最近時間が中々取れないのですが、一日一投稿でやっていけるだけやってみようかと思います。
「あアァァァァ!!!」
狂気の雄叫びを上げる華雄の大斧が、破滅的な暴力を伴って賊徒の体を粉砕する。
目の下に濃いクマをつくり、焦点が合ってはいないが、血走った目で周囲を囲む賊徒を睨む。まるで幽鬼のようなその風貌は、賊の恐怖を煽り、その足を止めさせる。
顔を見せるなと命じられ、既に一か月。未だ指定された期間の四分の一が過ぎただけだが、華雄の精神はすっかりと摩耗してしまっていた。謹慎命令ではないため、登城し、仕事をこなす必要はあったが、城内に香る主の匂い、度々聞こえる女の嬌声、艶々と幸せそうな顔で歩く同僚達。このまま城にいれば、華雄の精神に異常を来すと詠が判断し、男にそれを上奏した。その結果、華雄は馬騰が死んだ事で調子付き始めた賊の討伐へと向かう事となった。
『三か月間、領内を荒らす賊を討伐し続けよ』男が、行為の後に仕方なく書き、詠から渡された薄っぺらい命令書には、そう短く書かれていただけだった。
その日の内に出陣した華雄は、まるで業火のように賊徒を狩り続けた。華雄にとって、この地にある全ての人、物、金は主の所有物である。それを奪おうとする輩の討伐は、以前であっても苛烈を極めただろう。しかし今の華雄にはそれすら生温く感じられていた。
「殺せ!!!一匹も逃がすな!!!一匹残らず殺して晒せ!!!」
華雄の叫びと共に、配下の歩兵師団が吶喊する。涼州州牧となり、朝廷から国境防衛の為の予算が降りたことで再編された、董卓軍きっての精鋭歩兵達が、まるで虫が葉を食べるのを早回しで見ているかの様に賊の陣形を喰い破っていく。
華雄自身も、前線で斧を振るい、賊徒を血祭りに上げ、その返り血を浴びながら、辺りに臓腑を撒き散らしていく。
「ひ、ひぃっ!な、なんなんだよ、オメェはよぉ!!」
そして大勢の賊に守られた本陣らしき所に、賊の首魁がその粗野な顔を晒していた。
瞬く間に殺されていく部下達に、まともな指揮を出すことも出来なかったその男を前にして華雄は怒りを露わにする。
「きっ、きぃさま如きがァァ!!!不遜にも殿の、殿の財を奪おうなどッ!!!許せるものかァ!!!」
「ぐぎ!?お、が、く…」
華雄は、怒りの余りに斧を放り投げると、男の首を掴み、持ち上げる。息が出来ずに苦しむ男を憎悪に満ちた目で見ると、その男を近くの岩へと叩きつける。
「万死、だ!!万死に値する!!死ね!!!悔いて悔いて悔いて悔いて!!!!!それから死ね!!!」
何度も何度も、男を叩きつける。主から顔も見せるなと言われたストレスを全てぶつける様に、何度も何度も。男の頭が潰れ、脳が零れ出し、自身の手が赤黒く染まろうと、その手を休めることは無い。
「っ!はぁ、はぁ…」
「華雄将軍!そろそろ休まれては…っひ!?」
残骸と化した男の骸が、生々しい音を立てて地面に崩れ落ちる。そうまでしてもなお、治まらない華雄が、その肉塊を踏みつけていると、兵を整列された副官が休息を進言する。
しかしその副官を、華雄はギロリと睨みつけた。だが痩せた頬と、目の下には深いクマが刻まれたその返り血塗れの顔は、誰が見ても休息を必要としている事は明らかだった。
「休めだと…?殿が…その慈悲によって私に与えて下さった…名誉挽回の機会に…休めだと…?貴様はそう言うのか…?」
どろりとした視線は、正気の人間のそれではない。まるでどこまでも深い洞穴のように暗く、淀んだその目に、副官は思わず後ずさる。
「も、申し訳ございません!!」
「…捕虜を集めろ」
華雄は短くそう命じると、再び首魁の肉塊を踏みにじり始めた。
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「くそっ、くそぉ…」
「ちくしょう…うぅ…なんで、こんな…」
「か、家族がいるんだ!ガキを食わせるためには、仕方なかったんだ!!」
「呪ってやる…!」
華雄の前に、全員が手足を拘束され跪くような形で、百を越す賊が並べられている。彼らは、華雄率いる董卓軍に敗れ、捕えられた賊たちであったが、村々を襲っていた時の狂暴な顔とは正反対の、涙に塗れた悲痛な表情を一様に浮かべ、この後に自らに訪れる地獄を想像し、悲嘆と悔恨にくれていた。
「…な、なぁ!将軍殿!!お、俺はコイツらに脅されてただけなんだ!!」
ある一人の賊が、華雄に叫ぶ。自分の意思ではなかったと、脅されていて止む無くだったのだと、周囲の賊の罵声を無視しながら、懸命に華雄に懇願する。
「…殿…あぁ…殿…お許しを…どうか…もう一度…殿のご寵愛を…」
しかし、そんな男の必死の懇願は、華雄の耳には入っていない。ただただ主に許しを乞い、寵愛を強請る言葉を呟く。血と砂塵で薄汚れ、酷いクマを作っている姿は、とてもではないが、将軍位にある人間の姿とは思えず、まるで一種の幽鬼のようですらあった。
「イかれてやがる……」
その光景を見ていた一人の賊がポツリと呟いた。
「…なにか…言ったかぁ!?!?」
「ぎぁああァァ!?」
跪く賊の脚に剣が突き刺さる。華雄が手に持つその剣をぐりぐりと肉に食い込ませながら、その暗い瞳で賊に問いかける。
「ぎ、ぁ…ぐ…」
「イかれているだと…?…貴様らのようなぁ!!害虫風情にぃ!!私の、私の忠誠を理解出来るものかぁぁぁ!!!」
肉が裂け、真っ白な大腿骨が外へと露出する。他の賊が顔を青くしながらそれを見る中、華雄はもう一方の脚にも、別の剣を突き刺し、同じように肉を抉る。
「ぐ、う、ぅ…」
「はぁ、はぁ、はぁ…」
男の両足を破壊し尽くした華雄は、ゆっくりとその場に片膝をつくと、両足を地面に縫い付けられた男の顔を掴み、親指で頬を撫でた。
「だがな…貴様らには感謝もしている…貴様らのお陰で私は、汚名を雪ぐ機会を得ることが出来た…」
「か、ひ…っ!?」
ぐりぐりと、男の頬骨を撫でていた指が上へと向かう。そして、痛みで涙を浮かべる男の瞼に触れた。
「…それでも…貴様らの暴挙は許せんよなぁぁ!?!?殿の土地を荒らし!!その財を奪うグズはぁ!!………死ね」
ぐちゃり。
「ぎ、ぎゃあああああ!!」
華雄の指が賊の男の眼球を潰す、耳にこびりつく不快な音がその場にいる全員に響く。透明な液体が血と混じり、薄いピンク色の液体となって顔を伝う。視力を奪われた男が泣き叫び、痛みの余りに地面を転がる。
目が見えない事はある意味、幸せだったのかもしれない。なぜなら、恍惚とした表情の華雄が、自身の頭上で大斧を構え、今まさにそれを振り下ろさんとしている光景を見ずに済んだのだから。
「ぐぎ!?………」
「殿よ!照覧あれ!!!この地に蔓延るグズ共全て!!私が悉く駆除いたします!!」
絶叫する男の頭蓋を、華雄の大斧が砕く。脳がへばりついたその斧を、まるで神への供物のように高く掲げ、華雄は主に誓う。それは一種の神官の姿であり、狂人の姿でもある。つまりは、狂信者の姿だった。
「ちくしょうっ、ちくしょうっ…」
「殺される…」
「助けて助けて助けて…」
「…………!」
絶対に助からないことを悟った賊徒達は、失禁し、神に祈ることしか出来なかった。しかしある賊の一人がなにかを思い付き、顔を上げ叫んだ。
「と…董卓様、万歳!ば、万歳!万歳!万歳!」
「なに…?」
必死に董卓の名を叫び、それを讃える賊徒の姿に、華雄は怪訝な顔を浮かべる。
その男は、華雄の狂気的な忠誠の矛先が董卓に向いていると考え、その名を讃え華雄の機嫌を良くすることでここからの脱却を図ったのだった。
(杜撰…だな)
それを察した副官は、賊徒に哀れみと僅かに怒りの籠った目を向ける。只でさえ今の華雄は精神を摩耗しているのだ。ここで主の寵愛を競う董卓の名を讃えるなど、事情を知る董卓軍の面々ならば決して選ばない選択肢である。
「おい、貴様…董卓は素晴らしい人間か?」
「…!は、はい!彼の御方は、まさに天より送られた宝物!!この世の全てを手に入れるに相応しい方です!!まさか董卓様がこの地の主とは知らず、不遜な行いをしてしまいましたが、この失態を…へ?」
男は気付くべきだったろう。華雄が月を『董卓』と呼び、そこに敬称も敬語も無かったことに。
「だぁぁまぁぁれぇぇ!!!!」
肉を斬る嫌な音と共に血飛沫が舞い、男の首が宙を飛ぶ。数回空中で回転した首がボトリ地面に落下してようやく、その男は自分が斬られた事を認識した。しかし最早声を上げることも出来ずにそのまま先ほどの男の下へと向かっていった。
「月がぁ!!天より送られた宝物だと!?!?ふざけるなぁ!!あんな、あんな失態さえ無ければっ!!私が!私が殿の側に侍れたっ!!おのれぇぇ!!!」
華雄配下の兵士達は、こうなったら華雄が止まらない事を知っている。誰が何と言おうと、この賊達には凄惨な未来しか待っていないという事を。そしてそれは直ぐにやって来る事も、彼らは理解している。主である男がやってきて華雄を止めないでもしない限り、華雄はこの賊を殺し尽くす。
「貴様もか!?!?貴様も月が『宝物』だと思うか!?!?」
「っひ!?あ、や…ぎゃっ」
「貴様はどうだ!?!?」
「お、おれ…や、やめ…!」
「貴様はぁぁ!?!?」
「ひ、あ、え…っ!」
居並ぶ賊達に次々と質問を投げかけ、その返事を待つことなく粉砕していく。血の鉄臭さに鼻を突かれながら、兵士達はその屠殺を見続ける。もしも目を反らせば、自分達がああなるかもしれないのだ。
『殿へ歯向かった者に同情することは、殿へ歯向かうと同義』
それは華雄が普段から兵士達に告げていることだ。兵士達とて、男に洗脳された身ではあるが、その度合いは女達に比べて非常に緩いものでしかない。兵士一人一人を完全に洗脳していては、主への負担が大きくなり過ぎると判断した詠の進言によるものだが、兵士達は今それを恨んでいた。
「…おい」
「…!っは」
「燃やせ」
全ての賊を殺し終えた華雄の命に、迅速に行動する兵士達。油を最早人の形をしていない賊達に掛け、火を放つ。人間の形をしていなくても、焼ける匂いは人のそれと同じなのだと、兵士達は頭の片隅でぼんやりと感じた。
「くくく…はははははは!!!!」
賊を燃やす大火が、涼州の空を明るく照らし、華雄の高らかな狂笑が木霊した。