『プリズムの瞳』 機動戦士ガンダムビルドダイバーズ 作:ビルダー林檎
「どうだ!直撃だ!!」
コアユニットのシナンジュにエリックが放ったヴァルジキャノンの蒼い一撃が突き刺さる。大きな爆発と共にネオ・ジオングの巨体が爆炎に呑まれるのが分かった。その様子から伺うに中破、いや大破は確実だろう。
だが、彼等の期待は大きく裏切られる事となる。爆炎が晴れたと同時に、その逞しい腕が彰人達を捕らえようとまともや腕を伸ばして来た。
(……なっ!あの攻撃でも無駄なのか?)
彰人は攻撃を避けながら横目でちらりとネオジオングノワールを眺めた。コアユニットと思われるシナンジュは先ほどの攻撃で跡形も無くなったにも関わらず、あの機体は尚もその動きを止めない。不可解だった。
「そんな馬鹿な!?コアユニットは破壊したはずだ!何故動けるんだ……!?まさか!」
「"コアユニットがシナンジュ"だなんて、僕は一言も言っていませんよ?いやむしろ、シナンジュの方がサブユニットなんです。」
彰人の声に対し、敵のパイロットは冷ややかに返答する。まるでお前は何を言っているのだというように。その声の調子に彰人は軽い苛立ちを覚えるが、努めて冷静になる様己を律した。
「そんな事が……可能なのか?」
彰人が改めて疑問口に出すと同時にはっと結論に至る。GBAでは確かに不可能では無い。ルール上、大型MAの使用はチームを組む事が出来ない代わりに3機分のコストを費やす事が出来るからである。
彰人達は1チーム1000コストでMS3機を賄うのに対してソロで参加している敵のプレイヤーは1000コストを丸々1機に費やす事が可能だ。そして何よりもMAにコアユニットを定めなければならないというルールは無い。
(盲点だった。コアユニットを倒せば勝てるなんてルールは無いはずなのに……くそっ!)
態勢を立て直したネオジオンが彰人達に迫る。
何か使えるものはないかと辺りを確認するが、ヴァルジキャノンの余波に巻き込まれた1本以外はほぼ無傷のままだ。近くにいた彰人と総一郎に豪腕が襲い掛かった。
(流石にこれはキツイぜ!)
何本もの腕が機体を捕えようと迫る。紙一重で回避するものの、決定打になる攻撃が思いつかない。
何しろビームも効かない。ビームサーベルによる斬打撃も有効では無い。ネオジオングの堅牢な装甲は要塞を彷彿とさせる。
だが、一つだけ勝てる方法があるとすれば。あの攻撃しかない。プリズムガンダムに装備している、「Gのレコンギスタ」に登場するあの兵装であれば可能性はある。
「こうなったら一か八かだ!!エリック!また俺にヴァルジキャノンを撃て!!」
彰人は操縦桿を力強く握りながら叫ぶ。
「!?……正気か?いや分かった!キミを信じる!」
その叫びに答えると同時にエリックは引き金を引く。再度ヴァルジキャノンから放たれた蒼い閃光がプリズムガンダムに迫る。
「また同じ攻撃をッ!させませんよッ!」
彰人達の動きを察したネオジオングが全ての腕を使って防御態勢に入る。この咄嗟の判断ができると言う事は、このパイロットも中々の腕前であるという証明であった。
「今だっ!——フォトントルピード!!」
着弾する直前、プリズムガンダムが装備するパーフェクトパックの上部から幾多もの蒼い結晶が放たれた。美しい水晶の様な球体がネオジオングノワールに襲いかかる。機体に接触した面はまるで抉られたかの様な傷が付いた。フォトントルピードと呼ばれたその攻撃は、ネオジオングノワールの黒い装甲を削り取るだけでは無く消滅させているようだ。
「……馬鹿なッ!?なんですかその技は?装甲が削り取られたのか!?」
見たことも無い攻撃に大きく動揺した敵パイロット。その動揺が操縦にもあらわれたのか、一瞬だけネオジオングの動きが止まる。そして、その隙を見逃すほど彰人達は弱くは無い。
「もう遅いっ!」
後方のヴァルジキャノンから放たれた蒼い閃光がプリズムガンダムのミラーコーティングによって大きく拡散された。メガ粒子砲の光が放物線を描き拡散され、何本もの閃光がネオジオングノワールの露わになった可動部及び機関部に直撃する。少しずつではあるが溶解していくネオジオングの装甲。宇宙世紀において無敵と謳われる機体の最期が近づきつつあった。
「そ、そんなっ!僕のネオジオングが!」
「その機体は確かに強い!けどなっ!」
「"1人"ぼっちだけの力じゃあ限界もあるんだよ!」
「ぼっちっ……!!」
ゆっくりと黒色の巨人が力を失い、ゆらゆらと宇宙に漂う。ぼっちという彰人の言葉に心折られたのか、向こうからの反撃は無かった。
(一応警戒はしておくが、これ以上の追撃は無用だな。)
戦いの終わりを悟った彰人がプリズムガンダムの両手を下げる。同時にBattle ended と画面に表示された。バトルが終わった。残ったチームは彰人達のチームのみ。
——-つまり、優勝である。
優秀したという実感は後から湧いて来るのか、
沈黙の後、勝利を確信した彰人達が喜びの雄叫びをあげた。
「勝った……?勝った!勝ったぁぁぁぁっ!!」
「やった!やったぞぉぉ!賞金は僕らのものだ!」
「よぉーしよしよしよし!やったのさ!見てたかい椿!ボク達の勝利を!parfect game!!」
「おめでとうございます!映えある優勝はチーム「技術情報部」に決定いたしました!ーーではここからは、チームの中の代表者"1名"に賞金が配られます!」
一瞬、空気が凍る。
——-1名。そうアナウンスは流れていた。
つまるところ、優勝チームの中1名に優勝賞金が与えられる。先程まで歓声を上げていた彰人達がその言葉に思わず固まる。
「……1……名?」
困惑の表情を浮かべたまま、総一郎の表情が固まり動かない。信じられないのだろう。何しろあれほどまでに苦戦を重ねた後に掴んだ勝利なのだ。
ましてや10万円という一介の学生には十分過ぎるほどのポイントが手に入るのだ。
「そういうことか、総一郎、エリック……分かったな?」
彰人がある種の覚悟を決めた表情を浮かべたまま、2人に問いかけた。その問いの意味を理解できない2人ではない。
「ああ、分かっているさ。優勝チームの中から1名なら。」
「ボク達の中から1人を決めなければならないというのなら。」
「「「生き残った奴にその資格がある!」」」
三機のMSが各々の思惑を秘め、ビームサーベルを抜き臨戦態勢を取る。身内同士による最後の戦いが始まろうとしていた。
「で、結局彰人は負けちゃったんだ。」
桐谷脳外科病院の一室で文香は呆れた様子でいいながら、彰人の俯いた顔を眺めた。
「意外にも総一郎の奴が強くてな、負けたよ。」
「ふふ。残念だったね。」
「ああ。不覚だった……いや悔しいな。あいつがあそこまで力を付けているとは思わなかった。」
彰人はそう言うと、心底悔しそうな表情を浮かべる。文香はその様子を微笑ましそうに覗き込むと、
彰人の側に近寄る。身体が密着するほどに近い。 文香のシャンプーの香りが微かに鼻をくすぐる。
「そっかぁ。でも彰人は頑張ったんだから……えらいえらい。」
文香はそう言って、まるで子供をあやすかの様に彰人の頭を撫でた。
「おいおい、人を子供扱いするなよ。」
まんざらでもなさそうに、だが少しだけ恥ずかしそうな様子で彰人が答えると、彰人は文香の手から流れるべくそっぽを向いた。
「……大きな子供じゃないの。いや、どちらかというと子犬に似てるよねっ。寂しそうな時の顔とかっ、構ってもらえると嬉しそうにするとことかっ!」
「うるさいなぁもう。」
「……そうだ。そんなことより、おばさんから貰ったりんご剥いてあげるから待っててね!」
そう言うと、彼女は椅子から立ち上がり部屋の外に向かう。りんごを取りに行くつもりなのだろう。
「ああ。なぁ……隼人、お前の姉さんさー。何とかしてくれよー。最近俺に対してあたりが強くて困るぜ全く。」
文香を後ろ姿を見送った後、彰人は照れ臭そうに頭をかきながら隼人の顔を眺めた。睫毛の長い整った顔。文香を少しだけ男らしくした、そんな彰人の弟のような少年がすぅすぅと眠っている。改めてその顔を見る。分かってはいたものの、少しだけ心が痛んだ。
「赤国……か。やはりもう一度、あの国に行かないとな。あいつらのために。」
彰人は隼人の顔を眺めるのをやめ椅子から立ち上がるとそのまま窓から空を仰ぎ見る。ふと何気なく見た空は……不自然なほどに赤かった。夕映えなどという生やさしいものでは無い。
“真っ赤”である。まるで、世界の終わりの前兆の様な、禍々しい空の色をしている。
「何だ……?この空の色は……。」
不思議に思う間もなく、不意に病室が大きく揺れた。震度5か6はあるだろう。かたかたと病室が揺れ隼人と体と機械を繋ぐチューブが外れそうになる。彰人は慌ててナースステーションへの呼び出しボタン押しと同時に隼人の体を支えようと彼に触れた。
“彰人さん……”
彼の体に触れた瞬間、隼人の声が頭に響いた。
何かあったのか、隼人の不安げな声が妙に脳裏にこびりつく。
(……まさか。向こうの世界で?)
——向こうの世界とこちらの世界は繋がっている。
あの時の未来の言葉が脳裏をよぎった。嫌な空想ばかりが浮かんでは消えていく。仮に向こうの世界で一大事が起きれば、この世界にも影響があるのだ。今までは特に何も無かった。だが、明らかにこの様子は普通では無い。
「……何かあったんだな。よし、待ってろ隼人!!」
彰人は文香のりんごを待つ事なく、ある場所へと向かう。そしてその彰人の判断は正しいと彼等は今後知ることになる。
———-「プリズムの瞳 最終章」 に続く。
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