※この作品はR-18です。

『プリズムの瞳』 機動戦士ガンダムビルドダイバーズ   作:ビルダー林檎

28 / 33
Side Story 「あの日、あの時」

「何なんだ?全く。」

 

 ボクは愛機のシルベリアアストレイの表面処理をしながら一人呟く。総一郎曰く、彰人がバトルの途中に変な目にあったらしい。何でもバトルの最中に体がしびれただの、感覚が狂わされたのだそうだ。

 

「ハッ!そんな馬鹿なことが。」

 

 流石にジョークの類だと思ったが、ボクは昔ガンプラバトルをやっていたという男から不思議な話を聞いたことがある。‘アシムレイト‘という現象に似ているなとボクは思った。何しろ勘は鋭い方だからね。

 

「アシムレイト……か。」

 

 何でもバトルの最中にガンプラと自分の意識が繋がり機体の操作が敏感になるのだという。馬鹿な話だ。と最初は笑い飛ばしたが、何でもガンプラバトルの初代チャンピオンをはじめ、そういった能力を持つ人間は多々いるらしい。何より昔はガンプラバトルの為の強化人間紛いの技術まであったというのだから驚いた。そんなアニメみたいなことが現実にあるなんて!

話を聞いた時、ボクは興奮したのを覚えている。そして興奮しているところを椿に見られて引かれたのも覚えている。全く嫌な思い出だ。

 

(ふう。これで良し、と。)

 

 ボクはシルベリアアストレイの改修を終える。ガンプラバトルで傷ついた機体の修復にはパテとプラ板で補修。剥げた塗装を再塗装。さらに隠し腕と各関節の可動域を拡大するためにやすりで装甲を少しばかり削り整える。彰人との再選に備えて作った機体。名付けて、シルベリアアストレイ・改だ。

 

(ふふ。次こそはボクが勝つよ彰人。だから君が消耗することは無いんだ。)

 

「何を一人でにやにやしているのですかエリック。気持ち悪い。」

 

「うっ!つ、椿ッ!いつからそこにいたのだい?気持ち悪いとは失礼じゃないか。」

 

 誤算だった。まさかガンプラを、しかも彰人のことを考えているところを椿に見られるとは。

 

「椿、まさか君はミラージュコロイドを習得したのかい?」

 

「は?馬鹿な事を言っていないでそこどいてください。掃除の邪魔です。」

 

 椿は無表情のまま冷たく僕をあしらうと掃除をはじめる。くっ!こ、この女。許せん!と思うのなんて嘘嘘。ボクと椿の間柄だからこそ、こういったやり取りが出来るのさ。それに何よりボクは気が長いからね。この程度で腹を立てるほど馬鹿じゃないさ。

 

 椿の両親が事故で無くなって以来、ボクのパパが彼女を養子として引き取ってから彼女とは本当のファミリーの様に接しているつもりさ。だけど彼女が頑なにメイドとして働きたいなんて言うものだから、こうして疑似的に雇用しているというのに。椿のわがままを黙認しているというのにこの女は全く。

 

  許せないけど、ちょっとかわいいからつい許してしまうなんて事は断じて無い。実際彼女の家事のスキルは高いから、こうして大目に見てあげているだけなのさ。ボクは器の大きい男だからね。ボクは掃除を続ける椿に話しかける。仕事中に声を掛けられるのを嫌がる彼女だけど、ボクにも引けない理由がある。

 

「椿、君の頼みでも今はどけないのさ。ボクは彰人との再戦の為に機体をつくらないといけないからね。」

 

「またガンプラですか。いいですけど、ほどほどにして下さいね。」

 

「ああ。理解してくれて嬉しいよ。」

 

「はいはい。」

 

「……椿。」

 

「何ですか?」

 

「彰人の事、どう思う?」

 

「彰人様……ですか。まあ、いい男の子だと思いますよ。顔も、性格も。エリック様と違って女の子のために何が出来るかを考えることも出来ますし。」

 

「最後のは心が痛むから記憶から消すとしても、やはり君から見ても良いやつに見えるか。」

 

「ええ。彼は良い男です。この間はっきりと分かりました。」

 

「あの変なボードゲームの時か。」

 

「あの時、冗談で彰人君に色仕掛けを掛けてみたのですけど、彼は私の意図を理解した上で拒んでいましたよ。それはきっと文香さんを愛しているから。」

 

「彼は一人の女の子を愛せる男です。誠実で、それでいて優しい。女はそういう優しさを持つ男に惹かれるものです。」

 

「そ、そそそそそそ、そんなことしてたのかい!!?」

 

「気づかないあたりが、貴方と彰人君の違いですよエリック。」

 

くっくっと椿がおかしそうに笑う。その悪戯っ子の様な表情がボクを狂わせるのに、当の本人はその事に気づいていない。

 

(く、くそう。ガンプラバトルだけでなく、女の子の扱いでもボクは彼と同等だというのか。流石はボクのライバル……器が大きいのさ。)

 

この話は深入りするとやけどしそうなので、話を変えることにした。

 

「椿、実は彰人が困っているらしいんだ。」

 

「また貴方のせいではなくて?」

 

「その話はやめてくれ。その話はボクの心に効く。」

 

「反省しているんですね。彰人君に怒りをぶつけたこと。」

 

「ああ。まさかあんな事情があるなんて知らなかったのさ。」

 

「反省が出来るところは、私は好きですよ。」

 

「嬉しいけど、今はそういう話じゃない。」

 

 ふう、と一息つく。ちょっと休憩しようかなと思った矢先に、椿が紅茶を煎れてくれた。こういうさりげない気遣いが本当に優秀な女なんだという気がする。椿の煎れてくれた紅茶を一口飲む、ダージリンの香しい香りがボクの鼻を刺激する。ボクの好きな紅茶だ。そしてボクの好みを知ってくれているのも、とても嬉しい。紅茶を飲みながら、ボクは考える。

 

(彰人の体の電流……まさか、アシムレイトなのか?)

 

 ボクは思い立つと同時にグランパに電話を掛けた。グランパもガンプラバトルの経験者だったから、昔の事情にも詳しいだろうと思って色々尋ねた。結果から言えば、アシムレイトという眉唾な能力は現にあったらしい。グランパが言うには、ボクのシルベリアアストレイも接近戦特化機だから、もしもボクがアシムレイトを使えたら更に強くなるのだそうだ。だけど。

 

「ボクはそんな能力に頼らなくても君に勝つつもりさ。そうだろ?」

 

 愛機のシルベリアアストレイを眺めながら呟く。もちろん椿に聞こえない声で。アシムレイトなんてレギュレーションぎりぎりの能力に頼るまでもない。ボクはボク自身の力で純粋に君に打ち勝ちたい。それが彰人のオルタナガンダムに対する敬意だ。

 

 

 

 

 そんな事をのんびりと考えていたころが懐かしい。人形供養祭の前日、ボクは目の前にいる変わった格好をした少年を眺めながらこう言った。

 

「君が夜のGBAの支配者と言われている……ん。なんて読むんだい?」

 

「燈夜。トウヤといいます。エリックさん。」

 

「なぜ僕に興味を持ったのだい?」

 

「貴方のシルベリアアストレイのフルアーマーが好きだからです。僕の、憧れだからです。」

 

「そうか……。嬉しいさ。それなら、一緒に戦うかい?」

 

「ええ。是非。神取彰人さんとも戦ってみたいです。」

 

「君も同じなんだな。」

 

 何故トウヤと名乗るこの少年が人形供養祭に来ているのか、そして何故ボクに興味を持っているのかは謎だが、その意志の強い瞳は信じるに足る人物であることは分かった。少なくとも、ボクが嫌いなタイプでは無い。だから一見怪しく見えるこの少年を信じようと決めた。

 

 人形供養祭から数日後、今度は、彰人が眠ったまま目覚めないという話を総一郎から聞いた。まあ、ボクは既に彼らが一線を越えたのを知って所謂そういうこと何だろうなと思っていたが、どうも事態は重かったようだ。

 

 文香クンの弟さんの隼人クンと同じように、眠ったまま目が覚めない。植物状態になってしまったのだろうが、ボクは信じている。彰人は目が覚めてまた何時もの様にボクとバトルしてくれるって。確信なんてない。根拠なんて微塵もない。

 

(だけど、彰人は強い人だから。きっとまた、戻ってきてくれる。)

 

 あの世界大会で彼が見せてくれた強さ。ガンプラバトルだけじゃない。彼はどんな状況でも諦めない強さを持っている。だから、きっと彼は戻ってくる。ボクは確信していた。そしてその確信は間違っていなかった。

 

 彰人が目覚めてから数日。ボクは彰人が療養している桐谷脳外科病院に足を運んだ。この潔癖なまでの清潔さは総一郎らしいなとも思う。廊下を歩いていると、偶然総一郎と会った。この間投げ飛ばしたせいでちょっとだけ会うのが

気まずかったけど、ボクは先にその事を総一郎に謝る。大人だからね。

 

決して椿にきちんと謝るべきですよとかあんなに真面目に取り組んでいる総一郎君に対してなんて対応を取るのですかとか怒られたからじゃない。ボク自身の意志さ。

 

「総一郎。この間はごめん。ボクもどうかしていた。」

 

 殊勝な気持ちでボクは総一郎に謝る。総一郎は一瞬驚いた顔をした後、やさしく微笑んでこう言った。

 

「僕のほうこそ、いきなり掴みかかってごめん。彰人と君の関係は知っていたはずなのに。だからさ、今度彰人とまたGBAで遊ぼう。」

 

 な、なんて良いやつなんだ。ボクは内心感動する。あのおどおどしていた総一郎がこんなにはっきりと意見が言えるだなんて。流石彰人の友人だとボクは感心した。総一郎に案内されてボクは彰人の病室に向かう。病室では、文香クンが彰人の顔を愛おしそうに撫でていた。そして穏やかな寝息を立てながら眠り込む彰人。その表情は満ち足りている。

 

 彰人と文香クン。二人の関係は本当に愛し合う恋人そのものだ。一緒に来た椿がはっと口に手を当てている。分かる、分かるよ椿。あの二人に僕たちが入り込む余地なんてない。

 

 ボクも君とあんな風になれたらいいなと思うけど、きっとボク達は今の関係の方がいいのだろうね。ボクは抜けているけど、それくらいはわかるさ。

 

「総一郎。ありがとう。彰人の顔が見れたから帰るさ。」

 

「え?いいの。まあ今は……文香さんが来ててあんな感じだからね。」

 

「入り込めないさ。あの空気は。」

 

「だよね。椿さんはどうするの?」

 

「私は、二人の元気そうな顔が見れたので十分ですよ。」

 

 椿も空気を読んでくれたのか、帰ることに賛同してくれた。いや。ボクが空気読めていないと彰人に言われたこともあったけどさ、今はちょっとは変われたかな?

 病室の帰る途中、頬を撫でる風が暖かい。どうやら春の兆しが表れたようだ。椿が昔言っていたが、日本の四季は確かに美しい。椿の名前の由来も、花が由来なのだと聞いたことがある。

 

「イギリスの景色も美しいですが、日本もなかなかのものですよ。」

 

 昔ボクにぽつりと漏らしたことがある。椿のその表情から彼女がややホームシックになっているということは察することが出来た。だからボクは日本に来た。彰人にも会いたかったし、この四季も見たかった。そして何より……。

 

「日本の景色は綺麗でしょう?」

 

 椿の髪が、美しい黒髪が風になびいている。確かに美しい。日本の四季もそして何より君も。

 

「エリック?どうしました?ぼんやりして。」

 

椿のまっすぐな視線がボクに突き刺さる。

 

「ああ、ちょっと彰人やガンプラのことを考えていてね。帰ろうか、椿。」

 

「ええ。帰りましょう。」

 

 ボク達はそうして帰り道を歩き出す。日本にいられる時間は少ないけど、けど、この美しい景色は一生忘れないだろう。イギリスに帰っても、また日本には遊びに来よう。ボクは改めて決意した。

 

 

 

 完

 

 

好きなガンプラは?

  • オルタナガンダム
  • シビュラブリッツ
  • シルベリアアストレイ シルバーフレーム
  • ペーネロペー
  • Reonガンダム
  • イージスアルケーガンダム
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。