『プリズムの瞳』 機動戦士ガンダムビルドダイバーズ 作:ビルダー林檎
「駄目なのか……?僕はまた負けるのか?」
頭部バルカンを発射し、対艦ライフルを放ち、虎の子のファンネルミサイルを撃ち尽くしても、そのバリアには擦り傷一つつける事が出来ない。ガンプラの技術の差は歴然だった。可動域に加え表面処理が丁寧に施された黒い装甲はたとえGNフィールドが無くともビームを弾くだろう。絶対的ともいえる機体の性能差は技術の差では覆しようが無かった。
「くっそぉぉぉ!駄目かっっっ!!」
怒りのあまりコンソールを叩く。だが、いくら猛り狂おうとも現状は変わらない。隼人の努力が、みんなの協力が届かない。通用しない。
全てを否定する圧倒的な力の差の前に隼人はなす術なく、悔しさを噛み締める余り奥歯が欠けた。
“新型ガフランの性能試験。貴様達で試すには丁度いい。今は初期型で単調な動きしか出来ないが、テストを重ねれば更に強くなれるだろう。”
___だから、踏み台になりたまえ。
男はそう言い終えると、大地を震わす轟音と共に大陸の遥か向こうから何かが見える。いや、何かでは無い。ガフランの群れだった。以前からこうなる事を見越して準備していたのだろう。黒の国の総攻撃が始まろうとしていた。
「諦めてたまるものかッッ!」
隼人は苦々しく目の前の景色を見つめた。フランを乗せたまま、敵が後方に下がる。
(……こいつ!高見の見物を決めるつもりか!)
後方に控えていたガフランの群れはまるで田園を食い荒らす害虫の群れの様だ。
そしてその群れは、今から隼人達の暮らす国を食い荒らすのだろう。それは土地だけでは無い。あの国で暮らす人々の生命、積み重ねてきた伝統と思い出を蹂躙する行為だ。許してはおけない。と隼人は唇を苦々しげに強くかみしめた。
だが、あれだけの数では相手では抵抗などたかが知れている。理解が追い付けば追いつくほど、隼人は無力さに打ちひしがれる。
「ハヤト様!ご無事ですか!!」
隼人を追いかけて来た大隊規模のアキサザメの編隊が、最悪のタイミングで追いついてしまった。
ガフランの群れがアキサザメの編隊に向けてビームを放つ。抵抗も虚しく、下蜻蛉(かとんぼ)のごとく次々と落とされていく機体。技術はアキサザメが勝っていたとしても数の差は埋められる程では無い。
「各機!ムラサメガンダムを守るぞ!!ガンダムを堕とさせるな!!ハヤト様はお下がりを!ここは我々が食い止めます!」
残った精強なパイロットと誇り高い赤国の機体が急増品のビームサーベルを構えガフランの群れに向かって突っ込んでいく。だが悲しい事に、その数の前では全くと言っていいほど抵抗にはなっていなかった。
「お前達!何処にさがれというんだっ!」
隼人は再度対艦ライフルを構え、ガフランの群れに放つ。ライフルから放たれた球がガフランに直撃し落としていく。しかし、一機ニ機落とした程度では戦力差など埋める事は出来ない。
ライフルの弾を撃ち尽くすと、ライフルを放り投げムラサメガンダムのビームサーベルでガフランの腕を切り落とす。その腕を力強く掴み、敵に向かって僅かに残ったエネルギーを発射した。その実戦慣れした動きは、数十の敵を相手取るには十分だが、いくらモビルドールの単調な動きとはいえど限界があった。
「いくら何でも数が多すぎるっ!!多勢に無勢だ!……アキサザメ各機は後退し編隊を再編成!急げよっ!」
「ハヤト様はっ!?」
「出来るだけ時間を稼ぐっ!!安心しろ!こちらは"ガンダム"だ!心配するなっ!」
幸い、数の差はあるとは言えどMSの性能ではガフランよりもアキサザメ及び各国の量産機の方が勝っていた。合流し各国間で連携を取ることが出来れば勝機が掴めるかも知れない。瞬時に判断し、少しでも時間を稼ぐべくムラサメガンダムが大陸の空を飛ぶ。
その頃、小狼とカイネが隼人に合流するべく全力噴射で向かっていた。途中、何十機ものガフランを撃退したが、一向にその数を減らさない。
「まるで死者の群れだな。忌々しいぜ。」
「はい!僕達で倒せるかどうか……。」
「弱音を吐くなっ!!やるんだよ!やらなきゃみんな死ぬぞ!」
小狼はカイネを叱責しつつガンダムモナクが大太刀を振り回してガフランを一刀両断した。負けじとガンダムファルシオンもその体をぶつけガフランを消滅させていく。一体一体は弱い。が、数が多すぎる。
何か一掃できる兵装があれば良いのだが、あいにくモナクは一対一の戦い向けな機体で以上そうした制圧力の高い兵装は持っていなかった。カイネのファルシオンも拠点防御向けの機体であり、多数を撃滅する機体では無い。相性は悪く、多勢に無勢という言葉が当て嵌まる状況であった。
(……ガンダムが100機いたらか!)
頭の中で己を叱咤激励しつつ、モナクが大太刀を再度両腕に構え直し、ガフランに振り下ろす。一回は防がれたが、腰に内臓された隠し腕で大太刀を器用に持ち変え、ガフランの頭部を切り裂いた。
(全く、切れ味の落ちない武器はありがたいぜ。)
この大太刀の出来は素晴らしい、と小狼は感心せざるを得なかった。これを作ってくれたあの彰人という男がまた来てくれたら、と願わずにいられなかったが、かぶりを振って甘い考えを捨てた。
(ん……なんだあの光は?)
光の瞬きの後、上空から多数のMSが現れたのを小狼は確認したが、すぐにガフランの群れが再度襲って来たため、そちらに対処せざるを得ない。
「くそっ!キリがない!」
隼人がムラサメガンダムをきりもみ飛行させながらガフランの胴体を切り裂いていく。が、手持ちのビームサーベルのエネルギーも残り少ない。撤退しようにも推進剤も、撤退を援護してくれる味方もいない。
(……まだだ!ここで諦めてなるものかっ!!)
高みの見物を決め込んでいるあの機体も、フランにも、まだ何も出来ていない。全力噴射。加速してガフランに体当たりをしかけ、脆いコックピットをマニュピレーターで貫く。衝撃で歪んだが、構わない。貫いたガフランを持ち上げ、例の黒い機体に全力で投げつける。その黒い機体はシールドで防いだ。面倒くさそうにガフランを払い除けると、ついに黒い機体が仰々しくも動いた。己の勝利を確信したのだろうか、傲慢な動作だった。
“もうよい。十分なデータは取れた、な。”
気怠そうに呟きながら、黒龍はブースターを全力で噴射し、光波推進の光を放ちながら目にも留まらぬ速さで加速しムラサメガンダムへと迫る。隼人は残量少ないビームサーベルを構え、黒龍と咄嗟に鍔迫り合いになる。
「お前っ!!お前はっ!!何故フランを狙う!?」
“……目的を達するにはこの少女の瞳が必要だ”
「……瞳!?」
“この世界と我々が住む世界。往来する為に必要不可欠なアリスタ。それに似た作用を持つ瞳。この力を解明し独占出来れば、我々はまだ強くなれる……そのために大勢の犠牲を払った。これからも辞めるつもりは無い”
「……!!もう誰一人殺させはしない!!」
言葉では強がるが、ついにビームサーベルのエネルギーが尽きた。黒龍がビームサーベルを振り抜く前に隼人は蹴りを放ち黒龍と距離を取る。そしてなけなしの胸部バルカン砲の射撃を頭部に放つ。黒龍の視界を防いだ後、ムラサメガンダムがブースターを全力で噴射し勢いをつけ鶏冠の様な頭部を思い切り殴りつけた。ガツンという強い衝撃が走り、マニュピレーターがついに折れる。
“……っ!!貴様っ!”
「黙れ!僕の命に替えても、お前はここで殺す。必ず殺す……!!」
殴りつけた隼人のムラサメガンダムは腕は根本から折れた。だが、満身創痍の機体にも関わらず隼人の闘志は衰えなかった。
彼が本来持つ冷静さなどとうに吹き飛んでいた。頭部のデュアルアイが紅く妖しく激しく光る。その気迫に押されたのだろうか、黒龍が怖気付いた様に見えた。
“無駄な事を!貴様の機体ではGNフィールドは破れない!その折れた腕で何が出来る!出来はしないッッ!!”
「お願いです!逃げてください!ハヤト様っ!」
“この小娘が!黙らないか!”
男がフランの顔を殴りつけるのがモニター越しに見えた。見えた瞬間、隼人は己の中の何かが切れたのを感じた。
____怒りは全ての原動力だ。
隼人は自身でも感知する前にムラサメガンダムを可変させ黒龍にぶつけた。衝突に耐えかねぼきりと折れる機首。歪む装甲、ぎりぎりの所で耐えていた電子機器が火花を上げながら弾け飛んだ。だがその怒りの突進の衝撃で黒龍の胴体が少しだけひしゃげ、後方へ勢い良く吹き飛ぶ。追撃をかけようとするが、ムラサメガンダムは動かなかった。隼人の操縦を一切受け付けず、地上へと落ちていく。とうとう限界を迎えたのだろう、隼人にはなす術が無かった。
「畜生……!まだ、まだ僕は。」
地上に激突する寸前。隼人は力強く目を見開き黒龍を睨みつけた。まるで、自分は死んでもお前は許さない。そんな怨念を込めた鈍く淀んだ瞳。
だが、激突の衝撃は一切訪れず、ゆっくりと地上へと降りていく。いや、それも適切な表現では無い。何かに支えられ降ろされているようだ。不自然な浮遊感に身を任せると、不意に聞き覚えのある声が聞こえた。
——-隼人、頑張ったな。
「なっ……!!彰人さん!?」
優しい声が、聞こえた。全てを許してくれるかの様な、受け入れ包み込んでくれるかの様な優しい声。思わぬ登場に隼人が驚きの声を上げる。無理もない。2度と会えないと覚悟していた。それなのに彰人はここにいる。不思議に思わざるを得なかった。
「詳しい説明は後回しだ。俺のオルタナガンダムに乗れ。"俺達"は残りのガフランを殲滅する。」
隼人の疑問に対し、彰人の返答はあっさりとしたとのだった。
「こいつはお前が倒せ!お前の国はお前が護れ。お前なら出来る!」
話しながらも彰人はオルタナガンダムを下ろし、更にプリズムガンダムが持つビームマグナムを黒龍に向け放った。黒龍のGNフィールドがその火力に大きく揺らぐ。
男も、金色のガンダムの突然の登場に驚いたようだ。あの強力な黒龍とガフランの大群がたった一機に怯えている。
「……はい!……はいッ!」
「彰人君、そろそろ行こうか。あっ、隼人君、君とは後で沢山話そうね。後その機体とオルタナガンダムに面白い機能つけたから使って!」
その黒いガンダムは隼人の対艦ライフルによく似た武装を使い、ガフランを火球に変えていく。驚異的な精度の射撃に隼人は目を見張った。その機体も、プリズムガンダムと共に遠くへと飛び去っていく。
隼人は惚けた頭を無理やり叩き直すと、ムラサメガンダムのコックピットから降り、彰人ともう一機のガンプラを見送る。視線を落とすと、真下には彰人のオルタナガンダムが新しい主人を待ち兼ね、腹を開けていた。そのままコックピットに飛び乗り、コンソールを弄ってオルタナガンダムを起動させた。
「まさかこれは、合体機構!?オルタナガンダムと僕のムラサメガンダムが……?」
隼人は震える手でモニターに映し出されたロック解除のボタンを押す。すると、地上に堕ちたムラサメガンダムの両肩部が外れ、次に背中の両翼が外れ、そして象徴でもある頭部センサが外れると、それらがオルタナガンダムの外装に装着されていく。
隼人はそれを黙って見ていた。いや、黙らずにはいられなかった。なぜならこのMSは、彰人と隼人が幼い頃に見た伝説のMSに酷似していたからだ。
"懐かしい"と思ったと同時に隼人の目から涙が溢れ出す。
___新たな機体が産声を上げた。
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