『プリズムの瞳』 機動戦士ガンダムビルドダイバーズ 作:ビルダー林檎
——-12月末。路面に降り積もる雪が遅い冬の訪れを告げる。
彰人は相変わらず変わることの無い日常を過ごしていた。あの因縁めいたエリックとのバトルから数週間が過ぎてからというもの、以前とは違い。打って変わったかの様に彼とは良好な関係を築いている。築いているつもりなのだ……が。
「彰人ぉ〜!放課後また遊びに行かないかい?
技術情報部のみんなも誘ってさぁ〜!」
昼休み、彰人が椅子に座って昼食を食べていると、エリックが満面の笑みを浮かべながら近づきベタベタと彰人の身体に触れる。
(流石にこれは気安くし過ぎじゃないか?まあいいけどさ。嫌じゃないし。)
あのバトル以来、どうもエリックは彰人を親友と見なしているらしい。手のひら返しと評しても良い唐突なその態度は若干の困惑を彰人にもたらしたものの、彼の気安さは嫌いではなかった。
彰人は他人から素直に好意を寄せられる機会はこれまで限られていたし、また好意を寄せられたとしても、”ガンプラ”なんて特殊な趣味が合う人間なんてそういるものではない。
だから、エリックの無邪気さや好意を受け取れる。受け入れることはできる。それは彼の表情から複雑さが消えているのが何よりの証拠といえた。
(時々、うっとおしいけどな。)
「彰人様。申し訳ございません。彼は子供の頃から寂しがり屋なのです。」
椅子に座ったままの彰人に対し、フォローをするかの様に耳打ちしてくる椿。少し、距離が近い。言葉と共に彼女の吐息が耳に触れてこそばゆいのか、彰人は顔を背ける。
彼女は本来禁止されているはずの香水を僅かにだがつけていた。健康的な女の匂いと香水の香りがぷんと鼻をつき、それが彼を少しだけ官能的な気持ちにさせる。彰人がエリックの屋敷で出会ったメイドさんこと雨宮 椿 (あまみや つばき)も偶然か運命のいたずらか、彰人たちと同じクラスに編入した。
一般的にショートボブと呼ばれる短く纏められた黒髪は文香と同じくらい艶やかで美しい。やや意志の強さを感じるつり目も魅力的に映る。このような西洋人形を彷彿とさせる大人びた容姿から、彼女は一見歳上の大学生くらいに見えるが、実は彰人たちと変わらず同い年。
これは彰人や総一郎にとっては意外だった。女は男よりも精神的な成長が早いというが、彼女を見ているとその節は一理あると改めて納得させられるなと彰人は理解していた。椿は普段は学生を演じてはいるが、彰人とエリックが一緒の時はこうしてエリックのメイドとしての顔を覗かせる。椿は無表情のまま黙々と弁当を食べる。
「ふふ。今日のお弁当も上手にできました。」
椿の人形の様な端正な顔がほころぶ。
(至福そうな顔で卵焼きを食べる姿を見てると、どうもこの間のクールなイメージと違うな。‥‥無愛想に見えて、案外表情が豊かなんだなこの人も。)
そしてその大人びた外見とは裏腹の無邪気さは、エリックと同じものを感じさせた。恐らくは似た者同士なのだ、彼女もエリックも。その仲の良さから2人はそういう仲なのかと疑問に思うこともある。しかし当の彰人にそこまで聞く勇気は無かったし、邪推するのも彼の趣味では無かったのでやめていた。
「で、メイ‥‥椿さんも来ますか?そろそろ冬休みにも入りますし。みんなで遊びに行くなら行きましょうよ。」
総務院高校も来週から冬期休みに入る。どの道、冬休みは勉強するか遊ぶかの二択なのだ。かくいう彰人自身も冬期講習が控えている。だが彼も折角の冬休みを単語帳との睨めっこで終わらせるつもりもない。ガンプラの改修か新しいガンプラを作るか、そんな他愛も無いことを考えていた。
「彰人様、私も遊びたいのは山々ですが、何分仕事がありますので‥‥。」
申し訳ございません。と椿さんは頭を下げた。彼女の動作の一つ一つが優雅で丁寧である。それが仕事によって培われた能力なのか、元々備え持つものなのかは判断できない。ただ、立派だ。と彰人は感心した。
(仕事って普段何をしているのか気になるけど、いきなり聞いたら失礼だよな。)
彼女の仕事ぶりに想いを馳せる。潔癖といってもいいその姿勢はまさにお手伝いさんでもあり、優秀な秘書のようだ。こんな美人に支えられるエリックを羨ましいと思っているのか、彰人は無邪気に笑うエリックを眺めながら眉をひそめた。
「そうですか。なら仕方がな‥‥」
「ええ!?椿は僕達と遊びたく無いのかい?」
「エリックお前なぁ。」
しっかり者の椿とは違い、エリックは時々空気が読めないというか、やや理解が遅い所がところが見受けられる。こういう所がお坊ちゃん気質と呼ばれる所以なのだろうか。日本人とは根本的に価値観が違うのもあるだろうが、日本で暮らす以上その鈍感さは危険である。彰人がやんわりと制止しようとすると、椿がそれを優しく手で制した。
「坊っちゃま。申し訳ございません。」
一瞬の間を置き、椿はまた頭を下げる。その姿を見て、やはり彰人はこの人はすごいなぁと感心するのだった。退屈な午後の授業が終わり放課後。彰人は技術情報部に足を運ぶ。やや老朽化がすぎる扉を開け部室に入ると、総一郎が机に向かって勉強している姿が目に入った。
(‥‥あいつが部室の中で勉強するとか珍しいな。いつもは勉強する時、受験はもう始まっているからってすぐ家に帰るのに。)
部室内はストーブが焚かれており、暖かい。そんな中、総一郎は真剣な様子で1人机に向かっている。何をしているのだろうとふと気になり、声をかけた。
「お〜い。総一郎。ここで勉強なんて……っておい!これ模型雑誌だな。」
なんだ。勉強してると思ったら遊んでいたとは。彼も息抜きしたいのだろうか。総一郎が読む模型雑誌をぱらぱらとめくると、そこにはHGペーネロペーの特集が組まれていた。
「ああ。彰人か。いや、たまにはいいだろ?」
特に悪びれる様子は無い。ニヤリと不敵に笑みを浮かべている。何度も言うが、彼はこうしただらけた姿を他人に見せることは少ない。
「普段のお前の姿を見てたら、誰も文句は言わないさ。……言わせないしな。」
彰人はそう軽く返答し、ふう。と一息ついた後、ここは無理に突っ込むのも手間だと判断し椅子に座る。背中にストーブが発する温もりを感じ、それが心地良い。
「ねぇ、彰人。」
「ん。どした?」
「来週ペーネロペーのHGが出るんだけど、買うべきだろうか。」
「ん〜。あれでかいらしいからな。でもいいんじゃないか。模試が終わったら時間もあるし。」
「うん。」
「なぁ。総一郎」
「大人になるってなんなんだろうなぁ。」
「どうしたのさ急に。」
「いや、来年は受験で、順調にいけば進学だけどさ、大学生になっても俺たちこうして遊べるのかなって思って。」
「一般論で語るなら、大学生は時間があるんじゃない?遊べるさ。寧ろ遊ぼうよ。」
「うん。だけどさ。」
「なんか、俺は大人になるって言うのがよく分からなくなった。」
「話がよく分からないんだけど。」
「ん。いやすまん。何でもない。」
「確かに僕たちは後3年で成人。でも、そんな急に大人になれるなんて、僕は思ってない。」
「妹の雛美が20歳になって社会的に大人の女になるのですら、僕は想像出来ないんだぞ。」
「だよな。」
「僕は仕事しても、大人になっても、僕が僕であることには変わらないと思うよ。勿論、彰人もね。」
「……そうだよな。」
そう言った後、総一郎は黙ったきり何も言わない。照れ臭いのだろうか。彰人も売店買ってきた雑誌を読む。部室内には穏やかな時間が流れていく。ストーブの温もりだけでない、暖かく和やかな雰囲気。この空気は総一郎が醸し出しているのだろう。彼のおっとりした性格の賜物と言える。
彰人がもしもあのまま総一郎と出会わなかったら、こうして部室にいることも無かっただろう。彼は嬉しそうに総一郎の横顔を眺めながら、こうして親友と過ごす何気無い時間が好きだった。
「なぁ、総一郎。」
だから彼は、そんな親友に対する感謝の言葉を告げる。昔の彰人ならば考えもしなかったこと。頭の片隅にも無かった言葉。それを今素直に表すことが出来た。
「俺たち、卒業しても会おうな。」
まだ先の高校卒業後を見通して。大人になった自分は想像出来ないし不安でもある。
「もちろんさ。」
そう目を細めながらやや照れ臭そうに話す親友の顔は、彰人の胸を暖かくさせた。その時、雰囲気を壊すかの様にガラガラと音を立てて教室のドアが開く。何ごとだろうと2人が扉の方に顔を向ける。
「あのー。ごめん。2人とも。」
「うう。なんか男同士の友情に割って入るようでごめんなさい。」
入るや否や、すまなさそうに頭を下げる文香。
この様子だと、話を聞かれていたのだろうか。盗み聞きではないだろうし、別段不快に思うことも無い。だから普通に話すことにする。
「文香?いや別にいいよ。」
「天音さん。同好会はどうしたの?」
彰人と総一郎がほぼ同時に応える。この時間、いつも一番に同好会に来る文香にしてはやや遅い時間だった。何かあったのだろうか。
「今日はおやすみなの。会長権限でね。」
そう話す文香はいつもと違い、どこか嬉しそうな表情をしている。
「実は2人に紹介したい人達がいるの。」
入って。という彼女の言葉と共に現れたのは。
「お兄ちゃん!彰人さん!!」
「雛!来たのか。でもどうして。」
文香の後ろからひょいっと現れる雛美。こういう小動物めいた動きは何処から習得したのだうかといつも不思議に思っていた。
「今日は生徒会の仕事が早く終わって暇だったので、お兄ちゃん達の部室に遊びにきました。」
彼女はそう言って柔かに笑った。可愛い笑顔だった。雛美は生徒会に所属しており、忙しいに決まっているのだが、彼女もやはり総一郎と同じで優秀だ。
常人ではこなすには厳しい量を器用にこなすのだ。総一郎の容姿をそのまま女の子にしたかのような姿。当然可愛らしく、一部の男子からはカルト的な人気を誇るらしい。
「なるほど。」
彰人は軽く答える。
「そしたらお兄ちゃん達が青春の話をしていたからちょっと入りづらくなって‥‥。」
うつむきながら申し訳なさそうに話すその姿を見ると少しだけ虐めたいという嗜虐心(しぎゃくしん)を煽られるが、理性で抑える。彰人は可愛いものを見るとどうしても弄りたくなる性分だった。
「ごめんね。本当に邪魔するつもりは無かったの。」
「あ!雛美ちゃん以外にもいるのよ。入って。」
「フフ、男同士の友情とは美しくて良いじゃないか。」
部室の外から聞き覚えの声がする。
「おま‥‥!エリック!いつの間にいたんだよ!」
彰人の問いかけには答えず、文香達の後ろから堂々と優雅に部屋の中へ入ってくるエリック。
「実は先程から居たのですが、気づいていませんでしたか?」
「雨宮さんまで!仕事はどうしたのさ。」
「仕事……生徒会の仕事なら先程雛美さんと一緒に終わらせてきましたが。何か?」
(そうか。学校にいるときはそういう設定なのか。)
瞬時にそう判断し、深く問い詰めるのをやめた。
「そういえばそうでしたね。」
「彰人君、雨宮さんは同学年だから丁寧語じゃなくていいの。しっかりしてるから大人に見えるけどね。」
文香が不思議そうな顔でこちらを見る。確かに、同学年なのに丁寧語というのも変か。
「ああ、そうだな。」
「雨宮さんは真面目だし頭も良いんだよ。すごいよね!見た目も話し方も大人っぽいし。」
文香が嬉しそうに、楽しそうに椿の事を話す。人を褒めるのが心から好きな彼女の様子は、見ていて和んだ。
「いえいえ、私はこうした方が話しやすいだけですから。」
そう謙遜する椿の表情も柔らかい。この短期間で打ち解けたなら大したコミュニケーション能力だと思う。これも仕事なのか、それとも彼女の”素”なのか、どっちなのだろうかと疑問に思ったが、どちらでも良い事だと判断し思案を辞めた。
「そうサ。椿は出来る女で、僕のパートナーさ。」
「エリック先輩と椿さんが知り合いというのも驚きましたよ。」
椿を褒めるエリック。雛美もこの間まではボロクソに言っていたはずだが、今はわだかまりは無いらしい。悪いことでは無い。しかし、相変わらずこの2人の関係性は特殊だと彰人は改めて思った。エリックは雇用者だから良いとしても、椿さんはメイドという立場もあるだろう。ストレスが溜まるはずだ。
そのため彰人は珍しく気遣うことにした。
「遊びに来たなら、みんなで人生ゲームでもしようか。」
棚から人生ゲームを取り出す。こういう時に備えて買っておいたのだ。携帯ゲームが発展した現代においてもボードゲームの楽しさは変わらない。みんなで遊ぶならこういった通信を必要としないゲームも楽しいものだと彰人と総一郎は前に話した事がある。
「あ!懐かしいですね人生ゲーム!昔お兄ちゃんとも良く遊んだよね!」
真っ先に食いついたのはやはり雛美。彼女はパアッと表情を変えると、総一郎に同意を求める。
「ああ、そうだな。懐かしいな。」
雛美に同意を求められた総一郎は一瞬間があった後に懐かしそうな、どこか寂しそうな複雑な表情を浮かべてながら答えた。
「決まりだな。なら、今日はみんなでボードゲームをやろう。」
彰人は強引すぎたかと反省しつつもボードゲームを広げる。
「男3人、女の子3人の6人か。僕と彰人が準備をするから、みんなはちょっと待ってて。」
「総一郎、合わせてくれてありがとな。」
「ん。何が?」
「なんでもねーよ。」
言葉を使わずとも通じる総一郎の頭をわしわしと撫でる。彼も柔らかく艶のある良い髪質をしており、撫でるとよく手に馴染む感触がある。
なんやかんやで数分後。人生ゲームの準備が整った。ボードを囲むように座る俺たち6人。
経験者が少ないため、彰人がGM(ゲームの進行役)を務めることにした。
「じゃあまずルールを説明する。」
開口一番、彰人がきりりと表情を引き締めてこのゲームのルールを説明する。
「ルールは簡単。ルーレットの数だけコマを進めて、最終的にお金を一番持っている人が優勝。」
「途中結婚とかイベントがあるから、その時はまた説明する。」
「ふむふむ。日本のボードゲームにはモンスターとかいないんだね。」
エリックが感心したように頷く。イギリスにはTRPGというボードゲームの文化があるようだが、彰人はそちらの方面には疎い。
「エリック、このゲームはまた違うのですよ。資本主義という概念は”モンスターlと言えるのかも知れないですが。」
「こらこら、今はルールを聞くのが先だよ。」
文香が話を脱線しないように気遣ってくれる。
彼女のこういう時のフォローも的確だった。
「‥‥順番は、エリックが最初で、次に雛。椿さん。文香。総一郎。俺の順番だな。」
「むぅ。お兄ちゃんには負けたくない。」
「雛美は昔からゲームになるとムキになるからね。僕も兄として負けられない。」
「じゃあ、エリック。ルーレットを回してくれ。」
「了解サ。それっ!」
ルーレットを回すエリック。目は‥‥8。なかなか良い数字だった。
「お先に失礼する。て、あれ?就職失敗?なんだこれは。」
「言い忘れていたが、この人生ゲームはハードモード(就職氷河期仕様)だ。」
彰人は無表情のまま説明書を読み、淡々と答える。人生ゲーム(ハードモード)は実際に販売されているボードゲームだ。通常の人生ゲームではお金を得た、良い企業に就職したなど、プラスの要素があるのに対しハードモードではマイナスの要素が大目に配置されている。その為、いかに借金を背負わないかが攻略の鍵となるのである。
なぜこのゲームを買ったのかって。それは楽しいからに決まっているだろう。とは彰人は後に語る。
「Hard mode!?」
エリックが驚きのあまり声をあげる。発音が良い割にちょっと裏返っているのが面白かったのか、総一郎が珍しく腹を抱えて笑っていた。
「いや人生ゲームにそういうの求めてないから!」
雛と笑うのを辞めた総一郎が即座に突っ込む。兄妹揃ってとても突っ込みのキレが良かった。
「おいおい。エリックがツッコミを入れるのは分かるが、総一郎が入れるのはおかしいだろ。俺と一緒に買ったのに。」
「僕は普通のだと思ったんだよ!」
「まぁいいじゃないですか。お兄ちゃん達。」
「雛美はこんなゲームノーコンテニューでクリアしてやりますよ!」
腕をまくりながら雛美が得意げに答えた。
「それ別の世界の台詞‥‥て、おお!雛!大手の上場企業に就職したじゃないか!凄いぞ。ゲームだけど。」
「リアルでも大企業に勤めたら安泰なのに‥‥。」
雛美がぶつぶつとぼやきながら手遊びをしている。
その様子を見た椿がふふっと品良く笑い、
「中々やりますね。では次は私が。」
と喋りながらルーレットを回す。
「ねぇねぇ。雨宮さんはもし将来就職するなら、何の仕事が良いのかな?」
文香が尋ねる。
「そうね。私は強いて言うなら、転しょ……」
「あー!!!楽◯ショップね!楽天ショップ!!安泰だよね!ねぇ椿さん!!」
「え、ええ。そうよね……。」
彰人は椿さんに近づき、耳打ちする。
「何自分からバラそうとしてんですか。」
「いけないわ。ついあの娘の前だと本音が出そうになるのよね。」
しまったと言わんばかりに椿は手を口に置きながら答えた。
「バレると厄介なのは分かります。」
どうやらあの冷静沈着な椿でも、文香の天然ワールドには引っ張られるらしかった。
「2人とも何を話しているのさ。ささ、次は椿の番だよ。賽をふりたまえ。」
「ええ。‥‥あら、ホームレスになってしまったわね。」
「ホームレスは職業とは呼びませんよ!?」
「充電式のタイプの‥‥。」
「それはコードレスです!!」
「この空間、カオスに満ちているな。」
総一郎が遠い目をしている。彰人もいいかげん突っ込むのが疲れてきたので、なんとかこの場を諌めてもらいたいと切実に願っていた。なんやかんやで時間は進み。ゲームも終わる。
(ゲーム途中、エリックが子供を4人ももうけるのはまだ良い。)
(だが俺が株取引で破産した挙句、10億の借金を受けた時に総一郎の奴が爆笑したのはマジで許さん。)
気になるゲームの順位はなんと、
1位 天音文香
2位 エリックオースティン
同率3位 桐谷雛美 神取彰人
4位 桐谷総一郎
5位 雨宮椿
‥‥以外だった。運が絡むゲームとはいえ勝負運の無さそうな文香が一位をもぎ取るとは誰も予想だにしていなかった。
「やるな、文香。」
皮肉無しの、彰人の心からの賞賛だった。
「えへへ。」
満面の笑みを浮かべながら素直に喜ぶ文香。
(可愛い。)
‥‥彰人はこの笑顔に弱いのだ。彼女の笑顔には不思議な力がある。
「彰人が10億の借金背負った時はこれで負けはないと思ったんだが。」
「ああ、俺もまさかリーンホースで使徒を倒せるとは思わなかった。」
「使徒迎撃による謝礼金100億はチート過ぎるよ。天音さんの総資産2兆はもはや国家予算並みだし。」
「えへへ‥‥運が良かっただけだよ。」
「火星の土地がまさか値上がりするとはね。」
「あれは反則サ。椿なんか見ろ!東京の一等地を持っていたのに、コロニー落としで全て灰になったんだぞ。」
「それは私の不徳でした。情勢を読み間違えたのです。」
「あ、あの……私三位になっといて言うのは何だけどこの人生ゲームやっぱりおかしくない?」
「何を言うんだ雛美。この部室にあるゲーム(主に彰人が買ったものだが)でまともなものなんてあるわけ無いだろう。」
「うう。兄がそれを言うのは情けない……。」
「なんか俺も馬鹿にされた気がするぞ総一郎?」
彰人はちょっとムッとしたのか、思わず総一郎にくってかかる。が、総一郎は大業な動作でやんわりとかわす。
「よしなに。」
「ディアナソレルじゃ無いんだから。」
分からないものには本当に意味の分からない返答。だが、それがガンダムマニアである総一郎なりのジョークである事は彰人も理解出来た。
「はあー。でもやっぱり楽しいよな。大人数で遊ぶの。」
ソファに寄りかかりながら、彰人がやれやれと体を伸ばしながら話す。
「いつもは彰人君達と私だけだもんね。」
文香も同意した。もともと広くない部室に2つも活動をしているのだ。部屋の広さ的に厳しいのは明らかである。部員が少ないのがせめてもの救いだった。
「そうなのですか‥‥いえ、そうなのかしら。皆さんはもっとお友達がいそうなイメージがあるけれど。」
「友達はたくさんいるよ。ただ、特に親しいのが3人だっただけ。」
「そうなのかい?ボクも社交的な方じゃないが、日本人はあまりにも内向的な人が多い気がするよ。」
「雛は友達といるのも楽しいですが、先輩たちといるのも楽しいですよー。」
「‥‥それなら、今日からみんなは情報技術部の一員にならないか?予算的な意味で。」
彰人は一瞬間を置いた後、声を張って言う。唐突な発言に部室内のみんなの視線が集まった。
「メンバーも実質俺と総一郎の2人だったし、これを機に増やしてもいいだろう。」
「唐突だな。」
「でも人が多い方が楽しいよね。私は同好会との兼任でも大丈夫。雨宮さんや雛ちゃんはどうかな?」
「時々の参加で良いなら、私は構いません。」
「う〜ん。雛もいいですけど、生徒会の仕事もあるので、いつも参加は無理ですけど、名前だけなら。」
「部の兼任は内申点も上がるんじゃないか?」
「入ります。」
きっぱりと雛美は言う。
「雛らしいな。」
彰人もはっきり言う。
「お上(内申点)には逆らえませんから。」
照れ臭そうに話す所も、中々可愛気がある。こういう雛美の素直さを買っていた。こうした”あざとさ”も彼女が愛される所以だろう。
「エリックは?無理にとは言わないけど。」
「そんな!彰人!ボクが君の頼みを断ると思っているのかいい?」
「ボクも入らせてもらうよ。そしてまた、君といつでもバトルがしたい。ガンプラでもそれ以外でもね。だから、入部をするサ。」
「椿もいいよね?」
「はい。私も構いませんよ。」
「決まりだな!我が部に新たな部員が3人も入ったぞ!」
「なら、入部の申請手続き書は僕が書いて柊先生に提出しておくよ。」
総一郎が髪をなおしながら言う。
(こいつの事務処理能力は光るものがある。)
事務系が苦手な彰人に対して総一郎は優秀だった。やはり地頭の違いだろうか。
「なんかなし崩し的に入れられた感があるのは気のせい?私って押しに弱い?」
見ると、雛が珍しく頭を抱えている。
「いいじゃない雛美さん。優しいお兄さんも一緒にいるのよ。」
見かねた椿がさり気なくフォローを入れた。柔らかにそう話す椿からは大人びた女の余裕が感じられた。
「‥‥まーいいですよ。そのかわり!生徒会が忙しい時は手伝ってもらいますからね!」
どうやら話がまとまったみたいだ。何だかんだいっても、人が多いのはいい傾向だろう。
(来年も部員が入ってくれれば安泰なんだけどな。)
彰人は心の中でそうごちながら、ボードゲームを畳む。12月の優しげな夕陽が窓から教室内を照らす。彰人は黄昏時のこの時間が好きだった。
ガンプラだけじゃない。こうしてゲームでみんなと遊ぶ楽しさや繋がりが嫌いではなかった。願わくば、この関係が卒業まで続いて欲しい。
——もう、失いたくない。
孤独を愛していた中学生の頃とは違う。彰人は、他者との繋がりを心地よく感じ始めていた。もうすぐ今年が終わる。来年はどんな年になるのだろう。そう期待に胸を躍らせながら、彰人はみんなの顔を嬉しそうに眺めていた。
第6話に続く
好きなガンプラは?
-
オルタナガンダム
-
シビュラブリッツ
-
シルベリアアストレイ シルバーフレーム
-
ペーネロペー
-
Reonガンダム
-
イージスアルケーガンダム