『プリズムの瞳』 機動戦士ガンダムビルドダイバーズ 作:ビルダー林檎
第11話『鏡合わせの世界』
そこは、見たこともない世界だった。
気がつくと、ベッドに横になっていた。ひどく身体が重い。身を起こし、周囲を見渡した。彰人の目の前には石造りの暖炉に、木製の椅子と机がある。暖炉からは暖かな火が焚かれ心地良い。部屋は良く観察すると畳7畳半ほどの広さであり、
外国の城の客間。というのが彰人の印象だった。
(外国に来たみたいだなぁ。本当に変な夢だ。)
しかし当の彰人はまだぼんやりと夢うつつだった。ふいに、ドア数回叩かれる。この世界のノックなのだろう。ノックの後、1人の女が部屋に入ってくる。その姿をまじまじと見ると、彰人は驚きのあまり声を失った。部屋に入ってきたのは明るい紫色の髪を束ねた女、いや少女だった。大きな黒目がちの美しい少女。
「昨日は良くおやすみになられましたか?」
澄んだ声で少女が尋ねる。
「‥‥君は?」
と、呆気に取られる彰人。
「ああ、失礼致しました。私はフランと申します。」
フランと名乗る少女は彰人の前に
「あのさ。」
「はい?どうかされまして?」
「‥‥まず、ここ何処?君は誰?」
「長い話になりますが、よろしいでしょうか。」
それは本当に長い話だった。まず始めにここは日本、いや地球では無いこと。彰人はあの城下町に倒れていて保護されていたこと。彰人を保護したのはあの紅いMSのパイロットだということ。MSのおかげでこの国は発展した事。彼が話を聞いた中でも特に驚いたのが、
「オルタナガンダムじゃないか……。」
目の前には彰人の愛機であるオルタナガンダムが格納庫の中に立たされていた。まるでGBAの中のオルタナガンダムの様に、本物そのものの姿だ。
「彰人様。単刀直入に申し上げます。」
「私共の国をどうか救ってください。」
「は?」
「私共には貴方様と、騎士様しかいないのです。」
「騎士様?」
「はい!あの圧倒的な黒国に立ち向かうには、貴方様達のお力が必要なのです!」
「はあ。」
正直、現実的な話ではなかった。意味不明とも思えた。テレビゲームの世界じゃあるまいし。こんな夢を見るなんて疲れているのかな。と彰人は疑心に満ちていた。
「フラン。もう良い。下がれ。」
凛とした声が後方から響く。
「騎士様。お戻りになられたのですね!」
「ああ、後は僕が話をする。」
後ろから来た男とフランが話をしているようだ。その男の顔には見覚えがあった様な気がするが、思い出すことができない。
フランが下がると、騎士と呼ばれた長身の男がこちらへ歩いてきた。大きい。圧倒されそうになった。身長は180㎝はあるだろうか。その長身の騎士は彰人の前に立ち、彰人を眺める。懐かしそうな、それでいてどこか寂し気に目を伏せた。その様子は何か語りかけようと言葉を探しているかに見えた。
一方で、彰人はこの男をどこかで見た覚えがあった。
(いつだった?可変機構を持つMSを使うプレイヤー?)
彰人が疑問に思い呆然と立ち尽くす中、不意に男が涙を流す。流れた涙が止めどなく溢れ落ち、石造の床を濡らした。
「ど、どうしたんだ!大丈夫か?」
思わず心配し男に近づく。男は一瞬の沈黙の後、言葉を絞り出す。
「……!やはり貴方なのですね。長かった……!本当に長かった。彰人さん!」
一言一言に重みのある、存在感のある声。この声に彰人は聞き覚えがあると同時に、兄さんと呼ぶこの瞳で確信を得た。
「まさかお前。”隼人”なのか!?」
驚愕の声を出す彰人。
「はい……!はい!本当にお久しぶりです。姉さんは元気ですか?寂しがってはいませんか?」
「ま、待て!ちょっと落ち着こう!な!!」
涙を流しながら話すこの男、「天音隼人」は生きていた。地球とは別のこの世界で。話をまとめるとこうだった。あの日、彰人たちの世界で隼人が意識不明になったと同時に隼人はこの世界に来たらしいのだ。
そこからは毎日が地獄の様な闘いの毎日が続いた。黒国と呼ばれる正体不明の敵が隼人の住む赤国に攻めてきたのだ。恐ろしいことに敵は侵攻にこの世界ではあり得ない技術のはずであるMSを使っていた。
一方的な殺戮が何日も続いたという。MSなどという見たことの無い兵器になす術なく蹂躙される人々、奮戦虚しく、殺される味方。そんな中、隼人と彼の駆る可変機構型MSであるムラサメだけが敵を倒していった。
「目的は分かりません。ですが、僕はこの国を守る為に日々闘って来ました。」
そう語る隼人の顔は、もう彰人が知っていた頃の隼人の顔では無い。あちこち傷だらけの本物の戦士の顔がそこにあった。
その顔には、怒りと悲しみが深く刻み込まれておりかつて彰人が見た幼かった彼の無邪気さは失われていた。
当時の赤国は隼人のムラサメ以外にMSを保有しておらず、日に日に国土を侵略されていったようだ。かろうじて近年MSムラサメの量産化体制が整ったものの、やはり黒国が使うMSには敵わないのだそうだ。
「他の国とは同盟を組んでいないのか?」
彰人は尋ねた。他に同盟国があるのなら、少なくともまだ戦えるのではと思ったからだ。
「はい。あります。この国以外には、他に白国。青国があります。我が国と三国間で同盟を組み、黒国と徹底抗戦を続けていますが、勝利を収めたとはいいがたい状況が続いています。」
「なんか、RPGみたいだな。」
「僕も最初はそう思っていました。」
最初は隼人も帰りたいと思っていたそうだ。ただ、自分とムラサメを守る為に何人もの仲間が死んだ事。自分にしかムラサメを起動できないこと。フランを守りたいと思ったこと、それらの要因が重なり、この世界にとどまる決意が芽生えたのだという。
だが悪い事に他国のMSとは半ばライバル関係にあり、完全に共闘しているとは言い難い。こうしている間にも他の国が侵略され、命を落としているものがいる。
この状況の中で、日に日に隼人は彰人達の世界の事を忘れていったらしい。それは悲しい事だったが、仕方ないことではあった。大好きだった姉のことも、向こうの友達のことも、彰人のことも、全てが戦争の中ですり減り思い出が薄れていく。
「でも僕は……この国に恋をしたんです。人々の期待と、僕自身がこの国の人々を守りたいという願いが、まだムラサメを動かしているのです。それに、あの大好きだった英雄—-ガンダムになれるのなら、僕もガンダムになりたいと思っています。正直、こうして言葉にすると恥ずかしいですけどね。」
「ああ、あと彰人さん。面白い事に、僕らの世界のプラフスキー粒子を用いた機体の事をこちらの世界では”ガンダム”と呼ぶそうです。変ですよね。MSなんて無かった筈なのに。」
どうやら”向こうの”世界ではなんてことはないプラスチックの塊や粒子が、こちらの世界では軽く、頑丈で、加工しやすい高級な工業物として認知されているらしい。
「そうか……でもそれなら尚更おかしい。」
「はい。全く辻褄があいません。」
かつてはMSが実在したのに、MSとその運用方法だけが人々の記憶から消えてしまったかのようだ。
(そんなことが有り得るのか?まさか、月光蝶でも実在しているのか?)
「僕の推論ですが、何らかの理由で過去にあったMSの技術が封印されたのでしょう。……更に言えば黒国の代表も恐らく我々と同じ世界の人間でしょうね。目的は分かりませんが。」
「異世界物では異世界から来たもの同士が対立するというが、全く同じだな。この世界も。」
「はい。ただ、私のこの話は彰人さんだから話せるのです。フランも国王様も、異世界が本当にあるとは信じてはいません。だから僕もここまでの推論は明かせませんでした。」
「だろうな。無理に明かせば、それこそ怪しまれて殺されるのがオチだ。」
「はい。だから彰人兄さんが来てくれて良かった。本当に良かった!オルタナガンダムもある。」
「彰人兄さん!お願いです!僕と一緒にこの闘いを終わらせて下さい!」
真剣な眼差しだった。一つの曇りもない射抜くような、どこか縋るような瞳。
その瞳に映る彰人の答えは決まっていた。隼人の吸い込まれそうな澄んだ瞳を見つめながら、彰人は言葉を返す。
「もちろんだ。隼人。この闘いを終わらせて、地球に帰ってお前は文香と会うべきだ。」
「……はい!」
隼人の一瞬の間が気になったが、深くは追求はしない。どのみち彰人は1人では行くあてがないのだ。なら、やれる事をやるしかない。そう考えていた。部屋から格納庫に移り、彰人はオルタナガンダムのコックピットに座る。
「驚いたな。まんま
VR空間とリアルという認識の差はあれど慣れ親しんだ愛機の特徴は一緒だった。これなら問題なく動かせるだろう。
「はい。私もムラサメを見たときは驚きました。」
隼人は子供の頃に眠っていたムラサメを起動させ、敵のMSを何機も撃退したそうだ。それから数年間、この国を守る盾として戦い続けてきた。
それがどれほど過酷な戦いだったのか彰人は知る事は出来ない。聞くのも酷な気がしたからだ。ただ、仲間が少しづつ居なくなっていくのは寂しい。そう隼人は俯きながら言葉を漏らした。
彰人はオルタナガンダムを起動させる。次に隼人もムラサメガンダムも起動させる。二機の紅と金のMSが赤の国の空を優雅に飛行する。
「夢が叶ったな。」
「ええ。ただこれが平和な時だったらどれほど良かったか。」
長い間、空を飛び続けていた。すると雲の切間を縫い、遥か遠くから黒い影がこちらに向かってくるのが分かる。
「敵か。」
「流石ですね。やはり分かりますか。」
三機の黒い影はこちらに近づくとその形がはっきりと分かる。黒の国らしい黒色のMS。
(これは……ガフランだな!だが何故?)
彰人は目の前に迫る敵機を判別する。ガフラン。''機動戦士ガンダムAGE" に登場したMS。その竜のようなMSは原色から黒いカラーリングに塗り替えられていたせいか、よりMSらしからぬ異質なデザインに見えた。
(敵の正体といい、まるでAGEだな……っと!)
生憎、ガフランの弱点は知り尽くしている。彰人はオルタナガンダムを急上昇させガフランの背後を取り、ガフランのキャノンが取り付けられている構造上脆い背後から一気にビームサーベルを突き入れる。爆発するガフラン。残り二機もこちらにねらいを絞ったのか迫ってくる。が、それが良くなかった。
隼人のムラサメガンダムが上空から強襲しその手に握られたビームサーベルがガフランを切り刻む。
腕を切られ、足を切られ、丸裸のコックピットにビームサーベルを突き刺す。哀れみを覚えるくらいに一方的な闘いだった。
「やるな。隼人。」
「彰人兄さん程じゃありません。といよりも、この敵の機体を僕は知らないのですが、兄さんはご存知ですか?」
「ああ。後で詳しく教えるよ。お前が知らないガンダムをな。」
「新しいガンダム!それは楽しみです!」
目を輝かせる隼人。隼人のこの目は昔から変わらない眼差しだ。と彰人は懐かしく思った。
戦闘を終え、赤国に備えてある滑走路に降りる。MS形態で降りても良いのだが、
「彰人様、ハヤト様。本当にありがとうございます。」
フランは2人の傷一つない凱旋に対し、心から嬉しそうな顔で2人を眺めた。こうしてみると、目が大きく、童顔に見える。一体歳は幾つなのだろうと彰人は不思議に思った。こんな少女が何故隼人と一緒に戦うのだろうかという当然の疑問も湧いた。
「なあ聞きたいんだけどさ。」
「はい?」
「何で隼人が騎士なの?別に他の人は普通に隼人様ー!とか、赤龍将軍!……って呼ぶのに。君だけ騎士様と呼んでいるのは何でなのかなと思って。」
「そ、それは。」
彰人の言葉に対し、フランは痛い所を突かれたと言わんばかりに、後ろ手を組む。視線が泳ぎ、もじもじと恥かしそうな態度を取った。その態度は、年相応の少女の姿だった。
「彰人兄さん。それは僕から伝えるよ。ささ、今は国王様の所に案内するから付いてきて。」
隼人は話を軽く流すと、城に向かって歩き始める。その後ろを黙って歩くフラン。だが彰人は理解できた。彼女が隼人に向けるその熱い眼差しを。
(なるほどなぁ〜。)
何となくあの2人の関係が分かってきた。これは面白い物を見てしまったぞ、とにやにや笑いを浮かべるのを止めないまま、彰人も隼人について行く。
城の中に入り、広場を抜け、階段を昇って王の部屋に向かう。扉の前には護衛だろう。数人の屈強な男達が門の前を警備していた。隼人の姿が見えると、何も言わず後ろに下がり扉を開く。
国王様との謁見はなかなかに緊張した。50代くらいの威厳ある髭を蓄え、王座に座るこの老人はまさに国王という感じがした。国王の前に隼人と彰人が並び、国王が口を開くのを待つ。
長い沈黙が続くが、国王は口を開かない。
どうやら、視線で彰人を見定めているのか。その視線に彰人は多少たじろぐ。たが彰人はこの国にとって敵ではない。まずはそれを信じて欲しいなという思いで彰人は一杯だった。
長い沈黙を破り、不意に国王が口を開く。
「彰人殿。この度はこの国に来ていだき、誠にありがとうございます。」
威厳のある声だった。聞くものを落ち着かせるような静かだが力のある声。権力者が持ち得る力であった。更に国王様が頭を下げる。慌てて彰人も頭を下げる。その態度はどうやら正解だったようだ。
国王が言葉を続ける。
「現在我が赤国は、貴方も知っての通り、黒国からの侵攻を受けています。」
「……単刀直入にいいましょう。貴殿には我が国の矛となっていただきたい。オルタナガンダムといいましたかな?我が国はあれが是が非にも欲しい。あのモビルスーツは十分な戦力になる。どうですかな?無理にとはいいませぬが。」
国王の目が彰人を睨む。背後の男達が武器を構えるのを気配で感じた。国王の声には確かな脅しが含まれている。断ればどうなるか予想はできたが、断る理由などない。
(まあ、断る理由はないな。)
まだこの世界に慣れているとはいえない。この世界の存在そのものを疑っているところもある。だが隼人がいるのだ。自分も現実世界に帰らなければいけないのだ。
「そのお話。謹んでお引き受けいたします。」
彰人は深々と頭を垂れる。やらなければならないことは既にわかっていた。国王の緊張が解けたのか、柔和な表情を浮かべた。背後の男達も安心した様に殺意が和らぐのを感じる。本当は気の良い奴等なのだろう。
色々あったが、国王との謁見が終わり彰人は隼人達と食事を取った後に与えられた個室に戻った。埃っぽいベッドに横たわりながら、考えをまとめる。
外を見ると、すっかり日が暮れていた。月明かりと簡素なランプの光が部屋を照らす。
(一先ず、この国の現状は把握した。次に他国の状況を知らなければならないだろうな。)
そのため、彰人は心の許せる隼人と、その従者フランを予めこの部屋に招いていた。ココ、コン。という独特なノックの音が聞こえると、彰人はドアを開き2人を招き入れる。
「隼人。フラン。この国の現状は理解した。黒国や他の国の情報が知りたい。」
木製のテーブルに地図を広げ、彰人は隼人とフランを交互に見る。とにかく敵と戦う以上は情報が欲しい。戦争の基本は情報戦なのだ。隼人が質問に応えようとするが、フランが手でやんわりと押さえた。どうやら説明するのは自分の役割であると心得ているらしい。
「それについては私から説明します。」
と、フランが木版を持ちながら答えた。
「現在、この大陸で確認されているのは我が赤国。我が国に正対するかの様に黒国があり、我が国の西側には青国、東の国には白国があります。国力としては黒の国が最も大きく、赤、青、白の三国を合わせても黒国の方が国力、技術力共に勝ります。」
「確認されているMS……彰人様方がガンダムと呼ばれるタイプのMSは彰人様のガンダムを含め計五機。各国に1機ガンダムタイプというMSが存在しています。強力な能力を有してはいますが、黒国のガンダムは特に強力です。」
「僕も何度か黒国のガンダムと戦った事がある。
ただ、僕も見た事が無いタイプだ。正直、対策が分からない。」
「なるほど…‥なら二人とも、各国のガンダムタイプの特徴を出来るだけ教えてくれ。」
「ええ。では、引き続き説明いたします。まず始めに赤国のガンダム。隼人様が駆るムラサメですが4国の中のガンダムで唯一可変機構を有しており、機動力は他国の追随を許しません。しかし我が国の技術力では部品の生産が追いつかず、性能は遺憾ながら低下していると思われます。」
「次に青国。この国は両肩に青い翼を生やしております。更に機体の周辺に球形の青色の粒子を放ち攻撃を防ぎます。特に特徴的なのは、機体が赤く輝くと目にも留まらぬ速さで動き、武装の火力も上昇する事が確認されています。」
「第三に白国。この国のガンダムは防御に特化した性能を有しています。見た目は白く丸い。ふざけているかの様な外見ですが、一度も敵の攻撃で機体に傷がついた事が無いという報告を受けております。装甲だけで無く特殊な
「最後に黒国。この国のガンダムはなんといいますか……見た目が変わっています。足は棒きれのように細い。対して肩からは大きな8枚の羽を宿しています。腕は手というよりも、巨大なしなる剣をそのまま腕に固定しており近づくのは容易ではありません。更に全身の至る所に火器が搭載されており、背後から奇襲したMSが振り向く間も無く撃破されています。」
「これだけであれば脅威ではあるものの、撃破は可能です。が、この黒国のガンダムについてはまた特殊な兵装を持っております。……傷を負わせても傷が治るのです。それも瞬時に。」
「‥‥コックピットを貫いたはずなのに、何度も何度も立ち上がるんだ。あれは不死なのかと思うくらいに。初めて闘うのが怖くなったガンダムだったよ。」
隼人が悔しそうにつぶやく。
(不死。そんな機体がいるのか?思い当たるのはナノマシンやDG細胞だが?)
彰人にも心当たりはない。マニアの知識を総動員してもそんな特徴を持つMSはいない。不死といえばいることはいるのだが、8枚羽というのも分からない。4枚羽であればクシャトリアが該当するが、もしかするとそもそもMSでは無いのかも知れないと彰人は推測するしか無かった。
「8枚羽か。俺も心当たりはないな。」
「残念です。手がかりになると思ったのですが。」
がくりと気を落とす隼人。無理もない。手がかりが無いというのは不安になるものだ。それにしても、支離滅裂な話には違いなかった。
異世界。見たことの無いMS。実際に死者が出る世界。頭がこんがらがりそうだ。
「ひとまず、他国の情報は分かったよ。」
「同盟を組んでいるなら、黒国のガンダムを倒せるかもと思ったんだがな。だが、自己再生する機体では、資源に限りがあるこちらの側が不利だ。最悪撃破される可能性がある。」
「はい。オルタナガンダムや彰人兄さんのガンダムの知識なら倒せるヒントになるかもと思いましたが……いえ。オルタナガンダムがいるだけでも大きな戦力になります。しかもオルタナガンダムはまだ存在を他の国に悟られてはいない。」
「今朝のガフランも倒しましたし、目撃者もおりません。万が一の切り札。として彰人様とオルタナガンダムには待機していただきたいのです。」
「分かった。隼人。フラン。今日はありがとう。」
「ええ、僕も貴方に会えて心強い。ではフラン?」
「はい。それでは今夜はこれにて失礼致します。
彰人様、隼人様、おやすみなさいませ。」
椅子から立ち上がると、部屋から出て行く隼人とその後ろに続くフラン。
(恋人同士っていうよりも、なんか兄妹みたいで微笑ましいな。)
状況は変わらない。元の世界に戻る方法も分からないし、黒の国の動向も気がかりだなと彰人は考える。
(初めてきた場所なのに、繋がりはないはずなのに、何こんな真剣になってるんだろうな。俺は。)
いや、違う。この世界は隼人の居場所なのだ。彼が命がけで守り抜いてきたもう一つの現実なのだ。
今日のガフランも隼人はあっさりと倒した。腕も悪く無いどころか、あの立体的な機動を生かした戦い方は彰人が過去に彼へ教えた戦い方だった。彼は強い、それも嬉しく思う。彰人にとって隼人は家族だ。だから彰人はそれに応えるつもりでいた。
その頃フランの部屋では、フランが髪をまとめ寝る支度を整えていた。部屋に備えた鏡に映る自分の体。10歳の頃に隼人に命を救われ、今日まで彼の従者として働いてきた自分。
(楽ではなかったな。)
実際のところ、フランは彰人のことを信用はしていない。が。
(ハヤト様のあの嬉しそうなお顔は……初めて見た。)
隼人の端正な顔がほころぶのは、可愛い。と思えたのだ。彰人のことはまだ良くは分からないが、隼人の事は心から慕っていた。10代の少女にはその感情が恩義から来るものなのかどうか、判断できなかった。
(何を考えてるの。私は。あの人の駒にならないといけないのに。従者でも嬉しすぎるくらいなのに。)
両手で頬を叩き、考え直す。
(……駄目。望んじゃいけない。許されない。)
フランははあ。と溜息をつくと、鏡に背を向けベッドに横たわる。疲労の色が見て取れる。慣れない事務の仕事が続き、目の下にはクマが出来た。が、休んでいる暇は無い。前任者や他の経験者はみんな死んだか、黒の国の影響が及ばない場所に逃げたのだ。黒の国に情報と引き換えに亡命した者さえいる。
そんなギリギリの中で、フランが全てを投げ出さなかったのは隼人の存在が大きいと言わざるを得ない。自分の身を呈して自身を救ってくれた人。
隼人の事が好きなのか、それとも純粋に恩義を感じているだけなのか。判別がつかず、少女の心は揺れ動いていた。
場面は変わり、黒の国の某所。夜。
砂漠の中央に、聳え立つ黒金の巨人。
その名前も分からぬ機体から男が一人降りる。
若くは無い。かと言って衰えてもいない。
虚ろな瞳には生気が感じられず。白髪混じりの黒髪に濃い髭面。お世辞にもしょうきとはいいがたい容姿をしていた。
——-その男が笑っている。ただ笑っている。
男は天を仰ぎ、次に黒色の巨人を眺める。
それは殺すという目的に特化しつくされた、人を模した巨人。機体の各所からは蒼い光が煌々と瞬いている。それを満足げに目を細めると、男は誰に聞かれることもなく一人呟いた。
「やっと会いに来てくれたんだね。アキト君。」
—-夜は終わらない。
第12話に続く
好きなガンプラは?
-
オルタナガンダム
-
シビュラブリッツ
-
シルベリアアストレイ シルバーフレーム
-
ペーネロペー
-
Reonガンダム
-
イージスアルケーガンダム