君色paranoia 作:うに丸
「あの頃好きだった人はもう居ないんだけど、とても大切なものなんだ」
「ごめん!僕も仕事だしそろそろ行くね!
じゃあね!後輩ちゃん」
そう言い残し 嶺二もまたその場から去った
春歌の中はショックでいっぱいだった
(寿せんぱいの…好きな人がくれた大事な…大事なもの…)
春歌は自分がその服の匂いを感じ抱き 自身を慰めていた事を思い出し
胸の奥がギュッと切なく、そしてとても申し訳ない気持ちでいっぱいになった
あの服は嶺二が大事に大事にいつも着ている服だった
春歌がカルテットナイトの作曲家として知り合う頃には
着ていた服。よく来ているな〜と思っていたもの
「あ…あれ………おかしいな…」
涙が出てきた。
まだ告白もしていないのに 振られたような引き裂かれたような
そんな気持ちが春歌を襲った
「ふ…う…っ」
春歌は扉の鍵をかけないまま そのまま部屋の中へと戻っていく
そのまま春歌はソファに座り ひたすら堪えるように涙した
あれから数時間経った夜
春歌はソファの上で放心状態になっていた
鼻は赤く、瞳は涙で潤んでいた
何度も何度も頬を涙が伝う
「…っ…」
そんな時また部屋の呼び鈴が鳴る
しかし春歌はそれに反応しない
反応出来るほどの気力などなかった
何か用があれば誰かが携帯を鳴らすだろう
しかし鳴らしても今の自分じゃ…と色々と考えを巡らせていた時
「何してるの」
カチッと部屋の電気のスイッチを押す美風の姿があった
「あれ…鍵、、、」
「不用心にも程があるよ、鍵空いてるし」
そう言えば嶺二が去った後 鍵も閉めずに部屋に戻ったのだった
美風は自分が冷蔵庫に入れていったゼリーがテーブルの上にある事に気づく
「食べなかったんだ」
「あ…あの…」
「部屋の電気もつけないで 何してるの」
美風がソファに身を任せる春歌に近付く
春歌は顔を見られたくなく 両手で顔を覆った
「なんで隠すの?」
「………っ」
春歌の両手を美風がグイッと引っ張る
「…」
泣いてグシャグシャになった春歌の顔を見る美風
「み、見ないでください」
美風の手を振り放そうとするも美風の手はピクリともしなかった
「離し…」
「泣いてるの?どうして?」
美風がじっと春歌の腫れた目を見つめてくる
視線を逸らさない
「わ、私は大丈夫ですから…大丈夫…です」
「答えになってない」
頬を伝う涙を美風の指が掬った
「いってみなよ」
「なんでも…ないんです…本当に、、、なんでも」
「レイジ」
その時春歌の肩がピクっと反応する
美風はそれを見逃さなかった
「図星」
「………っ、美風さんはずるいです…!そうやってわかった気になって…何も分からないじゃないですか…だって美風さんはロボ…」
悟られたのが悔しくて春歌はついカッとなってきつい言葉を放ってしまう
それなのに美風は切なそうな顔で春歌を見つめる
「………っあ」
何も言わずに美風は春歌をギュッと抱き締めた
「そうだよ…ボクはロボット…何も分からないよ。キミの考えてる事全部」
「なら離し…
「離さない」
春歌が抵抗しようとすると美風は抱きしめる力を強くした
「ひっく…うっ…ぅううううっ」
包んでくれる身体はロボットのはずなのに何処か優しく暖かくて
春歌もそのまま美風の背中に腕を回した