エロはある。逃げられると思うなよ(はぁと)
「令音さん、俺とデートしましょう」
ここはビシッと一つ、男らしく直球勝負。
「……………………?」
たっぷり五秒。沈黙をして、左右を振り向いてから、士道を見て首を傾げた。士道のライフポイントが五十削られた。
何がダメだったのだろう。令音の私室で二人きり。邪魔も入らず、完璧なタイミングだったはずだ。ボーッと椅子に座る村雨令音の天然反応がなければ。
さて、それを考慮に入れると士道が次に言うべき言葉は――――――
「あ、デートって言うのは、男女が日時を決めて会うことで」
「……言葉の意味は知っているよ」
でしょうね、と。でなければ『恋してマイ・リトル・シドー』などという狂気の産物は生まれてきていない。ちなみに、現在シリーズ4とVRMMO以下省略がリリース中。是非これ以上は開発中止を願いたいものである。
とりあえず令音に意識を向けさせるために冗句を交ぜてみたが、それなりに効果はあったのだろうか。令音は訝しげな表情……と言っても士道にしかわからないような変化を見せながら、自身のあごを指で撫でた。
「……ふむ。思いがけない誘いだね」
「そうですか? 俺からしたら、普通の提案だと思いますけど……」
別に、士道が令音をデート誘うことは不思議なことではないと、士道はぽりぽりと頬をかく。何せ、士道に女性との処世術を叩き込んだのは、他ならぬ令音そのうちの一人に入るのだから。
令音との関係、案外押しに弱い彼女のことを鑑みて断れるとは考えていなかったが――――想像以上に、予想外の言葉が令音から飛び出してきた。
「……シン。それは、私でなければ駄目なのかい?」
「――――――――は?」
もちろん、威圧ではなく疑問の言葉。あっけらかんととんでもないことを言ってのけた令音への、純粋な気持ちの表れである。
それに気がついているのかいないのかは定かではないが、令音がふわふわと曖昧な雰囲気を放ちながら声を発する。
「……君とのデートなら、精霊たちではいけない理由がない。逆に、私でなければならない理由もない」
「本気で……言ってます? 俺とのデートは、嫌ですか?」
「っ……嫌とは言っていないよ。だが、私は君のその欲求を満たすために関係を結んだ。確かに君とは恋人でもあるが……性的欲求が直接的に関わらない以上、私である〝メリット〟が君にはないだろう?」
まるで、自分の身を守るように正論の防壁を展開していく令音。言い分はわかる。士道は精霊を封印し、そのメンタルケアも受け持っている。デレさせた精霊とは、その後にもデートを重ねている。重ねない、理由がない。令音との情事を済ませれば、数日間の猶予の中で令音の正論は正しいものとして発揮される。
だが、なんだ。この胸の苛立ちは。
「……それに、君は私のことを――――――」
「わかりました。もういいです」
言葉を断つ。士道は、口説きよりシンプルで平明で最低のやり方を選んだ。
「こうしますから」
椅子に座った令音の顔面に、肉棒の影を生み出す。
「……はぇ?♡♡♡」
間抜けで、理解ができない。普段の令音なら、天地がひっくり返ることの方がまだ可能性あるような声が零れ落ちる。落ちたものは、彼女の理性という言葉であったかもしれない。
雌に対する支配欲が強まったからか、一瞬で勃ち切ったそれは、とてもズボンの中に収まっていたとは思えないスケールで令音の顔に近づけられると、彼女の鋼鉄の理性をドロドロに溶かした。
「さあ、どうします令音さん。いや……俺の可愛い雌奴隷さん」
「……ひゃ♡ひゃめ……っ♡それ、ひゃだっ♡♡」
滴る雄汁が令音の眼鏡を伝い、最低の化粧水が隈深い目元を濡らす。ああ、そういえば外していなかった。だから令音は素直じゃなかったのかとくつくつ笑う。
「どうしたんです、答えてくださいよ令音さん」
「……ど、どけてっ♡それを、どけて……くれっ♡」
「自分で避けたらいいじゃないですか。俺は動いてないんですから」
突きつけてから一歩も動いていないし、令音の顔面に触れてもいない。ただ、見上げる令音の前に肉棒を置いているだけ。椅子を引くなり、払い除けるなりすればいい――――できないとわかっていながら、そう言う。
「……やっ♡できない♡それ♡、見せられたらっ♡さからえ、なく……、なるっ♡……私じゃ、なくなるっ♡♡」
「いいんですよ。どんな令音さんでも、俺は綺麗だと思いますから。さあ、言ってください令音さん」
言え。そう念じ、グッと令音の顔面に肉棒を上から押し付けてやれば――――ああ、最高の肉奴隷の完成だ。
「……いいますっ、いいますからっ♡――――あ、あなた様のお誘いにお答えできず申し訳ありませんでした♡……どうか、濃厚ザーメンに勝てない♡おちんぽに従わされた雌豚を♡♡つれていってくださいっ♡♡♡」
ほら、こんなにも簡単だ。口調を溶かして、屈服した言葉遣いで、こんなにも目を輝かせて舌を出して雄に媚びを売る。
初めから、こうすればよかった。最低な思考を最高の快楽に、士道は大きく曲げた唇で令音に言葉を投げかけた。
「ありがとうございます、令音さん。嬉しいです――――ご褒美、あげますね」
――――――ぐちょ。
令音の鼻の穴に、亀頭を押し込んだ。
「…………おおっ?♡♡♡♡」
一瞬遅れて、令音が喘ぐ。脳がされたことを理解して、快楽が思考中枢を粉々にする。
押し込んだ勢いで令音の小さな鼻が豚鼻のように変形し、雄汁が令音の鼻孔にびちゃっと入り込み、
「ふごっ♡ふごっ♡っ……イ、くぅっ♡♡♡♡」
――――ぶしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
一度で、どれだけの潮を吹き出すのか。鼻孔に雄汁を飲ませただけで、令音の秘部からもう何枚無駄にしたかわからない軍服のスカートを突き抜けるほどの愛液がシャワーのように撒き散らされる。
肉棒を離してやれば、びくびくっ、と椅子に持たれたまま虚ろな目で天井を見つめた士道専用雌豚奴隷、その仕上がりを存分に披露してくれた。
何度目かの、芸術品への感銘の吐息が士道の口から漏れた。
「ああ……いつ見ても、遊んでも、最高のおもちゃですね。ねぇ令音――――――さん?」
カシャンと、令音の眼鏡が地面に落ちて――――スイッチが切り替わる。
雌への支配欲を満たした
「ちょ、ばっ……かやろっ!?」
そうしたら、自分自身への罵倒という一番どうにもならない叫び声をあげる強姦何犯、五河士道の完成だった。
「令音さん! 大丈夫ですか令音さん!!」
「……ぅ、ぁ……すま、ない……が……拭く、もの……を」
「俺がやりますから! ていうか俺がごめんなさい!!」
肩を揺すり令音の意識を戻してから、ウェットティッシュやハンカチで令音の顔にこびりついた我慢汁を拭う。……少々申し訳ないが、鼻孔も優しく拭き取る。
それからさらに申し訳ないがスカートとタイツと……ショーツを脱がし、大きめのタオルを巻かせてから令音を抱き抱え、優しくベッドに寝かせたところで、士道はようやく大きな息を吐いてベッドの端に顔を突っ伏した。
「……ほんと、ごめんなさい。こんなはずじゃ……なかったのに」
手に爪を立て、血が出んばかりに立て続ける。今回ばかりは、弁解の余地がない後悔が募る。
もっと、上手くできたはずだった。令音に断られたことだって、士道が言葉を重ねれば説得できたかもしれないのに。それを、士道のくだらない感情一つで台無しにした。これは士道の我が儘が生み出した、性的欲求にすら満たない愚かな行為。
男として、恋人を名乗るものとして。令音へ最低な仕打ちをした士道は、のろのろと立ち上がり声を発する。
「部屋、片付けて帰ります。さっき誘いは……全部、忘れてください。それじゃあ……」
立ち去ろうとした士道の服の袖が、掴まれた。
「……待ちたまえ」
「罵りなら受け付けます」
「……そうじゃあない。いつ使っても構わないと言ったはずだ。それに――――――デートをなかったことにされては、その……私としても、困ってしまう」
「え?」
振り向いた士道を目に光を戻した令音が出迎える。グッと上半身を起こした令音が、先の言動とは似ても似つかない理性的な、けれど令音にしては歯切れの悪い言葉を重ね始めた。
「……嫌だとは思っていないと、言ったじゃあないか。私は、
「え、でも……なら、なんで……」
あんなにも、理詰めで士道に相手を変えさせようとしたのか。
士道の疑問に令音は、不意に顔を背け、長い前髪で顔を隠すようにしてから、言った。
「――――恥ずかしかったんだ。好きな男……男の子にデートに誘われること自体、〝私〟には初めての経験だった。……この際だから断っておくが、〝私〟は君が思っているほど……君に尊敬されるほど経験が豊富ではな――――――」
言葉が途切れた。今度は、本物の恋人のように。
左手を令音の頬に添え、彼女の唇に士道の唇を重ね合わせる。
うっとりと溶けてしまいそうな、いつもとは違う別の快感。名残惜しく令音の唇から離れた士道は、たまらず彼女を抱きしめた――――思えば、逆は初めてのことだった。熱を帯びた令音の体温を感じながら、浮かされるように唇が言葉を紡ぐ。
「可愛い。可愛いです令音さん」
「……私に言うのなら、他の精霊に――――そう言えないくらいには、私も女を捨ててはいなかったらしい」
「それは?」
「……端的に言えば、すごく、嬉しい」
抱き返し、恥ずかしがるように士道の肩に顔を埋める令音。これは
令音の髪をそっと撫で、一時の幸せに浸る。ようやく、令音と恋人らしいことができている。彼女の心を、満たして満たされることができている。
たとえお互いに、霊力によって作られた感情だったとしても――――――堕ちた士道には、分不相応な幸せだった。
デート。
「…………」
デート。意味。日時や場所を定めて男女が会うこと。逢い引き。もしくは日付の意。この場合は圧倒的に前者の意味合い。
「………………」
表示したデータ類に目を通しながら、令音の思考はただ一つのことに支配されていた。正直、目を通しているかさえ怪しい。どちらかと言えば突き抜けて地面に視線を向けている可能性すらあった。端的に言えば、物を見ていない。
なぜ彼が。まず浮かび上がった疑問はそれだった。
令音と士道は恋人だ。それは、前提としてわかる。望んだのはどちらかなど問題ではなく、受け入れたのは令音だ。しかし、さらなる前提として二人の関係は
逢瀬でも興奮は得られるかもしれない。が、非効率だ。そして、対等な関係で彼の内側から生まれる令音への支配欲が満たされるとも思っていない。だから、恋人関係とはあくまで士道の罪悪感を和らげる建前でなければならなかったはずである。
「……ふむ」
その意味で、
時間が、欲しかった。そうとしか言えない。突如の誘いに、ありもしない言い訳を重ねた結果、士道に深い後悔を与えてしまった。いつもの性的興奮より、令音への支配欲だけが先行する状況は初めてのこと。いっそ令音を犯して使い潰してくれれば士道の気も和らいだのだろうが、屈服させたことで欲だけが解消されてしまった。
実のところ長々とした整理は必要なく、令音は初めから士道の誘いを受け入れるべきだったのだ。
「ハイ、令音」
そうしなかったのは令音のミス。
そうできなかったのは令音の感情。
合理的な判断を下せなかったのは、間違いなく令音の思考にある戸惑い。
まるで、『私』が〝彼〟に感じている絶対的な――――――
「……令音?」
なぜ彼が、なぜあの子が――――〝私〟をデートに誘ってくれたのか。
支配欲ではない。性的欲求でもない。ただ、男が女に好意を抱き、逢瀬に誘う一つの儀式。でも、それはおかしい。
「れーいーねー」
「……令音さーん? 村雨令音解析官ー?」
そして令音も。『私』ではなく、〝私〟が。単なる偽りの人格でしかなかったはずの村雨令音は――――――
「令音」
ぺち。叩く、というほどの勢いはなく。令音の頬に小さな手のひらの感触が広がったとき、ようやく令音は彼女が隣に降りてきていることに気がついた。
「……琴里?」
「画面。すごいことになってるわよ」
「……うん?」
小首を傾げ、琴里が指差す方、令音専用のコンソールから派生し、表示されたモニタを見やる。
「……あ」
そこには、思わず令音が声を零すほど意味不明な羅列がズラっと並んでいた。
しまった。よくよく見れば、それぞれの席に座るクルーたちまで令音の奇行に信じられない顔をしている。
「令音、疲れてるでしょ。疲れてるわね。疲れてるって選択肢以外ないわよね?」
「……そんなことは、ないよ?」
スっと視線を逸らし、言う。
実際、疲れてはいない。疲れを感じるような肉体構造を令音は持ち合わせていないのだ。
ただ、それを知るのは令音のみ。ここで否定し切るのはあまりにも人間らしくない。しかし、何かの拍子で士道の耳に入ってしまい気を遣わせるのも本意ではない。あくまで〈フラクシナス〉のクルーの中で完結することが理想の対応だ。
「嘘おっしゃい。普段の令音がこんなミスするわけないじゃない。まあ、こういう令音を見れて私としてはちょっと安心しちゃうけどね」
「――――おやおや。弊社のブラック体質を肯定とは。さすがは現役中学生五河琴里司令の言うことは違いますね」
と、そう艦橋の上から声を発したのは、琴里とそう変わらぬ背丈の少女。
〈フラクシナス〉管理AI『
「どこの誰がブラック体質よ。令音の負担は、脇目も振らず内職に精を出してるどっかの不真面目な部下連中に問題があるでしょうが」
「どこでそれをっ!?」
「ご、誤解です司令っ!!」
事実、終わらなかった仕事のためによく泣き付かれている令音としては、申し訳ないがクルーの悲鳴をフォローできそうにはない。
「無論、中津川や幹本の私用にも原因はあるのでしょうが、普段の令音にかかる負担は単純ながら問題があると私は考えていました」
「まあ……そうね。よし、休暇よ令音。現時刻を以て司令官命令。優秀な功績に有給を進呈するわ」
「…………」
神妙な顔で良い案だ、と何度も頷く琴里。現代社会人に喧嘩をふっかけているとしか思えない有給の生まれ方を見てしまった。
「……そういうわけにはいかないよ。私は先日、休暇を取ったばかりだ」
さすがに、通せないものには令音も首を振って対応する。真面目……比較的真面目に働く同僚がいるというのに、令音ばかりの贔屓は反感を買いかねない。
のだが。
「あ、いいですね。村雨解析官、どこか出かけるならお土産お願いします」
「オススメのスイーツとか期待しちゃいますねー」
「…………」
土産要求こそされはしたが、むしろ琴里の援護をされてしまった。見れば、クルー全員以下同文という顔をしている。
人の温かさを感じるべきか、逆に呆れを感じるべきか。そう迷った令音の肩を琴里がポンと叩いた。
「そんなに深く考えないで、私たちからのプレゼントって思ってちょうだい。もう数ヶ月は精霊や空間震の反応がなくて、封印した精霊たちの霊力も落ち着いてる。だから、あなたに休んでもらうなら今ってことなのよ」
「……しかしだね」
「心配しないの。ちゃんと司令官の私と優秀なAI様が不備なくあなたの休暇を作り出してあげるわ」
……それが問題だと言っているのだが。
ただ、令音が言って覆る状況ではなさそうな上に――――士道の喜ぶ顔を考えたとき、これ以上の否定ができないと令音は見切りの吐息を零した。
「……わかった。――――解析官、村雨令音は……〈フラクシナス〉全クルーの好意を受け取ろう」
「その旨を良しとする。――――ま、そのときが来たらまたビシバシ働いてもらうから、覚悟しときなさい」
ふふん、と司令官の笑みで咥えた飴の棒をピンと跳ねさせ、腕を組んで堂々たる姿勢を取る琴里に、令音はフッと唇の端を上げて――――――せっかくの休暇なら、活用しない手はないと携帯端末を取り出した。
「ん? 令音、何してるの?」
「……ああ、いや――――美容院を予約しておこうと思ってね」
――――ピシッ。
実際に鳴ったわけではないのだが、琴里が笑顔のまま固まってしまった気がして、令音は首を傾げた。
ともかく、今から休暇だというのなら善は急げ。ではね、と声をかけてフラ〜っと転送装置へ入る令音。
『――――ええええええええええええっ!?』
なぜだか、多種多様な声色の叫びが転移する令音の背に届いていた気がするが、まあ気のせいだろうと思った。
妙齢の女性が美容院へいくことに、そこまで驚かれることがあるわけがないだろう、と。
自分が普段どういう風に見られているのか、案外、その人にはわからないものだ。
色恋皆無の村雨解析官が、最近は様子がおかしく、その上休暇に美容院――――――そんな嵐を巻き起こして、村雨令音は『二度目』の――――――いや。
『一度目』のデートに、臨もうとしていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
天候よし。服装よし。持ち物よし。時間よし――――――全ての準備は、よし。
「…………」
ならばあとは、士道の高ぶった気持ちをどう鎮めるか。それとも、鎮める必要などないということか。
定番の駅前で待ち合わせ。スマートフォンには約束の時刻、その五分前が刻まれていた。ここでデートコースの最終確認……というわけにもいかない。
なぜかといえば、士道のスマートフォンは優秀な妹様の刺客がデータを盗み見るか改竄するか自由な選択肢があるからで。無論、そんなプライバシーのない機器に、士道がお忍びデートの予定をおいそれと書き込むわけにはいかないわけなのである。
「……大丈夫。大丈夫だ」
最終的には自己暗示。普段の士道から、精霊とのデートに望む士道を呼び起こす。今日の相手はそれほどの対象で、なおかつ士道の私情を受け入れてくれた女性なのだ。
今に思えば大それたことをした。大失敗もした。けれど、聖母のように優しい令音は士道の全てを受け入れてくれた。本当に、高嶺の花が士道の手中にあるようで、信じられない気持ちになる。
そして、
「――――シン」
それが夢ではなかったことが、目の前の光景によって証明される。
「……令音さん。本当に来てくれたんですね」
「……おかしなことを言うね。私が、君との約束を違えたことがあったかい?」
「誤魔化したことはありましたね」
「……それは誤解だよ、シン」
具合の悪い指摘に対し露骨に目を逸らした令音――――その出で立ちを、冗談で時間を稼いだ今こそ正面から見る。
色合いの良いTシャツとロングスカート。その上に白のロングシャツワンピースを着こなして。肩に下げた鞄からは、相変わらずツギハギなクマさんが士道へ挨拶していた。
そして、彼女自身のこと。必要のない伊達の眼鏡は仕舞われ、令音の女神のような端正な貌をよく見せてくれている。
日頃は煩わしげに纏められた銀髪を丁寧に編み込んで結い上げ、唇にはリップを引き、よく見れば令音の美貌を邪魔しない程度の化粧を施して――――自身の価値をわかっている女が、着飾った姿を一人の男にだけ見せる。
「――――綺麗です、令音さん。綺麗すぎて、見とれました」
自然と、言葉が零れ落ちていた。無意識の称賛は、令音の頬を仄かに赤く染めることができた、気がした。
「……そう、か。ふむ。そうなのか……うん。君の装いも素敵だよ、
「あ…………っ、ありがとう、ございます」
反撃のストレートは、想像以上に士道の心臓を撃ち抜いてくる。先日夜通しで考えた装いを褒め返され、頬が立派な赤みを主張し始めた。
「…………」
「…………」
沈黙。お互いの顔を見合わせ、褒め合い、眺める。何ともくすぐったい、だが心地のよい時間。
「……不思議だな」
「……うん?」
本当に不思議で、小首を傾げた令音へ士道は苦笑を向ける。
「いつもなら……いや、
ここには選択肢がない。士道が言葉を選び続けるしかない。士道だけの言葉で、愛おしさを感じる令音への言葉を並べる。
だが、意味のある言葉を伝えることが、こんなにも大変だと感じたのは初めてのことだった。
「……私も同じだよ。不思議な感覚だ……知っていたはずなのに、〝私〟が知らない感情が渦を巻いて言葉にできない。少し怖いくらいだ。まるで、これから私たちが――――――」
「――――戦争にでも行くみたい、ですか?」
考え、思い浮かんだ言葉を示し合わせたとき、二人は揃って笑い声を上げた。
「ふっ、あはははっ!」
「……ふっ、ふふふふ……」
戦争。それは聞き覚えがありすぎて、だけど士道と令音の関係には必要がなかったもの。
手を繋いで指を絡ませる。お互いの指と指を絡ませた、
「……さあ、私たちの――――〝私〟と〝君〟の
幕を開けよう。歪な繋がりを持つ、彼と彼女の
それから。
「令音さん令音さん。ほら見てください、子猫ですよ。可愛いですね」
「……にゃーん」
「いやあなたが可愛い」
変哲はないけれど。
「令音さん、ラズベリー駄目なんですね。苦手なもの、ちゃんとあったんですか……」
「……すっぱいじゃないか。刺激が強いものは、苦手なんだ」
「へぇー、覚えておきます。じゃあ俺の一口と交換しませんか?」
「……うむ。シン、あーん」
「!?」
甘く、穏やかで。
「あ、令音さん。この湯飲みよくないですか? ちょっと洒落てますよ」
「……ああ。悪くないね」
「よし。令音さんの接種物矯正のために、俺が買ってあげます」
「……君は、私の母親かね?」
「せめて男にしてくださいよ。じゃあ……俺はこれと同じのを
「……ふっ。では私も、
デートらしいデートの時間は、あっという間に過ぎ去っていった。
「――――映画面白かったですね! 二人が同時に変身するシーン、痺れたなぁ……」
「……ああ。陳腐な表現かもしれないが、造り手の愛が感じられる良い作品だった」
んーっと映画館から出て身体を伸ばし、令音と足並みを揃えながら映画の感想を口に出す。どうやら、令音から見ても大変好評のようだった。というのも、士道は少し意外だったのだ。
「けど、令音さんもこういうジャンル見るんですね。なんというか明るめ……いや、
本当はそれらしい映画を士道なりにリサーチしてきたのだが、映画館に入った令音が指で示したのはちょっとしたヒーローもの。よくいえば王道。悪くいえば、
悲劇や苦境を乗り越え手を取り合い打ち倒す。不変のお約束。令音が選んだのは、そんな映画だったのだ。
士道にもちろん不満はない。だが、純粋に令音に抱いていたイメージとは少し違うもので、そう聞いてしまいたくなったのだ。
疑問を受けた令音は、ふと表情に憂いの色を滲ませ、語る。
「……昔、悲しいものを視たことがある――――今でも、他人事には考えられないものを、〝私〟は知ってしまっている」
「っ……」
「……だからせめて――――決まってしまった物語の結末くらいは、幸福なものを観たいのかもしれないね」
――――悲しいものを視た。
そう言葉を紡いだ令音は、士道の持ち得る知識では言い表せない顔を見せていた。
それは令音にとって悲しく――――――今も彼女を苦しめる〝矛盾〟がある。士道には、なぜか思えてしまった。
「令音さ――――――」
何を口にしたのか。
「――――あれ、令音じゃない!?」
「え?」
それを伝えることなく。それを言いかけた士道さえも知ることはなく。
随分と親しげに令音を呼ぶ声がして、先に士道が振り返る。だが、そこに士道の知る顔はいなかった。数人、二十代くらいの女性たちが令音を驚いた顔で指差している。
令音の知り合いだろうか? と首を傾げた士道に、遅れて振り返った令音がコソッと耳元で囁く。
「……昔の学友だ。同じ部に所属していたね」
「あ、なるほど……令音さん、昔は学生だったんですね!?」
「……妙な言い方をするものだね。普通のことだろう」
昔の話だ、と。その令音の意味深な昔について問い詰めたいのは山々ではあったが、肝心の令音の元学友たちが足早に駆け寄ってきたため、士道は一歩引いて見届ける。
「久しぶりじゃん! 卒業してからどうしてたの?」
「……ああ、久しぶりだ。今は教師の真似事をしている。君たちは……ふむ、変わらないな」
「素直に老けたって言ったらどう!? 令音が変わらなすぎなの! 相変わらず吸血鬼みたいな顔……して?」
「え、令音がちゃんとメイクしてる!? 嘘でしょ!?」
「……私のことをどう思っているのか、非常にわかりやすく優秀な表現だね」
「…………」
仲睦まじい意外な姿と、聞いている限り学生時代の令音は今と大差ない印象のようだということと――――ちょっとした疎外感。
ただ、旧知の仲と再会したのだ。それも仕方がないことかもしれない。士道だけの、
「あれ、令音、
「――――――っ」
顔が歪みそうになるのを、すんでのところで堪え切った。
ああ、そうか。周りには、そう見えてしまうのか。どれだけの経験があろうと、令音の隣に立つために着飾ろうと――――――士道は単なる高校生で、令音には遠く及ばないのだ。
わかっていた。わかっていても、存外心にくるものだと。それでも当然だと割り切って、令音の知人に挨拶をするため姿勢を正した――――士道の腕を、令音が掴んだ。
「令音さん……?」
「…………」
目を丸くした士道へ、令音がフッと笑った。そして、
「……違うよ」
グイッと士道を引っ張ったかと思えば、その胸に士道の腕を大胆に当て、
「……彼は〝私〟の――――将来を誓った
超ド級の巨大爆弾を、落とした。
「え」
「きゃ――――」
――――きゃぁぁぁぁぁぁっ!
そんな黄色い歓声が、辺り一体に響き渡ったとか。
「……令音さんも、あんな突拍子のないことするんですね」
愚痴というほどでもないが、予想以上に早く令音と二人に戻れながら、寿命縮む思いをした士道はそう言葉を吐く。対して、令音は相変わらず起伏の薄い……が、楽しんでいるような顔で声を返した。
「……確かにスマートではなかったかもしれないが、効果的だったろう?」
「まあ、それは認めますし……嬉しくないわけじゃ、ないですけど」
質問攻めをされたが、その甲斐あって邪魔をしては悪いと令音の旧友たちは颯爽と去っていった。
士道に気を遣って考えてくれたことで、本当の将来ではない。だけど……士道の顔からは、なかなか熱が抜けてくれなかった。
「……気を悪くしないでくれたまえ」
「え?」
「……彼女たちに悪気はない。私の学生時代は色恋沙汰にとんと縁がなかったんだ。そのせいで、君に本意ではない顔をさせてしまったようだ」
「令音さん……」
眉根を下げ、なおも士道を気遣い続ける令音の姿に、士道は自分のことばかり考えている自分にため息を吐いた。
「ほんと……令音さん、優しすぎますよ」
「……そんなことはない。私は……とても、酷い女さ」
「令音さんがそう思っていても、俺にとっては素敵な人です――――ありがとうございます、令音さん」
「……流れを考えれば、今礼を述べるのは私の番ではなかったかい?」
「いいんですよ。俺が言いたくなったんだから、受け取ってください」
さっきのことだけじゃない。恩着せがましい一つの賛美では返せないほど、令音には色んなものを貰っている。
嗚呼、今日のデートは、そういうことなのかもしれない。令音自身への好意もある。だが一番には――――――彼女に心から、士道とのデートを楽しんでほしかった。
それはいつだって変わらない、五河士道がデートに懸ける信念なのだから。
故に、
「――――ぐ、お」
最悪のタイミングで、
「……シン?」
「っ……!!」
胸を抑え、立ち止まった士道を案じる令音の白い手が視界の端から伸びてきて――――それを自分の体液でドロドロに汚してやりたくなる。
間一髪、後退る。
「はっ、はっ……!!」
熱い、熱い熱い熱い。身体が、自分の欲の塊が熱い。
令音を見ていた目が変わる。愛おしさの意味が変わる。その着飾った美しい姿を、澄ました表情をドロドロに溶かして蹂躙したい。整えられた顔に、精液をぶちまけて彩ってやりたい。雌が屈服する最高のショーを、この手で――――――
「っ……ごめんなさい、令音さん!!」
もう、見ていられなかった。あんなに見ていたかった令音の美しい姿を、これ以上
返事も聞かず、振り返らず走り出す。デート途中に最悪の選択肢。だが、それを上回る最悪の選択肢を無くしてしまいたい。
ああ、どうしてこうなる。こうなってしまう。受け入れると言った。何度も受け入れようと思った。だけど、
「はぁ、はぁっ! く……ぅぅっ!!」
走って、どこかの適当な建物に入り、トイレの個室にまで辿り着き、ドアを締め切る。
熱い。熱さで、どうにかなっている。どれだけ唇を噛んでも唾液が滴り、士道のズボンに収まり切らない肉棒が大きく脈動を繰り返す。
なんで、なんでなんで。こうならないために、デートの数日前には処理してもらっていたのに。どうして、どうして、どうして――――――
『あれ、令音、
「――――――――」
目を見開き、自身の欲の醜さに愕然とした。それから、目尻に涙を浮かべてまで士道は壁に向かって頭を突いて歯を食いしばった。
「それ……ならっ!!」
まだ耐えられる。獰猛な笑みを浮かべて、
支配欲だけなら、耐えられるはずだ。事実、令音に対して独占欲を抱いたあの日、士道は令音を屈服させるだけで気を済ませた。性欲の促進とは言うが、こうして単純な支配欲だけで解消されるようなら、まだ士道は士道でいられる。
――――無駄な足掻きだ。そう、士道の中の欲が告げていた。逃げられはしないと。おまえはおまえからの目を背けられないのだと。
それでも抗った。せめて、今日だけは、あの人に優しい思い出を抱いて終わってほしいと願った。
コンコン。そんなノックが響いたのは、そのとき。
「……っ!!」
こんな忙しいときに誰だ。扉を憎たらしく睨み、無視を貫いてやろうとした士道を――――――
「……シン。私だ」
「!?」
動かしたのは、彼女の声。ガチャ! と荒々しく鍵を開け扉を開き、彼女の顔を見ることもせずその腕を掴んで個室に引きずり込む。
一人用の男子トイレの個室に二人。些か狭苦しい。しかも、否が応でも密着しなければならない。もちろん
「何、してるんですか……ここ、男子トイレですよ……っ!?」
「……緊急事態だ。倫理と常識より優先するものがあると判断した」
「馬鹿、なんですか令音さんは……!? 早く、俺から離れて……っ!!」
離そうとはしない。絶対に逃がすまいと、己の所有物の人権を決して手放しはしない。でも、令音ならできるはずだ。
早く逃げろ。早く見捨てろ。自分の身だけを優先して、欲だけを満たそうとする哀れなケモノから離れて――――――それを
唐突にスカートを捲り上げ、令音はその中に手を突っ込んだ。
「………………は?」
さしもの
「なに、して……」
「…………」
全く令音らしくない――――
「っ、っ、っ!!」
今日のために用意された、普段の令音が決して着用することはないような派手目の下着。さっきまで彼女の恥部を隠していたそれは、インモラルな情を抱かせる温かさを士道の手の中に与える。そして僅かに着いた銀の恥毛が――――塞き止められていたものが、弾け飛んだ。
「……シン、これを」
「?」
もう一つ手に握らせられたのは、鞄の中から――クマのぬいぐるみの顔は見えない――取り出された、小さな玩具のような物体だった。
それを手にした瞬間、士道の脳に
「……震えろ。そう念じてみるといい」
「え……うわっ!?」
ブブブブブッ! と、小さくも激しい音を鳴らして振動し始めたそれに驚き、思わず手放してしまう。華麗にその玩具を拾い上げた令音が、声を発する。
「……超小型の
「な、なんつー超技術の無駄遣い……」
さしもの士道も頬をぴくつかせ……彼女の言わんとしていることを悟る。
小型の振動機。スカートの下には何も履いていない令音。ここまでされて答えが出ないほど――――――どちらの士道も、ピュアではなかった。
「……さあ、これを君はどうしたい?」
「っ……」
「……
それは、士道を背徳の道へ引きずり込む合言葉。
耳元で囁かれる。甘美で、淫らな声音。倒錯的で背徳の味。
「……君は
「……俺、は……」
「……そして私は……〝私〟もそうだ。君が望む限り――――――君に見せる〝私〟は、
君の欲を叶える、淫らでいやしい女。
そっとローターを握らせ、気づけば唾液を滴らせる音を士道の鼓膜に這わせた令音が――――――
「……いやらしいあなた様だけのおちんぽ雌奴隷、村雨令音を♡羞恥に歪ませて、たっぷり調教してください……っ♡♡」
自らを、深い欲望の沼に溺れさせた。
「あれ? 村雨先生、今日はお弁当ですか。わー……綺麗な飾り付けですねー」
「……ええ。…………私の恋人が、好意で」
「ぐはぁっ!?」
「……岡峰先生?」
こんな一幕が前回と今回の間にあったとかなかったとか。
俺が本気出せばクーデれーねさんとのイチャラブを書くくらい御茶の子さいさいなんだな、これがぁ!!!!(全力出して疲弊した上に甘すぎて自分で吐きそうになった)
羞恥心を芽生えさせてデレるとこんな感じかなって……あくまで『令音』ですが。
純粋な愛の物語と見るか。それとも贋作同士の歪な恋人ごっこと見るか。私は……さぁて、どうでしょう?
デート・ア・ライブですからね。デートくらい書きます。そのまま綺麗に終わると思った?ざぁんねんでしたぁ!ってやつですが。正直デートまでの積み上げに力入れて死にそうだった。やっぱエロシーンが脳死で性癖詰め込めて楽説はガチ。まあ今回乗り越えれば基本的にエロ中心になる予定なので……。
あれだけ高潔で意志の強い少年が、自分から発せられた欲望で雌を犯すケモノになる。それを止められない自分を、彼は殺したくなる。……ああ、ほんっと、最高。私、重点的に書くキャラには平等ですよ。どんなものでもね。
必ずこの時間より前に完成するわけではないので、モチベには高評価と感想とお気に入りが効きます。全てが私の武器になります。どうか皆様の清き一票をー!(?)そして評価、感想、お気に入り、誠に感謝の極み……!!その分頑張らせていただきます!
ではでは、また次回〜
クール美人をお外で羞恥プレイって、素敵だよね。