プロトマーリンが童貞マスターを性的に美味しく食べちゃうだけのお話 作:アルテマ
実装されてから2ヶ月ほど経ってからの投稿であり、お待たせしてしまい申し訳ございません。
「先輩、最近何か良いことがあったのですか?」
「ぅえ!?」
脈絡なくそう問いかけられ、咄嗟に返答が出来ずに口に付けようとしたカップを揺らし、少しばかり上の空だったこともあり間の抜けた声をあげてしまう少年。 問いを投げかけた少女としては、少年への事実確認や安堵を含めた話題の提供だったのだが、少年のどこか大袈裟な反応に対し、一抹の不安を覚えた。
「ど、どうしましたか先輩? もしかして、今私は何か不躾なことを聞いてしまったのでしょうか……?」
「いやいやいやそんなことない!全然そんなことないから! マシュは何も悪いことしてないから、そんな不安そうにしないで!」
「そ、そうでしたか……良かった……」
安心したように胸を撫で下ろす少女、マシュ・キリエライトを見やり、【人類最後のマスター】であった少年もまた安堵のため息を吐く。 しかし少年には思いもよらなかった不意打ちの問いに心拍数は落ち着きを未だ見せず、少年はそれを飲み下すように手に持っていたカップの中の紅茶を一気に飲み下した。
夕食後のカルデアの食堂は、ピークの時間帯と比較すれば利用者はまばらと言えるが、それでもそれなりに酒盛りやお茶会に勤しむ者たちでにぎわっている。
同じ時を過ごしてきた戦友や好敵手は勿論のこと、違う時代、違う生まれ、違う文化、違う思想を持つ者たちが、お互いに酒を酌み交わしたり、故郷の味の茶を互いに知ってもらい、味わってもらいながら談笑をしていると言う奇妙な空間は、カルデアと言う組織の特色であり、特異性と言えるだろう。
(尚、血気盛んなサーヴァント同士の喧嘩も時折起きるが、深夜まで次の日の食事の仕込みをしている台所の赤い守護者により喧嘩両成敗されるのもまた通例である。台所のオカンは強し)
そんなサーヴァントたちで溢れかえる奇妙な空間の一角で、今を生きる者同士の少年と少女のお茶会は逆に異端に見えるかもしれないが、夕食後に食堂を利用したお茶会を最初に始めたのはこの2人であり、その少年少女につられる形で夕食後のお茶会・酒盛り時間が容認されたのである。
切っ掛けは少年の方で、人理修復の旅路が始まってすぐ、コミュニケーションを取ろうと少女、マシュ・キリエライトに持ちかけた。 これから始まる旅路の中で相棒となる少女の事を何も知らないでいる、と言うのはあまり良くないだろうと考えたのだ。 当時の少女もまたコミュニケーションの必要性を機械的ではあるが理解しており、特に拒否するようなこともなくそれに応じた。 そして少年がその提案をしたのが夕食後であったためか、いつの間にか夕食後は2人でお茶を飲みながら会話を楽しむのが習慣となっていたのだ。
提案をした少年自身、今の自分に出来ることを、と世界と言う物を背負わされたプレッシャーから持ちかけたのもあるのだが、いくつのも旅路を経て成長し、どこか機械的だった少女が感情表現豊かに表情を変えていく様子を直に感じ取れて、まるで無色であったキャンパスが様々な色彩で彩られていくかのようであり、それが少年には無性に嬉しかった。
きっと、それはいなくなってしまった彼の願いでもあったのだから。
楽しげながら、どこか初々しさが未だに残るそのお茶会は、直接ちょっかいをかけたり、ズカズカと混じるより、静かに見守っている方が良いと思う者たちが大半だからだ。最も当事者たちは知らぬことであるが。
しかしそんなお茶会は、どうも最近はどこか噛み合わないような、言葉に言い表し難い違和感、ぎこちなさが漂っているのを見守り組は少なからず感じており、それはつまり当人たちも感じ取っている事である。 常であれば、何を語ることもなくただ静かに茶を口にするのでさえ楽しかったこの時間が、今この時は少し間が空いた程度でも息苦しさを覚えた。 それが無性にマシュには辛く、少年がカップから口を離すタイミングを見計らい、自身の口を開く。
「あの、でしたら何故先輩は急にそんな驚いたのです? 私としては、そんな驚かれるようなことを聞いたつもりは無かったのですが……」
「あ、えーと、これは……その、ちょっと一瞬考え事しちゃっていてさ……ごめんね、マシュ。 その、それで、なんでマシュは俺に何かいいことがあったのかって思ったの?」
やや重くなりかけた空気を払拭したいがために、無理矢理に話を戻す少年。 明らかに動揺していることは誰の目にも明白だったが、マシュとしても、気まずいままでいるのは本意ではなかったため、素直にそれに応じた。
「ここ最近の先輩のバイタルは以前と比べて安定しており、私の目から見ても先輩の体調に大きな不調は見られません。 ストレス抑制のためにレイシフトやシミュレーションのスケジュール管理は可能な限り行いましたが、特異点の発生を完全に予測は出来ないために、あまりスケジュールの改善は出来ていなかったので心配だったのです。 それで、ここ最近の先輩の体調の改善は、先輩自身で解決したものだと思ったので先の質問をしたのですが……違ったのでしょうか?」
マシュからの先の質問についての説明を受けて、納得する少年。 前線を引いてからのマシュは少年の実質的な秘書のような立場におり、少年のプライベート外のスケジュールはほぼ全て管理している。 今では過去形がつくが、人類最後のマスターの肩書きをもつ少年のカルデアでの業務は、本人以外に仕事を全う出来ないがために多忙極まる。 そのため、少年の肉体的及び精神的疲労は目に見えて蓄積されていたのだが、数日前に急激に少年の体調が快復し、それを不思議に思ったが故のマシュの質問であった。
と、納得はして動揺は収まったものの、少年は相も変わらず歯切れの悪い様子であり、誤魔化すように空のカップに口をつけてボソボソと呟く。
「あ、あぁ、なるほどね……。 それは、その、自分で解決したのかって言われると、凄く怪しいところなんだけど……方法が生々し過ぎるし」
「? いま、何とおっしゃいましたか?」
「な、なななな何でもないよ! 体調に関しては……そう、睡眠! 他のスケジュールを少しづつ削って睡眠時間を多く取るようにしてから、体調が良くなっていったんだよ。 やっぱり睡眠って大事だよね、うん!」
「……」
つい呟いた言葉を聞き取られ、勢いでどうにか誤魔化す少年。 あまりにもあからさまに動揺している姿は、ほんの少し前までは他人の感情に疎かった少女でも、少年が何か隠している事があるのは分かってしまった。
「あの、先輩」
けれどマシュはそこで少年に、それ以上の追求をすることはせず、代わりに少年の手をそっと両手で握り込んだ。
「マシュ……?」
「何か悩みがあるのでしたら、いつでもご相談ください。 不肖の身ではありますが、私、マシュ・キリエライトはどんな時でも先輩の味方ですから」
本当は今すぐにでも何があったのかを聞きたかったマシュであったが、それを飲み込んで微笑みを少年へと送る事だけに留めた。
自身の少年へと向ける感情がはっきりとは分からないマシュには、少年の懐に土足で入り込むことは出来ず、されど放っておくことは出来ない彼女の、最大限の気遣いだった。
優しく包まれた手の平の温かさと少女の気遣いが、自身でも自覚をしているくらいに不安定な少年にはとても嬉しいもので、それが特別な感情を向けている人からのものであったから、尚嬉しく思った。
だが、故にこそ───
「───うん、ありがとうね、マシュ」
───その気遣いに罪悪感を覚えた。
「265……266……267……268……!」
膝を一定の速度で駆動させ、前へ伸ばすようにしつつも体勢は崩さず。 習慣となっている体力作りのトレーニングにおいて、スクワットだけに限った話ではないのだが、回数を口にするのは呼吸を意識しながら行うことで、その運動の効果を高めるために少年が行っている、常と変わらない動作。
「321……322……333……334……ッ!!」
だが、少年のその動きは通常のものよりも力の入ったものであり、それに合わせるように数を口ずさむ声も力んでいるようであった。 その様相は、何も考えずに目の前の事に集中していたい、と言うよりは、こびりついて離れない邪念を無理やりにでも振り払おうとしているようだった。
「396!397!398!399……ヅァ……!」
仮の目標としていた500回にまでどころか、節目の400にも届かない段階で少年は床へと倒れ伏した。 だが、今の少年にとっての目的は別の事であり、目標は二の次であるのでどうでもよい。 体を苛めて苛めて苛め抜いて、酸素を体中の細胞が求めると言う仕事に集中してもらい、余計な思考を挟めないようになればそれで良かった。
「……」
荒ぶる心臓に身を任せ、自然に呼吸が整うのを待ちながら、思考を始める。 マシュには打ち明けることが出来なかった、少年の悩みの原因、その大本の存在について。
あの忘れられそうにない記憶を刻まれた日から、少年の今にも崩れそうだった体調は本人でも信じられない程に快復したことから、急激な体調の変化の原因について少年は確信を得てはいる。
しかし、その下手人である者の正体については未だに不明だ。 あの日から少年はその女性に会うことはなかったが、多少なりとも手掛かりになりそうな情報を得ていたので、出来うる限りの手段を使って調べた。 だが、名前も姿も伝承についても、そしてその同じ伝承内で語られている人物たちにも
『マーリンが女性に……? いえ、終ぞ聞いたことがありません。 まあ、マーリンであれば性転換程度は容易に出来そうですが、彼が女性になっていたら、尚のこと余計なことをしそうな気がしてなりません。 歴史上、男性として扱われている私が言うのも難ですが』
そんなとあるクラスのアーサー王が苦笑しながら呟いたそれに全力で同意しそうになったが、どうにか抑え込んだ。 ともあれ、自身で行った
しかし、全く成果がなかったと言う訳では無い。 それはこの調査の最終手段として、別人であると同時に本人とも言える者に直接聞きに行った時なのだが……
「……まさかマーリンが行方不明だなんて……」
カルデアにおいて宛がわれた部屋に、少年のカルデアに所属する
霊基グラフに記録は残っており、英霊の座に還った(ふりをして住居である理想郷の塔に徒歩で帰った)訳では無いことは確認済だが、まるで
しかし、結局は容疑者について絞り込めただけであり、それ以上の手が打てないのが少年の現状だった。 少年自身が経験した夢のないようについて誰か、特に魔術や呪術に詳しい者に相談すれば何かしら解決への糸口がつかめたのかもしれないが、夢の内容が内容なだけに、少年は誰かに相談すると言うことが出来なかった。
世界を救った英雄にしてはあまりに世俗的で、等身大で、そこらの思春期少年と変わらないような感性だが、人1人背負うには過酷な旅路を経てきても、その一般的な感性を捨て去ってはいけないと少年自身痛感しているのだ。 その様を情けないなどと、蔑むようなものはこのカルデアには誰1人としていない。
ともあれ、そんな思春期少年に、下手をすれば性的欲求不満が夢に現れたと判断されてもおかしくない内容を相談することなど、少年にはとても出来なかった。
……特に、好いている少女には。
「マシュ……」
先ほど握られた手をそっと見やり、その温もりを思い出そうと汗だらけの手を空いている手の平で包む。 そこにあるのは無理な運動で上がった平熱よりやや高めの自身の体温だけだ。 だが、それでも少年には微かにその感触は残っているような気がしていた。
少年自身もまた、マシュへの思いを計りかねている。 だが、マシュに向けている感情が親愛の情なのか、恋愛の情なのか、いずれにしろ、自身の汚らわしい欲を曝け出すようなことはしたくないのだ。
それはマシュと言うこれまでの旅路に輝きを増しながら、未だに純粋無垢な部分を残している至高の宝石を穢してしまうような気がして、何よりも少年はマシュに軽蔑されることを恐れた。 ただただひたすらに快楽を引き出され、それに溺れてしまったあの夢のことを知られてしまえば───
『キミって、とっても美味しそうなんだ』
「ッッッ!!」
思考が思い出したくない記憶へとシフトしかけた瞬間に、少年は手を包んでいた手の平を下げて手首を思いっきり絞めた。 やや力み過ぎたためか骨へと知覚された痛覚に顔を顰めた少年だが、痛みで思考を逸らすことは出来た。
「……寝よう」
1つため息をつき、フラフラと立ち上がりそのままベッドへと仰向けに倒れ込む少年。 ハードトレーニング後の汗を流すべきだとは分かってはいたが、体力作りでなく欲求不満の解消で行った後ではもうシャワーを浴びると言うことすら億劫だった。
その肉体的な疲れに加え、調査と思考を重ねて行った精神面も祟ったのか、少年の意識が暗闇に落ちていくのはあっという間だった。
「ふふ……」
だから少年は部屋に紛れ込んだ一輪の花に、気づくことは出来なかった。
「……は?」
目を開けた少年の開口一番のセリフはそんな戸惑いの呟きであった。 明らかに自身が眠った際に見た天井が目の前になかったのだ。
ここで多少余裕があれば『知らない天井だ』ぐらいの冗談は言えたのかもしれないが、その知らない天井ですら目の前にはなく、どこまで澄んだ青空しかないとくればただただ唖然としてしまうだろう。
「!!こ、ここは……!?」
あまりの事態に跳ねるように起き上がり周りを見渡す少年。 キョロキョロと辺りを見回して見れば、どこを見やっても地平線の彼方にまで広がる花畑と、心地の良い温かな陽光に雲1つない蒼空。 少年のいたカルデアの一室どころか、知らぬ間に屋外に運び出されてようであり、流石に動揺を隠せない少年であった。
だが同時に、この景色には見覚えがあった。 一面の花畑、曇りを知らぬ澄んだ蒼穹、そしてただ一点だけ存在する宙に浮かぶ塔。 同じような景色、理想郷の再現風景を王の話と共に添えれれたそれを、何度も見てきたのだから。
「やっとお目覚めかい?」
「ッ!」
聞き覚えしかないその声に弾かれたように振り向いて声の主を見やる少年。 声の正体を知る、と言うよりは確認の意味合いが強い。 この場所へと導く様な者は1人しかあり得ないのだから。
「マーリン……!」
「やあ、久しぶりだねマスター。 おはよう、とも言うべきなのかな? 何はともあれ、またキミに会えてとても嬉しいよ」
腰の先にまで伸ばされた透明感のある色の髪。 髪の色と同様に透き通るような蒼い色を宿した瞳。 シミ1つない白い肌。 そして淡い色で染まっている白と青を基調とした服装を身に纏っているその女性は、あの日少年に忘れられぬ記憶を刻み込んだときの者と同じ姿で、微笑みを浮かべていた。
彼女は傍目には本当に少年との再会を嬉しそうにしていたが、一方で少年の警戒度はグンと跳ね上がる。
「……ッ!」
「……? どうしてそんなに警戒しているんだい? そこまで露骨にされてしまうと、お姉さんちょっと悲しいなぁ」
マーリンは怪訝そうにそう言うが、知らぬ間に見知らぬ場所にいて、更には調査をしていた対象が急に現れたとなれば警戒をしない方がおかしい。 相対している相手の格を考えれば全くの無駄と言えるが、すぐに相手に対応ができるように構える少年。 その様子を嘲るようなことはせず、少しだけ悲しそうにしつつ少年との距離を詰めようとする。 必然、絶賛警戒中の少年は距離を取ろうと後退しようとしたのだが。
「おっと、───止まって」
「ッ!?」
片足を上げて後ろに向けようとしたそのとき、マーリンが呟いたその透き通るような言葉を聞いて急停止した少年。 だがそれは少年の意志ではない。 少年自身、無理矢理ワイヤーで縫い留められたかのような感覚で、無理矢理に動かそうにも全くもって体は言うことを聞かない。 まるで体を動かす権限をまるごと奪われたかのような気分だった。
「───そう、そのままゆっくりと、足を元の場所に下ろすんだ」
そして、少年の体を奪った下手人が鈴を鳴らすような声でそう告げると、全くもって抵抗する事なく緩やかに足を下の場所へとつけた少年。 脳に直接響いてきたかのようなその声を受け、自身の意志はありながらも身動きひとつ取れないこの状況は、脅迫をされて動けない状態よりもタチが悪い。 何の意図でこのようなことをするのかと少年は思うも、体は自身の命令を受け付けてはくれない。
その間にマーリンは手に持つ杖を軽く振るい、地面を2度ほど突いた。
「───よし、もう動いていいよ」
「ッ……一体、何がしたいの? 急に魔術を行使してまで俺を縛ったかと思えばすぐに解除をして、意味がわからないよ」
マーリンの許可を告げる声を脳に受けたその瞬間、縫い止められていた糸が一瞬で消えたかのような感覚を受けてバランスを崩しかけるが、すぐに体勢を立て直しマーリンを睨む少年。
その視線を受けてマーリンは少しばかり申し訳なさそうな顔をして弁明する。
「いや、悪かったよ。 別にキミを傷つけたりはもちろんのこと、そんな警戒させたりするつもりは全くないよ。 ただ、夢の中と言えども花を踏んづけて欲しくはなかったんだ。 あ、今はもう魔術を掛け直したから、花の方からキミを避けてくれるから大丈夫だよ」
そう言われふと後ろを見てみれば、確かに自身が後退して足を下げようとした先の足元は、一輪の花のど真ん中。 茎の部分を踏み潰してしまうのは明白だった。
少年は確かめるようにそっと足を近くの花に寄せると、その花は意思を持つかのように足から距離を取った。 その事実を確認した少年は、とりあえずは悪意が無いことは認識できた。
だが、変わらず警戒を解くことはない。 少年は再び対応が出来るような構えを取り、目の前の女性に問う。
「ねぇ、君は一体誰なの?」
「? おかしなことを聞くね、マスター。 私は花の魔術師マーリンで、キミたちの旅路を見守り微笑んできた、知っての通りの綺麗なお姉さんさ!」
少年の単刀直入な問いに対し、問われた側のマーリンは一切動揺する素振りなど見せずに、寧ろ茶化すように初めて会った時と同じ様な挨拶を返してきた。 誤魔化している様には見えないが、何か隠していることはあるはずだと、少年は追求の手を止めず、尚も問いかける。
「でも俺の知っているマーリンは男であって、性転換が出来るなんて聞いたことはない」
「ふぅん……なら、キミの目の前にいる私は一体何だと思うんだい?」
少年としては恍けられることを予想していたのだが、さらっと問う側から問われる側へと立場を変えられて少年は少しばかり戸惑う。 聞いたのに向こうが逆質問で返すと言うことは、聞かれたくはないことなのか、それとも単なる興味なのか、少年にはどちらとも計りかねている。
目の前の彼女は少年の追及を受けても変わらぬ笑みを浮かべ続けていて、全く以て掴み所がないのだ。
「……君はマーリンの幻術によって作られた存在……くらいしか、考えられない」
イニシアチブを取られたが、少年は素直に自分の推理を開示した。
幻術とは即ち、人を惑わす魔術を指す。 これには精神への介入及び、現実世界への虚像投影、有体に言ってホログラムの投射に近しいことが可能な魔術だ。 少年の知るマーリンはスキルでこれを扱っており、そのランクはAとかなりの高ランクだ。 人理修復の旅路においてもその強力さを目の当たりにしている少年は、マーリンであればそれくらいにことは容易だろうと考えていた。
……余談ではあるが、自身の推察にそれくらいしか考えられないと言ってはいるが、実際のところは幻術であって欲しいと思っているのが実情である。 同性愛を否定するつもりはないが、彼自身はお付き合いをするのなら異性とでありたいと一般的な思考をしており、仮に目の前の彼女が性転換したマーリンであったりと考えたら……と、割と複雑な思いであった。
「なるほど。 キミは私が虚影のような存在で、実際は存在していない者だと考えているんだ……ふふっ」
どこか優しげな微笑みをそれまで浮かべていた彼女は、少年の推理を聞いてそれを反芻した後、今度は悪戯っ子のような微笑みを少年へと向けた。 脈絡のないそれに少年は不審に思うが、ついでその表情は驚愕したものへと変化する。
「たーっ!」
「えっ、うわっ!?」
ほぼモーションなしで跳び上がったマーリンは満面の笑みを浮かべ、その勢いのままに少年へと飛び込んで来たのだ。
突然のことに驚きつつも、彼女が信じられない程に軽かったためにどうにか受け止められた少年。 しかし咄嗟だったためか、両手で抱きしめて受け止める形になってしまった。 その抱き留めた形が嬉しかったのかどうかは知らないが、マーリンは更に笑みを深めるばかりだ。
「な、なにっ、急になんなの!?」
予想だにしない事態に加えて、抱き着かれて嫌が応にも彼女と交わった事を思い出してしまいパニックになってしまう少年。 すぐにマーリンを引き剥がそうとするも、少年の反応をクスクスと笑って楽しみつつ彼女は素早く少年に絡みつき、顔を少年の肩へと埋めてきた。
傍から見れば甘えるよな動作に見えなくもないが、実際のところは初心な少年を揶揄う妙齢の女性の構図であった。
「ねぇ、キミは私を幻の存在と言ったけど、本当にそうかい?」
「キミが感じているこの感覚は、果たして本当に偽物なのかな?」
「この柔らかな女の子らしい体も、体温も、胸の鼓動も仮初の作り物?」
「今キミと触れあって、キミを愛おしく思う私の感情も虚ろなものなの?」
「でも、全てが偽物なのなら……どうしてこんなにも、キミはドキドキしているのだろうね?」
両手を背中と後頭部に回し、少年の耳元で淫靡に囁く声は、先ほどまでの柔らかな印象は消えて、妖艶な雰囲気が漂う。 サワサワと、背中に回された手のフェザータッチの感触と合わさって少年の背筋はゾクゾクと震え、心臓がバクバクと加速していく。
密着した女性のその感触は、熱は、彼女が囁く必要もない程に少年へと存在を示唆してはいるが、今の少年はその女性の正体についての思考なんぞ吹き飛んでいてそれどころではなく、声にならない声を上げるばかりであった。
彼女は少年のその有様をどう受け取ったのかは彼女にしか分からないが、クスクスと楽しそうに笑いながら少年の耳に息を吹きかける。
ひぁっ、と本人でさえ情けないと思う声があがり、そんな反応を見て本当に楽しそうに彼女はまた耳元で囁いた。
「あぁ、それともまだ確信がないのか、キミが知る男性のマーリンとでも思っているのかな?」
そう言って彼女は更に密着を深めながら、カチコチに固まっている少年の手を取った。
「それなら……確かめて、みる?」
切なげに紡がれたその甘美な言葉に少年の腰がビクリと震えた。 同時に、彼女は少年の手を自身の方へと持っていく。 何を以て確かめさせようとしているのかは分からないが、直感的にそれが良くはないものだと感じた少年の危機感が、彼を蝕んでいる期待感を上回った。
「わ、分かったよ! 分かったから、幻術じゃないって分かったからやめて!」
抱き着いているマーリンを全力で突き飛ばし、距離を取る少年。 直後に、強く突き飛ばしすぎてしまったことにハッとして後悔するも、突き飛ばされた本人と言えば少しよろめいた程度で驚いたような様子すらなく、先ほどまでの妖艶さは鳴りを潜めた柔らかな微笑みをまた浮かべていた。
「ごめんごめん、揶揄いすぎたよ。 あんまりにもキミが初心な反応で可愛いからさ、好みの
「か、可愛いって……だから、そう言うのは……!」
「まあまあ、落ち着いて。 今すぐ言いたいことはあるだろうけど、他にももっとキミには聞きたいことがあるのだろう?」
羞恥心から顔を真っ赤にする少年を宥めつつ、マーリンは地面へと突き刺していた杖を拾い上げて軽く振るう。 すると彼女の目の前で地面から花吹雪が沸き出すように舞い散る。 強風と共に舞う花弁に驚き、咄嗟に顔を片手で庇う少年。 数秒もしないうちに風の勢いが弱まり、恐る恐る片手の隙間から先の光景を覗き込むと、花吹雪は収まり、そこには小屋と言うには大きくて、家と言うにはやや小さい、そんな家屋がいつの間にか鎮座していた。
「長い話になるだろうし、そこでお茶でもしながらゆっくり話そう。
そう言って彼女は手を差し伸べるも、少年はその手と急に現れた家を交互に見ては眉間に皺を寄せてどうするべきかと思案するばかりだった。
なにせ彼女が言う前の件も含めて、色々と怪しい点が多すぎる。 そんな現状敵とも味方とも判別がつかない相手の用意した家に入るのに、少年は抵抗があった。
「そんなあからさまに警戒しなくたって大丈夫だよ。 キミの疑問にはちゃんと答えてあげるし、変な事はなにもしないよ」
「……話だったら、ここでも出来るよ」
「長い話になるって言っただろう? おしゃべりは好きだけど、立ち話にだって限界はあるし、キミも疲れてしまうと思うよ。 せっかくの楽しい時間を台無しにはしたくないじゃないか」
そんな少年の懸念を正確に読んだ彼女は安心させるように宥めるが、少年としては前回の出来事が少年にとっては大事だったために、相手が用意したような場所に足を踏み入れるのと言うのはかなり躊躇してしまう。 せめてこの場で話をしようと提案するが、真っ当な意見を返されてしまう。 無論、向こうが何もしてこないと言う前提の意見なのだが。
「……分かった」
僅かな思考の後、諦めたようにため息を吐く少年。 ここでごねても、相手が応えてくれるとは思えず、無理矢理拉致するなり、最悪何も疑問に答えてもらえず情報を何も得られない可能性も考えられる。 ここで彼女の機嫌を損ねるようなことは避けるべきだと判断しての事だった。 それに、相手の用意した場所と言う意味では、もう既に謎の花園に招かれてしまっていると言う、開き直りもあった。
その少年の心境までも察したのかは不明だが、了承を得られたことを嬉しそうにしていた。
「うんうん、物わかりの良い素直な子は好きだよ。 ほら、短い距離ではあるけれど、お姉さんがエスコートしてあげよう」
「いや、それはいい」
ほらほら、と手を揺らしてアピールをする彼女を敢えて無視し、歩みを進める。 少年としては、ここまで完全に主導権を握られている中でのせめてもの抵抗だったのだが……
「もう、本当にいじらしい子だなぁ……」
その行為は、ただ彼女の
「はい、カモミールティーだよ。 砂糖とミルクはここに置いておくから、量はお好みでね。 オススメはミルクは多めにして砂糖は控え目にするのがいいらしいよ」
「……」
「おや、ハーブティーは嫌いかい?」
2人で使うのが丁度いい程度のテーブルと椅子へと通されて、魔術を用いたのであろう文字通りすぐに振る舞われたハーブティーを見つめ、すぐに手を取らない少年に彼女はそう問うが、当然少年が気にしているのは好みの点ではない。
「敵か味方も分からないのに、勧められるままに振る舞われたお茶を飲むってのは出来ないよ」
「そんなことをわざわざ口にするあたり、キミはもう私の正体はともかく、敵か味方かの判別はついているのではないのかい?」
やや張りつめているかのように緊張している少年の警戒の言葉はすぐに反論を返された。 実際彼女の言う通りで、相手の用意した飲食物を口にしない理由を答える必要はない。 相手の立ち位置はどうあれ、基本的に“貴方を疑っています”と伝える必要はないのだから。
その点、少年は彼女が何かしらの危害を自身に加えることはないだろうと考えてはいるのだが
「
危害は加えないが、自身の望まぬ何かはしてくるかもしれない警戒をする少年。 相手が超常的存在のサーヴァントであることを思えばそれに意味があるのかは分からないが、するに越したことはないということを少年はこれまでの経験と先達からの教えからその教訓を得ていた。
「むぅ、それもそうか。 まあ、お茶はこの場では話をする上で、喉を潤す程度のものだ。 飲む飲まないはキミの自由さ」
そこに一定の理解を示した彼女は、どうあれ用意されたものを無下にされたと言うのに大して気にもしてないように言って、少年の対面の椅子へとそっと腰掛けて、小首を傾げ頬杖をつく。 目を細くして笑うその姿は胡散臭いのに、彼女ほどの美貌があるとそれが妖艶さに拍車を掛ける。
「それで、何から聞きたい? 他でもないキミの問いだ、お姉さんがどんなことでも答えてあげようじゃないか」
物わかりの悪い年下の子どもに教えてあげるかのような彼女に対し、多少思うことはあったが少年は早速とばかりに問う。
「じゃあ最初の質問だけど、キミは誰なの? 本当にマーリンなの?」
最初の質問としてはあまりに直球であると少年自身思いはしたが、今現状で最も気になっていることなだけに変に出し惜しみのようなことはしたくなかった。 問いが問いなだけに答えてもらいないかもしれないとも考えたが、それは杞憂であった。
「そうだね、私は確かに花の魔術師マーリンではあるけれど、キミが知っているマーリンとは別の存在と言えるだろう」
特に気にした様子もなくスラスラと自身について語るマーリン。 あまりにも気にした様子も見せずに語る姿に少し肩を落としそうになる少年だったが、彼女の話は続いているので寸でのところで耐えた。
「アーサーがいればこの辺の説明はかなり楽だったのだけど、キミのカルデアでは召喚されていないみたいだし、仕方がないね。 とにかく、ざっくりと言ってしまえば、私は違う世界からやって来たマーリンだ。 とは言え、キミの良く知るマーリンとは違うし、名前が被ってしまっては混乱してしまうだろうから、基本的に私の事は【レディ・アヴァロン】と呼んでくれたまえ。 レディでも、LAでも構わないよ」
マーリン改め、レディ・アヴァロンから明かされる次々に出てくる情報をまとめ上げ、自身のカルデアの情報等とまとめていく。
彼女の言うアーサーは、こちらのアルトリアの事を指していない。 だが、そのアーサーについては幾人かのサーヴァントが男性のアーサー王について話をしていたのを少年は聞いたことがあったので、それと同一の存在なのかもしれないと当たりをつけておくが、今はさして重要ではないため思考の端に寄せる。
「じゃあ次の質問。 ここは一体どこで、どうやって俺をここに連れてきたのかを説明して」
「う~ん、また何とも説明がしにくい質問だね。 そんな小難しい質問ばかりじゃなくてさ、もっと楽しい話をしないかい? 好きな物語とか趣味だとか、なんならお姉さんのスリーサイズをキミにだけ特別に公開してあげてもいいんだよ?」
「流石に有無を言わさず拉致をしてきた相手と、すぐに打ち解けて日常会話できるほど図太くはないかな」
「つれないなぁ」
茶化してきたレディ・アヴァロンの言葉をバッサリと切り、回答を急く様子の少年。 揶揄いの言葉も含めていたのだが、少年が無視をしたので思った反応が帰って来なかったことを若干面白くなさそうにしていたが、すぐに少年の疑問に答える。
「ここがどこかについてだけど、ここはキミの夢の中でもあれば、私の夢の中でもある。 そんな場所だ」
矛盾めいたその説明に少年は首を傾げてしまう。 自身の夢の中は勿論のこと、他人の夢の中であれば、契約したサーヴァントの夢へと入りこんだことのある少年として、理屈はともかくとしてそう言った現象があることを理解はしている。 だが、自身の夢でも相手の夢でもあると言われると、これまでの夢の経験も含めると定義がとても面倒になって訳が分からなくなってしまい、もしや煙に巻いたのかと少年は思ってしまった。
しかしレディ・アヴァロンもそこまで適当ではないようであり、掻い摘んだ説明を始めた。
「手段とかはまあ横に置いておいて、この空間領域のベースはキミの夢なのだけど、キミの精神に私が入り込んで、少しばかり間借りして私の精神の波長をコピー。 あとは出来上がった空間をキミに夢として認識してもらうために多少微調整をして、キミが寝静まったタイミングでいざご招待ってところかな。
もう少し厳密に言えば、前に会った際に今言ったような方法でキミの夢に入りこんで、今回はその前に利用したスペースを再利用した形と言えるだろう」
レディ・アヴァロンのその説明はそのままの意味では少しばかり理解が追いつかず、頭の中で整理をしていく少年だが、時間が経つにつれてその意味を理解し、眉間の皺が濃くなっていく。
「……つまり君は他人の家に勝手不法侵入した上に、許可も得ずに1室を占拠して自分好みの部屋に魔改造した挙句、その家の住人を占拠した部屋に無理矢理引きずり込んで拉致監禁したって言う認識でいいの?」
「何やら言葉の端々に棘を感じるが、概ねその認識で間違いではないよ。 当然、キミの精神は勿論のこと、肉体や魂に影響がないように細心の注意を払ったとも」
割と悪意ある解釈をした言葉を受けても、全くもって悪びれる様子を見せることなく淡々と告げるレディ・アヴァロン。 しかし上記例の家の住人に当たる少年の心中は穏やかではない。
レディ・アヴァロンの正体が異世界のマーリンであるのならば、余程の乖離がない限りは能力等に差異はない筈であり、故に少年のマーリンの魔術師としての実力への信頼は、ほぼそのままレディ・アヴァロンへの魔術師としての信頼に繋がる。
彼女はこの空間はあくまで少年の夢であると言ったが、睡眠中の記憶整理の断片の組み合合わせで出来た、曖昧なそれをはっきりと五感で物を捉え、思考が出来る空間を築いている辺り、その魔術の手腕に間違いはない事を、少年自身理解している。 そう言った点でレディ・アヴァロンが不手際を起こすと言う事はあまり考えてはいないが、分かってはいても気分の良いことではないだろう。
だが、既に口にしても詮無きことであることを理解している少年は深いため息を1つ吐く。
「……せめて家賃払ってよ」
「そんなことを私の目の前で口にする辺り、キミは十分図太いと思うけどね」
ジト目の少年の抗議にそんな感想を述べるレディ・アヴァロン。 少年自身、元々こんな軽口は普段はそれほどしないのだが、彼女に対する好感度の低さから出た言葉であった。 しかし、掴み所が曖昧な彼女にはまるで効果がない様子であり、どこ吹く風と言った様子だ。
「それで、そんな手間をかけてまで俺に会いに来た目的はなんなの? 俺みたいな三流もいいとこの魔術師もどきに、そこまでする理由がわからない」
ここで少年は本題とも言える疑問を問いただした。 レディ・アヴァロンの正体は多少なりとも事前に分かってはいても、その目的は不明。 本人は少年の精神を癒すために来たと以前口にしてはいたが、それを花の魔術師マーリンが一個人の為だけに行うと言うのに、少年は違和感を覚えてしまう。
「……キミの精神状態が危うくて見ていられなかったから、と言う理由じゃダメなのかい?」
「多少俺の知るマーリンに対する人物像評価は混じるけれでも、君は慈善事業で赤の他人を助けるようなことはしない。 だって本人でさえ人でなしであることを自覚しているんだから」
少年は自分が知るマーリンが時折口にしていたことを覚えている。 自分は人間の織りなす物語は好きだが、人間1人1人に目を向けて、共感や感情移入することはない。 出来ない
性別が違うがレディ・アヴァロンが異世界のマーリンであるのならば、その性質に大きな差はないと思うがゆえに、何故自分と言う個人にそこまで肩入れするのかが少年には分からず、何か別の本命の目的があるのだと思っていた。
それがカルデアや自身の周りに不利益を被ることなのであれば、必ず止めなくてはいけないと決意を含めた少年の視線を受けた彼女だったが、数瞬の後にそれはそれは大きなため息を吐いた。
「私が言うのも難ではあるのだけれども、キミって結構鈍感なんだね」
「えっ」
「いや、これは鈍感と言うよりは自己評価が低いのかな……。 他人への分析能力は高いけど、自身についての評価が低いせいで、的外れな結論に至ってしまう、ってところかな。 分かってはいたつもりなんだけど、こうして目の当たりにすると思ったよりも重症って知ってしまったよ……」
ここで初めて微笑みを崩し、呆れたような仕草を示すレディ・アヴァロンに、少年は不意を打たれて引きつったような声を漏らした。 少年としては結構真面目な場面であり、適当にあしらわれるか別の目的について語られるとばかり思っていたのだが、まさか呆れられるとは思ってもいなかったのだ。
そしてそれは分かりやすく表情に出ていたがために、レディ・アヴァロンは惚ける少年へと言葉を続けた。
「まあ、そこまで指摘をするのは野暮って言うものだ。 キミの言う通り、私は人間個人に共感や執着、感情移入することはないが、何事にも例外はある。 ヒントはキミの知るマーリンの、キミに対するスタンスさ」
「マーリンの……?」
そう指摘されて少年は必死にマーリンとの会話等について思い出すが、そこからレディ・アヴァロンの目的に繋がるようなことは思い当たるものはなかった。
これまで長らく旅を共にして、何度も少年やカルデアに迷惑を掛けたり、知っていることを面白そうだからと言う理由で黙っていたりとしてはいたが、同時に何度も助けてもらいもされた少年ではあるが、これらの行動はあくまで、彼の好む人理修復の旅路を美しいものとして彩るために手を加えるための行動であることを少年は知っているのだから。
「それについてはゆっくり考えたまえ。 ひとまずは、私たちは例外的にキミに執着していると考えればいいさ。 ……あぁ、でも、私に関してはまた別の目的があるかな」
少年が思考に耽るのを遮ると同時に、彼女は意味深に微笑んで唇に指を当てた。 先ほどまで浮かべていた、どこか掴み所のないフワフワとした優しい微笑みとは違う、明らかに妖艶さを含んだそれに少年は警戒を一気に深めるが、もう既に何もかもが遅かった。
「なっ……!?」
瞬きすらせず、レディ・アヴァロンの動きを注視していた筈が、気づけば自身が注視をしていたのは天井となっていた。 まるで動画のシークバーを数分先に指定して飛ばしたかの如くの場面の変化で、何の予備動作や現象もなく起きたそれに少年は驚愕を隠せず、対応が後手に回ってしまった。
「いやね、実は結構我慢してはいたんだよ? そちらではそれほど時間は経ってはいないだろうけど、こちらでは実に2年ほど時間が経ったんだ。 勿論、私の感覚で言えばそう長い月日ではないのだけど、あの日のキミの事が忘れられなくて、正に一日千秋の思いだったさ」
天井を見上げる少年を覗き込み、ベッドへ倒れ込んでいる少年へ馬乗りするレディ・アヴァロン。 彼女が口にしている言葉は一見、遠い地に離れ離れになっていた愛しい人を思うそれだったが、それを口にしている彼女の表情は完全に捕食者のそれであり、実際に被捕食者として相対してしまっている少年は淫靡な表情と雰囲気を放つ彼女からその事実を明確に認識してしまった。
「ま、待ってよ、まだ、話は終わって」
「キミが絶対に知っておきたいであろうことは大体話した。 話は後でいくらでもできる」
「でも、さっき言ったじゃないか、変なことは何もしないって……!」
「私は夢魔であることは知っているだろう? 女性の夢魔とは即ちサキュバス。 サキュバスの食物は男性の精であることくらい、有名なことだからキミも知っている筈だよ。 今からする行為は私にとっては食事であるのだから、変な事ではないさ」
最初の約束を拡大解釈し、いけしゃあしゃあとそんな事を言うレディ・アヴァロンに、最初からこうするつもりだったことに今更少年は気づいたが、もう既に後の始末であった。
それでもどうにか抵抗を試みて身じろぎを繰り返す少年だったが、馬乗りで拘束している彼女を押し返すことが出来ない。 先ほど受け止めた時に彼女の体重があまりにも軽いことは認識しているのに、びくともしないのだ。
そんな抵抗を続ける少年の姿でさえ、楽しそうにしている彼女はゆっくりと少年の体にしなだれかかっていく。 服越しに伝わる柔らかさに前の記憶が蘇り、体が反射的に固まり思うように動けない。
「分かっているだろうけど、大本命はキミを癒すことであるから、命を奪うような吸精はしない。 前と同じように、キミは何も考えずに気持ち良くなれて、私は美味しい精を得られる、Win-Winの関係って奴さ。 キミの体だって私に触れられてこんなに反応しちゃってる。 本当は期待しているんだろう?」
「そんなことっ……!」
そう言われて、一瞬で感情が高ぶり反論しようとして、口を噤んで顔を逸らした。 期待なんてしていなかったと口にするのは簡単だったが、今日この時まで以前逆レイプされた時の事を忘れられていない時点で期待をしていなかったなんて、とても言えなかったのだ。
その少年の心情を悟ったのか、レディ・アヴァロンは少年の頬にそっと両手を滑らせて、自身の方へと顔を向けさせると優しい笑みを少年へと向けた。
「気にすることはないよ。 何せ、夢魔に目をつけられた上に気に入られてしまったんだ。 だからこれからキミがアンアン可愛い喘ぎ声を上げて、何度も何度もびゅーびゅー射精をしたってしょうがないことなんだよ。 ───
少年の深層心理へ深く深く刷り込ませるように、レディ・アヴァロンはその透き通るような美声で以てそう優しく諭す。 声を媒介としたあまりに露骨な魅了と暗示の複合魔術。 以前同様のそれを受けたことのある少年だったが、その時はまだ抵抗の余地が多少はあったが、以前の情事の記憶がこれから起こるであろうことを想起させ、更に彼女は少年の頬を自身の柔らかな手で撫でまわし、時に耳をフェザータッチで触れ、頭を愛おしむように撫でる。 思春期の少年がそれに耐えられるはずもなく、まともな思考が出来ずにあっという間にレディ・アヴァロンの手中へと堕ちてしまう。
「今日もたくさん楽しませてね、マスター♡」
脱力し、抵抗が出来なくなった少年へ自身の顔を寄せてレディ・アヴァロンはそう告げると、始まりの合図に頬へとキスを落とした。
「んちゅっ……ちぅ……」
「んんんぅっ、……む…っぅ………っぅ………っ!」
お互いの唇を触れ合わせる行為、キスとは親愛や友愛を示すものであるのだが、今この場でベッドの上で少年に馬乗りし、舌を少年の口内へと這わせるレディ・アヴァロンの光景は、正に捕食行為であった。
抵抗の出来ない少年へと触れ合わせるだけのフレンチキスを数回した後、我慢が利かなくなったのかレディ・アヴァロンは少年の口内に舌を入れてディープキスを無理矢理敢行。 その行為について知識は合っても、されたことのない少年は口内を蹂躙する未知の感覚にただただたされるがままで、緊急稼働する肺に合わせて激しい呼吸をすることしかできない。
だが、今現在口を塞がれている少年にとって激しい呼吸をするのは致命的だ。
「んん……んぅ、うぅぅぅ……」
呼吸をするたびに、彼女から発している甘ったるい花の濃い香りが少年の体を蝕んでいく。 ただでさえ魅了と暗示の魔術で興奮を促されていた体に、更なる追い打ちを受けて少年の快楽への耐性が大幅に落ちていく。
夢魔であるレディ・アヴァロンにとって自身の香りをフェロモンとして意図的に対象へと向け、発情させると言うのはごく容易なことであり、以前味わった少年の痴態を見るのをかなり楽しみにしていた彼女はかなり強めにフェロモンを強めており、加えて少年へと全てのフェロモンを吸収させるかのようにキスで唇を塞ぎ、呼吸を促す。
1度は性行為を経験したことはあれど、こんなことをされれば経験の少ない少年はひとたまりもない訳で
「んっ……ちゅ……ぷはっ……ふふ、もう、本当に可愛いなぁ。 そんなにお姉さんのキスが気持ち良かった?」
「んっ、んぅ……うぅ……」
数十分に及んだディープキス攻撃の後に、レディ・アヴァロンは互いの唇同士で銀に輝くアーチを描きながら顔を離す。 愛おし気に彼女が撫でまわす少年の顔はすっかりでき上がっており、呼吸困難であった状況とも合わさって強く興奮し、何かに耐えるようにした呼吸を繰り返す。 しかし、少年のその喘ぎ声交じりの耐える仕草と言うのは彼女にとっては実にそそるものなようで、少年の嬌声を引き出そうと悪戯を繰り返す。
「ひっ、あっ……!」
「もう、キミって本当に可愛い反応をするよね。 いやぁ、普段は頼れる姿を見せる少年が女の子みたいに喘ぐ姿と言うのは、見ているだけでも明日の活力に繋がる。 それが自分のもたらしたものによるのなら尚更だ」
「うぅぅ、や、やめて……!」
「えー、どうして? 口ではそんなこと言ってはいても、キミの体の方はこんなに正直なのに。 んっ……」
少年の耳や首、肩や脇と少年の体全体に両手を這わせ、少年が反応を示した部位を舐めたり、キスを落としたり、甘噛みを繰り返すレディ・アヴァロン。 魅了と暗示、そして先ほどまでのキスで興奮しきった少年の体はくすぐったく感じる愛撫にさえビクビクと体が震え、特に敏感な部位に愛撫を受けると大袈裟に思えるほどに腰が跳ねた。
そんな初心である少年の反応を楽しむため、少年の性感帯を探り当ててはワザとらしくリップ音を鳴らしてキスを落とす。 一切抵抗の出来ない少年は耐えようとするも、性を絞ることに特化した種族である夢魔の技巧に、経験皆無の少年が耐えられる道理もなく、少年の性器は既に大きく隆起し、我慢の限界であることをレディ・アヴァロンの体へと直接伝えていた。
「ほら、キミのアソコだって、すぐにでも出しちゃいたいって私に主張しているよ? ズボンの下からビクビク震えて、早く絞って~って言ってるみたい。 それに応えてあげないなんて、可哀想だとは思わないかい?」
「ひぅ、あ‥…!」
段々と愛撫の手を下の方へと持っていき、遂に少年の股付近へと手を掛けるレディ・アヴァロン。 彼の太ももを撫で回す手のすぐ近く、少年のズボンの股の部分は若干濡れ、窮屈そうにピクリと揺れている。 少年の正直な生理反応を、彼女は楽しげに笑い声を漏らし可愛がる。
「まあ、こんなに美味しそうな匂いを出しておいて、お預けなんてのは私にはそもそも出来ない話なんだけどね。 よし、ちょっと気が早いけどメインを頂いちゃおうかな」
慣れた手つきで少年のズボンと下着を下ろす。 外気に晒された少年の性器はピンと張るように天を突き、魅了と暗示による強制発情が加わったレディ・アヴァロンの愛撫によって既に限界一歩手前であり、ズボンの拘束を解かれた事でビクビクと揺れながら、先端より我慢汁を漏らしている。 その様子は夢魔にとっては鉄板で音を立てるステーキが、食べてくれと言わんばかりに香りを主張するようなものである。 そして、その美味さを逃さぬうちに味わいたいのは夢魔も人間も同じなのだ。
「それじゃあ今回は最初からこっちの方で頂こうかな。 デザートとして味わっても良いけども、今回は濃い目の最初の一搾りを余すことなく食べてしまいたい気分なんだ」
膝立ちし、白魚のようにほっそりとした指を自身の股へと持っていき、インナーごしに触れてスっと上へと体をなぞるレディ・アヴァロン。 ジッパーを開く様なその動作の後、彼女の性器の部分が露わになる。
「この前は見せる間もなく
彼女の言う通り、少年が前に彼女に逆レイプをされた際は不意打ちで挿入をされたために、少年は初めて女性器を目にした。 一度不本意ながら女性との性行為を経験させられた後の少年ではあっても、未だに思春期思考の離れない少年にはあまりにその光景は目に毒であり、彼の性器の興奮は更に増すばかりだ。
自身の性の象徴を今にも飲み込まんとし、ヒクヒクと脈動している彼女の性器をこれ以上目に入れるのはマズイと、反射的に少年は目を瞑るが
「こらこら。 ───ちゃんと、見るんだ」
「っ!」
頭に直接響く透き通った声を耳に入れた瞬間、固く閉ざした筈の少年の瞼が持ち上がり、少年は再び彼女の性器の方へと視線を固定させられる。 先ほど実体験させられた魔術であることに少年はすぐに気づき、抗議の声を絞り出す。
「な、なんで……」
「なんでって、せっかくじっくり私のおまんこを見せてあげる機会を作ってあげたのに、キミが素直に見てくれないから。 こうして体を重ねるのなら、お互いに気持ちが良い方が断然良いじゃないか。 さてさて、じゃあもう私の我慢も限界だから、もう
一方的に彼女はそう言ってゆっくりと腰を降ろしていく。 既に臨戦態勢の自身の性器に、あちらもまた迎え入れる準備が出来ているかのように蜜を垂らし、獲物を食らおうとしている。
何が起こるのかをよく分かっている少年に、目を瞑って耐える行為すら出来ずにその瞬間をまざまざと見せつけられる。 息は荒くなり、興奮は最高潮にまで高まっていた。
「やめっ」
「それじゃ、いただきます♡」
抵抗の言葉に被せるように、彼女はそれまでゆっくりと降ろしていた腰を一気に降ろした。 何の抵抗もないようにゅるっと互いの性器が結合し、性行為が成立した。
少年の脳内が一瞬真っ白になり、文字通りに何の思考が出来なくなってしまう。 だが、数秒の後に下半身に広がる立ち上るような熱に頭の中で次々と何かが弾けていくのを感じ、やがてそれは電撃のように全身に広がり、同時に性器に爆発するような快楽をもたらした。
「あ、あぁ、あああああああああああああ!!」
射精と同時に、少年は絶叫を上げていた。 恥も外聞も気にせず、目を見開いて大口を上げて嬌声を上げていた。 そうでなくては、腰がガクガクと震えて身じろぎをしても逃がせない快楽に自分が壊れてしまいそうで、本能的にそうしていたのだ。
「ん、いいよいいよ、もっともっと喘いで叫んで、そのまま一気に溜まってる分を出しきっちゃうんだ♡」
そんな少年の絶叫でさえ自身の食事のスパイスにするように、レディ・アヴァロンはグリグリと腰を動かし、自身の膣の奥へと少年の性器を誘う。 全体に絡みつく様なヒダのある肉壁に、先端で強く感じる柔らかく温かな感触に抗えず、少年は射精を続ける。
「あぁ、やだ、見ないで、見ないでぇ……!」
精子の噴出が弱まり、レディ・アヴァロンが舐めるような視線を向けていることに羞恥心が蘇ったのか、親に叱られた幼子のように弱弱しい声を上げ、両手で自身の顔を覆い隠すようにするが、止まらない快楽の電流に腕が上手く動かず、完全に隠し切れない。
しかし少年の喘ぐ姿をじっくりと
「もう、ホントにいじらしい男の子だよ、キミってば。 でも、私としてはもっとキミを味わいたいからさ、ごめんね。 ……ああ、でもせっかくだから───私に、手を伸ばして」
口だけの謝罪と共に紡がれた命令を受けて、少年は自身の意志とは裏腹に顔を隠していた両手を、騎乗位で搾精してくるレディ・アヴァロンへと手を伸ばした。 喘ぎ声交じりに必死に抵抗して両手を戻そうとしても、全く少年の意志を受け付けてくれない両手は、やがて彼女から伸ばされた手によって捕らえられてしまった。
「んふふ、これって所謂恋人繋ぎってやつだけど、お互いの手の平の感触を伝えあっているような感覚が実にイイ。 まだ幼くて青いようでいて、苦難を乗り越えて成長をしてきたことが伝わってくるなぁ。 うん、男の子って感じでありながら、経験に裏打ちされた深みのある感じがいいよね」
少年の両手をニギニギと何度も握る行為を繰り返すレディ・アヴァロン。 少年の手の平に関してのレビューを述べているが、現在進行形で犯されている少年にそれを聞くような余裕はない。 寧ろ自身が侵されている光景を無理矢理直視させられ、彼女のすべすべで柔らかい感触の手の平の感覚で、恋人繋ぎと言うシチュエーションで興奮を促され、やっとこさ収まってきた射精の感覚を抑えるのに必死と言う状態だった。
「さて、挿入してはいおしまいじゃあ味気ない。 キミの体もまだまだ物足りない様子だし、このまま搾……こほんこほん、癒し作業を続行するからね。 それじゃあ、ゆっくりと動くよ」
「ひっ、うぅ、あっあぁぁああああ……!」
そこに容赦なく追い打ちをかけていくレディ・アヴァロン。 彼女はゆったりとしたリズムで、スムーズに腰を上下に動かし始めた。 少年の射精直後のペニスにあまり強い刺激を与えないようにした彼女の配慮であるのだが……
「ダメッ、だめぇ……!もうイク……あ、んぅぅぅううううう!!」
まるで生き物の如く性器に絡みついて来る肉壁のヒダが優しく、それでいて容赦なく少年の精液を絞り出さんし、時折ルーチン化を避けるかの如く上下の動きを不意打ちで左右にかき混ぜるような動きを受けて、少年はあっという間に限界を迎えてしまい、2度目の射精を彼女の膣へと捧げてしまった。
「んっ、んんっ……♡ もう、前回の時も思ったけど、キミってかなり早漏だね。 いくら夢魔の膣だとはいえ、こんなに早く漏らしちゃう子は初めてかも」
「ううぅ、ひうぅぅ……」
「あらら、そんな傷ついたような顔しないで、別に悪い意味で言っていないから。 早漏は早漏でそれの良さもある。 勿論人によって好みはあるだろうが、私は早漏のフレッシュで活力を感じられるような精の方が可愛いくて好きだし、キミみたいに、何回でも出してくれる子なら尚好みさ」
射精の反動でレディ・アヴァロンの食レポ染みた感想に抗議を入れる余裕なんて一切なく、辛うじてそれを聞き入れて反射的に表情に出すぐらいの反応が出来ない少年。 それを見たレディ・アヴァロンがフォローらしき言葉を述べるも、寧ろ彼の既に不安定な状態の自尊心に更に傷をつけるだけだった。
少年のその心の機微に気づいたのかどうかは不明だが、自身の性器で味わっている精液の量が明らかに減ったことにはすぐに気づくレディ・アヴァロン。
「うーん、流石に挿入直後よりは勢いがないなぁ。 まぁ、ここで終わらせてもいいんだけど、私としてはちょっと物足りないな。 かと言って、やりすぎちゃうと現実の方にも影響でちゃうし……あ、そうだ!」
グリグリと腰を押しつけ、少年のペニスの具合を確かめながら名案と言わんばかりに彼女は声を上げると、ぐったりと脱力している少年の背中へと手を回し、自身の方へと引っ張り上げる。 当然、お互いの性器は繋がったままだ。
「んふふ、こうやって繋がったままキスをすれば、キミはもっと気持ち良くなれて、私も満足感マシマシだろう? 多少やり過ぎてしまうかもしれないけど……ま、そこは上手くやるから心配しないでくれたまえ」
口では少年に気遣うとは言っても、表情からそうするとは到底思えない少年だったが、今の少年に出来るのはうめき声をあげることくらいで、身体を動かすことは一切できない。
荒い息を吐き、頬を紅く染めて、焦点の合わない目で呆然としている少年の頬に両手を添え、顔を少しだけ上げさせる彼女。 快楽で頭が惚け、体中に痺れの残る少年の表情はだらしなく歪んでいる。
そしてそんな少年へと微笑みを向けつつも、唇を小さく舌なめずりするレディ・アヴァロン。 見た目こそ上品さを備えた令嬢のような彼女は、その見た目とは裏腹にデザートを前にした直前の肉食獣の如く、少年の唇を奪った。
「んっ……ちゅっ……」
「んぅ、んうぅぅうう!」
少しばかり少年の唇を舐め、空いた隙間に強引に舌をねじ込み、口内で怯えている少年の舌へと絡みついた。 舌同士のぷるぷるした独特の感触と、しつこいほどに濃くて甘い唾液に快楽でショートしていた脳が無理矢理たたき起こされる。 次いで舌だけでなく、天井や床、剰え歯茎までも余さず味わおうと彼女の舌は縦横無尽に駆け回る。
このまま為すがままではマズイと本能で感じ取った少年の体はどうにかその侵入者を追い出そうと舌を動かそうとするが、無意識下で動いているようなものを歯牙にもかけない様子で軽くあしらい、それどころか少年の拒絶の動きに合わせて舌先を器用に動かし、快楽の痺れを少年の体に与えてくる。
無理矢理離れようにもレディ・アヴァロンは少年の頬を逃がさぬと言わんばかりに抑えており、仮に抑えられていなくとも、1度目の射精の時点で体力の殆どを奪われている少年に抵抗の余地はない。
キスによって口を塞がれていることにより、否応なく呼吸をせざるをえない鼻から彼女の花のような甘い香りのフェロモンに興奮を促され、腰の動きはなくとも自立して動いてるかのような彼女の魔膣とも言える名器に感触に、少年の限界は間もなく訪れた。
「んぅうぅっ!んんぅぅぅんっ!!んむぅううっ!!!」
「んっ♡ちぅ……♡」
腰が跳ね、声にならない絶叫を上げながら精液を彼女の中へと注ぎ込む。 少年の射精を認識した彼女はキスを続けながら少年の精液を全て絞り出さんと膣内で少年のペニスへ心地の良い圧迫感を与え、根元から先端へ吸い出すように動き出す。 ペニス全体を覆う肉壁が根元から上下し、同時にディープキスの激しさも増していく。
上の口と下の口での同時の愛撫によってもたらされている快楽の熱に体が震え、思考は何もかもが吹っ飛んで、ただただ精液を撒き散らかして白旗をあげる少年。 しかし、その白旗を認めずに侵略者は少年の降伏宣言ですら飲み込んでいく。
全身を伝播して貫いていく快楽によって少年の射精は暫く衰えることはなく、彼女は少年の精液の全てを飲み干した。
「んっ、ちゅっ……ふぅ、ふふっ……♡」
「ひっ、あっ……♡」
彼女が少年への口付けを止めたのは、少年の射精が収まったのと同じタイミングでの事だった。 以前彼女に犯された時と同様に、ひたすら責められた少年の表情は酷くだらしないものであり、目と口の両方から水が流れている。 とても他人に見せたくなるような表情では無いそれを、彼女は愛おしむように眺めて
「ごちそうさまでした♡」
少年に軽くキスを落とし、今日1番の満開の花の如くの微笑みを浮かべた。
「……」
目覚めは体調面では快調なものではあるが、精神面では不快と言う矛盾を孕んで目を覚ました少年。 のっそりと上半身のみをあげ、寝起きの思考を正すべく両頬を叩き意識を覚醒させる。 次いですぐさま自身の体に異変等がないかを確認していくが
「……あぁー……」
脳裏で繰り返し再生される何度も快楽の渦の中で溺れ、懇願を繰り返す自身の姿なんて考えるだけでも恥辱で死にかねないのに、それを余すことなく視姦されるが如く見られたのだから、少年の心情は推して図ることもできないであろう。
「……うん、とりあえず、今は別の事を考えるか、うん」
たっぷり数十秒うめき声をあげて項垂れた後に、わざわざ口に出して言っている時点で未だ引きずっているのは間違いないのだが、とりあえず自身の羞恥については横において、当初の目的を思い返し思考を重ねる。
今回彼女の言う夢の中で出会った際も、目的は少年の精神を癒すことであることを明言してはいたものの、それが全てか、あるいは別に目的がある筈だと少年は睨んでいた。 現時点で考えられるのは、カルデアへ侵入を図るために、自身にその道行への楔を打ち込もうと行動をしてきた可能性があることを考えるも、結局そのカルデアへ侵入を図る目的が少年には分からない。
では、自身を取り込むために夢への侵入を果たすと同時に、夢の中に閉じ込めようと画策をした、あるいはしているのだろうかと考えるも、それではこうして現実に戻れていることとは矛盾してしまう。
(彼女はあの場所は夢の中とは言っていたし、現実の事ではないと言えるかもしれないけど、あれをただの記憶整理の切れ端でしかない夢とはまた別の区別が必要なくらいにリアルで……リア、ル……)
そう考えた瞬間に再び脳内で自身の痴態がリフレインし、彼女の体の柔らかさや、彼女のもたらした手練手管の愛撫、そして極上の名器が如き肉壺の快感、その悦楽の数々に推理の思考はすべて吹っ飛んで、代わりに自身の逆レイプショーを見せつけられた少年はまたうめき声と共に項垂れていた。
「……んぅ……」
「……え?」
ふと、耳に入った小さな声に困惑し、辺りを見回す少年。 しかし周りに誰かいる様子はない。 一瞬気のせいかとも思ったが、どこか最近聞いたことのある声色にまさかと思い、掛け布団へと顔を下げたことによって聞こえてきた音であることに思い至って、少年は自身に掛けていた掛け布団をまくり上げた。
「……んぅ? あぁ、先に起きたんだね、マスター。 昨日はちょっと興が乗っちゃって、かなり激しくシちゃったから、起きるのは遅くなると思ったのだけど」
「えぇ……」
自身の腹の上を枕にして眠っていたらしく、寝起き直後でも綺麗な微笑みを浮かべる彼女は、少年が間違いなく夢の中で出会った謎の女性、レディ・アヴァロンと名乗った彼女で間違いがなく、多少なりとも考えていたとはいえど、あまりにも早いカルデアでの再会に少年は困惑の声を漏らすことしか出来なかった。
「? どうしてそんなに困惑しているんだい? 以前既に縁は結ばれていた。 道筋が定まっているのであれば、ここまで私自ら出向くことぐらいなんてことないとも」
少年の困惑している理由を自身がここにいる理由についてであると思った彼女はそう説明するも、少年としてはそこよりも何故自分のベッドにいるのか、自分を枕にしておいて、何故全く気付くことができなかったのか、と言うかわざわざ自分の夢の中には入ってまであんなことをした理由はなんなのか等、別に聞きたいことはあったのだ。 今はある種の放心状態であるために、その質問を切り出せずにいるが、十数秒も経てば落ち着きを取り戻しその問いを投げかけることができるだろう。
『───先輩、おはようございます。 朝食の時間ですよ。 食堂に向かいましょう』
「ッ!?」
「わぷ。 もう、乱暴なのも嫌いではないけど、突然はよくないとお姉さんは思うよ」
「静かにして!」
ノックと共に部屋の扉越しに聞こえた慣れ親しんだ後輩の声に少年の心拍数は急激に上昇。 瞬時にめくりあげていた掛け布団を、その下にいた人物を隠すが如く掛け直した。 掛け布団の下の人物は抗議の声をあげていたが、今それに構う暇のない少年は小さく、それでいて聞かせる必要のある者には確実に聞こえる声で囁き叫ぶ。
『……? あの、先輩? まだお眠りになられているのでしょうか? 失礼しますね』
(や、やば……!?)
返事がなかった為に心配をしたのか、健気に少年を起こしにきたマシュに焦りを隠せない少年。 せめて部屋には入られないようにしようとしたものの、確実に問題視されるであろう絵面を隠すのにワンアクション消費したために、部屋に入られてしまった。 少年に出来たのは、普段通りであることを取り繕うとして笑顔を浮かべることだけだった。
「あ、起きていらしたのですね、先輩。 おはようございます」
「う、うん、おはようマシュ。 今まさに目覚めたところだったから、マシュが部屋の外にいたことに気づかなかったよ、ごめんね」
マシュの様子を見るに、何か怪しまれたような素振りはないことに安堵する少年。 実際、マシュは朝の挨拶の際に部屋の中に入ってきても、少年が着替えるために部屋の外に出るのだ。 あまり露骨な会話は出来ないが、マシュが部屋の外に出さえすれば、勘違い必至の光景を見られてしまう可能性はグッと減る。
少年は手早く、それでいてごく自然にマシュに部屋から出ていってもらおうと口を開く。
「いつも起こしにきてくれてありがとう。 すぐに着替えるから、マシュは先にゅぇっ!?」
「せ、先輩っ!?」
いつも通りの笑みを浮かべながら当たり障りない言葉で以てマシュに外に出てもらおうと紡いだ言葉は、下半身の、それも股の中央に唐突に湿っていて、それでいて温かいナニかの感覚を受けて腰が跳ね、同時に口から飛び出た上ずった声に中断されてしまった。
「どうしたのですか!? もしかして、体調を崩してしまわれて」
「な、なんでもにゃ、なっ、ないぃ、からっ……! べ、べつにぃ、びょ、びょうきとかじゃぁあぁ、うぅうう……!」
マシュの少年を案じる言葉に少年は弁明をしようとするも、少年の愚息全体を覆い、先端や竿、玉袋に襲い掛かるナニかからもたらされる快楽にマトモにしゃべることも出来ず、前かがみになり喘ぎ声を出さぬように必死に抑え込むとしか出来ずにいた。
人理修復の旅路の月日、実に1年は少年と共に過ごしたものの、1度として聞いたことのない少年の声音にマシュは心配になりうずくまる少年に駆け寄ろうとしたマシュだったが、それは少年にとって不都合以外の何者でもない。 ベッドの中の状態を見られた瞬間に、親しい後輩の視線が一気に極寒にまで冷え、『先輩、最低です』と言われるのを少年は何としても避けなければならなかった。
そこで少年は咄嗟に自身の太ももを抓り、痛みによって快楽を一時的に逸らそうと試みる。 加減をしなかったためにそれはそれで叫びそうになったが無理矢理飲み下し、間髪入れずに近寄ってくるマシュへと話しかける。
「待って待ってマシュ! ほんとに、ほんとにダイジョブだから! い、今のはちょっとその……ほ、本当になんでもないから、それ以上は……!」
「今の先輩はどう見ても大丈夫ではありません! せめて、体温計測や軽い触診くらいでした私でもできますから、今そちらに───」
必死の弁明は快楽に耐えようとする姿とも相まって逆効果であったようであり、マシュは少年の傍へと駆け寄ろうとする。 常であれば少女の献身を嬉しく思う場面ではあるが、今の少年の心情としては控えてほしい思いでいっぱいである。
どうすれば、どうすれば、どうすれば……!と、必死に頭の中で反芻し、思考を加速させるも妙案は思いつかない。 その間にもマシュは確実に近づいてきている。 痛みによって意識を逸らすのも限界が近くなっており、焦りも最高潮にまで達した少年はまとまらぬ思考の中で拾い上げた言葉をほぼ反射的に叫んでいた。
「───夢精しちゃったの!!」
「……え?」
彼らのいる部屋はごく普通の壁で仕切られており、特に音響加工等はされていないのだが、部屋の当事者たちには嫌にエコーがかかっているように思えた叫びに対して、間の抜けた声は果たして誰が漏らしたものだったのか。 示し合わせたように少年少女は硬直し、お互いに頭の中で
「……え、あ……いや、ちが」
咄嗟に口にしてしまったその発言は、あながち夢精したと言うのが間違いではないと言うことからうっかりと出てきてしまったの。 だがしかし、取り返しのつかない失言をしてしまったことに遅まきながら気づいた当の本人は途切れ途切れに弁解しようとするも、単語の意味を完全に理解し、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしているうら若き乙女の反応から、時すでに遅し。
「い、いえ、その……、そう言った生理現象は、その、あの、ひ、人である限り致し方ないことですのであの、その……わ、私は気にしませんから……し、失礼いたしマシュ!」
しどろまどろにしつつ、どうにか言葉を最初こそ紡いでいたマシュだが、彼女自身の羞恥心が限界を超えてしまい、最後は早口で明らかに動揺を隠せない語尾と共に告げると、顔を完熟トマトの如く赤く染めたまま部屋を飛び出して行ってしまった。 少年が引き留める声を上げる間もなく、自動扉は無情にも閉まる。 弁明の機会を失った少年は部屋に訪れた耳が痛いほどの静寂に、頭も痛めそうであった。 いや、既にもうどうすればよいのか分からず頭を抱えていた。
いや、まだ間に合う。 急いでベッド下にいる
「ちょっとごめっんぅっ!? ~~~~~~~~ッッッ!!!」
ベッド下にいる彼女を押しのけようとした少年だったが、行動に移す直前で上ずった声を上げ、悶絶しその場でうずくまってしまった。
先ほどまで散々弄ばれていた性器への愛撫が再開され、しかも今度は同時に愛撫する箇所が増えており、激しさも先ほどまでとは雲泥の差といえるほどに苛烈なものになっていた。
それにもたらされる快楽の波に散々焦らされていた少年の性器はあっという間に限界を迎え、腰を震わせて射精していた。 嬌声をあげなかったのは、絶対に誰かに聞かれるようなことはしたくないと言う、最後の意地であった。
「あ、うぅ……ひぅ」
やがて引いていった熱に少年の口から、惚けたような声が漏れ出す。 次いでベッド下からじゅるじゅると、何かを啜る音と、ごくりと喉を鳴らす音が響く。
うめき声を漏らし、放心状態でうずくまったままの少年を、彼女はゆっくりと優しく枕へと押し倒しながら、掛け布団をめくりあげて馬乗りした。
「んっ……ふふ、ちょっと予想外の事が重なって驚いちゃったけど、
惚けた顔を晒している少年へ舌なめずりしつつ、どこか妖艶な雰囲気を放つ彼女は、それでいて変わらぬ華凛な花のような微笑みで、少年へと告げる。
「これからよろしくね、マスター」
誰であろうと魅了してしまうであろうその微笑みは、快楽で惚ける少年であっても不安を感じずにはいられなかった。
ふむふむ……うん、一見甘いようでいて苦みがあり、苦いようでいて甘い。 相反する味同士に思えて互いの味を高めあっている。 最初は苦みの方が強いかと思いきや、段々と甘みが増していき、最初に味わった苦みが甘みを際立たせる良いアクセントを与えている。 いけないことをしていると言うシチュエーションもまたいい味を……なるほど、これが世に聞く深夜にカロリーマシマシのスナックやスイーツを食して得られると言う、背徳の味……。 似たような物を味わったことは何度かあるか、ここまでフレッシュな素材を味わったことはなかったと思うなぁ。
……おっと、失礼。 お客さんが来ると分かってはいたのだが、思っていたよりも美味しい食事にありつくことが出来てね、つい夢中で味わってしまっていた。 少しばかり実家に帰ってきているとも言える環境だからか、人目を憚らずに羽目を外してしまったようだ。
さて、キミたちがここに来た、あるいは来てしまったのかは分からないが、どうあれ私に聞きたいことがあるのだろう? それらの問いに、まとめて答えてあげよう。
え? どうして隠さないのか、だって?
いやぁ、いつも頼れる花のお兄さんとして通っているつもりが、『ロクデナシな人でなし』とか『グランドクソ野郎』とか周りに言われてるし、この辺りで私の好感度稼いでおかないといけないかな? と思ってね。
とまあ冗談はさておいて、本題に入ろうか。
キミたちは既に察しているとは思うが、今回彼女の事を手引きしたのは私であり、夢の中で彼女が邪魔されないように他サーヴァントの妨が……コホン、彼の守護を請け負った共犯者でもある。
おっと、その害虫を見るような目はやめて欲しいな。 別に私はマイ・ロードを貶めるようなことをしたつもりは一切ないとも。
そもそも、彼のメンタルケアを彼女に頼んだのは何を隠そうこの私なんだ。
……まあ、彼女はこちらから頼まなくても遅かれ早かれ率先してヤッていたとは思うし、思っていたよりもハマっていそうだからちょっと注意しておかないとかもだけど、それはさておき
知っての通り、私と彼女は似通った存在でありながら、どんな物語の在り方を好むのかで決定的な違いがあり、そんな不一致による諍いを避けるために、互いの存在を認知していても、互いに干渉するようなことは極力避けてきた。
けれど、だからと言って全く気が合わないと言われればそうではない。
彼、人理修復を終えて多少安定しているように見えるけど、割と精神面は見た目以上に繊細なところがあってね。 このまま
当然の話さ。 美しい終わりを好む者であれ、はたまた永遠の物語を好む者であれ、楽しみに読んでいた物語が筆者の都合で打ち切りとなりました、なんてのはやりきれないだろう?
だから私たちで彼のメンタルケアを図ろうってことで、手を組んだのが事のあらましさ。
……え? どうして性行為と言う形をとったのかだって?
なに、そう難しいことじゃないとも。
好物と言うのは、偶には違う味付けで楽しみたくなるものだろう?