※この作品はR-18です。

『プリズムの瞳』 機動戦士ガンダムビルドダイバーズ   作:ビルダー林檎

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第8話 『人形供養祭 前編』

1月中旬。

 

 未だに肌寒い風が吹く新潟の冬は、厳しい。校内の生徒達の吐く息も白く、まだまだ防寒具が欠かせない。新潟は寒い。特に総務院高校は海岸沿いに近いせいか冷たい潮風が吹く。頬を突き刺すようなこの風は毎年生徒の体調を崩す事に定評がある。だが反面、校内が暑いくらいに暖房を炊くので、それで帳尻を合わせているのだろうか。

 

技術情報部はあの悪夢のようなバトルが終わり、暫くの間平穏な日々を送っていた。

 

結局あのバトルで何故彰人の体に電流が流れたのかは謎のままだった。振動があるならともかく、電流が流れるなんて普通ではありえない。機械の異常だと当初2人は思ったが、特にこれといった異常はなさそうだった。体に異常はないかどうか、念の為に県内の医者にもみてもらったが、詳しい事は不明だった。

 

 

(何だったんだ?‥‥俺の気のせいにしてはあまりにもリアルだったけど。)

 

 

 他にも教室の中を隅々まで調べたところ、小型のカメラとマイクが何台も見つかった。あの男は事前にカメラを仕込んでいたのだろう。しかし何故と疑問に思う2人。

 

 相手の様子からすると明らかに彰人を狙っていたが目的がよく分からない。あれ以来、文香や総一郎に危害が及ばないように一緒に帰るなど気をつけている。後、彰人がこの話をエリックに伝えた時、彼はいつもの澄まし顔を崩し、こういった。

 

「君や君の友達は絶対に僕が守る。」

 

 そんな格好つけた台詞を吐いた後、彼は暫くの間学校に来ていない。噂によると、警察にもエリックの知り合いがいるらしく、ストーカー被害と不法侵入の両方で犯人を探しているらしい。頼りになる。彰人は素直に嬉しく思っていた。

しかし未だに犯人の痕跡すら見つかっていない。

それだけが、不可解だった。

 

 

「不審者の事案として報告はしておきます。彰人君も十分に気をつけるようにお願いしますよ。」

 

 

 そう言って担任の柊先生も心配してくれたが、犯人が分からないというのは不気味なものだ。対処しようにもその対象はなく、雲をつかむかのような無駄な足掻きだけが彼等に出来る唯一の抵抗だった。

 

「で、何で護国神社に来てるのさ。」

 

 

 部活が終わった後、彰人は総一郎と一緒に護国神社に足を運んだ。初詣の時もここに来たが、あの時は良かった。それが今や影も形もわからないストーカーに悩まされている。本当に人生は救い難いと彰人は内心困り果てた。

 

 

「神頼み。」

 

 

 返答に困ったのか、彰人がぶっきらぼうにそう言い放つ。するとあからさまに総一郎は呆れた顔を浮かべ、じとりとした目線を彼に向けた。

 

 

「はあ、放課後どこに行くと思えば‥‥君にしてはあまり理に適って無いね。」

 

 

 彼はがっくりと肩を落とし、落胆の表情を隠さない。総一郎のその様子に少しだけ彰人はむくれた。

 

 

「そりゃ俺だって意味がないってことは承知だよ。ただ、全く犯人の痕跡が掴めないんだ。焦るさ。」

 

 

「たしかに。あの記録(バトルデータ)が残っていればまだしも、何一つとして証拠が残っていないなんてね。」

 

 

「ああ。でもなんか嫌だよな。GBAやガンプラバトルが犯罪に使われるのってさ。」

 

 

「同感だ。」

 

 

 自らが慣れ親しんでいるガンプラが犯罪に使われているというのは、彼等の心に幾許かの影を落とした。拭えない嫌悪感に腹も立つ。

 

 皮肉にも、サイバー犯罪を防ぐ方法を教えるはずの技術情報部がそのサイバー犯罪に翻弄されていた。なす術なく二人は宙を仰ぐと、その視線の先に見覚えのある人物がこちらへと歩いてきたのを見つけた。

 

「おや、2人とも、学校帰りか。珍しいな。」

 

 

 境内からこちらへと歩いてきたのは、偶然にも沙雪だった。彼女の美しい黒髪が風になびく。総一郎がだらし無い顔をしながら彼女に見惚れて居るのに対し彰人は苦笑を浮かべながらまた視線を沙雪に戻した。

 

 

「「沙雪。」」

 

 

 名前を呼ばれた少女が改めてこちらに真っ直ぐな視線を向ける。代々続く護国神社の長女。だが時期の神主には決してなれない少女。何やら正月に総一郎と何か一悶着あったようだが、そのことについて沙雪に尋ねようとすると急に彼女は赤面し、それ以上は詳しく話してくれなかった。

 

 

(まさか、総一郎?)

 

 

 何かいかがわしい事をしたのかと予想がついたが、何しろ相手が沙雪のため、”どこまで”なのか想像がつかない。そのため迂闊に総一郎を弄る事が出来なかった。

 

「こんな夕暮れ時に来るとは、何か御用なのか?」

 

 

 彰人の内心の疑問を他所に、沙雪は一体何をしに来たのだと言わんばかりに2人を見つめた。どうやら純粋に疑問を持っているようだ。その射抜くような視線に総一が顔を背けたため、彰人が説明をすることにした。

 

 

「ああ、実はさ。」

 

 

彰人たちはこれまでの経緯を話した。

 

「なるほど。」

 

 

腕を組み、沙雪が考え込んでいる。

 

「そういった話なら、私にも心当たりがある。」

 

「マジで!?」

 

「要はそのバトルのデータをサルベージするか、再現ができれば良いのだろう?」

 

「‥‥そうなんだけどさ、それが出来ないから悩んでいるんだぞ。」

 

「父の知り合いにそういったGBAや接続機器に詳しい方がいるのだ。」

 

「すごい!流石神社の人は顔が広いね!」

 

「まあな。ただ、その方は来月の人形供養祭に来られるから、それまでは会えない。すまないな。」

 

「人形供養祭?ああ、あのお焚き上げのね。」

 

「ふふ、お焚き上げだけじゃあない。君達の趣味にも通じているぞ。」

 

「?」

 

「この神社では、君達が心を込めて作った人形‥‥ガンプラも弔っている。プラスチックなのでお焚き上げは出来ないがな。」

 

「マジで!?」

 

本日2回目のマジでだった。2人が驚くのも無理はない。まさかガンプラまで対応しているとは。供養祭の対応のはば広さに二人は驚いた。

 

「父の知り合いは亡くなった方のバトルの記録を集め、それをAIに学習させることにより、本人と同じ機体や闘い方でバトルが出来るらしい。らしいというだけで、私も詳しくは無いが。」

 

「なるほど。そんな人なら、解析できないバトルのデータのログも解析できるかも知れないね。」

 

 話を聞いて、総一郎が腕を組んだまま考え込んでいる。沙雪の顔の広さに尊敬の念でも抱いているのだろう。少しだけ彼の瞳が輝きを増しているのが見て取れた。

 

「それなら、少しは光明が見えてきたな。」

 

彰人も沙雪の言葉に素直に頷いた。

 

「時間がかかる……だから来週まで待ってくれ。」

 

 

沙雪はきっぱりと言った。

 

「助かる。沙雪、ありがとうな。」

 

「礼を言うのはまだ早い。」

 

沙雪はにこりと和やかに微笑んだ。彰人は意外に感じた。何故なら、沙雪の笑顔を見るのだなんて数年ぶりだったからだ。

 

 

(こいつ、こんな風にも笑えるんだな。)

 

 

彰人は彼女の表情の変化に驚くとほんのすこしだけ暖かな気持ちになる。無表情に近いほどに頑なだった沙雪の幼い頃の思い出が脳裏に過ぎった。

 

 彼女の柔らかい表情を見れるのは従兄弟としても嬉しかった。しかし一方で、総一郎が難しい顔で沙雪を見ているのに気づく。やはり2人の間には何かがあったのだろう。だが、あえて深くは追及しない。

 

 あの後、総一郎や沙雪と別れ家に帰ると、彰人は早々に文香に電話をかけた。どうしても話をしたかったからだ。

 

「文香。あの件なんだけどさ、どうやら犯人特定の可能性はありそうだ。」

 

「あの時は怖かったよ……危ない事だけはしないでね。」

 

「俺は大丈夫だ。それよりも文香は大丈夫か?何か変なことになっていないか?」

 

「私は大丈夫。それよりも、沙雪さんの話なことなんだけど。」

 

「亡くなった子の記録(バトルデータ)も再現できるって本当?」

 

「俺も実際には見てないけど、技術的には充分可能なんだってな。」

 

「そうなんだ。……なら。」

 

文香は言いにくそうに迷ったのち、ぽつりと言葉を投げかける。

 

 

「弟の隼人(はやと)のデータも復元って出来るかな。」

 

思わず絶句した。彼女の発言に対し彰人は言葉が見つからない。無意識の内に手で頭をかいた。

 

 

”亡くなった子のデータも再現できる”

 

 

文香がそれを言うということはつまり。そこまで考えたと同時に彰人はすぐさま脳裏からその考えを捨てた。

 

 

「文香、それは。」

 

 

怒った方が良いのかどうか分からない。判断して良いことなのかもはっきりと答えられる術も、資格も、彰人は持ち合わせてはいない。

 

「ううん。ごめん。隼人は違うよね。」

 

「……諦めたら駄目だ。特に家族は。」

 

「そうだよね。でも。」

 

“待っているのって、辛いよ”

 

諦めたかのようにぽつりと言葉を漏らす彼女の声を聞くのは切なかった。

——-天音隼人《あまねはやと》

 

 文香の弟にして、今年で16歳になる。”生きていれば”だが。彼は死んではいない。”植物状態”なのだ。元々体が弱く入院がちだった隼人。貴明が事故に遭い入院していた時、彰人は隼人と会った。

 

当時の隼人は小学生6年生で、よく一緒にガンプラで遊んでいたのを思い出した。数あるMSの中でも、特にムラサメが好きな変わった少年だった。普通の子供はみんなジャスティスだとかストライクフリーダムがこぞって好きなのだが、彼は違っていた。彰人は一度、何故MSの中でも量産機で弱いとされるムラサメを選んだのか疑問に感じ、尋ねた事があった。

 

 

「弱いムラサメでも、みんなで力を合わせれば悪者のガンダムだって倒せるんだ。カガリさんのアカツキと一緒に戦うところもかっこよかった!だから、僕はムラサメが好き!」

 

心底楽しそうな笑顔を浮かべる隼人の目は輝きを放っていた。マニアックな奴だなと彰人は当時心の中で笑ったが隼人は本当にガンダムの世界観を愛した少年である事に疑いは無い。

 

「いつかまた元気になったら、彰人お兄ちゃんのオルタナガンダムと一緒に空を飛びたいな!オルタナガンダムも、アカツキのパーツが使われてるんだよね!」

 

「ああ、俺も楽しみにしてるぜ!」

 

屈託無く笑う隼人の顔を見たからこそ、彰人はガンプラバトルを辞めることが無かったとも言えた。

 

 

(……あいつと一緒に空を飛びたかった。いつか飛べると信じていた。)

 

 

 そんな隼人がガンブラバトルの最中に意識を失って、数年が経つ。植物状態のまま寝たきりの隼人を見るのは辛かった。彼は今も病室の中で眠っている。彰人と文香が初めて出会ったのも、あの病室だった。眠ったまま動かない隼人を見るのは辛いが、文香は彰人以上に辛い想いをしたに違いない。

 

「家族が諦めたら、もう終わりなんだよ。文香。」

 

 彰人は父の亡骸を思い出し、涙が滲む。しかし隼人はまだ死んではいないのだ。それだけは事実だった。

 

 

「わかってるよそんなこと!!」

 

 

普段の彼女にしては珍しく、突然声を荒げた。その声に一瞬彰人は驚くものの、恋人同士とはいえど、決して触れてはいけない彼女の琴線に触れてしまったのだと考え強く反省する。

 

 

「急に大声出してごめんね。でもね、やっぱり辛いの。隼人はいつ眼が覚めるの?いつまで待てばあの子は帰ってくるの?」

 

 

「私は……もう分からない。分からないの。」

 

「俺の方こそごめん!無神経だった!」

 

「私こそごめんなさい。……もう切るね。おやすみなさい。」

 

 

「ああ。おやすみ。」

 

 電話を切り、ベッドに横になる。彰人自身どう言葉をかけて良いのか分からない。あの行き場の無い怒りや悲しみは、父を失った時と同じだ。かつての彰人が経験したことだった。仮に隼人が目覚めたとしても、彼に居場所はあるのだろうか。

隼人は今も小学生のままなんじゃないかとか、嫌な思いばかりが彰人の頭をよぎる。

 

(駄目だ。俺まで諦めたら。あいつには約束を守ってもらわないといけない。)

 

 

 そんなとりとめの無い事を考えているうちに、彰人は眠りに落ちた。夢の中で、彰人は隼人と遊んでいた。病室の清潔な空気の中、VRヘッドセットを被った彰人と隼人が、GBAの空でオルタナガンダムとムラサメガンダムを可変させそのまま空を駆ける。

 

——空は自由だった。

 

色んなしがらみも、彰人の傷ついた心も、隼人の無邪気な笑顔を見ていると癒された。

 

 

「なあ隼人。」

 

 

「彰人お兄ちゃん!なんですか?」

 

 

「お前、ガンダムは好きか?」

 

 

「はい!勿論です!」

 

 

「なら良かった。ほら、可変機構を持つムラサメガンダムは、普通のMSと違って立体的な戦い方が出来るのが強みなんだ。」

 

 

 彰人が楽しそうに可変機の戦い方を隼人に教える。父や未来から教わるばかりの彰人が、こうして歳下の少年に物事を教えるという行為は、彼にとっては新鮮な事だった。そして隼人も、彰人が心から好きだったからこそ、素直に彰人の言葉を信じた。

 

 この頃からすでに隼人はガンプラバトルの才能を開花させていたが、体が弱いこともあり、バトルが出来る時間も限られていた。その事がすこしだけ二人は不満だったが、遊んでいるうちはそんな瑣末な事はどうでも良かったのだ。

 

 

「こら隼人。遊ぶのも良いけど、体もなおさなきゃ駄目よ。」

 

 

「はい。お姉ちゃん!」

 

 

「はは、隼人はお姉ちゃん子なんだな。ええと。」

 

 

「私は文香、天音文香だよ。はじめましてだね、彰人君。いつも弟と遊んでくれてありがとう!」

 

 

 これが、彰人と文香の初めての出会いだった。

隼人とガンプラが、こうして彰人と文香を繋いでくれた。

 

 その事を思い出すと同時に、彰人は夢から覚めた。その瞳からは涙がとめどなく溢れていたことに気づき、苦笑すると同時に手で拭った。

 

 

 

 

一週間後、彰人達は神社に集まっていた。要件はもちろんあの事だった。

 

「来てくれたか。」

 

 

沙雪が正装で迎えてくれた。美しい着物姿だ。その凛とした姿は素直にカッコ良いと思えた。

 

 

「エリック以外、全員集合だ。」

 

 

沙雪の前に集まる彰人達。その言葉に少しの淀みもない。

 

 

「それは良かった。祭は人が多い方が良い。」

 

 

「ああ、それに彰人、この方がこの間話した神城啓司(かみしろけいじ)さんだ。さあ、どうぞ。啓司さん。彼が話した彰人君です。」

紹介された神城啓治(かみしろ けいじ)という男が沙雪の後方から現れた。長身で爽やかそうな男だった。

 

「神城です。よろしく。」

 

 

そう名乗る神城の声には歳上特有の傲慢さや嫌味を感じない。好感の持てる声をしていた。更に整った顔立ちに、清潔感のある短髪。年齢は36歳だそうだが、外見はそうは見えない。柊先生と同い年くらいに見える。きっと、若い頃はモテただろう。

 

「君、柊の生徒なんだってね。あいつ、意外に教師やれてるんだな。」

 

懐かしそうにくすくすと笑う姿も様になっている。

 

「柊先生とはお知り合いなのですか?」

 

 文香が尋ねる。俺も気になる。担任の柊先生もイケメンなのだが、あまり深くは知らない。だから少し気になり、尋ねた。

 

「ああ、知り合いというか、ライバルの弟‥‥かな。ふふっ。昔はあいつヤンチャで、教師って柄じゃないと思ったんだけどね。」

 

 

 神城は昔の思い出を懐かしそうに話した。知らなかった。柊先生にもそんな一面があったのか。彰人は驚くと同時に柊の一面を知れて嬉しかった。

 

「ああ、話が逸れたね。調べて欲しいんだろう?記録(バトルデータ)を。もちろん良いよ。ただしね。」

 

「彼らとバトルに勝ったら。というのはどうかな。」

 

 

 神城さんが目配せすると、後ろから見覚えのある金髪の男と、知らない男が歩いて来た。

 

「エリック!……と、誰?」

 

 エリックは良いとして、その隣に立つ少年は知らない。誰なのだろう。彼を良く観察すると寒がりなのか白のパーカーの上に黒のダウンジャケットを羽織っている。まるでフルアーマーの様な姿だった。背丈は少し低い。165cmくらいだろうか。いかにも、”変わり者”といった風貌の少年だ。驚いていると、その少年は突如自己紹介を始めた。

 

「初めまして。彰人さん。技術情報部の皆さん。僕の名前は峯岸燈夜《みねぎしとうや》です。普段は登山部として活動していますが、ガンプラバトルも嗜み(たしな)ます。今日はどうぞよろしく。」

 

 そう言い終えると、ぺこりと頭を下げてる。この整った顔の少年は、随分と礼儀正しいようだ。2人は好感を抱いた。

 

 

「燈夜は強い。この人形供養祭には他のプレイヤーも大勢来ていたけど、僕と燈夜で全部倒した。残るは、君達だけなのサ。」

 

「いえ、たまたまですから。エリックさんもお強いですし、僕の活躍なんて殆ど無いに等しいですよ。」

 

 燈夜と名乗る少年は口ではそう言ってはいるが、彰人は見抜いていた。こいつは生粋のバトル好きなのだと、眼の色が物語っている。もっと強いやつと闘いたい。そんな闘争心に燃える目を持っている。そして彰人はこんな目をする男が心から好きだった。

 

「なら、早速戦おうぜ。俺は早くやりたい。」

「奇遇ですね。僕もです。」

 

 

どうやら燈夜も彰人も臨戦態勢の様だ。

 

(バトルから一歩引いていた時とは違う。最盛期の彰人の目だ。これは期待できるかもしれないな。)

 

 

総一郎も彰人のそんな変化に気づく。瞼をぴくぴくとさせるとは、彼の癖だった。

 

(ミッション攻略型とは違う対人戦か!中々相手がいない彰人にとって、手応えのある相手だと良いのだけど。)

 

「ふむ。話はまとまった様だね。僕が想像した通りの展開だ。みんなバトルが好きなんだね。」

 

神城が懐かしそうに目を細めながら呟く。

 

 

(この人も昔はバトルをしていたのだろうか。)

 

 

彰人は気にとめるが、深くは詮索しない。

 

「男達の闘いか……悪くない。装置を起動しよう。入るといい。」

 

 

 沙雪の案内に続き、境内の中に入る。大きな会場の中にこれまた大きな装置がある。

 

 

(おいおいこれ、エリックの家にあるのよりでかいんですが。)

 

 

心の中で彰人は驚く。目の前には巨大なプラフスキー粒子用のガンプラバトル再生機器に加えバトル用に調整されたVRのヘッドギアが並べられていた。更にはAI再生機器も有る。恐らく大会用に作られた装置だろう。

 

 

「なんなんだこれは。これまでのガンプラバトルの技術すべてが使われているじゃないか。」

 

 

「この設備はすごいね。」

 

 

これほどの規模の機材は彰人も総一郎も見たことが無かった。

 

「凄いだろう?」

 

 

神城が誇らしげに言う。

 

 

「みんな、男の子はバトルが好きなのさ。だから僕は、こうした機器を取り扱う仕事に就いた。この年になると、反射神経とか体力が衰えて、色々現役とはいかないからね。その代わりというわけじゃないが、若い子の思い出に残るバトルを支えたい。」

 

胸を張って装置を見つめる神城は頼り甲斐のある大人に映る。自分の仕事に誇りを持っている人の目をしていた。

 

「さあ、みんな。準備は良いかい?」

 

 

神城がまるで、生徒に語りかけるかのような優し気な声で彰人達に問いかける。

 

勿論彼等の答えは一つだった。

 

 

「「「はい!」」」

 

 

神城の声に対してモデラー(ガンプラバカ)達は威勢良く応じる。

 

 

「うん。いい返事だ。」

 

 

神城はその返事を噛み締めるように、心底嬉しそうに頷く。

 

 

「頑張って彰人君。」

 

 

文香もエールを送ってくれる。各人がVRのヘッドギアを装着して、準備が整った。会場一杯にプラフスキー粒子の青い輝きが広がる。

 

——-祭りが始ろうとしていた

 

 

 

 

続く

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