準備期間ということで、エロ無です。
諸侯による反黄巾連合結成の報は、瞬く間に大陸全土を駆け巡った。
その速さは、発起人である華琳自身が訝しむほどであったが、それだけ多くの民が彼らに苦しめられていることの証左だと、自身を納得させた。
「華琳様。袁術、公孫瓚、盧植、王允、趙謙、孫策、劉表も参戦を表明しました」
「そう、孫策と劉表は意外だけれど、これで大陸の主なる諸侯は取り込めたわね」
知的な瞳の上に眼鏡を掛けた少女が華琳に報告する。彼女の名は郭嘉、真名を凛という。黄巾賊から逃げている最中に友とはぐれてしまった彼女は、曹操軍に保護され、配下に加わると、軍師としてこれ以上ない活躍を示していた。
彼女の加入によって、連合設立は大きく前進し、華北の諸侯だけでなく南方の諸侯や、黄巾討伐を命じられている官軍からも参加表明が届くようになっていた。
その中でも犬猿の仲である孫策と劉表が、共に参戦を表明していることは世間にも驚きを持って知られたが、後漢史上類を見ない大連合の誕生に、民衆は熱狂していた。
「麗羽の方はどうなっているの?桂花」
「はい。連合盟主の役、引き受けるそうです。…やはり董卓軍の不参加が効いているようで」
跪く桂花が、華琳に伝える。実家のコネを悉く使い、彼女は袁紹に『董卓軍は黄巾賊に怖気付き、連合に不参加を表明した』という噂を届けることに成功しており、自尊心をくすぐられた袁紹は、名族としての誇りから盟主の任を引き受けていた。
勿論、董卓軍が怖気づいたと本気で思っているのは、彼女くらいのものであり、他の諸侯は、朝廷の高官達が自分達を守る盾である董卓軍を手放す筈がないことを知っており、董卓軍へ同情の目を送っていた。
「参加したいのは山々なれど、帝より仰せつかった司隷の守りを放棄する訳にはいかず…上手い言い訳ね。これで非難しようものなら不敬罪に問われかねないもの」
「それに加えて、官位では下に位置する華琳様への文としては破格の丁寧さです。これを追及すれば、自らの器の小ささを喧伝するようなもの…こうなっては董卓軍の参加は期待できません」
眼鏡を光らせる凛は、僅かな危惧を覚えていた。司隷に侵攻を目論んだ黄巾賊を、董卓軍が壊滅させたことは記憶に新しい。それも3倍の兵力差を覆してである。その彼女らが参戦しないというのは、黄巾賊との戦が難しくなったことを表している。
「確かに董卓軍は重要な戦力よ。しかしこの曹孟徳や孫策をはじめ、黄巾賊との戦いで名を上げた者も連合には多く参加するわ。けれど麗羽の、袁家程の財や兵を持つ者はいない…となれば優先すべきは麗羽よ」
そんな凛の心を読んでか、華琳が袁紹を優先する理由を語る。まずは兵力を集めることが肝要だと語る華琳の言葉は、なにも間違っていない王道のものだった。
さらに言えば、袁家という誰もが知る名族が盟主であれば、頭の硬い老人共も参加しやすいと踏んでのことだった。
「…っは!」
だからこそ凛は、胸につかえた小さな違和感を無視して、対黄巾賊との戦に備えて準備に走った。
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「桃香さま、参加するべきです!」
「わ、私もそう思いましゅ…」
二人の幼女が桃色の髪を持った少女、劉備に詰め寄る。二人の手には、少女の師・盧植から送られた反黄巾連合の結成を知らせる手紙が握り締められていた。
「うん…」
しかし、苦しむ人を救う為にと立ち上がったはずの少女は、どこか煮え切らない態度で、空を見上げている。
「桃香様…」
「……」
そんな劉備を見て、義姉妹である関羽と張飛が眉を下げる。乱世に苦しむ人を救い、誰もが笑って暮らせる世にしたい。余人が、甘い、青臭い夢だと嗤う、劉備のその理想を実現すべく戦ってきた二人の妹は、姉の苦しみを誰よりもよく分かっていた。
「…私ね、皆が幸せになれる世の中にしたいって思って、戦って来たの。悪いことをしてる人たちだって、きっと時代の所為なんだって。話せばきっと分かってくれるんだって…。…だけど、黄巾の人たちがやったことは、どうしても許せないの…!」
黄巾賊から人々を守るために、各地を転戦してきた劉備が見たのは、自身の理想を完膚なきまでに打ち砕く、
生きながらに燃やされた男を見た。
母親の腹から引きずり出され、殺された赤子を見た。
親を殺すことを強制され、心が死んだ少年を見た。
焼け落ちた村で、虫に食われる死体を見た。
子を守るため、夫を殺す母親を見た。
無理矢理殺し合わされる家族を見た。
劉玄徳は、地獄を見た。
そして仲間達は、理想を砕かれた劉備を見た。
「だから、ごめんね。一度だけで良いの。今回だけ、今回だけだからっ…」
背を向け震える劉備の声が、怒りと憎しみに染まっていく。純白だった心が、どす黒い殺意に染まり、劉備に己が理想を忘れさせる。必ず思い出すからと、今だけは何も知らなかった頃の、真っ白だった自分が抱いた理想に蓋をする。
「……私、喜んで人を殺すね」
まるで周囲の空気が歪むような錯覚を一面に撒きながら、振り返ったその顔は、憎しみと嫌悪、殺意と悪意がグチャグチャに入り交じり、逆になにも感情を表さない、虚無の表情となっていた。
希望と理想を、花が咲くような笑顔で語った少女は、もういない。
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「なによ、つまんないわね」
南方、呉の地。そこには、黄巾を巻いた夥しい数の死体が広がっていた。その中に立ち、剣を持つのは、褐色の肌を持つ美女、小覇王と称される孫策だった。中原から長江を越えて侵攻してきた黄巾賊は、この地を守護する孫家と戦い、あっけなく壊滅した。
「そう言うな雪蓮、長江を越えてきたのが狂信者派閥の軍でなくて良かった、もし奴らだったかと思うと…」
「冥林ってば、そんなの私が皆殺しにしてたわよ…とは言えないわよねぇ…」
孫策は深い溜息と共に、自軍を見る。今回の敵が只の黄巾賊であったが故に、損害は軽微なもので済んでいたが、兵士達は息も絶え絶えといった有様で、武器を杖にしてなんとか立っている者も多い。自軍の数倍する軍勢と戦ってその程度で済んでいるのは、偏に、周瑜の指揮能力の高さと、孫策の突出した武勇にあった。
しかし孫策軍は、以前と比べ、そもそもの総数を異様に減らしていた。
以前の戦いで、狂信者の軍と戦った孫家は、その圧倒的な士気と、不死身の執念によってあわや敗北寸前にまで追い詰められていたのだ。孫策を筆頭に、袁術に下げたくない頭を下げて結集させた孫家の面々の奮闘により、辛くも勝利したものの、残党は再び中原へと戻っていたため、大した痛手は与えられていないだろうというのが、周瑜を始めとする軍師陣の見解だった。
「蓮華さまは未だにか…?」
「えぇ…大分イラついてるみたい」
母である孫堅が死に、袁術の傘下に入らざるを得なかった孫家。そんな彼女たちを繋ぐのは、『血』である。孫堅の娘という看板を下に、孫策は勢力を拡大してきた。そこには無論、彼女自身の才覚もあったが、領地の豪族が彼女に従う理由の大部分は彼女の血が理由なのだ。
であれば、わざわざ危険な戦場に孫家当主の妹姫である、孫権を出すことはできない。だからこそ現在孫権は、寿春にある孫家の屋敷で半軟禁状態にあった。
「…だが、今は耐えて貰う他ない。今ここで蓮華さまを失うような事になれば…」
「私は死ぬつもりないわよ?」
「あぁ…分かっているさ雪蓮。念のためさ」
剣に付いた血を振り払い、鞘に納める。ただそれだけも勇壮なその姿は、配下の兵達に憧憬を抱かせるには十分だった。力を振り絞り、再び立ち上がる孫策軍。まだやれるとその燃える瞳で主に訴える。
(見てる?母様…私は良い仲間に恵まれたわ…)
そんな誇り高い配下の姿を、天にいる母へ自慢する。どんな敵と戦おうとも、彼らとならば大丈夫だと、母から受け継いだ南海覇王を柄を撫でた。
「雪蓮さまぁ~」
「の、穏さまっ!お待ちください!」
そんな孫策の下に、2人の女性が駆ける。名は陸遜、真名は穏という彼女は、その豊満すぎる胸を左右に揺らしながら、孫策の下へと駆け寄ると、2通の手紙を差し出した。
そこで追いついたもう一人の少女の名は呂蒙、真名は亞莎。彼女は慌てて穏の後ろで跪く。
「なによこれ…?………へぇ…!」
「どうした雪蓮?」
一通目の手紙を読むや否や、獰猛な笑みを浮かべ、北へとその牙を向ける。親友の姿に疑問を抱いた周瑜だったが、孫策から手渡された手紙を読むと、彼女もニヤリと笑った。
その手紙には、短い一文だけが記されていた。
『黄巾賊が集結を開始、連合軍は直ちに結集されたし。結集場所は…
戦いが始まろうとしていた。
しかし獰猛に笑う二人の背後、冷徹な瞳で主へ捧げる供物を見定める呂蒙に、終ぞ二人が気付くことは無かった。
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「主教さま、準備が終わったのですよ」
「主教様、どうか我らに祝福を…!!」
いつものゆったりとした服に身を包んだ風が横に並ぶ波才と共に、玉座に腰掛ける男へと礼をする。玉座の足元には、散々に遊びつくされた三姉妹が、その身を痙攣させながら、恍惚とした表情で精液に塗れている。
風と波才の背には真桜と凪が並び、さらにその背後には総勢五千の奉身教徒ではない黄巾賊達が縛られ、膝を付かされていた。
「うむうむ、ぬしらが働けるよう、整えてやろうかのぉ」
ゆらりと、男が玉座から立ち上がる。その瞬間に、四人は敬愛する神に道を空け、男を哀れな黄巾賊の下へと導いた。
「……!!」
口を塞がれ、悲鳴も、助けを呼ぶことさえ許されない黄巾賊達に男は手を翳す。
一瞬の間の後、極光が解き放たれた。
瞼ごしにでも目を焼かれそうな極光は易々と玉座の間を覆い、大神殿全体を照らし出す。あまり強すぎる光に、影すらも断ち切られていく。
永遠に続くかと思われたその極光は、ゆっくりと、ゆっくりとその強さを弱めていき、ようやく光が止んだ時、大神殿は静謐に包まれていた。
「グ…ガ、ァァァアアアア!!!」
「オン…ミノ…タメ、ニィィィィィ!!!」
「ニエ、ヲ…ササゲヨ…ニエヲ、ニエヲ、ニエヲォォォォ!!」
「キョウ…シュサマ、ニ…スベテヲ…!」
突如として縛られていた黄巾賊が苦しみ、叫び出す。白目を向いて口から泡を吹き出し、狂乱するその姿は、人のものとはかけ離れており、男によって人を人足らしめている全てのものが奪われ、作り変えられた事を証明していた。
それは神の軍勢。神へ供物を、贄を捧げる事以外の全てが欠落した、神の為だけの軍勢だった。例え手足を斬り落とされようと、神に仇なす逆賊を噛み殺す怪物達がここに生まれた。
「俺の配下は幸福だ…!」
「これはこれは…面白いのですよー」
配下の兵たちが人としてのカタチを奪われたにも関わらず、波才はそれを幸福と呼び、感涙に咽び泣く。
しかし風は、彼らの持つ戦略的価値を冷静に見極めている。彼らに恐怖は無く、痛みも無く、休む事も、退く事もない、完璧な兵士達。彼らに対して発する命令は、たった一つしかない。それは『殺せ』。ただそれだけで彼らは敵を殺すだろう。殺し尽くすか、殺され尽くすその時まで。
「さてさて、どんな風に使いましょー」
まるで新品の玩具を買い与えられた子供の様に、無邪気にはしゃぐ風は、飴で隠したその口を、三日月のように歪めていた。