プロトマーリンが童貞マスターを性的に美味しく食べちゃうだけのお話 作:アルテマ
正直自己解釈多いと思うので、無理だと思ったらブラウザバック推奨。
主人公はぐだ男ですが、名前はでません。ご了承ください。
それではどうぞ。
人理継続保障機関フィニス・カルデア
人類史を観測し、その未来を保障する特務機関であるこの場所を反抗拠点に、かつて引き起こされた人理崩壊の危機に立ち向かった者たちがいた。
黒幕の手先からの奇襲を受け、多くの犠牲を強いられつつも、生き残った者たちは互いに結束し、いくつもの危機を、死を、苦難を、数えきれない試練を乗り越え、人理修復を成し遂げたのだ。
「……」
その中でも、人類史のターニングポイントが改竄されたことにより人理の崩壊につながる原因となる空間、特異点へと乗り込み、魔術師としては三流以下でありながら、歴史に名を刻んだ英雄・偉人の霊、英霊の影法師であるサーヴァントたちと数多の縁を紡ぎ、遂には人理修復を成し遂げた立役者であるのが、カルデアの廊下を歩く【人類最後のマスター】である少年だ。
とは言うが、既に人類史が救われたことにより人々は人理が崩壊していた期間1年分の記憶がスッポリと抜けているという弊害はありつつも、日常を取り戻しているので人類最後のマスターと呼称するのは間違っているのだが、人類最後のマスターとして数多の死線をくぐり抜けたのは確かなのである。
そんな人類史を救った英雄とも言える彼の表情はどこか生気が薄い様子であった。 もしも誰かがその顔を見れば、心配をされることはほぼ間違いないような形相の彼はハッとして、何かを振り払うように首を何度も横に振り、目的地へと足を運ぶ。
人理を修復し世界を救った後でも、カルデアにはいくつもの問題に直面し、その中でもかつて意図的に発生させられた特異点ほどの規模とは言えずとも、人類史に何かしらの影響を与える可能性のある特異点は度々発生していた。
そうなると、人類最後のマスターとして数々の特異点を修復してきた彼にお鉢が回ってくるのは当然である。
今日もまた微小特異点なるものが発生し、少年は特異点へと共に向かうサーヴァントに同行を願うために、あるサーヴァントの部屋へと歩みを向けていたのだ。
「……マーリン、いる?
微小特異点が発生したから、一緒についてきてもらいたいんだ」
目的の人物の部屋にたどり着いた彼はノックを3回した後、部屋の主であるマーリンへと声を掛けた。
───花の魔術師、マーリン。
アーサー王伝説の中でも有名な登場人物であり、極めて重要なポジションにいたのがマーリンである。
マーリンはアーサー王伝説に留まらず、数多くの神話や伝承に現れる魔術師でもあり、通常のサーヴァントよりも強力な霊基で以て召喚される
実際、彼が人理修復の最中でマーリンは何度も手助けをし、支えてきたサーヴァントであり、こうして特異点が発生した際にはマーリンと共に特異点へと少年は向かっていた。
……最も、魔術師のサーヴァントであるキャスタークラスとしてのマーリンの実力は確かではあるのだが、性格には難アリであり、なんなら特異点の原因の一端を担っているケースもあるのだがそこは割愛しよう。
『はいはい、今出るからちょっと待っててね』
「……?」
場面を少年の視点へと戻す。 ノックと掛けられた声の返答が部屋の中から聞こえきたのだが、少年はその返ってきた声の高さに違和感を覚えた。
(マーリンってこんなに声高かったけ?
と言うよりも、この声はマーリンじゃなくてアルトリアに近いような……もしかして、部屋を間違えた?)
不注意で目的の人物とは違う人物の部屋を訪ねてしまったのかと、手元にあるカルデアから支給されたデバイスでマップを確認するも、マップ上の自身を指し示す位置は確かにマーリンの私室の前であった。
もしやマーリンの部屋にアルトリアのうちの1人(同姓同名とかではなく、クラス違いの同一の存在が複数カルデアにはサーヴァントとして現界しているため、この表現となっている)が訪れていたのだろうか?
と、彼が考えているうちに部屋の自動扉が開いた。 瞬間部屋の中から甘い花の香りが漂い、少年の嗅覚をくすぐる。
今ではすっかりと慣れ親しんだ花の香りに、少年は目の前に立つ人物が確かにマーリンであることを確信すると、デバイスへと落としていた視線を上げた。
「ふふ、今日も私を前線に連れ出すのかい?
ほんと、キミって私のことが大好きだよね」
微かにふんわりとし、腰の先にまで伸ばされた透明感のある色の髪。
髪の色と同様に透き通るような蒼い色を宿した瞳。
それらに合わせたかのような、淡い色で染まっている白と青を基調とした服装は、目の前に立つ人物の芸術品のような美しさのプロポーションを持つ体を包み込んでいる。
視界に映ったその女性を目にし、あまりの美しさに少年は無意識に息を呑んでしまっていた。
惚けた様子を見せる少年に、ほんの少しだけ困惑したような様子を見せつつも、その容姿によく似合った柔らかな微笑みを向ける。
「……おや、私の顔を見つめてどうしたんだい?
もうキミとはそれなりに長い間旅路を共にしているんだ。 今更私に見惚れるなんてことも、おかしな話じゃないか」
「え……?」
目の前の女性が、自身とは長い付き合いだと言うニュアンスの言葉を口にした少年はそこで疑問符を浮かべる。
彼は目の前の女性とは初対面であり、記憶を探っても目の前の女性の容姿と合致する人物は思い至らない。
そもそも、100人のうち99人は美しいと答えるほどであろうその女性の容姿、強烈すぎて忘れたくても忘れられないと彼は思う。
(……まさか)
再び目の前の女性の姿に視線を向ける少年。 容姿や性別は違うが、彼女が着ている服の色調に纏う柔らかくもどこか胡散臭いような空気が入り混じった雰囲気に、甘い花のような香り。
これらの特徴と一致している人物に、少年は覚えがあった。
「……マーリン、なの?」
恐る恐る口を開き、そう問う少年に訝し気にその女性は首を傾げるような動作をした後、すぐに持ち直して花のような柔らかな微笑みを向けながら答えた。
「そうとも、マスター。
私は花の魔術師こと、魔術師マーリン。
キミのこれまでの旅路を見守り微笑んできた、見ての通りの綺麗なお姉さんさ!」
「え、マーリンさんについて、ですか?」
「うん、そう。 このカルデアに召喚されたマーリンについて、マシュの所感でいいから聞きたいんだ。
とは言っても、何か深い意味があるとかじゃなくて、ちょっとした確認と言うか何というか……」
マスターである少年は自身の後輩であるマシュ・キリエライトとの夕食後のお茶の時間の最中に、マーリンについて知りたいと切り出した。
唐突に脈絡もなくそんな話題を振ったのには、当然訳がある。
まず、前提として少年の記憶ではカルデアにて召喚されたマーリン(厳密に言えば召喚のフリなのだがここでは割愛)の性別は男性であるのだ。
あのマーリンを名乗った女性が言うように、少年とマーリンの付き合いはそれなりに長く、趣味嗜好の話や女性についての話、恋愛観について等踏み込んだ話もしてきたのだが、マーリンが性別を変えられると言った話を少年は聞いたことがなかった。
直接あの女性マーリンに、性別を反転させたようなことはあるのか聞いてみたが、帰ってきた返答はないとのこと。
やや混乱しかけた少年だったが、微小特異点へと向かうためのレイシフトの時間が迫っていることを思い出し、自身の疑問に一時的に蓋をし、その女性マーリンに特異点へと向かうのでついて来てほしい旨を伝えた。
彼女はその少年の要望に2つ返事で答え、少年の微小特異点修復に同行をした。
特異点でこそあったものの、微小特異点と言われる中でも危険度の低いものであったようであり、女性であろうと
カルデアへと帰還した少年は、すぐさまこれまでの旅路の記録されたライブラリへと直行し、中の記録の映像や資料を読み漁ったのだが、そこでまた少年の頭は混乱してしまうことになる。
人理修復の旅路において、少年に付き添っていたマーリンは確かに記録されていたのだが、映像に映っているのは今朝方出会い、先ほどの微小特異点の修復に同行した女性のマーリンだったのだ。
少年の記憶にあるマーリンに雰囲気こそ似ていても、映像の中で自分の記憶の通りに動き、同じような言葉を紡いでいる女性マーリンには違和感しかなかった。
すぐさま少年はマーリンと生前から面識のあるサーヴァントたちに、マーリンについてそれとなく問うてみても、マーリンが女性であることに疑問を感じている者は1人としていなかった。
一応、とあるクラスのアルトリアにマーリンについてどう思っているのか聞いてみたところ
『一言でいうならばロクでなしでしょうか。 マスターも、何か彼女が問題を起こすたびに【グランドろくでなしお姉さん】と罵っていたでしょう』
(あ、うん、間違いなくマーリンだ)
フォローするつもりなどないと言わんばかりに言い切り、自分がしたと言うマーリンへの蔑称からマーリンであることは間違いないと確信を得てはいた。
割と、と言うよりかなり酷い確信の得方をしているが、完全にマーリンの自業自得なので誰も助け船を出したりはしないのである。
「そうですね……、これまでの特異点の修復の際にも、マーリンさんの魔術には幾度となく助けられてきました。
マーリンさんのおかげで戦線を保ち、あるいは危機から逆転した場面も少なくはなかったです。
頼りになることをマーリンさんは自称していましたが、私から見てもとっても頼りになる方だと思います」
「……そっか。
うん、俺もそう思うよ」
「えっと、言葉足らずだったでしょうか?
ですがその、これ以上のお話となるとマーリンさんの評価に瑕が入ってしまいそうでして……」
「あ、うん、大丈夫だよそれ以上言わなくて。
もうなんとなく察したから」
マーリンが男であった時と同様の評価に、やはり女性になってもその辺は変わらないのかと内心で思いつつ、少年は肯定の言葉を無難に返す。 マシュは少し申し訳なさそうにしつつも、マーリンの良かれと思った迷惑な善意をどう好意的にとらえた言葉で説明すれば良いのか迷い、その様子からマシュから見ても割とはた迷惑なことをしているのは変わらないのだなと認識する。
これ以上、何かマーリンについて聞いても目ぼしい情報は出てこないだろうと思い、少年はそれからマシュと他愛もない会話を再開した。
今日の特異点でのことや、サーヴァントたちとの交流、最近読んでいる本についてなど、本当にちょっとした話であったのだが、話題を上げたり話を聞いたり聞かされたりしながらも、マシュはその時間を楽しんでいるようだった。
少年はマシュの普段と変わらぬその様子から、自分だけが世界から孤立しているような事態にはなっていないのだなと、少しばかり安堵して自身も会話を楽しんでいた。
「……あ、そろそろ部屋戻るね。
ごめん、こんなに長い時間付き合わせちゃって」
気づけば既に1時間は過ぎていたようであり、就寝するには早すぎるが入浴や歯磨き等、就寝の準備をしなければならない時間帯だった。
マシュを長い間話に付き合わせてしまったことに迷惑であったかと気を揉むが、マシュは首を横に振り笑顔で応える。
「いえ、私も先輩とお話するこの時間が好きですから。
だから、また明日もお願いしますね、先輩」
「うん、わかった。
……あ、ごめん待ってマシュ」
出会った当初よりも、ここ最近は見ることが増えてきたマシュの笑顔を嬉しく思いつつ、彼女が椅子から立ち上がり後片付けをしようとしたところで少年が待ったをかけた。
少年の視線の先には、お茶請けで用意され余っていた饅頭が残っていた。
「そのお饅頭、1個だけ貰っていい?
すごい美味しかったからさ」
「私は構いませんが……珍しいですね、先輩はそれほど甘いものが好きではないと思っていたのですが」
「最近妙に甘いものが食べたくなることが多くてさ。
こう、体に沁みるって言うか……」
「……」
「? どうしたのマシュ?」
どこか苦々しい表情をするマシュを心配するように少年は問いかける。 まさか体調があまり良くないのに、お茶に無理矢理付き合わせてしまったのかと不安になるが、実際はマシュもまた同じ心配を少年にしていたのだ。
「……私は最近先輩のバイタルチェックのお手伝いをさせていただいていますが、ここ最近の先輩のバイタルはやや不安定です。
先輩は連日特異点の修復やサーヴァントの皆さんの霊基強化のために奔走していますが……しっかりと休息は取っていますか?」
「あぁ、そのこと? 大丈夫だよマシュ。
少なくとも夜はきちんと寝ているし、休みなくレイシフトやシュミレーションに向かっている訳じゃない。
何も心配ないよ」
「ですが、最後に先輩が休日を取ったのはもう半月も前です。
いくら微小特異点が複数発生しているとは言え、先輩が本格的に体調を崩してしまわないか……いえ、それよりも、それが原因で先輩に何かあったらと思うと、私は……」
「そんなに不安にならなくても、この後すぐに寝るから大丈夫だよ。
あんまり夜更かしすると、エミヤがうるさいからね」
マシュを安心させるように努めて優しく言いながら、少年は饅頭を手に取り何気なく立ち上がろうとしたのだが
「……! うおっと!」
「せ、先輩!?」
立ちくらみを起こし、倒れそうになる少年。 片手をテーブルにつき地面へと倒れ込むことは避けることが出来たが、明らかに体調不良の素振りを見せた少年にマシュの不安は強くなる。
「先輩、やはり明日は休みを頂いたほうが───」
「いやいや、大丈夫大丈夫!
今のはちょっとバランス崩しただけだから、何ともないよ。
まあでも明日の種火回収とかに支障があるといけないし、今日はもう寝るね。 片づけは任しちゃうけど、ごめんね。
それじゃあおやすみ、マシュ!」
「あ、先輩!」
マシュの表情を曇らせてしまったことに酷く焦った少年は矢継ぎ早にそう言い、返事も聞かずにさっさと食堂を出ていく。
同じく食堂でマシュ達同様にお茶を飲んだり、酒盛りを楽しんでいたサーヴァントたちが何事かとマスターである少年の方へと視線を向けるも、既に少年は食堂から出た後であった。
「……先輩」
何があったのかとざわつくサーヴァントたちの中で、マシュは少年の出ていった方向をじっと見つめ、心配そうに小さくそうつぶやいていた。
「……」
自室であるマイルームに設置されているシャワールームで、人肌よりもやや高めの温度に設定されたシャワーに打たれながら立ち尽くす。 既に髪も体も洗い終えている少年なのだが、かれこれ10分はぼうっとしたままシャワーを浴び続けている。
何か考え事に囚われていると言う訳では無い。 ただただ、魂が抜けたかのような虚ろな目で自身の体を伝う水滴が、排水口に流れていくのを無感動に見つめていた。
少年は無言のままシャワーを止め、シャワールームに掛けておいたバスタオルで自身の濡れた体を拭いていく。
この時点での行動も、ほぼほぼ習慣によって形成された機械的な動きのソレであり、今も意識の半分は空虚な状態であった。
「……ッ、うわやばっ、ぼーっとしてた」
ふとした拍子に自身が意識をどこかへと飛ばしていたことに気づき、この状態のままシャワールームにいれば、今度は床に足を滑らせて怪我をしてしまうかもしれないと思い、さっさと濡れた体を拭き寝間着へと着替える。
(……マシュの言う通り、ここ最近は休みが取れてない……本当はこの後魔術の勉強とか、明日の予定の確認とか……最低でもマーリンについて色々と調べておきたかったのだけど……流石に持ちそうにないな。 今日はもう寝てしまおう)
思考能力の低下している脳をどうにか働かせるも、打ちだせたのは予定の後回しと休息を優先させることのみであった少年。
ふらふらとした足取りでベッドへと向かわんとシャワールームの外へと出たのだが
「ふーん、これがお饅頭かー……あむっ……もきゅもきゅ……この黒い、餡子だっけ? 柔らかい舌触りだけど、ちょっと歯に挟まっちゃうのは難点かなー。
あ、やあマスター。 お邪魔させてもらってるよ」
少年が向かおうとしたベッドの上には先客がいたようであり、今朝から少年の頭を悩ませている女性マーリンはベッドに腰掛けて少年が持ち帰ってきていた饅頭を口にしていた。
まるで自室にいるかのように振る舞っている彼女ではあるが、少年は饅頭を食べていいと許可を出してはいないし、ましてやマーリンが部屋に来ることを聞いてもいなければ、入室を許可した覚えもない。
「……はぁ……マーリン、何か用なの?」
しかし、マーリンがこの手のことをするのは今に始まったことではないと少年は重々理解しているため、ため息を1つだけ零して用件を問う。
文句の1つ2つは言いたいが、男性マーリンが文句を言って改善したためしはないため、この女性マーリンも同じと考えた少年はさっさと休みたいために気怠げに用件を問う。
人によっては眉を顰めるような少年の態度であるが、疲れ気味の彼に愛想よくしろと言うのも酷な話である。
「うーん、なるほど。 聞いてた通り、かなりお疲れみたいだね。
……まで疲れを……………精神にも………やはり向こうの…………まあ私にも……」
さしてその少年の態度を気にしていない様子の女性マーリンは少年を心配するように声を掛けた後、思案するように片手を唇に持っていき小さく何かを呟いていたのだが、疲れ気味の少年にはその呟きが全く聞こえなかった。
「今、なんて言ったの?」
「ん? あぁ、キミが気にすることはないよ。
それで、私の用事だったっけ? まあとりあえず、そんなところで立ってないで、こっちに来てくれないかい?」
ほらここに、と片手をポンポンとベッドへとノックして隣に来るように促すマーリン。
少年はその誘いを受けて、どうするべきなのか迷ってしまった。
いつもなら迷わずに誘われるがままにマーリンの隣に座り雑談やらに興じる少年なのだが、それはマーリンが男性であるのならの話であり、少年の目の前にいるのは女性のマーリンだ。
マーリンが美形であることは男性の時から変わらないが、女性のマーリンは男性のマーリンと比較すると淫靡さや妖艶な雰囲気が漂っており、事実少年は今朝方の出会いでその雰囲気に呑まれ見惚れてしまった。
つまるところ、女性と意識している相手の隣に行くことにどこか恥ずかし気のある少年の思春期的思考からくる迷いであったのだが
(……まあ、マーリンだし、いいか)
心中でそう即決して、マーリンの指定した位置へと移動し腰掛けた。
疲れ気味であったが故の思考の放棄もあったが、女性である前にマーリンと意識した途端、気恥ずかし気な思いはあっという間に薄れてしまった少年に対して、その意識の変化に気づいたのか気づいてないのかは分からないが、マーリンの微笑みがほんの少しだけ崩れたが、ごく短い時間の変化だったために少年は気づかなかった。
「で、それで用事って何?」
「はい、あーん」
話を早急にするように促す少年に、唐突に手に持っていた食べかけの饅頭を笑顔で口元へと押し付けてくるマーリンに、少年は意図が読めず二の句を告げられない状態になり硬直してしまう。
そんな少年を気にもせず、マーリンは尚も饅頭を押しつけてくる。
「あーん……おーい、口を開けてくれないかい?
このままじゃ、このお饅頭を食べさせてあげられないよ」
「……いや、ちょっとマーリンが何をしたいのかよく分からないなって思って」
「何って、見たままさ。 キミに『あーん♡』って奴をしてあげているんだよ。
男の子はこういうことされるのが好きなんでしょ?」
打算的な説明で解説されたその行為を何故自分にするのかを少年は問いたかったのだが、マーリンのことだからその意図を答えてくれることはないと少年は結論付ける。
そしてマーリンに大した用事はないのではないのかと思い始めた少年は、早くベッドに横たわりたいことからマーリンを部屋から追い返そうとする。
「ごめんマーリン、明日も早いから今日はもう寝たいんだ。
急ぎの用件でないのなら、明日にしてくれないかな?」
冷淡な塩対応だと少年自身思ったが、現状で他人に気遣えるほどの余裕がなかった少年に、アポなしで押しかけてきた者に丁寧に対応しろと言うのも酷な話ではある。 少年の態度も当然と言えるだろう。
しかし冷たくあしらわれたマーリンと言えば、特に気にしたような様子を見せることもなく、差し出した饅頭を仕舞いこむ。
「……むぅ、残念。 少し変化球を与えてみようと思ってみたのだけど、ちょっと私らしくなかったかな。
うん、やっぱり当初の予定通りに行こう」
「……? 何を───」
人差し指を顎にあざとく当てながら告げたマーリンのセリフに少年はその意図を問おうとするも、突然自身に襲い掛かった浮遊感に驚き、言葉を告げようとした口はその動きを中断せざるを得なかった。
謎の浮遊感は一瞬にして立ち消えるも、気づけば少年の視線は部屋の天井を映し、後頭部は慣れ親しんだ枕の感触を伝えていた。
唐突な出来事に混乱していた少年は数秒の後、自身がベッドへと横たわっている事実を認識した。
「ごめんね。 キミの事だから、私の用事を言ってしまうと抵抗しそうだったから、先に行動することにしたよ」
「……!?なんのつもりマーリン!?」
その直後に聞こえてきた声に、誰が自分をベッドへと投げ出したのかを理解した少年は急いで上半身を立たせようとするも、少年の体はまるで金縛りを受けたかのように言うことを聞かない。
その状態にしたのも、傍にいるマーリンの仕業であることを他でもない本人が自白し、少年はその目的を問いただす。
マーリンは身動きの取れない少年に覆いかぶさるようにして両手を少年の顔を挟むようにしておくと、先ほどまでと変わらない微笑みを浮かべて告げた。
「セックスしよう、マスター」
「……は?」
「セックスだよ、セックス。 性行為、エッチ、交尾、情交、同衾……表現は何でもいいがとにかく、そういった行為を私としようと誘っているんだ、マスター」
呆然とした呟きを聞いたマーリンの重ねて告げられた類義語の羅列を耳にいれた後であっても、少年は開いた口が塞がらない。
それもそうだ。 昨日まで確かに男性と認識していた人物が女性へと変わり、夜になって急に拘束され、セックスをしようなどど言われて困惑しない方がおかしい。
先ほどから表情が変わらない少年に、さすがのマーリンも唐突すぎたかと察した。
「ああ、確かに最低限の説明はしないと困惑してしまうかな?
まあでも、大した理由ではないさ。 キミ、最近疲れが溜まっているだろう? そんなコンディションでレイシフトするなんてとても危険だ。
だから、私自らがキミの疲れを癒してあげようと思い立ったって訳さ。 そして女性が男の子を癒すと言えば、性行為が代表的かつ効果的だろう?」
ごく普通の何気ない提案をするように、酷く貞操観念の緩いことを提案するマーリンに絶句する少年。
無理もない。 少年は人類最後のマスターとして数多くの死線をくぐり抜けてはきたが、その人格や本質は一般的な現代人である善人だ。
恋愛観に関しても、思春期真っ只中の少年には性行為に興味があっても、そういった行為は好きな人と行う愛情を確かめ合う行為と言った程度の認識でしかない。
自慰行為をしない訳ではないが、世界が滅びかけていると言う中でそんなことをする余裕はなく、世界を救った後でも特異点の修復に追われている少年に、そんなことをしている暇はなかった。
そんな少年が、恋人でもない者にセックスをしようだなんて誘われて、戸惑わない筈がない。
たっぷり数十秒開いた口が塞がらなかった少年は、それでもどうにか錆びついたように動きの鈍い口を動かし、マーリンの狂行を止めようとする。
「……だ、だからって、恋人でもないのにそんな行為は……」
「ああ、勿論私にもちょっとした打算があるのさ。
人としての損得と言うよりも、夢魔の本能にも近しいものなんだけどもね」
マーリンは少年へとしなだれかかるようにして覆いかぶさり、互いの額と額を合わせて少年の瞳を覗き込む。
互いの吐息を肌で直接感じられるほどまでに迫った距離に少年はドキリとし、心臓の鼓動が加速していく。
緊張を隠せない少年の視線の先で、マーリンは優しく微笑んだ。
「───キミって、とっても美味しそうなんだ」
「……ッ!」
微笑みと共に投げかけられたその言葉を受けて、身震いし顔を青くする少年。
ご馳走を前にした肉食動物のような姿をマーリンに対して幻視した少年の手足からは冷や汗がにじみ始め、心臓の鼓動は先ほどまでとは違った理由で加速していくのを感じた。
それを見て少年が怖がっていることを瞬時に理解したマーリンは申し訳なさそうな表情をして、少しだけ顔を離し少年の頬を優しく撫でながら弁明する。
「ああ、ごめんよ。 決して怖がらせるつもりはないんだ。
夢魔の本能とは言ったけども、痛いことをしないのは当然として、命を奪う程の吸精なんてこともするつもりは一切ないよ。
キミに極力気持ち良くなって貰えるように尽力するのが大前提で、私の目的はあくまで副次的なものさ」
「あっ……」
「だからキミはただ力を抜いて、私に身を委ねてくれるだけでいいんだ」
少年はマーリンに頬を触れられてから不思議な感覚を味わっていた。
彼女の宥めるようで、媚びるような甘い声を耳をくすぐるたびに、不自然なほどに体から力が抜けていく。
微睡のような心地の良さの中、それに身を委ねてしまいたくなる衝動が少年の心中で大きくなっていく。 同時に、今自分が何をされているのかを分析する冷静な部分もまた働いていた。
(この、感覚……マタ・ハリやステンノの魅了と似たような……まさか、魅了魔術……!?)
自身に魔術を掛けられていることを自覚した少年はすぐさまそれをレジストしようと試みる。 魔術の行使者は十中八九マーリンであるとアタリをつけたのは、性別が変わっている点で警戒していたためだ。 それに男性のマーリン同様味方であるとしても、突然の魔術の行使に咄嗟に抵抗するのは当然と言えよう。
だが……
「あっ……うぅ……」
魔術を行使されて数秒で少年の体は殆ど弛緩しきり、指一本でさえ碌に動かせない有様。 おまけに思考もどこか靄がかっており、時間が経つたびにその靄の濃さが濃くなっていくのを感じていた。
これでは痛みで意識を逸らすような抵抗も、キャスタークラスのサーヴァントたちから習った簡易的な解呪の魔術でさえ行使が出来なかった。
常であれば(とは言っても男性のマーリンなのだが)心中でマーリンの癖に、と呪いの言葉が浮かんでくるのに、その声でさえ段々と水底へと沈み込むように遠ざかり、立ち消えていくように感じた。
(くそっ、こうなったら……!)
どんどん思考能力が低下していくのを自覚していく中、少年は最後の手段であるサーヴァントへの絶対命令行使権、【令呪】の行使を試みようとする。
カルデア式の令呪には絶対と言える程の強制力はないが、それでももう少年には令呪に頼るほかに術がなく、藁にもすがる思いで行動しようとする。
「れ……令呪によっ……て、命じ……んむぅ!?」
魅了されているせいで重くなっていた唇をどうにか動かし、状況を打開しようとした少年であったが、最後まで命令が紡がれる前にその言葉の中断を余儀なくされた。
少年の頬を撫で、髪を愛おし気に梳いていたマーリンが少年の唇を塞いだからだ。 両手が空いていなかった彼女が少年の唇をふさいだのは、必然的に彼女の唇であった。
「んっ……もう、令呪を使うだなんて無粋な真似はよしてよ。
なにも痛いことも、怖いこともしないっていっただろう?」
ほんの短い時間の、触れ合うだけのバードキス。 マーリンとしても、場の雰囲気に合わせた唇の塞ぎ方を実践しただけであったのだが、キスをされた少年は今自分が何をされたのかを把握はしていても、そのされた行為によって頭が混乱し、処理が追いつかずに呆然としていた。
無理もないだろう。 少年にとって、今の行為はファーストキス同然だったのだ。
同然、と言うのは1度、人理修復の旅の最中、あるサーヴァントと唇が触れ合うと言うアクシデントがあったのだが、互いにその気はなかった事故であるためそれはノーカウントだろう。
そう言った意味では今のマーリンには確かにキスをする意思があった。 であるならば、直前の行為は少年にとって間違いなくファーストキスだったのだ。
世界を救った少年ではあるが、その感性は英雄たちのような一線を画すようなものではなく、寧ろ一般人のそれに近い。 素敵な夜に綺麗な海で、素晴らしいシチュエーションでファーストキスをしたいなどと言う極度なロマンチスト思考はないが、それでも好き合った同士気持ちを伝えあうキスがしたい程度の理想はあったのだ。
それをこちらの意志などお構いなしに、しかもただ口を塞ぎたかっただけと言う理由だけで、ファーストキスを奪われてしまったのだ。
女性と深い関係の築いたことのない思春期の少年に、これで混乱をするなと言う方が酷な話だ。
「ッ……!」
じわり、と目頭が熱くなるのを感じた少年は瞼を強く閉じてそれに耐えようとするも、既に淵にまで溜まっていた滴を追い出すと言う結果になってしまい、少年の瞳から涙の軌跡がベッドのシーツへと零れ落ちる。
至近距離にまで近づいているマーリンがそれを見落とす筈もなかった。
「おや、どうして泣いているんだい? どこか痛いところでも……ああ、そう言えば君ってキスは今のが実質初めてなんだっけ?
人間は初めてのキスを大切にするそうだし‥…だとしたら、うん、ちょっと今のはお姉さん悪いことしちゃったかな?」
多少態度が悪びれているように見えても、実際は『人間とはそう言う物だ』と言い聞かせていることは少年にはよく分かり、そしてそれに少なからず怒りを感じた少年は、不幸中の幸いでファーストキスの衝撃である程度戻った体を動かし、文句を言おうとしたがそれもまた不発に終わることになる。
「い、いくらなんでもこれ以上は看過できなんむっ!?」
「んっ……ふっ……ちゅ……」
何をされたのかと言えばひどく単純に、先ほどの行為を焼き直しただけだ。 ただし、今度のキスはさっきよりも長い間唇が触れ合っていた。
初めに感じた時よりも濃厚な感触、まつ毛がはっきりと見える程の異性との距離、呼吸をするたびに入ってくる甘い花の香り。
これらをひとまとめに一身で受けた少年の一時は持ち直した理性はアッサリと陥落。 体から力が抜け、最早マーリンにされるがままとなってしまった。
「んっ……ちぅ……ふぅ、どうかな? 初めてのキスがあんな味気ないものではなく、せめて気持ちが良いものって認識であればファーストキスの思い出としては上々だと思ったのだけど」
「あ……う……」
「うんうん、その反応なら大丈夫そうだね」
頬を赤く染め、どこか朧げなものを見るような瞳にマーリンは満足げに頷く。 マーリンの思惑通り、少年は今キャパシティーの限界を既に達し、マーリンによってもたらされた気持ち良い感覚に囚われてしまっている。
そうなれば、思春期の少年の反応も分かりやすいものが体に現れてくる。 少年の股間が大きく膨らみ、テントを張っていることをマーリンはいち早く気づき、クスリと微笑みを零した。
「ふふ、ここも気持ちがいいって伝えてくれてるみたいだね。
さてさて、感度の方はどうなっているかな~?」
「ひぁっ!……あ、う……」
少年の隆起した箇所に片手を持っていき、服の上から形を確かめるようにして揉みこむ。 性感帯に直接もたらされた感触にうわずった声が抑えられずに漏れ出てしまう。
少年の周囲には歴史に名を刻んだ偉人、英雄たちの影法師たるサーヴァントが数百人もいる。 当然、その中には見女麗しい美女や美少女が何人もいる。 中には際どい衣装を身に纏った者もおり、異性への意識が強くなる時期の年齢である少年にとっては目に毒すぎた。
そんな環境であるために、少年はその感情を表に出して不躾な視線を向けてはならぬと、トレーニングをしたり等して性欲を抑えようとした。 しかしそれでも抑えられない日は、仕方なく誰も寄らぬようなカルデアの区画のトイレで自慰をすることもあった。
しかし今少年がマーリンによってもたらされた快楽は、自慰をした時とは比較にならないほどに気持ちの良いものであった。 ただ服の上から軽く揉まれただけであるのに、自身の手ではなく、動きの予測できない他者の手によって触れられたことによる快楽は、これまでそういった経験を一切してこなかった少年にはあまりに刺激が強すぎた。
そんな初心な少年の初々しい反応に、夢魔として数々の性行為をもたらしてきたマーリンにとって珍しいものであり、同時に自身の好む
「こっちも感度は良好っと。 意外にも可愛い反応するんだね、マスター。
お姉さんも、君くらい反応がいいと楽しいから、その声をもっと聴かせてくれると嬉しいな」
少年の腕に絡みつき、耳元で甘くそう囁くマーリン。 その間も少年への愛撫は続けられていた。 決して激しい動きのものではなく、最初と変わらず緩やかな愛撫であるが、それに少年はうめくだけで全く抵抗が出来ていなかった。
彼女の手の平がやわやわと少年の股間を撫でるたびに、少年は体の内からぽわぽわと熱のようなものが生まれているような感覚に悶え、漏れ出そうになる喘ぎ声を空いた片手で抑えようとする。
「おっ……うぅっ……あっ……」
「もう、なんでそんな我慢しているのかな。 ここまできたらさ、変に意固地にならないで楽しむのが利口だとお姉さん思うのだけどなー」
喘ぎ声を漏らさんとする少年の態度をマーリンは快楽に耐え、未だにこの場から脱出しようとしていると捉え、やや不満げな声でそう言う。
しかし実際は少年の頭の中でこの場から抜け出すというような思考はされておらず、喘ぎ声を漏らさないようにしているのは単に羞恥心からくる本能的なものであった。 もう既に彼の脳内は彼女からもたらされる快楽に飲み込まれていたのだ。
しかしそうとは知らないマーリンは、少年のもっと可愛い反応が見たいとし、与える快楽の強さの段階を高めようと行動する。
「しょうがないなあ、それじゃあお姉さんが我慢できないようにしてあげちゃうからね」
「!?あうぅぅうううう!」
手慣れた手つきでズボンのベルトを緩め、隙間に手を突っ込んで少年の性器へと手をかけ、再び愛撫をしてきた。
服の上からではなく、直接竿へと触れて上下に指を行き来された少年はたまらず口から手を離してしまい、はっきりとわかる喘ぎ声を出してしまう。
それを間近で聞いたマーリンは嬉しそうに笑い、耳元で優しく語りかけてくる。
「うんうん、我慢は体に悪いからね。
その調子でキミの全てを曝け出して欲しいな」
彼女の指が少年の性器を軽やかに、それでいてねっとりと滑るたびに少年の体はピクリと震え、ペニスが反応しその大きさを増していく。
2指で作られた輪っかで竿を上下されながら残った指で玉袋をマッサージされ、更には亀頭を指先でグリグリと撫でまわされたりと、段々と愛撫の激しさが増していき、経験のない少年はあっという間に限界にまで追い詰められてしまう。
「あっ、ダメ、もう……!」
「イキそうなのかい? いいよ、お姉さんが見ていてあげるから、溜まった分吐き出してスッキリしようね」
少年の限界を告げる声を聞き、耳元での甘い囁きを合図に少年への愛撫の激しさが増し、それに比例するように少年の喘ぎ声と荒い呼吸は大きくなった。
彼女の愛撫は竿を片手全体で上下する手コキへと変わり、少年の生産された精液を絞らんと激しさを増していく。
ほぼ叫び声だった少年の喘ぎ声は遂に途切れ途切れとなり、少年が達する直前であることを経験から察知したマーリンは空いた片手で少年の頭の下へと片手を滑り込ませ、顔の向きを自身の方へと向けさせると優しく微笑み、額と額を合わせる。
「ほら、イッちゃって♡」
「あっ……」
一瞬息が止まった少年であったが、直後に亀頭に添えられた指によってもたらされた不意打ちに刺激にトドメをさされた。
股間を中心に痺れるような感覚が全身へと走り抜け、次いでその痺れが体を歓喜させるような震えを呼び起こし、制御不能な快楽信号が脳をオーバーフローさせる。
「あっ、あっ、あっ、あぁぁあ♡」
どうにか栓を締められていた蛇口を急に開けられ、せき止められていた精液が漏れ出す。
いや、漏れ出すと言うよりは暴発という表現の方が正しいか。 少年の反り返り大きくなった性器の先から飛び出した精液は勢いよく外へと飛び出し、少年の腹の位置に着地した。
射精中も尚、マーリンは愛撫する手を止めず断続的に快楽を送りこんでいたため、勢いは弱まっていっても、中途半端に射精が終わることはなく最後まで出し切ってしまった。
「うんうん、元気な射精で何より。 疲れているようだったし、もしかしたらあまり出ないかなとも危惧したのだけど、やっぱり若い子はどんな時でも下の方はいつも元気一杯だよね。
ふふ、いっぱい出せていい子いい子♡」
「お、……あ……うぅ……」
射精を終え、惚けた表情を浮かべる少年の頭を抱きしめ、あやすようにして撫でる。
マーリンの言葉の半分も聞こえなかった少年であったが、抱きしめられて頭を優しく撫でられた感触を受けて、幼子の如き扱いを受けたことへの羞恥心と同時に、年上の女性に甘やかされて母性を感じ、それに更に甘えてしまいたくなるような感覚に陥る。 2つの感情に板挟みとなって混乱している少年を尻目に、マーリンは少年の性器を愛撫していた手を腹部へと滑らせ、飛び散った快楽の証を絡めとると、指に付着した少年の精液を舌で舐めて口にする。 その仕草はどこか官能的で、少年は見ているだけで興奮を促される。
「んっ……うん、含まれている魔力は多くはないけれど、とても濃厚だ。
味については思った通り、下手な人間よりもずっと美味しいね」
手についていた精液を全て舐めとったマーリンは自身の唇にこぼれた精液を舌なめずりして舐めとり、未だに息を荒げて惚けている少年の頭に回していた手を抜き、そっと上体を起こす。
「さて、それじゃあ失礼して、と。
あ、ちょっと息苦しくなるかもしれないけど、位置は調整するつもりだから遠慮なく言ってね」
「?……んむぅ!?」
何のことを言っているのか分からなかった少年はマーリンが今伝えてきた言葉について追及しようとするも、強烈な快楽を受けた反動で未だに口からは不明瞭なうめき声しか出せず、問いただすことが出来なかった。
いや、仮にまだ発声する余裕があったとしても、間髪入れずにマーリンに顔面騎乗されて口を塞がれた少年に、マーリンの言葉について追及することなど出来なかっただろう。 そもそも、ここまでされてはマーリンの言った言葉の意図は性に疎い少年であってもすぐに察してしまう。
「ん、んぅ! んむぅ……」
「んっ、ごめんよマスター。 ちょっと
マーリンの口から謝罪の言葉が紡がれるが、少年がそれを聞き入れている余裕はなかった。
ちょうど口の辺りを塞がれる形でマーリンに跨れている少年。 人1人の重さにしてはずっと軽く感じられる体重であるためか、呼吸が詰まるような不愉快さはない。 口は完全にふさがれている関係上、鼻でしか呼吸が出来ないのだが、その鼻でしか呼吸ができないのが問題だった。
少年が鼻で呼吸するたびに、先ほど少年が認識していた花の香りよりもずっと濃い香りが鼻腔をくすぐり、肺へと届けられるたびに頭がクラクラし、少年の残り少なくなってきている理性をじわじわと浸食していく。
これだけでも今の少年には厳しいと言うのに、そんな少年にマーリンは更なる追撃を加えてくる。
「んっ……ちぅ……」
少年の精液塗れのペニスに吸い付き、リップ音を響かせるマーリン。 再び加えられた性器への愛撫に少年の体は快楽を認識するたびにビクリと震え、一度は精液と共に放出したじんわりと股間辺りに感じられる熱が高まり、興奮が高まっていく。
それに加え、少年の顔に乗せられたマーリンの柔らかな臀部の感触がその興奮の高ぶりを増長し、その興奮が高くなっていくたびに少年の呼吸は荒くなり、媚薬じみたマーリンの秘部の香りを肺へと送ってしまい、更に興奮してしまうと言うループに陥っており、脱出はほぼ不可能となってしまっていた。
「はむっ……ちゅる、ちゅるる……ちゅっ……ふぅ。
ふふ、ご馳走様、マスター。 せっかく君がくれたものを残してしまうのはもったいないからね」
「……ひっ、あ……う……」
彼女が少年の体に付着した精液を全て舐めとった後のペニスは、すっかり硬さを取り戻して天高く反り返っていた。
性的興奮を促すと言うよりは、食事も兼ねた掃除をマーリンはしただけであるのだが、年頃で今日まで性に関して疎かった少年にはその程度の行為でさえ刺激が強いのだ。
「おや、おかわりを用意してくれるのかい?
実はまだまだ物足りないと感じていたところなんだ。 サービスしてくれて、お姉さんはとっても嬉しいよ、マスター」
くすくすと鈴を転がすように静かに笑い声を漏らし、互いの体液で塗れてテカテカとしているペニスを指先でツンツンとつつく。
愛撫ですらないその行為でさえ、少年はひあっと幼子のような情けない声が漏れ、そんな少年を愛らしく感じ微笑みを浮かべるマーリン。
何度かからかうように少年のペニスをつついたり、息を吹きかけたりして少年の反応を楽しんだマーリンは体勢を変え反転、少年の腹筋辺りにのしかかって視線を合わせた。
「今度はこっちで可愛がってあげるからね、マスター。
ほら、お姉さんがぎゅっとしてあげる……ぎゅーっ♡」
「わぷっ……む、んぅ……あぅ‥…」
甘くあざとい声色で媚びるようにそう言って少年の後頭部へと手を回して持ち上げ、自身の胸の中へと抱き込むマーリン。 脱力し、碌に力の入らない少年はそれに抵抗することが出来ず、マーリンにされるがまま胸の中へと顔を埋めてしまう。
「んぅぅ……んふぅ、むぅぅ……!」
服越しの柔らかく温かな感触が少年の顔を包み込み、更にそのマーリンの胸から漂うフェロモンが少年の興奮を最大限にまで高めていく。 先ほど少年が味わっていた秘部の香りほど濃くはなくとも、形の整った胸に挟まれていると言うシチュエーションと実際に感じられる柔らかさと温かさが相乗した胸のフェロモンは、さながら干したての布団に包まれながら媚薬を嗅がされているようなものであり、容赦なく少年の理性をガリガリと削っていく。
興奮が高まるたびに呼吸は荒くなっていき、少年は性器周りの熱は全身が火照っていくようなものにまで広がっていくのを感じていた。
「んっ、そうそう。 いっぱい私の胸の中で呼吸して、いっぱい興奮するといい。
出来るのなら浅くではなく、深く呼吸して体全体に浸透させるようにね……」
「む、うぅ……ふぅぅぅうう、うっ、むぅぅううう……♡」
少年の頭を撫でつつ、胸を上下左右交互に動かし、少年の顔に乳房の柔らかさを堪能させるマーリン。
ここまでの性行為に理性が既に崩壊しかけ、まともな思考は遠く彼方に言ってしまった少年は、どこまでも沈んでゆくような錯覚さえする胸に溺れてマーリンの言葉に訳も分からずに従い、マシュマロのような柔らかさを顔面に押しつけられながら深呼吸をしてしまう。
当然、そんな行為は性的興奮のアクセルを自ら踏むような行為であり、案の定少年は体の奥深くに入りこんだフェロモンに悶絶し、身を捩る。
「うんうん、上手上手。 えらいえらい♡
ご褒美にもっとむぎゅっとしてあげよう。 ぎゅーっ♡」
素直に言うことを聞き、悶える少年を可愛らしいと感じ、どこか嬉しそうにしながら少年の頭を撫でつけ、更に強く少年の頬へと胸を押しつけては離しの行為を繰り返し、緩急をつけて極上の感触をご馳走させる。
更に濃くなり脳へと刷り込まれる甘いフェロモンと、服越しであるにもかかわらず、全く以て柔らかさや温かさを損なっていないように思える乳房の感触に、少年の意識はますます水底へと堕ちていく。
(……頭が、ぼーっとして……けれど、体はどうしようもないほどに熱い……それに、感覚が麻痺して、キモチイイって感覚しか、もう……)
既に思考回路の速度も最底辺にまで落ち、少年の体は下腹部を中心に熱を発しているかのような感覚を覚え、1度は射精したペニスは再び硬さを取り戻したのは勿論、既に決壊寸前にまで追い込められた。
あと少し攻められれば堕ちてしまう瀬戸際で少年は耐えてはいるが、鼻腔から侵入してくる花の媚薬の香りに犯され、直接触れられていないというのにビクビクと股間の先端から我慢汁を出していることから、その我慢に限界がすぐにくることは明白であった。
そんな状態で、マーリンが次いでおもむろにとった行動に耐えられる筈もなかった。
「……ん、む……?」
「んっ……あぁ、ごめんねマスター。 本当なら事前にそうするって言うべきなのだろうけど、思っていたよりもキミの精液が美味しくてね、お姉さん我慢できなくなっちゃったよ。
キミも我慢せずに、びゅーってだしちゃっていいからね」
少年は性器が何か、人肌よりもやや高めの温度の柔らかいナニかに包まれていることを認識してはいたが、それが何なのか、マーリンに抱きしめられて胸に顔を埋めているために分からなかった。
しかしマーリンが撫でながら告げてきたセリフを聞き、意味の殆どを脳で処理が出来なかったのだが、最後の言葉だけが嫌に引っかかった。
(……え……今感じてるのって……まさか……)
「ほらほら、お姉さんの
その気持ち良さに身を委ねて、全部出し切ってしまうんだ、マスター♡」
マーリンから告げられた、
そして少年がそれを認識した途端、自身に湧き上がってきたどうしようもないほどの快楽に理性と思考回路は飲み込まれてしまった。
「う、ん、むぅぅぅぅううううううううう♡♡♡」
くぐもった嬌声をあげる少年の声色は混乱と歓喜がごちゃ混ぜになったかのようなもので、見ている者からすれば悲鳴にも歓声にも聞こえた。
全身に爆発するように伝播していった快楽信号に言われるがままに身を任せ、体を一巡した痺れるような感覚に驚愕し、ガクガクと震える両足の震えを抑えようとマーリンの体に両手を回し、強く抱きしめながら、少年はキモチイイ証を自身の性器より吐き出した。
勢い良く噴水の如く発射されたそれは性器を包んでいた容器の瞬間容量を超え、零れだしベッドの下へと飛び出していき、少年の下腹部を白く汚す。 しっかりと封のされたそれからあふれ出した精液は、少年の味わった快楽の度合いを示すようである。
しかしそこでマーリンは射精中の快楽に打ち震える少年に、更なる追い打ちをかける。
「んっ♡きたきた♡いっぱい精子出てる♡
ほらほら、だしてだして♡お姉さんにキミの特濃精子、ぜんぶちょうだい♡」
彼女は射精の感覚に打ち震える少年の体を両腕で抱き込むように抑え、膣内を蠢かし緩急を与えて絶え間なく快楽を送りこんだ。
自身もまた快楽に溺れているかのような声をあげるマーリンであるが、半分ほどは少年の興奮を促す演技でもある。 事実、彼女は快楽を楽しむ素振りは見せるも、決して溺れるような様子はなく、いきり立つ少年の性器を咥えこんでぐにぐにと動かす動きは獲物に喰らいつく捕食者のそれであり、彼女は余すことなく少年を味わい尽くそうとしているのだ。
体中を苛む快楽を身を捩ることで意識を逸らし、耐えようとしていた少年であったが、一般人は愚か、魔術師とも比較にならない超常の力を持つサーヴァントに抑え込まれては身動き1つとれず、強制的にペニスに与えられている快感に意識を向かせられ、連続射精を強要される。
「~~っっっ♡♡♡~~~~っっっっっ♡♡♡」
声にならぬ悲鳴をマーリンの胸の中であげ、ビクビクと雷に打たれたかのように痙攣し、ペニスからドクドクと精液を噴出させる少年。 脈動を続ける少年の性器から、一滴残らず絞りとると言わんばかりにマーリンはピッタリと密着し、ぐりぐりと腰を動かして少年の性器を自身の膣の奥の部屋へと擦り付ける。
時が経つにつれ勢いこそ落ちていったが、射精は未だに続いており、そのあまりの量から膣からあふれ出し、ベットへと垂れ流している有様だった。
「……う、あ……♡」
やがて射精を終えたことを感じ取ったマーリンは少年をかき抱く腕を緩め、胸へと埋めている少年の顔を上げさせる。
掠れ気味のうめき声をあげる少年の顔は口をだらしなく半開きにし、目は完全に焦点が合っていない。
快感で打ち震えていた体は脱力し、両腕はだらりとベッドへと投げ出され、自身の力では体を起こすことも出来ない程であった。
「ん、全部出し切れたみたいだね。
よしよし、よく頑張ったねマスター。 えらいえらい♡」
そんなしまりのない表情を晒す少年を、先ほどと同様に子どもをあやすようにして頭を撫でつけて微笑むマーリン。
完全に体から力が抜けてしまっている少年がそれに抗う事など出来る筈もない。 その上、初めての性行為が無理矢理襲われ激しく搾精されたこともあり精神的にも衰弱し、意識がなくなる寸前にまで薄れている少年に、羞恥心を感じるような余裕などもなく、ただただマーリンの手が自身の髪を梳き、優しく頭を撫でてくれる感触に悦びを感じ、受け入れてしまっていた。
気持ち良さそうにうっとりとする少年の表情にくすりと笑みを零しつつ、マーリンはゆっくりと少年の頭を枕に乗せてベッドへと寝かせると、荒い息を繰り返し、頬を紅く染める彼にしなだれかかり、耳元へと顔を寄せた。
「本当はもっとキミを味わいたいのだけど、もうタイムリミットみたいだ。
それにこれ以上するとなると、キミを癒してあげるって言う大前提が崩れてしまうからね」
「……?」
ささやかれた言葉に対し少年は疑問に思うも、今にも意識が飛んでいきそうな彼に返事をすることはおろか、頭を動かす余裕すらない彼には小さく喉を鳴らすことしか出来なかった。
それが果たして少年に身を寄せる彼女に届いたのかは不明だが、マーリンはすっと顔をあげてお互いの額を合わせる。
マーリンの唐突な行動の意図が読めない少年は意識を薄くなっていくことを自覚している中、ほぼ条件反射で体温を感じられるほどの距離にあるマーリンの顔を見上げる。
「それじゃあまたね、遠い世界のマイ・ロード。
いつかまた出会えたのなら、その時は―――」
名残惜し気でありながらも、瞳を閉じて優しく微笑むマーリンの姿を目に焼き付けたのを最後に、少年の意識は闇へと急速に沈んでいった。
「―――ッ!!」
意識が浮かび上がっていくのを自覚し、その流れに乗る形で上体を上げて飛び起きた少年。
目覚めた直後の視界の先に映ったのは、なんてことはない、いつもの風景。 簡素なテーブルに椅子、シャワールームにクローゼット等、少年がいつも目覚めた時に見る風景だった。
寝起きの気怠い体を動かし、かたつむりの如く遅い動作ではあるが辺りを見回す。
だが少年以外にこの部屋には誰もおらず、体を重ねた彼女もまたいる様子が見受けられなかった。
「……夢、だったのか……?」
体感にして昨晩の出来事である情事を思い出し、その突飛な内容に理解が追いつかず、寧ろ思い出すたびに自身の痴態を突き付けられているようであり、顔を赤く染める少年。
まさか今でさえ夢の中にでもいるのかと少々混乱する少年はどこか気怠い体を動かし、ふと自身の手の平を見つめる。
まくり上がった布団を握っていた手はじっとりと汗ばんでおり、やや不快に感じるその感触が、少なくとも今は現実であることを通達していた。
「……」
キョロキョロと自室を見回すも、そこから見える風景に大きな変化は見られない。 そもそも、昨晩にいた自室も何か違和感があったような覚えはないのだが、確認せずにはいられなかった。
「―――先輩、おはようございます。
昨晩はよく眠れましたか?」
慣れ親しんだ筈の自室だと言うのに、挙動不審な行動を取る少年の室内に控え目なノックが叩かれた。 次いで部屋の自動扉の先から現れたマシュは、いつも通りの挨拶を先輩である少年へと向ける。 いつもと変わらぬ定例化されたソレであるのだが、マシュは少年の顔を見ると嬉しそうに微笑みを浮かべていた。
「えっ、あっ……、うん、おはよう、マシュ……」
常であれば少年もまた、彼女の嬉しそうな顔を見て心が温まるのを感じながら挨拶を返すのだが、未だに昨晩の出来事を整理しきれずに混乱している少年はどもってしまい、上手く返事が出来なかった。
当然、その少年の歯切れの悪い返事を見逃す筈もなく、微笑みの表情が心配するようなものへと変わる。
「先輩、もしかしてあまり寝つきが良くなかったのですか?
やはりここ最近の疲れが抜けていないのでは……?
ダ・ヴィンチちゃんや他のサーヴァントの方々も心配しておりましたし、今日の予定は後日に回して休みを取った方が」
「いや、大丈夫だよマシュ。
昨日の寝つきはともかくとして、体調に関してはそこまで悪くはないんだ。
寧ろ、ずっと良く感じるくらいだから」
マシュの労りから来る進言を遮る形で少年は言葉を紡ぎ、右腕をグルグルと回して体調が好転していることをアピールする。
実際のところ、昨晩までは重かった体が嘘のように軽くなっているのを感じ取っていた。 まるでそれは自然になくなったと言うよりは、何かに急激に吸い取られたというような表現が相応しいと少年は思っている。 同時に、その吸い取っていた何かの正体についても心当たりがあるどころか、確信にまで至っていた。
マシュはその少年のアピールを空元気から来るものだと思ったのか心配するような表情は変わらず、寧ろこちらが無理をさせすぎたせいで素直に休めないのではと勘ぐってしまっていた。
「ですが……」
「大丈夫だよ。 今日は用事を早めに済ませて休むつもりだし、心配しないで。
それに、少し聞きたいことがあるんだ」
これ以上この話を続けると無理やりにでも休みを取らされそうだったために、マシュの心配も汲み取った形で予定を変えて休む旨を伝えて話題を無理矢理打ち切る。
マシュとしてはしっかりとまとまった休日を取って貰いたいのが本音なのだが、今この場で決められた予定をキャンセルにするような行為を目の前の少年は決してしないことを感じ取ったマシュは、心の内で彼のスケジュールで明日以降の予定の繰り上げを出来ないかダ・ヴィンチちゃんと相談しようと決意しつつ、少年の問いに了承する。
「……分かりました、先輩。 けれど、決して無理はしないでくださいね。
それで、聞きたいこととは一体何でしょうか?」
「えっと、ね。 ちょっと変な事を聞くようなんだけどさ……マーリンって、女性だったっけ?」
「え?」
言いにくそうにしながらも紡いだ少年の問いに対し、マシュは思わずといった声を上げた。
昨晩少年が経験したことが何であったのかは、その時に覚えた違和感に関することについて聞けば良いと思ったが故の問いだ。
マシュのその反応は少年にとっては予想通りの反応であったのだが、遠回しに聞くような良い質問が思いつかなかった少年には、多少不審がられても直球で聞く選択肢しか存在しなかったのだ。
「……先輩のその質問の真意が読めませんが……少なくとも、カルデアに所属しているマーリンさんは男性ですよ」
「! そ、そっか、ありがとう。
ごめんねマシュ、変な質問しちゃって」
不審と言うよりは、やはり疲れが溜まっているのではと増々心配するような表情を深めていきながらも答えてくれたマシュに少年は感謝を述べ、昨晩経験した出来事が夢であったことを認識する。
その事実に安堵する、と言うよりは一体誰が何の目的であんな夢を見せてきたのかと言う思いが少年の脳裏に先行した。 ただの夢にしては生々しい感触、記憶がはっきりと残っているといった点から誰かが意図的に見せたものであることはほぼ確信していた。
しかし、その原因について心当たりはあっても、見せられた夢の内容が内容だけに、どうにも直接追及する気にはなれなかった。
「いえ、平気ですよ先輩。
もうカルデアでは史実と実際に呼び出されたサーヴァントの皆さんの性別の相違は日常茶飯事ですが、史実とは性別の違う方々結構多いですので少し冷静に考えてみると混乱しちゃいますよね」
「あ、あはは、確かにそうかもね……。
それじゃあ着替えるから、マシュは先に食堂に言って席を取ってきてくれないかな」
「了解しました。
それでは先輩、また後で」
マシュは少年のその質問の意図を冗談か何かの類であると考えたのか、彼女もまた冗談めかしたことを零す。
そう言われれば確かにそのトンチキな事象に慣れ始めているな、なんて思いつつ考え事に集中したい少年はマシュへ頼みごとをする。
彼女はそれを快諾し、控え目に手を振りながら部屋の外へと出ていった。
「……」
マシュが部屋から出ていったのを見送った少年が思案したのは、当然昨晩での夢での出来事。
心当たりに関してはともかく、自身に夢を見せてきた目的が少年にはてんで思いつかない。
これまでにも少年は夢を通して敵からの攻撃を受けたことが多々あり、それらの苦難もまた自身の夢に入りこんできたサーヴァントたちと共に乗り越えてきたのだが、今回は味方となるサーヴァントたちは勿論、敵についてもハッキリとしていない。 それどころか、何が目的だったのかも分からないまま夢から醒めた。 正に八方ふさがりといった様相である。
もしも目的を知るうえでカギとなってくる存在がいるとするのなら、それは夢の世界で少年へと一生忘れられぬような記憶を刻み込んできた彼女が第一候補であるのだが……
「ッ……!」
それについて考えを巡らせた瞬間、昨晩の夢の中での情事が鮮明に少年の脳裏に浮かび上がる。
人形のように透き通った美しい容姿、整ったプロポーション、羽毛のように柔らかい肢体、色気を滲ませる赤い唇。 どれか1つでも思い出せば否が応でも自身がなす術なく、ただひたすらベッドの上で喘ぎ声を引き出され、快楽に溺れさせられたことまでの記憶が駆け回り、少年は羞恥心から顔を真っ赤に染め上げてしまう。 これではとても思考をする余裕なんてなかった。
(……あぁ、ダメだ。 頭が上手く働かない。
とりあえず、今はもう考えないでおこう。 うん、それがいい)
無理矢理自分を納得させるように内心で呟き、脳裏に焼き付いた記憶を振り払うようにベッドから飛び起き、クローゼットへと歩を進める少年。
立ち去ったベッドの枕のその傍らに、薄桃色の花弁がひっそりと残っていたことに少年は最後まで気づかなかった。
花々が遥か彼方まで咲き乱れ、花弁が舞い散り暖かな日差しが降り注ぐ楽園。
希望を象徴するかのような領域であるが、そこがどこにあるのかを知る者は極僅か。
久遠より永遠の輝きを放つ理想郷へと至る道は、人類が歩む未来の遥か彼方、地平線のその先にある。
人々が目指す希望の未来のゴールである理想郷、その蒼穹にそびえたつ塔に腰を掛け、地平線の先まで続く花畑を見下ろす者がいた。
「……」
彼女が思いを馳せるのはここより遥か遠く、世界と言う隔たりの先にいる人類の未来を救ったマスター。
彼女は開け放たれた塔の上より、そのマスターである少年の、世界を救う旅路を見守ってきた。
その少年の旅路には悲しみや憎しみ、怒り、妬み、様々な人間の悪感情を孕んでおり、それらは容赦なく少年に襲い掛かり、傷つけていった。
けれど少年は傷つきながらも前に進み、旅路の中で出会った者たちと喜びや幸福を分かち合い、友情や憧憬の光景を直に目に焼き付けた。
苦くて、辛くて、渋くて、酸っぱくて、痛くて、けれどそれに負けない程、甘くて、優しくて、みずみずしくて、温かな物語。
人が目指す理想郷にてただ1人の彼女は、そんな少年の旅路を見守り、そこで紡がれる物語を楽しむファンとなっていた。
誰もいない世界の果て、開け放たれた塔から今日も彼女は世界の外へと目を向け、愛と希望の物語を紡ぐページをめくるのだ。
「……楽しみだなぁ」
ご機嫌な様子で足を揺らし、腰掛けた塔の壁をトントンと叩き鳴らす彼女は、不意に彼女以外未だに誰もいないこの理想郷で、届かぬ場にいる少年へと向け呟く。
「キミはこの場所に来てくれるのかな? それとも、この場所に来るつもりはないのかな? どちらにしても、僕の我慢が利かなくなって、こちらから出向いてしまいそうだよ。
……うん、でもどうもまだ僕がそちらに行くのには、時期尚早らしい。
けど、縁は既に結ばれた。 なら、僕たちが出会うことになるのは必然だ。
だから最後は、この言葉で締めくくろう」
『「それじゃあまたね、遠い世界のマイ・ロード。
いつかまた出会えたのなら、その時はたくさんの彩りを見せておくれ」』
それでは、プロトマーリンがアプリ版に実装されるまで失踪しますノシ