※この作品はR-18です。

洗脳†無双   作:bytheway

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長江と蟲毒

孫家と袁家が長江に布陣してから早二ヶ月。互いに相手の隙を伺いながら自陣を強化し続けた事で、完全な膠着状態に陥った両軍。

孫策軍には厭戦気分が蔓延し、強固だったはずの規律は確実に緩みつつあった。

 

湿気た風が頬を撫で、栗色の髪を抑えながら、亞莎は眼前に跪く、孫策軍の鎧を纏った同胞からの報告に耳を傾けていた。

 

「そうですか…引き続き監視を怠らないよう、彼に伝えて下さい」

 

奉身の国造りを円滑に行う為、江東に呼び寄せた奉身教徒達を使い、巧妙に腐った性根を隠し通していた三人の役人に目を付け、欲望を煽り立てることで蓮華と思春、そして明命の三人を分断することに成功していた。

とはいえ、蓮華達はいずれ教主に捧げる大事な供物。その躰に傷を付けることなど許容できる筈もない。ゆえに亞莎は新たに教徒となった青年に老人達を監視させ、万が一にも彼らが蓮華達の命を奪うことなど無いように厳命した。

 

「老害どもめ、はしゃいどるのう」

 

「まぁ、蓮華の心を折ってくれるというのなら、多少の狼藉には目を瞑りましょう」

 

教主の神威を使えば、矮小な小娘一人どうということはないが、奉身教徒が社会の隅々にまで入り込んだ冀州や、強固な護衛体制が敷かれた洛陽に比べれば、江東は未だ安全とは言い難い。

神の偉大さを理解できない、無知蒙昧な蛮族が蔓延る地に教主を呼び寄せるなど以ての外であり、たかが小娘一人のために神の貴重な時間を割くことは、既に一度失態を演じている亞莎には憚れた。

ならば当面の間は、心が折れた蓮華を傀儡とし、江東に神の威光を広めることが先決だと、彼女は判断していた。

 

「蓮華のことは老害共の好きにさせるとして、問題はむしろこっちじゃろう」

 

「……」

 

蓮華の傀儡化は順調な滑り出しを終えたが、一方で、長江での戦は膠着状態に陥っている。

蓮華を傀儡とするためにもう暫くの時間が必要な亞莎にとって、時間が掛かること自体はむしろ好都合といえるが、稀代の謀略家である張勲がこの時間を無為にしているとは思えず、不気味さを感じずにはいられなかった。

 

「あぁもう!!イラつくわね!」

 

張勲の目的が見えず、爪を噛む亞莎の耳に、雪蓮の怒号が飛び込む。

布陣してから最早見慣れた光景となった雪蓮の癇癪に、亞莎は眉間に皺を寄せ、祭は溜息を零す。

 

・

・

・

 

「いつまで睨み合うのよ!」

 

「落ち着け雪蓮。無策に突撃しても返り討ちに逢うだけだ。…これ以上私たちに兵を失う余裕はないんだ」

 

天幕の中に置かれた椅子の肘掛に拳を叩きつけて怒鳴る雪蓮を、冷静に諭す冥琳。前から突撃癖のあった雪蓮だが、腹心の兵士達を卑劣な裏切りで失った怒りからか、以前にも増して攻撃的な戦を求めるようになっていた。

しかし孫家の内情は、被害の大きい勝利を許容できるほど恵まれた物ではなく、雪蓮が攻撃を主張するたびに冥琳が諫めるというのが、ここ最近のお決まりとなっていた。

 

「…ッ!…袁術ぅ…!!」

 

奉身教徒となり、雪蓮への忠誠も、江東への郷土愛も失った亞莎と祭は、内心でそんな雪蓮を冷たい目で見下していたが、冥琳だけは知っていた。

雪蓮が眠るたびに悪夢にうなされ、死んでいった彼らと、生死も分からない穏に何度も何度も謝罪を繰り返していること、ここ最近では悪夢に怯え、まともに眠ることさえ出来ていないということを。

総大将がそんな有様では、兵士達にどんな影響が出るか分かったものではないと、冥琳は雪蓮の惨状を徹底的に隠蔽した。

 

「アイツのせいでぇ…!」

 

「雪蓮…」

 

肘掛けがひび割れるほど強く握り締める親友の姿に、美周郎などと持て囃されても、何もしてやれない己の不甲斐なさを冥琳は呪った。

雪蓮が戦が出来る状態ではないことは、彼女が一番良く分かっている。しかしそもそもの地力が違う孫家と袁家では、時間を置けば戦力差は広がる一方なのだ。袁家を倒し、孫家が名実共に天下に躍り出る機会は、今を除いて他にないと冥琳は確信している。

 

「頭…冷やしてくるわ…」

 

「…あぁ」

 

よろよろと立ち上がる雪蓮に駆け寄り、抱締めようとする浅ましい体を、冥琳は必死に抑え込む。撤退戦の最中で情事に耽り、兵たちの信頼を完全に失う寸前までいった醜態を、二人は決して忘れていない。

戦いで高揚した体を冷ますための交合も、今ではすっかりなくなり、城に居た時でも、孫家を立て直すことに全力を注ぎ、同衾することさえ無かった。

最早互いに肌を見せあうことはなく、ただ孫家の為にひたすら力を尽くす両者。しかしそれが、二人の精神をじわじわと摩耗させている。

 

「なんて浅ましく、醜いのだろうな…私は」

 

薄氷の上でなんとか立ちゆく孫家、罪悪感と後悔に苛まれる親友。そんな中でも疼く、己の中の『女』を嫌悪しながらも、彼女は仄暗い欲望に手を伸ばした。

豊かに実った自身の胸にそっと触れれば、抗いようのない快楽が脳を揺さぶる。失禁でもしたかのように溢れる愛液が下着を濡らし、陰核が立ち上がる。

主が去ったばかりの椅子へと腰を降ろし、愛する雪蓮が残した温もりを感じながら、下着を脱ぎ捨てる。

 

「っくぅ…はっ…ぁ」

 

かつて交じり合った雪蓮の野性味溢れるしなやかな裸体を脳裏に浮かべ、陰核を摘まむ。それだけで、瞳は蕩けて、唇の端からは唾液が零れた。

 

「き、ぁ…♡しぇ、れぇ…ん♡」

 

頬を垂れる唾液など気にも留めず、すらりとした指を膣口へと這わせ、快楽を求めて大口を開けていた膣穴へと挿入する。

 

「っあ♡こ、れは…♡だめ、だ…♡」

 

それが望んでいた愛する人の指ではなかったとしても、彼女の体は久方ぶりの性感に震え、妖艶な熱を持ち始める。

火照った顔が桃色に染まり、彼女の頭から快楽以外を奪っていく。

 

(あぁ…!雪蓮っ…雪蓮…!)

 

激しい抽挿とともに、淫らな水音が股から漏れ出していく。片方の手で乳首を摘まみ、指を曲げて愛液を掻きだす様に抽挿を繰り返す。それは彼女が最も好む手淫の方法だった。

 

「ぁ゛…は♡んん゛ぅ」

 

何度も繰り返された女同士の情事で開発され切った彼女の体は、この手淫で容易く絶頂へと至る。

濃厚な、白く濁った愛液が纏わりついた指を抜き、口へと運ぶ。しかし彼女の目には、未だに情欲の炎が燻ったままだった。

 

(やはり…一人でいくら慰めても、足りないな…)

 

自慰の余韻に浸りながら、女を覚えたばかりの若い男の様に、快楽を求めてしまう淫らな己を自嘲する。

 

「この戦が終われば、もう一度雪蓮と…」

 

血の臭いに酔った雪蓮との、獣のような情事をもう一度。そう願う彼女の頭には、孫家のことも、江東のことも、袁家への憎しみすら無く、親友である雪蓮の、その極上の肢体を味わいたいという劣情だけだった。

 

▼

 

「はぁ…はぁ…」

 

三歩先も見えないような暗闇の中で、愛紗はがむしゃらに武を振るう。

黄巾賊に捕えられてすぐに、彼女はここに放り込まれた。分かっていることは、この場所が巨大な縦穴であり、自分と同じような人間が無数に捕えられている事だけだった。明かりも食料も水もない、ただ虚無だけが広がるこの空間は、そこにいる人間から容易く理性を奪い去っていく。

 

「ぎ、ぃ…??……アぁぁぁぁあぁ!!」

 

「邪魔、だっ!!」

 

理性を無くした人間達は、飢えと渇きに耐えきれず、同じ人間へと襲いかかる。殺した相手の死肉を貪り、血を啜ることで、僅かな間だけでも飢餓から逃れようと藻掻いていた。

 

「ギッ…ャああああああ!!!」

 

そんな彼らを、既に何百人と愛紗は磨り潰していた。ボロボロに刃毀れし、錆び付いた鈍の剣では、いかに彼女に卓越した武があろうと、『斬り捨てる』などという上等な真似は出来ず、斬るたびに、激痛に悶える断末魔の絶叫が縦穴に木霊した。

 

「黙、れ!」

 

「ぁぎ…!」

 

しかし最初の頃は頭にこびり付いていたそれも、聞き慣れた今では、不協和音として素通りしていくようになっていた。

そんなことよりも大事な事が彼女にはあったのだから。

 

「100ゥ…!」

 

ボサボサにほつれた黒髪を振り乱しながら、愛紗は天井に向かって叫ぶ。

すると、後ろの方でどすんと、何かが上から落とされた。

 

「…!!!」

 

まるで豹にでもなったかのように、一目散に音の方へと愛紗は駆ける。近づくほどに、彼女の嗅覚を刺激する、焼けた肉の香り。血と糞尿の臭いしかしないこの地獄で、それに抗うなど、誰であっても出来はしない。

 

「うぁ…」

 

しかし暗がりの中で目を凝らした愛紗が見たのは、あばらが浮き出るほどに痩せ細り、餓鬼の様な風体の少年が、こんがりと焼け、湯気を昇らせる肉へと手を伸ばしていた姿だった。

その瞬間、彼女の中から理性がはじけ飛んだ。

 

「きぃ、汚い手でェェ!!ざ、触るなァァ!!」

 

駆けた勢いのまま、少年の鳩尾を蹴り上げる。一流の武人が本能のままに繰り出した強烈な蹴撃は、飢えに弱り切った幼い少年の臓腑を破裂させ、その命を打ち砕いた。

 

「は、は!」

 

蹴り飛ばされ、岩壁に叩きつけられた少年の小さな掌から零れ落ちた肉に、愛紗は喰らい付いた。噛み締める毎に溢れる肉汁が、彼女に途方もない多幸感を齎す。舌が歓喜に打ち震え、喉が、胃が、腸が、さっさと寄こせと雄叫びを上げている。

 

 

「美味い…美味いィ…うまいぃぃぃぃ!!」

 

肉の臭いに釣られて群がってきた餓鬼共を、躊躇なく殺し続ける愛紗。これまでの経験で、100人殺す度に、暖かい食事にありつけることを学んだ愛紗の目には、最早彼らは同じ人間とは映らない。

彼らは自分の食事に群がる害虫なのだ、臭く醜い姿を視界に入れるだけで、折角の食事の味が落ちる。

刺激を極限まで削ぎ落されたこの空間で、唯一にして最上の刺激である食事を邪魔する害虫を駆除することに、彼女は些かの躊躇いもなかった。

彼女が殺す害虫達の中に、かつて己と同じ主を戴き、同じ理想を夢見た義勇軍の仲間達がいようと、そんなことは最早どうでも良かった。

 

「中々に強靭な兵が出来上がりそうなのですよ」

 

彼女にとっては心地良い、断末魔の声にうっとりと耳を傾けながら、風の視線は愛紗のいる縦穴を見下ろしていた。

かつては教主の御座所であった冀州の山中に造られた神殿は、洛陽の大神殿にその役目を譲り、今では教主の神威なくとも、教団の為に働く精鋭兵を生み出す地獄へと変貌していた。

 

「狂信兵には複雑な命令などできませんからね」

 

より賢く、より従順に、より強く。人道も倫理も踏み越えて、教主の為に働く兵士を造り出す、この地は、教団の上位者達からは『蟲毒』と呼ばれ、教団の更なる飛躍のため、期待の的となっていた。

 

「効率が悪いのが玉に瑕ですが、数を揃えれば問題ないのですよ」

 

顔を上げた風の前には、愛紗が捕えられている縦穴と全く同じものが無数に点在し、その全てから悲鳴と断末魔が響いていた。

 

▼

 

「張勲様、準備が整いました」

 

竹簡に目を通していた七乃が、兵士の言葉に顔を上げ、にっこりと微笑んだ。

思いのほか時間は掛かったが、これでようやく神へと供物を捧げる事が出来ると、彼女は胸を撫でおろす。

 

「それでは手筈通りに、全軍撤退してください」

 

「っは!」

 

厚い雲に阻まれ、月明かりも届かない暗闇の中で、袁術軍は総撤退を開始した。

孫策軍に無防備な背を向け、撤退していく袁術軍。ここで雪蓮を先頭に突撃を行えば、名だたる将軍を討ち取ることも可能だっただろう。

しかし規律が緩み、見張りの兵すら居眠りをしている孫策軍は、終ぞ撤退に気付けなかった。そうして日が昇る頃には、袁術軍は遥か遠く。もぬけの殻となった陣を見て、雪蓮は怒りのままに机を蹴り飛ばした。

 




次回で孫家と袁家の戦いに一応の区切りをつけます。
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