『プリズムの瞳』 機動戦士ガンダムビルドダイバーズ 作:ビルダー林檎
「皆さんに紹介します。イギリスから来た交換留学生のエリック君です。」
朝のHRにて担任の柊 春希《ひいらぎ はるき》先生(29)が淡々と伝える。彼は昔からこの高校の教師で、中々彼女が出来ないのが悩みらしい。噂によると、まだ未経験なのだそうだ。細身な体型に190cmという長身のため、女子生徒からの人気はあるようなのだが、彰人には特に関心は無かった。先生の隣には金髪に青い瞳を持つ男子生徒が立っている。その落ち着いた佇まいは高校生にしては妙に大人びており、特殊な存在感を放っている。
「エリック君は交換留学生として、我が校に来ました。彼は日本語が話せますが、それに甘んじず英語でも話せるよう君達は語学を研鑽すること。いいですね?」
(おお、日本語が話せるのか。ハイスペックな奴だな。)
柊先生の紹介を聞きながらも、彰人はエリックから目が離せない。身長は彰人と同じくらいだろうか。顔も整っている。よく観察すると完全な外国人顔では無く、ハーフの様な顔立ちをしている。
そうやって何となく観察を続けていたら、エリックと名乗る少年が不意に口を開き、そのまま自己紹介を始めた。
「はじめまシて。エリックです。僕はイギリスのロンドンから来まシた。ファミリーには両親と妹が一人いマす。趣味は音楽を聴くこととです。1年間よろしくお願いします。」
その透き通った声は聞き取りやすく、聞く者の心を鷲掴みにするには充分だが、ややたどたどしい日本語でエリックは話す。彼が話し終えるとぱちぱちと教室中から拍手が起き、彰人もつられて拍手をした。
その後、昼休みになり、案の定というか何というか、エリックの机の周りには女子が集まっていた。いや、光に集まる虫のごとく群がっていたという方が正しいだろう。彼はあれだけルックスが良いのだ。当然、女子の興味を引くには十分だった。
「エリック君は髪がきれいなんだね〜さらさらだ。コスプレとかしたらきっと似合うよ〜!」
その女子達に文香が混じりエリックの髪を触っている。文香はそんなつもりはないのだろうが、その様子は彰人を少しばかり不安にさせた。
(……いや、男の嫉妬は醜いとは思う。だけどさ。)
文香が自分以外の男にあの笑顔を向けることが我慢できなかった。たとえ彼女にその気が無くても、彼自身は見ていていい気持ちはしなかった。
それは独占欲に基づく男のみっともない嫉妬ではあったが、ある意味では少年らしい健全な反応ともいえる。
我慢出来なかったのか、おもむろに彰人は椅子から立ち上がる。脇目も振らずにエリックに近づく。女子は何も言わず離れてくれた。ありがとな。と小さな声で彼女達に礼をいいつつエリックに正対。深呼吸をしていい放つ。
「エリックは、どうして日本を留学先に選んだんだ?」
「Why?どうしたんだい。」
エリックが素っ頓狂な声をあげた。何の脈絡もない質問をしたせいなのか、彰人に疑問の目を向けた。恐らく、理解が追いついていない。目をパチクリとさせる彼の瞳は、きれいに澄んでいた。
(こうして見ると随分、睫毛《まつげ》が長いな。)
西洋の彫刻の様に彫りが深く整ったエリックの顔に思わず見惚れる。彼のさらさらの金髪は純粋に美しく見えた。同性でありながらふと触ってみたい……とすら思える程に魅力的だった。
「ごめん自己紹介が遅れた。俺は神取彰人。趣味はトレーニングと‥‥部活。今は技術情報部の部長をやっている。よろしくな!」
「実はうちの学校での交換留学生って珍しくてさ。エリックが日本に来た理由って何か、聞いてもいいか。」
正直、その場凌ぎの口から出まかせではあった。同時に沢山あるはずの留学先に、あえて日本を選んだのか。その理由は気になってはいた。何かしらの意図が含まれているのだろうか。
「シキが、好きだから。」
「四季?」
何の迷いもなく答えるエリックに対し、彰人は予想していなかった答えに戸惑う。沈黙する彰人の前でエリックは言葉を続けた。
「日本の風景、文化、国としての成り立ち。そういうのが全部気になって、僕はそれを実際に自分の目で見てみたかった。というのは答えになるかい?」
「‥‥そっか。」
彼の方から聞いておいてなんだが、特に意外な事はない。
(普通だな。確かに俺もイギリスとか外国の文化に興味がある。それと同じで、知的好奇心を満たしたかったからなんだろうな。)
腕を組みながら、一人で納得する。
(でもどっかで見たような気がするんだよな。)
このエリックと名乗る外国人はどこかで見たような覚えがあったが、どうにも思い出せない。確かな既視感はあるのだが、彰人はそれを確認することはしなかった。違っていたら嫌だな、という遠慮と、まだこの男に踏み込めない、という彼なりの警戒心があったからだ。
「これからよろしくな。エリック。」
「よろシく。彼女と話しこんですまないね。」
綺麗な瞳を閉じてウインクするエリックの姿に彰人は警戒を解いた。思わず手を差し出す。こうした分かり易いボディランゲージを好みそうに見えたからだ。対するエリックも彰人の意思を理解したのだろう。その手を握る。
がしっ!と力強く握手を交わした。嫌味の無い、爽やかな二人の握手に文香やクラスメイトも満足そうに笑った。
(お見通しか…なるほど、勘の良さそうな奴で良かったよ。)
この時ばかりは彼も純粋にそう思っていた。放課後、部活の案内を先生に任された彼は部室にエリックを案内する。勿論同じ部屋を使う文香と総一郎も一緒だ。四人で廊下を仲良く歩き、部室にたどり着く。部室に入ろうとすると不意にエリックが口を開いた。
「ここは?」
「ああ、ここは俺たちの部室。取り敢えず中に入った入った。」
エリックを中に入れる。背が高いのか、入る時に小窓に頭をぶつけて痛そうにしている。先程は椅子に座っていたから分からなかったが、エリックは彰人が思っていたよりも背が高いのかも知れなかった。
「エリック君大丈夫!?」
気をつけなきゃだめだよー。といいつつ文香が濡れタオルを渡しエリックの頭に当てる。
「すまん。まずは椅子に座っててくれないか。」
一言謝った後、エリックを椅子に座らせる。椅子に座ったエリックは辺りをきょろきょろと見渡しており、落ち着かないように見えた。
(そういえば、ロンドンの学校にもこういった部活はあるのだろうか。)
ふと疑問に思う。技術情報部というか、コンピュータに関する部活はあってもおかしくないのだが。イギリスの事なんて全く分からない。
「あ。」
「ん。どうしたエリック?」
突然何か興味のある物を見つけたのか、素っ頓狂な声を上げるエリック。他の3人も驚いた様子だ。
「アキト。あれってガンダムかな?」
エリックは面白いものを見つけた!と言わんばかりに棚のガンプラを指差すと、やや興奮気味に聞いてくる。
「ああ、ガンダムだ…‥好きなのか?」
「実は父さんが日本のお土産で買って来て以来、僕も好きなんだ。日本にはやっぱり普通にあるんだね。」
「意外だねー。エリック君もガンダムが好きなんだ。」
文香がさも意外そうな表情を浮かべた。正直彰人も意外だった。まさかエリックがガンダムが好きだとは。何という偶然だろうか。でも確かに、機動戦士ガンダムWの様に、海外でも放送している作品はある。だからエリックが知っていても不思議では無いのだろう。彰人はエリックが同好の士だと知って少しだけ嬉しくなった。
「じゃあ。ちょっとだけやって見るか、バトル?」
本当は表向きの活動であるVRや仮想空間に関する技術を見せるつもりだったが、興味があるならいいだろうと判断し、エリックをGBAのバトルに誘う。これを機に乗ってくれるといいな。そんな淡い期待を込めて。
「OK。」
無事に彼の了解も得た。その答えを契機に彰人達は機器を準備する。部室はいつも整えていたから、準備なんてすぐに終わった。彰人と総一郎の几帳面さが報われた瞬間だった。
「おお!これは素晴らしい。」
机の前に並べられた機器の数々を前にエリックがはしゃぐ。特にGBA用のVR装置が珍しいのか、感嘆の声を上げている。
「この装置に……よっと、このヘッドギアを機械に繋げて被ると、GBAの画面に繋がる。」
装置を持ちながら彰人がエリックに説明した。イギリスにもこういうのはあるのだろうかとふと疑問がよぎるがエリックの反応を見るにはじめての様だ。
「素晴らしいね」
目をキラキラさせながらヘッドギアを被りはしゃぐエリックは、2人の目から見ても何だか子供らしく見えて意外だった。こういうのをギャップというのだろうか。文香が可愛い……と零すのを彰人は聞き逃さなかったが。
(まあ、クラスの女子は喜ぶだろうな。)
複雑な表情を浮かべる彰人とそれを見て苦笑いする総一郎。2人もエリックに続いてヘッドギアを被りGBAにログインする。蒼い光が視界を覆い、現実世界から架空の世界へと意識が旅立つ。
「エリック、総一郎。二人とも準備は出来たか。」
GBAの中で巨大な電光掲示板がちかちかと光る。表示されるミッションプランを前に彰人が2人に確認を取った。後ろに立つ2人は早くやりたいと言わんばかりに興奮した様子だ。
「ああ。僕は問題ないよ。」
「ボクもOK!」
「よし、それならやろう!」
彰人が画面を操作し、バトルに突入する。今回使用するガンプラは彰人がオルタナガンダム。総一郎はシビュラブリッツガンダム。ここまでは変わらない。彰人は肝心のエリックが何を選ぶのか気になり、彼の方を向いた。イギリスならGガンダムに登場するロイヤルガンダムだろうか。それか海外で放送されてあるウィングガンダムだろうと予想した。だが、その予想は大きく外れることとなる。
(エリックは……え?ベズ・バタラ?)
「べ、ベズ・バタラとは渋いね……エリック君。」
彰人と同様に総一郎が驚いている。思わず面食らった。2人が持つ数あるMSのコレクションの中からまさかフルスクラッチのベズ・バタラをあえて選ぶとは……。通にも程があるだろうと彰人は目を細めた。
「僕の叔父が昔ゲームで使ってた機体なんダ。」
「はは。叔父さん……詳しいんだな。」
気を取り直した彰人がバトルフィールドを選択する。今回のバトルフィールドは宇宙。前回の引き続きのミッションで、内容は機動戦士クロスボーンガンダムに登場する地球連邦軍の量産型F91と、ハリソン専用F91を倒すミッションだ。仲間にクロスボーンガンダムX1がいるおかげで難易度は比較的楽なミッションでもある。
「敵のF91の武器はビームがメインだから、オルタナガンダムと相性は良い。ベズバタラも木星の量産型特攻機ではあるが、基本的な性能は悪くないから大丈夫だろう。ビームアックスもあるから攻撃力もある。」
彰人が二人に説明する。総一郎とは何度もこのミッションをプレイしているから良しとしても、エリックはそうでは無い。そのため彼にもわかるように丁寧に説明した。
本来ガンプラバトルは対人戦が主流だったのだが、かつて”ブレイクデカール”という悪質なチートツールを用いたプレイヤーが多数いたために、GBAではミッション攻略型が大多数を占めている。しかも殆どが協力ミッションとなっている念の入れようだ。
ミッションの成功報酬も参加者に平等に配られ、強いプレイヤーも弱いプレイヤーも同様に報酬を受け取る事が出来る。これはガンプラバトルが塗装や表面処理といったリアルのガンプラの出来で性能が決まるため、こうした各ビルダーの技術力の差を埋めるために苦心して出来たシステムらしい。
「……よし。ゲーム始めるぞ。」
「ああ!2人ともよろしく!」
「ok!」
二人の合意を得たため、彰人はハンドサインを作った。部屋の隅で待機していた文香に合図をしてスイッチを入れてもらう。
——-ゲームスタート!
画面が切り替わり、真っ暗な宇宙が目の前に広がる。いつも思うのだが、これだけリアルだと宇宙恐怖症とか出ないのかと彰人はついどうでも良いことを考えてしまう。
(宇宙飛行士とか本当尊敬する。俺は絶対無理だ。ゲームとかGBAの仮想空間なら大歓迎だけど。)
「おっと。」
敵の量産型F91が急に迫って来たのでビームを回避し、振り返りざまにこちらのビームライフルを叩き込んだ。あっけなく爆発する量産型F91。正直難易度が高いミッションとはいえ苦戦はしない。他にも連邦のジャベリンが何回か迫ってきたが、その度にビームサーベルで叩ききったり、バルカンでよろめいた所を蹴りとばして倒す。総一郎やエリックも特に苦戦する事なく敵を葬っていく。
「簡単すぎたか?」
「いや、こんなものだと思うよ。」
総一郎も即答する。やはり慣れているプレイヤーは強い。適切なブースト管理に硬直の消し方などをはじめ、そもそも素人とは動きが違う。更に対応能力も高い。敵の攻撃を回避しつつシビュラブリッツガンダムのライフルが火を噴いた。
ライフル弾が直撃したジャベリンが火球に変わる。
「いい腕だな!」
「ありがと!彰人も悪くないよ。」
「悪くない?むしろ絶好調だよ。」
二人でそんな軽口を叩いていたら、ボスのハリソン専用F91が遠方から登場した。青一色に統一された機体が美しい。この機体は中々に手強いボスキャラクターであり、彰人達もこのミッションを始めた頃には何度かやられた事がある強敵だった。
「総一郎!エリック!F91のヴェスバーに気を付けろ!あれは掠っただけでもまずい!」
そうアドバイスしたのもつかの間、あろうことかF91はエリックのベズ•バタラに向かってヴェスバー発射の構えを取る。エリックに気付かなかったのは迂闊だったと彰人達は顔を青ざめた。
「まずい!ヴェスバーの直撃コースだ!」
総一郎が叫ぶ。二人で慌ててフォローを試みるがMEPEという分身能力を発動したF91を捉えるのは難しい。可変したオルタナガンダムでも簡単には追いつけないし、頼みの綱の総一郎も乱射されるヴェスバーを回避するので一杯一杯だ。そこら中に青い閃光を放ちながら無茶苦茶な軌道を描き続ける暴れ馬の様にF91が宇宙を駆ける。エリックも回避しているが、長くは持たないのではないか。そんな嫌な予感がした。
「「エリック!」」
F91の射線の真ん中に捉えられたエリック。
——やられる。二人が確信したのも束の間。
「えぇ‥‥?」
二人の前に信じられない光景が広がっていた。エリックが放たれた敵のF91のヴェスバーを全て回避した上に、正確にF91にビームを当てている。驚異的な速度のMEPEには反応するのがやっとではあるようだが、それでも対応が出来ていた。明らかに初心者の動きとは思えない軌道《マニューバ》。
(エリックの奴、あれは苦戦しているというよりも寧ろ‥‥。)
オルタナガンダムのコックピットで、彰人は腕を組み彼を観察する。
「遊んでるね、あれは。」
考え込む彰人の隣で、総一郎が冷静に分析し言い放った。
「動きの一つ一つに無駄が無いし、反撃のタイミングも的確だ。かなりの手練れと言わざるを得ないね。」
(エリックが?あいつも同じ……?なのか?)
「エリック!お前……このゲームやった事があるのか?」
堪らず彰人は声をかける。何故黙っていたのか、少し心に引っかかりを覚えた。この変則的なマニューバは何処かで見た覚えがあったが思い出す事が出来ない。
「さあ、どうだろうね。」
エリックの声には余裕が感じられる。F91の執拗《しつよう》な追撃をすいすいと回避するその様相は明らかに初心者では無いようだ。ならば何故2人に対して初めての様に振る舞ったのか。彰人は不思議そうな顔でエリックを見ていた。
(こいつは何なんだ?)
素直な疑問が頭を占める。デジャブの様な光景が広がるが、考えはまとまらない。
「終わったよ。」
エリックの後方で爆散するF91。F91は決して弱い機体では無い。それを易々と倒す彼は何者なのか。 バトル終了後、装置を頭から外し現実世界に戻る。堪らず彰人はエリックに尋ねた。
「エリック……お前は。」
見知らぬ転校生。得体の知れない男。その男がにやにやと薄笑いを浮かべている。こいつは何なのか。本当にただガンダムが好きなだけの男なのか。それにしてはあまりにも不審な点が多い。
「アキト君はさ、真面目すぎるんだよ。」
肩に手を触れる直前。エリックが吐き捨てるかのように答える。その突然の声の変化に思わず手が止まる。彰人は部室の空気が急に張り詰めた様に感じた。まるで真冬に水をかぶったかのような、池に落ちかのように背筋が凍る寒さ。彰人はそんな嫌な悪寒を覚えた。
視線をあげ、エリックの顔を恐る恐る覗き見る。
その顔は先ほど見せた柔和な表情では無い。侮蔑めいた表情を浮かべた知らない男の顔がそこにあった。その顔は怒りに満ちており心底軽蔑したと言わんばかりの表情だった。その表情を崩さずエリックが彰人に言葉を投げつける。
「まさか”世界大会準優勝者”があんなCPUの、しかも格下の敵に苦戦するなんて。がっかりだよ。神取彰人。」
氷のように冷たい目。敵意を持つ瞳。
(こいつ、俺を知っている?)
彰人はさっと後ろに下がる。嫌な感じがした。張り詰めた空気が更に緊張を増していく。
「本当の君はそんなものじゃない。‥‥何があった?」
彰人ににじり寄り、問い詰めるエリック。その体は溢れ出しかねない自身の感情を必死で抑えようとしているのか、小刻みに震えている。その彰人を睨む表情には彰人自身覚えがあった。
(この視線を俺は知っている。射抜くような、非難するようなこの眼差し。まさかこいつは。)
「エリック。すまないが俺は‥‥。」
「やめろよ留学生《アウトサイダー》喧嘩しに来たのか君は。」
不穏な空気を察知した2人の間に総一郎が割って入る。彼にしては珍しく怒りの表情を浮かべていた。総一郎のこめかみに血管が浮き出ている。
「彰人は”もう違う“んだ。巻き込むな。」
怒りを押し殺しているのだろう。彼なりに冷静に言ったつもりなのだろうが、圧力をひしひしと感じる。
「へえ?僕に勝ち逃げしておいて、かい?」
その態度に怯む様子を見せない。寧ろ、挑発的な態度でエリックは総一郎に対し微笑みを浮かべた。
「や‥‥やめなよ、みんな。エリック君も。」
見ていた文香も場をなだめようとする。しかしそれは返って逆効果だった。一瞬文香の方を向き巻き込んですまないとでも思ったのか申し訳なさそうな表情を浮かべたが、さっと戻り彰人を冷たく一蹴するエリック。
「日本に来たら、答えが得られると思ったんだけどな。僕の見込み違いだったようだ。」
「お前は……オースティンか。エリック・オースティン。」
“あの時”を思い出した。
それは彰人にとっては二度と思い出したくない嫌な過去だった。過ぎたと思っていた過去。忘れてしまいたい出来事。彰人は驚愕の表情を浮かべたまま固まる。その表情からは彼の思考も感情も何も読み取ることは出来ない。
(そうだ。こいつは世界大会で俺が……。)
忘れられない記憶が、粘ついたタールの様に彰人の脳裏を過った。
第3話へ続く
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