※この作品はR-18です。

『プリズムの瞳』 機動戦士ガンダムビルドダイバーズ   作:ビルダー林檎

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第19話『最後のピース』

――赤の国 城内。

薄暗い城の中、陽の光だけが部屋の中を煌々と照らす。時刻は15時をまわっているだろうか。フランが木製のテーブルの上に地図を広げ、部屋に集まる各国のパイロットの目を見据えながら口を開いた。

 

「作戦を説明します。」

 

フランのよく通る声が室内に響いた。コロニー落下阻止のプランを各国家のガンダムパイロットに説明する。

 

「コロニーの落下を阻止するため、可変機構を持つオルタナガンダムとムラサメガンダムを宇宙に打ち上げます。」

 

「まず始めに、この赤の国において宇宙への打ち上げは未だかつて前例がありません。」

 

 

「……だからこそやるしか無い。あのコロニーが落ちればアリアンも他の国も全滅は避けられない。必ず、必ず成功させよう。」

 

 

彰人がみんなを鼓舞する。その様子を見て隼人は満足げに目を細めた後、フランが更に説明する。

 

「宇宙への打ち上げには可変形態に固定したアキサザメをムラサメガンダム、オルタナガンダムの後部ブースターに接続、白の国にあるとされるマスドライバーと呼ばれる施設を使い、成層圏まで打ち上げた後に切り離します。」

 

「ムラサメガンダム、オルタナガンダム両機は宇宙に向かいコロニーの支柱を切り離す、若しくは姿勢制御の点火ブースターを起動させコロニーの軌道を変更させて下さい。」

 

「俺たちは何すればいいんだ?」

 

 

小狼が口を挟む。疑問に思うのも当然だろう。大破したツァーリやカイネのファルシオンでは宇宙には行けない。何故この場に呼ばれたのか、小狼もカイネも不思議そうにアキトを見つめた。

 

「君たちは、俺達が宇宙に行っている間は黒の国を押さえておいて欲しいんだ。既に敵のパイロット一人は小狼が倒したが、ガンダムテンペストのパイロットは生きている。自己再生能力があるからだ。」

 

「やっぱりあの男は生きているのか。面倒な奴だぜ。」

 

 

小狼がやれやれ、と呆れたように答え、カイネもどこか腑に落ちないような表情を浮かべていた。腕を組み、考えこんでいる。

 

 

「アキトさんのオルタナガンダムやボクのファルシオンの相転移粒子の突撃でも倒しきれないなんて‥‥。」

 

カイネの独り言を補足するかのように彰人が説明する。

 

 

「良いニュースとしてガンダムテンペストの解析が完了した。この国の技術者達によってな。奴の再生能力はナノマシンによるものだ。このナノマシンによる再生能力は脅威だが完璧じゃ無い。」

 

 

「何故なら、ガンダムテンペストは外側の装甲や武装は再生出来るが、中の機械部分は再生が効かない。単純な構造の弾や質量剣は再生出来る一方で、複雑な機構を持つ装備はナノマクロファージと呼ばれるナノマシンの改良型でも対応しきれない。」

 

彰人が復帰した事により、ガンダムテンペストの解析が完了したことは、コロニー落下阻止に向けて大きな足がかりとなった。壊れても再生するナノマシン機能。これをオルタナガンダム、ムラサメガンダムの可変部分の素材に組み込む事により少々の破損でも可変機構を失わずに済む。

 仮にコロニー落下阻止に成功したとしても、可変機構が無ければ大気圏突入は出来ないからだ。MS形態でも不可能では無いのだが、空力加熱による破損のリスクが大きすぎる。

 

「つまり、中の機械部分の修理や交換が終わるまでは戦線に復帰出来ない。宇宙に行っている間は攻撃しては来れないだろうが、部品が治ったら妨害してくる可能性が高い。」

 

「だからカイネや小狼は、普段どおりでいい。黒の国からこの国や自分達の国を守ってほしい。小狼にはガンダムテンペストから入手した素材を元に新しいMSを用意した。—-これだ。」

 

彰人は窓から場外に見える滑走路を指差す。そこには、黒と金色を基調としたカラーリングのMSが立っていた。両手には大振りの黒色に輝く太刀を持ち、いかにも接近戦用。といった風貌だった。

 

「こいつは?」

 

「こいつは、ガンダムモナク(モナクとは君主の意味)だ。テンペストと同じく再生機能はある。大太刀だけだがな。」

 

「大太刀だけかよ……。」

 

「不満か?」

 

「いや、十分だ。」

 

「なら良かった。モナクとファルシオンが要になる。頼んだぞ。」

 

「はい!アキトさん、ハヤトさんも頑張って下さい!」

 

 カイネが明るい顔で答える。こういう素直なところもアキトやハヤトは嫌いではなかった。彼の様に場の空気を和ませる男が白の国の王子で無ければ、この三国同盟は険悪になっていただろう。

 

「ああ、カイネも元気でな。大丈夫、俺達なら直ぐに戻る。」

 

「はい!」

 

 

カイネが威勢良く返事をする。どうやらやる気は十分の様だった。

 

「ではこれで説明を終わります。ガンダムパイロットの皆様には軽食を用意してありますので、慎ましくはありますが、御歓談下さい。」

 

 はきはきとフランが淀みなく答える。彼女にしては珍しく少しだけ、頰が緩んでいた。何故ならこの軽食はこっそり彰人と隼人が作ったものだったからだ。異世界という事実は伏せたが、別の大陸の料理としてフランには説明をしていた。

 

 フランは当初懐疑的ではあったが、料理を一口食べた途端にその態度は崩れた。美味しいです。と本当に喜んだ表情には彰人も隼人も作ってよかった。そう感慨深く思ったものだった。

 

作戦の説明が終わり、和やかな雰囲気が城内に流れる。宇宙へ行く前のささやかな楽しみだった。

 

「小狼、これ美味いぞ。食うか?」

 

彰人が皿に乗った天ぷらを差し出す。魚は新鮮だが、衣はいまいちだった。

 

 

「いらん。飯よりも俺は早くあのMSを見たい。駄目か?」

 

 小狼は食べ物には全く目もくれず、ちらりとガンダムモナクを盗み見る。その様子は新兵器が待ち遠しい男の子の態度そのものだった。その子供っぽい様子に彰人は思わず笑みをこぼす。

 

「何がおかしい。」

 

「いや、小狼らしいと思ってな。」

 

「馬鹿にしてんのか?」

 

「違う。嬉しいんだよ。こっちにもモビルスーツ馬鹿がいてさ。向こうにもお前そっくりな顔で、モビルスーツが好きな奴がいるのさ。」

 

小狼の背中をバンバンと叩く。彼とはあのテンペストとの戦い以降、打ち解けることが出来たのだ。小狼も彰人の強さを認めていた。だからこうして軽口がたたける。それは素直に嬉しいことだった。

 

「やっぱ馬鹿にしてんじゃねぇか。」

 

 そう言い返す小狼の顔も柔らかい。昔の彼ならば、突っかかるだろうが、それをしない。認め合った男同士の友情がそこにはあった。

 

「む?なんだここは?ここが異世界?というものなのか。」

 

 彰人と小狼がじゃれていたその時、突如女性の声が赤の国の城内に響く。声の方を見る二人。きょろきょろと辺りを見渡すその女性は彰人がよく知る人物の姿だった。彰人は一瞬目を疑う。ありえない。何故?そんな疑問ばかりが彼の頭をよぎる。

その疑問が思考に留まらず、つい声に出てしまう。

 

「は?沙雪?」

 

「ん、どうした?……!!!」

 

突然の来訪者を受け入れられない彰人と、沙雪の姿を見て立ち尽くす小狼。彼の端正な顔が赤く染まる。

 

 

「おお〜!彰人!彰人じゃないか。本当に居たんだな!」

 

 

沙雪がにこやかな笑顔で手を振りながらこちらに駆け寄って来た。しかもこの世界では見慣れない着物姿だ。呆気に取られた彰人が対応する暇も無く小狼が彰人の横を駆ける。彼はそのまま脱兎の如く沙雪の前に近づくと傅き言い放った。

 

「……惚れた。結婚してくれ。」

 

「「はあ!?」」

 

  小狼に傅かれた沙雪が驚きのあまり呆然と立ち尽くす。一方その頃、フランは隼人が作ったたこ焼きを私のですから!私のですから!と主張し、誰にも渡さず頬張っていた。しかし小狼の光景を見て不覚にも吹き出してしまう。床に飛び散るたこ焼き。その様子を見て食べ物を粗末にされたと感じた隼人が静かに怒りを込めながらフランに近づいた。

 

「フラン。行儀が悪いのは良くないね。どうしたのかな?……な、ななな。あの方はまさか。いや嘘だ。」

 

 フランに注意しようとした所だったその時、突如現れた沙雪の姿を見て固まる。彼にとって沙雪は近所の怖いお姉さん的存在であり、彰人が一緒でなければあまり積極的に関わりを持ちたく無い女性だった。しかし当の沙雪本人はそんな彼らの思惑を知ってから知らずか自己紹介を始める。

 

「彰人に他の皆さん。はじめまして。私は十和田沙雪。護国神社の一人娘で訳あってここに来た。よろしく頼む。」

 

「神社?」

 

 

 小狼が疑問を口に出す。普段飄々と人の意見を流す彼が他人に対して質問するという行為は珍しいことだった。

 

「神を祀る宗教施設だ。私は……そうだな。巫女のようなものだ。」

 

(おいおい、何が巫女だよ。お前は鬼女だろ。)

 

 

 心の中でそう呟くも決して顔には出さない。気の強い彼女にそんな野暮な突っ込みを入れるのは自殺行為に等しいと彰人は考えていたからだ。

彰人は幼い頃の思い出を回想する。

 新潟には「はんごろし」という餅がある。これは良くついた餅。という意味である。ちなみに中に餡が詰まった餅を「みなごろし」という。

彰人は幼少の頃沙雪と喧嘩した際、沙雪が怒りの表情を浮かべたまま薙刀を持ち。「これではんごろしにするか‥‥」と、呟いていたのを思い出した。あの頃は何かあると良くはんごろしにされそうになったものだ。

 

「巫女……その、なんだ、つまり伴侶はいないのか?」

 

 

小狼が尚も引き下がらず沙雪に質問する。

 

「ああ。今はな。だが、近い奴はいるぞ。」

 

 

沙雪は言い終えると小狼に顔を向けて笑う。彼女なりにさり気なく釘を刺したのだが、小狼は気にしていない様子だった。

 

「良い女に男がいるのは当たり前だ。それを踏まえた上で俺と結婚してほしい。約束する。俺は全世界を敵に回しても君を守ると誓おう。」

 

そう宣言すると小狼は沙雪の手の甲に軽いキスをする。みんなにも見せたことの無い態度で沙雪に迫る小狼。ギャップのありすぎる光景に彰人達は吹き出しそうになるが、彼は心底真面目なのだ。仮にも一国の王子なのだ。こうした口説き文句は意外にも様になっていた。それがかえって面白いのだが。

 

(ふむ。どうしたものかな。あいつには無い強引なアプローチだが……。)

 

沙雪は一瞬腕を組み考え込む。小狼の見た目は彼女にとっては好ましいが、獲物を狙うかの様なその肉食獣めいた瞳は好きになれそうに無かった。

 

「申し訳ないが、やはり私は君の申し出を断るよ。」

 

 

沙雪は小狼の顔を見ながらきっぱりと答える。

 

「なら、ここにいる間だけは好きでいても良いか?」 

 

 

小狼が尚も真面目な顔で食い下がる。その真剣な眼差しは沙雪を一瞬だけどきりとさせた。が、先日の総一郎の顔と唇の感触を思い出し冷静になると沙雪は小狼の威圧的な態度に屈せずに言葉を絞り出した。

 

「構わないが、私の気持ちは変わらないぞ。」

 

 

その言葉には多少の毒があったものの、どうやら小狼は納得してくれた様だった。

――赤国 城内 夜

宇宙への旅立ち前の懇談会が終わり時刻は夜になっていた。赤の国は気候上強く冷え込むことは無いが、それでも時々はこうして冷たい風が吹く。

そんな冷たい風が吹く夜のバルコニーで隼人とフランの二人は一緒に歩いていた。

 

「最近は夜風が気持ちようございますね。ハヤト様。」

 

フランが風に靡く髪に触れながら、隼人に問いかける。

 

「ああ、そうだな。」

 

彼女の言葉に答えるも隼人は心中穏やかでは無かった。

 

(元の世界か……姉さんは、どうしてるのだろうか。)

 

 

姉の文香の事を思い出す。優しかった姉。いつも自分の事を第一に考えてくれた家族。あの柔らかな笑顔が隼人は今更になって恋しくなった。

沙雪がこちらの世界に来たことにより、サイコデバイスの話を聞いた隼人。この世界と元の世界を仮に行き来出来るのなら。

 

「ハヤト様?どうかされましたか?顔が暗いですが。」

「フラン。話を変えてなんだが……君はこの世界が好きか?」

 

隼人が真面目な表情でフランに問いかける。

仮に元の世界に戻れるのならば、帰れる方法があるのならば、せめてフランだけは隼人がいたあの世界で生きていて欲しいと隼人は願った。いつ命を落とすか分からないこの世界よりも平和な日本で生きていて欲しい。そう考えていた。言葉については隼人が日本語を彼女に教えていた。生活するだけなら問題は無いはずだ。

 

「随分と突然な質問ですね。そうですね……私は好きですよ。」

 

歩みを止め、フランが考えている。隼人の質問に多少面食らった様だったが、気を取り直してゆっくりと答えた。思慮深い彼女なりの意見だった。

 

「もしもの話なんだが、仮にこの世界よりも平和で技術も進んでいて人々が安心して暮らしている世界があったとしたら……君はそこに行きたいか?」

 

「それは、ハヤト様の元の世界の話でしょうか?」

 

「……!?まさか、君は。」

 

 

仮定の話を見透かされたかの様に返答されたので思わず驚く隼人。

 

「ふふ。冗談ですよ。でも時々ハヤト様もアキト様も、まるで別の世界から来たかのような話をされますから。あの女性の方も、ハヤト様がいた大陸から来られたのですよね。本当に愉快な方。」

 

 

まさか、あの青の国の王子が求婚するなんて。一言付け加えながらフランは楽しそうに答える。隼人が久しぶりに見るフランの笑顔だった。

彰人が来て戦力的に余裕が生まれてからというもの、時々フランがこうした顔を見せてくれるのは良い傾向だった。

 

「でも、そうですわね。仮にその世界があったとしても、私はこの世界が嫌いになれません。」

 

「……だって、ハヤト様が守って来られた世界ですから。」

 

そう言ってフランは隼人に近付くとそのまま体を優しく抱き締める。フランの柔らかい体と、健康的な女性の香りが隼人の鼻をくすぐった。

隼人は嬉しかった。彼女の笑顔を見ていると、自分の今日までの頑張りが無駄では無かったと思えた。その笑顔を見た瞬間、彼の決意は固まる。迷う余地など無かった。

 

微笑みを浮かべ、フランに優し気に語りかける。

 

 

「君のおかげで、覚悟が固まったよ。」

 

 

隼人は覚悟を決めた男の表情をしていた。

この世界で生きると決意をした以上、出来る事をやるしかないのだ。彼がこの世界ではじめてしまったことは、彼自身の手で終わらせなければならない。

 

「ふふ。久しぶりに、笑ってくださいましたね。……ハヤト様には笑顔が一番似合います。」

 

隼人の瞳を見つめながら答えるフランの表情は柔らかい。それは従者という関係や、恋人という関係を超えた繋がりがあった。4年。敵を殺し、仲間が殺され、戦争という命のやり取りを潜り抜けた隼人とフランだからこそ築けた関係だった。

 

(隼人も大人になったか……!)

 

 

(あの少年が、あんなに精悍な男になるとはな。男子三日会わざれば刮目して見よ、だな。)

城の壁に隠れる様に彰人と沙雪がバルコニーにいる二人の逢瀬を覗き見る。決して盗み聞きをしようとしたのでは無い。彰人と沙雪が小狼のアプローチをのらりくらりと躱しながら歩いている時にたまたま二人の逢瀬を見てしまった。そんな時に言葉をかけるほど沙雪は野暮では無かったし、また彰人も隼人が女の子と一緒にいる時どんな話をするのか気になったのだ。

 

‥‥この時の彰人と沙雪の表情はそっくりだった。

流石、従兄弟同士と言えるだけはある。

赤の国の夜は長い。明日宇宙へと旅立つ隼人にとっては決戦前夜だ。無事に帰って来られる保証もコロニーを破壊できる確証も無い。

しかしこの国に来てから、隼人とフランの関係を見続けていた彰人にとっては彼らの間に「そういう事」が起こると期待していた。

実際には純粋な二人の間に進展は見られない。

勿体無いな。と思いつつも彰人は向こうの世界にいる文香と総一郎、エリック達の事を思い出していた。この世界のコロニーが落ちれば技術情報部のみんなや地球の人にも影響が出るかも知れない。

 

 

(必ず、必ずあのコロニーを壊す。絶対に。)

 

 

彰人もこの世界における自分の役割というものを自覚しはじめていた。

 

 

 

第20話に続く

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