※この作品はR-18です。

デート・ア・ライブ 令音アビス   作:いかじゅん

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前話の裏時系列。琴里&美九リクエスト回。何か考えてたのと違うな……?






30話(琴里、美九)

「琴里さぁぁぁぁぁぁぁんっ! 今日は二人で朝まで語らいましょー♡」

「寝る」

「ホワァァァァァァァァァァイ!?」

 

 ……逐一のリアクションが大きいのは、常にそうであるのか、琴里を手中に――収められたわけではないが――収めたからなのか。

 はぁ、と琴里はため息を零す。焼きが回ったとは、まさにこのことを指すための言葉であろう。

 だだっ広い寝室。天蓋付きのキングサイズベッド。少女二人どころか、大人二人でも余裕の尺度であるそれは、もう何の目的かは一目でわかる。

 それが百合っ子アイドル、誘宵美九の自宅となれば尚更だ。

 

「……なんでこうなったのかしら」

「ふふー、こ・と・り・さーん♡」

「ああもう! 暑苦しいからくっつかないで」

 

 主に胸が。艶やかな化粧着の上からたゆんたゆんと自己主張をし、琴里の横面に押し付けられる憎き脂肪の塊が。年の差があるとはいえ、世界はこうも残酷なのかと嘆きたくなる。

 無理やり押し返せば、美九がいじけたように膨れっ面で声を発した。

 

「あぁん、琴里さんのいけずぅ。せっかく二人っきりなんですから楽しみましょうよー。どうしてもって言ったのは琴里さんじゃないですかー」

「記憶を改変しない。私が言ったのは『今日一日だけ』って約束よ」

 

 本来であれば、美九の部屋にホイホイと連れ込まれて、この部屋の使用用途に沿ってしまうようなことは琴里とてしたくない。

 

「うふふ、わかってますよぉ。琴里さんは優しいですねー」

「私は、私のやるべきことをしてるだけ。あなたの誘いを断り続けて、あなたの霊力を不安定にしないための措置よ」

 

 そう。美九との泊まりを引き受けたのは、純粋な〈ラタトスク〉としての使命感。

 普段は士道の役目としてあるそれは、美九の願いの矛先が琴里に絞られた時には、当然琴里が受け持つ他ない。司令官とは、士道に責任を押し付ける役割ではなく、いざと言う時は彼と同じように自らで事に当たる立場。……まあ、やることは女子のお泊まり会でしかないのだけれど。

 

「おー、琴里さんってばクールビューティーですぅ」

「歳の割に、あなたに落ち着きがないだけよ」

「そういう厳しいところもいいですぅ!」

「…………」

 

 何言っても効かないわねこの子、と琴里は呆れた目で頬に両手を当て身悶えする美九を見やる。

 これがあの(・・)誘宵美九というのは、世の中の真理は残酷だ。それがいい、とファンは言うのかもしれないけれど。

 すると、至極リラックスしてベッドに座る琴里を見て、小首を傾げた美九が近寄って――――――吐息を耳元に当てた。

 

「ふー♡」

「ひぇ……っ!? い、いきなり何するのよ!」

 

 全身が波を打つようなこそばゆさ。美九の凄まじい声音は、言語ではなく吐息でも健在だった。

 ただ、いつもとは違う(・・・・・・・)琴里の反応に、美九は不思議そうにまた紫紺の髪を斜めにした。

 

「あれー? 琴里さん、何だかいつもと反応が違うような……?」

「……気のせいよ。じゃあ、私は寝るからね」

「あー! 待ってくださいよぉー」

 

 無駄に荘厳で無駄にふかふかなベッドに寝転がり、美九に背を向けて目を閉じる。少々と不格好だが、今日ばかりは黒リボンで髪を括ったままで寝させてもらう。

 ――――美九の感覚が気のせい、ではないことは琴里が一番よく知っている。

 聴覚異常。鋭敏になった琴里の聴覚は、根本の原因である美九の〝声〟に過剰な反応を示す。二人きりになるなど、彼女の玩具になると宣言しているようなものだった。

 そこで一策を講じた――――大それたものではなく、令音が作り出した薬による効果抑制なのだが。

 美九の声という一点に絞られたそれは、一日程度ではあるが琴里から過剰反応を消し去ってくれていた。今は美九の声を聴いても多少(・・)気分が昂り、高揚する程度で済んでいる。

 これなら今日一日は乗り越えられそうだ――――安堵の息を吐いた琴里の身体が、柔らかいものに包まれた。

 

「……ちょっと」

「うふふー、捕まえましたー」

 

 当然、美九だった。長身でスタイルがいい美九が、小柄で貧相……発展途上の琴里の身体を後ろから抱き締めている。

 薄布一枚を隔てた美九の肢体が、それよりは厚いとはいえ薄布な寝巻きの琴里の肢体に熱を伝えてくる。

 

「…………手は出さない。って約束したわよね?」

 

 訓練で得た己の精神状態をコントロールする術を駆使し、燃え広がりかけた情欲の炎(・・・・)を沈め、美九に牽制の声を向ける。

 

「はい、わかってますよぉ。けどぉ……こうして女の子同士で抱き合って眠るくらいは、普通(・・)じゃないですかー」

「――――そう、ね。普通……かしら」

 

 ――――脳髄に染み渡る、美九の音色が琴里の意識を侵食する。

 普通。こうすることは、普通。少女が二人で添い寝をすることは、一般的なこと。

 

「しかたない、わね。今日、だけよ……?」

「はい。安心してください――――私が、子守歌を歌ってあげますよー」

 

 ――――肺腑を満たす、従うべき者への充実感。

 気を張りすぎていたからだろうか。美九に抱き締められた途端、抗いようのない微睡みが琴里に襲いかかってくる。

 背中を撫でり撫でり、頭を撫でり撫でり。美九の綿密な指使いが、琴里の意識を鎮めていった。

 

「じゅーう、きゅーう、はーち、なーな♡」

「……それ、子守歌じゃ、な……い……」

「ろーく♡ ごーお♡」

 

 話を聞くつもりはないようで、絶えず琴里の耳には美九のカウントダウンが入り込む。鼓膜を震わせる、まるで羊を数えるような美九の声。

 リズムに合わせて手が撫でり、歌を歌うように数字が鳴る。

 

「いーち♡ ぜーろ♡ ――――じゅーう♡」

「……っ♡」

 

 身体が跳ねた。ような気がする――――――実際には琴里の身体は逆の行動を示していた。

 力が抜けていく。何かをしようという気にならない。自分の思考が抜け落ちて、睡眠ともまた違う感覚を――――――思考ができたのは、ここまで。

 

「……み、く……やめ、て……♡」

「よーん♡ さーん♡ にーい♡ いち♡ ――――ぜろ♡」

「――――――――――――――――ぁ」

 

 瞬間、琴里は存在を犯される(・・・・)感覚と共に、沈んだ。

 

 

 

 

 

「……琴里さん? こーとーりーさーん」

「………………」

 

 返事がない。美九に抱かれた琴里は、しかし寝入っているというには不自然な静まりを見せている。

 脱力しきった肢体。寝息は薄く、しかし返事が返されるわけでもない――――妖艶に微笑んだ美九は、指示(・・)を下す。

 

「琴里さん、こっちを向いてくれますか(・・・・・・・・・・・・)

「――――うん」

 

 驚くほど従順に、琴里は寝返りを打つ。

 その顔は、先ほどまでの警戒心に満ちたものとは真逆。艶やかなる、淫靡な貌。虚ろな目がとろんと独特の波を打ち、高揚を見せる頬。可愛らしい少女が、美九の目の前に転がされている。

 

「ふ、ふふふ――――も、もしかして、本当に成功しちゃいました……?」

 

 が、逆に美九は焦った。催眠状態(・・・・)の琴里の頬を軽く叩きながら、滝のような汗が流れていることを自覚する。

 本当に、出来心だった。今日は琴里との添い寝で満足しよう。過去の教訓から、意志を捻じ曲げてまで琴里を手に入れるつもりがなかったからこそ、そう考えいた。

 単純な思いつき。〈破軍歌姫(ガブリエル)〉の〝声〟に慣れ親しんでいた美九にとって、どうすれば相手に強く〝声〟を働きかけられるかは感覚で理解ができて当然。それが琴里のような美九の〝声〟にダイレクトな性的反応(・・・・)を示すとなれば、難しいことではない。

 しかし、催眠状態にまでスムーズに落とし込めるとは考えていなかった。いつもの反応を見せてくれない琴里に、少し意地悪をしてみようと魔が差したとしか言いようがない。

 

「……うーん。けど、昔の私と同じことはしたくないんですよねぇ」

「……ん、ん♡」

 

 独りごちた美九の声に、琴里が熱っぽく身動ぎをする。可愛い寝巻きがズレて、琴里の幼い生肌が露出し――――美九の理性を焼く。

 

「…………こ、これはぁ」

 

 困ったことになってしまった。たらりと汗を流し、己の中に芽生えた葛藤と戦う。

 ――――昔の美九は、それはもう酷いものだった。

 人に絶望し、信じられなくなり、少女を物のように扱う。支配は当然。代わりは幾らでも。そんな歪み切った価値観を変えてくれたのは、誰でもない士道と精霊の皆だ。

 だから美九は、琴里が〝声〟に反応するとわかっていても、性的な戯れの範囲に留めていた。価値観を正されたとはいえ、美九の女の子好きは治っていない。そのため、枷を外され行き過ぎたところはある。それでも、琴里が戻れる(・・・)範囲にセーブしていたのだ。

 

「琴里、さん」

「……なに?」

 

 だが今、美九の前には無防備な琴里(可愛い少女)が転がされている。想像の通りであれば、美九の〝声〟だけを聞くようになった琴里が。

 これは何も、〈破軍歌姫(ガブリエル)〉のように都合のいい力ではない。琴里だから条件が整っていた――――美九が〝好き〟だと言ったことが、嘘偽りでないからこそ成り立つこと。精神の一番深い場所(・・・・・・・・・)を美九に明け渡した状態。

 

「っ……♡」

 

 ある種、それは信頼。美九を信じ、建前を使ってまで美九の願いを叶えてくれた琴里からの信頼感。或いは、枷が外された少女同士の好意(・・)がもたらす異常現象。

 躊躇いを持ちながら、美九は得も言えぬ背徳感に支配される。少女を好きに出来る欲望と、従うだけの人形は求めていない矛盾。今すぐ琴里に〝声〟を届けて、美九のモノにしてしまうのは簡単だ。けれど、それでは以前の美九と何も変わらない。

 

私からは(・・・・)、手を出さないって約束ですからねー♡」

 

 それを破ってしまうことは容易い。〝声〟を使って、琴里に言わせてしまえばいい。

 だが、やはりそれは〈破軍歌姫(ガブリエル)〉と変わらない。美九と琴里の間に愛のない行為というのは、少々と風情に欠ける――――愛があるからこそ、催眠状態に入っているのではあるけれど。

 だから美九は、琴里の耳元に三つ(・・)の言葉を紡いだ。

 

「琴里さん、琴里さん。あなたの身体は――――――――――――」

「ん……わかった♡」

 

 琴里の深い部分に刻まれた美九の言葉。恐らく、霊力の暴走によって無茶苦茶な願いでも叶えられてしまうのだろう。

美九は何もしない(・・・・・・・・)。ただ、琴里にしてもらう(・・・・・・・・)

 意志の強い琴里が、果たしてこの暗示にどのような行動を示すのか――――抗えない欲望に、美九は恍惚な笑みを浮かべながら琴里と微睡みに沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「…………っ♡」

「……琴里?」

「ん♡ な、なんでもないわ……」

 

 なんでもない、わけがない。司令席に座りながら、艶っぽく呻く姿はさぞ滑稽なものだろうと苦笑する。

 人数を最小限にしているため、隣に立つ令音以外には悟られていないだろうが、身体を蝕む火照り(・・・)は琴里の精神を激しく締め付けていた。

 今朝からおかしい。美九の自宅から何事もなく帰れたことへの疑問を感じながらも、本当に何もなかった(・・・・・・・・・)琴里は軍服を纏い〈フラクシナス〉での業務に勤しんで――――この火照りに司令席で身動ぎをしていた。

 

「……無理は禁物だ。今日は君が――――」

「平気だってば! ……私だって、そこまで野暮じゃないわ」

 

譲る(・・)令音に断りを入れ、作った笑顔を向ける。その起伏の薄い表情に琴里を案じるものがあることは理解している。が、だからといって琴里の欲求不満に令音の大事な時間を巻き込みたくはない。

 ――――今日の夜は、士道と令音の時間。

 権利は平等で、争うことはない。それは皆が理解していながらも、やはり士道にとって令音は特別なのだという理解もあった。だからこそ気遣って遠慮させないよう、最大限の助力は忘れない。

 ただ、このムラムラ(・・・・)した情欲が琴里を苛立たせているのは事実である。薬で美九の声を耐えた副作用かもしれない。少しくらいなら、我が儘を言って構わないだろうと琴里は小声で頼み事を伝えた。

 

「このくらいなら、自分で何とかできるわ。――――そ、その代わり、今日はうちで(・・・)シてもらってもいいかしら」

「…………了解した」

 

 ……互いの声に、恥ずかしさが乗るのは仕方がない。琴里の言動がどれだけの意味を持ち、どれだけはしたないかも理解はしている。

 琴里が何を望んだのかと言えば――――――

 

 

 

『――――あぁっ♡ しどうっ!♡♡』

『令音さん……っ!』

「……ヤッてる、わね」

 

オカズ(・・・)を望んだ。自慰行為、今さら恥もなく言うのならオナニー用のオカズ(・・・・・・・・・)を令音に求めておいた。

 聴覚鋭敏を患う琴里は、家の中での情事であれば細かく聞き取れる。というより、琴里の聴覚はそういうこと(・・・・・)に特化して聞き取れるように変質した、という解釈が正しいか。

 

『さあ、令音さん。俺の可愛い奴隷さんは、今日何をしてほしいですか?』

『……正面から、激しくしてほしいかな♡ 私の全部を、みてくれ♡♡』

「ふーっ♡ ふーっ♡」

 

 一語一句、聞き逃すことはない。どういう体位、どういうプレイをしているかが容易く頭に浮かび上がる。

 二人の艶声が届くベッドの上で、琴里も遠慮なくソロ(・・)行為を始めた。着替え前提の寝巻きをまさぐり、勃起しきった乳首とクリトリスを剥き出しにして発情した秘部に手を付ける。

 

「あひっ!♡♡ ふぅ♡ ふぅ……♡ ホントに今日は、散々困らせてくれたわね♡♡」

 

 仕事中、イライラして仕方がなかった。全身が熱を持って、感覚は上りきらない、例えるなら寸止め(・・・)の状態を維持されていた。腹立たしさに、性感帯を弄りながら身体に愚痴を零すのもやむなしだ。

 だが、この極上のオカズが待っているとなれば耐えられた。恥を忍んで令音に頼んだのだから、琴里も存分に楽しまねばならない。

 

「はぁっ♡ あ……♡ もっと♡ もっと♡♡」

 

 壁越しからの喘ぎと、自分の身体の水音。整えられた最高の舞台に、琴里の指は激しさを纏う。

 ブラの下でずっと主張していた乳首を転がしてやり、待ちに待った快楽を楽しませる。陰裂が開いた膣口を強く擦り、剥き出しの陰核を指で摘み上げる。

 

「くひぃっ!♡♡ これ……い、いっ♡♡ クリトリスきもちいい♡♡ 士道と令音のセックスオナニーたまらないの♡♡」

 

 オナニーに恥はない。散々と焦らされ、理性が外れた琴里を止めるものなどいない。普段は自制を呼びかける理性も、恥と思う相手がいないのではあれば構わない――――己への恥は、この快楽の前に溶けて消える。

 

『……あ゛っ♡ イクッ♡ 士道のおちんぽ様に突かれてイクッ♡♡』

「わ、私も……っ!♡♡ あひっ♡ はっ♡ いくっ♡ いくいくいく……っ♡♡」

 

 迫り来る絶対的な快楽、絶頂。スパートをかけられた令音の声に合わせて、仰向けに寝転がる琴里の腰も浮き上がる。

 股間部をぐしょ濡れにしながら指が荒ぶる。飛沫を上げ、激しく痙攣した腰が突き出されて品のない格好で絶頂を待ち構えていた。

 そして、

 

『っ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!♡♡』

「ひぁっ!♡ あぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ぁ?♡♡」

 

 令音は最高の快楽を享受し――――琴里は、絶頂が通り過ぎた(・・・・・・・・)

 

「な……なにこれ♡ な、なんでイケないのよ!♡ なんで、なんでぇ♡♡」

 

 気持ちいい。気持ちいい。それは変わらない。快楽は琴里の身体を巡り、耳を犯す嬌声は続いている。だが、その快楽が弾けない(・・・・)

 

「あぁっ♡ あぁぁぁぁぁぁぁっ!♡♡」

 

 両手を下着の中に差し込み、いよいよプライドの全てを捨てた膣内を掻き回す手淫を行う。

 愛液が吐き出され、ドロドロの蜜が琴里の寝巻きを、ベッドを汚し、あちこちに飛び散る。快楽が渦を巻き、琴里の脳に信号を灯して――――イケない(・・・・)

 

「いやぁ♡ いやぁぁぁぁぁぁぁっ!♡♡」

 

 気持ちのいいことを覚えた。琴里が如何に自制心を持ち、精神が強いと言っても未成熟な子供だ。

 覚えたての快楽。人の身では味わえない絶なる果実。それを徹底的に覚え込まされた琴里は、その絶頂がどれほど自分にとって必要なものかを知っている。

 それを、封じ込められている。快楽が巡り、頂点に到達する。その瞬間、頂点に達した快楽が押し返される(・・・・・・)。厄介なことに、その快楽は押し返されただけ。解消されることはなく、再び快感は絶頂へと達しようとして――――――

 

「イグッ♡♡ イ゛ぐっ!♡♡ ――――イカせてよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!♡♡」

 

 決して、辿り着けない。最高に気持ちのいい瞬間、その手前の気持ちよさを維持され続ける。常人にとっては百の絶頂より凄まじいそれも、琴里にとっては最上級の絶頂を焦らされているのと変わらない。

 

「ああああああああぁぁぁっ♡♡ はひっ♡ はひっ♡♡」

 

 情けなく涙を流し、狂乱のうちに引き出しからあるものを取り出し乱雑に電源を入れる。

 琴里の手に収まりきらない振動する玩具。特注品(・・・)の電動マッサージ器、もとい電動バイブを股間部に押し付けた。

 

「おほぉぉぉぉぉぉぉっ♡ 私のおまんこブルブル震えてきもちいぃぃぃぃぃっ♡♡」

 

 今、姿見鏡を見たら酷い有様が映っているだろう。

 電動バイブを掲げた股間部に押し当て、淫語混じりに舌を突き出して目をイカせる恥行為で絶頂を得ようとする変態。こんな姿、士道どころか令音にすら見せられない。

 何かがおかしい。ここまでタガが外れたことは、限界まで追い込まされる士道の前でもありえなかった(・・・・・・・)。それを考えたいのに、思考は絶頂以外を浮かばせてはくれなかった。

 

「おっ♡ おおぉぉぉぉぉぉ……っ!♡ だ、め♡♡」

 

 それでも、イケない。薄布ですらもどかしいとずぶ濡れの寝巻きを脱ぎ捨て、股間部に押し付けながら足でさらにバイブの先端を入れ込む。用途を超え、半ば膣穴にくい込んだ最大級の振動が琴里のマンコを刺激する。

 イケない。絶対に、絶頂までは辿り着けない。

 

「……たすけてぇ♡ だれかぁ♡ だれかぁ……っ!♡♡」

 

 頭がおかしくなる。先ほどまで荒々しく活動していた身体から力が抜けて、バイブの振動を受け入れるだけの肢体に生まれ変わる。動くことが無駄だと、悟ったかのように。

 ――――それ故に、一抹の思考。この異常の原因は何か。誰か(・・)

 

「――――み、く……っ!!♡♡」

 

 容易に、知れる。他に誰がいる。琴里の身体を、思考をこんな淫らなものに作り替えられる者はそういない。

 美九の家に泊まり、美九と眠りについた。朝は何事もなく朝食を食べて、二度目はないわよと釘を指して別れた――――その間に、必ず(・・)何かがあったはずだ。

 

「く、ふっ♡ ふーっ♡ ふーっ♡ ふーっ!♡♡」

 

 やるべきことを見つけ、起き上がる身体。だが、秘部を隠す目的ではなくまさぐる(・・・・)ために両手を股間部に設え、全裸で部屋を歩く琴里は滑稽でなければ欲に溺れた変態(・・)だろう。

 

「こ、の……っ!♡ 今日という今日は、絶対許さないんだから……っ♡♡」

 

 部屋の壁に拳を叩きつけ、扉を開く(・・・・)

 『孔』。琴里の部屋には、士道の手である実験が行われた結果がこうして残っている。それは、〈|封解主〉による出入口を不自由なく維持し、他者の手(・・・・)で開くことができるかという内容だ。

 これがあれば、美九や折紙、二亜のように自宅から距離がある精霊たちがこちらへ移動する手間を省略できる。無論、これはあくまで試験段階であり一方通行だ。中には、その時間の手間を楽しみたい子もいるだろう――――そういうものは、今の琴里にはどうでもいい。

 

「美九っ♡♡ みくっ♡♡」

 

 指に愛液を絡ませ、美九の名を呼びながら扉を潜る。琴里は問い詰めるための行動と思っているが、傍から見れば異なる解釈が丸裸にされることだろう。

 どうでもいい。今は、美九に会いたい。美九に会って、この燻る快感を元に戻してもらいたい――――――士道と令音に頼る選択肢は、不自然なまでに排されていた。

 

 心のどこかで、美九に頼ることを望んだ(・・・)琴里が、いる気がした。

 

 

「ふーっ!♡ ふぐぅぅぅぅぅぅぅっ!?♡♡」

 

 『孔』から吐き出された琴里を、二十畳ほどの広さの部屋が迎え入れた。瞬間、琴里の鼻腔から脳に美九の臭い(・・・・・)が染み込み、激しい勢いで倒れ込んでしまう。

 

「あっ♡ あへっ♡♡ あぁぁぁぁぁぁぁ……♡♡」

 

 立ち上がろうとして、両手が秘部を掻きむしって止まらない。無心で、ではなく情欲に呑まれた腕が言うことを聞かない。

 そこへ、一人の少女が影をさすように現れた――――美九。少女は高校のセーラー服を身に纏い、ニコリと琴里へ言葉をかける。

 

「こんばんはー♡ 琴里さん、そんな可愛らしいお姿で私の部屋に来たらダメですよぉー♡ 可愛すぎて、襲っちゃいそうですぅ(・・・・・・・・・・)♡♡」

「お゛っ゛♡♡ ぐ、ぎ……っ゛♡♡」

 

 喰われる。頭が割れる。美九が発する言葉、その一つ一つが琴里の脳髄を焼き、支配し、服従を促す。

 五河琴里の脳は知っているのだ。誘宵美九の〝声〟がどれだけ気持ちいいものかを。普段、人の上に立つ琴里が従わされる(・・・・・)快楽を――――ふざけるな。そんな安い女であってなるものかと、琴里はキッと美九を睨みつけた。

 

「美九っ!♡ あなたどういうつもり!?♡♡ 私の身体に、何をしたの……っ!♡♡」

「うふふ。どんなに凄まれても、私のお部屋でオナニーしちゃう変態さんなんて怖くありませんよー♡」

「く……み、くぅ!♡ 早く答えなさい!♡♡ 事と次第によってはあなたでも……っ!!♡♡」

 

 話している間にも、琴里の指は加速度的に膣内を貪り尽くす。放っておけば腕ごと突き入れかねない性欲の波、そして受け答えの度に頭を焼く美九の声を前にして、琴里に相手を気遣う余裕などなかった。

 そんな琴里が、余裕の仮面を被った美九に敵うはずがない。

 

「在り来りな台詞、って感じですねー。そういう余裕のない琴里さんも素敵ですよぉ♡ ――――今、どれくらい気持ちいいですかぁ?♡」

「な……――――大好きな美九の部屋きて♡ 全裸でオナニーするの、すごくきもちいい♡ はやくイカせて!♡♡ ――――は、?」

 

 ――――今の雌は、誰の声だ?

 一人しか、いない。琴里しかいない。美九の問いかけに、余計なものまで付け足して答え切った五河琴里しかいない。

 美九という大好きな少女(・・・・・・)に見下ろされ、あまつさえ恥辱を晒してオナニー実況をしてしまった琴里の嬌声だった。

 

「な、なに? 美九、あなた何を――――」

「――――琴里さんが悪いんですよー」

 

 それは、寒気がするほどの笑み。

 かつての誘宵美九。微笑みという武器を凄絶に歪め、少女をモノ(・・)のように扱う精霊の姿を琴里は幻視した。

 

「私の〝声〟を聴いたのに、平気な顔で冷たいこと口にして……そしたら、ちょっと意地悪したくなるのは仕方がないと思いませんか? ――――私たち、こんなにお互いを(・・・・)想い合ってるじゃないですかぁ♡♡」

「美九、あなた……」

 

 ――――勘違いしていた。

 琴里は、自分にしか影響がないと思っていた。美九の〝声〟が琴里に影響を及ぼし、その結果として美九が気まぐれに弄んでくるものだと。

 

「ふ、ふふふ。うふふふ♡ わかってますよ? 琴里さんは私のモノじゃないってことくらい。私は、前みたいに女の子をモノとして扱いたいわけじゃありませんから――――――けど、大好きな琴里さん(・・・・・・・・)に意地悪されたら、どうしても仕返しがしたくなっちゃったんですー♡」

「っ、っ♡ み、みく♡ ダメよ、あなた……っ!♡♡」

 

 違う。呑まれているのはお互い様(・・・・)だ。琴里は美九に、美九は琴里に。元々の好意が、異常なほどに増幅させられている。

 理由なんてない。ただあの日、美九が琴里を見定めて、琴里は美九に変えられた。互いに少なくない好意があれば、あとは強引にでも引き上げてしまうのが霊力の暴走。

 ガタガタと震える身体を無理に引きずって、起き上がって後退る。膣内で遊ぶ指の動きは止めず、下半身の力で美九から離れようとする。無様で滑稽で、ここが美九の部屋である以上、退路など存在しないとわかっていながらだ。

 

「何がダメなんですか?♡ 好き合うことは、とっても素敵なことじゃないですかぁ♡」

「こ、来ないで……お願い……っ!♡♡」

 

 美九の『おねがい』が琴里に効くことはあっても、この状況で琴里の『おねがい』が効くことなどありえない。

 壁際まで追いやられ、膝を床に寝かせて琴里に被さる美九が、オナニーに耽っていた両手を捻り上げた。

 

「あ……っ!♡♡ 〜〜〜〜〜っ!?♡♡」

 

 刺激がなくなった瞬間、琴里の身体を駆け抜ける痒み(・・)。供給がなければ死んでしまうものを、目の前で取り上げられたような異常感覚が襲いかかってくる。

 

「はぁっ♡ や、やめ、離し、て♡♡ これ、むり♡ もうむりなの♡♡」

「えへ、えへへー♡ そんなに辛いですかぁ? 辛いですよねー――――私が〝いい〟って言うまで、絶対にイケませんよ♡♡」

「あ――――――」

 

 答えを聞かされ、琴里の頭が真っ白になる。

 そうだとわかっていた。予測していた。けれど、いざ揺蕩う絶美の笑みを前に、その答えを聞かされた瞬間、絶望が琴里の心を打ち砕いた。

生殺与奪の(最高の絶頂に至る)権利を、美九という琴里の支配者に握られてしまったことは、反抗の意志すら絞め殺されたように感じられる。

 銀の色を宿した瞳に、己の真紅が映り込む――――それは、屈伏の色をしていた。

 

「『欲求不満でいること』、『気持ちいいことはちゃんと口にすること』、『私の許可なく絶頂は禁止』――――だーりんの気持ち、ホントの意味で理解できましたー♡ たったこれだけのことで、大好きな人をいじめられるの、堪らないですよぉ♡」

「……………………何よ、それ」

 

 そんな方法で琴里を貶めて、楽しいのか――――楽しいだろうとも。

 琴里は被虐的な願望を持つ変態だ。そう変えられてしまった。けれど、こんなやり方は認めたくない(・・・・・・)

 

「私は、そんなあなたのことなんか――――――」

「――――――――」

 

 そんな身勝手な愛を振りかざす誘宵美九を、悲しげに微笑む(・・・・・・・)誘宵美九を、

 

「…………好きにしなさいよ」

 

 嫌いになることなんて、出来やしない。

 

「……え?」

「どうせ、わけのわからないうちに欲に呑まれちゃったんでしょ? 女の子大好きな美九が、我慢できるとも思えなかったし――――あなたに選ばれた私が、光栄と思うことにするわ」

 

 怒りとか憤りとか、そういうものが存在しないわけではない。どうでもいいようなことで振り回されて、散々恥をかかされて、挙句の果てに今も身体は発狂してしまいそうだ。

 それでも、嫌いになれなかった。身勝手な美九を、欲望に呑まれた(・・・・・・・)美九を見捨てることが琴里にはできなかったのだ。

 

「したいことがあるなら、してみなさいよ。〝声〟で私を狂わせたいなら、そうしなさい。そういう道を選んだのが私なら――――私はあなたを(・・・・・・)あなたの行為を(・・・・・・・)肯定するわ(・・・・・)

 

 ――――こういう向こう見ずで突っ走るところは、似ちゃいけないと思っていたのだけれど。

あの時と同じく(・・・・・・・)、面食らって目を白黒させる美九。そうして、同じように目を細めた。

 

「……ふふ、士織さんの真似っ子ですか?」

「誰かさんのせいで、言葉を考える余裕が、ないのよ……お゛っ♡♡」

 

 正気を保つのも、限界が近い。元々、屈伏の色を灯した琴里が抗う術などなく、美九に手首を封じられたまま身体が勝手に暴れ出す。

 

「あ゛っ♡ あ、はぁ♡ な、なんでも言ってみなさいよ♡ 土下座でもしてほしい?♡ 顔をぐちゃぐちゃにして泣きながら『あなたのことが大好きです♡』、なんて言ってあげましょうか、美九お姉様(・・・・・)?♡ ――――なんでもいいから、はやくイカせてっ!♡♡♡♡」

 

 何でもいい。どれか一つが美九の許可を得ればいいと思っていた。快楽に顔が歪み切って、乙女のモノではない卑猥な艶顔を見せつけてしまっている。

 溜め込んだモノを吐き出させてほしい。もう、どうにでもなれと琴里は思っていた。作られたものでないのなら、元からあるものとわかっているのなら、琴里は喜んで美九専属の女の子にでも奴隷にでもなってやると。

 

「それじゃあ――――――」

「っ!♡♡」

 

 一体、どれだけの要求がなされるのか。もしくは、〝声〟で従わされてしまうのか。ひたすら嬲られ、美九の美声でいたぶられてしまうのか。

 息を呑み、微笑みを携えた美九の一瞬を見守った。

 

「琴里さんが私の〝声〟を聞いても平気な方法を没収(・・)するのと、またお泊まりに来てください♡」

「……え?」

 

 今度は琴里が呆気に取られて目を白黒とさせた。次いで、美九が悠然と笑みを浮かべて琴里と顔を突き合わせる。

 

「ありますよねー?♡」

「あ゛♡ ……る、わよ♡♡」

「はい♡ だと思いましたよー♡ 私の声を聴いただけでこんなになっちゃうのに、急にいつもの琴里さんに戻るなんておかしいですからぁー♡」

「わ゛がっ♡ てる♡ なら……っ♡♡」

 

 一語一句、一区切りが琴里に無様な顔を作らせる。精神力で抗えるものなら、とっくにどうにかしている。

 

「ふふ――――止めませんよ♡ というより、もっと(・・・)止めたくなくなりましたぁ♡」

「あ゛♡ あ゛だま゛っ゛♡♡ お゛がじぐな゛、る゛っ!♡♡」

「だって、さっきはあんなに凛々しかった琴里さんが、こんな姿になるんですよ?♡ 肯定するなんて可愛いことまで言われて――――止められるわけ、ないじゃないですかぁ♡♡」

 

 絶頂禁止によるもどかしさと、極上のオナニー以上に気持ちがいい美九の〝声〟。理性も覚悟も溶かされて、全てが美九に囚われる。

 

「私の〝声〟で、大好きな琴里さんを調教してあげますぅ♡ 人形にするなんておもしろくないです♡ ずっと、ずっと……私の〝声〟に溺れて、壊れてください♡ ――――いつか、心の底からお姉様(・・・)って言わせてみせますよ♡」

「お゛っ♡♡ お゛お゛……♡♡」

「だから――――条件、呑んでくれますよねぇー?♡」

 

 条件。薬を手放すという自殺行為。いつでも美九の玩具になるという事実上の奴隷宣言(・・・・)

 

「――――わ、たし、ます♡ くすり渡しますっ!♡ いつでも美九の家に行きます!♡♡ だから――――もう、イカせてください♡♡」

 

 もう、自分の意志がわからなくなるくらい、五河琴里は溶け切っていた。

 美九の家中に響き渡るような発狂乱舞の絶叫に――――美九は、琴里の唇を塞ぎながら答えた。

 

「――――イッていいですよ♡♡」

「あ――――ああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛――――ッ゛♡♡♡♡」

 

 蓄えられていた全てが、吐き出されていく。美九に抱き込まれながら、彼女のセーラー服を豪雨のように愛液で濡らす。

 お互いがお互いのモノだと刻み付け、琴里は数百と溜め込まれた絶頂地獄に――――ただ、美九の温もりで耐え抜く他なかった。

 

 そこから先は、恥辱と羞恥の時間。

 

「ふーっ♡ ふー……♡」

「ふーっ♡」

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!♡♡♡♡」

「うふふ、琴里さんの真似しただけなのに、大袈裟ですねぇー♡」

 

 ベッドの上で抱き締められ、逃げられない状態でひたすら囁かれた。たまの休憩さえ、こうして美九に弄ばれて軽々と絶頂させられる。

 大口を叩いておきながら、琴里は美九の〝声〟に全てを握られていた。

 

 

「あっ♡ ああぁぁぁぁっ!♡♡」

「そーですよー♡ そうやっておまんこ弄ってー……次は、クリトリスをギューってしてみてください♡」

「そ、そんなことしたら――――あぁぁああぁあああぁああぁあっ!!♡♡♡♡」

 

 自由意志を奪われて、目の前でオナニーを観察される。オカズは、笑顔で微笑む美九(・・・・・・・・)とその声――――声に関しては、それだけで絶頂できる主食(・・)だ。

 

 

「おっ♡ おほっ♡ ほっ♡ おおぉぉぉぉ……おおっ♡♡」

「あー、ちゃんと何してるか教えてくれなきゃダメですぅ♡♡」

「はい゛っ♡ ぺ、ぺたんこ座りで♡ 極太ディルドオナニーしてます♡♡ 美九の前で、お尻をぺたんぺたんって付けながら、イキますっ!♡♡ 琴里おまんこイクッ!♡♡♡♡」

 

 どこからか持ち出してきた極太のディルドを地面に固定して、そこに自主的に(・・・・)琴里を座らせ、無理やりな座り方でディルドを出し入れさせる。もちろん、その実況を事細かにすることも忘れない。

 あとは――――裸身を晒して、秘部を擦り付け合う。

 

「あんっ♡ ふふっ♡ 琴里さん、女の子同士も気持ちいいですよ♡ だーりんのおちんぽもいいですけど、私のおまんこも気持ちいいですよねー?♡♡」

「はひっ♡ お、おまんこきもちいいですっ!♡ 美九()とおまんこ繋げて、イ゛グッ!♡♡」

 

 ぱっくりと割れた陰部が擦れ合い、否、もつれ合う(・・・・・)。寝転がされた琴里の足が持ち上げられ、美九の腰使いにされるがまま、マンコから快楽を送り込まれている。

 互いの愛液を分け合って、互いの潮吹きを分かち合い――――歪に膨れ上がった相思相愛の感情を、ひたすら語り合う。

 

「あぁっ!♡ イクッ♡ 私もイッてます♡ 琴里さんのおまんこ素敵ですぅー♡」

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!♡♡ 言わないでっ!♡ 気持ちよくなるから言わないでぇ♡♡ ――――美九のおまんこで、イクゥゥゥゥゥゥゥッ!♡♡♡♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「おはよ、美九」

「…………………………おはようございますぅ」

 

 妙に返事がくぐもって聞こえるのは、そのご立派なベッドにシーツやその他諸々を被って引きこもっているからだろう。

 朝起きて、豪華そうなものしかない玄関に置かれていた荷物(・・)を拾い、行きがてら無駄に艶やかな身体をシャワーで洗い流し、バスローブで包んでから部屋に戻ったら、美九が芋虫みたいにシーツに包まっていた。

 いつもや、昨夜までの勢いはどこへやら、意気消沈といった様子に琴里は半目でため息を吐く。

 

「この欲望、やられた側がケアしなきゃいけないのどうにかならないのかしら」

 

 なんで被害者の琴里が、加害者の美九を気遣わなければならないのか。……これで悪感情が浮かんでこないというのだから、琴里は自分に呆れ返ってしまう。昨夜の痴態と発言に、死にたくなっているのは琴里の方なのだが。

 すると、ずぶ濡れのシーツ類から頭だけを出した美九が、心底申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

「……ほ、本当にすいませんでしたぁ。まさかこんなことになるなんて……」

「そーね。一生の恥だわ。今すぐあなたを顕現装置(リアライザ)で記憶処理して、私の痴態を全部纏めて消し去って、私の下僕としての記憶を植え付けてあげたいくらいよ」

「ひぇぇぇぇぇお許しおぉぉぉぉぉ……あ、でも琴里さんの奴隷さんというのも悪くないかもですぅ……」

「………………」

 

 ケアをしようという気持ちを削ぐ加害者とは、ほとほといい性格と度胸をしている。

 琴里は再度呆れた目で恍惚としている美九を見遣り、バスローブの胸部に挟んだ錠剤入りの瓶を取り出し、美九へ放った。

 

「冗談よ。――――はい、これ」

「へ……? これ、なんですかぁ? まさか、エッチなお薬!?」

「ある意味そうじゃないの。それ、あなたが昨日言ってたあなたの声の効果を薄くする私専用の抑制剤よ」

 

 はえ? と錠剤を手にして目を丸くした美九に、琴里は甚だ不本意ながら腰に手を当てて続ける。

 

「マリアが届けてくれたのよ。それがないと、こうしてまともに話だって出来やしないから助かったわ――――ま、あなたに接収されたら、どの道同じことかしらね」

「え、へ? あ、あの……」

「約束でしょ、あげるわ。あと、美九の家に泊まる約束も引き受けてあげる。好きにすればいいわ。最低限、抵抗はさせてもらうけど」

 

 それが無駄だということは、昨夜のうちに立証済み。今美九に渡した薬とて、美九が本気で〝声〟をぶつければ効能が一瞬で無力化される程度のモノでしかない。あっさりと暗示を仕掛けられ、良いようにされたのがその証拠だ。

 

「え、えぇっ!? ど、どうしちゃったんですか琴里さんっ! いつものツンデレはどこへー!?」

「誰がツンデレか! ……約束は約束よ。私たちはあの時、本気で条件を提示して本気で承諾した――――この欲望の契約(・・)は、絶対よ」

 

 たとえ琴里が拒もうと、()には同じことが起こる。その性的な欲望はそういうものだ。仮に、琴里が加虐的な欲求を多く抱いていたならば、立場は変わっていたに違いない。

 ああ、本当に、そういうものなのだ(・・・・・・・・・)。正気に対してはどこまでも都合が悪く、その代わりに肥大化した欲求に対してはどこまでも都合がいい。

 受け入れた時点でわかっていた。それをここまで曖昧にして引き伸ばし、互いの認識の甘さでこの一件を引き起こした責任は自分たちにある。

 息を呑む美九と、優しく微笑む(・・・・・・)琴里。

 

「士道の欲望を受け入れた時点で、誰かしらがこうなることは決まってたのよ。欲望なんて、どう転ぶかわからないんだから」

「それはぁ……そう、ですね」

 

 美九とて、ここまで琴里に対しての支配的欲求(・・・・・)が強くなるとは思っていなかった。俗にヤンデレ(・・・・)と言わざるを得ない状態まで持ち込まれたのは、士道ですら驚くだろうと琴里は苦笑いで兄の顔を思い浮かべたが。

 同時に、琴里の欲望は兄の影響でさらにどう転ぶかわからないときた。しかし、そうであっても琴里の――――〈ラタトスク〉の使命は変わらない。

 

「私は〈ラタトスク〉の司令官よ。〈ラタトスク〉の使命は精霊をデレさて、平和な生活を送ってもらうこと。そのために、士道を無理やり立たせていつ死ぬかもわからない戦争(デート)に送り込んだのは私――――その私が、自分の身の可愛さに精霊から逃げるわけにはいかないわ」

「っ……」

「私が好きなのはね、美九だけじゃないの。士道も、令音も、みんなことが好きよ――――――だからみんなから私に求められる欲望は、全て残らず受けて立つわ」

 

 ――――その大半が負け戦(・・・)とわかっていたとしても、だ。

 士道を焚き付けて、精霊を巻き込んだのは琴里だ。さらに遡れば、士道がやらなければ精霊たちは世界を滅ぼすと脅したのも琴里――――――士道に求めたことを、同じような場面になって琴里が出来ないと言っていい理由はどこにもなかった。

 

「……琴里さんって、すごくカッコいいですよねー。精霊さんたちを助ける時のだーりんみたいですぅ」

「…………やめてちょうだい。直前になったら、昨日みたいに泣き出す自分が情けなくなるから」

 

 尊敬の眼差しがくすぐったくて、赤面して顔を逸らす。士道と琴里、その最大の違いは行為に至れば士道は鳴かす側で、琴里は鳴かされる側ということだ――――――逆になる(・・・・)状況を琴里が知らない限りは、そうとしか言えない。

 今、どれだけ格好をつけて受け止めると宣言したところで、昨日のようなことが起これば琴里は泣いて叫んで許しを乞い、逃げ出そうとした挙句に無様に快楽に屈する。そんな情けない女が、今の五河琴里という少女の本性だ。

 しかし、美九は首を振った。……美九こそ少々と格好がつかない姿をしているが、それでもにへらと可愛らしく笑って声を返した。

 

「そんなことないですぅ。惚れ直しちゃいましたよー――――じゃあこのお薬は、私が飲んで欲しいって思った時に飲んでくれますか?」

「? どういうことよ」

「今言ったじゃないですかー。惚れ直した(・・・・・)って――――私の声にメロメロな琴里さんも好きですけど、そういういつもの厳しくて優しい琴里さんも、やっぱり好きなんですよねー」

 

 言って、その笑みをさらに蕩けるようなものにする美九に、琴里は得も言えぬ感情に襲われ、誤魔化すように目を伏せる。

 

「……こっちの私に、早めに惚れてほしかったわ」

「いやぁ、それはそれ、これはこれって言うじゃないですかぁー。とりあえず今日は、一緒にお洋服を買いに行きましょう! せっかくお泊まりになったんですから、そうしましょう!」

「また藪から棒に……ま、今日は(・・・)友達として(・・・・・)あなたに付き合ってあげるわ」

 

 本当に、関係とはどう転ぶかわからないものだ。

 しかし、士道だろうと令音だろうと美九だろうとこうであっては、気が多すぎる自分自身に呆れてモノも言えなくなる――――欲張りなところが、兄に似てしまったようだ。

 

「あー! じゃあ今からお風呂で洗いっこしましょー! 琴里さんの恋人としていいですよねぇー♡」

「調子に乗らないの!」

「あいたぁー!」

 

 

 

 







いつも通り琴里がグチョグチョにされて終わるお話だったけど、そういやこれ欲望の暴走だよねって思い出したかのような展開になった。いや流石の美九もここまで強引なのは反省するでしょう……する、よね?
さすがにあの頃みたいに人を操りたくない→でも平気そうにしてる琴里さんが悪いですよねー♡の即堕ち二コマスタイル。戦力ティア1だからって欲望に抗えるわけではないので……。でも契約が緩めなのは美九なりに抗った結果です。マジで直球なら琴里が叫んだ内容やってます。……これ、美九お姉様っていつどうやって言わせようかな(展開がズレたので何も考えてない)
そして琴里は最近ちょっと出番の多さに扱いが美九の玩具に士織ちゃん調教に洗脳ご主人様とあまりにもだったもので……こういう子には精神補正かけたがるタイプなのかしら私。けど士道くんに想いが通じた妹ちゃん無敵でしょ!っていう。
要はマジで士道くんの逆バージョン。総受けしながら気合いで押し通す。私の書く琴里ちゃんって精神性が兄似になるな……。けど士道くんの命かかってないパターンの琴里は強メンタルじゃない?え、夢持ちすぎ?まあそれはそれとして攻められたら受け身だと信じてるからタチが悪い。
というわけでこの関係も形は決まりましたね。ぶっちゃけいつでも美九の声に遊ばれるのは変わらないですけどね!(琴里本人も声が通ると泣き叫ぶしかない自覚あり)

感想、評価、リクエストなどなどお待ちしておりますー。何だかんだこれらがあるから毎日更新続いているので途切れすぎると死にます(直球)

ではではまた次回〜


折紙&十香リクエスト回。これ調べた時マジで世界って広いなぁ、と思いました。二人のこれでもかなイチャラブが見られます。あの尊い友情よくここまで歪めたもんだよ……。
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