『プリズムの瞳』 機動戦士ガンダムビルドダイバーズ 作:ビルダー林檎
「あれがマスドライバーか……随分と大きいな。」
彰人達の目の前に荒野が広がる。
マスドライバーと呼ばれる宇宙へと向かうための施設を眺めながら、彰人はオルタナガンダム(ハミングバード形態)のコックピットの中で呟いた。
沙雪が持ってきたペーネロペーとその余剰パーツで組まれた追加装備は、オルタナガンダムとムラサメガンダムに宇宙へと旅立つための翼を授けた。
ハミングバードとはガンダムセンチネルに登場するMS「Zプラス」に追加装備を施した機体である。
本来は武装の追加と機動力の向上を図られた機体だが、その過剰とも呼べるブースターとスラスターの追加は、宇宙に打ち上げるには最適の装備といえた。白い翼を持つ3機が大陸の空を駆ける。
赤の国を出発してから数時間。白の国へ向けて3機のMSが発進した。オルタナガンダム、ムラサメガンダム、ペーネロペーの各機はマスドライバーを目標とし青空の中を飛び続ける。
「はい。かつてガンプラバトルが行われていた頃に宇宙へとガンプラを飛ばすために作られたそうですよ。」
彰人と同じくハミングバード形態になったムラサメガンダムに乗る隼人が答える。その口振りは軽い。宇宙へと向かうのが楽しみなのだそうだ。
「この国の技術力も侮れないな。」
「はい。もう少しで白国に着きます。既にカイネを通して話はつけてありますから、このまま離陸しましょう。」
「それにしても……。」
彰人はちらと視線を移す。2機に随伴するかのように横にいる白鳥の様に白く美しい機体、ペーネロペーを見る。気にするのはその機体では無い。問題はパイロットの方だ。
「何だ?私がいるのが不満か?」
その視線を感じたのか、沙雪が不満の声を漏らした。
「いや、まさかペーネロペーが付いて来るなんてな。そのペーネロペーはまさか……。」
「そのまさかの総一郎が作った機体だ。性能は十分だろう。私にはガンプラバトルの経験は無いが、任せておけ。」
沙雪は何時ものような自信のある口調で答える。
恐らくコックピットの中では腕を組んでいるに違いない。と彰人は思った。
「本当に大丈夫なのか?今ならまだ……。」
「くどい。どの道、敵が来ないとも限らない。味方の量産機とこのペーネロペーで、君達の機体を宇宙に上げる手伝いをしなければならないだろう?」
「ありがとうございます。沙雪さん。」
隼人が沙雪に礼を述べる。こういう年上に対する敬意を彼は持ち合わせていた。
(なんだ、隼人の奴、沙雪とも普通に話せるようになったか。……少し見ない間に、大人になりやがってまったく。)
彰人が心の中で感心する。幼い頃の隼人はもっと大人しい少年だったのだが、四年という歳月は少年を大人にするのには充分な時間だった。苦手だった沙雪とも臆する事なく会話が出来ている。
「ほら、予想通り敵がいたようだ。君達は任務に集中しろ。」
見ると、白の国の国境周辺ではガフランと白の国の量産型MSであるニベアルが戦闘を行なっていた。マンロディを白く塗装した外見のニベアル。
ナノラミネート装甲を持ちビームに耐性があるニベアルは、黒の国のガフランと良い勝負をしていたビームが主武装のガフランではニベアルを撃ち抜けず、ニベアルも両腕に装備したサブマシンガンではガフランに有効打を与えられない。そこへ揉み合いになった両機の間隙を縫うかのように沙雪のペーネロペーがファンネルミサイルを放つ。
機体各所から射出されたファンネルミサイルが滑らかな軌道を描きガフランを堕としていく。
優秀なビルダーである総一郎作のペーネロペーと、バトルのセンスがある(と思われる)沙雪の組み合わせは中々に相性が良かった。
「頼んだぞ。沙雪。」
「お願いします。どうか御武運を。」
オルタナガンダムとムラサメガンダムの両機はマスドライバーへと進路を向け加速する。
ハミングバードの両脚にはアキサザメが追加ブースターとして備え付けられ、暴力的なまでの航行速度に至っている。この二機に追いつける機体はこの世界にはいないだろう。数十分の後、両機はマスドライバーへと辿り着いた。
「よし!マスドライバーに到着!離陸準備だ。隼人!」
「はい!ムラサメガンダム、オルタナガンダム!マスドライバー接続完了!行きます!」
マスドライバーへと到着した両機は減速したのち、カタパルトへ着地すると同時に宇宙へ向けカタパルトが唸りを上げ両機を宇宙へと打ち上げる。
打ち上げられた両機は更にブースターを吹かす。地球の重力を振り切らんと加速する両機。もはや目で追う事すら難しい速度だった。
「コロニーは任せたぞ。二人とも!」
宇宙へ向け離陸した2機を横目で見ながら、沙雪はマスドライバーへと向かう敵機に向けて続けざまにファンネルミサイルを発射した。
射程範囲内にいる迂闊なガフランを次々と火球に変えていく。サイコミュ対策のないこの大陸のMSでは、ペーネロペーの相手は不可能だと言えた。
一方その頃、地球の重力を振り切り成層圏を抜け、惑星の重力から解放されると共に二人の目の前に真っ暗な宇宙が映る。ーー光、音、空気といった生命が生きる要素は無く全てを飲み込む暗黒が辺り一面に広がる。
「太陽の方は見るなよ。隼人!目がやられるぞ。」
「分かりました。」
念の為、太陽の方は向かない。失明の可能性があるからだ。宇宙は2人にとっては生まれて初めての世界だが不思議と恐怖はなかった。2人の背後には惑星が見える。青く美しい星。その星は地球によく似ていた。宇宙から地上を眺めると、隼人達の住む大陸がとても小さく見える。
「これが僕のいた世界……!」
隼人が感嘆の声をあげた。この世界の宇宙空間はGBAでの仮想空間である宇宙ステージとは大きく勝手が違う。
機体各所に備え付けられた姿勢制御用スラスターがオートで作動したおかげで2人は宇宙という海原で溺れずに済んだ。そんな中、彰人はオルタナガンダムのモニターを確認する。
モニターを覆い尽くすほどの巨大な反応。
ーー目標のコロニーが表示されていた。
(壊せるのか?こんな大きなものを……いや、弱気になるな。やるしか無いんだ。これを壊して、僕はみんなの所に帰るんだ。)
隼人は圧倒されていた。本来は人が何千万と暮らせるはずのコロニー。これを破壊しないといけないのだ。方法はあるとしても、実行可能なのか不安がよぎる。失敗すれば確実に大勢の命が失われるだろうという責任が2人の背中にのしかかる。
「隼人!時間が惜しい!やるぞ!」
「はい!彰人さん!」
2機がコロニーに侵入せんと接近する最中、突如MSが姿を現した。急停止する2機。恐らくはコロニー内部に潜んでいたのだろう。
ハミングバード形態の2機とほぼ同速で近づく機体。機体が近づくとはっきりとそのシルエットが露わになる。ストライクフリーダムをベースにしたカスタム機。彰人はこの機体に見覚えがあった。
「この機体は……まさか!?」
忘れたくても忘れられない。彰人の脳裏にべったりとこびり付く苦い思い出の象徴。世界大会優勝者の使用した機体ーーHi-Sガンダム(ハイエスガンダム)
ストライクフリーダムにνガンダムを彷彿とさせる白と黒の配色を施したモノトーンカラーの機体が目の前に立っている。
その佇まいには強者の余裕があるが、傲慢さは感じられなかった。純粋に強さを求めた機体。無駄を削ぎ落とし、勝利という唯一の目的のために研ぎ澄まされた美しい機体。
「世界チャンピオン!未来さんなのか!?」
驚く彰人だが無理も無い。世界大会優勝者は大会の後、意識不明となった筈だ。
(……意識不明?まさか、そんなまさか。)
「久しぶりだね。準優勝君。」
オルタナガンダムのコックピット内に聞き覚えのある声が響く。思わずビクリと身構える彰人。
そんな彼の様子を知ってから知らずか、世界チャンピオンーー遠野未来は彰人へ言葉を投げかけた。
第21話へ続く
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