『プリズムの瞳』 機動戦士ガンダムビルドダイバーズ 作:ビルダー林檎
――赤の国 城内 作戦会議室にて
MSでの
(赤の国か……。来るのはあの時以来か?)
小狼は赤の国に来るのは久々だったが、特に懐かしさを感じる事は無かった。ただ早く退屈な話を終わらせたいという気はしていた。
長い廊下を通ると、突き当たりにある部屋に辿り着く。部屋の中にはまた簡易ながらテーブルと椅子が配置されており、会議室。というには充分であった。その会議室の中には黒髪のハヤトに似た男と紫髪の少女が佇んでいた。小狼達が来た事に気づくと、その男が口を開く。
「それで、その二人が例のパイロットなのか。隼人。」
「はい。そうです。
男の問いに対し、心底不服そうに隼人が答える。
「なんだハヤト。お前、不満なのかよ。それよりもコイツは誰だ?」
「はじめまして。青国、白国のガンダムパイロット。遠いところからお越し頂き誠に恐縮です。」
「俺は神取彰人。2人にはアキトと呼んで欲しい。俺は隼人の幼馴染で、今はこの赤国の参謀を務めている。よろしくな。」
淀みなく彰人が答えた。
(似ている……この小狼という男、総一郎の奴に。性格は正反対だが……。)
彰人は小狼の顔を眺めながら、不思議に感じた。小狼は総一郎と同じ顔だったからだ。一つ違うとすれば、瞳だけは赤い。武人らしいその姿は、総一郎とは全く違うものだが、どこか総一郎と似たような何かを持つ男だなと彰人は考えていた。
「
「ああ、その通りだ。詳しくはフラン。君から説明を頼む。」
「承知いたしました。」
紫髪の女、フランと呼ばれた女が前に出る。小柄だが、気の強い女だと小狼は思った。彼女のその姿には自信が溢れており、側から見ても優秀そうに見えたからだ。芯の強い良い女に違いないと小狼は察していた。
「まず初めに、皆様にやってもらいたいことを説明致します。それは――」
彼女の長い説明が始まった。
数時間後、作戦会議の後の帰り道、小狼とカイネはとぼとぼと赤の国の道を歩いていた。作戦決行前の観光に務める二人の少年。すらっとした長身の小狼と、小柄なカイネ。側から見ると仲の良い兄弟のように見える。2人の周囲には側近が数名囲んでいる。恐らく、暗殺防止の為か、それとも別の意図があるのか。
「はぁ、疲れましたね〜。小狼さん。」
カイネがやれやれと体を震わせる。本当に疲れたらしい。
「俺は長い話はどうも性に合わん。カイネは分かったか?」
「ええ。要は再生する敵の機体の破片やパーツを奪取してこい。ですよね。」
――黒国のMSは自己再生能力がある。
小狼とカイネもハヤトも、あの能力にはだいぶ辛酸を舐めさせられたものだ。何度傷つけても、コックピットと思わしき部分を傷つけても、立ち上がる黒の巨人。腕に取り付けられた巨大な刃物も厄介だ。赤国や青国のガンダムでは迂闊に近づけない。なんとも面倒な相手だった。だから、その黒国の機体を分析するために部品や装甲を剥がしてもってこい。という意図も理解できた。
「単純だが、分かり易い。俺のガンダムでぶった切って、カイネは破片を回収し、後はハヤトの機体で逃げる。殺せねぇのが癪だが。」
「倒すのは次の楽しみに取っておきましょうよ。」
ああ。と生返事を返しつつ小狼とカイネは赤の国をぶらつく。体の弱いが頭の切れるカイネと体は強いが考え事が嫌いな小狼。ガンダムに乗って数年。二人は良いコンビだった。
その二人の後方から彰人達が何やらひそひそと話をしている。
(あの二人とは絡まなくて良いのか、隼人?)
2人を囲む護衛達に気を遣い、遠くから3人で相談する。
(嫌いではありませんが、馬が合いませんから。)
隼人はこの時初めて嫌な顔をした。心底、面倒なのだろう。
(でもお前そんなんじゃ駄目だろ。行ってきなよ。)
(ハヤト様。私からもお願い致します。)
(……分かった。僕も大人になろう。)
彰人とフランに促されるまま、隼人は二人の元へ向かう。あまり気は進まないが、共に戦う仲間なのだからコミュニケーションは取るべきかも知れないと、隼人は律儀に考えているのだろう。
隼人は後方から声をかける。その声に護衛がさっと離れた。ガンダムパイロット同士の会話は認可されているらしい。
「赤国はどうだい?二人とも。この国は紅葉が綺麗なんだ。」
隼人が声をかけると、あからまさまに小狼が警戒する。腰を深く落とし、左手を前に構えて威嚇の態勢を取った。対する隼人も小狼の間合いには近寄らない。腰に携えた大太刀に手をかけて、いつでも抜刀できる体制になっている。
「お前……。」
隼人のその態度を見て、小狼も構える。明らかに敵視している証拠だった。
「あわわ。ハヤトさん。ど、どうも。」
一色触発の2人を前にカイネが怯えている。挨拶も震え声だ。
「小狼。」
「何だ。ここでやろうってのか?」
「違う……その、なんだ。」
刀から手を離し、頭をかきながら困ったように隼人が答える。
隼人も、小狼との接し方に悩んでいるようだった。
「黒国を倒したら、今度は本気でやりあわないか。お互い全力でさ。」
真剣な眼差しで隼人が答えた。
(そうじゃないだろう隼人!?)
コミュニケーションとは挑発の事ではない。咄嗟に彰人が止めに入ろうとするが、対する小狼の答えは意外なものだった。
「ふん……そんな事か。まあいい。」
(乗るのかよ!)
どうもこの世界の人間は、特殊な考えを持つらしい。と彰人は蹌踉めき痛む頭を抑えながら理解した。脳筋の会話は疲れる。と感じてしまうのは、可笑しいだろうか。
「や、やめてくださいよぉ〜。仲良くしましょうよ。」
と、カイネが情けない声を漏らした。カイネも彰人と同意見の様だった。
「勿論、カイネ少年もだ。」
「ええっ!?ボクもですか?」
「良かったじゃねぇかカイネ。お前のガンダムも対空戦にもっと慣れた方が良いぜ。俺のガンダムみたいにな。」
ガンダムツァーリとは、青国の機体なのだろう。聞き慣れない名前に、彰人は耳を澄ませた。
「うう、そうですけど。ボクのガンダムファルシオンは防御に特化した機体でして。」
またも聞き覚えのない名前が聞こえた。ファルシオン、とは、白国の機体か。守りに特化した機体とは思えない名前だと彰人は思った。
「いいから!それに、お前とお前のガンダムが強くなれば、‥‥白国の民も守れるぜ。もっとな。」
小狼は気が乗って来たのか、カイネにまくしたてた。どうも、小狼といい、隼人といい、カイネには優しい様だ。いい緩衝材になっているのだろう。本人の気苦労は兎も角。彰人は少しばかりカイネが可哀想に思えた。
「なら、やります。でもその前に。」
「あの黒のMSは何としても倒す。」
「俺様の国の民を無意味に殺した償いはさせる。」
「ボクたち、この点に関しては同士ですよね?」
「その通りだ。」
「……良かった。ならやっぱりボク達は仲間です!」
「「それは違う 」」
「えぇ〜!!」
(あの三人。ある意味でフランの報告通りだな。)
と、彰人がフランに耳打ちした。
(ええ!ハヤト様の大事な御友人です。)
友人、というニュアンスはやや外れていたような気がしたが、彰人は突っ込まなかった。
(……仲間がいるなら俺も安心だ。)
(ふふ。アキト様は、まるでハヤト様の本当のお兄様の様ですわね。)
後ろ手を組んだままフランが笑顔で問いかける。あの険しかったハヤトが、戦いの中で優しさを塗り固めてしまったハヤトが久々に笑顔を見せたのだ。この1ヶ月の中でフランは、彰人を信頼しつつあった。彰人の事は知らないことも多いが、少なくとも
(ああ、近いな。いや、本当に隼人は俺の可愛い弟だよ。)
そういいながら目を細め三人を見守る彰人。その様子は我が事の様に嬉しそうに見える。隼人のことを一番に心配していたのは彰人だったからだ。あの小さかった隼人が大きくなり、仲間もいる。12歳の頃に比べ、隼人も成長したのだなぁと改めて感じていた。彰人はフランの目を見つめて答える。淡い翡翠色の瞳が彰人を映す。澄んだ目をしていた。
「フランは俺の義妹だしな!」
フランを見つめたまま、さらりと言い放つ。彰人なりの冗句だった。
「……私は、ハヤト様のことをそのようには見ておりません。」
辿々しい口調でそう言葉を続けるフラン。内心、尊敬はしているし憧れてはいるが、ハヤトの事を好きかどうかと聞かれれば、まだ分からなかった。答えられなかった。ただ、ハヤトの瞳に見つめられると、胸の鼓動が高鳴る。それは事実だった。
「本当に好きならさ。」
「はい?」
「好きっていいなよ。生きてるうちにさ……なんてな。」
にかっ。と悪戯っ子の様な笑みを浮かべた顔。その子供っぽい表情にはフランは見覚えがあった。
(なるほど……きっとこの方も、ハヤト様と同じなのですね。)
生きていてくれてありがとう。と強く抱きしめられた時の事を思い出す。あの時のハヤトの熱が、死人同然になっていたフランに再び熱を灯した。彼女だけではない。黒国に滅ぼされかけていたこの国を持ちなおしたのもハヤトだった。
ムラサメガンダムとハヤトは、この国の象徴なのだ。反抗と希望の象徴。怒りの体現者。それはまさしく、”ガンダム”が人々の希望や夢や理想を体現する兵器としての有り様を示していたのと同じ。それは祈りに近いのだろう。ガンダムという名に込められた、静かな祈り。
______黒国との再戦は近い。
次回に続く
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