『プリズムの瞳』 機動戦士ガンダムビルドダイバーズ 作:ビルダー林檎
________赤国 某所にて
(なんなんだこのモビルスーツはッ!?)
黒国のガフランのパイロットは焦っていた。楽な作戦のはずだった。赤国の住民を適当に殺害し帰投する作戦。この作戦が終わった翌日には休みが取れ、家族とアリアンへ遊びに行く予定があった。だが、既に彼の部隊は彼を残し全滅。彼のガフランもほぼ満身創痍だった。なのに敵のMSには傷一つ付けていない。いや、付けられなかった。
(MSの性能が、戦力の差だとでも言うかッ!?
認めん!認められるものかッ!!)
――黒国で紅龍と呼ぶ紅い機体が空を舞う。
ガフランの我武者羅な銃撃をひらりとかわし、反撃。ガフランの右腕と尻尾が両断され爆発する。
――紅龍が吠える。
機体の各所から蒼い光を放ち、更に加速。なすすべのないガフランを切り刻み、コックピットだけを機体から切り離す。もはやそれは戦闘ではなかった。武人が演武を舞うかの如く悠々と敵を葬っていく。そこには一切の気負いも恐怖も躊躇も無く、そのまま残ったコックピットにビームサーベルを突き入れ、敵を火球に変えた。
(‥‥‥‥そんな馬鹿……なっ!!!!)
蒸発したパイロットの無念が儚く空に散る。それを意に介さないムラサメガンダム。その姿は恐ろしくも美しかった。天音隼人とムラサメガンダムの前ではもはや並みの機体では相手にならないと言うことは明白だった。コックピットの中で、隼人は心の中で呟く。
(最近になって、また攻撃が激しくなっている?)
命のやり取りの後、高ぶった神経を落ち着かせるため呼吸を整える。人を殺していると言う実感は嫌なものだった。心を蛆虫が這いずり回るかの様な気色悪さ。慣れるものではない。昔は敬愛するキラヤマトのように、不殺の誓いを立てていたが、止めた。
まさか生き残ったパイロットが自爆するなどと言うことは、幼い頃の隼人の想像が及ばないところだった。爆発に巻き込まれた人間の飛び散った肉片と、内臓の生暖かさ。血の匂い。
その凄惨な光景は少年を早熟させるには充分だった。同時に彼の健やかな精神を歪ませるのにも充分だった。殺して、殺し抜いて、4年。
何人を殺したのか、何人殺されたのかはもう覚えていない。未だに戦いは終わる事はなく、ただ命が浪費されていく。殺した相手にも、殺された味方にも家族や友人がいたはずだ。
黒国に対する憎悪よりも、どうしたらこの戦いを終わらせる事が出来るのか。為すべきことは何か?隼人は毎日の様に考えていた。
そんな終わりのないディフェンスの中で、彼は二つの希望を見つけた。
一つはフランという名の少女。
彼女は隼人が12の頃、たまたま救援に向かった村での唯一の生き残りだった。村人たちの焼死体に囲まれながらも死を選ばず、強い意志を感じさせる瞳を持つ少女を見た時。隼人は泣いた。女の子の前で泣きたくなどなかったが、泣いた。悲しくないはずなのに、涙が止まらない。
この世界での彼が流したはじめての嬉し泣きだった。生きていてくれてありがとう。と泣きながら強く抱きしめた時。フランの華奢な体には、生きたいという強い意志と熱が溢れていた。
次は彰人という隼人の憧れの存在。この二つは、隼人にとって希望だった。彼にとって、決して壊されてはいけないものだ。侵されてはならないものだ。思考を一時やめ、隼人はムラサメガンダムと共に赤の国へ戻る。オルタナガンダムがいるとはいえど、留守にしておくのはまずい。機体を反転させようとモニターを確認するが、モニターには新たに敵機の反応が写っていた。
(この反応は……まさか?)
此方に接近する青い機体。
(……ッ!)
隼人は慌てて機体を上昇させ回避行動をとる。敵の機体は、青国のガンダムタイプだった。
(なんてタイミングの悪いッ!)
敵のガンダムがムラサメに向かいビームライフルを放つ。正確な狙い。コックピットを狙った明確な殺意のある攻撃。
隼人はムラサメガンダムを変形させ、青の国のガンダムへお返しとばかりにビームライフルを撃つ。一発が命中しダメージを与えたようだった。攻撃を当てられたことに激昂したのか、ビームサーベルを抜いてムラサメガンダムに迫る敵。隼人もビームサーベルを抜刀し青のガンダムと立ち会う。互いに振るったビームサーベルが鍔迫り合い、ジリジリと粒子を散らしていく。
その時、接触回線から相手の声が聞こえた。
「退屈そうだなぁッ!赤いのォッ!!」
粗野な少年の声がコックピットに響き渡る。
「……!小狼!今は僕達がこんなことをしている場合じゃないだろう!」
隼人も接触回線を用いて、内心焦りながらも冷静に少年に言葉を返した。
「うるせぇ!!こっちはなぁ!毎日雑魚の相手ばかりでつまらねぇんだよ!」
「遊びだと?僕は遊びでMSを動かしているわけじゃない!わかれよ!!」
ムラサメガンダムは相手の機体に蹴りを入れ、機体同士の距離が開く。
間髪入れずイーゲルシュテルンで牽制射。
「小狼!黒国が迫っているんだぞ!数百人もの人間が死んでいるんだぞ!お前も青国の王子なら分かるだろ!」
「ああ、知ってるさ。あの国には苦戦してるからな。だからこそ、
「だがな、だからこそMSで暴れまわることが出来るのさ!楽しいだろ?戦いって奴はっ!!」
小狼と呼ばれる男のガンダムがビームライフルを乱射しながら迫る。隼人も怒りを抑えつつビームサーベルでその攻撃を弾きつつ再度正対する。なんて事はない。勢いだけの大局が見えない坊やの攻撃が当たるものではない。あれは玩具を与えられた幼子だ。と隼人は改めて呆れていた。このような幼い男が仮にも王子だというのは青の国にとっては大きな損害だろうということは容易く想像できた。
「ああ、楽しいな。」
吐き捨てるかのように隼人が呟く。彼の胸にはまぎれもない怒りが込み上げていた。戦いを楽しむものは隼人にとって全て敵である。
「だがこれは遊びじゃない。命のやりとりなんだ。」
ビームライフルを放ち、ムラサメガンダムを変形させ急接近。更にビームサーベルで青国のガンダムを切りつける。ダメージが通ったのが感触で分かった。
「うおっ!?」
狼狽える小狼。無理もない。可変機構を持つムラサメガンダムの立体的な攻撃に慣れている人間は、この世界では彰人以外には居ない。目では追えても思考と反射が追いつかないのだ。
「小狼。このまま退け。でなければ上からビームサーベルを突き入れる。」
ビームサーベルを構えながら、脅しを込め冷たい口調で警告。
「……舐めんなよ。」
瞬間。機体が赤く発光する。加速する敵の機体。
(これは?報告にあった反応か!)
距離を取るが、小狼の方が早かった。あっという間に距離を詰められビームサーベルで斬られるムラサメガンダム。右腕が第二関節から千切れ飛ぶ。左手に持つビームライフルで何発か攻撃を当てるも、どうやら致命傷にはならないようだ。
頭部のイーゲルシュテルンで更に牽制。しかし青の国のガンダムの表面にかすり傷を負わせる程度だった。
(速いッ!?ストライクフリーダムでもここまでは?)
報告を受けるのと、実際に目の当たりにすると違う。隼人が対応出来る速さを超えていた。まるで光の様な速さで迫る青のガンダム。
「ほらほらどうしたぁっ!さっきまでの威勢は?押され気味じゃねぇのかぁ?」
赤い閃光がムラサメガンダムを襲う。上下左右360度全方位から迫る攻撃。3倍以上の速さで迫る敵のガンダム。
(素早いが……3倍の速さで迫るならこっちも対応を変えるだけだ。)
可変し、後方へ加速。小狼から距離を取る。当然追ってくる小狼。
「逃げんなよ!」
「馬鹿だな。愚鈍な君なら当然追ってくるだろうとは思っているさ。」
可変したムラサメに対しては、流石に立体的な攻撃は出来ない小狼に対し機体後部のビームキャノンを放つ。追ってくる時は一方向からしか迫れないのだから、狙いは容易だった。
「うおぉ!危ねぇな!」
小狼も易々と当たるほど愚かでは無い。この戦いにおけるセンスは流石だった。
「次は殺すよ。小狼。」
「いやぁ〜おっかないねぇ!騎士様は。」
「だけどさ、舐めてると……容赦しないぜ?」
静かな殺意を込めて小狼が言い放つ。対して相手にしてられないと隼人は呆れる。こんな人間と同盟を組まなければならないとは。
(黒国と同じくらい厄介者だな。)
今度こそ抹殺するつもりでライフルを発射する。コックピットを狙った一撃。当たれば即死だろう。当たればだが。だが、そのライフルは意外な人物に防がれる事となる。
二機の間に突如割って入る白い機体。その機体を二人はよく知っていた。
接触回線から若くあどけない声が響いた。
「だっ!駄目ですよ。二人共。ボク達は仲間じゃないですか。喧嘩したらいけないですっ!」
「カイネ少年か。良くないな。男同士の戦いに割って入るのは。」
「ああ、お前が出る幕じゃねぇさ。下がってな。危なぇから。」
「だっ、駄目です。下がりませんよ。ボクは三国同盟の長ですから!」
幼いながらも必死さが伝わる声。二人は戦意喪失。勿論、悪い意味でだ。
「「はぁ‥‥」」
続きは今度だな。と二人は思った。こう言うところのタイミングは何故か同じだった。
第13話に続く。
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