私生活が忙しかったのと、プロットの練り直しで時間が掛かってしまいました!
更新速度は落ちると思いますが、投稿は続けていきますので、よろしくお願いします!
※エロ無し回です
「税を減らすとは…仲謀様、本気で仰っておいでか?」
「えぇ。軍の再建のため、民には既に十分以上の無理をさせているわ。これ以上税を重くすれば離散反乱も有り得る」
孫家の本拠地である江東。その城で蓮華は一人、孤独な戦いを続けていた。
雪蓮に万一の事があった時の為、戦場からは遠く離れた城で政務を執る。それが自身に与えられた役目だと頭で理解はしているが、蓮華の苛立ちは日ごとに増していくばかりだった。
「なんと嘆かわしい!!…仲謀様、もっと大局を見なされ!世は既に乱世!であれば、兵を集め、領地を守ることは領主の責務ですぞ?」
「左様左様。文台様が聞かれたらなんとお嘆きになることやら!」
「そもそも当主は伯符様であり、いかに御姉妹であれ、仲謀様は留守を預かっておるのみ。斯様な事を伯符様の許しなく行うとは、長幼の序にも、臣下の礼にも反する事でございます」
「…っ」
それらしいことを嘯きながら、蓮華の政策に口を挟む三人の老人。彼らこそが蓮華の苛立ちの原因であった。
政治に長けた側近の居ない蓮華を補佐するため、雪蓮が残していった、孫堅の代から孫家の内政に携わってきた経験豊かな官僚達。しかし蓋を開けてみれば、未だ若い蓮華を侮り、あの手この手で私腹を肥やそうと蠢く害虫でしかなかった。
「仲謀様におかれましては、伯符様や文台様を見習い、下々共の些事ではなく、大局…天命に視野をお向けくだされ」
母も姉も民の生活を些事などとは決して言わなかった。自分達に都合よく事実を捻じ曲げる三人を斬り捨てるべきかと、蓮華の手が剣へと伸びる。
しかし如何に害虫とはいえ、彼らの手を借りなければ内政が行えないことは事実だった。だからこそ、蓮華は苦渋に顔を歪めながら、引き下がるしかない。力のない小娘でしかない自分では、一人で領地全ての内政を行うなど、到底できはしないのだから。
姉ならばきっと、民の生活を些事と見下した彼らを、一瞬の迷いなく斬り捨てるのだろうなと、諦めにも似た羨望を抱きながら蓮華は頷いた。
「…わ、かった…」
「おぉ!お分かり頂けましたか!ささっ、斯様な俗事ではなく、麗しい琴や笛を奏で、天下を見つめましょうぞ!…ご心配なく、政は我らの手の者にお任せくだされ」
そう言われ、蓮華は謁見の間から追い出された。
するとどこから連れてきたのか、見目美しい男達が素早く蓮華の側へと侍り、表面だけを取り繕った薄っぺらい言葉を並びたてて、蓮華を離れへと連れ出す。最近は常に彼らに周囲を固められているせいで、戦地にいる姉達に助けを求めることも出来ず、思春や明命も雑事を押し付けられて城から離されている。正しく彼女は孤立無援だった。
「仲謀様、御手を」
そんな中で、男たちの中でも一際美しく、年頃の娘ならば思わず胸がときめくであろう美青年が、優し気に微笑みながら蓮華の手を取る。こんな色男を用意するほど自分を政治から遠ざけたいのだなと、蓮華はその欲深さに感心すら覚える。
「えぇ、行きましょう」
しかし美青年に握られた手を振り払い、彼女は歩き出す。実権を剥がれ、お飾りとなっても、矜持だけは捨てはしない。孫文台の娘が、孫伯符の妹が、諦観に押し潰されて男に溺れるなどあってはならない。今は耐えるしかない。けれど姉が袁術を打ち破り、帰還したときこそ、江東に蔓延る害虫を、一匹残らず駆除するのだと心に誓う。
しかし誇り高い孫家の姫君として育った彼女は、老人達の悪意の深さを読み切れていなかった。
自身の側近である2人が閑職に追いやられたなどと思い込んでしまっているのだから。
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「ほっほっほ。あの頃の娘が悔しがる顔とは、あんなにも良いものとはのう」
「全くですなぁ。年甲斐もなく興奮してしまいましたわい」
「いやはや是非とも喘がせてみたいものですなぁ」
蓮華を追い出した後、老人達はニヤニヤとした笑みと共に、主筋であるはずの少女を思い返し、嘲笑う。
孫文台、孫伯符と二代続けて苛烈な主君が君臨していた孫家。それゆえ、不正役人や奸臣などは現れる度にすぐさま殺されていた。
しかし黄巾賊との戦いで、孫家は屋台骨を揺さぶられる損害を負い、その回復を最優先としたために、厳格だったはずの綱紀粛正にも綻びが生じていた。
不正役人にとって明日をも知れぬ日々。それを清廉潔白な皮を被ることでやり過ごしてきたこの三人は、今こそまさに我が世の春とばかりに、孫家という極上の獲物、その骨までをしゃぶりつくそうと蠢動を始めたのだった。
「とはいえ、孫策が戻ってくれば全てご破算よ」
「うむ、それまでに我らの影響力を高めておかねばのぅ」
「陸家とも上手くやれておる…となればそう難しくもあるまい。幸い、金は唸るほどあるしの」
美酒を水のように流し込みながら、老人達はこれから始まる栄華を夢想する。袁家との争いなどは賠償金かもしくは、自分達に反抗する愚図共の領地でもくれてやれば良い。それで自分達の懐が痛む訳でもないのだから。彼らにとって、この戦いはその程度の認識でしかなかった。そんなことよりも、折角の後援者の機嫌を損ねないことの方が遥かに大事なことなのだから。彼らからの莫大な献金があってこそ、自分達は栄華を掴むことが出来ると、利益に人一倍鼻が利く三人は判断していた。
「奉身教…といったかの…彼らの要求は?」
「税を重くして欲しいとのことで…そう、民が餓えるほどに」
「そして彼らは民に施しを与え、信徒を増やすと…いやはや恐ろしいのう」
彼らの視界では、民など虫同然であり、苦しめることが自らの利益に繋がるのであれば、その実行に些かの迷いも躊躇いもない。
「おぉ、そうじゃ。お主はどう思う?…甘寧」
「っ……お三方のご意思のままに…」
音も気配もなく、扉の側に佇む思春へと、老人の一人が視線を向ける。
こんな醜悪な会話など聞きたくもないと、その表情は語っていたが、彼女の口から出たのは、三人を肯定する言葉だった。
「左様か!元義賊である甘寧殿にそう言って貰えるとは嬉しいのう!」
「然り然り!ほれ!そんな所ではなくこちらへ来ぬか!」
「…し、つれい、致します…」
そう言う老人は自身の膝を叩き、思春を呼び寄せる。全身に鳥肌が立つのを感じながらも、思春は老人の膝に横向きに腰を降ろした。
するとすぐ様、潤いとはほど遠い、カサカサの老人の手が、思春の足へと這い回る。彼女の下半身を守る布は小さな褌のみ。無防備に晒されている足を、まるで犬猫でも撫でるかのように弄ぶ老人を、思春は顔を伏せながらも、射殺さんばかりに睨みつけた。
「んん?なんじゃその目は?…そうかそうか仲謀様がどうなっても良い。ということじゃな」
「な…!ま、待て!違う!」
その目を、老人たちは見逃さない。蓮華の周囲は常に三人の配下によって固められている現状、驚くほど簡単に蓮華の命は奪われるだろう。
主の首輪には配下を使い、配下の首輪には主を使う。使い古されてきたやり口だが、ゆえにその効果は絶大だった。それは、普段の鉄面皮が嘘のように慌てふためく思春自身が証明している。
「れ…仲謀様には手を出さないで下さい…お願いします」
膝から飛び降りるように、跪く思春。
荒くれ者の江賊を率いる頭目が、非力な老人達に向かって頭を床に擦り付けながら懇願する。それは老人達の嗜虐心を甚く刺激し、思春を見下す瞳に情欲が灯る。
「ふむ…ならばお主の誠意を見せて貰おうかのぉ」
「…は、い…かしこ、まりました…」
溢れ出す屈辱と嫌悪を、決して顔には出さないように拳を握り締め、思春は己を見下ろす、醜い老害の腰布へと手を掛けた。
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孫家の領地の1つである揚州。その揚州でも有数の名家である陸家の屋敷に、明命の姿はあった。
「ただいま戻りました…陸績様」
東屋で満月を肴に酒を呷る陸績という雅な青年の下へ彼女は跪く。その手には苦悶の表情を浮かべ、血を滴らせる壮年の男の首が握られていた。
袁術軍に捕えられた陸遜の年下の叔父として、今や陸家の事実上の当主となった陸績は、孫家の実権を奪った老人達から、都合の良い密偵兼玩具として贈られた明命を、政敵を葬る刺客として存分に活用していた。
「あぁ周泰か…ご苦労。首は魚の餌にでもしておけ」
「はい」
水飛沫を立てて水底へと沈む生首に魚が集るのを、明命はぼんやりとした瞳で眺める。
東屋の周囲を囲む池の底には、最早数えるのも億劫になるほどの頭蓋骨が山積している。それら全ては未だ幼い彼女が仕留めた人間のものであり、彼女の罪の象徴だった。
「…お前も可哀想になぁ。主と引き離され、今や猟犬の真似事とは…いや猟猫か?」
澱んだ瞳で沈んだ頭蓋骨を見つめる明命の肩に、そっと陸績の手が触れる。
明命を案じる様な口ぶりではあるが、その声色はゾッとするほど冷たく、心優しい天真爛漫な少女の心が壊れていく様を楽しんでいることは明らかだった。
「もうお前は戻れんよ…ここまで血で汚れたお前を孫家が受け入れるとでも?」
「わ、たしは…蓮華さまの…ために…」
罪の意識に苛まれ、ひび割れた少女の心に陸績は毒を流し込んでいく。
違う。蓮華様はそんな人じゃない。きっと、よく頑張ったわねと抱き締めてくれる。明命の口から僅かに漏れる言葉を、彼はせせら笑った。
「ほう?ではお前がここに来てから一度も、ただの一度たりとも仲謀からの便りがないのは何故だ?」
「そ、れは…」
息が掛かるほど近くで、陸績が優しく囁く。それは明命の心に、棘のように刺さっていた、一抹の不安。陸績はその棘をゆっくりと彼女の心、その奥深くへと突き刺していく。
三人の老人に実権を奪われた蓮華の側から引き離され、この青年の下に送り込まれて今日に至るまで、蓮華からは何一つとしての便りも無かった。伝言も手紙も、何一つ。
「いい加減に分かれ…お前は捨てられたんだよ」
「嘘ですっ!」
条件反射的に、明命は否定を口にする。そんなことは有り得ない。あってはならないと。
「蓮華さまはっ!最後に言ってくれました!少しの間だけだって!雪蓮さまが戻ればきっと良くなるからって!」
「では、行くがいい。自分の目で直接見てくると良いさ…老人共には黙っておいてやろう」
涙を浮かべ、主と最後に交わした言葉を叫ぶ少女を、怜悧な瞳で見つめた陸績は、再び視線を月へと移し、盃を傾けた。
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「うそ…です…」
陸績から許しを得た明命は、必死に野山を駆けた。血に塗れてしまった自分ではあるが、きっと蓮華は受け入れてくれると確信している。そう思えばこそ、常人ならば2日は掛かる道のりを僅か半日で踏破したのだ。
しかし、そうまでして目にしたのは、昼間から大勢の美男に囲まれ、舞や詩を楽しむ主の姿だった。それはとてもではないが、実権を奪い返す為に奔走している様には見えず、男に溺れる浅ましい女としか、明命の目には映らなかった。
さらに彼女を失望させたのは、憎い相手であるはずの三人の老人達に、媚びでも売るかのように尻を振りながら肉棒を頬張る思春の姿だった。
美男を侍らせ、享楽に現を抜かす主に、老人相手に尻を振り口淫を行う仲間。
それは明命の心に失望と怨嗟を産むには十分過ぎた。
『お前は捨てられたんだ』
「なんだ…誰も、私のことなんて…」
ポツリと彼女の頬を雨が濡らす。もうここにお前の居場所はないと、空からも突き放されたような陰鬱な感情が彼女の心を覆う。
「……帰りましょう…」
失望と絶望に押し潰されながら、彼女は帰るはずだった場所から去っていく。行く当てなど最早1つしかなかった。来たときとは打って変わって、足取りは重いものだったが、自然と、その足は陸績の屋敷へと向かっていた。
老人と陸績は奉身教徒ではないです。
外には袁術、内には亞莎と祭、本拠地には奸臣と、踏んだり蹴ったりな孫呉です。