた肉棒に合わせて天香もまた人生二度目の果てが近づいていた。十香の中にいるだけでは味わえない、雌の悦び。それを二度とも尻穴で感じる屈辱。

 

「っ、おおおおっ!!」

 

 今さら、それを止められるはずもなかった。無遠慮に突き出した肉棒の先端から、激しく迸る雄の証。

 どぷっ! どぷぶぶっ! 惨たらしく凄惨な音を立て、天香の腸に士道の精液が逆流していった。

 

「お――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!♡♡♡♡」

 

 同時、十香と同じ声で十香からは決して聴けぬ甘美な嬌声。美しさと獣の絶頂に、士道の欲望が加速度的に精液を生成し、天香の腹にぶち込んでいく。

 圧倒的な量の射精。人を超えた精霊を堕とすに相応しい、数分間に及ぶ排出。徹底的に天香の直腸から注がれ、なだらかだった腹を膨腹に変えてしまう。

 一度目の射精を終え、天香の尻穴から肉棒を引きずり出す。ぽっかりと開いた天香の尻穴――――ぶりゅるっ、と下品な音を立てて白濁液が吹き出した。

 精霊であれば、恐らく初めてであろう排泄行為の疑似体験。果たしてどのような気分かと、尻穴からザーメンを垂れ流す天香へ士道は声をかけた。

 

「天香、気分はどうだ。ケツ穴から俺があげた精液を吐き出すのは……って」

「……っ♡ ……っ、っ♡♡」

「……まあ、さすがにか」

 

 ひたすら痙攣し、アナルからザーメンを吐き出しながら、天香の意識は闇に落ちていた。むしろ、初めてでこれほど乱暴に調教され、ここまで会話ができていたことに驚くべきだろう。

 

「さて、俺は――――満足、してるわけないよなぁ」

 

 というより、満足など絶対にしない(・・・・・・)と士道は天香の身体を仰向けに優しく横たわらせながら、ガックリと項垂れる。

 出来レース、と言うと少し語弊があるが、似たようなものだ。士道の欲望は吐き出せば縮小こそするが、消えることはない。厳密には、小さくなった瞬間にのみ士道(理性)が性的な支配権の大半を握ることができる、それだけの話だ。

 つまり、天香が士道を満足させれば勝ちだと言うが、それは万に一つもありえない。天香が抗い続ける限り、士道(本能)の欲望は肥大化する。仮に士道(理性)が表になったとしても、欲望を受け入れてしまった今となっては天香ほどの女を抱くことを止めたりはしない――――こうして、天香の肉体が先に力尽きない限りは。

 抗う限り、満足させるはずの欲望が膨れ上がる。絶望的な戦い。武力ではなく精力を競う時点で、精霊の女である天香に勝ち筋など存在しない。

 

「わかってて、この子を堕としたいとか……ホント、精霊ならなんでもいいのかっての」

 

 なぜ天香だったのか。精霊たち全員に手を出して、さらに裏側の存在に目をつけた士道(本能)の真意は如何程のものか――――わかるはずがない。理性ではなく、本能で雌を喰らうのが士道なのだから。

 天香。夜刀神天香。十香の反転体でありながら、意思疎通が出来る暴虐の魔王。そして、十香を慮る者(・・・・・・)

士道(理性)はそのことを知り喜んだ。ならば士道(本能)はそのことを知り、悦んだ(・・・)

 

「ろくでなしだな、士道()

 

 同じことに微笑みながら、意味合いを正反対とする――――どちらも士道であるからこそ、度し難いと士道は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ん……」

 

 水の、音がする。自身の身体を叩く、水流の音。頭から身体、全身を流す。不快ではない、穢れを落とすもの。

 目覚めた少女の視界に映り込んだのは、どこかで――十香の中から――見た覚えがある水場。何かに座らせられ、背中を支えられ、何かから水を流されている。

 その誰かの顔が、見えた。水滴で歪む姿見鏡に――――あの男が、映っていた。

 

「な……」

「ああ、目が覚めたみたいだな」

「貴様――――」

 

 カッと目を見開き、反射的に腕を上げ――――腹を襲う奇妙な感覚に、顔を顰め無様に呻く。

 

「ぐ、ぉ……」

「下手に動くと、腹から出てくる。少し我慢すれば、おまえの中に取り込まれるだろうから、あんまり派手に動かない方がいいぞ」

 

 ぎゅるるる、と空腹時とは異なる音がする。そこで、天香は何があったのか思い出した。

 尻穴に精液を注がれ、まだ腹の中にそれが溜まっている。しかも、その張本人が天香の身体を水流……シャワーと呼ばれるもので洗い流してる不可解な現状も把握した。

 

「なんのつもりだ」

 

 今すぐ少年の首を絞め殺してやりたかったが、少年の言葉通り醜態を晒すのが関の山だ。少女は敵を屠る精霊であっても愚者ではない。

 力の限りで少年を睨み上げるが、以前のように萎縮した様子すら見せずに少年はシャワーを扱いながら平然と言葉を返す。

 

「何って、汚れたまま起きたら気分が悪いだろ。身体を洗うくらいは、俺がしておかないとって思ったんだよ」

「貴様のものではない」

「そりゃあそうだ。だから、俺が勝手にやってるんだからな」

「…………」

 

 長い髪から雫を滴らせ、鏡に映る少女の顔は訝しげに歪みを見せる。

 あれほど少女に屈辱の限りを尽くして起きながら、その時の雰囲気は霧散している。人の手で行われる湯浴みに、少女は言いようのない感覚を覚えた。

 そして、少年から感じる雰囲気の質が、以前に近い(・・)ものだと悟り、対極的な空気感にさらに眉根を寄せる。

 

「貴様、なんなのだ」

「五河士道。知ってるだろ、十香の中から見てたはずだし、前に会った――――時とは、かなり違うと思うけどな」

 

 苦味。その表情に一瞬だけ滲んだ味の名。

 五河士道。知っている。十香を通じて、十香の中に溢れた喜びの中で、士道と一緒であれば何十倍もの喜びに移り変わらせる不可思議な少年。

 そして、そんな十香を穢した少年。理由なぞ、どうでもいい。ただ殺してやりたかった。十香を穢して――――十香が、幸福を感じている現実が受け入れ難い。初めて、理解できなかった(・・・・・・・・)

 だが、少女の前に今ある少年の雰囲気は十香が目で追いかけ、少女が(・・・)目で追いかけた士道だ。僅かに違うが、確かに感じる。

 同じ言葉を重ねることを好みはしない。が、重ねてしまう。

 

「……なんだ、貴様は」

「いや……十香の中から、見てたんじゃないのか?」

「全てではない。貴様の些細な事情など知ったことか」

「あ、じゃあマジであの殺害方法は衝動的だったのか……」

 

 出会い頭のことを言っているのだろう。少年が頬を引くつかせる姿を見て、いい気味だと鼻を鳴らす。

 もっとも、少年を仕留めきれなかったのは一生の不覚だ。また(・・)あの力に辛酸を舐めさせられた。

 ああ、けれど――――もし斬っていたら、十香は悲しんでしまったのだろう。

 

「で、これからどうする?」

「ぬ?」

「だから、どうするって聞いてるんだ。おまえが望むなら、(理性)が十香の中に還してやれる。(本能)は煩いかもしれないけど、一回楽しんだんだ。あとは、十香に叱ってもらえば懲りるんじゃないかな」

「わけのわからんことを。貴様のことであろう」

「まあ、(本能)のことだな――――どっちも俺だけど、色々と面倒くさくてさ」

 

 少なくとも、少女の理解を超えている提案だ。だが、本質的に少女の本能が、十香の記憶(・・・・・)が訴えかけてきていた。

 この少年の言葉に、嘘はないと。

 この少年は、嘘を吐かないと。

 ――――あれ(・・)と言葉を交わした後のために、単にマシに見えているだけなのかもしれないが。

 

「断る。私は貴様を満足させ、嬲り殺しにすると決めた」

 

 シャワーの水が途切れ、少女の身体に残水が滴る。汚され、陵辱された肢体が鏡に映り込む――――知らぬ間に秘部の痛みが消されている(・・・・・・)のが、腹立たしい。

 もはや、どちらの少年であろうが関係はない。少女は少女の存在にかけて、少年を屈服させ斬り捨てる。十香を穢した少年を許しはしない。

 

 ――――決して、表に出て少年を知りたいとか、目で追いたいとか、そういう感情は断じてない。

 

「そっか。なら、明日からは自由にしてくれていい。必要なものは、こっちで全部用意するから」

 

 少女の答えに、少年は驚くでも呆れるでもなく、優しげな微笑みを浮かべ、シャワーを片付けながらそう言った。少年を殺すと告げる少女に、何の迷いもなく言ってのけた。

 だが、その中身には問題があると少女はキッと目つきを鋭くする。

 

「貴様の施しなど必要ない」

「あんまり自由にやりすぎると、十香を困らせるぞ」

「む……」

「それが嫌なら、ある程度は妥協してくれ。同情とか、そういうのじゃない。俺は、それが必要だと思って、そうしたいから言ってるんだ。ま、(理性)を満足させると思って我慢してくれ」

 

 十香を引き合いに出されては、現状の少女は強くは出れない。加えて、少年の奇妙な物言いにはやはり理解が及び兼ねる。

 嘘は吐いていない。が、矛盾はある。けれど、目の前の少年は間違いなく少女が知る少年。十香が好んだ少年。

 

「人間――――おまえは、どちらだ(・・・・)?」

 

 回りくどいことは好まない。堂々と、少女は少年を見上げて問いかけた。

 少年はどこか悲しげに、しかし答えという確信を得た顔で返した。

 

どちらも(・・・・)、だな。――――(本能)が好きにやるんだから、(理性)も好きに振る舞うさ」

「それが私を弄び、こうして同情することだと?」

「前者は合ってて、後者は違うな。俺はおまえにそうしたいから、してるだけだ。どっちの俺も、ドロドロの欲望(エゴ)で行動してるだけなんだよ」

「……理解できんな」

「する必要ないさ」

 

 少年の矛盾した精神性。二重人格ではなく、確かにどちらも五河士道だというものが理解できない。少年は、する必要がないと言い足を上げた――――気に食わない。

 

「じゃあ、おまえはゆっくりしてくれ。ここは好きに使っていいから」

「待て」

「うわっ!?」

 

 立ち去らんとする少年の手首を捻り、引き寄せる。行為道中に見せた驚異的な膂力は鳴りを潜め、半ば足を滑らせて少女の位置に少年がやってきた。

 目が合う。以前と同じで優しげな、だが奇妙なモノを抱え込んでしまった瞳が。

 他の精霊たちは、彼を理解しているのか。それは知ったことではない。

 

「許す。付き合え」

「は?」

「湯浴みだ。業腹だが、貴様を知るには都合がいい」

 

 所詮、少女が殺す相手だが――――少女より矮小な存在を、理解できないからと斬り伏せてしまうことはあまりに器が知れる。

 それに、この少年の弱点を知れば、少女が遅れ取った交接を優位に運べる。少女は豪胆なれど愚か者ではない。敵の技量は、違えることなく見定めていた。

 ニィと笑みを見せた少女に、少年は何とも言えない顔で半目を作って言葉を返した。

 

「……あのさ、わかってると思うけど、(本能)は満足したわけじゃないし、(理性)だっておまえをそういう目で見てる。いつさっきみたいになるか……」

「上等だ。次こそ、あの貴様(・・・・)の欲を枯らし、屈辱を雪いでくれる。仮に、交合う相手が今の貴様だというのなら――――ふっ」

「笑った!? 今(理性)のこと嘲り笑ったよな!?」

「うるさい。死にたいのか、人間」

「はい、スイマセン」

 

 ――――本当に、わからない少年だった。

 少女を捩じ伏せる不遜な態度と力を持つかと思えば、以前に見せた人間としての一面も無くしていない。

 もう一人の自分を救った少年であり、穢した少年。見極めるためではなく、殺すために少女は表側に降り立った、のだろうか。

 今となっては、どうでもいい。ただ少女は、少年を知り、知った上で殺すと決めた。

 

「まあ、おまえがいいなら――――――」

「天香」

「え?」

「貴様が名付けたものだろう。無いよりはマシだ、呼べ。――――どちらも(・・・・)貴様であるならば、構うまいな?」

「あ、ああ。それじゃあ……」

 

 少年が、気恥しげに唇を動かした。

 

「――――天香」

 

 その時、初めて少女は夜刀神天香(・・・・・)として、生まれ変わった気がした。

 もう一人の自分も、同じような想いを抱いていた。

 五河士道。十香を救い十香を穢し、十香の拠り所でありながら、十香が絶望する原因となる不思議な少年――――天香の興味を、どうしようもなく惹き付ける少年。

 とりあえず、天香が目下の少年に求めるものは――――――

 

「うむ。では、逝け」

 

ささやかな(・・・・・)仕返し、だろうか。

 

「え――――おおおおおおおおおおっ!?」

 

 捻り上げた手首を今持てる膂力を活用し、持ち上げ、投げ飛ばす。

 少年が対応できるはずもなく、情けない悲鳴と美しい放物線を描き、溜め込まれた湯に飛沫を上げる。

 張り付いた髪を手で払い上げ、立ち上がる。少年の言う通り、腹に溜まった精液は天香の身体に取り込まれ、体調も生まれ変わったようによくなった。その現象自体で気分は最悪だが、それも今の仕返しで少しは晴れている。

 天香が湯船に歩いていくと、ぶくぶくと水泡が上がり、グロッキーな少年が顔を出した。

 

「……気分は?」

「胸がすいた」

「そりゃ、よかった……やっぱり、こういうのは(理性)なのね」

 

 無意識に、笑みがこぼれた。

 果たしてささやかな復讐を果たしたからか、或いはこの士道(・・)と――――思考を捨て、天香は少年の頭を踏みつけながら、疲れた身体を癒す湯浴みを始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「それで、反転した十香さんを自由に出歩かせていますの?」

「……結果として、そういうことになるね」

 

 湯呑みにお茶を注ぎながら、狂三――以前、引きずり込んだ、或いは引きずり込まれに来た――が令音へ怪訝な表情を見せている。

 

「随分と甘いですわね」

「……無理やり陵辱したことを思えば、少ないくらいじゃあないかな」

「まあ、そうかもしれませんけれど、あの方がよく施しを受けようなどと考えてくださいましたわねぇ」

「……十香のことを想えば、かな。それに、士道から(・・・・)ならば、あの子も受け取るだろう。……散々と罵詈雑言を口にしながらだろうけれど」

「? 自分を陵辱した相手からの施しを、ですの?」

「……ああ。……さて、あの子は士道をどう見るかな」

 

 狂三が淹れた茶に口をつけながら、令音は呟く。

 今の士道は複雑怪奇。凡そ、常人には理解ができない精神性だ。雌を屈服させる歪んだ士道と、元々から存在している善性の士道。共存し、どちらも自分だと認めている。

 少女の目には、どう映るか。十香を惑わす狂人か。それとも、理解し難い二重人格か。はたまた、理解しようなどとは考えないか――――最後は、ありえない。

 なぜなら、彼女は夜刀神十香と表裏一体。すなわち夜刀神天香とは、決して士道を嫌うことが出来ない(・・・・・・・・・・・・)精霊なのだ。

 

「……どちらに堕ちるか。或いは――――私と、同じかな?」

 

 本能と理性。どちらかに靡くか――――令音のように、どちらも士道だと愛してしまうか。

 

「あら、あら。悪い顔をしていますわ、令音先生」

「……たまには、役職らしいことをしなければいけないからね」

 

 一つ言えることがある。士道は自身の欲望のみで天香を呼び起こしたと思っている。もしくは、天香の殺意が同調したと考えていた。〈囁告篇帙(ラジエル)〉を扱い、士道(本能)が彼女を呼び出したと決めつけて、そう調べたが故の見落とし。

 だが、誰より士道の病状を知る令音は、暴走の本質を見誤らない。

 

「……言ったはずだよ。元がなければ(・・・・・・)、肥大化などしないと」

 

 ここにはいない二人へ、忠告。

 士道の欲望の方向性から、精霊を奴隷に変える力と言っても過言ではない。だが、故に相手からの好意がなければ深く眠る裏側の存在を、無理やり引きずり出すことなど不可能だ。

 士道が求め、天香が答えた。それが事の真相だ。

 

「…………」

 

 士道に会いたかったのか。士道を愛してしまったのか。それは、天香自身でさえ、まだ自覚が薄い未成熟な想い。

 どうなるかもわからない。その理性への恋が形になるか、それとも本能に陵辱されて堕ちていくか。

 もし未来が令音と同じならば、因果な話があるものだと笑みを浮かべ――――令音は今一度、その言葉を紡いだ。

 

「……ようこそ、我が娘よ。――――この精霊たちの楽園へ」

 

 かつては誕生の祝福を。今は楽園へと導く祝福を。

 恋と隷属。どちらが、或いはどちらも享受できるかどうかは、可愛い娘次第だと、令音は目を伏せた。

 

 

 






徹底的にやってそういう方向で屈服させるだけにしようって言ってたじゃないですかやだー!!!!

無理だった。元の士道くんを残してる時点でそれ1本は無理だった。無理だよ無理。十香ワールド知ってて相手士道くんなのに恋愛入れないとか無理無理無理。私、ただでさえ前作諸事情で天香デート回書けなかったのに。大体、時系列的にもう士道のこと目で追ってる頃なんだよこの天香ちゃん。
こうしてまた字数が増え、事実上の天香ルートが開幕するのであった。ちゃんちゃん。

士道に対するスタンスは令音がどちらも士道と考えている。狂三がどちらも士道だけど、それはそれとしてあの鬼畜人格いつかやり返すと考えている。天香はいっそ別人格の方がやりやすいと思っているので、見定めながら分けて考えてる。
大雑把にはこんな感じ。ちなみにアビス中は理性不安定。オーバードーズは安定。スレイヴは死にかけを狂三が必死に蘇生してるところです。
一番狂ってるのは見ての通りオーバードーズで一番素の士道くんに近い(近いとは言ってない)のがスレイヴ。てかオーバードーズでも割と罪悪感見えてるのにそりゃスレイヴはね……。

まだ初回なので霊装はお預け。背中椅子はまた入れたいし跨りお散歩プレイもさせてあげたい。あの霊装に合うであろう淫紋は……狂三へのこだわりあるんですけど、入れたくはあるんですよねぇ。一応、特殊に一人だけ淫紋刻む子がいるので、天香も特別にで構わないんですけれどね。読みたいです?天香ちゃんの淫紋。
天香ちゃんにこんな屈辱プレイさせたいって人は是非送ってね。士道くんへの好意がまだ自覚が薄い分、めちゃくちゃ反抗させてあげたい。折れない中で色狂いにさせてあげたい。

ちなみに狂三の方が折れやすかったんじゃなくて、狂三はへし折った方が映えるとかいう本能くんの性癖です。あと向こうは初回、こっちはある程度は理性が御せるってのも大きい。つまり……天香ちゃんに反抗させてるのはわざとですね(満面の笑み)威圧で速攻もいいけどじっくりを選んだルートの本能くん。
まあ狂三の方がわかりやすく好意自覚してるってのはありますけれど。あの子、結局あの時に一発も士道を撃ててない。これが全てでしたし。
つか天香ちゃんは折れない方が楽しめるんじゃない?って私の趣味が多分に含まれてますねこれね。狂三と被せるのもあれだし。

さあ、狂三のことが多くなったのでお察しの方もいらっしゃるでしょう。次回は狂三スレイヴ、久方ぶりの更新となります。ルールなど知らぬと踏み潰すのが天香で、ルールの穴を衝くのが狂三。堕ちないタイプでもこう違いが出るのは面白いですねぇ、あくまで私の解釈ですけれど。

感想、評価、リクエストなどなどお待ちしておりますー。前回の雑な媚び売りに評価、おめでとうなどの感想、感謝感激です。これからもエロい精霊たちを送り届けるので、高評価や感想よろしくお願いします!私欲まみれだなぁ。

ではではまた次回〜

リクエスト回。たまにはらしくない服装のくるみんでも、如何かな?
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